戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第178話

突然背後から聞こえてきた声に、エルザとミラアルクは反射的に振り返って臨戦態勢を取る。そこにいたのは予想通りの…しかし、絶対にあり得ないはずのナナシだった。

 

「バ、バカな!?」

 

「あなたは、ついさっきまであそこに!!?」

 

二人が驚くのも無理はない。エルザ達は念話で会話しながらも、装者達と共に歩くナナシの姿を視界に捉えていた。背後から声が聞こえた時も…何なら今も、確かに装者達と共に歩くナナシの姿が遠目に見えている。その光景に二人が目を疑っていると、目の前のナナシがパチンと指を鳴らし…装者達と歩いていたナナシが、突然ドロリと形を崩してしまった。

 

「わあああああああ兄弟子が溶けたあああああ!!?!?」

 

「棺の呪いデェェェェス!!?!?」

 

「いや違うだろ!?」

 

「先生の“水鏡”…いつの間に…」

 

「でも、だとしたら本人は一体何処に?何故姿を隠しているの?」

 

「はっ!?もしや戦闘後の油断した隙に悪戯を仕掛けようと!!?雪音、マリア、警戒だ!」

 

突然溶けたナナシに慌てふためき愉快なやり取りをする装者達。エルザ達は状況を理解は出来ても納得は出来ていない。何故こんなにも早く隠れて監視していたはずの自分達の存在が露見したのか…

 

「『監視』とは、注意深く見る事…言うなれば意識を、感情を集中させるという事だ」

 

エルザ達の疑問に答えるように、いつの間にか現れた人物の一人がそう言ってエルザ達に近づいてきた。

 

「感情を感知出来るその男にとって、存在すら気取られたくないのなら視認出来る範囲での監視は寧ろ愚の骨頂なワケダ。正確な位置までは分からなくても、『見られている』という事実さえ分かってしまえば、こんな風に幾らでも手を打てるワケダからな?」

 

「ご高説垂れてるけど、これあーしらにも結構なブーメランなのよね~?首だけ真後ろに振り返られたり、真上から迫られたり、ビルの側面から這い上がってきたり、何度ビックリ仰天させられたか…」

 

新たに現れた三人の顔を見たエルザ達は、その顔を忌々し気に歪めた。

 

「カリオストロ、プレラーティ、そしてサンジェルマン…!」

 

「パヴァリア光明結社の幹部勢揃いでありますか!?」

 

「元、幹部よ。予期してはいたけれど、やはり現れたわね?暗躍を企む結社の残党が…」

 

サンジェルマン達の腕には、赤く輝く“血晶”が付いている。事前に予期していた結社の残党による暗躍の可能性、そしてナナシのによって伝達された自分達を監視する存在の情報により、サンジェルマン達は“血晶”によって“認識阻害”を使用しつつ周囲を巡回してエルザ達の見つけ出し、ナナシに居場所を伝えたのだった。

 

(さて、我々に下された任務は索敵と位置の報告のみ…念のため確認するが、捕縛の協力は必要か?)

 

(待機していろ)

 

端的に返事をした後、ナナシは一人でエルザ達に近づき優雅に一礼する。一人で結社残党の錬金術師二人に対応するつもりなのだ。少し前のサンジェルマンなら自分の力を過信した傲慢だと窘めていたかもしれない。しかし短い期間とはいえ同じ時間を過ごしたサンジェルマン達は、先程エルザ達の念話を一緒に盗聴していたためナナシの真意が理解出来ていた。

 

 

 

「お嬢様方、このような寒空の下でさぞお体を冷やしたでしょう?我々と一緒に温かいお茶でも戴きませんか?」

 

(怨怨怨殺殺呪呪呪滅滅殺殺死死死死怨怨殺殺怨怨呪呪呪殺殺呪滅滅殺殺殺殺殺殺死死死…)

 

 

 

あっ、この男ブチ切れているな、と…

 

「エ、エルザァアアアアアア!!!」

 

「テール・アタッチメント!!!」

 

朗らかな誘いと共に伝わってきたとんでもない副音声に、エルザとミラアルクは即攻勢に移る。どちらがナナシの本心かなど全身を突き刺すような殺意で丸分かりだ。動かなければ、抗わなければ瞬殺されると本能的に感じ取ったミラアルクはエルザに呼び掛けながらフードを脱ぎ捨て広げた()で上空に舞い上がる。エルザもまたミラアルクの声に応じてフードを脱ぎ捨てると、頭の上にある髪の毛と()をピンと立てながら傍にあるキャリーケースを開いた。

 

「あの姿は…」

 

「蝙蝠の羽に、ワンちゃんの耳かしら?」

 

「どうやら、愉快な試みを持った支部があったワケダ」

 

エルザ達の容姿についてサンジェルマン達が考察している間に、ケースから伸びたコードがエルザの腰の辺りにあるコネクターにまるで尻尾のように接続された。

 

「ネイル!ブチ抜くであります!!」

 

そして尻尾の先端に生えた鋭い爪が、一直線にナナシへと迫っていった。

 

「ふ~ん、ネイル…爪か…」

 

迫り来る爪の攻撃を、ナナシは慌てる事無くジッと観察した後…

 

「ミカの手の方がカッコイイし強そうだ」

 

自身の両腕を瞬時に変質させて、まるでミカのような禍々しい両腕を形作ると、右腕を迫り来る爪に軽く振るった。

 

ズガシャアアアアン!!!

 

ただそれだけで、エルザの爪はナナシの一撃に拮抗する事すら出来ずに粉々に砕け散る。

 

「くっ!?」

 

「うらああああああ!!!」

 

しかしその直後、上空に舞い上がっていたミラアルクがナナシ目掛けて急降下してきた。ミラアルクの背にあったはずの羽は無くなっていて、代わりにその両足が禍々しい見た目に変貌していた。

 

ズガアアアアン!!

 

落下の勢いのついたその両足の攻撃を受け、ナナシの足が氷の大地に沈んで地面に大きな罅割れが生まれる。

 

「なっ!!?」

 

しかし、ナナシは左手一本でミラアルクの攻撃を完全に受け切っていた。それもただ受けたのではなく、左手でミラアルクの足をガッシリと掴んで握力のみで受け止めていた。

 

「こんの…っ!!?」

 

ズガシャアアアアン!!

 

ミラアルクが藻掻くよりも早く、ナナシはミラアルクを掴んだ腕を持ち上げ、容赦なく氷の大地に叩きつけた。背中を氷に強く打ち付けたミラアルクは息が詰まり、痛みで意識が飛びそうになる。

 

「ミラアルク!!」

 

(エルザ…ジェムの、準備を!!)

 

「っ!?」

 

仲間の危機に飛び出そうとしたエルザだったが、何か策があるのかミラアルクは念話でエルザに呼び掛けてその動きを制止させた。エルザは一瞬悩んだが、ミラアルクを信じて懐のテレポートジェムに手を付けたまま待機する。

 

再びナナシがミラアルクを氷の大地に叩きつけようと腕を持ち上げた瞬間、ミラアルクの両足の肉が両手に移動するように蠢き、隙間が出来た事でナナシの手からミラアルクの足がすっぽ抜けた。

 

「うりゃあああああ!!」

 

ミラアルクはそのまま禍々しい見た目になった両手でナナシに掴みかかった。どうやらミラアルクは自在に動かせる筋繊維を特定部位に集中させる事で肉体を強化出来るようだ。

 

ガシッ!ガシッ!

 

「ぐあああああ!!?」

 

しかしミラアルクの不意打ちに、ナナシは難なく対応してミラアルクの両手に自分の両手を組み付けた。そのままミラアルクを圧倒するように、両手に力を入れてミラアルクの強化された手をミシミシと軋ませる。

 

(だけど…視線は通ったゼ!!)

 

痛みに顔を歪めながら、ミラアルクは貼り付けたような笑みを浮かべながらも奥底に憤怒を宿すナナシの瞳を見つめる。互いの視線が交わった事で、ミラアルクは奥の手を使用するための準備が整った。

 

不浄なる視線(ステインドグランス)』…自身の瞳を相手の瞳と合わせる事で、相手の精神に強制干渉して暗示を植え付ける技だ。

 

しかしこの能力には弱点があり、強固な意志の持ち主には効果を発揮出来ないため、暗示を植え付けるには事前に相手の精神を揺さぶる必要がある。

 

(本当は『刻印』を刻みたいところだけど、ちょっと怒らせた程度じゃ厳しいんだゼ…それでも、目眩まし程度にはなるはず!)

 

一瞬でもナナシの隙を突く事が出来れば、エルザの元へ駆け寄りジェムでの離脱が可能となる。故にミラアルクは、ナナシに対して能力を行使して…

 

 

 

(あ゛ぁ゛?羽虫風情が何見てやがんだ!!)

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああああ!!?!?」

 

…能力を使った瞬間、ミラアルクは大絶叫を上げた。その両目から血の涙を流し、全身を痙攣させて藻掻き苦しむ様子にエルザやサンジェルマン達はおろか、ナナシでさえ困惑してミラアルクから手を離してしまった。

 

「ミラアルク!!?」

 

「ちょっ!?あーた一体何したのよ!!?」

 

「幾ら敵とはいえ…」

 

「思わず憐れんでしまう程に惨い事になっているワケダ」

 

「いや知らねえよ!?何か仕掛けようと企てていたみたいだから、真っ向から捻じ伏せて凹ませようと思っていたら勝手にそいつが自爆しただけだ!!」

 

エルザが駆け寄り、ナナシ達がそんな会話を繰り広げているが、ミラアルクにはそれに気づく余裕さえない。

 

(な、なん、何なんだゼ!?この男の精神力は!!?)

 

ミラアルクの不浄なる視線は、言うなれば自分の精神で相手の精神と心に干渉する力だ。自分より精神力の弱い相手なら容易く精神の壁を穿ち、意のままに心を操る事が出来る。しかし自分よりも強い精神力を持つ相手には精神を震わせて少し動揺させるのが関の山だろう。そういった相手には、能力を使う前に何らかの手段でその精神に深い傷を作り、その傷に『刻印』を刻む事で心に干渉出来るバックドアを作り出すのだ。

 

では、そんな力をフィーネやウェル博士、キャロルやサンジェルマン等、世界を敵に回す程の覚悟と信念を持つ者達に、これまで幾度も言葉と意志で真っ向からブチ当たってきた“紛い物”に使用すればどうなるだろうか?…鋼鉄の塊にガラスを叩きつけたようなものだ。凹む程度で済む訳が無い。

 

蹲るミラアルクを見たエルザは、これ以上の戦闘継続は不可能と判断して即座にテレポートジェムを地面に投げた。これ以上事態が悪化する前に何としてでもミラアルクを連れてこの場を離脱しなければならない。ジェムが地面に達する時間をとてもゆっくりに感じながら、エルザはその小さな体で懸命にミラアルクを守るようにナナシ達を威嚇する。何故か動きを見せないナナシ達の前で、遂にジェムが地面に接触する…

 

 

 

「知らなかったのか?“紛い物”からは逃げられない」

 

 

 

ズボォッ!!

 

…寸前、氷の地面を突き破って出てきた赤い何かがジェムを絡め取った。それはナナシが足元からコッソリ伸ばしていた血液であり、血液がエルザの目線の高さまでジェムを持ち上げると…エルザの目の前で、ジェムは幻であったかのようにフッと消えてしまった。

 

理解出来ぬままに唯一の希望を奪われたエルザは、唯々言葉を失って呆然とする事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

(エルザちゃん!?ミラアルクちゃん!?お願いだから返事をして!!)

 

朦朧とするミラアルクの頭に、ミラアルク達を心配するヴァネッサの念話が響き続けていた。

 

(エルザ…そうだ、エルザだけでも、逃がさないと…!)

 

未だに意識はハッキリせず満足に体も動かせないが、『家族』を守るためにミラアルクは気力だけで立ち上がろうとしていた。

 

ゴンッ!!

 

「ワオオオオオオオン!!?」

 

「っ!!?」

 

鈍い打撃音の後にエルザの絶叫が響き、そこから何も聞こえなくなる。その事態にミラアルクは急速に意識を浮上させ、地に足をついて立ち上がった。

 

「エルザ…エルザに、手を出すなぁあああああ!!!」

 

立ち上がったミラアルクはそう絶叫しながら、先程までナナシが立っていた場所に飛び出すように駆け込み、その禍々しい腕を突き出そうとして…

 

「っ!!?!?」

 

…ナナシが首を掴んで盾のように掲げる、グッタリとしたエルザの姿を見て、ミラアルクは咄嗟に動きを止めた。

 

「なっ…あっ…」

 

「へえ?蝙蝠と犬なのに一丁前に仲間意識があるのか?だったら…こうすれば心をへし折れるよな!」

 

ザシュッ!!

 

「…え?」

 

エルザの胸部から血に塗れた腕が生えてきて、舞い上がった血飛沫がミラアルクの顔を濡らした。ミラアルクが呆然としている間に、エルザの体からナナシの禍々しい腕が引き抜かれ、胸に大穴を空けた虚ろな表情のエルザが氷の大地へドサリと落ちて、エルザを中心に血の海が広がった。

 

「あ…あああ…うわああああああああああ!!!」

 

エルザの亡骸を前にミラアルクは絶叫して、仇であるナナシに飛び掛かる。しかし我武者羅に振るわれるミラアルクの拳は全て“障壁”に防がれてしまい、ミラアルクはナナシに近づく事さえ出来ない。

 

「よくも!よくもエルザを!!ウチの家族を!!!殺す!殺してやる!!」

 

それでもミラアルクは決して攻撃の手を止めようとはしない。瞳から涙を流し、怨嗟の籠った呪詛の言葉を叫びながらナナシへと拳を振るい続ける。ナナシはそんなミラアルクを“障壁”越しに少しの間見つめたかと思うと…不意に“障壁”を解除して、ミラアルクの拳を掻い潜って近づくと、右手でミラアルクの首を掴み取りその体を持ち上げた。

 

「っ!!?」

 

「別にさぁ、お前らが取ろうとした『手段』について、どうこう言うつもりはねえんだよ」

 

首を絞めつけられ、身動きの取れなくなったミラアルクを感情の見えない瞳で見つめながら、ナナシは淡々と言葉を紡ぐ。

 

「成し遂げたい悲願があって、それを邪魔する敵がいて、敵を排除するために弱点を、敵が大切にしている存在を狙う…実に合理的だ。それを卑怯卑劣と非難する気はない。ただな…家族を、大切なモノを持つ側の気持ちを理解していながら、自分達の都合で他人の大切なモノに狙いを定めておいて、いざ奪われる側に回ったからと恨み言を、『理不尽』の感情をぶつけようとするのは…頭の中身が都合良過ぎんだろうが!このクソ羽虫がああああ!!」

 

ズガアアアアアアアン!!!

 

「ぐああああああああああ!!!」

 

叫ぶと同時に、ナナシは一切の容赦なく首を掴んだミラアルクをそのまま氷の大地に叩きつけた。体の半分近くを氷にめり込ませたミラアルクは、ダメージによって最早意識を保っている事も出来なくなった。

 

「エ、ルザ……エル…ザ…」

 

譫言を零しながら薄れていく意識の中で、ミラアルクが最後に目にした光景は…

 

「きゅううぅ…」

 

…先程胸を穿たれたエルザの体がドロリと崩れるのと同時に、まるで鏡張りの壁が消えるように虚空から姿を現した、頭にタンコブを作って目を回すエルザの姿だった。

 

 




原作の意趣返しw
XV編で最も頭を悩ませたのはノーブルレットとの接触タイミングだったりします。諸事情で序盤に接点を持つのは確定だったのですが、捕獲タイミングを悩んだ結果XV編開始から五話も持たなかったw
一応別ルートの案もあったんですよ?ライブを襲撃した瞬間ナナシが魔改造した会場でミラアルクが地獄を見る展開とか…え?ノーブルレッドが最後まで悪役として主人公達と対立する展開?謀略でこの作品の主人公と張り合えるとでも?
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