戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第165話

サンジェルマン達がアダムとの戦闘に加わった結果、流れが大きく変わり始めた。

三人の攻撃も装者達同様、アダムに対して効果はあまり無い。しかし先程カリオストロ達がアダムの体勢を崩したのを見て、装者達はアダムへ『嫌がらせ』をする方針を取った。

 

「吹っ飛べ!!」

 

クリスがアダムの足元に向けてミサイルを放つ。狙いは足ではなく地面だ。爆発によって歪に抉れた地面では、巨体を支えるアダムの足はバランスが取りづらくなる。

 

「はあっ!」

 

「オラァ!」

 

「くたばるワケダ!」

 

そこに響とカリオストロ、プレラーティが攻撃を加える。主に関節部を狙って打撃を加えて重心を崩したところにプレラーティのけん玉による重量攻撃が加われば、アダムでも簡単には防げなくなる。

 

「マリア!合わせるぞ!!」

 

「ええ!」

 

翼が青いエネルギーの刃を、マリアが白銀の短剣を無数にアダムの目に向かって射出する。アダムの瞳を貫く事は叶わないが、マリアの短剣に翼の青白く輝く刃の光が乱反射して目眩ましとして充分な効果を発揮する。

 

「使え!」

 

「行くよ、切ちゃん!」

 

「合点デス!!」

 

サンジェルマンがアダムの周囲に弾丸を放ち、鉱物の柱をいくつも錬成する。その隙間を、切歌を背に乗せた調が丸鋸で素早く移動しつつ、切歌が柱に伸ばした鎖を巻き付ける事で即席のワイヤートラップを生み出した。

 

「鬱陶しいなぁ!!羽虫共がぁ!!!」

 

徹底的にアダムの動きを阻害するために立ち回る装者達とサンジェルマン達にアダムが苛立ちを露わにしていると、その頭上から声が聞こえてきた。

 

「余所見をする余裕があるのか?」

 

「ぐおおおお!!?」

 

キャロルが放つ錬金術を、アダムが慌てて自身の錬金術で無力化する。妨害工作によってアダムは余裕を失い、キャロルとアダムの立場が入れ替わった。キャロルの放つ錬金術にアダムは対処しなければならず、装者達やサンジェルマン達の対処に錬金術を使用する余裕が無い。

 

装者達が、キャロルが、サンジェルマン達が連携することによってアダムは翻弄され、まともに動けなくなっていた。それによって自由となった“紛い物”が、遂に動き出す。

 

やや離れた場所に立ったナナシは、意識を集中させるように目を閉じて静かに佇んでいた。少しの間そうやって立っていたナナシは、唐突にカッと目を見開くと何か構えのような物を取る。全員が稼いだ貴重な時間を消費して、ナナシは全力で…

 

 

 

「か~〇~は~め~…波―!!」

 

 

 

…ふざけていた。

 

目まぐるしく状況が移り変わっていた戦場が、静寂に包まれる。その意味が分からないアダムがナナシを警戒して、サンジェルマン達が様子を窺い…何も起こらない事に困惑する。一方で、装者達とキャロルは突然奇行に走ったナナシに驚きを通り越してポカンと思考をフリーズさせてしまった。壮絶な争いを停止させ、全員の注目を集めたナナシは…地団駄を踏んでいた。

 

「クッソ、何で出ねえんだ!?あのディバインウェポンはポンポンビーム出してたじゃん!!?何で俺は出せねえんだよ!!?…あっ!手じゃダメ!?ゲロビじゃないとダメなのか!!?悟〇じゃなくてピッ〇ロかナ〇パ?髪剃らないとダメ?ああっ!ア〇レちゃんなら良いか!んちゃー!!」

 

『この状況で何をふざけているんだお前はああああ!!!』

 

大口を開けながら妙な叫びを上げるナナシにようやく仲間達からツッコミが入る。それによってようやくアダムはナナシの悪ふざけに本気で警戒していたのだと察した。

 

「貴様…!おちょくっていると言うのか!?この僕をおおおお!!!」

 

その事実に激昂したアダムが、間にある障害物を薙ぎ払いながら一直線にナナシへと突っ込んでいった。

 

「だぁあああ!?こうなったら遠距離攻撃なら何でも良いや!喰らいやがれ!」

 

迫り来るアダムに向けてナナシがその場で右腕を引くと、まだ距離が大きく開いているにも関わらず腕を前に突き出して…

 

 

 

「ゴ〇ゴ〇の~…ピストルゥウウウウ!」

 

ビニョ~ン…ドゴオオオオン!!!

 

「ごああああああああっ!!?」

 

『えええええええええっ!!?』

 

 

 

…ナナシの突き出した右腕が凄まじい勢いで伸びていき、アダムの腹部に拳が接触した瞬間、ナナシの力が炸裂して拳の四散と引き換えにアダムが吹き飛ばされた。

 

「あ、あは、あはははははは!出来た!!出来たぞ!!!上がれ心臓の音!俺がやりたかった事全部出来る!!これが俺の最高ちて…」

 

シュルシュルシュル…ブチィィィン!!!

 

「んぐぇあ!!?」

 

その結果にハイテンションで喜んだナナシだったが、伸びた腕が戻ってきた反動で肩からもげ落ちて飛んで行ってしまった。

 

「ぐおおおお…ちょ、調子に乗り過ぎた。まだまだ全然不自由だ俺…」

 

「ナ、ナナシ!無茶な力の使い方は控えろ!!貴様は今、通常の状態では無いのだぞ!?」

 

「俺の状態?ああ、確かに通常じゃない。頭は馬鹿みたいに痛いし、体中は内から膨れ上がりそうで重い。服が今にも弾け飛びそうだ。アチコチの形が曖昧で、一歩踏み出すだけで倒れそう。これが眠気ってヤツなのか、意識が飛びそうでお前らの姿もまともに見えやしない。次に瞬きしたら、もう二度と目を開けないかもしれねえな。つまり、ベストコンディションだ!」

 

「何よその妙な格好付けは!!?」

 

「劣等感と一生向き合う覚悟で偽物の正義を貫くキャラクターのリスペクト!俺には絶対再現不可能だと思っていたけど、これなら不調も悪くない…いや、寧ろ最高だ!睡眠不足も疲労も空腹も、“紛い物”の俺には“妄想”が限界だったのに…今日の俺は昨日の俺よりずっと人に近づけた気がする!まさに神の奇跡!!とりあえず二度とウチの連中に残業や夜勤なんてさせねえ!!!」

 

「いやどう見てもおっさん達の徹夜とはレベルが違うだろてめえの状態は!!?」

 

茶化すようなナナシの発言と、それにツッコミを入れる装者達…そんなナナシ達のやり取りに、サンジェルマン達は困惑していた。

 

「何なの?あの子達…」

 

「訳が分からないワケダ…」

 

即興の連携、そしてナナシの肉体の変異を利用する事で確かに自分達はアダムに対して優位に立ち回っている。しかしそれでも分からない。一体何故…

 

「何故…こんな状況で…笑っていられる?」

 

「あははははは!」

 

「ぐおああああ!!?」

 

戻ってきたアダムの攻撃を受け止めたナナシが、『毛の生えた長い尻尾』で側面からアダムを叩き飛ばす。刻一刻と人の形を失う中で、負ければ全てを失う戦いに挑んで尚…笑顔でふざけたような振る舞いを続けられるナナシが、サンジェルマン達には信じられなかった。

 

「ぷっ、あははは!流石は兄弟子です!」

 

「私達も、負けていられない!」

 

「ナナシお兄ちゃんをいっぱい手助けするデース!」

 

笑顔のナナシを見た歌姫達も自然と笑みを浮かべ、動きが明らかに良くなっていく。どれだけ姿形が変わろうと、一切揺らがないナナシの様子に歌姫達は安堵を覚えて精神の平静を取り戻したからだ。

 

「あははははは!」

 

「……」

 

苦難や逆境さえも笑い飛ばし、仲間達と共に突き進む…そんな“紛い物”の在り方を前に、サンジェルマンは胸の内に何かを感じ取っていた。

 

「ぐうううう…!」

 

歌姫達が平静を取り戻す一方で、アダムの心は焦りを感じていた。それは完全たる自分が矮小な人間に嫌がらせを受け、自身の創造主達を彷彿させる怨敵にふざけた振る舞いをされている苛立ちとは別に、もっと切実な問題が発生しているからだ。

 

(あり得ない…あり得ないよ…底が見え始めるなんて!全てを圧倒する僕の魔力が!!)

 

元々アダムは錬金術のセンスが皆無であるところを、膨大な魔力を用いた力業で無理矢理行使しており、その変換効率は極めて悪い。しかしアダムにとってそれは欠点では無かった。魔力の大部分で自身の完成された美貌を形作った状態でさえ、常人とは比較さえ出来ない程の隔絶した魔力を有していたからだ。

 

しかし神の力を顕現させる儀式に加えて、幾度となくナナシから負った体の傷を再生させ、キャロルの錬金術を打ち消すために消費したアダムの魔力は、これまでアダムが経験したことが無いレベルで減少していた。 “紛い物”の無限の体力と無尽蔵に抽出される想い出のエネルギーは、それだけアダムにとって埒外の力であった。

 

底が見え始めたと言ってもアダムはまだまだ戦い続けられるだけの魔力は有している。しかしこれまで数発放つだけで全てを終わらせることが出来たアダムにとって『消耗戦』など経験が無く、尽きる様子が見えないナナシとキャロルの力に焦らざるを得なかった。故にアダムはこの状況を打開するために策を巡らせ、周囲を見回して…

 

「…っ!?あるじゃないか!良いモノが!!」

 

…そう言葉にすると同時に、アダムは地面に手を地面に押し付けて術を行使する。それによってこれまで何度もナナシに撒き散らされたアダムの肉体が蠢いて、小型のアダムのような形となってナナシ達に襲い掛かり始めた。

 

『っ!!?』

 

想定外のアダムの一手に驚きながらも、全員が無数の小型アダムに対処しようとする。幸い小型アダムは本体よりも性能の劣化が激しいようで、装者達やサンジェルマン達でも対処は可能だった。しかし小型アダムに対処するため、全員がアダム本体への意識を離してしまった僅かな隙に…

 

「不要だろう?もう君達には。その輝きは!」

 

ドゴンッ!

 

「ぐああああ!!」

 

…一瞬でプレラーティの傍に接近したアダムはプレラーティを殴り飛ばし、プレラーティからけん玉型のスペルキャスターを奪い取ってしまった。それによってプレラーティのファウストローブは解除されてしまう。

 

「プレラーティ!?」

 

「完全たる僕にこそ相応しい、完全たるラピスの輝きは!」

 

「っ!?」

 

ドグシャッ!!

 

「ごふっ!!?」

 

プレラーティが倒された事で生まれたカリオストロの隙を突き、アダムがカリオストロを殴りつける。アダムの拳に押し潰されたカリオストロは、グッタリと地面に横たわっている間に指輪型のスペルキャスターを奪い取られてしまった。

 

「カリオストロ!!?」

 

「マズい!次はサンジェルマンさん!!」

 

ラピスを狙って奪うアダムの次なる標的はサンジェルマンだと考えた響は、サンジェルマンを守るためにサンジェルマンの傍へと駆け寄った。

 

「残念!とりあえず充分かな?二つもあれば!」

 

しかし響の予想に反して、アダムはその場に留まったままカリオストロ達から奪ったスペルキャスターをその手で握り潰し…アダムが再びその手を開くと、そこには小型の太陽を連想させる紅蓮の球体が現れていた。

 

「なっ!?黄金錬成!!?ラピスのエネルギーを使って!!?」

 

「さらばだ、諸君!」

 

アダムが放った紅蓮の火球は空中で一気に膨れ上がり、灼熱の業火がその場の全員を飲み込むべくゆっくりと落ちてきて…

 

ガキィィィィン!!!

 

…その途中で、空中に展開された“障壁”によって阻まれた。

 

「兄弟子!!?」

 

「っ~~~~~~~~~!!?!?!!?」

 

響の呼び掛けに答える余裕など無く、ナナシは声無き悲鳴を上げながら頭を抱えて地面に蹲る。顔中から血を流し、体中を痙攣させる程の痛みに襲われながらもナナシは気合で意識と“障壁”を保ち続ける。

 

「踏み止まれアンノウン!!」

 

ナナシが業火を防いでいる間に、キャロルが何らかの錬金術を行使し始めた。

 

「貴様が所望した、黄金錬成への対抗術式だ!起動まで持ち堪えろ!!」

 

キャロルの言葉が聞こえているかも怪しいが、ナナシは“障壁”を展開し続け、かつては防ぐ事の叶わなかったはずの業火を受け止めてみせた。その間にキャロルが構築した術式が機能し始め、アダムの黄金錬成は急速に勢いを失っていく。

 

「頑張るねぇ!でも良いのかな?君達が僕を自由にして!」

 

『っ!!?』

 

「ぐあっ!!」

 

「がはっ!!」

 

ナナシとキャロルが黄金錬成への対処で動けない間に、アダムは響達へと接近して響を蹴り飛ばし、もう不要だと思わせたサンジェルマンのスペルキャスターを掴み取ってサンジェルマンを殴り飛ばした。そうして奪い取ったサンジェルマンのスペルキャスターを握り潰して、視線をナナシ…ではなく、響に向ける。

 

「っ!!?」

 

「分からないからねえ?これでも不死身の君を殺しきれるか。だから確実に奪ってあげよう!君の大切な歌姫の命を!!殺してあげよう!君の心から!!」

 

「や…め…!」

 

ナナシの願いも虚しく、アダムは無慈悲にも響に向かってサンジェルマンのスペルキャスターから抽出した膨大なエネルギーを響へと放った。

 

「ぐあああああ!!?」

 

赤いエネルギーの放出を、響が両手を前に突き出して受け止めようとする。その光景を前に、サンジェルマンは地面に倒れ伏しながら涙を流した。

 

「あぁ…呪詛の解呪に始まったラピスの研究開発が…こんな事のために…私の、やってきた事は…」

 

 

 

 

 

赤いエネルギーに飲み込まれそうになる響の様子は、本部でも観測されていた。

 

「ファウストローブを形成するエネルギーを使って!!?」

 

「やはり、エクスドライブでないと…!」

 

絶望的な状況を前に、本部の人間が必死に思考を巡らせていると…その耳に、ある歌声が聴こえてきた。

 

「この歌は!!?」

 

 

 

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal…

 

絶唱…膨大な力を引き出す代償に、その歌を奏でる者の身を蝕む滅びの歌。“紛い物”が忌み嫌う歌を奏でながら、響はそのエネルギーでギアを変形させて、まるでその身に襲い掛かるエネルギーを自ら受け止めるような構えを見せた。

 

「S2CA・トライバーストを!」

 

「応用するってんなら!」

 

「それだけじゃない!」

 

かつてキャロルとの戦いで試み失敗した、相手の力を束ねて利用しようとする方法…翼とクリスだけでなく、マリアも響の背後に回って響のギアに自身の左腕を接続させ、そんなマリアに調と切歌も寄り添った。

 

「ガングニールで束ねた力を、アガートラームで制御!再配置する!!」

 

「S2CA・ヘキサコンバージョン!」

 

「その賭けに、乗ってみる価値はあるのデス!」

 

 

 

 

 

「無茶よ!?フォニックゲイン由来のエネルギーじゃないのよ!!?」

 

「このままではギアが耐えられず、爆発しかねません!!」

 

響達の試みに、了子とナスターシャ教授が悲鳴に近い声を上げる。シンフォギアの動力源であるフォニックゲインとは異なるエネルギーを取り込んで活用しようなど、無茶にも程がある。しかしその無茶を押し通すべく、エルフナインが行動を開始した。

 

「その負荷は、バイパスを繋いでダインスレイフに肩代わり!触媒として焼却させます!!」

 

「っ!!?ラピスの浄化作用を逆手に取って、呪いの魔剣であるダインスレイフに負荷を集中、ギアへの負担を最小限にすれば…!」

 

「あの子達が生み出した可能性を、我々で繋いでみせましょう!!」

 

聖遺物に関しては世界屈指の三人がシステムを構築、周囲の人間もそれを全力でバックアップする事で、十秒にも満たない時間で新たなシステムを完成させる。

 

「本部バックアップによるコンバートシステムを確立…響さん!!」

 

 

 

 

 

「バリアコーティング…リリース!!」

 

エルフナインの呼び掛けに応えて、響がラピスの力を無力化するバリアコーティングの機能を解除する。ダインスレイフの呪いが装者達を包み、不浄を祓うラピスの光が呪いを焼き尽くそうとする激痛に装者達が叫び声をあげる。

 

「何をしようと…?」

 

「抜剣!」

 

『ラストイグニッション!!』

 

ラピスの力を取り込み、代償にダインスレイフが燃え尽きて、装者達の体を包み込む呪いに亀裂が走った。

 

「程がある、悪足掻きに!受け入れろ、完全を!」

 

アダムが空中へ浮遊して、錬金術で火球を生み出す。火球は装者達に接触すると、黄金錬成にも匹敵しかねない勢いで大爆発を巻き起こし、装者達の姿は炎の中に消えてしまった。

 

「補って来た、錬金術で…いつか完全に届くために!超えるために!!」

 

「だとしても!!」

 

未だ燃え盛る灼熱の業火の中から、そんな叫びと共にミサイルに乗った装者達が飛び出してきた。その身に纏っているのはエクスドライブの白き輝きでも、ダインスレイブの漆黒の闇でもない。不完全な者達が、迫り来る絶望を前に抗い続けて掴み取った可能性の形。様々な選択の果てに辿り着いたシンフォギアの新たな姿…リビルドだ。

 

ミサイルに乗ってアダムに接近する装者達。先頭の翼とマリアが、手にした刃を巨大化させてアダムへと斬りかかった。

 

「生意気に…!人類如きがあああ!!」

 

アダムが両腕を伸ばして鞭のように振るう。先程までの二人なら、受ければ出力不足で吹き飛ばされていたかもしれない威力であったが、二人はしっかりとアダムの攻撃を受け止め、受け流して、通り過ぎざまにこれまで刃が立たなかったアダムの腕を切り落としてみせた。

 

だが…

 

「ギアが軋む…悲鳴を上げている!」

 

「この無理筋は、長くは持たない!」

 

「引き上げたのか!?出力を!!?」

 

腕を再生させながら驚くアダムの体が、巨大ヨーヨーによって絡め捕られる。

 

「つまるところは!」

 

「シンフォギアのリビルドを、この土壇場で!?」

 

「一気に決めれば問題ないデス!」

 

調の巨大ヨーヨーと切歌の巨大手裏剣が高速で回転して、アダムの体を前後から切り裂き傷つける。動けぬアダムの前方では、アダムの身の丈を優に超えるほどの巨大ミサイルを構えたクリスがいた。

 

「エクスドライブじゃなくても!!」

 

「ぐああああああああ!!?」

 

ミサイルの直撃を受けたアダムは、そのまま飛ばされて後方の建物とミサイルに挟まれ、そのままミサイルの大爆発をその身に受けた。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

建物の中に叩き込まれたアダムが立ち上がり顔を上げると、アダムに追撃を加えようと右腕のギアを高速回転させる響が凄まじい勢いでアダムへと迫っていた。だが…

 

「うぐっ!!?」

 

突然響が呻き声を上げると、響の纏うギアが力を失ってアダムの目の前に落下してしまった。響のギアペンダントをよく見ると、暗い紫色に輝いていた。

 

『まさか、反動汚染!?』

 

『このタイミングで!!?』

 

『そうだ…響さんと切歌さんのギアには、先程の戦闘による汚染が…!』

 

しかも響は、切歌が途中で気絶して離脱している間もずっと戦い続けていた。激闘に次ぐ激闘によって、遂にギアが限界を迎えてしまった。

 

「フフフフ…動けないようだな?神殺し…ここまでのようだな?良い気になれるのは…」

 

「く、うう…!」

 

アダムの全身が青白く発光して、口がパカリと大きく開かれる。キャロルに放った高火力攻撃が、身動きの取れない響に放たれようとしていた。

 

「手を伸ばせ!」

 

「終わりだ、これで!」

 

アダムの攻撃が放たれる直前、翼達のギアから光が放出され響へと向かう。全員の光が響へ届くのとほぼ同時にアダムの攻撃が響へと放たれて、爆発が響の体を包み込んだ。

 

「フフフフフ…フハハハハハ!……ン?」

 

高笑いをするアダムだったが、煙の中から現れた銀色の光に疑問を覚える。ナナシの“障壁”とは異なる、銀色のエネルギーで展開された三角形の防壁はまるで…

 

「まさか…私の!?」

 

光を放出するのと同時に、インナーだけの姿となったマリアが驚愕する。マリアだけではない。響に手を伸ばした装者全員がギアを失い、響は体に様々な色の光を…全員から受け渡された高密度のフォニックゲインを纏っていた。

 

「この力…皆の…!」

 

「良いってもんじゃないぞ!ハチャメチャすれば!!」

 

アダムがただでさえ大きな肉体を倍以上に膨れ上がらせ、その巨大な指を響へと伸ばす。

 

「だったらあああ!」

 

響の足から緑色の刃が展開され、跳躍した響が足を振るうと三日月形の斬撃が飛んでアダムの指を切断する。

 

「アタシの呪リeッTぉデス!」

 

「借ります!」

 

続いて響が手刀を振り下すと、蒼い斬撃が放たれて残ったアダムの指も切断してみせた。

 

「蒼ノ一閃!?」

 

「否定させない!この僕を誰にも!!」

 

アダムが手を地面に叩きつけると、先程切断された指が小型アダムへと変貌する。しかし小型アダムが動き出すよりも先に、響がマフラーを変形させて調の丸鋸のように移動しながら小型アダムを両断していった。

 

「皆のアームドギアを!」

 

「禁月輪!?私達の技を…ううん、あれもまた繋ぐ力!響さんのアームドギア!!」

 

「してる場合じゃないんだ…こんな事を、こんな所で!」

 

禁月輪で迫る響を、アダムは指が切り裂かれるのも構わず無理矢理掴んで捕まえた。

 

「ぐあっ!」

 

「降臨は間もなくだ、カストディアンの…それまでに手にしなければならない、アヌンナキに対抗し、超えるだけの力を!なのにお前達はああああ!!」

 

アダムの手の中で苦しむ響に、クリスが叫ぶ!

 

「ぶっ飛ばせ!アーマーパージだ!!」

 

「うおおおおおおおお!!」

 

纏うギアごとアダムの手を弾き飛ばして、響はアダムの腕の上を生身で駆ける。もう一つのアダムの腕が迫るのも無視して、響は自分のギアへと語り掛ける。

 

「無理させてごめん、ガングニール…一撃で良い!皆の想いを束ねてあいつに!!」

 

「行け…行け!立花響!!」

 

仲間達に支えられながら、サンジェルマンが響を激励する。

 

Balwisyall…!Nescell…!

 

しかし響が聖詠を唱え終わるよりも先に、アダムの手が響を包み、そのまま響を握り潰そうと…

 

 

 

ジリリリリリ!ジリリリリリ!

 

 

 

「は………?」

 

鳴り響いたその音に、アダムの思考と動きが停止してしまう。自分のよく知るその音が、自分の意志とは関係の無い場面で聞こえてきた事で、アダムは完全に意識を逸らされて音の発生源に目をやってしまった。

 

アダムの視線の先では、受け取っていた想い出を使い果たして元の姿で座り込むキャロルと…その傍らで、血塗れの顔でニヤリと笑って口から電話の呼び鈴の音を出す“紛い物”の姿が…

 

(気を逸らすってのは、こういうとっておきの場面でやるんだよ。記憶したか?自称完全)

 

その言葉に、笑みに、出し抜かれた事実に、アダムのあらゆる感情が一瞬で上限値に振り切れる。そんな場合じゃないと理解して尚、アダムの意識がナナシに釘付けにされている間に…

 

Gungnir troooooooonnnnn!!!

 

…響は聖詠を唱え終えて、眩い輝きと共にアダムの指の間から飛び出した。

 

「なっ!?」

 

「嘘!?」

 

その響の姿に、プレラーティとカリオストロが驚愕する。その身に纏う輝きが示すのは、錬金術における一つの終着点へと至った証。即ち…

 

「黄金錬成だと!!?錬金術師でもない者があああ!!」

 

黄金のシンフォギアを纏った響が、縦横無尽に宙を移動して攻撃を避けながらアダムへと迫る。サンジェルマンは驚愕に目を見開きながら、響が黄金を纏うに至った原因の考察を口にした。

 

「まさか…あれは私の、ラピスの輝きが…」

 

ラピス・フィロソフィカス…賢者の石の伝承において、不浄を祓う命の石と並んで有名な逸話。卑金属を貴金属に変え、黄金を生み出すという逸話がある。つまり、響があの姿に至ったのは…!

 

(相変わらず、変わった握手で手を繋ぐものだな!妹弟子!!)

 

「っ!!?」

 

攻撃を掻い潜り、アダムへ迫らんとする響の隣に、いつの間にか“化詐誣詑”状態のナナシがいた。

 

「兄弟子!?体は大丈夫なんですか!!?」

 

(あっはははは!ご都合主義パワーを舐めるんじゃないぞ、響!)

 

曖昧な答えで誤魔化す。つまりは大丈夫ではないと言うことだ。事実、もうナナシは指一本動かす事でさえ億劫だ。故に“血流操作”によって身に纏った血液を動かして、無理矢理動いているに過ぎない。都合の悪い事は表に出さず、見る者を欺き、無理無茶無謀を貫き続ける。それが紛う事無き、“紛い物”のナナシの在り方だ。

 

(決めるぞ、妹弟子!)

 

「はい!兄弟子!!」

 

『はああああああああああああ!!!』

 

同じ師を持つ兄妹弟子達は、一気にアダムの懐に潜り込むとその胸部に一撃を加える。そのまま一撃、もう一撃と攻撃を繰り返し、残像を生み出す程の速度でひたすら拳による攻撃を繰り返す。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!』

 

黄金の眩い輝きと、血液の暗い赤色が何度もアダムの体を叩き、砕き、遂にはその巨体を持ち上げ始める。響がギアから火を噴きながら、ナナシが血液の中でその身を砕きながら繰り出す拳によって、アダムの体は建物の天井をブチ抜いて空へと放り出された。

 

響とナナシは大きく両腕を引き、残る全ての力を籠めてアダムへと拳を振るう。四つの拳がアダムへ与えた力は表層に留まらず、アダムの内部を通過し、背を貫いて…二人はアダムの体を真っ二つに分断してみせた。

 

TESTAMENT

 

「砕かれたのさ、希望は今日に…絶望しろ、明日に!未来に!!…フフフフ…アハハハハハハ!!!」

 

ドゴオオオオオオオオオオン!!!!

 

そんな末期の言葉を残して、アダムの体は眩い光を放ちながら大爆発を巻き起こした。爆風に吹き飛ばされた響を翼とマリアが、ナナシをクリスと調、切歌が受け止める。爆発の跡に何も残っておらず…パヴァリア光明結社統制局長アダム・ヴァイスハウプトは、この世界から完全に消滅した。

 

 

 

 

 

「これでアダムは…!パヴァリア光明結社の思惑は…!!」

 

「ああ…俺達の勝利だ!」

 

モニターの中で喜び抱き合う装者達の姿を見て、本部の全員も勝鬨を上げる。長きに渡る一連の騒動の終結に、皆が笑顔を向け合う中で…

 

 

 

パタリ、と…“紛い物”の体が糸の切れた人形のように地面に倒れ込み…その意識を闇の中へと手放すのだった。

 

 

 

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