戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
コーン…コーン…シャッ…シャッ…コーン…コーン…
「ん…?」
何やら金属同士を打ちつけたり、擦り合わせるような音を聞き、ミラアルクはゆっくりと目を覚ました。霞む視界でぼんやりと辺りを見回していると、自分の隣に座る…轡を口に付けられて、椅子に手足をガッチガチに拘束された状態で眠るエルザを見つけた。
(エル、ザ…?………っ!?エルザ!?エルザ!!?生きているんだゼ!!?!?)
「むー!むーむー!!」
エルザに呼び掛けようとしたミラアルクだったが、その口からは空気が漏れるような音しか出てこない。よく見ると、自分もまたエルザと同じように拘束されている事が分かった。そのためミラアルクはエルザに対して念話で呼び掛けた。
(エルザ!エルザ!!目を覚まして欲しいんだゼ!!!)
(うーん…ミラ、アルク…?)
頭の中に響く声に、エルザも意識を取り戻す。そしてミラアルクと同様にぼんやりと周囲を見回して、ミラアルクと自分の現状を徐々に把握し始めた。
(我々は、囚われてしまったでありますか…面目ないであります。私めがジェムの使用を妨害されなければ、こんな事には…)
(エルザのせいじゃないんだゼ!ウチが失敗して、逆に隙を晒したから…でも、エルザが無事で本当に良かったゼ…)
意識を失う前に見た光景が都合の良い幻覚で無かった事に、ミラアルクは囚われてしまった状況にも関わらず心から安堵してしまった。
(無事とはとても言い難い状況であります…恐らくここは奴らの本部、我々を捕らえたのは情報を聞き出すためであります。そのために奴らが一体どんな手段を取るか…それにしても、先程から響いている妙な音は一体なん、の…)
ようやくしっかりと定まってきた視界で再び周囲を見回したエルザが、動きを止めて固まってしまった。ミラアルクもエルザの視線を追って前方を確認して…ビシリと体を硬直させてしまった。
コーン…コーン…シャッ…シャッ…コーン…コーン…
二人の視線の先では、自分達を捕らえたナナシが一人で何やら一心不乱に作業をしていた。ナナシの周囲には、大きくて奇妙な物体が三つ並んでいる。
それを知らない者が見たら連想しそうなのは、ロシア人形のマトリョーシカだろうか?緩やかに人の輪郭を模した形状の物体が大、中、小といった具合にサイズが異なる同じ物が並んでいる。
しかし通常のマトリョーシカと大きく異なる点は、まずそのサイズが一番小さい物でも小柄な人間がすっぽり収まりそうな程巨大である事、そしてマトリョーシカは胴体を横向きに分割されて上下に分かれるようになっているのに対して、その物体はどうやら縦に分割されているらしい。材質も軽い木製ではなく、開閉が容易とは思えない程ズッシリとした鉄製である。
そしてマトリョーシカと最も異なる点はその物体の中身である。マトリョーシカは構造上、中の人形を取り出してしまえば中身はただの空洞であるのに対して、ナナシが外装を開いて何やら作業をしている最も大きい物体の中には…鋭い棘が先端を内側に向けてビッシリと生えている。ナナシは真顔でその棘の一本一本をトンカチで叩いて先端の角度を調整したり、ヤスリで削ってその鋭さに磨きをかけていた。
どう考えても穏便な用途とは思えないその物体を前にエルザ達がフリーズしていると、扉が開いて複数の人間がゾロゾロと入ってきた。
「兄弟子!国連への棺の引継ぎ作業、完了しました!これから兄弟子が捕まえた結社残党の事情聴取との事ですが、何か、お手伝い…でも……」
棺撃破後の諸々の事後処理を終えてナナシを手伝おうと入室してきた響達であったが、恐ろしく物騒な代物を手入れするナナシの姿に絶句してしまった。しばらく膠着状態が続いた後、弦十郎がゴホンと咳払いして恐る恐るといった様子でナナシに声をかけた。
「あー…ナナシ君、それは一体何だ?」
「『鉄の処女』…いや、『アイアンメイデン』の方が一般的な呼び方だっけ?まあそんな感じの拷問器具だ。使い方はこんな感じ」
ギィィィ…ゴロン
『ひぃぃぃ!!?!?』
ナナシが軽い口調でそう言って小さいアイアンメイデンと中くらいのアイアンメイデンを開くと、エルザとミラアルクを模した人形が穴だらけになって中から転がり落ちてきた。
「おまっ!?これじゃただの処刑じゃねえか!!?」
「まあ確かに拷問と処刑がセットになった器具ではあるな。敢えて急所を外して全身から血を搾り取る事で苦痛を感じさせながら失血死させる感じだ。特に今回は血が出る量を極力少なくする調整を施したから…丸一日は血の気が引いていく感覚を味わえるはずだ」
淡々とした声でそう言いながら、ナナシはカンコンとアイアンメイデンの調整をし続けていた。
(マママ、マズいであります!?このままでは我々は串刺しでありますよ!!?)
(おおお、落ち着くんだゼ!?き、きっとこれはただの脅しなんだゼ!所詮こいつらは綺麗ごとを並べ立てるだけの甘ちゃん集団なんだから、あんな拷問器具なんて碌に使った事の無い見掛け倒しのはず…)
ドン!!
『ひぃぃぃ!!?!?』
怯えるエルザにミラアルクが強がってみせていると、ナナシが“収納”からもう一つ…ベッタリと血で汚れたアイアンメイデンを取り出した。
「これは俺が改良に改良を重ね、(俺の)血を限りなく効率的に絞り出す事に特化させた『メイデン七号』だ。その効率は(俺の)体をナイフでめった刺しにしていた頃とは比較にならない。多分この拷問器具に関しては俺以上に詳しい奴は居ないんじゃないかな?そこの蝙蝠と犬っころ、そして何処かに隠れているもう一匹の害獣の血もジックリタップリ時間を掛けて搾り取ってやる」
ガタガタガタガタ…
真顔で紡がれるナナシの言葉に、エルザ達は震える事しか出来なかった。ハッタリと判断するには、ナナシの取り出したメイデン七号の風格があり過ぎる。血によって変色していない場所の方が圧倒的に少ないその器具は、これまでに夥しい数の犠牲者の血を吸ってきた事が簡単に理解出来る程の威圧感が漂っていた。実際にはただ一人の設計者兼被験者によって都市を優に包み込める程の血液を抽出してきただけという…どちらかと言うとエルザ達の想像よりも真実の方がヤバイ。
「あ、あの~、兄弟子?ちょっと脅かし過ぎじゃないですかね?その子達ももうすっかり怯えているみたいですし、そろそろお話出来るようにすれば色々聞き出せるんじゃないかなーって思うんですけど…」
ガンッ!!
ナナシが本気でエルザ達に非道な事をするはずが無いと信じている響は、ナナシはあくまで二人を怖がらせて情報を聞き出そうとしているだけと判断して宥めるように声をかけたが、その瞬間ナナシはアイアンメイデンの針に思い切りトンカチを振り下してひん曲げてしまった。そしてナナシはとても良い笑顔を浮かべながら絶句する響へと振り返った。
「あはははは!こいつらとOHANASHI?響は面白い事を言うな~?そんな事をして、響はこいつらから一体何を聞き出すつもりなんだ?」
「そ、それはもちろん、その子達の目的は何だったのかなとか…は、話が出来たなら、きっと手を取り合う事も出来るはずです!!」
「響は優しいな~…でもな?どんな事情だったら、こいつらが今度のツヴァイウィングのライブを襲撃してウチのSAKIMORIの心を傷つけようとした免罪符になると思う?」
『あっ…』
「っ!!?」
目が一切笑っていない笑顔でそう問いかけたナナシの言葉で、全員が察したように声を漏らした。翼だけが顔を赤くして目を見開き、奏が苦笑しながら頬を掻いている。
「今度のライブはなぁ、世界デビューを果たしたツヴァイウィングが国内のファンに向けた特別凱旋公演…奏はもちろん、海外進出を決めた時ファンに背中を押してもらった翼が特に気合を入れているライブなんだよ。そんな大切なライブを襲撃して、あまつさえ翼の、最近は良い感じに固さが抜けてアイドルとしても防人としても日々精錬されていく翼の心に楔を打ち込む?そんなのは…全身に楔を打ち込まれても文句の言えない所業だと思わないか?」
「え、えっと、その…」
「もちろん大切なモノなんて人それぞれで、響の言う通りそいつらの話を聞いてみれば情状酌量の余地があるかもしれない。でもな?話を聞いた結果、俺達がぶっ潰した亀野郎の中に納められていた『聖骸』…そこに秘められた神の力をそいつらが狙った理由がもし世界征服だとか永遠の命みたいなクソ下らない事だったら…全身穴だらけにする程度では済まさねえぞ?そう考えると、このまま何も聞かずにこのメイデンシスターズ(たった今命名)でサックリ処刑してやった方がお互いのためじゃないかな?カナ?」
「いや、それは、ちょっと…」
早口で捲し立てて圧を放つナナシに響は反論する事が出来ず、かと言って賛同する訳にもいかずダラダラと冷や汗を流して困っていた。
(そこのシンフォギア装者!もっと頑張るんだゼェエエエ!!)
(せめて命乞いの機会を生み出すでありますよぉおおお!!!)
何も出来ないエルザ達は心の中で必死に響を応援していた。すると…
(エルザちゃん!ミラアルクちゃん!お願いだから返事をして!!)
…エルザ達の脳裏に、必死に呼び掛けるヴァネッサの念話が伝わってきた。二人が意識を失ってから、ヴァネッサは二人と連絡を取るため何度も念話を繋ごうと試みていたのだ。
(ああ、ヴァネッサ…ウチらはもう駄目そうだゼ…)
(今まさに、弁明の余地すら与えられず我々の処刑方法を検討されているであります…こうなった以上、せめてヴァネッサだけでも逃げ延びて…)
(馬鹿な事言わないで!二人の事はお姉ちゃんが絶対に救い出してみせる!今拠点で使える物資をかき集めているから、それが終わったらS.O.N.G.に襲撃を仕掛けるわ!エルザちゃん達は少しでも連中に隙が出来たら可能ならジェムでの脱出を!)
(それが出来れば苦労しないんだゼ…)
(こうも厳重に拘束されては、手足どころか尻尾や羽さえ出せないでありますよ。仮に拘束が解けたところで、拠点に転移するためのジェムはあの男に奪われて…)
パリンッ!!
エルザが現状をヴァネッサに報告していると、突然室内にガラスが割れるような音が響き渡った。室内の全員が音の発生源に目を向けると、ナナシの足元に割れたジェムの残骸が…
『えっ?』
「同じ失敗を繰り返すって…どうやら知能も獣程度らしいな?もう一匹が巣に戻っているみたいだから、ちょっと捕獲してくる!」
「ちょっ!?兄弟子!!?」
困惑する響達を置き去りに、ナナシはエルザから奪ったジェムで転移してしまった。
(わあああああヤバイんだゼェエエエ!?)
(ヴァネッサ!我々を一人で制圧した敵がそっちに向かったでありますよ!!)
ナナシが転移したのは、何やら薄暗い建物の中だった。ナナシがキョロキョロと周囲を見回すと、辺りには怪しげな機器等が並んでおり…そこに、臨戦態勢でナナシを睨む長身で褐色肌の女性がいた。
「お前がヴァネッサか?」
「……」
「うーん、イメージと違うな?犬、蝙蝠と来たから、今度はどんな獣的特徴があるのか少しだけ楽しみにしていたのに、見た目は普通の人間だな?ちょっと期待外れだ」
ジロジロと不躾な視線を向けるナナシに、ヴァネッサは無言で警戒しながら必死に思考を巡らせていた。
(この男が、神の力をその身に宿した存在…エルザちゃんとミラアルクちゃんが二人掛かりで勝てない相手に、私一人が正面から立ち向かったところでどうにもならない。だったら…!)
ヴァネッサは覚悟を決めると、両手を上げて警戒態勢を解いた。
「降参するわ。まともにやっても勝てそうに無いしね?分かり合いましょう?」
そう言って朗らかな笑みを浮かべ、ヴァネッサは胸元のファスナーを降ろしていき、その豊満な肉体に宿る色気を主張しながらゆっくりとナナシへ歩み寄っていった。
「へぇ…」
そんなヴァネッサの行動を、ナナシは興味深そうな様子で眺めてニヤリと笑みを浮かべた。そんなナナシの態度にヴァネッサは内心でほくそ笑みながら、胸元を強調しつつ更にナナシへと接近していく。
「私達はね、皆と仲良くしたいだけなの。だから…」
ヴァネッサはそう言ってナナシの手を取り、そして自分の胸元のファスナーを握らせた。ヴァネッサの意図を察したナナシは、ニヤニヤと楽しそうにファスナーを降ろしていき…
「なんてね?」
ボロンッ!!
「!!?」
ヴァネッサの衣服の中から露わになった豊かな胸部…ではなく、二つのミサイル弾頭を目撃したナナシは、本気で驚愕した様子で体を硬直させてしまった。
ドゴオオオン!!!
ミサイルはナナシに直撃して凄まじい爆発を巻き起こし、ヴァネッサは爆風に乗って建物の窓を突き破り外へと脱出した。爆発の衝撃は建物の壁や天井に亀裂を生み出し、少しすると建物は完全に崩れ落ちてしまった。爆炎が瓦礫に引火してしまったようで、建物が崩れた跡には激しい炎が立ち上っている。
「ハァ…ハァ…フフフ、どれだけ強大な力を持っていても、男である以上女の魅力を前には人も神も無力ね?」
「あっはははは!Exactly!!」
「!!?」
策が完璧に決まったと思っていたヴァネッサは、炎の中から響いてきたその笑い声に思わず固まってしまった。
「魅力的な女のためなら国だろうが世界だろうが貢いでみせるのが男の性だ!普段から世界一の歌声で魅了されている俺に一体どんな方法で気を引くつもりか楽しみにしてみれば…まさかおっぱいミサイルなんて技をリアルで披露されるとは!興奮で思わず固くなってしまったぜ!!」
心底楽しそうに笑いながら悠々と姿を現したナナシに、ヴァネッサは警戒しつつも奇妙な違和感を覚えた。
(肌が、黒い?炎で焦げている?)
炎の中から現れたナナシは、全身が真っ黒になっていた。もしや先程のミサイルでダメージを与えたのでは考えたヴァネッサは、ナナシに追撃を加えるために指先をナナシへと向け、指先に生じた銃口から無数の弾丸を放った。
ガキンガキンガキンガキン!!!
「なっ!!?」
しかしヴァネッサの放った弾丸は全てナナシの皮膚にはじき返されてしまった。確かに弾丸が当たったはずのナナシの皮膚には傷一つ付いていない。そんな自分の体をナナシ本人は興味深そうに眺めていた。
「流石は一作品で最強の盾を名乗るだけはあるな?それじゃあ次は最強の矛を試してみるか!」
そう言ってナナシは先程のヴァネッサと同様に指先をヴァネッサに向けた。それを見たヴァネッサが咄嗟に射線上から逃れるようにその場を離れると…
シュガッ!!
…ナナシの指先が勢いよく伸びて、先程までヴァネッサが立っていた地面へと突き刺さる。そのままナナシが横薙ぎに手を振るうと、ナナシの指先が刺さった地面に鋭利な刃で切り裂いたような跡が出来上がった。
「お~!これは便利だ!やっぱり日本の漫画は最高の指南書だな!あははははは!」
両手の指を鋭く伸ばして高笑いを上げる漆黒の化物を前に、ヴァネッサは冷や汗を流して…自分とナナシの間の地面に手首からミサイルを放って爆炎と土煙で煙幕を張ると、足のブースターを使って空を飛び猛スピードでその場を離脱し始めた。
(ムリムリムリムリ!あんなの相手になんてしてられない!!)
自分の攻撃を至近距離で受けてピンピンしている上に、とんでもなく物騒な攻撃手段まで有しているのだ。接近されたらヴァネッサは終わりである。
(考えようによってはこれはチャンス!あの男が自分の所在を把握する前に私がS.O.N.G.を襲撃して二人を救出する!エルザちゃんとミラアルクちゃんを、私の可愛い妹達を絶対に救い出して…)
「へぇ~!体中から重火器を放って足から火を噴いて空を飛ぶ。まさにアニメのサイボーグって感じだな!」
ヴァネッサのすぐ傍から、聞こえてはいけないはずの声が聞こえてくる。このまま目を逸らして気のせいだと思い込みたいが、確認しない訳にもいかず、恐る恐る声のした方向へヴァネッサが視線を向けると…足の飛行ユニットを興味深そうに観察しながらピッタリと追尾してくるナナシの姿があった。
「いやあああああああああああああ!!?!?」
ヴァネッサが悲鳴を上げながら、ブースターの負荷さえ気にせず限界以上の出力を出して加速する。時に蛇行して、時に直角に軌道を変え、様々なフェイントを交えながらナナシを引き離そうとするが、ナナシはその全てを把握しているかの如くヴァネッサと全く同じ動きで
「いやああああ!?何で!!?何で当たり前みたいに空を飛んでいるのよぉおおお!!?」
「あっはははは!そりゃ何処までも高みに飛んでいくアイドルの追っかけするには、空の一つも飛べなきゃ話にならないだろうが!!」
「ファンにどれだけ高いハードルを強いているのよあなた達はぁああああ!!?」
どれだけフェイントを入れても無駄と悟り、せめて頭上を取られまいとヴァネッサは空高く上昇する。その後ろを当たり前のように追尾するナナシに重火器を雨あられのように降り注がせるが、やはりその黒い肌に傷一つ付ける事が出来ない。募る焦りから、ヴァネッサは更にブースターの出力を上げてナナシを引き離そうとして…
ブスン!ブスン!
「あっ!!?」
遂に、飛行ユニットがオーバーヒートして機能を停止してしまった。気が付けば周囲の山々を見下ろせる程の高度に至っていたヴァネッサの体は、重力に抗う事叶わず徐々に落下していく。
ガシッ!
「がっ!!?」
「あははははは!せっかく刺激的な空中散歩に洒落込んだんだ!どうせなら最後に絶景を拝んで締め括ろうぜ!!」
しかし落下するヴァネッサの首をナナシが鷲掴みにして、先程までを優に超える飛行速度で更に上昇し始めた。やがて二人は雲さえも乗り越え…星の輪郭さえも目視出来る領域にまで踏み込んだ。
(どうだ絶景だろう?眼下には青く輝く地球に、頭上には遮る物の無い満天の星空!いつかここにステージを作れれば、最高に盛り上がるライブが出来ると思わないか!?…ちょっと観客を集めるのが大変そうだけど)
(い、息が…!?)
常人に比べれば遥かに頑強な肉体を持つヴァネッサでも、こんな生物が生存出来ないような環境では長くは持たない。苦し気なヴァネッサに、ナナシはとても邪悪な笑みを浮かべて問いかけた。
(さてさて、宴もたけなわって事で楽しい空中散歩を終わらせてお前を家族の元へエスコートしても良いんだが…嫌ならここで現地解散しても構わないけど、どうする?)
(!!?)
いけしゃあしゃあとそんな事を問いかけるナナシに、ヴァネッサは顔を歪ませる。もはや選択の余地など在りはしない。この状況でヴァネッサに選べる事など、大人しく捕虜になる以外は落下死と窒息死のどちらかくらいだ。
(降伏、するわ…だから早く、私を家族の元へ…!)
(あっはははは!任せておけ!!え~っと、南極の方向は…)
悔し気に敗北を受け入れたヴァネッサの首から手を離し、その体を両手で抱えたナナシは、現在S.O.N.G.本部のある南極の位置を探ると、ニヤリと笑みを浮かべた。
(希望通り、『速く』家族の元へ連れて行ってやろう!それはもう最速で!最短で!!真っ直ぐに!!!一直線に!!!!)
(へ…?あ、いや、あの、やっぱりそんなに急がなくても良いんじゃないかしら!?もうちょっと空中散歩を楽しみましょう!!?)
(ああ、しっかりと楽しむとしよう!ジェットコースターやスカイダイビングは立派な娯楽だよな!!)
(いや、そうじゃなくて!?もっと優雅でお淑やかにぃいいい!!?)
ビュオオオオオオオオッ!!!
「いやああああああああああああああああああああ!!?!?」
「あっはははははははははははははははははははは!!!!!」
ヴァネッサの希望も虚しく、明らかに重力の加速以上に勢いを増しながら、涙と流して風圧で顔を歪ませるお淑やかとは程遠い形相でヴァネッサはS.O.N.G.に移送されるのだった。
はい、ノーブルレッド一網打尽ですw
次回ようやく主人公の現状について言及します。大体察しはついていると思われますがw