戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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過去一長い文章になったかも。
これで前回の一話と一緒に終わる予定だったとか、見通しが甘すぎですね…

二週連続で日間ランキングにお邪魔させて頂きました。
やはり後日談ネタは強いですねw


第171話

(味方に対して)心理戦まで繰り広げるハイレベルな可愛い子グランプリ。続いて登場するのは錬金術師Aチーム。予想ではキャロルが出場すると思われているが、果たして…?

 

『それでは次の代表者の方、どうぞ~!』

 

ナナシの呼び掛けに応えて現れたのは…

 

『なっ!!?』

 

『代表者に選ばれたのは、キャロル・マールス・ディーンハイム…そして、エルフナインの二名!その服装はなんと!!この国が誇るアイドルユニット、ツヴァイウィングのステージ衣装だー!!!』

 

『オオオオオオオオオオ!!!!』

 

錬金術師Aチーム代表として予想通りのキャロルと、予想外のエルフナインが同時に舞台へと飛び出してきた。二人が身に纏っているのは、過去にツヴァイウィングの纏っていた青と赤のステージ衣装を二人のサイズに合わせた物だ。青い衣装を纏ったキャロルと、赤い衣装を纏ったエルフナインが舞台の上で堂々とポーズを取っている。

 

「ちょ、ちょっと!?何で二人出場してんのよ!!?代表者を選ぶルールでしょう!!?!?」

 

『Exactly!!各チームから代表者を選出するルール…でも、別に一人だけ選べなんて言ってないだろ?』

 

「ほら!やっぱり怒られませんでしたよ、キャロル!!」

 

「まさか本当に意図した言い回しだったとは…」

 

ルールの穴に気付いたのはエルフナイン、キャロルは半信半疑だったらしい。しかしナナシが正式に認めた事で、二人揃っての出場が成立した。

 

『少々意外なのは、強気なキャロルがSAKI…ごほん、風鳴翼の衣装、大人しいエルフナインが天羽奏の衣装を着ている事かな?俺としては何となく逆なイメージだ』

 

「あら?それは解釈違いですわ。サブマスターにからかわれるマスターと、甘やかされるエルフナイン様ならこの衣装で合っていませんか?」

 

「あ、甘やかされるって何だ!!?」

 

「む?我々も含めてサブマスターには全員派手に甘やかされているはずだが、地味に自覚が無いのか?」

 

「ちがっ…わ、ないけど!?確かにあたしら相当甘やかされてるけど!!?何か言い方!!?!?」

 

『オオオオオオオオオオ!!?!?』

 

(おーい、(身バレ的な意味で)相当危ない会話してないかー?)

 

ナナシから“念話”で相当認識のズレたツッコミが入る。危ないのは身バレではなく全員甘やかしているのを否定されない事だ。

 

「フフフ、双子の如く揃った愛らしい姿を並べながら相手のお株さえも奪う衣装のチョイス、完璧だわ!」

 

「愛らしいマスター達が剣ちゃん達の衣装を纏っているなんて素敵ですわ!」

 

「マスターとエルフナイン様、派手に輝いている!」

 

「あたしも一緒に出たかったゾ!」

 

オートスコアラー達は大絶賛の結果になったが、審査員達の反応は果たして…

 

『さて、ここは是非歌の方も披露して頂きたいところですが…』

 

「さ、流石にそれは自信無いです…」

 

「貴様が審査員であったなら一考の余地もあったが、無駄な手間は省かせてもらう」

 

『残念です!それでは審査員の方々、得点の方をどうぞ!』

 

店員A 9点

店員B 9点

 

『オオオオオオオ!!?』

 

『ここで店員Bさんも点数アップ!これはサンジェルマンを超えて、キャロル&エルフナインがトップに…』

 

店長 8点

 

『ええええええええ!!?』

 

「はぁああああああ!!?!?」

 

『おおっと!?これは意外な展開!!ここに来て初めての減点です!』

 

その結果に観客達が驚愕の声を上げ、ガリィが殺意さえ籠っていそうな視線で店長を睨む。

 

「ちょっとそこのモブメガネ!目ん玉腐ってんじゃねえのか!?マスター達の何処がそこの二人に劣っているって言うつもりだゴラァ!!?」

 

『おーいガリィ、ちょっと落ち着けー』

 

「これが落ち着いていられますか!!?納得のいく理由があるんだろうなぁ!?乳か!?乳とか諸々のボリュームか!!?乳ならそこの白ゴスも大差ないだろうが!!」

 

「ふぐぅっ!!?」

 

「わあああ未来ぅううう!!?」

 

ガリィの流れ弾が直撃して未来は床に崩れ落ちてしまった。

 

『おいガリィ、次の撮影会ハブられたくなかったら後で未来さんにDOGEZAな?とりあえずちょっと黙れ…それで店長さん?皆気になっているみたいだから差支えなければ説明をよろしくお願いします!』

 

『な、何かゴメンね!?決してその子達が可愛くなかった訳では無いんだ!!?ただ…その……』

 

店長は少しの間口籠った後、テーブルに肘を付き両手を組んでメガネをキラリと光らせると静かに、しかしハッキリとした声で答えた。

 

『…女の子はね、恥じらっている時が一番可愛いと思うんだ』

 

『ああ~…』

 

「それで納得するの!!?」

 

「この国、ひょっとしてヤバイワケダ?」

 

店長の言葉に観客席から少なくない共感の声が上がり、カリオストロとプレラーティが思わずツッコんでしまった。

 

「ぐぅっ…!!」

 

「貴様もそれで口を噤むのか、ガリィ…」

 

店長の一言によって、ガリィは両手を床について完全に戦意喪失してしまっていた。確かにキャロルとエルフナインは、これまで幾度となくナナシとオートスコアラー達に着せ替え人形にされてきた事で、最近は撮影を楽しんだり早く終わらせたくてポーズを取ったりする事に慣れてしまっていた。舞台の上で堂々とポーズを取る二人の顔に、未来やサンジェルマンのように恥じらった様子は無い。

 

『店長さんとは良い酒が飲めそうだ…さて、これで二つのチームが同率一位となりました!このまま二チームで有終の美を飾るのか!?はたまた最後のチームが格の違いを見せつけるのか!!?…ってか、最後のチームが誰一人戻っていないけど大丈夫か?全チーム準備が出来たって連絡があったから開始したはずなんだが、まさか代表者が未だにゴネているんじゃ…』

 

「あっ!?もう私達の番ですか!!?」

 

「ギリギリセーフデス!!」

 

「急ぎ配膳するぞ!」

 

シンフォギアBチームの不在をナナシが訝しんだ丁度その時、調、切歌、翼の三人が両手にお盆を持った状態で裏から飛び出してきた。三人は素早い動きで各テーブルと審査員席に何かを配っていった。その配られた物とは…

 

『オムライス…?』

 

「はい!どうしてもこれを用意したかったんですけど、流石に調理を待ってもらうのは申し訳なかったので、間に合わなければ諦めるつもりでした!」

 

何と調達が戻ってこなかったのは、厨房を借りてずっとオムライスを量産していたかららしい。各テーブルの前に置かれた湯気の立つオムライスには、急いだためか少々歪な形のハートマークがケチャップで描かれていた。

 

「え?何?キャロルン達がルールの穴を突いたかと思えば、今度は堂々と賄賂を配るの?」

 

「「「………あっ!!?」」」

 

カリオストロの指摘に、今気が付いたといった様子で三人が固まってしまった。どうやらその発想は無かったらしい。

 

「ち、ちがっ!?これはそういうのじゃなくて!!?食材はお店の人にお願いして分けてもらったけど、作ったのは素人の私だし…」

 

「ケ、ケチャップのハートもアタシが頑張って書いたけど歪んじゃったデス!だから、きっと賄賂になる程では…」

 

店員A 10点

 

「「えええええ!!?!?」」

 

「今日初の満点叩き出しちゃってるじゃない!!?」

 

『はっ!?美少女二人が一生懸命手作りしてくれたと思ったらつい!!?』

 

他の審査員二人も上げこそしなかったが10点の札に手をかけていた。

 

『皆様、命に関わる重要な事を確認しますのでまだ決してオムライスには手をつけないでください…おいSAKIMORI、調理を手伝ったか?』

 

「案ずるな、私が手伝ったのは先程の配膳のみだ。後は二人が調理している間、私は我々の代表者…雪音の演技指導をしていた。最も、それも一度確認した後は下手に手を加えるべきでは無いと判断したため、基本私は雪音と雑談していただけだ」

 

『なるほど、オムライスに演技指導…お前らの狙いは何となく分かった。おーい、他チームに提案だ。このまま続行させてくれ。代わりにもし、この審査の結果が受け入れられなければ衣装を変えて再戦って事でどうだ?』

 

「えぇ〜ズルくないですかぁ〜?」

 

「それだと白ゴスの子まで復活するじゃない?」

 

「それならそっちのチームを失格にして、我々二チームの優勝にした方が手っ取り早いワケ…」

 

『ちなみに異議申し立ての方法は、三チームの代表者が舞台の上で「私の方が可愛いもん♡」って言いながら両手で自分の顔を指差すって事でどう?それもニッコリ笑顔で!笑ってなかったらやり直しで!!』

 

「仕方ないですね!」

 

「小細工であーしらのチームが負ける訳ないし〜♪」

 

「細かい事は気にしないワケダ!」

 

「やった!チャンスが出来たよ未来〜!!」

 

「「「「代表者の意見は!!?」」」」

 

あっという間に意見を覆される仲間達に代表者達がツッコミを入れるがスルーだ。よくよく考えれば各チーム自分の推しの可愛い姿がもう一回見られるのだから再戦は全然悪い話では無い。

 

『それでは話も纏まったところで、登場して頂きましょう!最後の代表者…雪音クリスさーん!!』

 

ナナシがそう呼びかけるが、クリスはなかなか姿を現さない。しかし誰も騒ぎ立てたりしない。元々時間制限など無いのだ。観客達の目には、最初に宣言した通りいつまでも待ってみせようという強い意志が宿っていた。

 

「失格で…良いだろうが…」

 

そんな無言の圧に屈したのか、一分程経過したところで不満の声を出しながらおずおずと待望の人物が現れた。

 

『オオオオオオオオオオ!!!!』

 

『満を持して登場したクリス選手!その身に纏う衣装はやはり…メイド服だー!!』

 

真っ赤な顔で出てきた途端、観客達が歓声で出迎えたクリスの格好は白と黒、そして赤を基調としたメイド服であった。ミニスカートの裾や服の袖にはレースやフリルで装飾が施され、頭にはホワイトブリムがしっかりと装着されている。

 

『オオオオオオオオオオ!!!!』

 

『この国における可愛いコスプレの王道!小柄で愛らしい容姿の強気な銀髪メイドと、属性の大バーゲンに観客席の熱狂が納まらない!!しかし皆様、感情を爆発させて燃やし尽くすにはまだ早い!分かりませんか?今あなた方の前に置かれているオムライスの意味が!?』

 

『っ!!?!?』

 

「え?何?皆分かる感じ?」

 

「あの姿とオムライスに、一体どんな意味があるワケダ?」

 

「はわわわ、まさかクリスさん、アレをする気ですか!?」

 

「知っているのかエルフナイン?」

 

「は、はい、ナナシさんにお借りした漫画で何度も登場した、この国の可愛いメイドさんの作法…いえ、魔法です!」

 

錬金術師チームで唯一心当たりのあるエルフナインが、何かを期待したようなキラキラした目でクリスを見つめていた。

 

「私達が偶々テレビで見かけた、メイドさんの奥義…!」

 

「クリス先輩ならきっと、使い熟せるはずデス!!」

 

「ああ、凄まじい威力であった…あの時オムライスが揃っていたら、私は今この場に居られなかっただろう」

 

「適当な事言ってんじゃねえ!それにあたしは、やるなんて一言も…!」

 

『それだとオムライスの意味が完全に賄賂になってしまうぞ?良いのか?後輩達の努力の結晶をそんな物に貶めてしまって?』

 

「ぐうっ!!?」

 

ここまで来て流れに抗おうとするクリスの退路を非常に生き生きとしたナナシがアッサリと断つ。先輩として後輩達の名誉に傷を付けるなどあってはならない。クリスを窮地に追い詰めているのは自分の先輩と後輩達だが…

 

〈●〉〈●〉ジィーーーーーー…

 

会場の全員が無言でクリスを見つめ続ける。こうなればもうヤケだとクリスは覚悟を決めて、それでも隠せない恥ずかしさから顔を真っ赤に染め僅かに涙目になりながら、胸の前に震える両手でハートを形作ると…遂に、魔法の呪文を唱えた。

 

 

 

「美味しく、な〜れ…萌え……萌え………キュンッ………」

 

 

 

店員A 10987654321点(点数の札を全て連結)

店員B K.O.(尊…死…と鼻血でダイイングメッセージを残して机に沈む)

店長  DOGEZA(メイド喫茶に転身するので何卒!何卒この店の一員に!!と拝み倒している)

 

オーバーキルである。あまりの破壊力に、観客達は歓声の代わりに口から魂を出しているような恍惚の表情で呆然としていた。

 

『フゥ…さて、見事クリス選手が上限突破の結果を叩き出した訳ですが…一応確認するが、異議申し立ては?』

 

「み、未来…!」

 

「無理無理無理無理!!?」

 

「「サンジェルマン…!」」

 

「無茶を言うな!?ああも格の違いを見せられた上で、私に更に生き恥を晒せと!!?」

 

「ほ~らマスター?エルフナイン様?両手の人差し指でその柔らかいほっぺをぷにっと押さえながらニコッとしてください!」

 

「無理ですよガリィ〜!」

 

「往生際が悪いぞ…」

 

「ああいえ、これは異議申し立てではなく単にお二人の可愛い姿を見たいだけです!」

 

「堂々と言うな!?」

 

『どうやら各チームの代表者は格の違いを見せつけられて戦意喪失!よって可愛い子グランプリの勝者は、雪音クリス選手に決定です!!』

 

『ワァアアアアアアアア!!!!』

 

大盛り上がりで決着した可愛い子グランプリ。結果はどうあれ勝者、敗者の代表者達は安堵していた。この場での対戦が終わった以上、これ以上精神的なダメージを負うことは無いはず…

 

『それでは、次のグランプリを開始すると致しましょう!!』

 

『はぁあああああああああああ!!?!?』

 

『ワァアアアアアアアアアアア!!!!!』

 

ナナシの宣言に代表者達の絶叫を上げ、それを掻き消す観客達の歓声が巻き起こった。

 

「ちょっと待て!?次って何だよ次って!!?」

 

『あっはははは!俺は一つだけ対戦の場を用意したと言ったが、対戦内容が一つだけとは一言も言ってない!せっかくこれだけのギャラリーが集まったんだ!着ていない衣服もまだまだあるのに、これで終了なんてもったいない!まあ、周りの奴らがもう充分楽しんだって言うのならお開きにするが…どうだお前ら!ついてこられるか!?』

 

『イェェェェェェイ!!!!』

 

観客達はノリノリである。こんな状況で対戦を拒否したら暴動が起きかねない。

 

『それでは次のお題を発表する!お題は…『クールビューティ』!!』

 

「よっしゃ貰った!」

 

「今度こそサンジェルマンの勝利なワケダ!!」

 

「また私なのか!!?」

 

「マスターちょっと大きくなってください!今のお姿でカッコイイ衣装を着るのはそれはそれで趣がありますが、小さい体で強がられても可愛さが際立つだけです!レッサーパンダの威嚇と同じです!!」

 

「誰がレッサーパンダだ!?」

 

「このお題なら背の高い奏さんかマリアさんが適任ですよね!?私なんかより響の方がずっとカッコイイ衣装は似合うよね!!?」

 

「え〜?そんな事ないよ!未来ならカッコイイ衣装もきっと似合うと思うな!」

 

「このお題は先輩一択だろ!?体張って一回勝ちを取ったんだからあたしはお役御免…」

 

「クリス先輩には今ネットで調べたこんな感じの衣装はどうでしょうか!?」

 

「およよ!?何か不良っぽいデス!?ズボンがボロボロで片足が全部出ちゃってるデスよ!!?」

 

「まるで出会ったばかりの雪音を彷彿とさせる荒々しさ。だがここに今の雪音の自信に溢れた笑みが加われば…しかし、少々過激だな?こうもヘソ回りを露出させては腹を冷やさないか心配だ」

 

「聞けよおい!?ってか何着せるつもりだ!!?」

 

そんな風に大騒ぎしながら、各チームは再び控室へと突撃するのだった。

 

 

 

 

 

その後も『セクシー』、『清楚』、『パワフル』、『ミステリアス』等、様々なお題で各チームは(主に味方と)激しい攻防を繰り広げ、テンションを上げ過ぎた審査員と観客にダウンする者が現れた事でファッションショーはお開きとなった。

 

空はすっかり茜色に染まり、太陽は徐々に姿を隠そうとしている。スタート地点の公園に戻った一同は、疲労困憊といった様子でその光景をただ呆然と見つめていた。

 

現在の各チームの得点は狙いすましたかのように横並びである。タイミング的に次の対戦で勝利チームが確定するが、全員疲労で頭が回らない。ああ、ナナシはこの状況を意図して作り出し、引き分けにして勝負を有耶無耶にする気だったのかと誰もが納得し始めて…

 

「誰も提案出来ないみたいだし、ここまで来て無効試合なんて時化た終わりはつまらないからサイコロ振るぞ〜!そ〜れ!!」

 

『何故わざわざ争いの火種を撒き散らす!!?』

 

周囲が声を上げるが、既に賽は投げられている。全員が固唾を飲んで見守る中、ピタリと止まったサイコロの目にある紙をナナシが剥がすと、そこに書いてあったお題は…

 

『アームレスリング』

 

「こ、ここで力勝負かよ…!」

 

「しかも、これって…!」

 

シンフォギアチームが動揺を露わにしてしまう。何故ならその対戦内容は…

 

「ミカ、今度こそ任せたぞ」

 

「はーい!任されたゾ!!」

 

「カリオストロ、出番なワケダ」

 

「フフン、任せてちょうだい!」

 

…シンフォギアチームが圧倒的に不利だ。

 

「ナ、ナナシ!?シンフォギアの使用は!!?」

 

「許可出来る訳無いだろ?今日の催しはあくまで遊びなんだ。その代わり、こいつらも錬金術の使用は禁止だ。トーナメント方式でまず準決勝を行い、勝ち残ったチーム同士で決勝戦。準決勝で怪我する可能性も考慮して、決勝での選手交代は有りにしよう!」

 

「せ、せめてオートスコアラー達の出場は控えさせるべきではないか!!?」

 

「最初のルール設定の時、オートスコアラー達をチームメンバーに加える事に異議は出なかった。ここまでの対戦も各チームの相性を考えて提案してきたはずだ。土壇場で自分達が不利だから出るなって言うのは筋が通らないんじゃないか?」

 

「ぐっ!?」

 

確かに正論ではある。しかし、劣化したとはいえ人間を凌駕するスペックのオートスコアラー達と、錬金術によって完全な肉体を得ているサンジェルマン達相手にシンフォギアチームが生身で挑むのはあまりに不利だ。

 

「俺がサイコロを振る前に対戦を提案しなかった結果だ。諦めてこのトーナメントを決めるクジを引け。それとも、辞退するか?」

 

ここでシンフォギアチームが辞退すれば、錬金術師チームのどちらが勝ってもキャロルがナナシを所有する未来が確定してしまう。例え勝算が極めて低くても、そんな結末を座して受け入れる事など出来ず…シンフォギアチームは覚悟を決めて、ナナシの差し出すクジを引いた。

 

準決勝Aブロック シンフォギアAチームVS錬金術師Aチーム

 

準決勝Bブロック シンフォギアBチームVS錬金術師Bチーム

 

クジの結果、まずそれぞれのAチーム、Bチームが対戦する事になった。まずはAチーム同士の対戦となる。錬金術師Aチームは宣言通りミカがチーム代表となり、シンフォギアAチームは相談の結果、響がチーム代表に選ばれた。

 

ドンッ!

 

ナナシが“収納”から本格的なアームレスリングの競技台を出して準備を整えると、ミカと響が所定の位置に付いた。

 

「それじゃあ始めよう!…と、その前にミカ、手を換装してくれ。流石にその手だと響の手がズタズタになる」

 

「分かったゾ!フフン、サブマスターが用意してくれたスベスベのお手手でも、力は変らないんだゾ!!」

 

ミカが慣れた動きで片腕ずつ交換して、普段の鋭い鉤爪のある手から見た目は普通の人間と何ら変わらない手に切り替えた。そのままミカはすぐに競技台の取っ手を掴み、響と手を組み合う。

 

「それじゃあ二人共、準備は良いか?」

 

「はい!」

 

「良いゾ!」

 

「…本当に?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「いや…それじゃあ始めるぞ!レディー…ゴー!」

 

グググ…パタン!

 

『えっ!!?』

 

あまりに呆気なく、勝負は一瞬で終わってしまった…響の勝利で。

 

「あ、あれ…?」

 

「ちょっとミカ!?何やってんのよ!!?」

 

「わ、分かんないんだゾ!?急に手に力が入らなく…」

 

「ねえ、ミカ?ひょっとしてだけど…」

 

「サブマスターに搭載してもらった力覚センサー、地味に切り忘れてないか?」

 

「……あ゛っ!?」

 

…オートスコアラー達は修理の際にそれぞれ希望の機能をナナシに搭載してもらっている。力加減の苦手なミカは、不用意に物を壊したり人を傷つけないため一定以上の力を加えようとするとセーフティがかかるセンサーを搭載してもらった。そのセンサーを切るのを忘れて響と対戦したために、突然腕の力が抜けてしまったのだ。

 

「サブマスター、教えてくれても良かったんだゾー!!」

 

「いや、俺中立の立場だから…寧ろ再確認しただけでも相当ギリギリを攻めたつもりなんだが?」

 

「あんたがお間抜けなだけでしょうがぁああああ!!」

 

「わあああん!ゴメンなんだゾ~!!」

 

ミカの致命的なミスのお陰でシンフォギアAチームはほとんど消耗することも無く勝利となった。

 

「本当にお間抜けね~…まあ、あーしらにとってはラッキーだったわ。これであーしらの優勝が確定したんですもの」

 

自信満々といった様子で、カリオストロが競技台に向かう。その向かい側に、シンフォギアBチームの代表である翼が立った。

 

「それじゃあ今度はBチームの準決勝を開始する。手を組んでくれ」

 

「はいは~い♡」

 

「……」

 

全く気負った様子の無いカリオストロと、無言の翼が台の上で手を組み合った。

 

「あの男がキャロルンのモノになったからって恨まないでよね?あの男が勝手に言い出した事なんだから」

 

「……」

 

カリオストロの言葉には、別に挑発と言う程の意図は無い。完全な肉体を得たカリオストロにとって、普通の人間との力比べは勝って当然なのだ。ミカが敗れた以上、翼との準決勝も、その後に待っている響との決勝も消化試合としか思っていない。

 

「それじゃあ行くぞー?レディー…」

 

故にカリオストロは下手に翼を怪我させてナナシの怒りを買わないよう、開戦直後は様子見する事にした。カリオストロが本気など出せば、常人の腕など簡単にへし折り叩き潰してしまう。

 

「ゴー!!」

 

グッ!!

 

案の定、カリオストロが開戦の瞬間に感じ取った翼の力は弱弱しいものだった。

 

(まあ、常人ならこんなものよね?後はゆっくり優しく押し切ってあげれば…)

 

翼の実力を分析して、カリオストロは自分が出すべき膂力を調整しようと意識を一瞬だけ思考に回した。

 

しかし…それが命取りであった。

 

ゴッ!!!

 

「がっ!!?!?」

 

カリオストロが相対しているのは常人ではない。生まれながらに国の未来を背負い、これまで幾度となく世界の未来を背負い…今は仲間の命運を背負って戦う防人である。

 

翼は感情で自分と相手の力量を見誤る程愚かではない。真っ向勝負をすれば自分がカリオストロに勝利出来る可能性など皆無であると理解している。

 

だからこそ、勝負の直前まで自分が勝利するための方法を模索し続けた。これまでのカリオストロの言動、現在の立場、今日一日で与えたギアを纏っていない状態での自分の情報…それらを考慮して、カリオストロが初手で全力を出さない事を翼は見抜いていた。

 

だからこそ翼は開戦直後、かける力をセーブしてカリオストロに自身の力量を誤認させた。決して違和感など抱かせる事の無い卓越した力の制御によって、平均的な女性よりもやや強い程度の力量を再現してみせた。

 

そしてカリオストロが翼の力量を計り、自分が出すべき力を調整しようとした一瞬の隙を突いて…翼はまるで居合の一太刀のように鋭い攻撃を繰り出したのだ。

 

だが…

 

「くっ!!」

 

「こん、の…!!」

 

…カリオストロはギリギリのところで踏み止まってしまった。

 

確かに油断していたが、実力を誤認させて不意を突くのはカリオストロの十八番である。故にカリオストロは翼が攻勢に出る瞬間、直感的に違和感を感じ取って耐え抜く事に成功していた。

 

あとほんの僅かに押し込めていれば翼の勝利であったが、カリオストロが本気を出せばどのような状態であっても翼に押し負ける事など無く…

 

「オラァアアアアア!!!」

 

ドンッ!!!

 

…カリオストロの逆転によって、翼は敗北してしまった。

 

「シャアオラァ!!!」

 

勇ましい勝ち鬨を上げるカリオストロ。翼はその結果に蹲ってしまった。

 

「先輩!!」

 

「翼さん!!」

 

そんな翼を心配して、シンフォギアチームの全員が翼の元へ駆け寄って行った。

 

「全く、油断し過ぎなワケダ」

 

「マジメンゴ!まさかギア無しであそこまでやれるとは思わなかったわ。でも、次は無いわ。これでキャロルンの知識はあーしらのモノ♪あの男の所有権はキャロルンの…」

 

ポロッ…ポロッ…

 

上機嫌ではしゃぐカリオストロであったが…俯く翼の顔から零れる透明な雫を目にして、口を閉ざしてしまった。

 

「先輩…」

 

「違、う…大事無い…この敗北は、私の未熟故と、理解している…だから…」

 

カリオストロの勝利に、自身の敗北に異論など無い。故に翼は、涙を流してしまう自分がどうしようもなく不甲斐無くて、恥ずかしくて、必死に涙を堪えようとして…

 

「真面目が過ぎるぞ、翼?泣きたいなら、素直に泣けば良いんだよ」

 

…そんな翼を、奏が優しく抱きしめた。

 

「翼は泣き虫なんだから、無理して涙を堪えなくて良い。弱虫なんだから、一人で震えていないであたしに縋れば良いじゃないか?」

 

「だけど…!敗者は勝者を、称えるべきだ!!私がこんな風に泣いてしまっては…」

 

「勝ったあいつらが悪いみたいって事か?それは翼の気のせいだ。確かにあいつらが勝って喜んでいるのは悪い事じゃない。だけど…負けた翼が涙を流す事が悪いだなんて事も、絶対にない。翼が本気で勝ちたかった…ただ、それだけの事だ」

 

「うぅ…」

 

奏の胸に顔を押し付けて、翼が声を押し殺すように涙を流す。そんな翼の頭を撫でながら、奏は響の方を向いて拳を突き出した。

 

「響、後は任せた!」

 

「はい!任せてください!!」

 

奏と拳を突き合わせて、響は気力を漲らせながら競技台の前へと立った。

 

「……」

 

そんな響と、その後ろで仲間達に慰められる翼の姿をサンジェルマンがジッと眺めていると、カリオストロが動き始めた。

 

「それじゃあ、あーしの手で引導を渡してあげると…」

 

「待って、カリオストロ」

 

肩を回しながら競技台に近づこうとするカリオストロを、サンジェルマンが声をかけて引き留めた。

 

「私が出る。さっきの勝負であなた、腕を痛めたでしょう?」

 

「…あらら、気付かれちゃってた?さっすがあーしらのリーダー♡」

 

茶化すようにそう言ってカリオストロが右手を上げると、小刻みに痙攣しているのが分かった。それ程までに、翼の攻めは苛烈であったらしい。

 

「それでも負ける気は全然しないけど…万全を期すために任せちゃおうかしら?プレラーティにあの台は高すぎるし?」

 

「一言余計なワケダ。おい、審判。カリオストロは交代するから、治療用の錬金術の使用を許可してもらいたいワケダ」

 

「分かった。それじゃあシンフォギアAチームと錬金術師Bチームの決勝戦は、響とサンジェルマンの対決だ!!」

 

不貞腐れながらプレラーティがカリオストロの腕に錬金術の治療を施していく。そうしている間にサンジェルマンが競技台へと近づき、台の上で響と手を組み合った。

 

「これで今日の闘いに決着がつく!双方ベストを尽くしてくれ!!それではレディー…」

 

「ふふっ…」

 

「…何が可笑しい?」

 

勝負が始まる直前、何故か響は笑い声を漏らしていた。それが気になったサンジェルマンは、つい響にその疑問を訪ねてしまう。

 

「いえ…どんな形であっても、サンジェルマンさんと手を繋げるのは嬉しいなって思って」

 

「っ!!?」

 

「ゴー!!」

 

ガクンッ!

 

響の答えにサンジェルマンが意表を突かれ、それと同時に開戦の合図が出された事でサンジェルマンの手が響によって大きく傾けられる。しかし勝負を決めるには至らず、サンジェルマンの手は響の手をピタリと受け止めてしまった。

 

「はああああああ!!」

 

響が掛け声を上げて押し込もうとするが、サンジェルマンの手をやや傾いた状態から一向に動かす事が出来ない。

 

(失敗した…!)

 

サンジェルマンは心の中で悪態をつく。それは響の言葉に油断して開幕直後に劣勢に持ち込まれたから…ではない。

 

(咄嗟に堪えてしまった。あのまま押し込まれていれば、この上なく自然に…負ける事が出来た)

 

そう、サンジェルマンはこの勝負、自ら負けるつもりでいた。

 

今ここで勝利してしまえば、どうしようもない程に禍根が残る。キャロルの知識は確かに惜しいが、ここでS.O.N.G.の主要人物達の和を乱せば、今後の研究やナナシの計画とやらに支障が出てしまうかもしれない。

 

(敗者は勝者を称えるべき…正論だ。故に敗者としてこの組織に加わった我々が、ここで勝利して彼女達の和を乱すべきでは無い。元々、このお遊びの目的は交流なのだ。頑なに私が彼女達との交流を拒み続けた故にあの男が身を切る事になった。全ての非は私にある…)

 

恐らくカリオストロ達も、サンジェルマンの思惑は察してくれている。腕のダメージは嘘では無いだろうが、わざわざ錬金術で治療を施す程では無かったはずだ。前に出ようとするサンジェルマンが不自然にならないよう、二人は一芝居打ってくれたのだ。サンジェルマンの、好きなようにすれば良いと…

 

(カリオストロに敗北を強いるのは抵抗があったために私が前に出たが、やはり慣れぬ演技などするものでは無かったな。ここは多少不自然に見えても…)

 

響と組んでいない左手で掴む、競技台の取っ手…これを壊してバランスを崩したように見せかけ、その隙に響に押し負けたように見せれば良い。凡ミスで敗北したキャロル達もサンジェルマン達を強くは責められないはずだ。そして響達はナナシに些細な願いを聞いてもらえる。ここで自分が敗北すれば、誰も不幸にならない。そう考えて、サンジェルマンが左手に力を籠めようとして…

 

 

 

(おい、屍女。お前はそうやって未来(さき)を言い訳に…現在(いま)、目の前にいる奴から逃げるんだな?)

 

 

 

(っ!!?)

 

不意に伝わってきたその言葉は、いとも容易くサンジェルマンの意識を逸らして…その視線を、目の前で足掻き続ける響へと向けさせた。

 

響の視線は、自分と繋がったその手を真っ直ぐに見つめていた。歯を食いしばり、必死の形相で勝利を掴もうと力を振り絞っていた。その瞳に打算や勝算などは見られず、ただ愚直に、ひたすら全力全開で、どんな絶望を前にしても諦めようとしない強い意志の輝きが宿っていた。

 

(何だ…)

 

立花響と言う少女は、サンジェルマンに対してずっと変わらずその瞳を向けていた。敵対していた時も、一時共闘を決めた時も、そして正式に同じ組織に与した今でも…

 

(何なのだ…)

 

どれだけ傷つけても、どれだけ拒絶しても、自分の事を真っ直ぐに捉え続けてきた響の瞳に宿る輝きを見つめたサンジェルマンは…

 

(一体何だと言うのだ!?わざと負けようなどと言う!!?この私の傲慢な考えは!!?!?)

 

…感情を爆発させて、必死に力を籠める響の手を押し返し始めた。

 

(立花響は私に勝とうとしている!本気で挑んでいる!その想いに応えず勝負を投げるなど…それが『逃げる』以外の何だと言うのだ!!?)

 

それが正しい選択かどうかは、サンジェルマンにも分からない。ただ、サンジェルマンは響の想いに対して、『敗北するべき』という想いよりも…

 

ダンッ!!

 

…『勝ちたい』という想いを、選びたくなってしまったのだ。

 

「ハァ…ハァ…」

 

響の手を押し返し、そのまま競技台に叩きつけて勝利したサンジェルマンは、響から手を離して荒くなった呼吸を整える。響はペタリと地面に尻もちを付いて、先程の翼と同様に俯いてしまっていた。その様子に、サンジェルマンは響も泣いてしまうのではと不安に思ったが…

 

「ぷっ…あっはははは!あ~あ、負けちゃいました!!」

 

…響は顔を上げると、困ったような表情をしながらも、サンジェルマンに明るい笑顔を見せるのだった。

 

「優勝、おめでとうございます!もし次があったなら、その時は負けませんからね!」

 

何処までも真っ直ぐにサンジェルマンの事を見つめて紡がれた響の言葉に、サンジェルマンは咄嗟に返答する事が出来なかった。

 

「次、か…それは難しいかもな?」

 

「えっ!?そうなんですか!!?」

 

「ああ、今回誘った時も最初相当嫌そうな顔していたからな。あんまり意欲が湧かなくなった。少なくとも、俺がこいつらを誘う事はもう無いだろう」

 

「……」

 

ナナシの言葉に、サンジェルマンは何も言えなくなる。ナナシが自分達を連れ出そうとしないならば、今回のような事はきっと二度と…

 

「大丈夫です!それなら今度は、わたしの方でサンジェルマンさんをお誘いしますから!」

 

「っ!!?」

 

しかし響は、ずっとサンジェルマンから避けられているにも関わらず迷いなくそう断言してみせた。

 

「え~お前に出来るのか?ずっとこいつからシカトされているのに?」

 

「だとしても!いつかきっと今日みたいに仲良く遊べると信じて誘い続けます!当然その時は、兄弟子も一緒です!」

 

「ふ~ん…まあ、その時を期待せずに待ってるぜ」

 

「そこは期待してくださいよ~」

 

そんな会話をしながらナナシが響を起き上がらせて、今回の対戦の表彰式の準備をしていった。

 

「それでは表彰式を始めまーす!本日の対戦の優勝者は、錬金術師Bチームに決定しました!錬金術師Bチームには、景品である俺への命令権が授与されまーす!!ドンドンパフパフワーワー!!」

 

「やったわね、サンジェルマン!」

 

「これでキャロルの蓄えた知識が手に入るワケダ」

 

「よっしゃー!!これで今日からサブマスターは私達の後輩ですね!!」

 

「先輩方、これからよろしくお願いします!!」

 

「むぅ、地味に指揮系統に混乱が生じるな…」

 

パーンとハイタッチするナナシとガリィ。嬉しそうに盛り上がっているのは錬金術師チームだけで、シンフォギアチームの面々は暗い顔で俯いていた。

 

「ちょっと待って」

 

しかしそこで、サンジェルマンが手を上げて全員に何かを呼びかけ始めた。

 

「その男への命令権…我々のチームで行使させてもらうわ」

 

『っ!!?』

 

「はぁあああああああ!!?!?」

 

サンジェルマンの宣言にほとんどの者が驚き、ガリィが驚愕の声を上げてしまう。

 

「あんた今更何言ってんのよ!?」

 

「事前の申し出を反故にしてしまうのは申し訳ないが…命令権と知識の等価交換はあくまで『権利』で『義務』ではない。我々はこのままこの男へ命令する選択肢も選べるはずだ」

 

「ざっけんな!!そんな都合の良い主張が許されるはず…」

 

「ガリィ」

 

不満を言い続けるガリィを、キャロルが戒める。キャロルはこの展開も読めていたのか、騒ぎ立てる様子もないため、主人が納得している以上ガリィも何も言えなくなり…ガリィはガックリと肩を落としてしまった。

 

「カリオストロ、プレラーティ、勝手に決めてごめんなさい。私は…」

 

「良いんじゃない?」

 

「我々はサンジェルマンの決定に従うワケダ」

 

サンジェルマンの独断を、二人は笑って受け入れる。そんな二人に感謝しながら、サンジェルマンはニヤニヤ笑うナナシに対して話しかけ始めた。

 

「これは命令とは関係の無い問い掛けだ。だから答えたくなければ無視してくれて良い…本当に貴様は、どんな命令でも聞くつもりなのだな?」

 

「ああ、お前が俺に『死ね』と命令するなら、俺は命令通りに死んでやる」

 

『っ!!?!?』

 

至極アッサリと自身の死ですら遵守してみせると宣言するナナシに、全員が驚き固まってしまった。

 

「ただし、命令の仕方には気を付けろよ?例えば本当にお前が俺に『死ね』と言った場合、俺はまず初めに…小日向未来を人質に取る」

 

『っ!!?』

 

「俺が死ぬためには、現状ガングニールで攻撃してもらうしかない。幾ら響本人を説得したところで無駄だからな?響の心を動かすため、まず未来を監禁して、それでも駄目なら拷問して、最終的には響の目の前で未来を殺害して徹底的に響の殺意を煽る。それでも響の心を動かせなかった場合は、ガングニールを扱えるマリアに対象を変えて、人質に調、切歌、ナスターシャ教授を使う。俺の死が確定するまで、それに必要な事をひたすらに繰り返していく事になる。命令の仕方に気を付けろってのは、俺が命令を行使する過程で生まれた被害の責任は命令したお前らに降りかかる可能性が高いから注意しろって事だ」

 

笑いながら命令によって巻き起こる悲惨な未来を語るナナシに、全員がはブルリと身震いしてしまった。ナナシの口調は普段通り明るく朗らかだが…語る言葉は嘘や冗談ではないという凄みがあった。

 

「…あくまでお遊びの景品に、貴様はそこまですると言うのか?」

 

「Exactly!!言ったはずだ、俺は歌に懸けて誓った事なら死んでも守る」

 

何の躊躇いも無くそう言い切るナナシに、サンジェルマンは…フッと息を吐いた。

 

「その誰に憚る事も無い揺るがぬ意志が、貴様の貫く正義であり…その確固たる『我』こそが、『他』を知るために必要なのだろう。今日一日、貴様に振り回される貴様の仲間達や私の仲間達の姿を見て、その考えがどうしようもなく腑に落ちてしまった」

 

そして確固たる『我』を持てず、『他』を遠ざけてしまった自分の在り方を顧みて、サンジェルマンは自虐的な笑みを浮かべてしまった。

 

「逃げたくないと言いながら、他者との関わりを無意識に拒み続ける…そんな自分の在り方を、変えなければならないと思いながら…変わる事を恐れる私がいる。変わらなくて良い理由を探す私がいる。今日の出来事で、そんな私の何かが変わったのか、変わらなかったのかは分からない。分からないが…色々と酷い目にあったはずの今日という日が、存外悪くは無かったと…楽しかったんだと、私は思う」

 

恐る恐ると言った様子で、自身の胸の内を語ろうとするサンジェルマンの言葉に、全員が黙って耳を傾けた。自分の事を分からないというサンジェルマンだったが、かつて響との語らいを拒み続けていたサンジェルマンを知る者達にとっては、その変化は明らかである。数百年の時を共に過ごしてきたカリオストロ達にとっては、激変と言っても差支えが無い。

 

「敵対していた時には、知る由も無かった貴様らの事を知る事が出来た。数百年連れ添ったはずなのに、全く知らない仲間の一面を知る事が出来た…まさか、半日の間に何度も裏切られるような日が来るなど、思ってもみなかった」

 

「「あ、あはははは…」」

 

「フフッ…相互理解を阻むバラルの呪詛は健在のはずなのに、私は今日だけでずっと仲間達の事を理解出来た気がする。それが真実か、私の気のせいかは分からない。それでも…だとしても、私は仲間の事を理解出来たのだと信じたい。私の事を理解してもらえたのだと信じたい。こういった何気ない日々が、神の施した呪詛を覆す力になるのだと、信じたくなった。だから…だから……」

 

 

 

「どうかまた、今日みたいに遊びに誘ってください。いつか、私が自ら歩み寄れる日が来ると信じて…よろしく、お願いします」

 

 

 

サンジェルマンが精一杯紡いだその『命令』に…ナナシはヤレヤレと肩を竦めながら答えた。

 

「あ~あ、それが『命令』なら仕方ないな?今後もちょくちょく声をかけてやるか!ただ、精々後悔するんじゃないぞ?例え泣いて許しを請われても、命令撤回なんてしてやらないからな!あははははは!!」

 

ナナシが笑いながら命令を快諾して、シンフォギアチームの多くが安堵でへたり込んでしまった。この結末が、ナナシの意図した物なのかは分からない。自分が気付かぬ間に、またナナシの思惑に流された可能性は充分あり得る。だからこそサンジェルマンは、僅かにでも自分が確かな意志によって踏み出したと信じるために、足を一歩踏み出して響へと近づくと…その手を伸ばした。

 

「立花響、今日はありがとう…これからも、よろしく頼む」

 

「は…はい!よろしくお願いします!サンジェルマンさん!!」

 

そうして響とサンジェルマンは、何一つ紛う事の無い形で…しっかりとその手を繋ぎ合った。

 

 

 

 

 

すっかり日も落ちて空に星が瞬き始める頃、響達はサンジェルマン達に手を振りながら帰路に就いて行った。キャロル達も不貞腐れるガリィを連れて一足先にテレポートジェムでS.O.N.G.へと帰還した。サンジェルマン達は少し休憩すると言って、ナナシに付き添われながら公園のベンチに座り込んでいた。

 

「…存外、私は自分勝手なのだな?今日一日の二人の頑張りを、私は無為にしてしまった」

 

「良い物が見られたから気にしていないワケダ」

 

「良い物…?」

 

「サンジェルマン、笑ってる」

 

カリオストロ達が見つめるサンジェルマンの顔には、とても晴れやかな笑みが浮かんでいた。それはこの数百年、二人が心から望みながらも諦めていた悲願である。それに比べれば、キャロルの知識が得られなかった事など些末事だ。

 

「ああ…死にたくないと思ったの、いつ以来だろう?」

 

「そりゃ良かった!死に片足突っ込みながら彷徨っているお前を無事迷い道に引き込めたなら、死神道化の面目躍如だな!あははははは!!」

 

道化師の仮面を被りながら高笑いするナナシに、サンジェルマン達は苦笑してしまう。これまでこの男には散々な目に遭わされてきたが、そのお陰で自分達の在り方が今の形に落ち着いた事に、三人は少なくない感謝の想いを抱いていた。

 

「ああ、そうそう。休みの最後に申し訳ないけど、明日以降実験室が本格稼働する前に、一つお前らに頼んでおきたい仕事があったんだ。聞いてもらっても良いか?」

 

そんなナナシから唐突にそんな話を振られたため、三人はしょうがないと思いつつも話を聞く事にした。

 

「んもう、お休みの最後にお仕事の話だなんて無粋ねぇ?」

 

「聞くだけ聞いてやるから、さっさと話すワケダ」

 

「あはははは、ありがとな!それじゃあ…」

 

 

 

 

 

「この俺…“紛い物”の神を殺すための方法を何か考えて欲しい。よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

まるでその瞬間、時が止まってしまったかのような錯覚に三人は陥った。それ程までに、ナナシの口にした言葉の意味が、三人の頭には受け入れられなかった。

 

「今…貴様は、何と言った…?」

 

「ん?だから、心臓を抜き取っても、脳天をブチ抜いても、体の九割以上消し飛んでも死なない不死身の俺を殺す方法を確立して欲しいって言ってんだ。あ、ガングニール以外でな?」

 

何かの間違いだと思ったサンジェルマンの問い掛けに、ナナシは変わらぬ内容の答えを返した。その意味を必死に理解しようとサンジェルマンが回らぬ思考を巡らせていると…これまでのナナシの言動に何か繋がりが見えた気がした。

 

『それじゃあその好奇心の赴くままに推定蠱毒で生まれたとされる俺の()も活用なり無効化なりしてみてくれ』

 

そもそも、つい先日まで敵対関係にあった自分達に自分の体の謎を解明させようとするのは、あまりにリスクが高い。未知を解き明かす事は、決して良い事ばかりではない。正体が定まる事で、不都合な事実が詳らかにされる事はある。神の力に近しい“紛い物”に、『神殺し』の力が有効だと判明したように…

 

『別にプロジェクト自体は元々の研究部門と協力して問題ないんだが、他のメンツはちょっと顔役にするには過去のやらかしが…って事で、これを機に纏めて裏に引っ込めてしまおうかと』

 

過去に問題を起こした者達を表舞台から遠ざけて裏に隠す…そんな事をすれば、目の届かない所でどんな暗躍をされるか分からないではないか。率先してそのような環境を整えるなど、まるで自分も隠して進めたい事があるようでは…

 

全ては根拠の無いサンジェルマンの“妄想”だ。しかし、それが事実なら…わざわざサンジェルマン達だけの状況を作り出してその提案をしてきた真意は、まさか…

 

「貴様は…自らの死を、望んでいるのか…?」

 

だからナナシは、執拗なまでにサンジェルマン達の身柄を押さえようとしたのだろうか?この世界で恐らく最も神の力に…“紛い物”の力と近しい知識を持つ、サンジェルマン達を…

 

「難しい問いだな?率先して死にたい訳じゃないんだが、全く好奇心が無い訳でもないから…う~ん…あっ!丁度良い表現があった!」

 

サンジェルマンの問いに、ナナシは肯定せず…それでも決して否定しないまま、自らの心境に対する適切な表現を口にした。

 

「『人並み』には興味があるな!死に惹かれるのなんて、人間くらいのものだろう?」

 

そんなセリフを、およそ普段と変わらない様子で言い切るナナシに、サンジェルマン達が固まっていると、ナナシは苦笑するように頬を掻いて…まるでサンジェルマン達を諭すように、静かな口調で話し出した。

 

「別に俺は死にたい訳じゃない。ただ、神の力をこの体に受け入れた時、俺は自分が自分で無くなって暴れ回るくらいなら、俺のまま響の歌に殺される事を心から望んでいた。今の俺は、死んでも自分を曲げたくない俺自身のままだと思っている。だけど、明日の俺はそんな自分の在り方を保てるのか?明後日は?一月後は?一年後は?この先数十年、数百年、数千年以上生き続ける俺は、今日の俺の在り方を保てていると思うか?」

 

それは死の概念を持たない“紛い物”だからこそ、考えずにはいられない懸念事項であった。これから先の未来で、自分は人類に…自分の愛する者達に寄り添う在り方を保っていられるだろうか?

 

「俺は俺で無くなるくらいなら、俺のまま終わりを迎えたい。だけど、今のままだと俺を終わらせられるのは、ガングニールを纏える響とマリア…後は考えたくないけど、道連れ覚悟なら奏の三人だけだ。俺はこの三人の誰にもそんな真似はさせたくない。三人以外なら誰でも良いって訳では無いが…化け物退治なんてのは、覚悟がある奴がやれば良いんじゃないかとは思う。いつかその時が来たら、あいつらに無理矢理覚悟を決めさせるのは嫌だから…誰でも俺を終わらせる事が出来る手段を用意しておきたい。今回みたいに、唐突に必要になったら困るから」

 

その理屈は、サンジェルマン達に理解出来るような…しかし、何処か致命的に食い違っているような印象を受けた。ナナシ自身、自分の心がよく分かっていないのかもしれない。

 

「お前ら、神様に復讐したかったんだろう?それでもやっぱり、俺達の計画には参加させてやれないと思う。だから…“紛い物”の俺で妥協しておけ。俺の死じゃ、見知らぬ誰かの笑顔なんて作れないだろうけど…」

 

そう言って、ナナシは道化師の仮面を外すと…とても朗らかで、楽しそうな笑顔を浮かべた。

 

「俺自身は、最高に幸せな笑顔で終わってみせるから」

 

困惑する三人を置いてけぼりに、ナナシはそう言って仮面を被り直すと、ベンチを立ち上がった。

 

「それじゃあ、そろそろ帰ろう!ああそれと、今の話は別にお前らだけの秘密にする必要はないからな?寧ろドンドン協力者を集めてくれ。もしも勧誘に失敗してS.O.N.G.から追い出されそうになったら、俺がキッチリ責任を持って匿うから安心してくれ。お前らが大勢と協力して俺を殺せるようになる日を、楽しみにしているから!」

 

ナナシは右手を拳銃のような形にして、空に撃つような仕草をした。

 

「指先一つで簡単に終わらせられるような方法が良いな~…その時になって初めて、俺の命はお前らと同じだけの重さを持つ事が出来る」

 

そう言ってナナシは、固まるサンジェルマンの肩をポンと軽く叩いた。

 

「人類の未来を、よろしくお願いします!サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロ」

 

そう言ってナナシは三人の返事も聞くことなく、上機嫌で歩みを進め始めた。

 

まるでお使いを頼むような気軽さで、ポンと託されたナナシの想い。その重みは、これまでサンジェルマンが背負ってきた重責とは比較にならない…サンジェルマンが知る事を恐れて切り捨ててきた、様々な想いの積み重なった命の重みだ。

 

「サンジェルマン…」

 

「どうする、ワケダ…?」

 

カリオストロとプレラーティが、サンジェルマンに指示を仰ぐ。託されたその想いは、昨日までのサンジェルマンには決して背負えない物だっただろう。しかし、今は…

 

「分からない…でも、安易に答えを決めるべきではないと思う」

 

ナナシは何一つサンジェルマン達に強制しなかった。全てはサンジェルマン達次第という事だろう。その想いを無かった事にするのは簡単だ。

 

それでも…

 

「だとしても…よね?」

 

早く来いと呼び掛けるナナシの元に、サンジェルマンもベンチから立ち上がって進んでいく。そんなサンジェルマンの後ろに、プレラーティとカリオストロが苦笑しながら続いた。

 

 

 

(辛くても、苦しくても、自分に誇れる道を歩みたい。自分の歩んだ道筋が、正しかったと胸を張れるように…ねえ、お母さん?)

 

 

 

 




唐突なシリアスで困惑されないか少し心配です。
文章が拙すぎる…
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