戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
高評価感謝です!
ペラ…ペラ…ペラ…ペラ…
静かな室内に、本を捲る音だけが響く。S.O.N.G.本部の一室で、ナナシが漫画を読んで寛いでいた。そして…同じ室内の隅っこに、拘束を解かれたヴァネッサ、エルザ、ミラアルクの三人が極力ナナシと距離を置くように固まって身を置いていた。
現在S.O.N.G.本部は米国が主導して調査する事になった『聖骸』の移送を離れた場所から監視していた。ヴァネッサ達の身柄を確保してから既に三日が経過している。ナナシは三人を飼うと発言してから、食事と衣服を提供する以外は三人とほとんど接触しようとせず、日に一定の時間を同室で過ごす事を繰り返していた。
自分達をペットとして飼うと宣言した相手に、当然ながらヴァネッサ達は最大限の警戒しているためナナシに近づこうともしない。最初は食事にも手を付けようとしなかったが、いつまでも飲まず食わずでいる訳にもいかないので初日以降は警戒しつつも割り切って出された食事を口にしていた。そんなヴァネッサ達の事を咎める事も宥める事もなく、ナナシは部屋に訪れても基本三人の事を放置していた。
未だ最低限の接触しかしてこないとは言え、自分達の事をどうにでも出来る存在が同じ室内にいるのはストレスでしかなく、三人は不快感を隠そうともせずナナシを睨みつけていた。
(クソ忌々しいんだゼ。やっぱり多少の無茶をしてでも、どうにかここを脱出しないと…)
キュッ!!
「かっ!?」
「ミラアルク!?」
「ミラアルクちゃん!?」
ミラアルクがそう考えた瞬間、その首に付けられた首輪が締まってミラアルクは息を詰まらせた。
「やめて!やめなさいよ!!」
「……」
ヴァネッサが必死に叫ぶが、ナナシはヴァネッサ達に視線すら向ける事無く漫画を読み耽っている。そして丁度十秒が経過した段階でミラアルクの首輪が元に戻り、呼吸が出来るようになったミラアルクは深く息を吸って落ち着きを取り戻した。
「クソ…!」
この三日間で今のようなやり取りは幾度となく繰り返されていた。何の説明も無く唐突に締まる首輪に三人は理不尽と憤怒を感じていたが、何度も経験するうちに嫌でも理解してしまった。この首輪は三人が脱走または攻撃の意志を持った時に一定時間締められるという事を。反抗の意志を持つ間はどれだけ他の仲間が訴えても首輪が緩まる事は無く、意識を失うギリギリまで苦しみを味わう事になる。解放されて息を整えてもまだ反抗の意志があれば何度でも同じ事の繰り返しだ。
逆に言えば、それ以外では首輪が締まる事は一切無かった。どれだけ喚き叫んで罵倒の言葉を口にしても、反抗の意志さえなければ首輪が作動する事はない。ただの一度でさえ誤動作が無いため、幾ら口で理不尽を訴えたところでそれぞれに心当たりがあるため、完全にゼロとはいかないが自然と反抗の意志を持つ事は少なくなっていた。
そんなヴァネッサ達とナナシの様子は隣の部屋から見る事が可能となっており、そこには響とサンジェルマンの姿があった。響はヴァネッサ達の事を心配して、サンジェルマンは結社の元最高幹部としての責任感から頻繁に三人の様子を確認しに来ていた
「今日も進展は無さそうだな」
「はい…兄弟子の事だから、きっと大丈夫だとは思いますが…」
これまでの実績から響はナナシに全幅の信頼を寄せている。サンジェルマンもナナシの手腕は理解しているが、どうしても気になってナナシが入室している時は自然と監視部屋に集まっていた。
「やっぱりここにいた」
「碌に変化もないのによく長居出来るワケダ」
「プレラーティ、カリオストロ…」
するとそこに、サンジェルマンを探してプレラーティとカリオストロが入室してきた。
「あんまり辛気臭い顔していると、壁越しにでも伝わってあの男にからかわれるわよ?」
「サンジェルマンが全てを抱えるべき事柄でも無いし、貴様に至っては何の責任もないワケダ。一朝一夕で済む事でもないのに、今から精神をすり減らしていては身が持たないワケダ」
「分かってはいるけど…」
「ああ…」
プレラーティの言葉も理解しているが、二人の曇った顔が晴れる事はない。するとおもむろに、カリオストロが隣の部屋に繋がるマイクを起動してナナシに声をかけた。
「ちょっとちょっと上司様~!あんまり退屈だからあーしらのリーダーとあんたの可愛い妹弟子ちゃんが辛気臭い顔してるんだけど、少しは進展ないわけ?差支えなければこの何待ちか分からない時間の意図を教えてもらいたいんだけど~?」
「えっ!?」
「カリオストロさん!!?」
唐突に核心を突くカリオストロに、響とサンジェルマンが慌ててしまった。こんなヴァネッサ達にも聞こえるような形で問いかけて、ナナシの想定と外れてしまうのではないかと心配したのだ。
しかし響達の動揺とは裏腹に、ナナシは落ち着いた様子で漫画をパタンと閉じると、静かな口調で話し始めた。
「他所からペットを迎え入れた際、飼い主が最初に気を付けるべき事は何だと思う?」
「え…?」
「最初に気を付けるべき事…?」
「そう、ほとんど全てのペットに共通する、最初に気を付けるべき事だ」
「えっと…必要な物を揃える、とか…?」
「それはペットを迎え入れる『前』に終わらせておくべき事だ。ペットを迎え入れる場合、事前に行うべきはまず情報収集だ。ペットが生活出来る環境を用意出来るのか?そのために必要となる物は何か?もしもの場合にそのペットを看てもらえる通院可能な医療施設が存在するのか?初期費用と継続的にかかる飼育費用を算出して経済的に問題が出ないのか?自身の生活サイクルを見直して世話に必要とされる時間を確実に確保出来るのか?これらを想定した上で実際に共同生活を送りつつ不足を補うだけの時間的、経済的、何よりも精神的余裕を維持出来るのか?…うん、ペットを迎え入れる『前』にするべき最低限がこれくらいかな?」
「へ、へ~…そうなの…」
唐突にガチめのペット飼育の心得を聞かされ、カリオストロは思わずたじろいでしまった。
「そういった諸々の準備をした上で、いざ実際にペットを迎えて最初に気を付けるべき事は…飼い主はしばらくペットとの接触を最低限に留める事だ」
「え?遊んであげないで良いんですか?」
「新しい環境に来た生き物は、まずその環境に適応しようとする。右も左も分からない中で、何が危険で何か安全か必死に探ろうとしているんだ。そんな中でペットが最も恐怖を感じるのが、同じ環境にいる別の生き物…飼い主になるだろう。いきなりよく分からん生き物が近づいてきたり体を触ってきたら怖いだろう?だからまず、飼い主が危害を加える存在でない事を理解してもらう必要がある。犬や猫なら、最低でも一週間程度はケージに入れて一定の距離を保つのが良い」
「な、なるほど…」
「ただし、これは餌だけやって別室に放置すれば良いという訳ではない。接点ゼロだと理解も何も無いからな。同じ空間にいる時間を作り、飼い主もペットもお互いを観察する時間を設ける事も大切だ。だから俺はこうして何をするでもなくこいつらと同室する時間を過ごしている訳だ」
「なるほど……ん?」
響達は途中までナナシの言葉を理解出来ていたはずなのに、最後の一言で致命的に何かが食い違った気がした。
「いや、その…それは所謂、ガチのペットの話よね?」
「当然だろう?俺のペットに対する接し方に質問をされたから、俺は可能な限り分かりやすく説明してみたんだが、分かりにくかったか?」
「ちょっと待つんだゼ!?」
「それってつまり…」
「我々は本気で犬畜生と同じ扱いをされているでありますか!!?」
ナナシのペット発言を聞き、歪んだ欲望のままに玩具のような扱いをされるのではと警戒していた三人だったが、本気で獣同然の扱いをされていると知って思わずナナシに詰め寄ろうとして…
ガンッ!!
「「「ふぎゃっ!!?」」」
…いつの間にか展開されていた“障壁”に、派手に頭を打ち付けた。
「ケージに入れたままなんて可哀想だという意見もあるが、飼い主とペットの双方が慣れない間はお互いの所在がハッキリ分かるようにするべきだ。予期せぬ事故を招きかねない」
「いや今まさに予期せぬ事故で負傷したワケダが…」
「気の長い事を言っているけど、それじゃあと数日はこのままで過ごすの?」
「どうだろうな?今のはあくまである程度健やかに育ってきたペットの話で、これが過去に虐待を受けたペットだとケージから出るだけで何ヵ月か必要な場合もあるから…」
「流石にそこまで時間かけちゃったら、今後の『計画』に支障が出ないかしら?」
「うーん…しょうがない、ちょっと早いが少し段階を進めてみるか」
ナナシがそう言うと“障壁”の形状が変化していき、先程までナナシとヴァネッサ達の間を隔てていた“障壁”に出入り可能な穴が出現した。
「ペットがケージの外に出られるか観察してみよう。自然に出ないなら餌や玩具で気を引いてみるのも良い。そいつらが飼い主である俺に自ら近づいて接触してくるようならケージ卒業も近いって事だ」
あくまでもペットと飼い主のスタンスを貫くナナシに、カリオストロ達はこれ以上何を言えば良いのか分からなくなってしまった。
(何処までも舐めてくれるわね…)
(こんな奴のお遊びに付き合う必要はないであります!)
(どうせ近寄ったところで不意なんて突けやしない。無視だゼ、無視)
流石に念話を盗聴されている事は理解したヴァネッサ達はアイコンタクトだけで意識共有をすると、最初と同じように部屋の隅に陣取った。どうやら徹底してナナシの存在を無視する気らしい。
だが、気を引くと明言した“紛い物”を放置するなど、ハッキリ言ってそれは最悪の選択である。
バサッ!
『っ!?』
何か薄い物が広がるような音につい反応してヴァネッサ達がナナシの方へ視線を向けると、ナナシが真横に伸ばした左手にポスターのような紙を持っていた。そこに描かれていたのは…色気を振り撒きながらナナシに迫っていた時のヴァネッサだった。
「あわわわわ!?あ、兄弟子!女の人にそういう悪戯は良くない気が!?」
「そ、そうだぞ!?私も最初は勘違いしたが、貴様はそういった配慮の出来る男だと考えを改めていたのに…」
「あーよりによってその男にお色気を仕掛けたんだっけ?無謀よね~?それが通じるんだったらとっくの昔にあーしの魅力でメロリンズッキュンさせてるわよ!」
「底の浅い試みで、憐れにもからかいのネタにされているワケダ」
ナナシの行いに隣の部屋ではそれなりの反応が起こるが、からかわれているヴァネッサ本人の反応は冷ややかなものだった。
(その程度の事に動揺でもすると思ったのかしら?私は使える武器を使っただけ。通じなかったことは癪だけど、それを揶揄されたところで別に何とも…)
バサッ!
『っ!!?』
冷静さを保っていたヴァネッサであったが、ナナシが同様に右手に広げたポスターを見て思わず目を見開いてしまった。それはエルザやミラアルク、響達も同じである。
ナナシの右手に現れたポスターに描かれていたのは…マッチョだった。
その鍛え上げられた肉体は、ブーメランパンツしか身に着けていないにも関わらずまるで鎧を纏っているような印象を受ける。ツルリと剃り上げられた頭部は頭皮の筋肉さえ妥協していない事を示すように血管が浮かび、その顔は白い歯をキラリと輝かせる自信に満ち溢れた笑みを浮かべている。
セクシーポーズのヴァネッサとサイドトライセップスのマッチョのポスターを広げるナナシに、意味が分からな過ぎて無視する方針を決めていたヴァネッサ達も意識を向けずにはいられなかった。
(何だ!?何だ!!?一体こいつは何をしたいんだゼ!!?!?)
(あの筋肉達磨に何の意味があるでありますか!!?)
(え?何?私にあのマッチョを嗾けるって事?)
パンッ!
そんなヴァネッサ達の思考が、室内に響く音で遮られる。気が付くとナナシは両手に広げていたポスターを“収納”に仕舞い、大きく広げていた両手を胸の前で勢いよく合わせていた。そしてナナシがその合わせた両手を肩幅程に開くと…
バサッ!(首から下がゴリマッチョと化したヴァネッサのポスターが出現)
『ブフォッ!!?』
「ちょっと!!?」
突如現れた珍妙な姿のヴァネッサの絵姿に周囲が吹き出し、ヴァネッサ本人が思わず叫ぶ。全身に力を漲らせて筋肉を膨張させている体に妖艶な笑みを浮かべる女性の頭が乗っている姿はとても滑稽で、一応女性に対する配慮なのか胸の局部を星型のマークで隠しているのがコミカルさに拍車をかけていた。
「あっはははは!くっだらないわ~www」
「ふひゃひゃひゃ!どうせ体を入れ替えるなら機械よりこちらの方が良かったワケダ!!」
カリオストロとプレラーティは遠慮容赦なく大爆笑している。響とサンジェルマンは気を使ってはいるが口元を手で押さえて悶えていた。ヴァネッサは正直今すぐナナシを殴り倒したくなったが、こんなしょうもない手でまんまとナナシの思惑に乗る訳にはいかないため、ナナシが嬉々として壁にゴリマッチョな自分を張り出す様子をヴァネッサは口元を押さえる妹達と共に震えながら睨みつける事しか出来なかった。
バサッ!(エルザのポスターが出現)
『っ!!?』
ポスターを張り終えたナナシは間髪入れずに次の行動に出る。先程同様ナナシが真横に伸ばした左手には毛を逆立て歯をむき出しにした威嚇状態のエルザがテール・アタッチメントを装着した場面が描かれている。そしてこれまた先程同様反対側に伸ばされた右手に、今度は何が起こるか察するが故に否が応でも全員が注目して…
バサッ!(柴犬のポスターが出現)
「私は犬畜生じゃないでありますううう!!!」
「エ、エルザちゃん!?」
「落ち着くんだぜ!!?」
そのポスターを見た瞬間、エルザが怒ってナナシに近づこうとするのをヴァネッサ達が慌てて引き留めた。
「で、でも!あの男、絶対あの間の抜けた犬畜生と私の頭を入れ替えて人面犬にする気でありますよ!?」
エルザが間の抜けたと評するポスターの柴犬は、舌を出してまるで笑っているようにも見える朗らかな表情でちょこんとお座りして日向ぼっこしている。その緩み切った表情からは野性味が全く感じられない。そんなほのぼのモフモフしたワンコの体の上に自分の頭が乗せられた姿はさぞ間抜けに違いないと、エルザは憤らずにはいられなかった。
パンッ!!
しかしそんなエルザの抗議も虚しく、両手のポスターを“収納”したナナシが胸の前で掌を合わせると、再びその手を開いて…
バサッ!!(首から下が少女と化した柴犬のポスターが出現)
『そっち!!?』
「気持ち悪いでありますうううう!!?」
まさかの逆パターンに全員が意表を突かれる。柴犬の頭は癒しオーラ全開なのに首から下は殺意に満ち溢れているため落差が凄まじい。
もはや貶められているのがエルザなのか柴犬なのか分からない珍妙なコボルトのポスターをナナシがまた嬉々とした様子でゴリマッチョヴァネッサの隣に張り出す。流れを考えるなら次は…
バサッ!!(ミラアルクのポスターが出現)
(やっぱりウチだゼ…)
やはりナナシが対象にしたのはミラアルクだった。自分のポスターを前に、ミラアルクはフンと鼻を鳴らして腕を組み悠然と構える。
(壁のスペースを考えれば恐らくこれで最後…人間だろうがケダモノだろうが、何を出されても鼻で笑ってやるゼ!)
そんな意気込みで待ち構えるミラアルクを前に、ナナシは少し間を保つ。高まる緊張感に、周囲の者達がゴクリと唾を飲み込んだところで、ナナシの伸ばした右手から遂にもう一枚のポスターが現れて…
バサッ!!(アブドミナルアンドサイのポーズで微笑むゴリマッチョヴァネッサが出現)
『ブフォアッ!!?』
「ゲホッ、ゴホッ…な、何で!!また私なのよおおおお!!?」
まさかの天丼ネタに全員が堪えらずに吹き出してしまった。ミラアルクとエルザ、そして隣の部屋の者達は床に崩れ落ちて蹲っている。ヴァネッサ本人でさえ不意に差し込まれた自分の変わり果てた姿に声が震えている。
それから少しの間全員がミラアルクとゴリマッチョヴァネッサのキメラが生まれるのではないかと戦々恐々していたが、ナナシはミラアルクのポスターを仕舞って壁の残ったスペースにゴリマッチョヴァネッサを貼り付け、マッチョ女に挟まれたコボルト少女の構図に満足そうにしていた。どうやら奇抜なポスターで気を引く作戦は終了らしい。その事にヴァネッサ達と、何より隣の部屋で酸欠寸前になっているプレラーティ達は心から安堵していた。
(ムゥ…ウチだけ、仲間外れ…)
張り出されたポスターに、ミラアルクは謎の疎外感を感じていた。決して自分の奇抜な姿を見たかった訳では無いが、自分以外の家族が笑い者にされる中で自分だけは無事という状況にはモヤモヤする気持ちがあった。
ドンッ!!
『っ!!?』
しかしそんなミラアルクの想いはお見通しとばかりに、ナナシは次の一手として部屋の中に…等身大のミラアルク人形を設置した。
精巧に作られたミラアルク人形は顎の下にチョキを作り、まるで「あざまーす♪」とでも言っているような挑発的な笑みを浮かべている。
平面のポスターの次は立体の人形である。ミラアルクはナナシがエルザの人形で自分を騙した時の事を思い出して胸の怒りを再燃させた。
(上等だゼ!お前がウチをどれだけ悍ましい姿に変えようが、絶対に動じたりしないんだゼ!!)
そんな決意を籠めてナナシを睨むミラアルク。そんなミラアルクをニヤニヤと見つめながら、ナナシは“収納”から新たに何かを取り出した。
バサッ!!(メイド服が出現)
『へっ?』
ナナシの手の中に現れた物を見て、全員が呆けた声を出してしまった。メイド服である。奇抜な改造など施されていないベーシックなロングスカートのメイド服。それを全員に見せびらかすように広げながら、ナナシはミラアルク人形の肩に触れて人形とメイド服を再び“収納”へと仕舞った。そして両手を打ち鳴らし、前へと突き出すと…
ドンッ!!(メイドミラアルク人形が出現)
「ふあああ…!」
「綺麗であります…!」
ヴァネッサとエルザが思わず感嘆の声を零してしまう。メイド服を着飾って出現したミラアルク人形は先程までの小生意気な雰囲気が払拭され、上品で優雅に微笑みながらカーテシーをしていた。
「ウ、ウチに変な格好をさせて遊ぶんじゃないんだゼ!」
口ではそう悪態を吐きつつ、ミラアルクは正直動揺を隠せないでいた。目の前の人形は確かに自分を模した物だ。耳だって長いし背中からは蝙蝠の翼が生えている。異なるのは衣服だけで、忌み嫌う人外の要素は健在であるにも関わらず…着飾った自分の姿を、少しだけ可愛いと思ってしまっていた。
ドンッ!!(エルザ人形が出現)
ミラアルク達の動揺が収まらない内に今度はエルザの人形が出現した。ミラアルク達はメイドミラアルク人形とコボルト少女ポスターを見比べて、キャリーケースに座る凛とした表情のエルザ人形の未来はどうなるのかとナナシの出方を窺う。そんな中ナナシが取り出したのは…
バサッ!!(チャイナドレスが出現)
「ふぇ!?そ、そんな物を着せるつもりでありますか!!?ダメであります!やめるであります!!」
深いスリットの入ったチャイナドレスを見た瞬間、エルザは顔を真っ赤にしてナナシを止めるために“障壁”の穴を超えようとした。
ガシッ!!
しかしそんなエルザの肩を、ヴァネッサとミラアルクがガッシリと掴んで引き止めてしまった。
「なっ!?ふ、二人共!!?」
「エルザちゃん、挑発に乗ったらダメよ?」
「不用意に近づくのは危ないんだゼ?」
「そ、それはそうでありますが…わうううう!!」
二人の正論にエルザは唸る事しか出来なくなる。そう、二人はエルザが危険な目に遭わないよう心配して引き止めているのだ。決してこの後の展開に期待などしていない。口の端に浮かべている笑みはきっとエルザを止められた安堵の笑みである。
パンッ!!
そうこうしている間に事態は進行する。エルザ人形とチャイナドレスを“収納”したナナシは両手を打ち鳴らし、前に突き出した。
ドンッ!!(チャイナドレスエルザ人形が出現)
「おぉ~…!!」
「これは中々…!」
「み、見えちゃうでありますよ!?今すぐ足を下げさせるでありますううう!!?」
ヴァネッサとミラアルクが目を輝かせ、エルザがワナワナと震えながら絶叫する。ナナシが取り出したエルザ人形は口に肉まんを咥えながらテール・アタッチメントのネイルの上に右足で立ち、左足を大きく上げてポーズを取っていた。まるで拳法使いのようにビシリと決まっているが、高く上げた足によってスリットの奥が見えそうで見えないギリギリの状態になってしまっていた。
ドンッ!!(ヴァネッサ人形が出現)
そして遂に、ナナシがヴァネッサの人形を取り出した。予想通りの展開にヴァネッサは取り乱したりしない。正直多少奇抜な格好をさせられたとしても、ヴァネッサにとっては家族の可愛い姿が見られた利益の方が大きい。寧ろ適度に嫌そうな素振りを見せれば、もう一周して別パターンの可愛い家族が見られるのではないかとヴァネッサは淡い期待を抱いて…
バサッ!!(スリングショットが出現)
ガシッ!!
「何で!私にばっかり!!妙なオチをつけようとするのよおおおお!!!」
ナナシが取り出した物を認識した瞬間、ヴァネッサは瞬時に飛び出してナナシに掴みかかった。流石に家族の前に自分の紐水着姿を晒す事など容認出来る訳が無い。ヴァネッサは徐々に自分の人形へと伸ばされるナナシの腕を掴んで引き止めようとした。だが幾らヴァネッサが人間離れした怪力を持っていても、ナナシはシンフォギア装者の力さえ凌駕する人外である。ヴァネッサが全力を振り絞っても、ナナシの動きを封じ込める事は叶わない。
「んぎぎぎぎ…フンガァアアアアア!!!」
そこでヴァネッサは狙いを変更して、自分の人形を持ち上げて雄叫びを上げながら猛スピードで“障壁”の内側へと舞い戻る。ナナシはヴァネッサを追うことなくその場で立ち尽くした。
「フム…」
ナナシは少しの間スリングショットを片手に考え込むと…チラリとメイドミラアルク人形とチャイナドレスエルザ人形に視線を向けた。
「「わあああああああああ!!?」」
ナナシの意図を察したミラアルクとエルザも“障壁”内から飛び出して慌てて自分達の人形を回収してしまった。
「フム…」
周りに何も無くなってしまった空間を見て、再びナナシがジッと思案する素振りをすると…何かを思いついた様子で、一度手に持ったスリングショットを机に置き、空いた空間に手を伸ばした。
ドンッ!!(マッチョ人形が出現)
「「「だから何故マッチョ!!?」」」
今度は立体として現れたブーメランパンツのマッチョに、ヴァネッサ達は思わずツッコミを入れてしまった。しかしそんなヴァネッサ達の疑問はスルーしたまま、ナナシは再びスリングショットを手に持つと、ダブルバイセップスのポーズを決めるマッチョ人形へと手を伸ばして…
「「「ぎゃああああああああああああああ!!?!?」」」
…ナナシがとんでもない視覚兵器を生み出そうとしている事を察したヴァネッサ達は全力でナナシを妨害し始めた。先程同様に人形を引き離してしまえば良い話なのだが、筋肉隆々の妙にテカテカしたマッチョ人形の肌に触れるのは抵抗がある。
「気色悪い真似はやめるんだゼエエエエ!!!」
「目が腐るでありますうううう!!!」
「というかさっきから誰なのよそれ!!?」
「あっ、それはあーしも気になるわ。S.O.N.G.にそんなマッチョいたかしら?」
「俺のTOMODACHIのジョンソン君だ。理想の肉体美が手に入れられない事に絶望した結果、来世に希望を見出してしまい、今世の体を無念の証として残すべく石膏のプールにモストマスキュラ―のポーズで沈もうとしていた所を俺が発見して相談に乗ったんだ」
「ド変態なんだゼ!!?」
「失敬な。理想の肉体を求めて藻掻き苦しむ気持ちはお前らも分かるはずだろう?」
「こんなのと一緒にするなであります!!」
「どうやら日々の食事が体に合ってなかったみたいでな?俺の力を使って肉体情報を確認しながら食事メニューを改善したらムクムクムキムキ大きくなった。今から大臀筋(お尻の筋肉)や内転筋(股下辺りの筋肉)も見やすくしてやるから手を離せ」
「別に見たくないわよ!!友達が自慢に思う体を遊びに使うのはどうなのかしら!!?」
「ちゃんと許可は取ったさ。『生まれ変わった私の肉体を見て頂けて光栄、誰にでも全身余すことなく披露してくれて構わない、寧ろ興奮する』だってさ」
「やっぱり変態じゃない!!?」
ピピピッ!ピピピッ!
大騒ぎしながら三人がかりで必死にナナシの動きを妨害していると、突然タイマー音が響いてナナシはピタリと動きを止め、部屋の出口へと歩き出した。
「名残惜しいが、あまり長居してペット達に負担をかけるのは良くないから今日はここまでだな。しかしこんなにも早く自分達からご主人様に接触してくれるとは思わなかったよ!」
「「「あっ…」」」
ここでようやくヴァネッサ達は当初の方針をナナシのくだらない策によって易々と破られてしまった事に思い当たった。呆然とするヴァネッサ達に、ナナシは出口の扉を開きながらニヤリと悪い笑みを向けた。
「次からはもっと踏み込んだスキンシップに移っても大丈夫そうだな!あ~楽しみだ!!」
そう言ってナナシが部屋を出ていき、ヴァネッサ達はヘナヘナと脱力して床にへたり込んでしまった。この三日間張り詰めていた緊張の糸が、あまりのしょうもなさに一気に緩んでしまったのだ。そう、ナナシの行ったあまりにもしょうもない、変なポスターと、自分達の着せ替え人形と、マッチョの人形を使った悪戯に…
………
「「「
ピクッ!ピクッ!
「ぎゃあああああ動いた!?今胸の筋肉が動いたゼエエエエ!!?」
ムキッ!
「ひいいいい!?ポーズが変わったでありますよおおお!!?」
「ハィイイイ!!サイドチェストオオオオ!!!」
「「「喋ったあああああああああ!!?!?」」」
「「あっははははははは!!!」」
…ナナシが去った後もスピーカー内蔵型マッチョ人形に翻弄されるヴァネッサ達と、その様子を隣で大爆笑しながら眺めるカリオストロ達を見て、響とサンジェルマンはどうしようもなく脱力した様子で呟くように声を零した。
「…これはもう、大丈夫そうですね?」
「ああ…改めて理解した。あの男に関わると、何もかもが馬鹿らしくなる…」
所作は某錬金術師ですけど、やってる事はピ◯太郎w
執筆中に何のアニメ見てたか簡単に分かりそうw