戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
「万能血液の生成?」
「Exactly!!」
サン
「俺が弦十郎に保護されてから、了子と途中で加わったキャロルは色んな方法で俺の体について調べてきた。その一つが、『“紛い物”の細胞や血液を他の生き物に移植したらどうなるか?』って言うゲームとかだと人類滅亡の切っ掛けになりそうな実験だな」
「そういう事、自分で言っちゃう?」
「それで、結果は?」
「先に細胞移植をマウスとかで試したら、普通の人間と全く同じ結果になったな。一応マジで化け物に変貌する可能性も視野に入れて滅茶苦茶警戒していたのに拍子抜けだった。血液に関しては希釈実験で力を失う事が分かっていたから更に望み薄だったけど、一応やってみようって事で試行してみた。結果…何も起こらなかった」
「あらら、それは期待外れ…」
「いや、待て…『何も起こらなかった』ワケダ?」
「そう。化け物に変貌する事も、知性が芽生えて流暢に話し出す事も、未知の病気を発症して異常行動を取る事も…『拒絶反応』さえ、起こらなかった」
「「「!!?」」」
先程の会話の内容も併せてその意味を察したサンジェルマン達が、驚きに言葉を失った。
「人間以外の様々な生物に俺の血液を、それこそ全身の血液を俺の血液と入れ替えるレベルで輸血してみても一切異常が出ない…俺の血液は、あらゆる生物に対して適応するという結果が出た。多分、人間でも人種や血液型を問わず輸血出来ると思う」
「…え~っと、あーたの体に夢と希望が詰まってるのは理解したんだけど、じゃあ何でわざわざあーしらに作らせようとしているの?もう現物があるんじゃない?」
「あのなぁ…誰がこんなハッスルした動きをするような物を体に入れたいと思うんだよ?それこそ死ぬかどうかの二択でも迷うぞ?」
指先を切って流れた血をウゾウゾ蠢かせながらナナシは呆れた顔でそう答えた。
「だけどお前の言う通り、現物は既にある。だからその仕組みを調べて、錬金術を始めとした異端技術によってまず再現を試みる。そこから更に現代の技術で再現する事が出来れば…ただ正直、現状手が回らない。俺に元々あった力が『神の力』に近しい物なのはほぼ間違いないが、全く同じ物かと言われれば首を傾げるしかない。それなのに今回神様.zipまでインストールしちゃったから色々再検証する必要も出てきた。そんな状態で更にその規模のプロジェクトまで了子達に兼任させるのは流石に…しかし、無かった事にするのはあまりに惜しい。そこでお前らだ!」
三人の前方を歩くナナシが、振り返ってサンジェルマン達を指さした。
「今回の件を切っ掛けに、元々了子とキャロルの趣味でやっていた俺の研究をもっと大規模で行うため専用の部署を作る事にした。大枠である“紛い物”の研究解明については全員で協力しつつ、了子とキャロルには今後も俺の体についてとにかく分析・解明を続けてもらって、お前達にはさっき話した万能血液の生成を始めとした『“紛い物”の力を有効活用する』仕事に携わってもらいたい。全容を把握しきれないにも関わらず、『神の力』を再現させる事に成功したお前らには、この上なく適任の仕事のはずだ!」
「なるほど…」
「よく分からない力をとりあえず便利に使ってしまおうというワケダ?」
「人類は便利なら割とその辺寛容だぞ?メジャーなのは手術の麻酔。人体にどう作用しているのか実は詳細がハッキリ分かっていないとかな。マイナーなのだとこの日本で作られた本来猛毒のフグの卵巣を特定の手順で漬け込むと何故か無毒化される食べ物とか…」
「そんな物があるの!!?」
「人類って割と無謀だよな?百歩譲って加熱すればとか特定部位を切除すればとかならまだ分かるけど、毒だと判明して尚食べる方法を模索する食への執念は一体何なんだ?食べなくても生きられる“紛い物”にはちょっと理解出来そうにない…」
「そ、それを人類全般に当てはめるのは…」
「私としては少々興味を唆られるワケダ。毒の無効化と未知(の味)の研究と考えればそうおかしな話でもあるまい?」
「分かる子がここにいたわ!!?」
「それじゃあその好奇心の赴くままに推定蠱毒で生まれたとされる俺の
「それこそ成功しちゃったら、あーしら錬金術師の立つ瀬がないでしょう?無限に生まれる鉱物資源とか、それこそ世界がひっくり返っちゃう…」
「黄金やプラチナなんかの貴金属も含めて、既に一定の成果を上げている。錬金術の材料に使っても何ら問題は出ていない。必要になったらいつでも声をかけてくれ」
サラリと錬金術師の悲願の一つである貴金属の生成が完成していると言われ、カリオストロ達はビシリと固まってしまった。そして硬直から復帰したカリオストロが、一つの仮説についてナナシに尋ねた。
「も、もしかして、あーたらがバラルの呪詛の調査を独占する方法って、全世界にゴールドラッシュをかますとかそういう感じ…?」
「あっ、惜しい!けど、良い線行ってる!」
半分…いや、八割以上冗談で聞いた問いがまさかのニアピンだという答えに、再びカリオストロ達がフリーズして…同時にナナシも目的地に到着したために歩みを止めた。
「さて、着いたぞ!ここがお前らの新しい職場だ!」
正直、先程の話が非常に気になるのだが、恐らく答える気は無いのだろう。ひとまず三人は思考を切り替えて、ナナシの案内でたどり着いた扉の前に移動する。
「部屋に入る前に一つ注意しておく。中には今後お前達と一緒に仕事する人間が既に集まっている。俺や了子達はともかく、他の奴らがお前らにどんな感情を向けると思うか…あらかじめ覚悟してから入ってくれ」
「「「……」」」
ナナシの言葉に、三人はしばし無言で佇む。ここは世界秩序を維持する組織で、自分達は各国の秩序を乱したテロリストだ。フィーネやキャロルが所属している事を加味しても、楽観視など出来ない。
しかしそれは仕方のない事だ。自分達は敗者、本来ならば死をもって罪を償わされるところを、三人同じ場所で再起の機会を得られただけでも奇跡なのだ。
「理解している。愛想など無用だ。咎人である私に微笑みなど、必要ない…」
そう毅然と言い放ちながら前へ進むサンジェルマンの後に、カリオストロ達が寂し気な顔をしながら続いて室内へと入り…
パァン!パァン!
突然の破裂音に三人が思わず身構える。そして三人は室内の光景を目の当たりにして、今度は驚きに目を見開いた。
研究用に用意されたはずの部屋は至る所に装飾が施され、本来研究室の主役であるはずの精密機器はシーツで覆われて保護されていた。そんな室内には昨日の会談の場に居た弦十郎達や、とても嬉しそうな笑顔を浮かべた響と困惑するサンジェルマン達に苦笑する翼達。恐らくは今後共に仕事をする研究者達や、他にもオペレーターや実動部隊などの職員達もその手に使用後のクラッカーを手にしており、周囲には大量の紙吹雪が舞い上がっていた。
そして天井には部屋の端から端まで続くとても長い横断幕に『熱烈歓迎!カリオストロ&プレラーティ&×××(←何度もサンジェ、サンジュと書き直した跡)…サン(略)&Jさま』という文字が…
「「ブフッ!!?」」
「きっさまあああああ!!!」
「待て待て落ち着け!?話せば分かる!!?決して悪気があった訳じゃないから!!」
どっ!!
横断幕の文字にカリオストロとプレラーティが吹き出し、サンジェルマンが赤い顔でナナシに掴みかかり、それを見た周囲が笑い声を上げる。微笑みどころか大爆笑を向けられたサンジェルマンに対して、ナナシが必死に言い訳を始めた。
「最初は普通に書いてあったんだけど、手書きの文字だから絶妙に『ェ』が『ュ』に見えなくもなくてだな!?皆もう準備どころじゃなくなって、頑張って書き直そうとしたけど肝心なところで吹き出して失敗してその度全員が笑って作業が止まるの繰り返しで…スペースも無くなったから苦肉の策だったんだ!!新しい幕を用意する時間も無かったし!!!」
「何故当事者で書き直そうとした!?昨日の騒動を知らない者に任せれば良いものを!!…ん?『全員』が、笑って…?」
「い、いや〜、お前らとの交渉結果はきちんと情報共有しておかないと問題あるだろ?そして口頭の説明だと語り手の主観が入る可能性を考えて…昨日の会談の様子はもうS.O.N.G.全体に放送済みです!!」
「やはり貴様が諸悪の根源ではないかあああ!!!」
ガクガクとナナシの襟元を掴んで揺するサンジェルマンの姿に、再び周囲は笑ってしまった。
「だあああ落ち着け!一番の被害者はお前じゃねえんだぞ!?」
「全くです!最も可哀想なのはこの僕ですよぉ!!」
ナナシの言葉に同調しながら人混みを割って出てきたのは、テーブルに並べられた食べ物の中からお菓子ばかり選び取った皿を手にした『J』…ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス、通称ウェル博士だった。
「何故こんな小娘共のために、英雄たる僕の名が極限まで短縮されなければならないのだ!!?」
「いやマジサーセン英雄様。今回三人共それなりに長い名前の上にこれといった略称も無かったので、三人の名前を書き切った後あなた様の名前をフルネームか略称でバランス良く書こうとしたらこんな結果に…せめてものお詫びに『J』はチョコペンで書いてあるのでお好きなように啜ってください!」
「カブトムシか何かか僕は!!?」
「貴様は確か、我々が支援したF.I.S.にいた科学者なワケダ?」
「F.I.S.とは懐かしい名前だねぇ!だが今の僕の肩書はそんな古巣で表されるような物では無い!敬虔な信者に請われて、英雄たる僕は現世へと舞い戻った!!そう!世界は僕を求めているううう!!」
「聖遺物と生化学の合わせ技において世界屈指の我が英雄は、今回のプロジェクトには欠かせないお方だ。魔法少女事変での名誉の負傷が完治すると同時に我々に協力していただけるように前々からご本人と関係各所に根回しをしておいた。成功すればマジで歴史に名を刻めるこのプロジェクト、世界を救った英雄への献上品としては及第点でしょうか?」
「フン、努力は認めてあげましょう!ぽっと出の小娘共やおばはん達と同じ一幹部程度の立場というのが少々納得いきませんがねえ!!」
「まあまあ、この研究室の被験体兼最高責任者はあなた様の信者であるこの私です。面倒事はお飾りの代表である私に任せて、あなた様には存分に英雄としての覇道を突き進んでいただきたい!」
「殊勝な心掛けです!この程度のプロジェクト、早々に完遂して我が覇道の足掛けとしてあげましょう!!」
ウェル博士とナナシの繰り広げる茶番劇に、全員が何とも言えない苦笑いを浮かべていた。
「被験体と最高責任者って、両立出来るのね…」
「まさか、再び彼と肩を並べる事になるとは…人生とは、どうなるか分かりませんね」
困惑するサンジェルマン達に、呆れた顔をした了子とナスターシャ教授がそんな事を言いながら近づいてきた。
「…あなたもこのプロジェクトに参加するのですか?ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ」
「誘っていただきました。専門とする分野は少々異なりますが、多くの人類を切り捨てようとした私を人類の未来のために尽力させてくれようという彼の気遣いでしょう」
「ナスターシャ教授、聞こえたけどそれすっごい勘違い!俺はどうしてもあなたが必要だっただけ!責任者の俺を含めて幹部全員癖が凄いから、一般研究者達の代表になってくれる常識人が一人くらいは欲しかったんだ!」
「ん、ん、ん〜?何を言っているのかしらナナシちゃん?私も幹部なんだけど〜?」
「だ、か、ら、ナスターシャ教授に頭下げて参加してもらったんだけど〜???」
「ああ、喧嘩売ってるのね?まとめて買い取ってくれるわ!!」
「あははははは!果たして了子に買い切れるかな!?」
ナナシの挑発に乗った了子がフィーネ化してナナシと取っ組み合いの喧嘩を始めてしまい、再び周囲に笑いが生じる。次々と巻き起こる展開にサンジェルマン達は目を回してしまいそうだった。
「ハン!この程度の事で困惑しているようでは、この場所で真理を追究する事など到底出来はしないと心得よ!」
そんなサンジェルマン達にかけられた威勢の良い言葉によって、全員の注目が部屋の一角に用意されていたお立ち台に集まった。
「だが安心しろ!先駆者であるこのオレが直々に貴様らを導いてやる!!新参者の貴様らは精々オレに敬意を払って教えを請うが良い!!!」
お立ち台の上では、レイア達が角度を調整するスポットライトに照らされながら腰に手を当ててふんぞり返るキャロルがサンジェルマン達を見下ろしながら堂々とそう宣言していた。利便性から愛用を続けているランドセルを背負って後輩の出来た喜びを隠せないでいるキャロルの振る舞いに、周囲は思わずホッコリしてしまう。
カシャカシャカシャッ!!!
「ガキってやたら新入りに対してマウント取りたがるよな?」
「愛らしいですねぇ?尊いですねぇ?次回の月刊アルケミストの表紙は『ドヤ顔キャロル』で決まりですね!サブマスター!!」
「いやいや、ここからはハロウィンに七五三にクリスマスとイベント盛り沢山だからそんな余裕は無いぞ?表紙絵に使うとしたらそれこそ入学式シーズンとかだろ?」
「そ、そんな殺生な!?こんな尊いマスターのお姿をあと半年近くもお披露目出来ないのですか!!?」
「そうは言っても他の表紙絵を外すのも…しかしこうも本人がノリノリな写真を表紙に使わないのはもったいない…」
「ん~?ガリィもサブマスターも何で悩んでいるんだゾ?そんなに今のマスターを表紙に使いたいなら、雑誌をいっぱい作れば良いんだゾ!」
「「天才か!!?」」
「そうか普通に増刊号を作れば…いや、そもそも月刊に拘る理由も無いか!元々収益なんて求めてないんだから好き勝手に作れば良いじゃないか!」
「ではではサブマスター!いっそ種類も増やしましょう!!ひたすらマスターの可愛い格好を掲載した『キャロルン♪』、マスターが真剣に研究したりエルフナイン様と過ごす光景を載せた『ディーンハイムの日常』、ガリィちゃん達とお揃いの衣装で撮影する『オートスコアラー』みたいな具合に!!!」
「あっはははは!良いじゃないか!!そうと決まれば…」
「「追加の衣装と撮影スケジュールを確保しないと!!」」
「何を勝手な計画を企てているのだ貴様らああああ!!?」
了子と喧嘩していたはずのナナシがガリィと共にキャロルの撮影をしていたかと思うと、ミカの一声によって欲望を爆発させて二人が部屋を飛び出そうとしたため、キャロルは慌ててお立ち台から飛び降りて錬金術まで駆使して二人を引き止め始めた。
「あのキャロルでさえ、この体たらく…これは本当にとんでもない場所に来てしまったワケダ」
陰気な職場を想像していたが、蓋を開ければ陽気な笑い声で満たされた空間で、相変わらずいつまで経っても本題に入らず脇道横道に話題が逸れて…ようやく状況が落ち着く頃には、サンジェルマン達はすっかり毒気を抜かれてしまっていた。
「ここがお前らの新しい職場だ。プロジェクトを進めていく幹部はお前ら三人と了子、ナスターシャ教授、キャロル、ウェル博士の七名」
「うぅ~…どうしてボクは仲間外れなのでしょう?」
「エルフナインちゃん様には表向きの研究部門代表を務めてもらうからだ!別にプロジェクト自体は元々の研究部門と協力して問題ないんだが、他のメンツはちょっと顔役にするには過去のやらかしが…って事で、これを機に纏めて裏に引っ込めてしまおうかと」
「そんな臭い物には蓋的な扱いなの!?この研究室!!?」
「そこまで酷い事は言わないさ。精々鴨の水掻きってところだ」
「いや言い方を変えたところで!?要するに都合の悪い部分は隠しておこうって事でしょうこの場合!!?」
「細かい事は気にするな!それでは改めてようこそ!!S.O.N.G.本部の新たな研究室、通称『“紛い物”のオモチャ箱』へ!!!」
「何だそのふざけた呼び名は!!?」
「名義的にはただの研究室Bだからもう少し特徴のある名前を付けておこうかと。『負け犬部屋』とか『混ぜたよ危険!迫ろう深淵!!』とかでも良いぞ?あっ!『オーバーハンドレッド』とかどう?」
「百を、超過…?何がだ?」
「あーしのバストとか?」
「僕の英雄的カリスマは、百などでは計り知れないぞ!」
「幹部の平均年齢」
『ぶっ飛ばすわよ!!?』
「この女性陣の中でナスターシャ教授が断トツで若いのが面白過ぎるだろ!?目指せ『オーバーサウザンド』!!」
『やめろおおおお!!!』
『アハハハハハハ!!!』
そんな感じで、サンジェルマン達(とウェル博士)はS.O.N.G.の人間から笑顔で受け入れられてしまうのだった。
笑顔の歓迎会から数日が経ち、サンジェルマン達は何の問題もなく日々を過ごしていた。ナナシがいない場でも研究員達からは笑顔で挨拶を受け、幹部同士は偶に衝突(主にキャロルとプレラーティ)したり暴走(主にウェル博士)したりすることもあったが、サンジェルマン達がこれまで過ごしてきた時間に比べれば途轍もなく穏やかな日々であった。
この数日でS.O.N.G.内の施設について案内を受け、新たな研究室もあと少しで本格的に稼働を始める…そんなタイミングだった。
「明日は出かけるぞ!!」
突然サンジェルマン達の元を訪ねたナナシが、開口一番に力強くそう宣言してきた。
「一体何なの?藪から棒に?」
「出かける?何処で何をさせようと言うワケダ?」
「ちょっとした接待かな?研究が本格化する前に、お前らが仲良くしておいた方が良い要人達と交流してもらおうかと」
ナナシの言葉に、カリオストロとプレラーティは嫌そうな表情を浮かべていた。
「お偉いさん方に媚びを売れって事?」
「人心掌握は貴様の領分なワケダ」
「別に愛想を振り撒けって訳じゃねーよ。研究が本格化する前に今後の事を考えて親睦を深めておこうってだけだ。仕事は良いから明日一日そのつもりで…」
「いや、断っておいてくれ」
ナナシの言葉を遮り、サンジェルマンは拒絶の言葉を口にした。
「例え一日でも早く、プロジェクトを開始させたい。我々の印象が悪くなったところで貴様なら問題あるまい?過度な馴れ合いは無用だ」
「フーン…そっか、分かった。もう二度とこの類いの提案はしない事にする!」
多少は説得を受けると思ったが、ナナシはアッサリとサンジェルマンの要望を受け入れてしまった。
「あらら、随分アッサリ諦めるわね?」
「元々お前らへの配慮だからな。いらないなら構わないさ」
そう言ってナナシは、全然気にしていない様子でニコニコ笑顔を浮かべて…
「『逃げたくない』って言ってたけど、所詮口だけの奴に気を使い続けるのもアホらしいじゃん?お前が結社にいた時と同じように、目的を言い訳に他人から逃げるなら、こっちもアダムと同じようにそんなお前らを利用するだけだから何の問題も無いって!」
「っ!!?」
…その口から普段通りの様子で告げられた辛辣な言葉は、サンジェルマンの心に深く突き刺さった。
「貴様…!」
「ん?どうした?俺はただ単にこの数日で見てきたサンジェルマンの印象を言ったまでだ。会話は最低限、歓迎会でもそれ以外でも響が積極的に関わろうとしても避けてばかり、仕事という理由があってさえ仲間以外と関わろうとしない…それって結局、そいつが『逃げていた』と言ったこれまでと何が違う?」
プレラーティの怒気をアッサリ受け流して、心底不思議そうに語るナナシの言葉に、サンジェルマン達は反論する事が出来なかった。
「俺はお前らに何かを強要するつもりは無いから安心してくれ!嫌な事をさせるつもりも無いし、従わないからプロジェクトを外すなんて事もしない!俺達が近々バラルの呪詛をどうにかするって言ってるんだから、その後から動き出しても全然遅くないって!わざわざ今から苦労して他人を理解しようとするより、そっちの方が全然簡単だよな?合理的合理的!サンジェルマン、お前は何も間違っていないぞ?」
ナナシはニコニコと現在のサンジェルマンの在り方を肯定して、サンジェルマンが動かない理由まで並べていく。青い顔で震えるサンジェルマンに対して、ナナシは笑顔で…
「ただ、諸々失敗した時に後から俺や周りを言い訳に使うのは勘弁してくれよ?もしそんな事されたら、思わずお前の仲間達をぶち殺してしまうかもしれない。結局お前は俺の血を飲まなかったから、そこの二人の命に関しては特に保証していないからな!」
…サンジェルマンの、未来の逃げ道を断った。
「それじゃあ話は終わりだ!わざわざ時間を取って済まなかったな!お前らはこれまで通り!何一つ変わることなく!!盲目的に一つの事に取り組んでくれて構わないからさ!!!」
「待って、くれ…」
スタスタとその場を離れようとするナナシを、サンジェルマンが弱弱しい声で呼び止めた。
「話を、受ける…」
「え~何で?受けなかったからって不利益は特に発生しないぞ?俺が余計な気を回しただけだから、別に無理する必要は無いんだぞ?」
「受けさせて、くれ…よろしく、お願いします…」
震えながら頭を下げるサンジェルマンに、ナナシは笑みを消して近づきそっとその耳元で囁いた。
「ただ流されているだけで、自分の道筋に意味を見出せると思うな。流れを受け入れるにしろ、抗うにしろ、軽く揺さぶられた程度で覆される意志しか持てないのなら、お前は鎖を引かれるのを待つ下僕のままだ」
冷たい声音でそう告げた後、ナナシはまるで仮面を被り直すようにニッコリと笑みを浮かべた。
「それじゃあ、明日の朝に迎えに来るから身支度を済ませておいてくれ!服装は普段着で構わないから!よろしくお願いします!」
何事も無かったかのようにそう言って、ナナシは俯くサンジェルマンと自分を睨むカリオストロ達を残して部屋から出ていった。
(あの男、やっぱりいけ好かないワケダ)
(…明日は警戒しておいた方が良さそうね。サンジェルマンがこの調子じゃあ、『接待』で何を求められても受け入れるかもしれない)
念話でそんな会話をしつつ、呆然自失のサンジェルマンを介抱しながらカリオストロ達は明日に備えるのだった。
翌日、色々と懸念を抱えながらサンジェルマン達はナナシに連れられて街の公園へと到着した。とても要人との待ち合わせとは思えない場所で待っていたのは…
「あ!兄弟子~!サンジェルマンさ~ん!こっちで~す!」
…響達、装者六名と奏、未来。そしてキャロル、エルフナイン、オートスコアラー達というこの数日で何度も交流してきたメンバーであった。
「おい、貴様…」
「これの何処が要人の接待なのよ!!?」
「俺達S.O.N.G.の要である装者達とその親友だぞ?最重要人物達のはずだろ?せっかく応援として同僚のキャロル達まで引っ張ってきたのに何の不満がある?」
「喧しい!あれだけ大げさに脅すような真似までしておいて、要するにただ我々を遊びに連れ出そうとしただけなワケダ!!?」
「Exactly!!だってお前らアレくらいしないと絶対断るじゃないか?」
あっけらかんとそう答えるナナシに、サンジェルマン達は頭痛を堪えるように頭を押さえてしまった。そんな三人の様子に、響以外は色々察して苦笑していた。サンジェルマン達の元へいち早く駆け寄った響は、まるでおやつを目の前に出された犬のように瞳を輝かせながら笑顔でサンジェルマンに声をかけた。
「今日は一日、サンジェルマンさん達と皆で遊べるって聞きました!一緒に全力で楽しみましょう!!」
「…ああ」
響の嬉しさを前面に出す様子にサンジェルマンがたじろいでいると、そんな響の後ろ頭に未来がチョップを入れた。
「コラ、少しは落ち着きなさい。すみません、響は何日か前からずっと楽しみにしていたもので…」
「そ、そうか…」
「あたし達もナナシが日程を調整して集められた。あんたらが来るってのはここに来て響に初めて聞いたけど」
「大方の流れは察している…」
「あなた達も大変ね?」
奏、翼、マリアのアイドル三人はサンジェルマン達をどのように連れ出したか概ね理解しているので、その瞳には同情のような感情が見て取れた。
「後輩共がどうしてもって言うから来てみれば…こんな大所帯とは聞いてないぞ!!?」
「大勢の方がきっと楽しいデスよ!」
「先生だとクリス先輩は警戒して来ないかもという事で、連絡役を頼まれました」
どうやらクリスはナナシに協力する調と切歌に誘い出されて来たらしい。サンジェルマン達は少々親近感を覚えてしまった。
「あ、あはは、ボクは今日の朝、ガリィ達に連れられてきました」
「貴様らなど…まだマシだ…オレは、気が付いたらこの公園で目覚めたのだぞ?信じられるか?」
「マスターの眠りを妨げる事無く移動させて頂きました!私の腕の中で眠るマスターは可愛かったですよぉ!!」
…キャロルに至っては、事前連絡どころか意識の無い状態で連れ出されたらしい。最早サンジェルマン達が同情してしまう。
様々な方法でこの場に全員を集めたナナシは、満足そうに頷くと今回の集まりの趣旨を語り始めた。
「さてさて、お前らに集まってもらったのは他でもない。本格的に忙しくなる前に、これから仲間として行動を共にするお前らの親睦を深めておこうと考えた訳だ!ドンドンパフパフワーワー」
「「「ワーーー!!」」」
「…テンションに天と地ほど落差があるワケダ」
「拉致同然で連れ出された挙句に、今更こ奴らと親睦を深めるなど…」
「ハン、幾ら何でも平和ボケが過ぎるワケダ。従者を良いように使われて拉致されるなど、お笑い種も良いところなワケダ」
「貴様こそあの男の口車に碌な抵抗すら出来なかった口であろうが!!」
「あ゛ぁ゛?」
「お゛ぉ゛?」
「あっはははは!それそれ!それを狙ったからわざわざお前を連れ出したんだよ、キャロル!」
「「はあ?」」
いきなり険悪になるキャロルとプレラーティを見て、ナナシは笑いながらそんな事を言ったため二人は揃って疑問の声を出してしまった。
「ちょっと前まで争っていたお前らがいきなり仲良しこよしするのは難しいのは理解している。だから今日はその前段階として、派手に競い合ってもらおうと思っている!」
「き、競い合う!?」
「Exactly!!今日はそれぞれチームに分かれて、ゲームなりスポーツなりで競ってその都度勝利チームにポイントを加算して、日没までに最もポイントを集めたチームは俺が何でも希望を叶えてやるって言うのはどうだ?イマイチ気力の出ない奴らも、それなら多少意欲が湧いてこないか?」
「…くっだらない、湧くわけないでしょう?そんなもの」
場を盛り上げようとするナナシに対して、カリオストロはつまらなそうにそう言い捨てた。
「あーしらの間には、まだそのお遊びに付き合ってあげる程の信頼は無いわよ。例えばあーしらをバラルの呪詛に関わる計画に参加させてと願ったところで、こんなところにあーしらを騙して連れ出すようなあーたが何処まで希望通りに動いてくれるか分からないじゃない?ここまで来て仕事に戻るのも何だし、お茶くらいならしてあげても良いけど、わざわざそんな面倒な遊びに参加する義理は…」
「カリオストロ、貴様ちょっと黙れ。おいアンノウン、先程の言葉に偽りは無いか?」
カリオストロの言葉を遮り、先程までだるそうにしていたキャロルが目の色を変えてナナシにそう問いかけた。
「お前の歌に誓って嘘じゃない。それが俺に可能な事であれば、何でも叶えてやる」
「なるほど…おい貴様ら、この勝負を受けろ」
「はあ?何をいきなり指図しているワケ…」
「最後まで聞け。貴様らがあの男を信じる気が無いなら、オレが貴様らにやる気を出させてやる。万が一にも貴様らが勝利したあかつきには、あの男への命令権と引き換えに、オレの錬金術知識を提供してやる」
『!!?!?』
キャロルの言葉に、サンジェルマン達とエルフナイン、オートスコアラー達が驚愕に固まった。
「ば、馬鹿な!!?気でも狂ったのか貴様!!?!?」
「錬金術知識って…それってそんなに凄い事なのか?」
「当たり前だ!錬金術師にとって知識は命と同等…いや、それ以上と言っても過言ではないワケダ!直系の弟子に知識を受け継ぐならまだしも、むざむざ他人に奪われるくらいならば死を選んでもおかしくない!賭けの代価にするなど考えられないワケダ!!」
『!!?!?』
想像以上に重いキャロルの選択に対して、全員が思わず息を飲んでしまった。
「ふーん…それで?お前はそんな物を賭けてまで、俺に何を願う?」
「貴様の全てだ」
『!!?!?』
全員の注目を集める中で、キャロルはニヤリと笑いながら自身の願いを公言した。
「もし貴様への命令権をオレが手にしたら…記憶だけではない、貴様に関わる全ての権利をオレが頂く」
「あっはははは!そう来たか!良いだろう!確かにそれは、俺に可能な事だ!」
『えええええええええ!!?!?』
キャロルの宣言に対してナナシが笑いながら即了承したため、全員が思わず叫び声を上げてしまった。
「貴様正気か!?このようなお遊びのために、自身の全てを捧げるなど!!?」
「俺は歌に懸けて誓った事なら死んでも守る。まあ死ねないから、何が何でも生きて守るしかないけどな!」
「そう、どうやら記憶の所有権程度では貴様の無茶を止められないようなのでな…この際丸ごと貰い受ける事にした」
「そ、それって…あーたにとっては、あーたの知識よりその男が大事ってこと!?」
「そうだ」
『!!?!?』
一瞬の躊躇いも無くそう断言したキャロルに対して、最早全員が言葉を失ってしまった。
「オレの知識は、元々万象黙示録を完成させるために培ったもの…しかし既に望んでいた解答を得た今、新たな命題を解き明かすためならばそう惜しいとは思わん」
「…あーしらが断ったら、どうするつもり?」
「ただオレが貴様らの評価を下げるだけだ。ここまで譲歩して尚お遊びにも付き合えんのなら、オレは貴様らの事を同じ錬金術師として見る事は出来ん」
「「「……」」」
確かにキャロルは錬金術師にとって命とも言える代物を出してきた。これを無下にするのは錬金術師としての沽券に関わる。
「…いいわ。その勝負、乗ってあげる」
「ちょ、ちょっと待ってください!?幾ら何でも、遊びに命とか全てを賭けるのは!!?」
「嫌なら無理に貴様らが乗る必要は無いぞ?二組揃えば博打は成立する。貴様らが乗らないのなら、この男の所有権がオレの物になる未来が確定するだけだ」
「だ、駄目だそのような事!?我々も参加するに決まっている!!!」
「翼さん!!?」
慌てて賭けへの参加を表明した翼に響が慌ててしまう。楽しい外出であったはずが、敵として戦っていた時よりも緊張感のある対立に変わってしまった。
「こ、これは、あのセリフを言うチャンスでは!?…やめて!俺のために争わないで!!」
『争いの火種を巻き散らした奴が何を言っている!!?』
「あはははは!そりゃそうだ!!さあ、楽しくなってきた!!さて、勝負の行く末と“紛い物”の未来はどうなるかな!!!」
何故か一番危機に直面しているはずのナナシが一番ノリノリの状態で、一度は収まったはずの戦火が当事者達の良く分からないままに再び燃え上がろうとしていた。
(((((どうしてこうなった!!?)))))
投稿五分前まで粘って必死に書き上げたので後日大幅な修正が入るかもしれません。