戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第177話

時は、S.O.N.G.が南極へ向かう少し前まで遡る。

 

響がリディアンでの追試を無事乗り切り、未来と一緒に海沿いの施設で遊んでいると、突如海上の船が爆発炎上する瞬間を目撃してしまった。二人が事態を把握するために急いで施設を後にすると、それとほぼ同時に緒川が車で二人を迎えに来ていたため、響達は緒川と共にS.O.N.G.本部へと向かう事になった。

 

響達が本部に到着した時には、他の装者達は既に集まって炎上した船が消火される光景をモニターで見ていた。弦十郎は響達の入室を確認すると、今回の騒動についての詳細を語り出した。

 

「大型船舶に偽装したS.O.N.G.の研究施設にて、事故が発生した」

 

「海上の研究施設……デスか?」

 

「もしかして、街中では扱えないような危険物を対象に?」

 

「ああ、そこでは先だって回収した、オートスコアラーの残骸を調査していたのだ」

 

そこでモニターの映像が切り替わり、回収されたオートスコアラー…ティキの残骸が映し出された。

 

「破壊されたアンティキティラの歯車と、オートスコアラーの構造物からは、パヴァリア光明結社、ひいてはアダム・ヴァイスハウプトの目的を探る解析が行われていたの」

 

「先ほどの爆発事故は、機密の眠る最深奥に触れたための、セーフティーと考えられますが…」

 

「ま、待ってください!あのオートスコアラーの解析って…もしかして、了子さん達がこの場にいないのは…!」

 

緒川の言葉を遮り、響が慌てた声でそう問いかける。響の言う通り、この場にいる錬金術師はエルフナインだけであり、了子やキャロル、サンジェルマン達、あとついでにナナシの姿も見えない。もしあの船に了子達がいたのならば…

 

「あ~…確かに響君の懸念通り、あの船に乗っていたのは了子君達と、面白そうだからとついて行ったナナシ君な訳だが…」

 

弦十郎が何やら微妙な表情でそう言って端末のボタンを押すと、モニターに『SOUND ONLY』と表示されて何処かと通信が繋がった。

 

『あー違う違う、それは右じゃなくて左の前腕!左はまだ二の腕が無いから後回しだ!』

 

『あ、ああ…』

 

『あっ、カリオストロ、そこに右足転がってるから持ってきて!』

 

『うぇぇ~…』

 

『ふむ、やはり再生しているのは本体のみ…しかし肉片を本体に近づければ欠損を補完するように接合されるワケダ』

 

『そうだ、そのため肉片が個々に再生してプラナリアのように分裂する事も無い。しかしその『本体』の定義が非常に曖昧だ。基本的にはその男の意識がある場合は頭部…脳髄が本体として機能するようだが、脳が損壊した場合は残った肉体を起点に再生が始まる。つまりその男の肉体は全身が本体としての機能を兼ね備えており、分かたれた後も何らかの方法で本体の情報を共有しているらしい。理屈はまだ一切解明出来ていないが…ククク、実に興味深い!』

 

『コラコラ、幼女が人体の断面を見ながら笑ってるのは絵面が酷いからやめましょうね?』

 

『女子達が人体でパズルやってる時点で絵面はもうサイアクじゃないかしら!!?』

 

…察するに、通信の向こうでは響の懸念する通り悲惨な光景が広がっているはずだが、聞こえてくる話し声からは何処までも緊張感の無い雰囲気が伝わっていた。

 

「了子君達は “血晶”の自動防衛によって無傷だったが、ナナシ君本人は咄嗟に頭部を守るのが精一杯だったようでな…まあ、聞いての通り問題はないから話を進めさせてもらう」

 

「あ、はい…」

 

すっかり気の抜けてしまった響は弦十郎にそう答えるのが精一杯だった。そんな響に苦笑しつつ、エルフナインが説明を引き継いだ。

 

「ティキと呼ばれたあのオートスコアラーには、惑星の運行を観測し記録したデータを元に様々な現象を割り出す機能があったようです」

 

そう言ってエルフナインは端末を操作してモニターに情報を表示させた。

 

「これは…南極大陸?」

 

「爆発の直前、最後にサルベージしたデータは南極の一地点を示す座標でした」

 

「ここは南極大陸でも有数の湖、ボストーク湖。付近に位置するのは、ロシアの観測基地となります」

 

「湖ってどれ?一面の雪景色なんですけれど?」

 

モニターに映し出された南極の風景に、響は思わずそんな疑問を口にした。

 

「その雪景色のほとんどがボストーク湖さ。正確には、氷の下に広がっているんだけどね」

 

「地球の環境は一定ではなく、度々大きな変化を見せてきました。特に近年その変動は著しく、極冠の氷の多くが失われています」

 

「まさか、氷の下から何かが出てきたって訳じゃないよな?」

 

「そのまさかよ」

 

クリスの冗談交じりの問い掛けに肯定しながら、友里が新たな画像を表示させた。

 

「先日、ボストーク湖観測基地の近くで発見されたのが、この氷漬けのサソリです」

 

「照合の結果、数千年前の中東周辺に存在していた種と判明。現在は絶滅していると聞いています」

 

「何故そんなものが南極に?」

 

「詳細は目下調査中…ですが、額面通りに受け止めるなら、先史文明期に何らかの方法で中東より持ち込まれたのではないでしょうか?」

 

友里の推測に、装者達は全員がモニターの氷漬けのサソリを見て黙り込んでしまう。すると、今度は緒川が口を開いた。

 

「気になるのは、これだけではありません。サンジェルマンさん達にも協力してもらいながら、情報部は瓦解後に地下へと潜ったパヴァリア光明結社の残党摘発に努め、更なる調査を続けていました」

 

「得られた情報によると、アダムは占有した神の力を以て遂げようとした目的があったようでな」

 

「その目的とは一体…?」

 

「この星の支配者となるため、時の彼方より浮上する棺を破壊…」

 

「ナンデスト!!?」

 

「でも、時の彼方からの浮上って、南極のサソリと符合するようで気味が悪い…」

 

怯えるような表情をする装者達に対して、弦十郎はバチンと拳で掌を叩きながら鼓舞するように号令をかけた。

 

「次なる作戦は、南極での調査活動だ。作戦開始までの一週間、各員は準備を怠らないでほしい!!」

 

『了解!!』

 

ベシャアアア!!

 

『ぎゃああああ!?サンジェルマン、持ち方!!?中身が零れちゃってるぅううう!!?』

 

『ご、ごめんなさい!!』

 

『あ~大丈夫大丈夫、俺普段から内臓使ってないから無理に戻す必要はない』

 

『ならばこれらはこちらで回収させてもらうぞ』

 

『何か使い道があるワケダ?』

 

『この男の力が宿っているという点を除けばただの人間と変わらないが、個体差や体調、老化等による品質の差異が一切無い上に数を用意出来る臓物だぞ?実験をする上で都合が良い事この上ないから幾らあっても困らん』

 

『なるほど、それは素晴らしいワケダ!』

 

『だから!そこの二人は絵面が酷いから嬉々として臓物に手を付けないの!!』

 

弦十郎の号令に気を引き締めたはずの装者達だったが、通信から聞こえてくるやり取りを聞いてガクリと力が抜けてしまうのだった。

 

 

 

 

 

そういった経緯で南極へと向かったS.O.N.G.の一行は、その道中でボストーク湖に浮上する謎の反応をキャッチしたために装者達とナナシが現場へと先行して『棺』と交戦し…全員が氷漬けにされてしまった。

 

「うーむ…これは…あっけなく、やられちゃったでありますか?」

 

そしてその様子を、離れた場所から見つからないよう氷の大地に伏せながら観察する人影が二つ存在していた。

 

「ウチらじゃまるで敵いっこないデカブツが相手とはいえ、もうちょっと踏ん張ってもらいたいものだゼ」

 

防寒のためか全身をすっぽりと覆い隠すコートを身に纏うその二人は、声と体格からどちらも年若い少女である事が窺えた。少女達は棺の攻撃によって氷漬けにされた装者達とナナシを見て、落胆と苛立ちの表情を浮かべていた。

 

(ピンポンパンポ~ン♪どう?そっちは順調かしら?)

 

そんな少女達の脳裏に、陽気さを感じさせる女性の声が響き渡った。少女達は女性の声に表情を和らげて、頭の中で質問に返答する。

 

(棺の浮上を確認したところだゼ!)

 

(本当に局長は、あんなモノの…棺の復活を阻止して、この星の支配者になろうとしたのでありますか?)

 

(今となっては分からないわね。少なくとも、私達の目的は局長とは違う。こちらの狙いは棺の破壊ではなく、その活用だもの)

 

少女達に届く女性の口調は朗らかでありながら、そこには強い想いが籠められている事が少女達には理解出来た。

 

(そう、これは未来を奪還するための戦い…だから、絶対に果たさなければならないの)

 

女性の言葉に少女達は神妙な面持ちで深く頷いた後、棺と装者達の監視を再開した。その時、先程悪態をついていた少女の視界に氷漬けのナナシの姿が映ると、少女は再びその表情を歪ませた。

 

(情報が確かなら、あの男の力こそウチらが求めるモノ…こんなあっさりやられてもらったら困るんだゼ!)

 

 

 

 

 

本部では氷漬けになった装者達とナナシを救う術を探すために、オペレーター達が忙しなく端末を操作していた。

 

「装者六名とナナシ君、未だ昏睡状態!このままでは…」

 

「チッ、全く世話の焼ける奴らだ」

 

友里の報告を聞くと、キャロルがそう言って立ち上がり出口へと歩みを進めていった。

 

「キャロル!」

 

「案ずるな、不甲斐無いあいつらの始末をこのオレがつけてやる。ククク、あの男に支払わせる対価に何を求めてやろうか…」

 

「それはもうサブマスターの記憶だけでなく全身余すことなくマスターの物にしてしまいましょう!サブマスターの危機に颯爽と駆けつけるマスターの雄姿にサブマスターも心奪われるはず!!これでサブマスターの身も心も全てマスターの物!!!」

 

「茶化すなガリィ!!」

 

ガリィの言葉にキャロルが顔を赤くして文句を言っていると、モニターの映像が急に明るく輝いた。

 

「照明弾です!棺の進行停止!!」

 

 

 

 

 

観測基地で大勢が資料などを抱えて避難しようとする中、一人の男性が上空に照明弾を放って装者達に近づこうとする棺の気を引いていた。

 

「何やってんだ!?」

 

「女の子がこんな寒いところで、お腹を冷やしたら大変だろう!?」

 

仲間に咎められようと、男性は氷漬けになった装者達を救うために再び空に照明弾を放つ。男性の声と時間稼ぎのお陰で、朦朧としていた響の意識が徐々にハッキリとしていった。

 

しかし棺は男性の行いを敵対行動と認識してしまったようで、棺は光線を放って観測基地の上部を爆破してしまった。落ちてくる瓦礫から男性達が必死になって逃げ惑う。

 

「皆が、いるんだ…皆が!!」

 

自分達だけが誰かを守るために戦っているのではない。自分達を守るために戦っている誰かがいる。男性の勇気ある行動に心を震わせた響は、周囲の氷を粉砕して再び立ち上がった。

 

ドゴオオオン!!

 

それと同時に、再び観測基地へ光線を放とうとする棺にミサイルが直撃して爆発が巻き起こる。響が振り返ると、自分と同じように氷の中から脱出した仲間達の姿があった。

 

「そんなにヒーローになりたいのか?」

 

「そうだ、戦場に立つのは立花一人ではない!」

 

『皆さん!ボク達は、ボク達の戦いをします!だから!!』

 

仲間達が武器を構え、通信機からはエルフナインの鼓舞が聞こえてくる。響はギュッと手を握り締めて、目の前の棺に闘志を燃やす。

 

「皆が背中を押してくれる!」

 

そして響と同じように、周囲の想いに心を震わせている者がもう一人いた。

 

ビシリ…

 

響達の頭上から、何かが罅割れるような音が響く。全員が上を見上げると、凍り付いたナナシの体中に罅が入っており、徐々にそれは大きくなって…

 

ドバァアアアアアアアン!!!

 

…まるで爆発でもしたかのような凄まじい勢いで、ナナシの体中から血液が吹き出した。

 

「やっぱりナナシお兄ちゃんも無事だったデス!」

 

「で、でもちょっと様子が…」

 

「ちょっといつまで続くの!?多い多い多い!!?」

 

そのままボストーク湖を覆ってしまうつもりなのかと思ってしまう血液の勢いにマリア達は慌てていたが、血液はナナシを中心に一定の範囲で広がるのをやめてその場に留まっていた。しかし血液の吹き出す勢いは変わらず、必然的に血液はまるで見えない器を満たすようにドンドンその場に溜まっていき、そして…

 

(よくもやってくれたな亀野郎…亀鍋にして喰ってやるから覚悟しやがれ!!)

 

…巨大な人の上半身を形作った。

 

『えええええええええ!!?』

 

響達とS.O.N.G.の面々、そして遠くで監視する少女二名が驚愕している間に巨大ナナシは棺へと両手を伸ばす。棺もまた自分と同程度のサイズまで膨れ上がったナナシを脅威と判断したのか応戦の構えを見せ、両者は互いの腕を組み合わせた。巨大ナナシは見せかけだけではないようで棺の腕をガッシリと掴んで離さず、棺も巨大ナナシに押される事無く状況は拮抗したように思われたが、巨大ナナシは先程の有言実行とでも言うようにその巨大な口を大きく開くと、その頭部を丸ごと飲み込むように棺に喰らいついた。

 

まるで怪獣大戦争とでも言うような光景に響達は援護も忘れて呆然としていると、棺の頭部を飲み込んだ巨大ナナシの喉付近が淡く輝いたかと思うと、棺は光線を放って巨大ナナシの頭部を跡形も無く吹き飛ばしてしまった。

 

「おい!?こんだけ派手な真似しておいてアッサリやられるのかよ!!?」

 

「んな訳あるか!!」

 

頭部を失った巨大ナナシが形を崩した事で支えが無くなって前に倒れ込む棺の懐に、巨大ナナシの腹部から飛び出した本物のナナシが潜り込んだ。

 

「お前の光線は撃つ前にタメが必要だよな?撃った直後なら殴り放題だ!」

 

ドゴオオオン!

 

下から掬い上げるようなナナシの右腕の一撃によって棺の巨体が浮き上がり、ナナシの右腕が弾け飛ぶ。

 

ドゴオオオン!

 

立て続けに繰り出されたナナシの左腕の一撃によって棺の体が更に上昇する。しかしナナシの左腕も弾け飛んでしまい、右腕は未だに再生しきっていない。

 

ドゴオオオン!

 

故にナナシは肩に生やしたもう一対の腕(・・・・・・・・・・・・)で棺を殴りつける。文字通り手数を増やして追撃を繰り出す間にナナシは破損した腕の再生を終わらせて…再び拳を振るう。

 

ドドドドドドドドドドッ!!!

 

「あっははははははははは!!!」

 

高笑いと血飛沫を上げながら、ドンドン棺の巨体を上空へと持ち上げていくナナシ。為す術なく徐々に体を歪ませていた棺だったが、ようやく光線のチャージを終えてナナシに狙いを定める。

 

「甘えよ!」

 

放たれた光線を空中にも関わらず弧を描くように(・・・・・・・)素早く棺の真上に移動して回避したナナシは、両手を頭上に上げて組み合わせる。すると、ナナシの両腕がドンドンと肥大化していく。血液を腕に纏っている…のではない。本当に、ナナシは両腕を巨人のように巨大化させて(・・・・・・・・・・・・・・・)棺へと振り下ろした。

 

ズガアアアアアアアアアン!!!

 

巨大化したナナシの腕は棺に直撃するのと同時に弾け飛んでしまうが、ナナシの一撃を受けた棺は凄まじい勢いで氷の大地に叩きつけられてボストーク湖の氷に大きな亀裂を生み出した。

 

「ハッハー!見たか!これがバージョンアップして弦十郎との特訓で勝率が三割まで上がった俺の力だ!!」

 

『まだ七割勝てないの!!?』

 

そんなツッコミが入ってしまう程凄まじい力を見せつけたナナシ。棺はそんなナナシを本格的に脅威と定めたのか、凄まじい量の蜂型小型機を生み出してナナシへと向かわせた。

 

「ちょっ!!?」

 

まるで蜜蜂が外敵を排除しようとするように、ナナシは空中で夥しい量の小型機に群がられてしまった。棺はその隙に目の前の装者達を先に排除すべく追加で小型機を生み出しながら動き出した。

 

装者達は歌を奏でながら次々と小型機を蹴散らしていく。しかし広範囲に広がり始めた小型機は、避難の終わっていない観測基地の職員達まで襲い始める。

 

「きゃああああ!!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

攻撃の余波で吹き飛ばされた職員の女性を、響が受け止めて安否確認をする。しかしその隙を突いて背後から多数の小型機が迫り、正面では棺が例の光線を放とうと構えている。

 

『攻撃来ます!』

 

『ブン殴れ!!』

 

「言ってる事全然分かりません!!!」

 

通信機から聞こえてきたエルフナインとキャロルの信じがたい指示に、しかし響は叫びつつも迷いなく光線に向かって拳を振るう。すると響のギアの防御フィールドが普段とは異なる輝きを放ち、拳で受けた光線を周囲に拡散させて響に迫っていた小型機を撃墜させた。

 

『拳の防御フィールドをアジャスト!』

 

『即席ですが、エルフナインちゃん達が間に合わせてくれました!』

 

『解析からの再構築は錬金術の原理原則だ。この程度造作もない』

 

『これがボク達の戦いです!』

 

響がギアの出力を上げて光線を押し返し、それに合わせて装者全員が棺に一斉攻撃を仕掛ける。高火力の集中攻撃に棺はその巨体を仰向けに倒れ込ませた。

 

「急いでください!S.O.N.G.指定の避難ポイントに!!」

 

「あ、ありがとう!!」

 

女性は響にお礼を言って、仲間の運転する車に飛び乗って避難ポイントに移動していった。その直後、倒れていた棺が胴体に棘を生やして高速で回転しながら響に突っ込んできた。響が回避してしまうと、棺はそのまま避難ポイントへ向かう車に追突しかねない。

 

「させない!!」

 

故に響は回避ではなく、棺に向かってブースターを全開に真っ向から突っ込んでいった。響の拳と棺がぶつかり合い、互いに勢いを相殺されてその場に停止してしまった。

 

「うわあああああ!!」

 

しかし響よりも素早く動き出した棺が響を氷の大地に叩きつけ、そのまま自分諸共氷の下にある湖の中へと沈めてしまった。

 

「あのバカ!!」

 

「歌えない水中では、ギアの出力が低減してしまう!!」

 

棺は響が逃げられないようにガッシリとその体を掴んで離さない。このままでは響は歌えないどころか呼吸も出来ずに力尽きてしまう。

 

(だとしても!!)

 

そんな危機的状況でも、響は一切気力を失うことなく棺の手を無理矢理引き剥がして追撃を躱しながら、地上ではなく敢えて湖の底へと突き進んだ。

 

(この胸には、歌がある!!)

 

地に足をしっかりと着けた響は、両手のギアを変形させて高速回転させる事で渦を巻き起こし、渦は棺を飲み込んで凄まじい勢いで地上へと昇って行った。

 

「クソ、手間取った!今行くぞ響!!」

 

その上空では、ナナシがようやく小型機の密集地帯から脱出する事に成功していた。本部や翼達からの連絡で状況を知ったナナシは響救出のために真下の湖に飛び込もうとした。

 

ズガシャアアアアアン!!!

 

「ノォオオオオオオオオオ!!?!?」

 

しかしその直前、凄まじい勢いで上昇してきた渦に巻き込まれそうになったためナナシは慌てて横へと回避した。渦はナナシを囲んでいた小型機の群れを粉砕しながら突き進み、分厚い雲に風穴を開けて日の光を地上へと降り注がせた。

 

水面から響が飛び出し、ナナシも響の近くに着地する。二人の周りに他の装者達も集まってきた。

 

「無事か、二人共!?」

 

「そんなことより、アレを何とかしないと!」

 

響が視線を向けた先には、雲に空いた風穴の中央でクルクルと回転しながら落下している棺の姿があった。

 

「狙うべきは喉元の破損個所、ギアの全エネルギーを一点集束!」

 

「決戦機能を動く標的に!?もしも外したら…」

 

「後がないデス!できっこないデスよ!」

 

「狙いをつけるのはスナイパーの仕事だ。タイミングはあたしがとる!」

 

「行くぞ、皆!!」

 

『ギアブラスト!!』

 

宣言と同時に、装者達が纏っていたギアのプロテクターが全て剥がれて周囲に漂う。ギアの機能の大半を攻撃力へと転用する、外せば後が無い代わりに絶大な威力を発揮する決戦機能。装者達は拳を構えて狙いを定めながらクリスの指示を待つ。

 

『軌道計算ならこっちでも!』

 

『待ってください!棺の周辺に…』

 

棺の危機に、散り散りになっていた蜂型小型機が装者達の射線を阻むように飛び回り始めた。それだけでなく、時折ビームを放って無防備な装者達に攻撃を仕掛ける。

 

「リフレクター気取りかよ!」

 

「任せろ!!」

 

ナナシが“障壁”でビームから装者達を守り、射線上から外れた小型機を次々と“障壁”内に閉じ込めていった。

 

『距離千五百…千二百…』

 

「クリスちゃん、もうすぐ誕生日!この戦いが終わったら…」

 

「そういうフラグはお前一人で間に合ってんだよ!」

 

分かりやすい死亡フラグを口にする響に、クリスが思わずツッコんでしまった。

 

「ならこうだ!この戦いが終わったら、クリスの誕生日会をSAKIMORIの手料理で祝おう!!」

 

「デェェェス!!?」

 

「どういうことですか先生!!?」

 

「死亡フラグに別の死亡フラグをぶつけて相殺させようと…あっ、マズい!?ぶつけるフラグが強すぎてどちらにせよ死ぬ!!?」

 

「今ここで棺ごと葬ってやろうか貴様!!」

 

「だぁあああああいちいち茶化すんじゃねえ!!夫婦漫才なら家でやれ!!!」

 

「「誰が夫婦だ!?」」

 

翼とナナシの抗議をスルーしつつ、クリスは改めて棺の破損個所へと狙いを定める。幸い周りがふざけたやり取りを繰り返したお陰で緊迫した空気も吹き飛び肩の力が抜けたクリスは、焦ることなく高い集中力を発揮してベストなタイミングを見出した。

 

「今だ!!」

 

『G3FA!ヘキサリヴォルバー!!』

 

完璧なタイミングで放たれた装者達の連携技は、吸い込まれるように棺の破損個所へと直撃して周囲一帯の雲を吹き飛ばす程の大爆発を巻き起こし、棺を機能停止させる事に成功するのだった。

 

 

 

 

 

棺が完全に大破した事を確認した装者達は、後の調査を国連に任せて本部に帰還するために移動を開始した。その様子を監視していた少女達は、念話によってもう一人の仲間に情報を共有していた。

 

(棺は無事破壊されたゼ!)

 

(後は中身の確認が出来たら、我々も撤退を開始するであります!)

 

(寒い中ご苦労様。二人共、風邪を引いちゃう前に帰って来てね)

 

(分かってるんだゼ!)

 

(ガンス!)

 

女性の言葉に返事を返した少女二人は、装者達と共に帰路に就くナナシへと視線を向けた。

 

(前言撤回だゼ。あの男に宿る力、あれならきっと…)

 

(我々の悲願も達成出来るであります!)

 

自在に肉体を変化させて、どれだけ傷ついても即座に再生するナナシの力を目の当たりにした二人は、希望を見つけたように瞳を輝かせていた。

 

(そうね、悲願のために計画を遂行しましょう!…ただ、ちょ~っと不安だから、一回今後の動きについておさらいしておきましょう?)

 

力強く同意した後にそんな頼りない事を言う女性に、少女達は思わずガクリと力を抜いてしまった。

 

(ヴァネッサ、普段からウチらにお姉さんぶっているんだからもうちょっとしっかりして欲しいんだゼ!)

 

(直近の計画としては、これから確認する棺の中身を不肖このエルザが移送中に襲撃を仕掛けて奪取するであります!後は我々の障害となるS.O.N.G.の装者対策の手始めに、今度開催されるツヴァイウィングのライブをミラアルクが襲撃、ターゲットの風鳴翼の心に楔を打ち込むであります!)

 

何処か抜けている自分達の姉…ヴァネッサに、ミラアルクがツッコミを入れ、真面目なエルザが計画をおさらいする。きっとヴァネッサはこれから装者達と対峙することになる自分達を心配して緊張を解そうとしてくれたのだろうと二人は苦笑して…

 

(え?ミラアルクちゃん、突然どうしたの?しっかりして欲しいって、私何か変な事言ったかしら?エルザちゃんも、緊張して予定を忘れちゃったの?)

 

…先程の言葉と矛盾する返答をしてきたヴァネッサに、二人は思わず体を硬直させてしまった。

 

(ヴァ、ヴァネッサ…?)

 

(何を、言って…?)

 

 

 

「ふ~ん、あの亀野郎の中身が狙いってのは想定内だったけど…ツヴァイウィングのライブ襲撃、ターゲットは風鳴翼…あいつの心に、楔を打ち込むねぇ…」

 

 

 

その声は、まるで音無く首筋に当てられた死神の鎌のように、南極の空気さえも暖かく思えてしまえそうな程冷やかだった。

 

 




初手より奥義にて仕るw
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