戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
「はあっ…はあっ…はあっ…うわ!?」
「落ち着け。逃げるにしても、確実に撒ける状況じゃないなら相手の位置はある程度把握しておけ」
「うわあ!?」
「戦闘をするつもりなら目を閉じるな。怖いかもしれないが、目を閉じていても状況は悪化していくだけだ」
「フゥ…フゥ…フゥ…」
「シンフォギアの力の源は歌だ。可能な限り呼吸は乱さないように、自分が継続して動き回れる運動量を意識すると良い」
「ひと月経っても、嚙み合わんか…」
弦十郎が見つめるモニターには、ただ黙々とノイズを狩っていく翼と、逃げ回る響、響をフォローするナナシが映し出されており、そこには共闘という考えは全く見られなかった。
「はあっ…はあっ…はあっ…」
「ほら、息を整えたら飲むといい」
「あ…ありっ…」
「無理に返事をしなくていい」
二課の休憩室、そこのソファーに、響は倒れこむようにして休んでいた。
ナナシが“収納”から出したペットボトルを手渡すと、響は息を整えた後にその中の水を一気に呷った。
「…ごめんなさい」
「別に飲み物一つぐらい気にする必要はないぞ?」
「いえ、そっちじゃなくて…」
「…唐突に謝罪されると、正しく伝わらないから注意しようか。何に対してだ?」
「わたしの面倒を見ているせいで、翼さんと距離を取ることになって…」
「別に俺はあのSAKIMORIと四六時中一緒にいる訳じゃないし、元々あいつには嫌われているから特に問題はないぞ?」
「…嫌われているんですか?」
「好かれているように見えたか?」
「その…大分気安く接しているようだったので…」
「最低でも週一くらいのペースでからかって泣きべそ掻かせていたからな。今頃あいつも心安らぐ時間を過ごしているさ。マネージャーの仕事は慎次が付きっきりでやっているし」
(そんなに頻繁にからかっても一緒に居られるなら、やっぱり好かれてはいるんじゃないかな?)
「翼にとって特別なのは奏だけだ。好かれていると言っていいのは二課の連中くらいか?俺はせいぜい便利な道具だな。あいつらの活動に有用過ぎる能力があるせいで捨てるに捨てられないってところだろ」
「っ!?“念話”で伝わっちゃいました!?」
「いや、響が分かりやすいだけ」
「…もし本当にそんな風に思われていたら、悲しくないんですか?」
「全然?むしろあいつは他人に優しいくせに、自分に厳しすぎるからな。“紛い物”の俺に不満をぶつけてくるくらいしないと心配になる」
「…ナナシさんは、強いですね」
「弦十郎には勝てないけど、翼や響よりは強いかな?」
「そういう意味じゃないです。あと弦十郎さんはどれだけ凄いんですか…」
「何度も“解析”…俺の能力で判別しても普通の人間なのが不思議なくらいだ。まあ、この能力はあんまり当てにならないんだけどな…俺自身のことは“解析”できなかったし。それと弦十郎だけじゃなくて慎次も凄いぞ。慎次にも翼と響は勝てないな。俺は慎次とは相性が良いから一応勝てる。スピードは俺も弦十郎も敵わないけど」
「…皆さん凄い人達ばかりなんですね…わたし、このままじゃダメですよね…しっかりしないといけないですよね…今よりも…ずっときっともっと…」
(…これは、響を先に何とかするべきか)
落ち込む響の様子を見たナナシは、そう考えて響にある質問をした。
「なあ響、お前は何で翼に引っぱたかれたか自覚しているか?」
「…わたしが未熟で、翼さんの足を引っ張るから…」
「(本気で気づいてないんだな)…響、お前親友はいるか?」
「え?」
「出来ればちょっと親しいとかじゃなくて、それこそ奏と翼レベルの関係性が好ましいな」
「…はい、います。わたしにとって、その子の周りは『陽だまり』みたいに温かくて、凄く安心出来るんです。シンフォギアのことを話せないせいで、最近は凄く心配させちゃっていますけど…」
「(むしろ何でそれで気が付かないかな?)…なるほど、お前にとってその子は、とても大切な存在なんだな?」
「はい!」
「じゃあ、今日から俺がお前の陽だまりになってやる」
「へ?」
「俺が響の陽だまりとして、お前を温めてやる。安心できるように守ってやる」
「ふぇ!?ちょっ!!?ナナシさん急に何をっ!!?」
「これでもうその親友は必要ないな」
「!!?」
「俺がその親友の『代わりに』なるんだから、もうその子に心配させようが嫌われようが、その子がいなくなろうが全く問題ないわけだ」
「そんな訳ないでしょう!!?」
「何でだ?今すぐは無理かもしれないけど、努力してその子の『代わりに』なるんだから何も問題ないはずだろ?」
「良いはずないじゃないですか!!ナナシさんが!!未来の『代わりに』なれるはずなんて……っ!!?」
ナナシの発言に激怒した響が、立ち上がってナナシに対して反論の言葉を口に出し…途中でしゃがみこんで黙ってしまった。
「……」
「できれば、翼の涙を見た直後に気づいて欲しかったな」
「……わたし、ダメですね…」
「悪い、否定してやれない」
「……」
「…なあ、響。お前は何故、誰かのために戦うことを決めた?」
「…え?」
「奏も、翼も、弦十郎達も、大枠で言えば誰かのために戦っているけど、ただそれだけを理由に命を懸けているわけじゃない。お前が戦うと決めた時も、何か他に理由があったんじゃないか?それは少なくとも、『奏の代わりになること』ではなかったはずだ」
「……」
「一回じっくり考え直してみろ。お前が、『立花響』が戦うことを決意した理由を…さっきは酷いこと言って悪かった。今日はもう休め」
そう言ってナナシは部屋を出ようとする。すると、響に呼び止められた。
「あの!」
「うん?どうした?」
「ナナシさんは、何のために戦っているんですか?」
「奏と翼の歌のため」
何の迷いもなく、ナナシは言い切った。
「お二人の、歌のため?」
「ああ、俺はあいつらの最高の歌が聴きたくて戦うことを決めた」
「…本当に、ツヴァイウィングのお二人のことを大切に思っているんですね」
「少なくとも、世界とあの二人なら躊躇いなく二人を選ぶくらいには」
「!!」
「だけど、あいつらが歌うためには世界が必要だから、二人のついでに世界も守ることにしている。これが、俺が戦っている理由。納得できたか?」
「…はい!ありがとうございました!」
今度こそ、ナナシは部屋を後にした。
「…コソコソしないで、部屋に入ってから一緒に話を聞けば良かったのに。お前はこういう時盗み聞きするタイプじゃないだろう?」
「…間が悪かったんだよ。というか気づいていたのか」
部屋を出てすぐにある十字路から、奏が姿を現した。
「俺が翼に嫌われているって話辺りで聞いていただろ?どうせなら一緒に響の話し相手になってくれれば良かったのに。俺はお前みたいには出来ないから、結局響を怒らせたし」
「…結果的に良かったよ。あんたが響を口説いている場面に遭遇するなんて気まずいことにならずに済んだ」
「口説く?“紛い物”の俺が?そんな身の程知らずじゃない」
「……」
「まあ、響についてはしばらく様子見してやってくれ。翼は、今俺が近づくと割れちゃいそうだから、遠目に様子を見ながら頑張ってみるよ…奏は凄いな。翼、お前には弱音を吐いたろ?泣いていた次の日には少し持ち直していた。こんなんじゃ、翼や奏を『柔らかく』するに何年かかるんだろ?」
「…相変わらず、あたしらのことよく見ているね?」
「ただの妄想だ。それじゃ、俺は次の仕事に行ってくる」
そう言って立ち去ろうとするナナシの前に、奏が立ちふさがる。ナナシは、奏が少し怒っているのを感じ取った。
「…俺、さっきの響との話で何か怒らせるようなこと言った?」
その言葉に、奏はナナシをキッと睨む。
「あいつは…翼は!能力なんて関係なく、あんたのことを仲間だと思ってる!勝手に自分を道具扱いするな!」
奏はそう言うと、ドスドス足音を響かせながらその場を離れて行った。
「…そうなのか?…やっぱり難しいな。人間って…」
二課の廊下を、翼が無言で進んでいく。その後ろを、緒川が追従しながら翼の今後の予定について伝えていく。
「次に、月末に予定しているライブですが、余り時間がありません。後でリハーサルの日程表に目を通しておいてください」
「……」
「それから、例のイギリスのレコード会社からのお話ですが…」
「その話は、断っておくように伝えたはずです。奏ともちゃんと相談をしました」
「翼さん…」
「私は防人として、この国を守らないといけないんです。私は剣、戦うために歌を歌っているに過ぎないんですから」
『さっきの歌、今までで最悪だったな?自分の感情も碌に分からない状態で、何がしたいのかも不明瞭。お前がずっと追い続けてきた『防人』としての理想も切り捨てて、守るはずのものを傷つけようとした。こんなものになるために今まで自分を押し殺してきたのかお前?』
「ッ!(ギリッ)」
「翼さん、怒っているんですか?」
「怒ってなんかいません!…剣に、そんな感情など備わっていません」
『俺が“紛い物”で人間じゃないのと一緒で、お前は人間で剣じゃない』
「ッ!(ギリリッ)」
あの日から、ナナシの言葉が翼の頭から離れない。それを思い出す度に、翼は歯を食いしばり、自分の中から出てきそうな『感情』を押しとどめる。
そして再び、翼は前へ進み始めた。
「感情が無かったら、歌を歌えないと思うんだけどな…」
そう言って、緒川は溜息を吐いてから翼の後を追って行った。
主人公は感情センサーがあるので相手の意表を突くことに特化したNINJAさんとは相性が良く勝つことができる、ということにしています。
他の方々の作品でOTONAが人外を圧倒しても違和感など無いのに、明らかに人外の主人公が勝つことができると言うことに違和感を覚えるのは何故なんでしょうw