戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第162話

時はフロンティア事変の後、ツヴァイウィングと歌姫マリアが日本を旅立った頃まで遡る。

 

様々な理由から自分が日本に残るのが最も合理的と判断したナナシは、三人が日本を離れる時も普段通りのニコニコ笑顔で見送り、その後も普段と変わらぬニコニコ笑顔で日々を過ごしていた。

 

ニコニコ笑顔で自分の仕事を終わらせ…

ニコニコ笑顔で別の仕事を求めて…

ニコニコ笑顔で他人の仕事を奪い取り…

ニコニコ笑顔でS.O.N.G.の全てを掌握し始め…

ニコニコ笑顔の職員達によってS.O.N.G.から叩き出されてしまった。

 

自宅待機を命じられたナナシは、仕方なく風鳴家の手入れをして過ごしていたのだが…縁側が陽光を鏡の如く反射し始めた辺りから、眩しそうに目を細める弦十郎によってもっと有意義に時間を使うように注意されてしまった。

 

まあ、何てことは無い…ナナシ本人は少々落ち着かない程度の認識だったが、実際は周りにバレバレなくらい動揺していたのだ。そして今まで歌姫達のサポートに使っていた時間が丸々空いてしまったナナシは、その時間を埋めるためにしばらく迷走していた。

 

その果てにS.O.N.G.から追い出され、弦十郎に注意されてしまったナナシは不貞腐れるように普段あまり使わない自室に引き籠り、ひたすら書物を読み漁った。奏とナスターシャ教授の治療、了子との約束、他にも何か役立つ知識や能力を獲得するきっかけは見つけられないか…普段読んでいる漫画や医学書だけでなく、論文や哲学書にも手を出し、訓練と称して“解析”を使ってインクの形状から内容を読み取ることで複数の書物を閲覧する離れ業まで編み出していた。

 

そうやって読み漁っていた書物の中に…ナナシは一つ、気になる記述を見つけていた。

 

それは所謂、スモールワールド現象と呼ばれる仮説であった。

簡単に説明すると…人が他人と重複しない知り合いを五十人程度作れば、人探しをする際その知り合い関係を芋づる式に辿ると六人目くらいで世界中の誰にでもたどり着ける…と言う仮説である。

 

これを更に雑に都合良く言い換えると…友達いっぱい作って知り合いを紹介してもらえば、六人目くらいでどんな人にも会えるよ!…と言えなくもない…かもしれない。

 

「えっ!?じゃあその六人の内一人に俺が入り続ければ、俺は世界中と繋がれないか!!?」

 

…数千万人と知り合いになるつもりだとか、大前提として人類全員に広い交友関係が求められるとか、そもそも机上の空論であるとか…穴だらけどころか端が繋がっているかも怪しい結論に辿り着いたナナシであったが、残念ながらその時ツッコミを入れてくれる者は誰もいなかった。

 

だがまあ、ナナシの“妄想”はそれから更にフォトスフィアを目撃した事で世界を血液によって繋ぐという突飛な方向に無事着地…いや、不時着事故を起こしてチフォージュ・シャトーと共に爆散する結末へと至ったのだった。

 

しかし様々な形へと“妄想”が変貌を遂げても、元々の考えが消滅した訳では無い。二課が国連直轄組織S.O.N.G.として再編されたこともあり、独自の情報網として各地に友人を作るというのは悪くないのではないかと思ったナナシは、その方法を真剣に考えていた。

 

実はナナシの友好関係は意外と狭い。ナナシの存在自体が機密扱いと言う事もあり、親しい人間の数は多くても大半がS.O.N.G.や装者の関係者である。これでは情報を得ようにも組織として調べられる範囲と大差が無い。故に新たな友好関係を結ぶ対象は組織の外の人間が好ましい。

 

しかしそうなると、情報漏洩対策を考える必要がある。口の軽い者にナナシの存在がバレたら色々と問題だ。ナナシ本人としては化け物である事が広まって迫害されようが命を狙われようが別に構わないが、最悪の場合周囲の人間に被害が出る。あとシンプルにOTONAからのお説教が怖い。

 

であれば、SNSなどでお互いの素性を隠したまま友好関係を構築するのが最も効率的なのだが…それはナナシ自身が嫌がった。

 

そもそも情報のためだけに友人を作るのも微妙なので、どうせなら情報は二の次で友好関係を広げる事に重きを置こう。そして友人になるなら、直接言葉を交わしたい…普段通り、ナナシは早々に目的と手段を入れ替えてしまった。

 

そしてナナシは、既にある問題をそのままに更に希望を積み重ねた。自分の周りは他人のために動くお人好しばかりだ。多少の性格の違いはあっても大枠では似た者同士である。どうせなら、これまで周りにいなかったタイプの人間と関わってみたい。

 

真っ先に思い浮かんだのは…所謂、社会の裏側で生きている者達であった。仲良くなるだけなら問題ない。何なら凄く馴染めるのではないかとナナシは考えたが、最悪の場合自分の友人を自分の手で捕まえなければならないドラマのような展開になってしまうため、この案は流石に踏み止まった。

 

しかし他に良い案が思い浮かばず、流石に少し妥協すべきかと考えたところで…ナナシは、とある者達の存在に思い当たった。

 

どんな場所にも一定数存在して…

これまで自分の周りにいた者達とは異なり…

最悪友好的になれなかった場合でも、情報が漏れる事の無い…

ナナシにとって、とても都合の良い者達…

 

 

 

友人候補としてナナシが白羽の矢を立てたのは、各国に存在する…自殺志願者達だった。

 

 

 

(はじめまして!俺と友達になってくれ!!)

 

お気楽な様子で脳内にそんな言葉を伝えながら、道化の仮面を被った死神は様々な場所に姿を現した。

 

ロープで首を括ろうとする者の前に…

薬品を過剰摂取しようとする者の背後に…

浴室で手首を切ろうとする者の頭上に…

海中に身を投げ沈む者の真下に…

屋上から飛び出した者の隣に…

 

忽然と現れた死神道化のインパクトによって、死への一歩を踏み出そうとした者は思わず足を止め、死へと踏み出した者は最初の一歩を盛大に踏み外してしまった。

 

人種、手段、老若男女問わず同じ道を歩もうとするその者達は、皆一様に恐怖、葛藤、その他諸々の感情を忘れて死神道化にポカンとした表情を向けていた。そんな彼ら、彼女らを、死神道化は初手…徹底的に嘲笑った。

 

(何々!?お前ら死のうとしているのか!!?超カッコ悪い!クッソダセェ!!高々百にも満たない年月も生きられないなんて、バッカじゃねえの!?終わってるぅ~!!あっはははは!!!)

 

…徐々に混乱が落ち着き、死神道化の伝える言葉が胸の内に入り込んだ者達は、その多くが目の前の死神道化に対して強い怒りを感じて言い返した。

 

煩い!黙れ!!

お前には関係ない!

何も知らないくせに!

邪魔するな!

消え失せろ!

 

しかし死神道化は様々な罵詈雑言を向けられると、仮面を被っていても分かる程とても楽しそうに笑った。

 

(あははは!!何だ、まだ感情を動かせるじゃないか?心が燃え尽きていないじゃないか?)

 

(それなのに自ら捨てるのか?たった数年、十数年、数十年ぽっちでどうせ終わるのに…)

 

(意味分かんねえ!理解出来ねえ!!)

 

(まあまあ焦るな。俺の話を聞き終わるまで死なせないから諦めて聞け)

 

(生きるのは辛いか?もう充分生き切ったのか?)

 

(お前らには死しか安らぎは無いのか?生はお前らに苦しみしか与えないか?)

 

(お前らが本気でそう信じているのなら…)

 

(試しに、この歌を聴いてみろ!)

 

死神道化の周りに、無数の光が現れる。宙に浮かぶ光の中から、映像と共に音楽が流れる。

 

それはこれまで死神道化が耳にしてきた、歌姫達の奏でる美しい旋律。空っぽの“紛い物”さえも動かしてみせた、心を震わせる生命の歌。

 

万を超える人間と共に奏でられた歌や、数名の仲間と共に強敵と戦うための歌、そしてただ一人で無数の敵に立ち向かうための歌…映像の中で声を震わせる歌姫達は、全員が何かに挑んでいた。常に何かと戦っていた。ずっと誰かを…守っていた。

 

そんな歌姫達の歌に籠められた想いは、言語が異なり言葉の意味が分からずとも、歌を聴いた者達の心に確かに伝わった。

 

 

 

『生きるのを諦めるな!!』

 

 

 

(何だよ、羨ましい…怒るだけじゃなくて、涙を流す事さえ出来るじゃないか?)

 

生きて欲しいと訴えかける歌を聴き、自ら死を求めていた者達が涙を流す姿に、死神道化は呆れたようにそう言葉を伝えた。

 

(受け取った想いに、震える心を持っているのに…本当に、捨ててしまうのか?終わらせてしまうのか?)

 

(そんな事を考えるお前らの事が、全然理解出来る気がしねえ)

 

(…それでも、俺はお前らを理解したい)

 

(なあ?ちょっとだけお前らの時間をくれないか?)

 

(さっきの歌が、僅かでも生きる力になったなら…それが尽きるまでで良い)

 

(俺と友達になってくれ)

 

(見ず知らずの誰かのために、俺は動くつもりは無い…でも、友達の事を知るためなら、どんな事でもやってやる)

 

(生きる事は、素晴らしいって…そんな戯言をお前らに信じさせてみせる)

 

(もしもその前にお前らの心が力を失い、再び死を求めたのなら…その時は、俺がお前らの望む方法で終わらせてやる)

 

(だから、この一回だけ騙されて…一生欺いてみせるから)

 

(どうか、よろしくお願いします!)

 

 

 

 

 

死神とは、死者の魂が迷わぬように冥府に導く役目を持つ神だ。

そんな神様に喧嘩を売るため、“紛い物”の神は死に向かう者達を惑わす道化を演じる事にした。

 

S.O.N.G.として各国を巡ったナナシは、その力で死を求める者達を見つけ出し、死を求める者達の声を聞き、死を求める者達の心を、死から逸らすための奇劇を披露していった。

 

人が自ら死へと向かうのは多くの場合、それ以外の道が見えなくなっているからだ。故にその歩みを阻むためには、その意識を逸らして別の道を見つけさせる事が重要となる。

 

そして人の意識を逸らすことは、“紛い物”の最も得意とする事だ。時にその異能の限りを尽くし、時に人の法や規則を徹底的に利用して、時に頭を抱えて一緒に悩み…あらゆる手段で、死に向かう者達を迷い道へと引き込んだ。

 

こうして生まれたのが、『The Lost Path to Death』…『死への迷い道』と銘打たれたチャットグループだ。

 

仰々しい名前とは裏腹に、そこで呟かれるのは何気ない日常である。その日食べたご飯が美味しかった。通学中に猫を見つけた。仕事が大変だったけど乗り切った…そんな些細な出来事を、遠く離れた顔も知らない、しかし全員が同じ道を歩もうとしていた事を知っている仲間達と、その歩みを惑わせた死神道化に伝える。

 

 

 

どんな道筋を歩もうと、行き着く先は決まった旅路。自分達は笑顔で迷い続けていると…

 

 

 

さて、これで終わればそれなりに美談だったのだが…少々死神道化にとっても想定外の方向に迷い込んだ者達が一定数存在していた。

 

窮地に追い込まれた人間が、超常の存在によって救われる。

救われた者達が、その存在を崇め敬い感謝する。そういった集まりを、人の世ではこう呼ぶのだ。

 

……『宗教』、と。

 

 

 

『ああ、神よ!あなた様のお陰で今日を迎えられた事を感謝致します!』

 

『いや、頑張っているのはお前自身だから…毎日毎日祈らなくて良いから…あと神じゃないから。“紛い物”だから』

 

『おお、神よ!どうか我が信仰の証として贈り物をさせてください!』

 

『俺より貧乏な奴に貢いでもらう趣味は無いでーす。あと神じゃねえ、“紛い物”だって』

 

『あ、あの、神様!私、将来歌姫様達のように誰かの力になれる歌を歌えるように頑張ります!いつか、あなた様にも聴いていただきたいです!』

 

『いやそれは今すぐにでも是非聴かせてくれ!!』

 

『あっ、やべっ!?』

 

『神は歌をお望みだああああ!!!』

 

『我らの神と歌姫様を称える讃美歌を奏でるのだああああ!!!』

 

『この喉枯れ果て潰れようとも歌い続けてみせましょおおおお!!!』

 

『待て待て落ち着け!?そんな命を燃やすような歌は嫌だから!!?ちょいちょい聴きに行かせてもらうから無茶すんなああああ!!!』

 

 

 

そんな感じに、少々過激な信者…教徒…TOMODACHIも出来たものの、概ね目論見通りに事を進めたナナシは、面白可笑しく雑談するついでに各地から情報を集めていった。

 

『身の回りで不可思議な出来事があれば教えてくれ!……いや、ご当地ピエロの事はいいから。海中ピエロも紐無しバンジーピエロも道化師戦隊ピエロファイブも知ってるから!』

 

『見た目は子供、頭脳は大人の高飛車金髪美少女に着せたら面白可愛い衣装デザイン案ありがとな!そのうちあの手この手で着せ替え人形にして写真アップするから楽しみにしてくれ!』

 

『怪しい道化師の像が出回っていたから回収しておいたぞ…代わりに俺が信仰するこの世に歌を広めた女神と世界を救った英雄の像を置いといたから崇めるならそっちにしろ!女神の方は絶賛恋する乙女だから英雄とのカップリング禁止な?恋愛成就の御守りでも供えてあげてくれ。英雄の方は甘いお菓子で』

 

 

 

『誰か神様の死に纏わる話とか、神を殺す武器について知っていたら教えて欲しい』

 

 

 

『え?いやいや違う違う!?自殺なんて考えてないから!!?今度カチコミに必要かもしれないだけで…あっ、コラ!?勝手に立ち上がるな!!?聖戦なんてねえよ!!?他の神様排除して唯一神になるつもりなんてねえ!!ってか神じゃねえって!!!』

 

 

 

 

 

 

 

『私は聖遺物の研究に関わる者として、ナナシ様が日本にいると噂される『悪夢』である事を察していました。故にバルベルデドキュメントの解析を急ぎ、ナナシ様の求める神殺しの情報をお伝えするために動いていた所であなた方の調査部と接触する事に成功しました』

 

道化師の仮面を被った協力者からざっくり経緯を聞き、本部の全員が「またか…」とでも言うような呆れの視線をモニターに映る頭を抱えたナナシに向けていた。弦十郎達OTONA組も今回のナナシの行いにどう対応するべきかと苦笑しつつ頭を押さえていた。

 

『奏様』

 

「っ!?」

 

そんな中、協力者の男が唐突に奏の名を様付けで呼んだため奏はビクリと驚いてしまった。

 

『私は元々聖遺物の力を世のために役立てたくて研究者となりました…しかし、妻と娘をノイズに殺され、その目的は復讐に変わってしまいました。いつか、ノイズをこの世から全て駆逐してやると…』

 

「……」

 

『そんないつかを目指して、私は私の全ての時間を研究に費やした…しかし…人類は、ノイズを兵器として活用する道を選んだ』

 

アルカノイズの誕生、そして軍事利用…一度広まってしまった知識は簡単には消えない。ノイズが人工的に作れると発覚した事で、今後も秘密裏にノイズを生産・活用しようとする人間は必ず現れる。そんな現実を前に、男は心が折れて家族が待つ場所へ向かおうとして…その道筋の最中、死神道化に出会ったのだ。

 

『ナナシ様に出会い、燃え尽きそうな私の心に、歌姫様達の歌と…奏様、あなたの言葉が届きました』

 

「あたしの、言葉…?」

 

『数多のノイズを前に傷つき、絶望の底で苦しむ中でさえ、誰かのために『生きるのを諦めるな』と必死に叫ぶあなたの姿に、私は再び立ち上がるための力を貰い…私も今、あなた方の力になる事が出来た』

 

仮面の端から透明な雫を零しながら、男は深々と頭を下げた。

 

『私にも、まだ出来る事はあるのだと…生きる事は辛くて、苦しくて…それでも、かけがえのない素晴らしい事なのだと…信じる事が、出来ました…誰もが同じ場所に辿り着くこの旅路、私はこれからも悩み、迷いながら精一杯、歩み続けようと思います…旅の終わりに胸を張って、笑顔で家族と再会するために…ありがとう』

 

感謝の言葉を最後に、通信が切断され男の姿は見えなくなった。

 

「ナナシ…」

 

『ま、待て!?落ち着け!!?話せば分かる!!?俺はただ個人で友達を作ろうとしていただけで、ちょっとお前らの歌声をダシに使わせてもらったと言うか、その、あの…か、勝手に歌とか映像とか使って悪かった!コソコソ動き回ってごめんなさい!!何か埋め合わせはするから許してください!!!BGM係はもう嫌だああああああああ!!!!』

 

諸々露見して奏に名を呼ばれたナナシは、慌てて言い訳をしようとしたが無理だと悟って必死に謝罪し始めた。

 

「バーカ、そうじゃねえよ…ありがとう」

 

そんなナナシの様子に呆れながら、奏は笑って…その瞳から涙を零した。

自分達の歌が、誰かの力になってくれれば…どれだけそう想いを籠めたところで、その歌声が相手に届かなければ意味が無い。自分では本来届けられなかった歌声を、繋げてくれた事…その歌声が、誰かの力になってくれた事、そうして巡り巡った想いが今、戦場で戦う仲間の力となった事が、奏はどうしようもなく…嬉しかった。

 

 

 

 

 

示された希望に、再び立ち上がる力を貰った響は、一直線にティキを目指す。それを阻もうとするアダムに、サンジェルマンが銃の先にブレードを展開して斬りかかった。

 

アダムは自身の切り裂かれた左腕を掴むと、そのまま力尽くで引き千切り…サンジェルマンのブレードを、左腕の『手刀』で迎え撃った。

 

「馬鹿な!?」

 

「潰えて消えろ!理想に夢想したままで!!」

 

想定外のアダムの行動と、その高い身体能力でサンジェルマンは押されるが、決して諦めることなく食らいつく。

 

「行け…行け…そのまま行け!立花響!!」

 

「っ!?」

 

アダムがサンジェルマンに意識を向けている間に、響は瓦礫を足場にティキの間近へと迫っていた。

 

「乗り過ぎだ!調子に!!」

 

動揺したアダムの隙を逃さず、サンジェルマンが果敢にアダムへと斬りこむ。

 

「私は進む!前に前に!!ここで怯めば、取り戻せない程に痕となる!屈する訳にはああああ!!」

 

サンジェルマンの怒涛の攻めに、咄嗟に距離を取ったアダムへサンジェルマンが渾身の銃撃を放ち、アダムは大きく体勢を崩した。その間に、響は遂にティキの元へと辿り着いた。

 

「寄せ付けるな!蚊トンボを!!」

 

アダムの命令に応えて、ティキはその巨大な拳を響へと振るった。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「アダムヲコマラセルナアアアア!!!」

 

ティキの拳と響の拳が真っ向からぶつかり合った結果、ティキの拳が粉々に砕け散った。

 

「アアアアアア!!?」

 

ティキが悲鳴を上げながら、拳を再生しようとダメージの無効化を発動するも、砕けた拳は復元されることは無かった。

 

「ギャアアアアア!!?!?」

 

「再生されない…あれがガングニールの…『神殺し』の力…だから、俺の力はガングニールに…」

 

ナナシはマリアによって腕を吹き飛ばされたり、響が“障壁”を容易く粉砕した事を思い出していた。逆説的に考えるなら、ナナシの身に宿る力はやはり…

 

拳を砕かれたティキは、咄嗟に腕を地面に叩きつけた。凄まじい衝撃が地面を砕き、舞い上がった無数の瓦礫が響を襲う。

 

「ぐあっ!!」

 

「終わりだ、これで…!」

 

傷つき宙を舞う響の姿に、アダムが勝利を確信する。だが…

 

「響!!」

 

「立花響―!!」

 

ナナシとサンジェルマンの呼び掛けに、再び目を開いた響は右腕のギアをドリルのように回転させながらブースターで一気にティキへと迫る。

 

「神殺し!止まれええ!!」

 

アダムが焦るがもう遅い。響はブースターで加速した勢いをそのままに、ティキへ渾身の一撃を繰り出す。

 

「八方極遠に達するはこの拳!如何なる門も打壊は容易い!!」

 

どう足掻いてもアダムは響の攻撃を止められないと悟り…賭けに出た。

 

「ハグだよ、ティキ!さあ、飛び込んでおいで!神の力を手放して!!」

 

そう言って大きく腕を広げるアダムに、ティキは応えた。

 

「アダムダイスキイイイ!!」

 

ディバインウェポンの胸部に填っていたティキが飛び出し、そのままアダムへと向かう。しかしそれを見逃さなかった響は、コアであるはずのティキに向かって拳を突き出し、周囲の水晶を打ち砕いてティキの体を真っ二つに粉砕した。

 

「きゃああああああああ!!!」

 

ティキの断末魔と共にディバインウェポンが徐々に形を失って、光の粒子となって空中に霧散していった。

 

「あっはははは!やったな、響!これで残るは…」

 

「う、ううん…」

 

響の勝利に喜び笑うナナシの声で、今まで気絶していた切歌が目を覚ました。

 

「あれ…?ナナシ、お兄ちゃん…?ここは…」

 

「おはよう、切歌。お前が頑張ってくれたから…響が今、神様をぶっ倒したぞ!全く、頼もしい妹達だよ、お前らは」

 

微笑むナナシと、目の前で崩れていくディバインウェポンを目にして、切歌は響達の勝利を察して笑い返した。

 

「アハハハ…ここ一番でやっぱり、バッチリ決めてくれるのデス!」

 

元気そうな切歌の様子に一安心したナナシは、ようやく回復してきた体の調子を確かめるように手を動かしながら、アダムに鋭い視線を向けた。

 

(後は、あの人形野郎を制圧出来れば…)

 

ドクンッ!

 

「っ!!?」

 

しかし突然、一際大きく心臓が高鳴ったナナシは、良く分からないままにアダムから視線を外してディバインウェポンの方を向いた。完全に形を失い、光の粒子と化した神の力…その様子に、何故かナナシは嫌な予感と…どうしようもない既視感を覚えていた。

 

そんな事は露知らず、アダムは真っ二つになって尚自分に手を伸ばすティキに白けた視線を送っていた。

 

「アダムスキ!ダイスキ!!ダカラダキシメテ!ハナサナイデ!!ドキドキシタイノ!!!」

 

「恋愛脳め、いちいちが癪に障る…だが間に合ったよ、間一髪」

 

そう言ってアダムは、ナナシと同じように宙を漂う神の力に視線を向けてニヤリと笑みを浮かべた。

 

「人形を…神の力を付与させるための…」

 

器となる人形を探して辺りを見回し、再びティキへと視線を向けたアダムは…ゴミのようにティキを蹴り飛ばした。

 

「ナンデマタッ!?」

 

「断然役に立つ…こっちの方が!」

 

そう言ってアダムは、先程引き千切った自身の左腕を天に掲げた。

 

「付与させる!この腕に!!その時こそ僕は至る!アダム・ヴァイスハウプトを経た、アダム・カダモン!新世界の雛型へと!!」

 

宙に漂う神の力は、一斉にアダムの方へと向かって行き…アダムを置き去りに、その後方へと通り過ぎていった。

 

「どういうことだ…?」

 

アダムは驚愕しながら背後を振り返ると、神の力はアダムの後ろに居た…響へと殺到していた。

 

「何…これ…?」

 

誰もがその現象に訳も分からず呆然とする中…

 

ドクンッ!

 

…ナナシだけが、その光景を前に焦りを覚えていた。

 

(ああ…知っている…宙ぶらりんな力が、器を求めて彷徨っている…)

 

(駄目だ…駄目だ…このままだと…)

 

 

 

響が(・・)響でなくなる(・・・・・・)!)

 

 

 

胸の内に湧き上がる焦燥感のままに、未だ痺れの治り切らない体を無理矢理動かして…ナナシは響の元へと駆け寄ると、その体を抱き締めた。

 

「あ、兄弟子!?あ、あああああ!!?」

 

「意識をしっかり保て!!」

 

ナナシが響の両腕を押さえるように抱き締めた直後、宙に漂っていた光が全て響へと収束を始めて響が叫び出した。そんな響に声をかけながら、ナナシは響の周囲に漂う力を…自分の方へ引き寄せた(・・・・・・・・・・)

 

(この力が、俺の“収納”を弾いたって言うことは…俺の力でなら、神の力にも干渉出来るって事だろ!?)

 

確証など無い。しかし他に手立ても無いため、ナナシはその“妄想”を信じて、普段自分の行使する力を扱うように強くイメージして…響に集まろうとする神の力を、自分の方へと引き寄せた。

 

ドクンッ!

 

その直後、またナナシの心臓が強く鼓動を刻み…ナナシの頭に声が響いてきた。

 

 

 

“全てを殺せ、全てを喰らえ、命を一つに、世界を一つに、そして大いなる一つの神に…”

 

 

 

それは、ナナシの中に初めからあった言葉。

頭痛と共に強く表に現れてきた言葉にナナシは…

 

(煩い!黙ってろ!!)

 

…一切動じる事無く、神の力を自身に集める作業に没頭した。

 

「あああ!?ああああああああ!!?」

 

響が苦しみ暴れ出すが、ナナシは無理矢理響を押さえて身動きを封じる。今響に暴れられたら、ナナシの体は爆散しかねない。

 

「宿せないはず…穢れ無き魂でなければ神の力を…!」

 

「生まれながらに、原罪を背負った人類に宿る事など…!」

 

アダムとサンジェルマンが、神の力が響に宿ろうとする光景に狼狽えているが、そんなモノに構っている余裕など無くナナシは響から神の力を奪い取ろうとして…響の中から、神の力が一切動かない事に焦りを覚える。

 

周囲に漂っていた力を奪い取ったナナシであったが、既に響へと入り込んでしまった神の力には何故か手を出せなかった。逆に、ナナシが取り込んだ力は一つに集まることを求めるように、ナナシが油断するとナナシの体から抜け出してしまいそうだった。

 

「どうして…俺の力でなら、引っ張り出せるはず…っ!?神殺し!!?」

 

響の纏うガングニール…そこに宿る神殺しの力が、ナナシの力を阻害しているのだとナナシは気が付いた。

 

(だったら響にギアを解除してもらって…いや、それも危ない!)

 

今は苦しむだけで済んでいるが、ひょっとするとそれは神殺しの力をギアとして纏っているからその程度で済んでいる可能性もある。そうで無くても、生身の状態で負荷を受けさせるのは余りにリスクが高い。

 

(どうする!?どうすれば良い!!?考えろ!考えろ!!考えろ!!!)

 

ナナシはまるで時間が引き延ばされたと錯覚しそうな程に脳を酷使して思考を巡らせる。腕の中で苦悶の声を漏らす響を救うために、どうすれば良いか…その鍵を求めて、現状の問題を一つ一つ痛む頭で整理していく。

 

響の『外』にあった神の力は、ナナシの力で回収出来た。

響の『中』にある神の力は、ガングニールのせいで回収出来ない。

響のガングニールによって、『外』からではナナシの力が干渉出来ない。

どうにかして響の『中』に、ナナシの力を届かせるには…

 

そこまで思考を巡らせたナナシは…ある方法に思い当たった。

 

「ごめん、響…」

 

そう言ってナナシは、響の腕を押さえながら少しだけ響から身を離し…

苦しむ響の顔を覗き込むと…

響の顔に、自分の顔を少しずつ近づけていき…

 

 

 

ナナシは自分の口を、響の………首筋に押し付け、喰らいついた。

 

 

 

「ああああ!!?」

 

これまでとは異なる、痛みによる悲鳴に心苦しく思いながら、ナナシは舌を噛んで流れた血液を操り…傷口から響の体内へ血液を侵入させる。その血液を媒介に、ナナシは響の体内から神の力を奪い取ろうと試みたのだ。

 

首筋に歯を立てて、さながら吸血鬼のように神の力を吸い出すナナシ。その目論見は成功して、神の力は徐々にナナシの体へと移動していった。

 

ドクンッ!

 

しかしそれに伴って、ナナシの鼓動がドンドン強く乱れていき、頭痛が激しくなっていく。それは既に神の力と推定されるモノを宿した肉体に、更にその力を注ごうとしているから…ではない。

 

 

 

“全てを殺せ!全てを喰らえ!命を一つに!世界を一つに!そして大いなる一つの神に!”

 

 

 

…響の首筋に歯を立てた直後から、これまでとは比にならないレベルで頭の中で響く言葉が大きく、強くなっているからだ。

 

その声は、まるで歓喜に振るえるようにナナシを唆す。神の力だけではなく、響の血を、肉を、魂までもを丸ごと飲み込んでしまえ、と…

 

 

 

“全てを殺せ!全てを喰らえ!命を一つに!世界を一つに!そして大いなる一つの神に!”

 

 

 

声と共に、ナナシは初めて腹に感じる奇妙な感覚…人間でいう『空腹』を限りなく強めた、飢餓すらも生温い捕食への渇望が湧き上がっていた。自らの血液で塞いだ傷口から僅かに零れる響の血は、そんなナナシにこの上ない充足感を与えていた。

 

“全てを殺せ!全てを喰らえ!!”

 

初めてナナシに訪れた、その脳を蕩けさせるような幸福感と共に…

 

“命を一つに!世界を一つに!!”

 

頭の中の声は、ナナシを突き動かそうと全力で語り掛け…

 

“そしていつか…大いなる一つの…!!”

 

そして…

 

 

 

(うるっせえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!)

 

“!!?!?!??!?!??”

 

 

 

…欠片もナナシの心を乱す事が出来ず、全力で拒絶を返された。

 

(数千年間!ただの一度でさえ!!『空っぽ』の俺を動かせなかった言葉が!!!今更俺を…あいつらの歌で満たされた俺を動かそうだなんて思い上がるなああああああ!!!!)

 

…………ピシリッ

 

心の中でナナシが絶叫するのと共に、ナナシの中で『何か』が罅割れる音が響いた。

 

それとほぼ同時に、ナナシは響の体内から神の力を全て吸い出して…響の首筋から口を放すと、ドサリと地面に倒れ込んだ。

 

「兄、弟子…?」

 

「ぐっ、あ、あああ…」

 

苦しみから解放された響が、呆然とナナシに語り掛けるが、ナナシは響に応える余裕が無く…頭を抱えて蹲っていた。

 

 

 

「がっ、ああ、あああああ…があああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 




こんな引きで申し訳ないのですが、来週ちょっと投稿出来るか分かりません。
無理そうだったら活動報告で連絡します。
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