戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第172話

広々とした空間に、幾つものテーブルと椅子が規則的に配置されている。テーブルの一つ一つには小さめの花瓶に色とりどりの花が飾り付けられ、シャンデリアの光で照らされた室内は上品で落ち着いた雰囲気に包まれていた。

 

そのテーブルの一つで、ドレス姿のマリアとクリスがお茶をしていた。マリアがティーカップで優雅に紅茶を飲み、クリスがケーキスタンドに乗った一口サイズのケーキを食べて綺麗なドレスにボロボロと食ベカスを零している。

 

「クリスお嬢様、こちらをどうぞ」

 

そんなクリスの背後から執事服を着た男が近づいて、クリスに食事用エプロンを取り付けた。

 

「失礼します」

 

男は更にナプキンでクリスの頬に付いたクリームなどを優しく拭い取った。

 

「失礼しました。ケーキの追加をご希望でしたら気軽に申しつけください」

 

「お、おう…」

 

「マリアお嬢様、紅茶のお代りはいかがでしょうか?」

 

「え、ええ、頂くわ」

 

男がティーポットを取り出してマリアのティーカップに静かに紅茶を注ぐ。甲斐甲斐しく二人の世話を焼く男…ナナシの振る舞いに、二人は困惑気味な視線を向けていた。その視線は主にナナシのある一点…ナナシの頭へと頻繁に注がれている。二人が見つめるナナシの頭には…

 

三角形の大きな犬耳が、ピコリと揺れ動いていた。

 

 

 

 

 

その状況が生まれた経緯を説明すると…切っ掛けは、S.O.N.G.内に先日の交流会の記録を記載した雑誌が大量にばら撒かれた事だ。雑誌の表紙はメイド服で赤い顔のクリスが両手でハートマークを作っている場面であり、当然ながらクリスを中心に数名がナナシに抗議していたのだが…その時、クリスは自身のメイド服姿を見てある事を思い出した。

 

「ご都合主義!てめえ、前に犬耳執事で一日あたしらの世話するって約束してたよな!?あたしにメイド服着せてこんなもん作るよりそっちの約束果たす方が先だろ!?」

 

…それは以前、ソーニャとステファンが訪れた日に襲撃してきたカリオストロを、クリスとマリアがユニゾンで撃退した時に結んだ約束であった。(第150話参照)

 

クリス自身すっかり忘れていた約束だが、少しでもナナシに反撃出来ればと記憶の底から引っ張り出したのだ。その場にいたマリアも証言したため、二人がナナシに約束の執行を求めたところ…

 

「もちろん覚えているさ!丁度つい先日準備が整ったから、喜んで約束を果たそうじゃないか!!」

 

 

 

 

 

その数日後、クリス達がナナシの指定した住所に向かうと、そこでは広い土地が何か大きな建造物でも建てているかのように高いフェンスでグルリと囲われていた。“念話”でナナシに確認したところ場所に間違いはないらしく、ナナシの指示に従ってフェンスの内部にクリス達が入ると…そこには立派な洋館が建っており、その門の前で犬耳を生やした執事服のナナシがクリス達を出迎えたのだった。

 

そうして洋館の中に案内されたクリスとマリアはせっかくだからとナナシに言われるまま洋館の雰囲気に合わせたドレスに着替え、お茶とお菓子でおもてなしを受けながら…残りのメンツの準備が整うのを待っていた。

 

「くっ、何故私がこんな格好を…!」

 

「あははは!似合ってるじゃん、翼」

 

そんな会話をしながら部屋に入ってきたのはドレス姿の奏と…ナナシと同じ執事服を着た翼である。その頭には、ナナシと同じピンと直立した犬耳を付けている。プリックイヤーという日本犬に多いタイプの耳だ。

 

「響、すっごい似合ってる!」

 

「えへへ、そうかな?未来もとっても綺麗だよ!」

 

続いて入室してきたのはドレス姿の未来と執事服の響だ。響の頭にはドロップイヤーと呼ばれる垂れ耳タイプの犬耳が付いている。

 

「切ちゃん、可愛い!」

 

「調だって可愛いデス!!」

 

今度はドレス姿の調と執事姿の切歌が入ってきた。当然切歌の頭にも犬耳がある。バットイヤーと呼ばれる丸みのある立ち耳だ。

 

「フフッ、とっても綺麗ですよ、キャロル!」

 

「全く、次から次へと性懲りも無く…」

 

次に入ってきたのはドレス姿のキャロルと犬耳執事のエルフナインだ。半ばから折れ曲がったボタンイヤーである。

 

「サブマスター!私達もお着替え完了しました!」

 

「皆でワンコのお耳なんだゾ!」

 

「ウフフ、サブマスターや剣ちゃんとお揃いです」

 

そしてキャロル達の後ろからゾロゾロと入ってきたオートスコアラー達も全員犬耳を装着していた。服装も全員お揃いの執事服で…?

 

「フム…」

 

いや、レイアだけは何故かロングスカートのメイド服を着用していた。普段のキッチリしたズボン姿とは大きく印象が異なり、レイアもスカートの裾を持ち上げたりしながら自身の纏う衣服を物珍しそうに観察していた。

 

ナナシと約束したのはクリスとマリアだけだったはずなのに、何故こんなにも大所帯なのかは大体察してもらえると思うが、全てナナシの手回しである。

 

『約束通り犬耳執事の俺が一日お前ら二人に奉仕しても良いんだけど…間が持つか?俺みたいなモブ顔がそんな格好しても出オチにしかならないだろ?許可貰えれば人数集めるから仮装パーティーみたいにしないか?』

 

そのように提案され、クリスとマリアは犬耳執事姿のナナシが一日中自分達に付き従う光景を思い浮かべて…確かに、少々間が持たない気がしたため、僅かに頬を朱に染めながらナナシの案を採用したのだ。

 

最後に入室したレイア達がパタリと扉を閉めたタイミングで、クリスがこれまで飲み込んでいた感情を吐き出すようにナナシに言葉をかけた。

 

「ご都合主義、あたしは前からお前の事を大バカ野郎だと思っていたが…バカのスケールがデカ過ぎんだろ!?たかが口約束のためにこんな洋館まで用意してんじゃねえよ!!?」

 

初手で驚き過ぎて入れ損なったツッコミをクリスが叫び、隣のマリアがコクコク頷いて賛同していた。

 

「クリスお嬢様、それは誤解でございます。確かにここが『洋館』になったのはクリスお嬢様との約束が切っ掛けですが、元々この土地を活用するために何らかの建造物を建てる予定だったのです」

 

「え?それってどういう…?」

 

マリアの疑問に対してナナシは言葉で答えず、“収納”からリモコンを取り出してピッとボタンを押した。

 

ゴゴゴゴゴッ!

 

すると部屋の天井の一角がスライドするように開き始め、クリス達の頭上に青天の空が広がった。そのギミックにクリス達が驚いていると、開いた屋根の端からピコリと巨大な犬耳が見えたためにクリス達が目を疑った。全員が謎の巨大犬耳に注目していると、徐々にその犬耳の持ち主が恐る恐るといった様子で室内を覗き込んできた。

 

「あっ!レナちゃん!!」

 

顔を覗かせたのはレイアの妹、ナナシから『レナ』と名付けられた大型人形である。頭にはその大きな体に合わせて作られた犬耳と、よくよく見ると普段の格好とは異なるヒラヒラとした…今のレイアと同じメイド服を着ていた。

 

「レナ、服の具合はどうだ?」

 

(だいじょうぶです、さぶますたー)

 

「派手に可愛らしいぞ!レナ!!」

 

(おねえちゃんかわいい!!)

 

人形姉妹が互いの姿を褒め合う光景に、つい全員が頬を緩ませてしまった。

 

「ここはレナが地上で気軽にキャロルお嬢様方と交流出来る場として用意した土地です。工事中を装ってフェンスで囲ってしまえばこうしてレナも地上に出る事が可能となります。この土地の広さの建築なら長期間になっても違和感がありませんからね。この洋館はカモフラージュとして私とレナが数日で完成させました」

 

(つみきみたいでたのしかった)

 

レナが無邪気な喜びを“念話”で伝えてくる。レイアだけメイド服だったのは、姉と可愛い服のお揃いになる事をレナが希望したからだ。

 

「本日は私とオートスコアラー達、そして私の独断で犬っぽいと感じた方々にきょうはk…ゴホン、協力して頂き、ゲストの方々をおもてなしさせてもらいます」

 

「犬っぽいって…」

 

「判断基準は頭を撫でた際に尻尾を振る幻影が見えるかどうかです」

 

『あ〜…』

 

「皆それで納得するのか!?わ、私が尻尾を振るなど!!?」

 

「よ〜しよしよし、翼は可愛いな〜」

 

「奏!?ちょっ、やめ…」

 

奏が荒ぶる翼を抱き締めて頭をガシガシ撫で回す。顔を赤くして狼狽える翼に、頭の犬耳との相乗効果もあってブンブン振られる尻尾を全員余裕で幻視出来た。

 

「サブマスター!僭越ながら、マスターも嫌そうな顔をしつつ尻尾を振ると思われます!」

 

「ガリィ、キャロルお嬢様に仮装して貰いたいのは分かりますが諦めなさい。キャロルお嬢様は頭を撫でればそっぽを向きつつ喉を鳴らします。クリスお嬢様と同じで完全に猫です」

 

『あ〜…』

 

「「誰が猫だ!!?」」

 

怒るクリスとキャロルに、全員がフシャーと尻尾と毛を逆立てるイメージをしてしまい笑いそうになった。そんな風に全員が和んでいると…

 

バンッ!!

 

「遅れてメンゴ!マジメンゴ!!」

 

突然部屋の扉が勢い良く開き、頭に犬耳を装着した…ミニスカメイド服姿のカリオストロが飛び込んで来た。

 

「あれ!?カリオストロさんも来てたんですか!!?」

 

「ええ、あーたらよりも一時間くらい前にね?当然、あーしだけじゃなく…」

 

「サンジェルマン、腹を括るワケダ」

 

「わ、分かった!分かったからスカートの裾を引っ張るのはやめて!!」

 

扉の向こうの廊下から、そのような話し声が聞こえたかと思うと、犬耳ミニスカメイド服のプレラーティが現れた。二人がその格好と言う事は、つまり…

 

「うぅ…」

 

…プレラーティに引っ張られるようにして現れたのは、顔を真っ赤に染めた犬耳ミニスカメイド姿のサンジェルマンだった。

 

「くっ、このような辱めを受けるとは…!」

 

「心外ですね?私は『また遊びに誘え』という命令を忠実に守っただけです。今回の催しは広義で見ればあなた方が原因と言う事でゲストをもてなす側として参加、奇抜な格好をする事も了承を得たはずです。何より従者用の服は執事服、ロングスカートのメイド服など各種選べるようにしていたはずですが、何故ネタ枠で用意したミニスカメイド服を?」

 

白々しく聞こえるかもしれないが、今回ナナシは言葉通りの事しかしていない。寧ろサンジェルマンがその格好をした事を意外に思っていた。

 

「分かっている。私も貴様に謀られたとは思っていない。謀ったのは…」

 

「いや〜ん、マジメンゴ!可愛いおべべについテンション上がっちゃって〜♪メイドとしてお部屋のお掃除しようとしたら失敗して色々水浸しにしちゃった♪テヘペロ♪」

 

「全くとんだ駄メイドなワケダ。私が咄嗟にクローゼットを一つ死守出来なければ、全員ずぶ濡れで給仕をしなければならなかったワケダ」

 

よく見るとサンジェルマン達の髪が少し湿っている。どうやら二人がサンジェルマンのミニスカメイド姿を見るために体を張ったらしい。

 

「ガリィ、今日一日水を生成する事を禁止する。紅茶にも近づくな」

 

「チィッ!!」

 

カリオストロ達の話を聞いてキャロルの背後に近づいていたガリィが舌打ちしながら手に生成していた水を霧散させる。もう片方の手には雑巾が握られている事から、掃除を装いキャロルをずぶ濡れにして着替えさせるつもりだったらしい。

 

キャロルはサンジェルマンに対して哀れむような、共感するような…以前マリア達がキャロルに向けた仲間を見つけたような目でサンジェルマンを見た。サンジェルマンは自分と似た境遇の者がいる事に安堵しつつも全然嬉しく思えなかった。

 

「あ〜…新築のお部屋をビショビショにしちゃったのは本気で謝るわ。ある程度は後始末したけど、濡れた衣装や家具なんかはあーしのお給料から天引きって事で…」

 

「この国でメイドのドジに目くじらを立てるような無粋な真似はしません。それに、この建物は要所要所の強度を確保しつつそこまで複雑な構造にしていないので、基礎だけ残して“収納”が可能です。出し入れするだけで余分な水分や汚れを分離して新築同然に戻せるのでご安心を」

 

「サラリととんでもない事言ったわね!?」

 

「ほう?つまり基礎さえ共通にしてしまえば別の建物を置く事も可能、構造を工夫すれば部屋の配置も簡単に入れ替えられるワケダ。ククク、これは面白い…!」

 

「そ、その力を使えば濡れた服もすぐ元通りに出来るのでは!?」

 

「既にゲストを待たせているので却下。安心してください、お世辞抜きでとても可愛らしいですから」

 

「なっ!!?」

 

驚くカリオストロ、ナナシの能力の活用方法に瞳を光らせるプレラーティ、褒められて顔を真っ赤にするサンジェルマン、短期間にこの三人も随分S.O.N.G.の空気に馴染んだようだ。

 

「それでは、本日の催しを始めましょう!」

 

「と言われても、どうすれば…?」

 

「そう堅苦しくならず、何となく令嬢と従者っぽい振る舞いで楽しめばよろしいかと。とりあえずはお嬢様方が我々に笑って受け入れられる程度の命令をされてはいかがでしょうか?」

 

「えっと、それじゃあ切ちゃ…じゃない、執事さん。何かお菓子を持ってきて」

 

「お任せデース!」

 

「それでは切歌、こちらを調お嬢様に。あと、言葉遣いに気を付けて」

 

「は、はいデス!えっと、お待たせ、致しました、調…お嬢様?」

 

「クスッ、ありがとう。それじゃあ、一緒に座って食べよう?」

 

「わーい!…はっ!?」

 

「フフッ、調お嬢様、そこはですね…」

 

「あ、そうか…ゴホン、席に着く事を許します。私が退屈しないよう楽しませなさい」

 

「およよ、調が本当のお嬢様みたいデス!?え、えっと、畏まりました、調お嬢様!」

 

切歌がスコーンの乗ったトレイを運んで調の隣に座る。お互いの言葉遣いが可笑しくて、二人はつい笑ってしまった。

 

「あははは、確かにこれは面白そうだ!それじゃああたしは…翼、お座り」

 

奏がテーブルから離れて壁際にあったソファーに移動すると、自分の隣を指差しながらそう翼に命令した。

 

「奏…もう…」

 

ノリノリの奏に翼が呆れながら言う通り隣に座ると、奏は翼の肩を引っ張って翼の頭を自分の膝に乗せた。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

「最近しっかりしてきたから、甘やかす回数が少なくなった気がしてたんだ。それでこの前一人で泣かせちゃったから、お詫びにとことん甘やかしておこうかと。ウリウリ〜♪」

 

「うぅ~…」

 

奏が膝の上の翼の頭を優しく撫でる。翼は顔を真っ赤にして唸っているが、抵抗するつもりは無いようだ。

 

「ゴクリ…ひ、響!クッキーを持ってきて、ここに座って!!」

 

「任せて、未来!…じゃなくて、お任せください、未来お嬢様!」

 

奏と翼のやり取りを見た未来が何処か緊張した様子で響に命令を下すと、響は笑顔でナナシから受け取ったクッキーのトレイを手に未来の隣の席へと座った。

 

「えへへ、変わったお茶会だけど楽しいね!わ〜クッキー美味しそう!いっただっきま〜…」

 

「響、待て!」

 

「ふぇっ!?」

 

クッキーに手を伸ばそうとする響に、未来が手を翳して停止を指示した。

 

「み、未来!?どうして!!?」

 

「先日私を嬉々として着せ替え人形にしたのは誰だったカナ〜?」

 

「えええ!?あ、あれは未来がとっても可愛かったからで!!?」

 

お預けを食らった響の目の前で、未来がクッキーを一枚持ち上げる。響は未来が左右に揺らすクッキーを物欲しそうな視線を向けてシュンとしていた。

 

「うぅ…」

 

「フフッ、しょうがないな〜♪」

 

「み、未来!」

 

「はい、あ〜ん♪」

 

「あ〜ん!」

 

未来の差し出すクッキーを響が口で受け取る。ご褒美を貰って至福の顔をする響は完全に餌付けされる犬そのものだ。そんな響の頭を撫でながら、未来はゾクゾクと体を駆け巡る感覚にちょっと普段とは異なる怪しい笑みを浮かべていた。

 

「あ、あの子達、大分攻めた事をするわね?」

 

「そ、そういう事は家でやれよな!?」

 

マリアとクリスは周囲のやり取りに顔を赤くしつつ、チラリとナナシへ視線を向ける。今回の催しは自分達が勝ち取った権利であり、ナナシに反撃出来る貴重なチャンスだ。奏や未来のような事を命令する勇気は無い…いや、命令したい訳では無いが、何か報復出来そうな命令は無いかと二人が思考を巡らせていると…

 

「フム…おい、アンノウン。ちょっとこっちへ来い」

 

…クリス達よりも先に、何やら邪悪な笑みを浮かべたキャロルがナナシを呼びつけた。何か思いついたらしいキャロルの様子を、とりあえずクリス達は観察する事にした。

 

「キャロルお嬢様、いかがなさいましたか?」

 

ナナシがキャロルの傍に近づき、その前に跪く。するとキャロルは、椅子にふんぞり返りながらナナシの前に右足の靴を突き出して…

 

「舐めろ」

 

『ブッ!!?』

 

…予想の斜め上を行くキャロルの命令に、何人かが吹き出してしまった。

 

「何つー命令出してんだてめえ!!?」

 

「ハン、従者を気取るこの男の覚悟を試しているだけだ。何の問題もあるまい?」

 

「それでは失礼します」

 

『っ!!?』

 

キャロルの命令に躊躇なく応えようと動き出したナナシは、キャロルの差し出した右足を両手で支えるように掴むと…その靴を“収納”してキャロルの素足を露わにした。

 

「ん?」

 

そしてナナシの口が本物の犬のように長く伸びたかと思うとカパリと開いて、無数の舌が蠢く口内へとキャロルの右足が吸い込まれて…

 

「ぎゃあああああやめろぉおおおお!!?!?」

 

…身の危険を感じたキャロルが左足でナナシの顎を蹴り上げて全力で抗い始めた。

 

「き、貴様!?一体何をしているのだ!!?」

 

(おや?キャロルお嬢様、いかがなさいました?私はお嬢様の命令に従い、おみ足を隅々まで舐めようとしているだけですが?)

 

「オレは靴を差し出したのだ!!誰が足を舐めろと言った!?そもそも貴様、他人の足を口に含む事に躊躇いは無いのか!!?」

 

(これまで幾度もSAKIMORIの失敗作料理を試食してきた私に今更そのような躊躇いがあるとでも?)

 

「私の料理は足裏以下なのか!!?」

 

(とりあえず足を舐めろという命令では無かったのですね?靴を差し出したと言いますが、果たしてそれはどのような意味か…よく分からないので、全身満遍なく舐めさせて頂きますね♪)

 

ウゾウゾウゾウゾッ!!

 

「ぎゃああああ!て、撤回!!命令撤回だ!!!オレに近づくなぁああああ!!!!」

 

ナナシの口から伸びて迫る無数の舌にキャロルが鳥肌を立てながら近くにいたガリィに縋り付いた。ガリィはキャロルをあやすように頭を撫でつつ、キャロルに見えないようナナシに親指をグッと立てた。

 

「へ、下手な真似はやめておこう!」

 

「ええ、普通にお茶会を楽しみましょう!エルフナイン、給仕を頼めるかしら!」

 

「は、はい!」

 

ナナシに命令しようものなら、何処までも都合良く曲解されかねない。触らぬ神に祟り無しと方針を切り替え、クリス達はエルフナインに給仕をしてもらいながらその頭をモフモフ撫でて心を落ち着かせた。

 

しかし二人の考えは甘いと言わざるを得ない。ナナシの用意した洋館にノコノコ入った時点で、そこにいる全員は既に“紛い物”の腹の中に収まっているのだ。

 

(さぶますたー、おきゃくさまきた)

 

「ああ、いらっしゃいましたか。それではファラ、案内をお願いします」

 

「承りましたわ」

 

ナナシの言葉に応えて、ファラがレナの手に乗せてもらって天井の隙間から館の外に出ていった。

 

「客って…あたしらの他にも誰か呼んだのか?」

 

「ええ、しかしお嬢様方と全く関わりの無い者を招いてはいませんのでご安心ください」

 

ナナシがそう説明している間に、ファラの案内によって部屋に入ってきたのは…

 

「やっほ~!皆楽しんでる~?」

 

「相変わらず、ナナシ君は突拍子もない事を考えるものだ…」

 

「たった数日でこのような物を建ててしまうとは…」

 

…ハイテンションな了子と、呆れ顔の弦十郎、そして弦十郎に車椅子を押してもらうナスターシャ教授だった。

 

「何だ、おっさん達かよ…」

 

少々警戒していたクリスが、馴染みの顔にホッと息を吐いて安堵した。

 

「あ~らクリス、綺麗に着飾ってもらって良いわねぇ?まるで殿方の注目を集めるために精一杯背伸びするお子様みたい♪」

 

「何だと了子てめえ!!?」

 

ニヤニヤ笑いながらからかってくる了子に、クリスは顔を赤くして怒鳴ってしまった。

 

「マムも来れたんだね!」

 

「精一杯おもてなしするデス!」

 

「切歌!執事(バトラー)を務めるならもっと背筋を伸ばして言葉遣いに気を配りなさい!マリアと調も令嬢がそのような振る舞いでは殿方に呆れられてしまいますよ!!」

 

「「「イ、イエス、マム!!」」」

 

ナスターシャ教授の厳しい指摘に、マリア達は反射的にビシッと敬礼してしまった。

 

「僭越ながらナスターシャお嬢様、ここは素直になるのがよろしいかと。そのような照れ隠しを続けていては想いのすれ違いが生まれてしまいます」

 

「む、むぅ…ゴホン、マリア、調、切歌…三人共、とても可愛らしいですよ…」

 

ナナシの一声で態度を軟化させたナスターシャ教授が、ぎこちない動きで調と切歌の頭を撫でる。照れながらも素直な態度を示したナスターシャ教授の様子に、マリア達も緊張を解いてフッと笑ってしまった。

 

「か、奏!?叔父様達の前だから、もうそろそろ…」

 

「え~?別にダンナ達は気にしないって!だよな、ダンナ?」

 

「あ、ああ、確かに俺達は気にしないが、もう少しで俺達と一緒に来た緒川が…」

 

「緒川さん?それこそ翼の恥ずかしいところを見られるのなんて今更だろ?」

 

「言い方!!」

 

「皆さん、楽しそうで何よりですね?」

 

奏に膝枕される姿を見られて顔を赤くしている翼の前に、弦十郎達に少し遅れて部屋に入ってきた緒川と…

 

「ああ、本当に…楽しそうで何よりだ」

 

…風鳴八紘が姿を現した。

 

「お!?おおおお父様!!?ななな何故ここに!!?!?」

 

「ナナシ君から誘いを受けた。娘とその友の集まりに私が顔を出すのはどうかと思ったのだが…ウム…来て良かった」

 

これまで見た事の無い娘の姿に、八紘はとても優しい笑みを浮かべていた。翼はプルプル震えながら両手で顔を覆い隠してしまい、奏はそんな翼を起き上がれないように押さえつつニヤニヤ笑いながら頭を撫でた。

 

「へえ?あの渋いおじ様が青信号ちゃんのパパさんなの?」

 

「Exactly!!内閣情報官、風鳴八紘様です。あなた方のS.O.N.G.編入にも協力してくれた方なので、後ほど時間を頂いて挨拶に伺いますよ」

 

「この格好でか!?せ、せめて普段の格好に着替えさせて…」

 

「「「だが断る!!」」」

 

「毒され過ぎだろう二人共ぉおおお!!!」

 

国の重鎮に犬耳ミニスカメイド服で挨拶せねばならないと悟り、サンジェルマンは頭を抱えてしまった。

 

(さぶますたー、またおきゃくさま)

 

「それじゃあ今度はミカ、お出迎えをお願いします」

 

「分かったゾ!」

 

再びの来客の知らせに、今度はミカがレナの手に乗って外へと出ていった。

 

「まだ誰か呼んでるのかよ!!?」

 

「あと三人ほどいらっしゃる予定です」

 

「三人…ひょっとして、弓美ちゃん達かな?」

 

響がそのような予想をする中、ミカの案内で部屋に入ってきたのは…

 

「あっ!?響!!良かった、この場所で間違い無かったんだな!!」

 

「お父さん!!?」

 

…響の父親、立花洸だった。

 

「今度は黄色信号ちゃんのパパさん?へえ、こっちも中々男前じゃない♡」

 

そうカリオストロが評価する洸は、服装こそラフであるものの、以前のボサボサの髪と無精髭ではなくキッチリと身だしなみが整えられていた。

 

「あの男も何らかの権力者なワケダ?」

 

「無職のプー太郎です」

 

「落差凄いわね!!?」

 

「お父さん、どうしてここに!!?」

 

「い、いや、ナナシ君から『どうせまた碌に食べてないだろうから御馳走してやる』って連絡があって、言われた通りに来たらフェンスで覆われてるし、何か大きいメイドロボから飛び降りてきた犬耳の子に有無を言わさず手を引かれるしでどうしようかと…と、ともかく、響がいてくれて良かった!」

 

「お父さん…」

 

食べ物にノコノコ釣られてここに来た洸に、響は顔を赤くして俯いてしまった。

 

(さぶますたー、さいごのおきゃくさま)

 

「レイア、よろしくお願いします!」

 

「承った!」

 

立て続けに訪れた最後の客を迎えるため、レイアが妹の手に乗り外へと出ていった。

 

「最後の客と言う事は、二人組なのだな?一体誰が…」

 

「流れ的に、赤信号ちゃんのご両親なんじゃないの?」

 

「あたしのパパとママは…」

 

「あっ…マジメンゴ!!」

 

「別に構わねえよ」

 

そう言って何かを誤魔化すように、クリスはティーカップに注がれた紅茶に口を付けて…

 

「クリス!来たわよ!!」

 

「ねえクリス!外にいたでっかいロボットは何!?後で乗せてもらえないかな!!?」

 

「ブッフ!!?!?」

 

…聞こえてきた声に思わずクリスは紅茶を噴き出してしまった。レイアの案内で部屋に入ってきたのは、この集まりの切っ掛けとも言えるソーニャとステファン…先日バルベルデに帰国したはずのヴィレーナ姉弟だった。

 

「ご都合主義、てめえ…!」

 

「おや、ご不満でしたか?先日はあまりお話する時間が無かったため、クリスお嬢様に喜んで頂こうとお誘いしたのですが…」

 

「不満は…ねえけど…もうちょっとこう、余韻というか…そ、そもそもソーニャ姉ちゃん、向こうでの活動は大丈夫なのか!?」

 

「ナナシが人材を紹介してくれたお陰で問題無いわ!決して良い環境とは言えないはずなのに、全員が生き生きした笑顔で協力してくれて、本当に助かっているの」

 

「それはそれは!誰かの役に立ちたい、必要とされたいと死ぬ程(・・・)悩んでいた方々なので、ソーニャお嬢様達と良好な関係を築けたのなら良かったです!」

 

「ええ!ただ…偶に妙な仮面を被って集まっているのは何かの風習かしら?別にコソコソしている訳でもないし、問題はないのだけれど…」

 

「…まあ、局地的に流行しているファッションとでも思っていただければ。もし周りに進めるような動きをした場合はご連絡ください。ちょっとOHANASHIしますので」

 

「それにしても、ナナシって本当にお金持ちなんだね?こんな立派な屋敷を持っていて、使用人も沢山…あー!!?」

 

キョロキョロと物珍しそうに部屋の中を眺めていたステファンだったが…使用人の中に混じっていたカリオストロを見て大声を出してしまった。

 

「あ、あの人って、前に俺達を襲おうとした人だよね!?何でこんなところに!!?」

 

「あ、あははは…」

 

「そう言えばそこの女の子も以前、俺と響を襲った子なんじゃあ…」

 

洸もまた、自分にアルカノイズを嗾けたキャロルの存在に気が付いた。室内の空気に不穏な雰囲気が漂い出したところで、ナナシがパンパンと手を叩いて全員の注目を集めた。

 

 

 

「皆様それぞれ馴染みのある方や初対面の方がいるようですし…ここは一度、自己紹介をすると致しましょう!」

 

 

 




×ドキドキ仮装パーティー
〇ハラハラ保護者参観

サラッと主人公がヤベェ事になっていますが詳細はXV編までお待ちください。

各キャラクターの格好
・犬耳執事
 ナナシ
 翼
 響
 切歌
 エルフナイン
 ガリィ
 ファラ
 ミカ

・犬耳ロングメイド
 レイア
 レナ

・犬耳ミニスカメイド
 サンジェルマン
 プレラーティ
 カリオストロ

・ドレス
 奏
 未来
 クリス
 マリア
 調
 キャロル

・普段着
 弦十郎
 緒川
 了子
 ナスターシャ
 八紘
 洸
 ソーニャ
 ステファン

キャラ出し過ぎてどうしても一部空気になってしまいそうw
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