戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第183話

パヴァリア光明結社による神の力の顕現…その力によって成された大規模な災害と、米国保有の衛星蒸発という被害に、各国の上層部は警戒を余儀なくされた。それこそ日本に対して反応兵器を使用する事が国連の緊急議題として上げられたほどだ。

 

しかし、その騒動勃発から半日と経つ事無くS.O.N.G.から事態終息の報告が出され、そして一週間と間を置かず…騒動勃発から終息までの記録が開示された。

 

敵の首魁であるアダムが討伐される場面も、顕現した神の力が装者によって打ち砕かれる場面も…神の力が装者へと集まり、それをナナシが奪い取った場面も、その後に起こったナナシの肉体の異常な変異も、余すことなく全てが公表された。

 

これらの情報に、最初はその信憑性を疑っていた各国だが…最終的に『秘匿する暇が無かった』、『隠すリスクが大き過ぎた』ということである程度受け入れていた。

 

既に反応兵器の是非を問うている段階だ。速やかに各国を納得させるために情報を隠蔽する時間など無かっただろう。中途半端な秘匿をした場合、後から神の力を秘密裏に保持していた事が発覚すれば、それは今度こそ致命的な戦火の火種になりかねない。

 

各国がそのように判断して間もなく…一連の騒動の詳細と、国連に対して新たな議題をナナシ本人が説明する場を設けたい、と言う提案が出された。

 

その誘いに、各国は様々な反応を見せたが…話し合いの場を設ける事自体は成立した。各国の代表達は理解している。これはナナシの…命乞いだと。

 

壮絶な被害を齎した神の力…それをその身に宿したのならば、その詳細が判明するまで監視は必須。その監視の程度を国連の議題として決めようとしているのだろう。日常の中で経過観察するのか…日の当たらない場所で徹底的に管理するのかを。

 

とは言え…ナナシが理性を保っているのなら、流石にそこまで追い込むのは得策では無いと各国も理解している。フロンティア事変終結後に強硬策を取った米国は手痛い反撃を受け、魔法少女事変ではどの国も良いように手玉に取られた。特に今回はナナシ自身には何の落ち度もなく、それどころか未曽有の大災害をその身を犠牲に阻止したようなものだ。そんなナナシに欲をかいて追い詰めれば報復を受ける可能性は充分にある。それで自国に損害が出ては笑い話にもならない。

 

故に今回各国は、ナナシに恩を売る形で可能な限り自国に利益を得る事を画策していた。神の力と言っても現状は不発弾と変わらない。その管理を表面上は譲歩と言う形でS.O.N.G.に押し付け、今回捕縛した錬金術師の身柄や開発中のノイズ・キャンセラーに関わる権利を得られれば申し分ないだろう。

 

様々な思惑によって成立した緊急会議の当日、各国の首脳は身の安全を考慮して大半がリモートで会議に参加していたが、一部は映像の偽装や変装による替え玉を警戒、はたまた少しでも有益な情報を求めて直接会場にやってきた者達もいた。多くの視線に晒されながらも、ナナシは会場の中央に笑みを浮かべて堂々と立ちながら今回の経緯を説明していった。その振る舞いは何処までも理知的で、映像の中で雄叫びを上げながら正体を現したアダムと血みどろの殴り合いをしていたのと同一人物にはとても見えなかった。これならば迂闊に刺激しない限り、神の力とやらが暴走する事は無いだろう。

 

ナナシの様子を確認して、一先ずは本当に事件が終息したのだと各国の代表達が納得したタイミングで、ナナシは遂に新たな議題とやらについて話をし始めた。

 

ナナシが口にした議題は二つ。

 

一つは今回捕縛したサンジェルマン、プレラーティ、カリオストロの三人…及び、これから三人の情報提供によって捕縛する予定のパヴァリア光明結社残党の身柄を全てS.O.N.G.が主導して管理する事への許可。

 

もう一つが、これからS.O.N.G.が独自に行う月遺跡調査への支援要請…具体的な内容は、資金と資材の提供、逆にそれ以外は一切関わらないで欲しい、という事だった。

 

「ふざけるな!!」

 

何処からともなくそんな言葉が飛び出し、周囲から様々な怒号が上げられる。ナナシの現状を放置して出されたあまりにS.O.N.G.にとって都合の良過ぎる要求に、やはりナナシは頭がおかしくなったのではと誰もが疑ってしまった。

 

「まあまあ、落ち着いてください。決して一方的な要求などではありません。皆様にご納得して頂ける見返りはきちんと用意していますから。どうか最後まで話をお聞きください」

 

出来る訳がない、聞くだけ無駄だ、S.O.N.G.がこれ以上力を独占する事など許されない。故に各国の代表者達はナナシの要求全てを拒絶して、ナナシの思考能力に難癖を付けて国連による徹底管理を提案すべく誰もが口を開こうとして…

 

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

…そのたった一言で、会場に沈黙が訪れた。誰一人として言葉を紡ぐことが出来ない。会場にいる人間は瞬き一つすることも出来ず、モニターの向こうにいる首脳達は指一つ動かして通信を切る事さえ叶わない。それほどまでに凄まじく重苦しい圧が、会場の中央でヘラヘラと笑うナナシから放たれていた。

 

これまでと変わらぬ振る舞いをするナナシに油断してしまったが、各国の人間はようやく理解した。生き物としての格が違う。目の前にいるのは正真正銘の…人外()である事を。

 

コレ(威圧)が神の証明だと、お師匠様とあのジジイは何だって話なんだけどな?多分あいつらはモニター越しでも相手を吹き飛ばすくらい出来るぞ?)

 

そんな事を考えながら、ナナシは沈黙を『黙認』として扱い話を進めていく。実態は『黙認』と言うより『黙殺』である。より正確に言い表すなら『黙ってろ殺すぞ』である。

 

異様な静けさの中でナナシが語った各国への見返りは二つ。その一つは各国の予想通り、ノイズ・キャンセラー…“血晶”の試供品を配布するという内容だった。

 

しかしこれはナナシの要望を通す見返りとしては効果が薄い。元々ノイズ・キャンセラーの開発はキャロルをS.O.N.G.に所属させる条件という側面もあった。横暴に近いナナシの提案を通すには価値が釣り合っていない。

 

では、その不釣り合いの天秤を合わせるためにナナシが用意したもう一つの見返りとは…

 

「僭越ながら、我々S.O.N.G.で皆様方の出した『ゴミ』を回収させていただきました。そちらを納めさせていただきます」

 

…しばらくの間、ナナシが何を言ったのか全員理解出来なかった。ゴミ?ゴミと言ったか?異端技術と、先史文明期の遺跡の先行調査の対価が、ゴミ???

 

「神の力を取り込んで尚、変わらぬ私の品行方正さを理解して頂くために各地でゴミ拾いをさせていただきました!もちろんゴミとは言っても大切な資源です!我々の独断で無駄に廃棄などせず、元の所在が分かる物はきっちりと分別いたしました!先程話題に出たノイズ・キャンセラーと共に皆様方へ贈らせていただきますので、どうぞ有意義にお使いください!それでは、我々の提案の吟味の程、よろしくお願いします!」

 

それだけ言い残し、ナナシはアッサリと威圧を解いてそのまま会場を出て行ってしまった。残された各国の人間はしばし呆然とした後…やはりナナシは狂ったのだと結論付けた。

 

これがナナシの独断にしろS.O.N.G.の総意にしろ、もはや取り消しの許されない暴挙である。各国の代表者達はナナシの去った会場で話し合い、一先ずはS.O.N.G.の送ってくるノイズ・キャンセラーを穏便に受け取った後にS.O.N.G.の今後の在り方を…組織の解体と異端技術者の扱い、そして埒外の怪物の隔離措置を後日話し合う運びとなった。

 

そのすぐ後に、ナナシの約束通り各国にはノイズ・キャンセラーの試供品が届けられた。

 

しかし…ノイズ・キャンセラーと共に送られてきた『ゴミ』に、各国の目は釘付けにされる事となった。それこそ、待望であったはずのノイズ・キャンセラーの事など目に入らない程に…

 

大型貨物船に乗せられて各国に届けられたその大量の『ゴミ』は、少量のゴムや炭素繊維などを除くと、その大半が様々な金属の塊だった。何かのパーツだったと思われるそれらはほとんどが原型を留めておらず、ある物はベコベコに凹み、ある物は無数の穴が空き、高熱で融解したような物も混ざっている。統一性の無いように見えるそれらは、その全てがある一つのカテゴリに括られる確かな『ゴミ』であった。

 

ナナシの集めた『ゴミ』…それは人の世で『スペースデブリ』と呼称される物だった。

 

スペースデブリ…それはそのまま『宇宙ゴミ』とも呼ばれる、地球周辺の宇宙空間を漂う人工衛星やロケットの残骸の総称である。近年では稼働中の人工衛星に衝突するなどの問題も発生しているが、未だ安定した廃棄・回収方法は確立していない。

 

そう、回収方法は確立していないはずなのだ。だが各国の代表者の前に山のように積まれた物証は、その認識を全否定するには充分であった。

 

確かにこの『ゴミ』は大量の金属であるため資源的価値は高い。もし安定してこの量のスペースデブリを回収出来るならば、S.O.N.G.は定期的に資源が追加される鉱脈を手中に納めたに等しい。そこから得られる利益は計り知れないだろう。

 

だが、各国が戦慄しているのはそこではない。これがもし本当ならば、ナナシが各国に行ったのは利益による懐柔などでは無く…技術力による脅迫だ。

 

宇宙ロケットと弾道ミサイルは本質的には同じ物なのだ。その技術が兵器としてどれだけ脅威であるかは、世界中のどの国も理解している。そのためロケットであろうがミサイルであろうが、そんな物が何の手回しもなく打ち上げられたならば、即座に検知して各国は対応しようとする。

 

しかし、事前連絡の無い宇宙ロケットの打ち上げや宇宙から大型の物体が地球に到達したという記録は一つも残っていない。適当に繋ぎ合わせればロケットや人工衛星が数個は作れてしまいそうな程のスペースデブリが回収されたにも関わらずだ。つまり、S.O.N.G.はロケットまたはそれに類する物を複数回発射しても各国に察知されないシステムを生み出したという事になる。

 

そのような技術を国連が把握出来ていないなど、許される事ではない。もはや損益を測っている場合ではない。何としてでもS.O.N.G.にそのシステムを開示させなければ、世界の秩序は崩壊する。情報開示が叶わぬなら、どのような犠牲を払ってでもその技術を抹消するしかない。

 

各国が蜂の巣をつついたように動き始めたところで、そんな彼らを嘲笑うようにS.O.N.G.から各国へ次のような連絡が送られてくるのだった。

 

 

 

ゴミ拾い見学会のお知らせ

 

世界の秩序を守る我々S.O.N.G.は超常災害のみならず環境保護にも日々尽力させて頂いております。にも関わらず、何やら多くの疑惑を向けられているようで我々は大変遺憾な想いを抱えております。そこで我々の潔白さを示すため、我々の行っているゴミの回収作業を見学して頂きたいと思っております。見学を希望される方々はお気軽にご参加ください。また、大型ゴミの処理にお困りの方がいらっしゃいましたら、今回に限り無償で回収作業を引き受けさせて頂きます。抽選で三件までとさせて頂きますので、奮ってご応募ください。

 

見学される方々へのお願い

間食(オヤツ)を持ち込まれる場合は一人あたり日本通貨で三百円以内に収めて頂きますようお願いします。(バナナは間食(オヤツ)に含まれないのでご自由にお持ちください。)

 

 

 

 

 

そして舞台は、太平洋の沖合まで移動する。陸地も見えない広大な海の上に、S.O.N.G.本部がポツンと浮かんでいる。そして⋯様々な国の船がS.O.N.G.本部をグルッと取り囲むように展開していた。全ての船がS.O.N.G.を監視出来るギリギリの距離を保ち、外周を要人が乗る大型のクルーザーなどが囲み、内側を軍艦で包囲している。

 

そしてS.O.N.G.の甲板には、各国の軍人や研究者が大勢待機していた。全員が覚悟を決めた顔をしている。当然であろう。何としてでもS.O.N.G.の生み出したシステムを解明しなければならない。そのために彼らは危険と承知しながら間近でS.O.N.G.の情報を集める覚悟と⋯場合によっては、自分達諸共にS.O.N.G.のシステムを抹消する覚悟でこの場にいるのだから。

 

三件のゴミ回収は、国連による綿密な話し合いにより万が一にも一度にまとめて回収されないために極力距離の離れた廃棄人工衛星を対象として応募した。事前に複数の国家がその人工衛星を監視している。この三度のチャンスでシステムを見極め、各国はS.O.N.G.への対応を決定するつもりだ。

 

S.O.N.G.はこの見学会において武装や記録に対する規制は一切してこなかった。徹底しているのは『オヤツは三百円以内』という謎ルールのみ。それすら無視して嗜好品を持ち込んだ船もあったが、どうやって調べたのか所属国と船名を名指しで注意喚起され、反発したり無視した場合は見学会中止を宣言して甲板の人間もそのままにS.O.N.G.が海中に潜ろうとするので、仕方なくどの国の船も唯一明確に許可されているバナナのみ残して嗜好品を手放した。おかげで甲板の者達は腰から下がずぶ濡れである。

 

完全におちょくられているが、それでも各国の面々が逸る気持ちを抑えて時が来るのを待ち構えていると…遂にS.O.N.G.からゴミ拾いの開始が宣言された。

 

各国が目視、映像、計測機器など様々な方法でS.O.N.G.を監視する。当然S.O.N.G.本部がブラフである可能性も考慮して日本も監視されている。そんな厳戒態勢の中でようやくS.O.N.G.が見せた動きは⋯本部の中から二人の人影が甲板に現れただけであった。

 

一人はS.O.N.G.の司令官、風鳴弦十郎。肩に何やら棒状の物を担ぎながら、周囲の状況を見て苦笑いを浮かべている。

 

そしてもう一人は、全身に宇宙服を身に纏った⋯現状の元凶とも言うべき“紛い物”ナナシ。

 

まるで自分が主役とでも言うように、テンション高く周囲に手を振るナナシ。しかしその姿を観察した研究員達によって瞬く間に情報が拡散された。ナナシの装いは⋯コスプレである。ディスカウントストアで揃えたようなチープな衣装。これで宇宙に行こうものなら数分と保たず死亡してしまう。つまりは単なる賑やかしだ。おどけたようなナナシの振る舞いを見ているだけで苛立つため、誰もがナナシの存在を無視しようとした。

 

しかし、そんな事すら只人には許されない。弦十郎とナナシがS.O.N.G.本部の両端に向かい合うように立った瞬間、周囲の空気が一変した。まるで達人同士がこれから死合うかのような緊張感に、嫌でも注目せざるを得ない。只ならぬ雰囲気の中、遂に二人は行動を開始した。

 

「行っくぞおおおおお!お師匠おおおおおおお!!」

 

「バッチコオオオオオオイ!!!」

 

ダッ!

 

ナナシが駆ける。宇宙飛行士のコスプレをしているとは思えない俊敏さで弦十郎に近づくナナシを、逆に弦十郎はどっしりと待ち構えていた。あと少しで弦十郎の元まで辿り着きそうになったところで、ナナシは駆ける勢いをそのままに地を蹴る。

 

ダンッ!

 

助走の慣性にそのまま乗るように真横へ跳んだナナシは、空中で手足を畳み身を丸くして弦十郎へと向かっていく。このままの軌道では弦十郎のすぐ隣を通過して海に落ちてしまうが、ここでようやく弦十郎が動き出す。ナナシの軌道を正確に見切った弦十郎は、肩に担いでいた棒状の物⋯バットを構えた。

 

そして⋯

 

カキィイイイイン!⋯⋯⋯キラン!

 

⋯弦十郎のジャストミートによって、ナナシは漫画のキャラクターのようにお空のお星様となった。

 

 

 

暴動が起きた。

様々な言語の罵詈雑言が至る所で巻き起こっている。人類は今この瞬間、バラルの呪詛に打ち勝ちその想いを一つにしたのかもしれない。そう、『ふざけんな!!』と⋯

 

各国が世界的脅威を前に足並みを揃え、マスコミや大衆に情報操作を行った上でこのような厳戒態勢を敷いたと言うのに、そこで見せられたのがバットでカキーンって⋯お空にキラーンって⋯

 

何より悪夢なのが、リアルタイムで廃棄人工衛星を観測している機器に、コスプレ宇宙飛行士がテレビカメラを見つけた若者のように存在をアピールしているのだ。それはもうテレビで時折流される怪しい影やボヤのかかった映像などとは異なり議論の余地なくはっきりくっきりと映っている。これがS.O.N.G.の用意した映像なら鼻で笑って終わらせられるが、情報を得るため絶対に偽造の出来ない監視体制を準備したのだ。それを安々と突破されたなら脅威が上書きされるだけ⋯いや、やっぱり偽造されていた方がマシなので嘘だと言って欲しい。お願いだから!三百円あげるから!!

 

幾ら逃避したところで現実は変わらず、一頻り存在をアピールしたナナシは人工衛星に近づくとその手を触れて…次の瞬間、人工衛星がフッと消えてしまった。

 

それを見ていた者達は目を疑ったが、少しすると再び人工衛星がナナシの前に姿を現す。そして再びナナシが触れて跡形もなく消え去る。消えては現れ、現れては消えて…数度繰り返したところでナナシは人工衛星を消し去ると、地球に向かって猛スピードで進んでいった。

 

それから少しして、何かが落下してくるような風切り音が響いてきたかと思うと、各国が指定したゴミの受け渡し場所である大型貨物船に向かって空から凄まじい勢いでナナシが迫り…船に衝突する寸前にピタリと空中で停止すると、フワリと船上に降り立って…

 

ガシャアアアアン!!

 

…船の上に廃棄人工衛星を出現させ、無事一件目のゴミ回収を終わらせるのだった。

 

頭が痛い…もう何も考えたくない…甘い物が欲しい…思考停止した各国の人間は甘味を求めて瞬く間にオヤツを食べきり、一応非常食として用意していた大量のバナナをむさぼり始めた。嗜好品を隠し持っていた船は少量しか用意してなかったバナナを巡り争っている。そこにS.O.N.G.所属の小型船が近づいて一本一万円というぼったくり価格でバナナを販売し始めた。それでも飛ぶように売れている。紙切れなどいらぬ!バナナを!!バナナを寄越せ!!!ウキー!!!!

 

…しばらく知性が猿並みに低下してしまったが、バナナの糖分で何とか回復した各国の代表者達は痛む頭を押さえて思考を整理する。つまり、S.O.N.G.がスペースデブリを回収した方法は新たなシステムではなく…ナナシがその身に宿した神の力という事だ。

 

今度は緒川が丸まって座るナナシをキックオフして二件目の人工衛星にぶっ飛ばす。野球の次はサッカーか…再び乱れそうになった思考をバナナを貪って繋ぎ止め、各国の人間は必死に考える。S.O.N.G.がこのふざけた催しを開いた意味を…

 

…要するに、これはS.O.N.G.による『利益共有』の提案なのだ。

 

誠に信じがたい事だが、神の力を得た事でナナシは気軽に宇宙へと向かえるようになった。つまり…しれっと空を飛んでいる相手にこう言うのはどうかと思うが、ナナシにとって月はもはや『徒歩圏内』なのだ。時間さえあれば、各国の協力など無くてもS.O.N.G.だけでコッソリ月遺跡の調査に乗り込む事が出来るという事だ。

 

これまで何度も月遺跡を巡って世界規模の災害が発生している現状で、S.O.N.G.が単独で月遺跡の謎を解明してしまっては国連のメンツに関わる。資金と資材の提供を求めたのは、月遺跡の調査に国連が協力した事を明確化するためだろう。

 

月遺跡の調査及び錬金術師の身柄を独占という強引な提案ではあったが、これは『危険を全てS.O.N.G.が引き受ける』と言い換える事も出来る。その上で神の力の情報開示、そして錬金術で生み出したノイズ・キャンセラーの配布…これは異端技術を完全に独占するつもりはないという意思表示と取る事も可能だ。

 

エルフナインの見るからに弱弱しいアンダーサーブでバビュンと三件目のゴミ拾いに飛んでいったナナシにごまんどころではなく言いたい事はあるが…全員がその場では一先ずそれをバナナと共にゴクリと飲み込み、各国の代表者は今度こそ真剣にS.O.N.G.の提案に向き合う方針を定めるのだった。

 

 

 

 

 

違う(・・)

 

 

 

 

 

違う!

違う違う違う!!!

違う違う違う違う違う!!!!!

 

各国の代表者がバナナ片手にそんな解釈に辿り着く中で、S.O.N.G.の甲板でナナシの所業を目の当たりにした研究者の男は青白い顔をしながら胸の内で大絶叫をあげていた。

 

資源の再利用?利益の共有?そんな…そんなささやかな事(・・・・・・)ではない!!

 

その男は宇宙開発に関わる事業の研究者であり…だからこそ、ナナシが開示した情報の価値を、真意を理解してしまったのだ。

 

そもそも何故、人類は貴重な資源を回収不可能にしてまで宇宙にロケットや衛星を送り続けるのか?

 

未知への探求?技術の限界に挑戦?それも間違ってはいないだろう。しかし本質はもっと単純で、切実で、そうせざるを得ない理由がある。

 

足りないのだ(・・・・・・)

 

七十億を超える程に数の膨れ上がった人類にとって…もはや地球は広いとは決して言えない。人類が更なる高みに至るには、資源も!土地も!!何もかもが不足している!!!

 

だからこそ人類は外へ、宇宙へと飛び出そうとしているのだ。地球などと比べる事も出来ない、無限に広がる世界へと至るために…

 

そのために人類が長い時をかけて試行錯誤を繰り返しているにも関わらず…それを嘲笑うように、男の目の前でコスプレ宇宙飛行士は着の身着のまま宇宙へと飛び出し、拾った石ころをポケットに入れるような気軽さで大質量の資源を地球へと持ち帰ってきた。あまりにもアッサリと…人類の悲願を体現してしまった。

 

男は自分の足で立っている事さえ出来ず膝から崩れ落ち、その瞳から止めどない涙を流す。他にも何人か男と同じような状態になった者達が周囲から怪訝な視線を向けられていた。

 

今、彼らの胸の内に過るはどんな感情だろうか?人類が歴史の中で延々と積み上げ続けてきた努力を軽々乗り越えられた事に対する、怒り、憎悪、理不尽、絶望………否だ。

 

彼らの内に巻き上がるその感情の名は………歓喜。

 

研究者たる彼らは理解している。ゼロから机上の空論を検証して新たな技術を生み出すのと、既に存在する事象を元に洗練するのでは難易度が全く異なるという事を…

 

ナナシの協力があれば、宇宙開発は飛躍的な進歩を遂げる。人類がこれから何十年、何百年の時を経て乗り越えるはずだった壁を、派手にブチ破って…至れるかもしれない。未知の星に降り立ち、文明を築き、星々を行き来しながら人類という種を広げていく、アニメや漫画のような、人の“妄想”で終わらない未来の世界へと…

 

「オォ…マイ、ゴッド…」

 

男の口から、あまりに自然とそんな言葉が零れる。そんな男に、コスプレ宇宙飛行士がゆっくりと近づいて行った。

 

この事実は本来、何としてでも秘匿するべきであったはずだ。S.O.N.G.が…いや、目の前の『神』が覇を唱えるなら、幾つもの星を完全に手中に納めた後で悠々と人類を掌握すれば良かったはずだ。それをせずに、その威光を人類に知らしめた理由…それももう、男には理解出来ていた。

 

これは…選別なのだ。神の御心を理解出来ぬ者、理解しながらその意に従わぬ者を篩に落とし、高みへ導くに足る者達を見分けるための…

 

コスプレ宇宙飛行士は、両手を合わせて祈るように蹲る男にそっと手を差し出した。男は飛びそうになる意識を必死に保ちながら、震える両手で慎重に差し出された手を取った。優しく握り返された手と、ヘルメットの奥に僅かに見えた笑みに、男の心はこの上ない安堵に満たされた。私は無事、選ばれたのだと…

 

 

 

 

 

これがナナシの編み出した秘策。

秘匿していた“紛い物”の力を一部開示。そこから得られる国一つ程度では持て余すほどの莫大な利益を示し、人類が“紛い物”に抗う意思を根こそぎ刈り取った。

 

本来この状況で各国がまず行う対応は大きく二つ、ナナシを自国へ勧誘するか、それが叶わぬなら排除するかであっただろう。

 

しかし、そういった対応は二課がS.O.N.G.に再編されてナナシの存在がある程度国連に広まった時点で既に行われている。地位や特権、ハニートラップなどの誘惑は全て鼻で笑って受け流された。ナナシを排除しようと動いた場合は…その都度、大量の不眠症患者が生まれて終わりだった。神の力まで得たナナシ個人を、今更どうにか出来るなど誰も思っていない。

 

それでも神の君臨を認められないなら、全面衝突する他に道は無いが⋯それは失う物が多過ぎる。

 

バルベルデの一件で、シンフォギアが軍を退けた実績が既にある。そしてS.O.N.G.にはそのシンフォギアに匹敵、或いは上回る戦力が複数存在しているのだ。もはや高々一組織と侮る事など出来はしない。衝突すれば確実に大きな被害が生まれる。

 

何より、もう少なくない数の国家がナナシの意図に気づき、夢想してしまった。自分達だけでは到底辿り着けない、人類の高みを⋯必ずナナシに順ずる考えを持った国は現れる。もし仮にナナシを排除しようとした場合、ナナシを擁護する国と排除しようとする国で対立が起これば⋯世界の秩序が崩壊する可能性すらある。

 

まさに利益による封殺。これぞ“紛い物”が織り成す、この世で最もふざけた…人類に対する無血革命だ。

 

まんまと世界に対して絶大な発言力を手にしたナナシであったが⋯ここで視点を日本政府に向けてみよう。

 

S.O.N.G.は元々日本の組織であり、今も日本を本拠地にしている。当然S.O.N.G.に所属している、表向きは風鳴の名を持つナナシは日本に重きを置いていると各国は考えている。今にして思えば日本が強引に成立させた護国災害派遣法も、神の力を手にしたナナシを日本が保護するための物だったとさえ思われるかもしれない。

 

であれば、だ…

もし、ナナシが今…

 

日本政府…その実質的な支配者と自分は不仲である。

 

その紛れもない事実を、外部に漏らしてしまったなら…

護国災害派遣法を、S.O.N.G.に対して明確に害する形で執行しようものなら…

 

神の免罪符を得た各国は、日本に対してどのように対応するだろうか?

 

 

 

 

 

薄暗い自室の中で、風鳴訃堂は座したまま瞑目して微動だにしない。

 

『お前にはもう死力を尽くす事さえ許されない。その老体に宿る命の灯火が燃え尽きるまで不動を貫け。もしその火種で戦火を広げようものなら…防人の剣が断ち切るのは夷狄の首ではなくこの国の未来だ。『風鳴』の名が、この国を滅ぼす。努々俺の言葉を忘れるな。近く耄碌したその頭でさえ、否応無しに理解する事になる』

 

…訃堂の脳裏に、ナナシの言葉が木霊する。閉じた瞳を僅かに開けば、その瞳に血塗れの日本地図が映った。まるで畳に根を張るように広がり固まった”紛い物”の血液は、決して解ける事のない呪詛のようで…この国の未来を示唆しているようだった。

 

 




・全世界にゴールドラッシュをかます→×
・手つかずの鉱脈を惑星ごとどうぞ!金も当然あるだろうから惜しい!良い線行ってる!!

札束で叩くを極限まで極めたような超力技w
着想はこの作品では泣く泣くカットしたアニメGX編第一話。
シンフォギア世界でも宇宙から何かを回収して地球に帰還するのは過程で山の標高が変わってしまうくらい大変なので、散歩気分でそれが可能なこの作品の主人公は人類からすれば紛れもない神様に見えます。”紛い物”ですけどw
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