戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
ナナシが招いた者達…特にS.O.N.G.との繋がりが薄い立花洸とヴィレーナ姉弟に事情を説明するため、とりあえず全員席に座ってもらい、ナナシと犬耳従者達によってカチャカチャとお茶やお菓子が準備されて…
カチャカチャカチャ…ドン!ジュ~…
…紅茶やクッキーなどの甘い匂い漂う中、突如ナナシが洸の前に置いた鉄板から分厚いステーキの焼ける香ばしい匂いが立ち込めていった。
「ちょっ!?何で俺だけ!!?」
「洸様には食事を振舞う約束でしたので」
「いやそうだけど!?」
「顔色があまりよろしくありません。まともな食生活を送れていないのだと思われます」
「そ、そんな事は!?俺だって一日三食しっかり食べて…」
「僭越ながら、寝起きが遅いからカロリーバーを齧り、作るのが手間だからついカップ麺に手が伸び、酒とツマミで腹が膨れたから良しとする食事が一食でも含まれる一日三食は決して『しっかり』とは表現出来ませんが、そこはご理解されていますでしょうか?」
「うっ!!?」
「どうぞ、お召し上がりください」
「はい…」
有無を言わせぬナナシの圧によってナイフとフォークを手に取る洸の前に、ご飯とサラダの皿を追加したところでナナシは全員に話しかけていった。
「それではこれより、私がこの場にお集まりの皆様の『現在の』立場をザックリ紹介させていただきます。色々疑問を感じるでしょうが、質問は全員の紹介が終わった後でお願いいたします」
ナナシの言葉に食事をする洸と赤面する響以外の全員が同意を示すように頷いたのを確認すると、ナナシは“念話”で一部の者達に立ち上がるよう指示を出した。
「まず紹介させていただくのは、我々S.O.N.G.を代表する歌姫、風鳴翼、立花響、雪音クリス、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、暁切歌、月読調の六名。特異災害ノイズへの唯一の対抗手段であった『シンフォギア』を身に纏い、現在は世界各国の超常現象による災害の抑止に尽力していただいています。そしてこちらの天羽奏、小日向未来の二名は、この六名を支える親友兼民間人協力者です。聞き覚えのある名前も混ざっているとは思いますが…まあ、基本は見た目通りの可愛い女の子の集まりです」
「結論雑だな!?」
「可愛い女の子達が世界のために戦っていると分かれば細かい事は良いんですよ。どれだけ大層な肩書を持っていても、全員結局中身は割とポンコツな普通の女の子ですから」
「ポ、ポンコツって!?」
「先程の令嬢と従者ごっこの映像を流しましょうか?」
何名かがスッと視線を逸らした。ナナシの口車に乗せられたとは言え、かなりノリノリになってしまったので反論出来ない。大人しくなった歌姫達を座らせて、ナナシは次に弦十郎と緒川を立たせた。
「そしてこちらの二人が我らS.O.N.G.の最高責任者である風鳴弦十郎と、その右腕の緒川慎次です。歌姫達への万全なサポートを行いつつ、いつも安全圏から女子供が戦っている姿を眺めています」
「我々が至らぬばかりに、彼女達を危険な目に遭わせてしまい…!」
「大変申し訳ありません!!」
「お~い、ボケにマジで答えないでくれ」
洸やソーニャ達に深々と頭を下げる二人に、ナナシが素の口調でツッコミを入れつつ、次に了子達を立ち上がらせた。
「そしてこちらの櫻井了子、ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ、キャロル・マールス・ディーンハイム、エルフナイン…そしてつい先日、新たに加わったサンジェルマン、プレラーティ、カリオストロの七名は、S.O.N.G.の研究者として日々歌姫や私の体を隅々まで調べ尽くそうとしています」
『言い方ぁ!!?』
「えっ!?研究者って、そこの俺より小さな女の子達も!!?」
ステファンがキャロルやエルフナインを指さして思わずそう叫んでしまった。
「私を含めてS.O.N.G.では見た目と実年齢の乖離が激しい方が多くて…例えばこちらのキャロルお嬢様は、新しく作り出した肉体に自身の記憶を転写しているので現在頭の中は数百歳ですけど肉体は生後数ヵ月程度です」
「ほ~らマスター、おしゃぶりですよ~♪」
「いらんわ馬鹿者!!」
「そして今キャロルお嬢様をからかっているガリィと残りの犬耳従者のファラ、レイア、ミカ、そして上でこちらを覗いている大きい子のレナはキャロルお嬢様がお作りになった自立稼働する人形でございます」
「えっ!?こっちの子達も人形なのかい!!?」
「レイア!」
「承知!!」
ピカーン!!
「「おおおお!!!」」
目から光を放つレイアが琴線に触れたのか、洸とステファンが感嘆の声を漏らした。
「続きまして、こちらが風鳴八紘様。風鳴弦十郎の兄君にして、風鳴翼の父君、ついでにこの国の内閣情報官でもあります。今それなりにお仕事が忙しいのですが、娘の可愛い姿を見るために死ぬ気で時間を作って来ました」
「ご息女にはお世話になっております。先日は我が国での騒動に巻き込んでしまい大変申し訳ありません」
そう言って八紘はナナシのボケをスルーしつつ洸とソーニャ達に深々と頭を下げた。動じぬ八紘の代わりに翼が顔を赤くしている。
「そしてこちらがソーニャ・ヴィレーナお嬢様と、その弟君であるステファン・ヴィレーナ様です。バルベルデ共和国のご出身で、過去にクリスお嬢様のご両親が慈善活動のためにバルベルデに訪れた際にその志に共感し、現在は故人であるお二人の遺志を継いで親を亡くした子供達を支援する活動をなさっています」
「バルベルデ…」
ソーニャ達の出身国を聞いたサンジェルマンが、ヒッソリと表情を曇らせた。
「そして最後に、そちらで食事をなさっているのが立花洸様です。立花響の父君ではありますが、現在奥方とは別居中。私の保有する住居の管理を名目に無賃で住み込みながら職探しをする無職です」
「いや否定出来ないけど!?俺の紹介だけ悪意満載じゃないか!!?何でこんな凄い人達の集まりでよりによって俺の紹介を最後に回すんだ君は!!?」
「それでは皆様の紹介が一通り終わったところで、質問等はございますでしょうか?」
「ハイハイハイ!兄弟子、お父さんが兄弟子の家に住んでいるって本当ですか!?」
洸の嘆きを華麗にスルーしつつナナシが質問を受け付けると、響が凄まじい勢いで手を上げ質問を投げかけた。LiNKER作成の際に交流があったのは知っていたが、先程から洸に対するナナシの対応が気安過ぎる。これはもしや自分の想像以上に父親が兄弟子の世話になっているのではと響は気が気でなかった。
「本当ですよ?洸様は現在私の電気・ガス・水道等のライフラインや家具家電完備の住居で生活しつつ職探しを進めています。生活能力はあまり高くないようなので大体週一くらいのペースで様子見するついでに私が溜まったゴミや洗濯物の清掃をしたり料理の作り置きをしていますね」
「至れり尽くせり!!?」
世話になるどころかほぼ養われているレベルである。何故ナナシが洸にそこまで気を配っているのかと言うと…
「実はですね…洸様は私の支援を受けつつ真面目に就職活動を行った結果、幾つかの企業で内定をもらう事に成功したのですが…」
「えっ!?お父さん、仕事決まったの!!?わたし何にも聞いてないよ!!?」
驚く響が洸にそう問いかけるが、洸はスッと響から目を逸らしてしまった。
「最初の内定を貰った時、洸様は嬉しそうに『これからバリバリ働いて借りた金は熨斗付けて返してやる!』と私に息巻いていらしたので、ちょっと株主にでもなってマウントを取ろうと思い、その会社の事を調べてみたら…緊急時のS.O.N.G.が真っ白に思える程のブラック企業でしたので、私が潰しました」
「えええ…」
「その時はそれをネタに洸様を散々からかったり、次に内定を貰った会社も同じようなブラック企業と分かった際には苦笑しつつ慰めたりしたのですが…三度も同じ事が起こった時には流石に笑えなくなり、洸様の心理的な負担を減らす配慮として、支援の見返りに住居の管理をしていただく事になりました」
「お父さん…呪われてるの?」
「あはは…ひょっとすると、これが天罰ってやつなのかもな…」
そう言って洸は乾いた笑みを浮かべて黄昏れていた。
「あの、兄弟子…わたしのお給料を使ってもらって構わないので、どうかお父さんを見捨てないでください。このままだとお父さん、変な会社に入ってしまいそう…」
「やめてくれ響!?娘にそんな事されたらお父さん心が折れちゃう!!?」
「響、安心してください。洸様の件について私は損をしていません。寧ろ支援した分を大きく上回る利益が発生しています」
「「えっ?」」
「企業を潰しても勤めていた人間は残ります。劣悪な環境でも真面目に働こうとする人材は中々に貴重で、私が投資する企業で人材不足に悩む所を紹介した結果、一般的な労働環境を与えるだけで皆様やたら感謝して業務に励むため企業の利益が上がりましたし、何なら数名はS.O.N.G.で確保しました。ほぼ不眠不休で数日作業出来るとか普通にエージェント適正があります。いっそ洸様にはこのまま就職活動を職にしていただきたいくらいですね!」
「就職活動をする仕事って何だ!!?」
「そうですね…人材派遣会社を新設するので、洸様にはそちらの代表になっていただくのはどうでしょう?洸様は自分が就職する仮定で企業の求人応募に評価を出していただき、その結果を元に私が企業を調査、処置して社員達が頃合いを見て人材を引き抜き適正を見て派遣先を紹介する。他人を食い物にする害虫を排して多くの人を幸せに出来る素晴らしいお仕事です!」
「い、嫌だ!そんな訳の分からない仕事!!俺は次の会社で今度こそ正社員になるんだ!!」
「ああ、求人応募に大きく丸を付けていた会社ですね?真っ黒だったのでもう処置しました。その調子で今後もよろしくお願いします!社長!!」
「社長って呼ぶなぁあああ!!!」
頭を抱えて蹲る洸を、とても楽しそうに煽るナナシ。どうやら洸はナナシにそれなりに気に入られてしまったようだ。
漫才のようなやり取りを続けるナナシに周囲は笑っていたのだが…スッと伸びた手に全員が注目すると、ソーニャが険しい表情でナナシを見ていた。
「質問しても良いかしら?」
「はい、何なりとお聞きください」
「…そこの女性は、以前私達を襲ったのと同一人物で間違いないのよね?」
「はい、間違いございません」
「彼女はノイズを使役していた。つまり、バルベルデに…私達の国にノイズを持ち込んだ組織の関係者って事よね?」
「関係者どころか、モロに首謀者ですね。こちらのサンジェルマン、プレラーティ、カリオストロの三名は、彼女達の計画の要となる代物を探し出すために錬金術によって作り出したノイズ、アルカノイズをバルベルデに持ち込みバルベルデ国内に混乱を起こすよう暗躍していました」
ソーニャが遂にナナシが逸らし続けていた話の核心について問いかけていく。それに対してナナシはニコニコと何一つ気負う様子も無く真実を口にしていった。
「その人達の行いによって、多くの犠牲が出た。そんな人達を組織に迎える事を、あなたは何とも思わないの?」
「当然思いますよ?何せ年に一回くらいのペースで滅びかけていますからねぇこの世界。滅びを回避するために力は幾らでも欲しいところです。国を一つ二つ傾けられる力を持つ彼女達はとても頼もしいと思っていますとも!」
険を帯びたソーニャの言葉に、それでもナナシは笑顔で答える。周囲はその成り行きを見守る事しか出来なかった。
「…ハァ、あなたの考えは理解したわ。国の上層部もノイズを…そのアルカノイズを軍事利用する事に積極的だったみたいだし、バルベルデの騒乱を全て彼女達の罪だと責める事も出来ない」
ナナシの笑みが崩れないのを見て、ソーニャは溜息を吐きながらサンジェルマン達がS.O.N.G.に所属する現実を受け入れた。
「でもね、線引きは必要だと思わない?」
「線引き?」
「あなたは彼女達を組織の一員として平等に扱おうとしているようだけど、今回の騒動に巻き込まれた全員が合理的に割り切れる訳では無い。彼女達の存在が明るみになれば、非難の声が上がる事は間違いない。そして、声を上げるだけでは済ませられない人達も必ず現れる。その人達の怒りの矛先が、彼女達にのみ向けられるとは限らないのよ?」
「いざという時、彼女達を匿う我々…いえ、ソーニャお嬢様の大切なクリスお嬢様に被害が出ないよう、日陰者には相応の扱いをしろ、と言う事でしょうか?」
「敢えて言葉を飾らないなら、そう言う事になるわね」
ソーニャの懸念は至極真っ当ではある。寧ろサンジェルマン達の存在を黙認しようとするだけ穏便であると言っても良い。サンジェルマンはソーニャの言葉に反論する様子は無く、そんなサンジェルマンの意志を尊重するようにプレラーティも不機嫌そうな顔で無言を貫く。そしてカリオストロも口を閉ざしつつ…お手並み拝見といった様子でナナシの事をジッと見つめていた。
「フム…貴重なご意見誠にありがとうございます!そちらを検討するにあたって、こちらからも幾つか質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「…どうぞ」
「ありがとうございます!まずお聞きしたいのは、彼女達が行動を起こした『動機』についてですね」
そう言ってナナシは、ソーニャの前で“投影”を使用して過去の映像を流し始めた。
『
『貴様らに…一体何が理解出来ると言うのだ?言われなき理由に、踏み躙られた事の無い者などに…強者の一時の享楽のために生涯を捧げられた者達の無念が…世界の至る所で今なお搾取される者達の嘆きが…生まれた瞬間から支配される運命を定められた未来の無垢なる者の絶望が…』
それは以前、ナナシに追い詰められたサンジェルマンの零した嘆きだった。
「このように、彼女達が行動を起こしたのは虐げられる者達を救おうとしたため…我々やソーニャお嬢様の活動と本質は同じ思想で動いていました。ただ、選んだ手段が違っただけ…それでもソーニャお嬢様は、彼女達の行いを非難なされるのですか?」
「…その理由で、皆が納得すると本当に思っているの?残された人達に、身近な人を失ったのは必要な犠牲だったから受け入れろとでも言うつもり?」
「なるほど、『動機』は考慮する価値無しと…では、こちらはどうでしょう?」
ソーニャの言葉を軽く流して、ナナシは新たな映像を映し出していった。
『教えてください統制局長!この力で本当に、人類は支配の軛より解き放たれるのですか!?』
『出来る、んじゃないかな?ただ…僕にはそうするつもりが無いのさ、最初からね』
『くっ…謀ったのか!?カリオストロを…プレラーティを…革命の礎になった全ての命を!!?』
それはサンジェルマンが、アダムに真実を告げられた場面であった。
「彼女達は騙されていたのです!組織の長であったこの男は、人類の未来を救おうとする彼女達の善良な心に漬け込み、欺き、利用した!!強大な力を持つこの男を、彼女達と我々は協力する事で見事打ち破った!全ての元凶はこの男にある!!」
「それで誤魔化せるとでも思っているの!?情状酌量の余地があるのは理解したわよ!だとしても!!それで全てを無かったかのように彼女達と接する事が正しいのかと聞いているのよ!!!」
おどけた口調でサンジェルマン達を弁護するナナシに、ソーニャは鋭い刃物のような言葉を放った。
「なるほどなるほど、ソーニャお嬢様の主張は理解しました。罪人に日の当たる場所は相応しくない。とどのつまりは…」
それに対して、ナナシは…
『さあ!早く追わないと、何処かで誰かが炭になっちまうぜ!』
「クリスお嬢様もこの場には相応しくない、と言う事ですね?」
…劇毒を塗布した錆び付いた刃を抉りこむような言葉で返してみせた。
「なっ…えっ…?」
白い刺々しい鎧を身に纏ったクリスがノイズを操り、人を襲わせようとする映像を目にしてソーニャは言葉を失ってしまった。
「例え世界の裏側に位置する程の隔たりがあろうと、月の一部が欠ける事件は誰もが知る事かと思われます。それを成した首謀者こそが、そこにいる櫻井了子様です」
「「「っ!!?」」」
ナナシの言葉に、洸とソーニャ達が目を見開く。了子は目を伏せたまま沈黙を貫き、ナナシの言葉を否定する様子は無い。
「バルベルデで両親を失い、現地の武装組織の捕虜とされたクリスお嬢様は六年の時を経て国軍に救助され帰国なさいましたが…その直後、そこの櫻井了子様の手によって拉致されました。そして…クリスお嬢様は自らの意志で了子様に協力して、ノイズを自在に操る聖遺物を使って我々を襲撃してきました。周囲に甚大な被害を出しながら…」
『こんな奴がいなくたって、戦争の火種くらいあたし一人で消してやる!そうすれば、あんたの言うように、人は呪いから解放されてバラバラになった世界は元に戻るんだろ!?』
ナナシが新たに映し出した映像によって、クリスが自らの意志で動いていた事を証明する。その映像の傍らには、なぎ倒された木々やグッタリと倒れる響の姿も映し出されていた。
「了子様の言葉は全てが嘘とは言いませんが、クリスお嬢様の願いに沿うものでは無いと分かっていながらクリスお嬢様を利用していました…ああ、この情報は重要ではありませんね?『動機』が何であろうと、騙されて利用されようと、罪は罪…ですものね?」
「ち、ちがっ!?私は、そういう意味で言ったんじゃ!!?」
「おやおや?先程と言っている事が違いますね?そこの三人とクリスお嬢様に一体どのような違いがあるのか、是非ともお聞かせ願えないでしょうか?」
ナナシはニコニコ笑顔でソーニャに問いかける。ソーニャはナナシから視線を逸らすように目を泳がせて…俯き、歯を食いしばって身を震わせるクリスを目撃してしまい、何も言う事が出来なくなってしまった。
「ソーニャお嬢様の懸念は正しいですよ?この場にいる半数以上は『相応しくない』に該当する者達です。この事実が外部に漏れれば、正義の名の下に我々を糾弾する声が上がるのは間違いありません。それでもリスクを冒してまで私が彼女達とこのように接する理由を申し上げるならば…俺がそうしたいからだ!」
突然ガラリと口調を変えたナナシが、レナの差し出した掌の上に腰かけ傲慢な態度で足を組む。頭に生えた犬耳が捻じれながら硬質化していき、二本の禍々しい角に変じたかと思うと、ナナシの背から蝙蝠を思わせる二対の巨大な翼がバサリと広がり、腰から竜を彷彿とする尾が生える。その装いと発する威圧感から、その場の全員が魔王の顕現を連想した。
「何故見ず知らずの有象無象に配慮する必要がある?数万人規模の死傷者が出る大災害を生き残っただけで難癖付けて自殺や家庭崩壊に追い込むのが人間という生き物だぞ?いちいち全員が納得する理由なんざ考えていられるか!こいつらは俺が楽しく遊ぶために集めた玩具だ!どう扱うかは俺が決める!文句があるならかかって来い!神の力を手にしたこの“紛い物”に歯向かう覚悟があるのならなぁ!!」
懇切丁寧に理屈を並べていたと思ったら、今度は力押しを全面に出して傲慢な態度でナナシはそう宣言してみせた。これには過去の痛みに顔を歪めていた者達も含めて全員ポカンとした表情を浮かべてしまった。
「罪に対する罰など、所詮は人の生み出した都合の良い戯言だ。そして戯言を扱う事に関して、俺は誰にも負けるつもりは無い。ソーニャ・ヴィレーナ、お前の正義を押し通してお前の妹分であるクリスを傷つけ俺を敵に回すか、俺の戯言に騙されてクリスの笑顔を守るのか…好きな方を選べ」
「…ハァ、降参よ、あなたの覚悟は理解した。これ以上私が言う事は無いわ。今のクリスの笑顔を信じて、私もあなたに騙される事にします」
大きく息を吐きながら、ソーニャは両手を上げて全面降伏した。これ以上自分が何を言っても、クリスを傷つけるだけだと察したからだ。
「ステファンはどうだ?自分達の国を滅茶苦茶にして自分を殺そうとした奴らがクリスの仲間になるのは嫌か?」
「お、俺には難しい事は良く分からないけど…ナナシが良いと思って選んだ事なら、それで良い!」
「ん?俺?ソーニャやクリスじゃなくて?」
「勿論それもあるけど、ナナシは皆の幸せのために必死になれる凄い人じゃん!ナナシが紹介してくれた人達も皆言ってたよ!自分達はナナシに命を救われたって!」
「そうデス!ナナシお兄ちゃんは凄いのデス!!」
「厳しいけどとても優しい、私達の自慢の先生です!」
「ぐああああああやめろぉおおおお!!?俺を、俺をそんな目で見るなぁああああ!!?!?」
ジュアアアアアアアアッ!!!
「「「わあああああああ!!?!?」」」
「えっ!?何アレ!!?大丈夫なの!!?!?」
「恐らく何らかの薬品を“収納”から出して皮膚に塗りたくっているだけであろう」
「無駄に体張るなバカ!!」
ステファン達に純粋な目で見つめられ、突然浄化されたように体中から白い煙を出しながらのたうち回るナナシに慌てる者、驚く者、呆れる者と全員が様々な反応を示して…つい先程まで部屋中に漂っていた緊迫した空気は一瞬で霧散してしまった。
そんな風に全員がナナシに注目していると、目を丸くして驚くソーニャにサンジェルマン達がゆっくりと近づいて行き…深々と頭を下げた。
「詫びて済む事では無いと、分かっている。それでも…あなたの住む国を乱した事、本当に申し訳ありませんでした」
「「申し訳ありませんでした」」
「…私個人が勝手に許す事は出来ないわ。私から言えるのは…これからクリスと彼らの事、精一杯手伝ってあげて」
「…はい」
ソーニャはサンジェルマン達を残して席を立ち、クリスと了子の傍へ近づいて行く。三人の表情はぎこちなかったが、それでも懸命に言葉を交えて…やがて三人は笑みを向け合った。
洸もキャロルとエルフナインの傍に近づき、ペコペコ謝るエルフナインに洸が慌ててやめるよう促した。キャロルは不機嫌そうな顔をしつつも二人の会話に時折口を挟み…洸が微笑みながら二人の頭を撫でて、顔を赤くするキャロルに手を弾かれたかと思うと、オートスコアラー達に追いかけ回されていった。
未だバラルの呪詛は健在で、人類は真に互いを理解し合う事は出来ない。それでも…
「だとしても、か…」
懸命に言葉を交わし、笑顔を向け合うその光景に、サンジェルマンもフッと笑みを浮かべてしまった。
(うわ~…あの男、上手く纏めちゃったわね?)
(元詐欺師としての見解を聞きたいワケダ。命を奪い合った相手同士、こうも簡単に意志を纏められるものなのか?あの男が何らかの力を行使した可能性は…)
(それだったら寧ろ安心するわ。そうじゃなさそうだからドン引きしてんのよ)
(何?)
(う~ん、そうね~…プレラーティ、人を信じさせるのと、騙すのはどっちが簡単だと思う?)
念話でナナシの成した事をプレラーティが確認していると、カリオストロが妙な問いを出してきた。
(は?いきなり何を言い出すワケダ?)
(良いから良いから♪)
(…そんなもの、騙す方が簡単なワケダ。信用を得るためには相応の根拠を示す必要がある。騙すなら幾らでもその根拠を捏造する事が可能なワケダ)
(実はこれ、どちらにも違いは無いの)
(は?)
(自分にとって都合が良ければどんな嘘でも人は信じるし、都合が悪ければ真実であったとしても人は騙されたと感じるの。嘘も真実も全ては受け取る側の気持ち次第♪)
(むう…)
(じゃあそれを踏まえて…相手を信じさせよう、または騙そうとした場合、最も難しい事は何だと思う?)
(難しい事?………分からないワケダ)
(『疑ってもらう事』よ)
(は?)
(疑念、疑惑、物事が定まっていない状態。人はこの状態を長くは保っていられない。だって疲れちゃうから。少しでも早く楽になりたくて、さっさと何らかの形に定めてしまう。そして一度定めた物事を土台にして色々な考えを積み上げていくから、土台となる考えを覆させる事は難しいの。第一印象が大事ってのはそう言う事)
(なるほど…)
(プレラーティ、あーたは今あの男を信じてここにいる?騙されてここにいる?)
(…信じては、いないワケダ。あくまで利害が一致しているだけ…しかし、その利害に関しては騙されているようには感じない…私にとっての、あの男の立ち位置は…)
いまいち煮え切らない様子のプレラーティ。ナナシの事を心から信じていない。しかし騙されているとも断言出来ない。強いて言うのなら…『疑っている』。
(あの男は、常に自分の立ち位置を『疑惑』に留めているの。正義と悪、敵と味方、そう言った根幹となる部分にわざと隙間を作って、その時々で都合が良い立ち位置を、まるで仮面を付け直すように切り替える。そうやって相手の根幹を揺るがして、都合の悪い考えをスポーンと叩き出している。それを周囲の全員分、それこそ敵味方問わず…はっきり言って脱帽よ。嘘つきとしての格が違うわ)
お手上げとばかりにカリオストロが両手を上げながら、微笑むサンジェルマンを見てフッと笑った。
(そんなコミュ力モンスターだからこそ、敵も味方も曖昧になったこの空間が生み出せたのかもね?)
(…全く、末恐ろしい男なワケダ)
異なる正義を掲げてぶつかり合っていたはずの者達が、同じ場所で笑い合う…ある意味でサンジェルマンの理想とも言える光景に、プレラーティもフッと笑みを零して…
「ナナシになら、クリスを安心して任せられるね!姉ちゃん!!」
…和気藹々とし始めた空気に、ステファンの一言でビシリと亀裂が生まれた。
「ええ…強くて、こんな屋敷を作れるくらいお金持ちで、必死で私達を説得するくらいクリスの事を考えてくれていて…きっとナナシ以上にクリスを幸せにしてくれる人は他にいないわね」
「なっ!!?」
「…確かに彼の器量は類を見ないな?同棲する娘が何年も世話になっている親の身としては、彼には感謝の言葉しかない」
「お父様!!?」
「それは奏ちゃんも同じよね~♪」
「了子さん!!?」
「私達も家族ぐるみで彼にはお世話になっています。ええ、マリアを姉と慕う切歌と調が、彼の事を『義兄』と慕う程に…」
「マァァァム!!?」
「サブマスターの一部は既にマスターの物なんですからね!それにエルフナイン様は頻繁にサブマスターのお部屋に通っていますからね!!」
「おいガリィ!!?」
「え?た、確かにナナシさんのお部屋へは遊びに行ったり、そ、その、時々膝枕でお昼寝させて頂いてますけど…」
「み、認めないぞ!?親子共々世話になろうとも、百歩譲って社長と呼ばれる事になろうとも、君に『お義父さん』と呼ばれる事だけは絶対に認めないぞぉおおお!!?」
「お父さん突然何言っているの!!?」
「え?え?何でどいつもこいつも突然殺気立っているんだ!?」
突然火花を撒き散らす保護者達。渦中でただただ困惑するナナシの様子に、カリオストロ達は呆れてしまった。
「…曖昧な立ち位置にいるせいで、新たな火種が生まれているわね?」
「…まあ、このような争いならば他人事の我々には大歓迎なワケダ」
そう言ってニヤニヤと修羅場を眺めるプレラーティの言葉に、カリオストロは呆れて苦笑してしまった。
(自分の後ろめたい過去も含めて丸ごと受け入れてくれる、ある意味で最も理想に近い存在…そんな相手に、あーしらのリーダーはいつまで他人事でいられるかしらね?)
思いつくネタ全部詰め込もうとしたら取っ散らかってオチが付かなくなったから書き直すを繰り返したせいでちょっと不完全燃焼…
次回でAXZ後日談は最後となります。