戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
ここから暫くシリアスが続くので読む方が減ってしまわないか少し心配です。
二課に警報が鳴り響く。
奏とナナシは、部屋から飛び出して指令室に向かった。扉を開くと、そこでは弦十郎達が忙しなく動いていた。そこに、翼と響の姿はない。
「状況は?」
「リディアン近辺にノイズが出現。現在、翼さんと響さんが現場に向かっています」
「響も行ったのか…俺も向かう」
「いや、ナナシ君は待機していてくれ。ノイズの出現数が少ないから、今から向かっても無駄足になる可能性が高い。君は万が一の場合に備えていて欲しい」
「……」
ナナシは弦十郎の指示に返事をすることなく、ジッとモニターに映る二人の装者を見つめる。そして…
「…弦十郎、出かける準備をしておいた方が良い」
「!?…どういうことだ?」
「別に、ただの俺の”妄想”だ」
「…君の”妄想”を無視できるほど、俺達の付き合いは短くない。分かった、準備だけはしておく」
「よろしくお願いします」
そうしてモニターを眺めていると、合体して巨大化したノイズを翼と響が無事打倒した。そして…翼がその剣の切っ先を響に突きつけた。
「何をやっているんだ!?あいつらは!」
「弦十郎、行くぞ」
「ああ、分かった!」
「青春真っ盛りって感じね♪」
「ダンナ!ナナシ!あいつらを頼んだ!」
「「任せろ!」」
そう言って、ナナシ達は翼達のもとへ向かって行った。
翼達がノイズを打倒した直後
「わたしと一緒に戦ってください!」
「…そうね」
翼がそう答えたのを聞いて、響が笑みを浮かべていると…翼が響に剣の切っ先を向けた。
「あなたと私、戦いましょうか?」
「ふぇ!?そ、そう言う意味じゃありません!私は、翼さんと力を合わせ…」
「分かっているわ、そんなこと」
「だ、だったらどうして!?」
「私があなたと戦いたいからよ」
「え…?」
「私はあなたを受け入れられない。力を合わせ、あなたと共に戦うことなど、風鳴翼が許せるはずがない」
「翼さん…」
響は、翼の言葉が理解出来なかった。自分達は、これから共に戦う仲間になると思っていたからだ。
「あなたもアームドギアを構えなさい。それは、常在戦場の意志の体現。あなたが何物をも貫き通す無双の一振り、ガングニールのシンフォギアを纏うのであれば、胸の覚悟を構えてごらんなさい!」
「か、覚悟とかそんな…それに私、アームドギアなんて分かりません!分かってないのに構えろなんて、それこそ全然分かりません!!」
「…覚悟を持たずに、のこのこと遊び半分で戦場に立つあなたが、奏の…奏の何を受け継いでいると言うの!?」
「!?」
響は翼の言葉に衝撃を受ける。響が固まっている間に、翼は空中に跳躍し、剣を放り投げる。
“天ノ逆鱗”
剣は空中で巨大化し、翼は茎に足のギアを接続する。シンフォギアのブースターと落下速度によって凄まじい勢いで剣が響に迫る。だが…
「
ドォン!!
…弦十郎の拳が真正面から翼の一撃を受け止めた。
「叔父様!?」
そして…
「オリャ!」
バキィィィン!!
…気の抜けた掛け声と共に、巨大化した剣の中心にナナシが蹴りを叩き込み、翼の剣をへし折った。
「っ!?ナナシ!?」
翼は衝撃でバランスを崩し、そのまま道路の上に落下した。
「全く、何でほぼ同時に出発して俺の方がちょっと遅れるんだよ?弦十郎、本当に人間?」
「ハッハッハ!ナナシ君の鍛え方がまだまだ足りないだけだ!」
「クソッ、切実に移動系の能力が欲しい。“瞬間移動”とか“空間転移”とか…」
そんな会話をしながら、二人は翼の傍に近づく。
「らしくないな、翼。ろくに狙いも付けず、ぶっ放したのか?それとも…」
「……」
「ん?お前泣いて…」
「泣いてなんかいません!」
「!?」
「…涙なんて、流していません…風鳴翼は、その身を剣と鍛えた戦士です。だから…」
「いや、どう見ても泣いているだろ?」
弦十郎と翼の会話に、ナナシが割り込んできた。
「お前がどんなにその身を剣として鍛えようが、お前は人間だ。俺が“紛い物”で人間じゃないのと一緒で、お前は人間で剣じゃない」
ナナシの言葉に、翼はキッとナナシを睨む。
「さっきの歌、今までで最悪だったな?自分の感情も碌に分からない状態で、何がしたいのかも不明瞭。お前がずっと追い続けてきた『防人』としての理想も切り捨てて、守るはずのものを傷つけようとした。こんなものになるために今まで自分を押し殺してきたのかお前?」
「…るさい」
「あ?何だって?聞こえないぞSAKIMORI」
翼は立ち上がると、勢いそのままにナナシの胸倉を掴む。その顔は、誰が見ても憤怒の感情を表しているのが分かった。
「うるさいと言ったんだ!お前に、奏の、私の想いが分かるものか!いつもいつも知った風に私の感情を逆なでしてきて、人が苦しむ様を笑いながら眺めているお前が…“紛い物”のお前なんかが、私達の気持ちを理解出来るものか!!」
「Exactly!!」
「っ!?」
翼が怒りの感情のままに放った言葉を真正面から受けて…それでも、ナナシは笑いながら間髪入れずに翼の言葉を肯定してみせた。
「どうした?俺が今更そんな事実を突きつけられて、動揺の一つでもすると思ったか?お前の気持ち?奏の気持ち?知るかそんなもん!俺はお前でも、奏でも、人間ですらない“紛い物”だ!お前らの気持ちが分かるなんて、口が裂けても言える訳ないだろ!」
そう言ってナナシは動揺する翼の手を払いのけ、逆に翼の胸倉を掴んで言い放つ。
「俺がするのは”妄想”の押し付けだけだ!こいつはこう思っていれば良いな、こう思っていたら面白いなって願望を真実と決めつけて、相手に叩きつけて反応を楽しんでいるんだよ!それが全然見当違いだというなら、動揺なんてしないで淡々と否定してみせろ!」
ナナシに気圧され、言葉を出せない翼に対して、ナナシが更にまくし立てる。
「お前言ったな?『お前に、奏の、私の想いが分かるものか!』って。ならお前は奏の想いが理解できているんだよな?自称剣!お前は奏が、響が生きていたことに感謝していたのを見ていたよな?ならお前はあの時の奏を見て今回の行動に移ったんだよな?奏のあの涙に、響が生きていたことに対する歓喜ではなくて、自分から戦う力を奪った相手への憎悪を感じたんだよな?それ以外に奏の想いを汲み取ったお前が、響を攻撃するなんて考えられないからな!」
「っ!?違う!私はそんなこと考えてない!」
「なら今回のお前の行動の理由はなんだ!」
「そ、れは…」
「答えられないか?なら代わりに俺が”妄想”してやる。“紛い物”の俺が、人間様のお前の行動を面白おかしく捏造してやるから即否定してみせろ!」
「翼!奏を、お前の相棒を、お前の八つ当たりの理由に使ってんじゃねぇ!!」
ナナシが翼から手を離す。翼はナナシの言葉に…何一つ反論することができずその場に座り込んだ。そんな翼を無視するように、ナナシは響の方へ近づいていった。
「響、大丈夫か?怪我とかないか?悪いな、ほったらかしにして」
「い、いえ、大丈夫です。怪我なんてありませんから」
そう言って響は、座り込んだ翼の方に近づいていった。それにナナシは、少し嫌な予感を覚える。
「翼さん…わたし、自分が全然ダメダメなのは分かっています。だから、これから一生懸命頑張って、奏さんの『代わりに』なってみせます!」
そう響は、愚直に、真っ直ぐに…風鳴翼の地雷を踏み抜いた。
ナナシは思わず頭を抱えた。この後の展開の“妄想”が、外れる気がしなかったからだ。
バチンッ!!
翼が、その顔を涙で濡らしながら、響の頬を思い切り叩いて、その場を離れて行った。
響は、そんな翼の様子を見て、その場に呆然と佇んでいた。
ナナシは思案する。翼の、奏の、そして響にとっての最良を。
(さて、考えろよ“紛い物”。響のせいで、或いはお陰で翼はこの二年押し殺してきた感情を表に出した。表面は響への怒りだが、根本は奏を守れなかった自責の念のはずだ。あのまま感情を押し殺していたら、いつか翼の心は砕けたはずだ。この二年で色々試した。俺は奏じゃないから、あいつみたいに全部を受け止めて安心させて笑顔で心を表に出させるなんて出来ない。俺が出来るのは、相手の反応を見て、煽って怒らせて心の中の隠し事を引きずり出すだけだ…怒りとかそういう面倒な感情、何とか全部俺に向くようにできないかな?それであいつらが笑って歌ってくれるなら、正直それ以外はどうでも良いんだけどな…)
ナナシは自分に出来ることを考え、実行し続ける…彼女たちの歌の音を、止めさせないために。
翼は本部へ戻った後、最低限の事後処理を済ませて早々に自室へ帰った。そこには…
「よう、お疲れさん」
「…奏」
今、一番逢いたくなくて…今、一番傍にいて欲しい人物が、そこで待っていた。
「全く、酷い顔してるな。そんなにナナシにボロクソに言われたことがショックだったのか?割といつものことだろう?」
そう言いながら優しく微笑む奏に翼は近づき…そのまま抱き着いた。
「…あれは…ガングニールは…奏の、奏だけのものだ…奏が、奏の全部を賭けて手にした力だ…なんであの子が…あんな子があれを使えるの…なんで…どうして…」
「…全く、相変わらず翼は泣き虫だな」
「…なんで…ナナシはあの子の味方をするの?…私にばかり酷いことを言うの?…分かっている…この気持ちが八つ当たりだなんて…でも、なら私はどうすればいいの…」
「…ナナシが動くのは、いつだって誰かの『ために』なんだよ…あたしや、響や、二課の皆…そしてもちろん翼、あんたのために…意地悪され過ぎて、それもわかんなくなっちゃったか?」
「…奏もナナシも私に意地悪だ…分かってる…分かってるよ…それが奏の…ナナシの優しさだって…でも…でも…」
翼は奏の胸の中で嗚咽を漏らす。奏はそんな翼の頭を優しく撫でる。翼が泣き疲れて眠りに落ちるまで、奏は静かに翼を宥め続けた。