戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第19話

『ナナシ君、そちらにいたノイズの反応の消失を確認した。すぐに響君の所に合流してくれ…今、翼も響君の所に向かっている』

 

「了解、またドンパチ始められても困るからサッサと向かう」

 

今回、複数の場所にノイズが出現したため、ナナシ、翼、響の三人はそれぞれ分担してノイズの殲滅を行うことになった。

 

(響を一人で向かわせるのはまだ不安だったけど、手が足りないからな…奏も「過保護になるだけじゃなくて、ちゃんと信じてやりな」って言うし、何より本人が「わたしは、わたしにできることをやります」って乗り気だったからな…でも)

 

ナナシには、響を単独で出撃させること以外にも懸念があった。

 

(出現の数にばらつきがある、三か所ほぼ同時のノイズの襲撃。あからさまに狙っているよな…『完全聖遺物を狙う何者か』が)

 

先日、弦十郎達から話があった。ここ最近の本部周辺のノイズの異常な出現率、そこから考えられる、本部最奥区画『アビス』に格納された完全聖遺物『デュランダル』を狙った『何者か』の存在。

 

(『何者か』、ね…)

 

ナナシはそこで一旦思考を切り上げる。響の担当する地下鉄、ナナシがその付近に到着すると、突然地面が爆発して一体のノイズが出現した。

 

ナナシがノイズを倒すため動き出そうとする直前、上空から斬撃が飛来し、ノイズを真っ二つに切り裂いた。

 

ナナシが上空を見上げると、そこには剣を振りぬいた姿勢の翼がいた。翼はナナシの前の地面に着地する。そして、同じタイミングで響も地上へやってきた。

 

「翼さん!」

 

響が翼に声をかけながら近づく。その声に反応して、翼は響の方に顔を向けた。

 

「わたしが奏さんの代わりになるなんて、とんでもなく失礼なことを言って、すみませんでした!」

 

開口一番、響は翼に頭を下げて謝罪してきた。これには、翼も少し目を見開いて驚いた。

 

「わたしが奏さんの…誰かの代わりになるなんて、言ってはいけなかったんです!わたしの言葉で、翼さんを傷つけてしまって、本当にごめんなさい!」

 

そう言うと、響は頭を上げ、翼を見て言葉を続けた。

 

「わたしはまだ、アームドギアを使えません!戦うのも、ナナシさんにお世話になりっぱなしです!それでもわたしは、立花響として、守りたいものがあるんです!だから…」

 

「……」

 

翼は響の言葉に返答をしない。沈黙がその場を支配する。そんな二人に、ナナシが声をかけようとした。その時…

 

「だから?んで、どうすんだよ?」

 

三人以外の、『何者か』の声がその場に響いた。

 

「「!?」」

「……」

 

翼と響が突然響いた自分達以外の声に驚き、ナナシは無言で声が聞こえた方向を警戒する。

雲が晴れ、月明かりに照らされることで、先程の声の主の姿が鮮明になる。

そこには、白を基調とした、やたら刺々しいデザインをした鎧を纏った少女が立っていた。

 

響は突然の謎の人物の登場に困惑していたが、翼とナナシは別のことに気を取られていた。

 

「…なあ翼。俺は二課の資料でしか見たことないから、いまいち確証が持てないんだが、あいつが身に着けている鎧って…」

 

「ネフシュタンの、鎧…」

 

「やっぱりか」

 

翼達の会話に、ネフシュタンの鎧を纏った少女が反応する。

 

「へえ?てことはあんたら、この鎧の出自を知ってんだ?」

 

「二年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか!」

 

少女の問いかけに、翼は声を荒げて答える。

 

「何より、私の不手際で奪われた命を忘れるものか!」

 

翼の脳裏には、あのライブの日、目の前でノイズに炭化させられていった人々の顔が浮かぶ。自分の目の前で奪われた多くの命について、翼は忘れることなど出来なかった。

 

翼が剣を構え、それに応えて鎧の少女も構える。その様子を見た響が、翼にしがみつき声をかける。

 

「やめてください翼さん!相手は人です!同じ人間です!」

 

「「戦場で何をバカなことを!!」」

 

響の言葉に、翼と少女の言葉がハモった。

 

「…むしろ、あなたと気が合いそうね?」

 

「だったら仲良くじゃれあうかい!」

 

「…何で敵と意気投合してんだSAKIMORI。そこの白いのも、俺達相手にどうにかなると思っているのか?」

 

そう言ってナナシが翼の一歩前に出る。

 

「ナナシ!あの少女の相手は私一人でする!邪魔するな!」

 

「うるさいよ、自称剣。剣だから涙を流さないって言うなら、都合の良い時だけ感情的になるな」

 

「っ!?」

 

翼の要望を、ナナシは淡々と切って捨てる。

 

「響、人を相手にするのが嫌なら後ろで身を守っていろ。あの鎧を放置することはできない」

 

「!?で、でも!!」

 

「お前はお前の守りたいもののためだけに戦え。人同士で争うのが嫌なら、あれの相手は“紛い物”の俺に任せておけ」

 

ナナシはそう言うと、鎧の少女と交戦を開始するため身構える。対して少女は…

 

「ハッ、残念ながらお前を相手にする気はコッチにはねーんだ。だから、こうさせてもらう!」

 

そう言って少女が手に持った杖のようなものを振るうと…目の前にノイズが十体出現した。

 

「ノイズが、操られている!!?」

 

「…自慢げにしているところ悪いけど、その程度の数で俺を足止めする気か?確かにウチのボス程屈強ではないけど、俺ってそんなに貧弱に見えるのか?」

 

「確かにこのままてめえにコイツらをぶつけても意味はねえからな…こうするんだよ!」

 

少女がそう言って、鎧に付いた鞭の様なもので地面を叩くと…ノイズ達が一斉にバラバラの方向に散開し始めた。

 

「「「!!?」」」

 

「…さあ!早く追わないと、何処かで誰かが炭になっちまうぜ!」

 

鎧の少女は、笑いながらナナシに宣言する。そんな少女の表情を、ナナシは無言で見ていた。

 

「……」

 

「ナナシ!早くノイズを追え!ここは私が…」

 

「役割が逆。機動力と遠距離攻撃があるお前が行け。こっちは俺が相手する」

 

「ナナシ!!」

 

翼はナナシに叫ぶ。頭では翼も理解している。だが、どうしても逡巡して動けない。

 

 

「…そうか、分かった。残念だけど十人は諦めろ」

「「「!!?」」」

 

 

ナナシの言葉に、翼が、響が…そして鎧の少女が驚愕する。

ナナシも無計画に言葉を口にした訳ではない。現在はノイズ出現による警報で周囲の住人は避難しているはず。あの杖がノイズを操るものなら、速攻で少女から杖を奪えばノイズを止められるかもしれないし、少女を無力化した段階でノイズの動きが停止する可能性もある。それに…

 

(…これで、こいつらも俺に暗い感情を向けることを躊躇う理由も無くなるだろ)

 

…ナナシが戦う理由は、何処かの誰かのためではないのだ。

 

ナナシが呆然とする三人を無視して、鎧の少女に駆けだそうとした。その時…

 

「ナナシ!!」

 

…翼がナナシの名を叫ぶ。ナナシは一瞬翼に意識を向けるが、無視して進もうとする。だが、それよりも早く翼が言葉を続けた。

 

「信じろ!!」

 

言葉は短く、されど万感の想いを籠めて翼は叫んだ。

 

「……チッ」

 

ナナシは舌打ちをした後…ノイズの一体が向かった方向へ駆け出した。走りながら、ナナシは通信機を取り出して本部と連絡を取る。

 

「弦十郎!ノイズの位置を教えてくれ!」

 

『状況はこちらでも確認している!そのまま真っ直ぐ進んでくれ!そちらが済んだら指示を出す!』

 

「よろしくお願いします!」

 

そう言ってナナシは一度通信を切り、前を向いて駆けて行った。

 

 

 

 

 

「…これで、最後!」

 

ナナシが十体目のノイズを塵に変えて、翼達のいた場所に駆け出す。その間に再び本部に通信を繋げる。

 

「さっきので最後のはずだ!追加は無いよな!?」

 

『ああ!ナナシ君は、急いで翼達のところへ…っ!?』

 

「どうした!?」

 

『ナナシ急げ!!』

 

通信機から聞こえる声が奏に切り替わる。

 

「急いでいる!どうした!?何があった!!?」

 

弦十郎が息を飲む音に、奏が叫ぶ声にナナシは嫌な予感がする。その予感を、確信に変える言葉が通信機から聞こえてきた。

 

『翼は、“絶唱”を歌うつもりだ!』

 

グシャリッ、とナナシは通信機を握りつぶす。もはや周囲への被害も考えず、ナナシは進路を塞ぐ木々などの障害物を薙ぎ払いながら進む。

 

“絶唱”…ナナシは知っている。この二年で、シンフォギアについては可能な限り調べた。それを歌えば、聖遺物から一時的に莫大な力を引き出せることも、その代償に絶大なバックファイヤが装者を襲うことも…かつて、奏がその命を引き換えに歌う覚悟をしていたことも。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal…

 

歌が、聴こえる。

未だに、ナナシには翼達の姿は見えない。それでも、何処までも響き渡るような美しい歌声が、ナナシの耳に届く。

 

Emustolronzen fine el baral zizzl…

 

その歌声は、優しくて、力強くて…その声音には、歌い手のこれ以上ない『覚悟』が籠められていて…それなのに、聴いた相手に寂しさと、今にも砕けてしまいそうな脆さを連想させるような、そんな不安を与える歌だった。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal…

 

ナナシが翼達の姿を捉える。響がノイズに拘束され、鎧の少女が“影縫い”で動きを封じられ…その少女の傍に、翼がゆっくり近づいていた。ナナシからは、翼の表情は見えない。鎧の少女は、その顔に怯えを表しながら、何とか“影縫い”の拘束から抜け出そうとしていた。

 

(気絶させてでも止める!)

 

ナナシは翼のもとへ駆ける。だが、その距離は余りにも遠い。翼が“絶唱”を歌い切るまでに、間に合わない…

 

(翼ぁ!!!)

 

ナナシは、“念話”で翼の名を呼びかける。その間も、その足を止めることなく翼に近づく。あと少し、ほんの数秒でその手が届く。しかし…

 

…Emustolronzen fine el zizzl

 

…ナナシの“念話”で、翼が止まることはなく、その口から、“絶唱”の最後の一節が紡がれる。

 

あと数センチで翼に届いたナナシの手は…その体ごと、翼を中心に巻き起こった衝撃に吹き飛ばされた…

 

 

 

 

 

…ナナシの体がブレて、損傷が元に戻る。久しぶりに感じる感覚に懐かしさを感じる間もなく、動けるようになったナナシは即座にその体を起こして周囲を確認する。響を拘束していたノイズが消えて、倒れた響も体を起こそうとしている。遠目にネフシュタンの鎧を纏った少女が逃亡しているのが見える。だが、ナナシはそれを追う気にはならない。ナナシの視線は、衝撃によって荒れ果てた地面の中心に佇む翼に向けられる。それとほぼ同時に、接近してきた車から弦十郎と奏が飛び出してきた。

 

「翼さん!」

 

「翼!」

 

「無事か!?翼!」

 

響が、奏が、弦十郎が、翼の身を案じて翼に声をかける。ナナシは、その様子を少し離れたところで呆然と眺めていた。

 

「…私とて、人類守護の務めを果たす防人」

 

そう翼は言いながら、ゆっくり全員の方を振り返る…その顔から、体から夥しい量の血を流しながら。

 

「…こんなところで、折れる剣じゃありません」

 

そう言って、翼は地面に膝をつく。

 

 

 

ナナシが守ると誓った、世界よりも大切な存在…その一つが、目の前で自ら作った血溜まりの中に沈んでいった…

 

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