戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第186話

ナナシと激闘を繰り広げた…いや、終始遊ばれたノーブルレッドの三人は、部屋の中で塞ぎ込んでいた。

 

あれから数日、ナナシは三人の所に来ていない。三人を気遣ったなどと言う事では微塵もなく、ボロボロの三人を部屋に放り込んでナナシはこう言い放った。

 

『明日から少し忙しいから、残念ながらお前らの世話をする時間がない。ウチの手が空いている連中に代わりをお願いしたからお行儀良くしていろよ?もし暴れてあいつらに怪我でもさせたら、お前ら自身に返ってくると思えよ。こんな風に』

 

ナナシがそう言った瞬間、ミラアルクの手が勝手に動いてヴァネッサとエルザの首を鷲掴みした。

 

『『『!!?』』』

 

『吸血鬼っ娘は特に気を付けろよ?機嫌が悪いからって誰彼構わずバキボキ人の体をへし折るようなら、お前の家族の体で力加減の訓練をしてもらうからな?あははははは!』

 

ギリッ!

 

頭の中に響く笑い声に、ミラアルクが歯を食いしばって胸の内の激情を抑え込む。その時、口の端をその鋭い牙で軽く切ってしまい、そこから赤い血が流れ出た。

 

(ああ…こんな物、全て流れてしまえば良いんだゼ…)

 

稀血の代用にナナシの血液を使った不具合は今のところ無い…どころか、明らかに稀血を使った時よりも調子が良い。ミラアルク達が稀血を使用するのは、パナケイア流体によって人と人以外の因子によって引き起こされる拒絶反応を抑制するため…あくまでも抑制であって完全に拒絶反応が無い訳ではないのだろう。それに時間経過でパナケイア流体は淀み、体を蝕む死毒へと変化するため、常に体内に毒物が生成されているのと同義だ。

 

しかしナナシの血液はあらゆる生物に適応してみせた万能血液だ。ミラアルク達の人と人以外の因子にさえ難なく適応したのなら、拒絶反応は限りなく無に等しいのだろう。そしてそれはパナケイア流体ではなく、ナナシの体に宿る神の力によって成されているため、三人の体に死毒が発生する事はない。これで三人が自分達の能力さえ行使出来るのなら、ナナシの血液は三人にとって特効薬以外の何物でも無いだろう。

 

だが、そんな事はミラアルクにとって何の気休めにもならない。それどころか…

 

(あんな化け物の血が体に馴染むなんて…ウチらがアレと同類だって言われているようなものだゼ)

 

部屋の隅で膝を抱えながら、ミラアルクは内から湧き上がる激情に身を震わせる。自分達のなけなしの希望を踏み躙り、目の前で家族を傷つけたナナシに対する憎悪で頭が一杯だった。

 

(この落とし前は、いつか必ずつけさせてもらうゼ!)

 

ミラアルクがそんな決意を固める一方、ヴァネッサは呆然と宙を見つめていた。心ここにあらずと言った様子で、座り込んで脱力しながらぼんやりとした頭で思考を巡らせている。

 

(痛いところを⋯突かれちゃったわね⋯)

 

『お前らは人間に戻った後、どういう風に生きるつもりだ?』

 

ヴァネッサの頭に過ぎるのは、ナナシの暴力よりもその言葉であった。

 

(いつか人間に戻る⋯それを希望に三人で頑張ってきたけれど⋯その後の事を考える余裕なんて無かった⋯いえ、きっと誤魔化していたんでしょうね⋯)

 

人間に戻りさえすれば、全てが上手くいく。

家族と一緒なら、どんな困難だって乗り越えられる。

 

そんな都合の良い考えで先の問題を見て見ぬふりをして、目の前の希望に縋り付いていたが⋯自分達が人間に戻ったところで、怪物であった過去が消える訳では無い。怪物の時に敵対した勢力が、人間となったからと自分達と友好的に接してくれるとはヴァネッサも流石に思わない。

 

ではその問題をどう解決するのか?人に戻ると言うことは、怪物としての力を手放すと言うことだ。各勢力を相手に神の力を掠め取るなどと言う大それた計画も、忌々しいが自分達に宿る怪物の力があったからこそ決起出来たのだ。この力を捨てた自分は、自分と家族を守る事が出来るのか?

 

(神の力があれば⋯)

 

まず思い浮かぶのはやはりそれだった。自分達を人間に戻した後も神の力さえあれば、他の勢力にも充分に対抗出来るはずだ。

 

しかし⋯

 

(私達が神の力を保持する限り、それを狙う組織がいなくなることはない)

 

世界中の組織がヴァネッサ達を狙う事になる。例え神の力で自衛が出来たとしても、家族以外の全てを敵として見ながら過ごさなければならない。

 

(そんなのが⋯私達の求めた『普通の人間』としての生き方だと言えるのだろうか?)

 

人間に戻れたなら、『普通』の幸せが手に入る⋯そんな希望を心から信じられなくなり、ヴァネッサは答えの出ない問答を頭の中で繰り返し続ける。それは本来、彼女達が行動を起こす前に悩むべき事だったのだ。

 

ミラアルクとヴァネッサが異なる想いで感情を揺らす中、エルザもまた二人とは異なる心境で⋯分かりやすく落ち込んでいた。頭の犬耳はしゅんと垂れ下がり、どんよりとした雰囲気を纏っている。

 

(不甲斐ない⋯私めが至らぬばかりに、三人一緒でもあの男に手も足も出なかったであります⋯)

 

実はノーブルレッドにおける参謀の役割を担っているのはこのエルザである。三人の中では最も年下ではあるが、聡明でしっかりとした思考と鋭い感覚による勘を駆使しておっとりとしたヴァネッサと感情的なミラアルクを陰ながら支えてきた。今回はナナシのテール・パチモンによって早々に孤立させられた挙句にミラアルク達を傷つけられた怒りで冷静さを失い、碌に連携が取れないままアッサリと敗北してしまった。

 

(この結果は恐らく、偶然ではないのであります。あの男はその身に宿る力をただ振り回すだけでなく、力を十全に活かすための工夫も怠らない。力と虚飾(ウソ)⋯言うだけのことはあるであります)

 

だからこそエルザは、感情とは裏腹にナナシの実力と自分達の至らなさを冷静に認めていた。決してナナシに屈した訳では無い。ただナナシに反発するだけではいつまで経っても弱い自分達はナナシを始めとした強者達を出し抜いて目的を達する事など出来ない。この敗北をいつかの勝利の糧とするため、エルザは今回の敗北から貪欲に利益を得ようと思考を巡らせていた。

 

(あの男にとっての正義が力と虚飾だと言うのなら⋯我々に見せるあの男の顔は、一体何処までが虚飾なのでありましょう?)

 

そんな疑問をエルザが感じたのは、ナナシが“投影”で過去の映し出したのが原因だ。ナナシは無言のままに実験台となった少女の遺体を回収していたが⋯あの時、常人離れしたエルザの聴覚でさえ危うく聞き逃してしまいそうな程小さな声で過去のナナシは呟いていた。

 

『悪かったな⋯気付いてやれなくて⋯』

 

恐らくはナナシ本人でさえ呟いた事に気付かぬ程、小さくか細い感情の吐露⋯ノーブルレッドの前では常に圧倒的強者として振る舞うナナシに対して、エルザは初めて『無力』を感じた。

 

(あれも我々を欺くための虚飾でありますか?それとも、あれこそがあの男の本心でありますか?もし、そうだとするならば…)

 

 

 

『俺達みたいな『正義』は、自分の身すら満足に守れない目立つ弱者(ザコ)共をちゃんと選んで守っている』

 

 

 

(ひょっとしてあれは…『目立ってくれ』と、懇願していたのでありますか?)

 

誰よりも真剣にノーブルレッドの利益を求めるエルザだからこそ…利益では割り切れない想いに一番近い場所に居た。

 

コンコンコン

 

三者三様の考えを巡らせていたノーブルレッドの部屋に、ノックと共に今日の世話係である友里と藤尭が入ってきた。強張った表情で昼食を運んできた二人は、テーブルの上に置かれた手つかずの朝食を回収する。この数日、ヴァネッサ達は碌に食事を取っていない。友里達はヴァネッサ達の昼食をテーブルに置くと、意を決した様子で三人に声をかけた。

 

「ナナシ君からの伝言…」

 

「黙って消え失せろ!!」

 

友里の言葉をかき消すようにミラアルクが怒声を上げる。怯んで口を閉ざした友里を庇うように藤尭が前に出ると、ミラアルクの言葉を無視してナナシの伝言を口にした。

 

「『碌に食事を取らずに衰弱するようなら、飼い主の俺が代わりに咀嚼した物を胃に直接流し込むから覚悟しろ』だとさ。多分本気だろうから嫌なら食べた方が良いよ」

 

「っ!?クッソ、何処までも家畜扱いか!!?何でウチらばかりこんな目に遭わなきゃならないんだゼ!?ウチらなんかよりもずっと化け物なあいつがヘラヘラ笑っているのに!!何でウチらばっかり!!!」

 

ナナシの伝言に、ミラアルクは癇癪を起した子供のように暴れ回る。そんなミラアルクに険のある視線を向けながら、友里達は無言で部屋の出口へと向かって行った。

 

そんな友里達の態度もまた、ミラアルクの神経を逆撫でする。この数日、世話をしに来たS.O.N.G.の職員達は同じような視線をミラアルク達に向けていた。ナナシが三人を散歩に連れ出した時は誰もがもっと朗らかな表情をしていた。三人に対して笑みを向ける事さえあった。

 

「何で…」

 

何故自分達だけだとこんなにも接し方に変化が出るのか…何故ナナシがいるだけでそこに笑顔が現れるのか…何故…何故……

 

「何でお前らは…あの男を受け入れる事が出来たんだゼ…」

 

別に答えを求めた訳では無い。ただ不満を吐き出したくて口から出たミラアルクの言葉に、部屋を出ようとしていた友里と藤尭は思わず立ち止まると、キョトンとした顔で首を傾げた。

 

「言われてみれば…何でだろうな?」

 

「そうよね?私達だって最初はナナシ君の事を怖がっていたはずなのに」

 

「……え?」

 

その予想外の答えに、ミラアルクは思わず疑問の声を上げてしまった。ヴァネッサやエルザも目を丸くして驚いている。

 

「それって、どういう…」

 

「えっと…」

 

「悪い、黙って消えて欲しいのに余計な事を言ったな?忘れてくれ」

 

友里が判断に迷っていると、藤尭が先程のミラアルクの言葉を理由に話を切り上げて部屋を出ようとした。ミラアルクには二人を引き止めるための言葉が見つけられず、黙ってその背を見送って…

 

「待つであります!」

 

…代わりにエルザが二人を引き止めた。

 

「…話を、聞かせて欲しいのであります」

 

「エルザ!?あいつの仲間に下手に出る事なんて…」

 

「知るべきであります!」

 

『!!?』

 

今度はエルザがミラアルクの言葉を遮るように大声を上げたため、ミラアルク達と友里達が目を丸くして驚いた。

 

「我々はあの男に比べて圧倒的に弱く不完全であります。それは戦闘力だけではなく、心構えでも…力で勝てない以上、せめてあの男の虚飾を見破れなくては、我々は一生あの男のペットとして過ごすしかないであります!だから⋯」

 

そう言ってエルザは、出口の前に佇む友里達に対して⋯頭を下げた。

 

「教えて欲しいのであります。あの男の事を⋯何故あなた方が、恐怖を抱きながらもあの男を受け入れたのかを⋯お願いするで、あります」

 

全てはノーブルレッドの⋯家族の未来のため、エルザは懸命に頭を下げる。エルザの必死な様子に、ヴァネッサもエルザの傍に寄り添って頭を下げた。そんな家族の姿を見て、ミラアルクは少しの間葛藤した後⋯項垂れるように頭を垂れた。

 

ノーブルレッドの態度を見て、友里と藤尭は顔を見合わせると、頷き合って三人に口を開いた。

 

「俺達はあくまでナナシから君達の食事なんかの最低限の世話を任されただけだ」

 

「そうでなくても、仲間の情報を気軽に渡すのは問題よね?」

 

「っ!!」

 

「「ただし!」」

 

友里達の否定的な言葉に、再び怒鳴り声を上げそうになったミラアルクであったが、先程のお返しとばかりに友里達が大きな声を出してそれを制した。

 

「世話を任されたにも関わらず、食事も満足に取ってくれないんじゃナナシに合わせる顔がないよな?」

 

「本当よね?せめて用意したご飯を食べてくれるなら、経過観察としてこの部屋に残っていられるのに。食べ終わるのを待っている間、時間潰しに想い出話くらいはしてしまうかもね?」

 

「!!」

 

二人の話を聞いた途端、エルザが耳をピコンと立てながら急いでテーブルにつくと、用意された食事を食べ始めた。そんなエルザの姿にクスリと笑いながらヴァネッサも隣に座って食事に手をつける。ミラアルクも呆れた様子でスプーンを手に持った。

 

「⋯ここの連中はどいつもこいつも、話し方がややこしいんだゼ」

 

「そりゃあ日頃ナナシの相手をしていればこれくらいはな?ナナシが来たばかりの頃は、あいつがあんなにお喋りになるなんて思ってもみなかった」

 

「そうねぇ、二課に保護されたばかりのナナシ君は無口⋯と言うより、そもそも言葉すら知らなかったからねぇ」

 

食事を始めた三人の向かい側に座りながら、友里達はナナシが来た時の事を振り返った。

 

「奏さんと翼さんに協力して一人の女の子を⋯響ちゃんを救ったナナシ君。仲間を救ってくれた恩人で、私達はこんな組織に所属しているだけあって、よくお人好しの集まりだと言われているけど⋯出生のよく分からない、拘束具を玩具のように壊せる怪力を持った男の子に対して、全員が諸手を上げて歓迎とは流石にならなかったわ」

 

「だな⋯ナナシが来たばかりの頃、ちょっとした事件もあってしばらくは皆遠巻きにナナシの事を観察していた」

 

「事件?あの、裸で廊下を連れ歩かれたって言う⋯?」

 

「あ、あれも確かに事件だったけど、目撃者は俺達だけだったし、主犯は了子さんだからな⋯」

 

「事件って言うのは、ナナシ君に施設を案内している途中で監視役の職員がちょっとナナシ君から目を離した隙に、ナナシ君がうっかり女子更衣室の扉を開けちゃって⋯」

 

「「「!!?」」」

 

「当然監視役は中にいた女性職員達に平謝りだし、司令や緒川さんもフォローしてくれたけど、ナナシ君本人は周りが騒いでいるのをポカンと眺めているようにしか見えなかったから、更衣室にいた気の強い女性職員がそんなナナシ君に詰め寄って、『自分で謝らないなら絶対に許さないから!』って叫んで騒ぎになっちゃって⋯」

 

「そこから何を仕出かすか分からない奴って噂が広まって、少しの間孤立した時期があったんだよ⋯まあ、半年くらい経った頃にはナナシはもう今くらいのお喋りになっていたし、一年も経たない内にすっかり馴染んでいたけどな?」

 

「たった一年で⋯一体あの男は、そんな状況からどうやって巻き返したと言うの?」

 

「いや、更衣室の件は改めて謝罪をしていたけど、気付いたらナナシは自然と俺達の中に馴染んでいたからどうやってって言われると⋯」

 

「何か切っ掛けらしい事ってあったかしら⋯切っ掛け⋯切っ掛け⋯あっ⋯フフッ」

 

切っ掛けを思い出そうとしていた友里は、突然クスリと笑みを零した。

 

「ん?何か思い当たる事でもあった?」

 

「ええ、あくまで私の話だけど。私の場合はナナシ君に⋯コーヒーを淹れてもらったわ」

 

「「「コ、コーヒー⋯?」」」

 

その答えがあまりに理解出来なかったため、ノーブルレッドの三人は思わず困惑してしまった。そんな三人の様子をクスリと笑いつつ、友里が懐かしそうにその切っ掛けとやらを説明し始めた。

 

「私はね、よく皆が飲むコーヒーを淹れているの。これでも結構評判は良いのよ?」

 

「そりゃ友里さんは相手に合わせて淹れ方を変えるくらい拘ってくれているからね。他の人じゃこうは⋯それこそナナシくらいか?」

 

「そうね、今じゃすっかりナナシ君に腕前は並ばれちゃったかな?最初はお世辞にも美味しいとは言えなかったのに⋯」

 

「あー、思い出した!そういえばナナシの奴、友里さんが皆にコーヒーを配った直後にもう一杯ずつ皆に配り回っていたな!しかも砂糖もミルクも無しで微妙に薄いブラックコーヒー⋯」

 

「そうそう!文句を言うほど不味いって訳じゃないから、皆困惑しながらお礼を言っていたけど、そんな皆の表情を見てナナシ君は何故か首を傾げて⋯その次の日、私がコーヒーを淹れるところをナナシ君がジッと見つめるものだから、淹れ方を教えてあげたの。今度はそれなりの味になったから、皆も素直にお礼を言っていたけど⋯ナナシ君は、そんな皆を見ても不思議そうに首を傾げてばかりだった」

 

友里は当時の事を振り返りながら、とても優しい笑みを浮かべていた。

 

「あんまり首を傾げるものだから、思わず聞いちゃったの。『何がそんなに不思議なの?』って。そうしたらナナシ君、私にこんな事を聞いてきたの⋯『あったかいもの、どうやって入れてるの?』って」

 

「あったかいもの?」

 

「コーヒーを配る時に、友里さんがよく言うんだよ。『あったかいもの、どうぞ』って。どうやってって⋯教えたんだろう?」

 

「そう、だから淹れ方で分からない事でもあったのか聞いてみたら⋯『友里のコーヒーは、あったかい。俺のコーヒーは、何もない』だって」

 

「何もない?いや、確かに最初は砂糖もミルクも無かったけど⋯」

 

「『友里のコーヒーはあったかいから、皆嬉しそう。俺のコーヒーは何も無いから、皆嫌そう。だからさっき、コーヒーを持った俺を見て皆嫌そうだった。でも、後ろにいる友里を見て皆嬉しそうになった。友里がいたから、俺のコーヒーがあったかくなった』…うん、こんな風にナナシ君なりに一生懸命説明してくれたのを覚えているわ」

 

「あー懐かしいなぁ。そうそう、最初はそんな風に片言と言うか、覚えた言葉で頑張って何かを伝えようとしていたっけ?」

 

要領を得ないナナシの説明にノーブルレッドの三人は頭に疑問符を浮かべてばかりだが、藤尭は当時を思い出してウンウンと頷いていた。

 

「そんなナナシ君の説明を、私なりに頑張って理解しようとして…次の日、ちょっとした実験をしてみたの。コーヒーはいつも通り皆の分を私が淹れて…ナナシ君には、皆の分のお茶菓子を配ってもらったの。やっぱり戸惑う人もいたけど、中には『普通に』ナナシ君へお礼を言う人もいて…『ありがとう』って言われたナナシ君、本気でビックリしていたわ。あの子はただ単に…皆を喜ばせたかっただけみたい」

 

「あれはそういう事だったのか…お礼を言ったらまじまじと顔を見られたから、俺何か変な事でも言ったのかと…」

 

「フフッ…結局、『コーヒーにどうやってあったかいものを入れているのか』って質問にはちゃんと答えてあげられなかったけど、ナナシ君は満足したみたいで、自分の分のコーヒーを淹れ忘れた私にコーヒーとお茶菓子を持ってきて、『あったかいもの、どうも』って言ってきたの。『どうも』じゃなくて『どうぞ』でしょう?って言ったら、『貰ったのは俺だから、合ってる』って…その時初めて、私の前でナナシ君が笑ったの」

 

当時はほとんど表情を動かさなかったナナシがぎこちない動きで口角を上げたその顔は、まるで笑顔の練習をしているように見えて友里も思わず笑ってしまった。

 

「俺も何かそういうエピソードがあったっけな〜?」

 

「いやいや、あなたと言ったらもうコレしかないでしょう?」

 

へにょん⋯

 

「ブフォ!?ああああ!思い出したぁあああ!!せっかく忘れてたのにぃいいい!!!」

 

友里が両手の指で眉毛をしょんぼりしたような形に変えると、藤尭が吹き出すと同時に何故か頭を抱えて机に蹲ってしまった。

 

「と、突然どうしたでありますか!?」

 

「それはね〜⋯」

 

「だあああ!自分で説明するから!!他人の口から自分の失敗談を聞きたくないから!!!⋯えっと、ナナシが二課に来た直後って、色々バタバタしていたから、俺達も連日徹夜続きで参っちゃって⋯寝不足でボーっとしながら作業を続けていたら、データの送信先を間違えて危うく組織の機密情報を外部に漏らしかけちゃってさ⋯」

 

藤尭が顔を赤くして過去の失敗を語っていると、友里が口を押さえて小刻みに震えている。仲間の失敗がそんなに面白いのかとノーブルレッド達が怪訝に思う中、藤尭が話を続けた。

 

「正直クビでもおかしくないやらかしだったんだけど、幸い司令の温情でそれだけは勘弁してもらえたんだ。だから正座で司令に説教されたのは愛の鞭として受け入れていたんだけど⋯それを見ていたナナシが、何を思ったのか俺の隣に同じように正座してきて⋯」

 

「ブフッ!!」

 

ここで遂に友里が堪えきれずに吹き出した。そんな友里を恨めしそうに見た後、藤尭が話のオチを語り出す。

 

「司令も俺も訳が分からなくてナナシを見ていたら、ナナシが不思議そうな顔で司令と俺の顔を交互に見て…突然、俺の顔を見たナナシが何かに気付いた様子で司令の方に向き直って、さっきの友里さんみたいに指で眉をしょんぼりした形に…多分、お説教された俺の表情を真似したんだと思う…」

 

「あっはははは!あ、あの時はナナシ君があんな不意打ちをしてくるなんて思ってもいなかったから、司令も私達も笑い死にするかと思うくらい大爆笑しちゃった!そのまま力尽きてパッタリ倒れちゃった職員も何人かいて、騒ぎを聞いて緒川さんが駆けつけてくれたんだけど、司令を含めて誰もまともに喋れなくて…それで緒川さん、私達が働き過ぎておかしくなったんだって本気で勘違いして、国の上層部に掛け合って二課に三日間の活動停止が言い渡されたの!国の組織が過労で笑い転げているって聞いて流石に上層部もヤバイと思ったんでしょうね。特にお咎めもなく一課や他の部署と連携して業務計画の見直しがされたわ。あんな大騒ぎになったのに、寧ろよく忘れられたわね?」

 

「自己防衛で心が黒歴史を封印してたんだよ!あの騒ぎのせいで俺のやらかしが二課全体に広がったんだからな!責められる事は無かったけど、優しく慰められたり、久しぶりにグッスリ眠れたって逆に感謝されたりで居た堪れなさが半端なくて⋯しかもナナシの奴、そこからちょいちょいあのしょんぼり顔で俺達を笑わせにくるから、話題が収束するまでに凄い時間がかかったんだからな!」

 

そんな風に文句を言いながらも、藤尭の顔には笑みが浮かんでいた。

 

「改めて思い返すと、あの頃のナナシは他人の真似ばかりしていたな?でも、それが今のナナシに繋がっているのが何となく分かる。例えば友里さんとのやり取りがあったから、ナナシって俺達によく差し入れをするようになったんじゃないかな?他人の好き嫌いに敏感なのもそれが理由かも」

 

「そういえば、私達の仕事に興味を持ち始めたのもあの頃からだった気が⋯あれ?と言うことは、ナナシ君がおかしな行動で周りを笑わせるようになったのって⋯」

 

「そ、それは解釈違いじゃないかな!?きっと俺達が見てないところでも色々あったんだよ!!」

 

怖がっていたと言う割には、ナナシとの想い出を語る二人の顔には終始笑顔が浮かんでいて…ミラアルクは思わず悪態をついてしまった。

 

「ハン!ただ人間の真似をすれば化け物が人に混じって暮らせるなんて、そんな簡単な話はないんだゼ!きっとお前ら、あの化け物の力で洗脳でもされたんだゼ!」

 

そんな事を言うミラアルクに、友里は困ったような顔でフゥと息を吐きながら声をかけた。

 

「簡単に、ねぇ…洗脳とは違うけど、ナナシ君には人の感情を感じ取る力があるみたいなの。相手が自分の事をどう思っているか、何となく分かるみたい」

 

「やっぱり!あいつはその力で、お前らにとって良く見えるように振舞っているだけなんだゼ!!」

 

友里の言葉にミラアルクが食いつくが、そんなミラアルクを諭すように友里は更に話を続けた。

 

「ナナシ君は更衣室の件を改めて謝罪したって言ったわよね?ナナシ君、被害者の女性職員達に何て言って謝ったと思う?」

 

「あぁ?フツーに下着とか裸を見てサーセンとでも言ったんじゃねえんだゼ?それとも眼福でした、あざまーすとか?」

 

おざなりな答えを返すミラアルクに対して、友里は静かに答えを口にした。

 

「ナナシ君は…『怖い想いをさせてごめんなさい』って言っていたわ」

 

「「「!!?」」」

 

その答えに、ミラアルク達は目を見開いた。

 

「ナナシ君にはね…周りの人間が自分を怖がっている事が最初から伝わっていたの。自分を遠巻きに眺めている人達も、表面上は普通に接していた私達も…気の強いと思っていた女性職員が、自分の後ろにいる仲間の子達を守るために恐怖を押し殺して気丈に振舞っていた事もね?そんなナナシ君が、それでも私達の傍に近づいてきた事、近くにいても良い理由を探っていた事…可能な限り体を小さく丸めて、手を開いたまま床に頭を付けて、精一杯自分が無害だと示しながら受け入れてもらえるか分からない謝罪に臨んだ事を、あなた達は本当に簡単な事だったと言えるの?」

 

友里の言葉に、ミラアルク達は何も言えなくなった。結社から逃亡を果たした後、自分達に奇異の視線を向ける者達に近づこうなど考えた事も無かった。そんな事をしても無駄だと、この体の自分達が何を言ったところで、受け入れられるはずがないと…

 

「ナナシはさ、図体は大きくて色々変わったところはあるけど…本当に中身はただの子供だったんだ。言葉も、物事の良し悪しも分からない。だから周りの大人の真似して、その反応を見て色んな事を覚えていく、まだ足元のおぼつかない普通の子供…そんな子供から俺達は目を離して、頭ごなしに怒鳴りつけて、離れた場所に追いやって放置したんだ。大人として恥ずかしいったらないよ。それでも、そんな俺達とナナシがどうして今の関係を築く事が出来たのか…話をしていて、ナナシが何をしたのか、ようやく分かった気がする。ナナシはきっと…諦めないでくれたんだ」

 

「諦めない…?」

 

「ナナシが諦めないでくれたから、俺達は今一緒に笑っていられる。黒歴史の一つ二つ笑って流せる。それこそ着替えを覗かれて怒鳴り散らした相手に、結婚の挨拶に行くからメイクをしてくれって泣きつく事だって出来た。それも全ては、ナナシが俺達との関係を諦めないでくれたお陰だ」

 

 

 

『分かり合う事を諦めさえしなければ、途中でどれだけ嫌われてもいつの間にか仲良くなれるものだ』

 

 

 

それはまさに、ノーブルレッドの三人がS.O.N.G.に来た時にナナシが言っていたのと同じ事だった。最初からナナシは三人に対して、人と共に過ごす方法を伝えていた。

 

話を終えた藤尭と友里は、三人の食べ終わった食器を回収して部屋の出口へと向かう。そして部屋を出る直前、また少し険のある表情をして三人に声をかけた。

 

「君達の境遇に同情しない訳じゃない。でも、だからと言って君達が俺達の仲間や大勢の人を傷つけようとしていた事は許せる事じゃない。それは君達の体が人であろうとなかろうと、関係のない事だ」

 

「「「!!?」」」

 

「少しだけ考えてみて?あなた達の行いが全て上手くいって、人間に戻ったあなた達は本当に家族以外の人達と仲良く出来たの?…少なくとも、私はそんなあなた達と仲良くなれたとは思わないわ」

 

友里達が部屋を去り、室内に静寂が広がる。ノーブルレッドの三人は空腹が満たされたはずなのに、何一つまともに言い返せない自分達の内に空虚を感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

部屋を出て無言で通路を進む藤尭と友里であったが、しばらく歩みを進めた後フゥと溜息を吐いて立ち止まった。

 

「…少しは、役に立てたかな?」

 

「それはあの子達の?ナナシ君の?」

 

「両方、かな?ナナシは本当に彼女達の最低限の世話しか頼まなかったけど…わざわざ俺達に伝言を頼んだのは、彼女達とさっきみたいに話をする切っ掛けを作るためだった…と思う」

 

「自信無さげね?」

 

「あくまで俺の“妄想”だからな…今のナナシに他人を気遣う余裕があるとは思えないけど、どんな時でもあいつが他人を蔑ろにするとも思えないからな」

 

「そうね…私達で少しでも、ナナシ君の負担を減らせれば良いのだけれど…」

 

「全く、いい大人が子供に頼りきりで情けない…せめて俺達の出来る事を精一杯やろう。どれだけ立派に育っても、あいつはまだまだ子供なんだ。精々見せつけてやろうよ?頼りがいのある大人の背中ってものを!」

 

「フフッ、そうね!…それにしても、私達もまだ若いはずなのに、すっかり気分は子育てに悩む親の心境よね?」

 

「…心だけ老け込まないよう、せめて親戚のお兄さんお姉さんくらいの気持ちを保つようにしよう」

 

 

 

 

 

一方その頃、話題の中心だったナナシの姿はS.O.N.G.の医療施設にあった。とある人物が横たわるベッドの周りを清掃したナナシは、ニコリと微笑みながらその人物に声をかけた。

 

「ナスターシャ教授、気分は悪くないか?」

 

声をかけられたナスターシャ教授は横たわったまま顔だけをナナシに向けて微笑む。特別顔色が悪い訳では無いが、以前よりも少しだけ痩せてしまったように見える。

 

「ええ、気分は大丈夫ですよ、ナナシ」

 

「…本当に?」

 

ハッキリとした口調で肯定したナスターシャ教授だったが、ナナシはそんなナスターシャ教授の腕に繋がれた赤い液体の流れる管を見つめて再度聞き返してしまった。

 

「あなたならば、私の言葉の真偽など分かってしまうでしょう?」

 

「分からねえよ。それが本心なのか、そうあろうとしているだけなのか、お前自身もどっちか分からないだろう?」

 

「…そうですねえ」

 

ナナシの指摘に、ナスターシャ教授は困ったように笑いながら同意してしまった。

 

「…また見に来る。少しでも不調を感じたらすぐに連絡をくれ。気のせいでも良い。いつでも“血晶”を使って念じてくれれば飛んでくるから。文字通りな!」

 

最後は茶化すようにそう言って、“飛翔”でフヨフヨと飛びながらナナシが部屋の出口へと向かう。そんなナナシの背中に、ナスターシャ教授が声をかけた。

 

「気にするな、などと言う無理はもう言いません。偽りの言葉があなたに届くとは思えないので本心を言うなら、私にもまだまだ未練はあります。ですが…どんな結末が訪れたとしても、私はきっと笑顔でその結末を受け入れられます。だからどうか…あなたが成すべき事を、成したい願いを、見失わないでください」

 

「……」

 

ナスターシャ教授の言葉を最後まで聞いたナナシは、振り返ることなく部屋を後にした。そのまま黙って歩みを進めていると、その先で弦十郎と緒川、そしてエルフナインの三名がナナシを待ち構えていた。

 

「ナナシさん⋯頼まれていた調査の結果ですが⋯」

 

「その様子だと、俺の“妄想”が見事的中ってところか?」

 

「はい⋯」

 

暗い表情をするエルフナインから袋⋯稀血の詰まった血液パックを受け取ると、ナナシは緒川に質問した。

 

「追跡は出来たのか?」

 

「徹底的に調査した結果、ここしばらく我々以外に稀血を必要とした個人・組織はありませんでした。保管されている稀血と、念のため同じ医療施設に保管されていた血液の検査は全て完了しています」

 

「ご苦労様、慎次。それなら二次被害の心配は無さそうだ⋯それで、犯人の目星は?」

 

「⋯我々が稀血を受け取る前日に、医療施設周辺の警備システムと監視機器が同時にダウンしていた事が発覚しました。ほんの一時間程の間で、公式にはその時間に血液の保管区域に人の出入りは無かったとの事ですが⋯そして同日、医療施設付近の店舗に備え付けられた監視カメラに、この人物が確認されました」

 

緒川がタブレットに表示させた画像に映っていたの⋯先日、ノーブルレッド達の引き渡しを要求してきた風鳴機関の男だった。

 

「疑いはあれど証拠は無し、と⋯うん、それじゃあちょっとOHANASHIしてくるから居場所を教えてくれ。調べてあるんだろう?」

 

ナナシがそう尋ねると、弦十郎達が表情を暗くする。しばし沈黙を保った後、弦十郎が意を決してナナシに報告をした。

 

「彼が住んでいるマンションの一室に先立って事情聴取に向かってもらったところ…遺体で発見された。室内の状況的に、自殺で間違いない」

 

「…そっか」

 

弦十郎の報告に、ナナシは無表情で素っ気ない返事を返す。そんなナナシにエルフナインが近づき、ナナシの体に抱き着いた。しゃくり上げながら身を震わせるエルフナインにナナシは困ったような笑みを向けてその頭を優しく撫でた。

 

「悪い、俺がペットの世話を優先したせいでお前らに嫌な想いをさせた。初動を遅らせた俺のミスだ…しばらくは俺が外周りを担当する。俺一人なら小回りが利く上に面倒な手続きを上手く誤魔化せるからな。ペット共の世話は引き続き頼む。後は慎次、悪いけど今度の翼達のライブ関連の手配は諸々任せても…」

 

「ライブには!!…必ず来てください。もうすぐクリスさんの誕生日もあります。悪い事なんて一つもないので、どうか全てを一人で抱え込まないでください…よろしくお願いします」

 

ナナシの言葉を大声で遮り頭を下げる緒川に、ナナシは目を丸くして驚いた後、フッと笑って答えた。

 

「大丈夫だよ、仕事とプライベートはキッチリ分けるって。俺がライブをすっぽかす訳がないだろう?クリスの誕生日だってしっかり盛り上げてやるさ!ナスターシャ教授の事もあるし、最低でも一日に一回は本部に戻るよ。他にも色々頼らせてもらうから、覚悟しといてくれよ?」

 

普段と変わらぬ様子で答えたナナシは、三人の横を通ってその場を離れようとした。

 

「⋯済まない、ナナシ君」

 

そんなナナシの背に、弦十郎の零すような謝罪の言葉が届いた。

 

「何に対してだ?」

 

「⋯君の師を名乗る者としての、己の不甲斐無さにだ。君を守るために与えたその名の重みは、本来全て俺が背負うべき⋯」

 

バチイイイン!!

 

「がふっ!!?」

 

俯いて謝罪の言葉を口にしていた弦十郎だったが、その背にナナシの遠慮容赦ない張り手を食らって思わず言葉を詰まらせた。

 

「師匠面するなら背中丸めて縮こまってないでもっと堂々と胸張れバカ師匠!あんな老害を生み出した風鳴の名の重みなんざ知ったことか!!俺が『風鳴ナナシ』の名と共に背負ってんのは、翼の思いやりとお前の生き様だけだ!!!間違えんなボケ!!!!」

 

一方的に怒鳴り散らして、ナナシは前のめりに倒れ込む弦十郎を放置したままその場を離れてしまった。

 

「げ、弦十郎さん!?」

 

「司令、大丈夫ですか!?」

 

「ゲホッ、ゴホッ、かなり良いのを貰ってしまった。これは絶対背中に手形が残っているぞ…全く、これではどちらが師なのか分からないな」

 

エルフナインと緒川に背を擦られながら、息を整えた弦十郎はその場に胡坐をかいて苦笑した。

 

「これでは頼ってもらうどころではないな。いい加減俺も覚悟を決めて…弟子の重荷を掻っ攫うくらいの気概を見せなければな」

 

そう言って弦十郎は、ジンジンと痛みの残る背筋を真っ直ぐに伸ばすのだった。

 

 

 

 

 

ドスドスと荒い足取りで通路を進んでいたナナシは、周囲に人の気配が無くなるとその歩みを止めて、その手に持った稀血の袋をジッと見つめる。次の瞬間、その手にあった稀血が“収納”に消え去り…その場に残った透明な液体がナナシの掌を濡らした。

 

「人の愛情に、碌でもない悪意を混ぜ込むなんて…やってくれるな、老害が」

 

 

 

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