戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第188話

神の力を得た事で既存の能力が強化されたナナシであるが…実は能力未満の基礎能力も僅かに向上していた。弦十郎と手合わせをした際、以前よりも防御が固く、攻撃が重くなっていると指摘された。

 

本気を出したら肉体強度が足りずに体が消し飛ぶのは変わっていないが、恐らくは“耐性”が向上した事でそれに伴い肉体が破壊されない出力の上限も引き上げられたのだろう。

 

それらはナナシ本人も気付かない程度の僅かな変化であったが…きっとそれは、ある一つの変化のためにリソースが割かれたからではないかと考えられていた。

 

ナナシが月遺跡を調査する上で、もっとも揃えたかった条件の一つ。そのために過去、都市の構造にまで手を加えてさえ成し遂げられなかった事…

 

…“血晶”の距離制限が、消失したのだ。

 

 

 

 

 

「“固定化”が完全に死にスキルになったんだよな~。いまいち何かが変わったようには感じられないし…」

 

「ナナシちゃんが変化に気付いてないだけって可能性もあるわよ?他の能力だって色々調べたから何が変わったか発覚した訳だしね?」

 

「あ~マニュアルが欲しい~!どっかに俺の攻略本とか売ってないかな~?」

 

「ジャンルがRPGならともかく、ADVだと奪い合いが発生しそうね?」

 

ナナシと了子がそんな会話をしながら進む先に、ロケットが発射台に設置されているのが見える。ここは種子島の宇宙センター。ナナシと了子はこれからあのロケットに乗って…月へと向かう。

 

二人がロケットの搭乗口へ進む途中に、ちょっとした人集りが出来ていた。弦十郎に緒川、装者の六名に奏と未来、キャロルにエルフナインとオートスコアラー達、サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロの三名、そしてウェル博士に車椅子を押されるナスターシャ教授までいた。

 

「ナスターシャ…今のあなたが外出するのは流石に無茶が過ぎるでしょう?」

 

「気になってどちらにせよ眠れないのなら同じ事です」

 

「全く世話の焼けるオバハンですねぇ。碌に力も入らないのに僕の襟を掴んでガン飛ばして来るんですから」

 

ウェル博士が悪態を付きながら車椅子を押してナスターシャ教授をナナシの前に移動させる。ナスターシャ教授は少しの間ナナシの顔をジッと見つめると、やがてフッと笑みを零した。

 

「どうやら、杞憂だったようですね?あなたの瞳には、何処か暗い決意が宿っているように見えましたから」

 

「俺ってそんなに分かりやすいか?自信無くすなぁ…まあ、正直危なかったよ。お前の娘のお陰もあって、どうにか自分を見失わずに済んだ」

 

「フフフッ⋯二人共、無事に帰ってきてください。次に会う時は、きっと元気な姿を見せられるはずですから」

 

「ええ!」

 

「楽しみにしてる。ってことで、ナスターシャ教授の事はよろしくお願いします!研究室B諸君!!」

 

グッと親指を立ててそんな事を言ってくるナナシに、サンジェルマン達が思わず苦笑してしまった。

 

「爽やかに厄介事を丸投げしてきたわね?」

 

「だって元々俺に出来るのは施設とか材料とかその他諸々を用意するくらいだからな?必要な物を揃えて後は基本ノータッチが研究職にとって理想の上司の在り方だろう?」

 

「貴様は良く分かっているワケダ。次々と面倒事をブン投げてきた挙句に催促ばかりしてくるあの黄金全裸には何度殺意が湧いたことか⋯」

 

「端からやる気のある奴を急かしたりしないから安心してじっくり取り組んでくれ。それで間に合わないならナスターシャ教授の天命はそこまでだったって事だ!」

 

「最後にエッグいプレッシャーかけてきたわね!?」

 

「もはや脅迫なワケダ!?」

 

「大丈夫大丈夫!お前らならきっとやり遂げてくれるさ!あはははは!」

 

「⋯⋯」

 

気楽な様子で笑ってみせるナナシの事を、サンジェルマンは無言で見つめる。もうサンジェルマン達も理解している。不謹慎とも取れるその振る舞いは、重責を背負う事になる自分達へのナナシなりの気遣いなのだ。

 

「本当に良いのだな?お前の見出したあの『仮説』が立証されれば、確かに彼女の命は助かるかもしれない。だが、その答えが意味するのは⋯」

 

「良いに決まっているだろう?寧ろ立証してくれないと困る。せっかく希望が見えてきたのに、錬金術師のお前が答えから目を逸らしてどうする?」

 

「全くだ。そんなに嫌ならオレが変わっても良いのだぞ?」

 

ナナシの要求にサンジェルマンが何やら躊躇していると、横からキャロルが口を挟んできた。

 

「偶々今回はそいつらが適任であっただけで、元々はオレの研究対象だ。深淵を覗く度胸も無い三流共などではなくやはりオレに依頼してはどうだ?当然、対価は相応に支払ってもらうがな?」

 

「そりゃやってくれるならありがたいが⋯既にお前には滅茶苦茶仕事を任せているじゃないか?これ以上は流石に厳しくないか?」

 

「ご心配には及びませんわ!サブマスター!!」

 

「我々が派手にサポート致します!」

 

「いっぱいお手伝いするんだゾ!」

 

「なのでサブマスターは安心してマスターに身も心も委ねてしまえば良いんですよぉ!!」

 

「ボ、ボクも頑張ります!」

 

「いや、お前らが手伝う事を前提で厳しいだろうって言ってるんだよ!今だってレナが黙々と働いてくれているはずだ。これ以上お前らに仕事を任せるとエルフナインが過労死する未来しか見えないからやっぱり却下だ」

 

「むぅ⋯」

 

「はうぅ…ずびばぜん」

 

ナナシの言葉にキャロルとエルフナインが表情を曇らせる。流石にオーバーワークである自覚はあるようだ。

 

「サンジェルマン、その葛藤は俺が見出した仮説にお前が真摯に向き合ってくれている証だ。ただの依頼と割り切る事無く、その答えがもたらす意味にまで思い悩んでくれてありがとう」

 

「……」

 

「でもな?だからこそ、その答えがもたらす結果にも目を向けてくれ。ハッキリ言えば、仮説の答えなんて俺にとっては(・・・・・・)どうでも良い。だけど、それで救われる命があるのなら…」

 

ナナシはサンジェルマンに、一切影の無い明るい笑みを見せつけた。

 

「俺はきっと、お前が出した答えを笑顔で受け止められる。感極まってお前ごと抱き締めてしまうかもな!」

 

「っ!!?」

 

「ちょっと上司様~?それってセクハラじゃないの~?」

 

「安心しろ!慰謝料(かね)なら払う!」

 

「こいつ最低なワケダ!?」

 

「あははははは!」

 

カリオストロとプレラーティが騒ぐ様子をナナシが楽しそうに笑い飛ばす。そんなナナシを見て、顔を赤くして動揺していたサンジェルマンは力が抜けてフッと微笑んだ。

 

「フフッ、全てを承知の上で笑い飛ばすか…お前の『覚悟』は理解した。ならば我々もその想いに応えるために、全力を尽くす事を誓おう」

 

「よろしくお願いします!」

 

サンジェルマンの了承を得たナナシは振り返り、今度はウェル博士へと声をかけた。

 

「そういう訳なので、サンジェルマン達が成し遂げてくれるまでの間、ナスターシャ教授の事はよろしくお願いします!我が英雄様!!」

 

「いい加減オバハンの世話はお役御免なんですけどねぇ…まあ、信者に慈悲を与えるのも英雄の務めです。僕をただの介護要員としか見なしていなかったのなら話は別でしたが…」

 

「滅相もない。あなた様がいてくださるからこそ私は安心して月へと赴けるのです。我が英雄の雄姿をこの目で見られない事が非常に残念でなりませんが…お膳立てはさせていただきました。あなた様の偉業の一助程度にはなるはずです」

 

「結構!敬虔な信徒の願いに応えて、僕が英雄としてスポットライトを浴びるまでの暇つぶしにオバハンの世話くらいはしてあげましょう。貴様には僕の偉業を後世に残すという崇高な使命があるのですから、月の調査などさっさと終わらせて帰って来なさい」

 

出来の悪い演劇のような芝居がかった言い回しで自分を持ち上げるナナシに、ウェル博士も同じノリでフッと微笑みながら応えてみせる。最後の一言はウェル博士なりのナナシに対する気遣いだった。それを理解しているナナシは仰々しく一礼した後、今度は弦十郎と緒川の方へ向き直った。

 

「多分俺と了子が留守にして一番被害を受けるのはお前らだけど、大丈夫そう?仕事回せるか?」

 

「事前に引継ぎは終わらせてくれたので大丈夫ですよ。流石に少々忙しいですが、S.O.N.G.の皆も頑張ってくれています。何やら伺っていない話もあるようですが…」

 

「慎次ちゃん達は知らない方が良い話もあるだけよ。今回の計画に向けてナナシちゃんが色々仕込んでいるみたいだから覚悟しておいてね?」

 

「期待していてくれ!」

 

「不安なような心強いような…」

 

緒川がそう言って苦笑していると、黙っていた弦十郎が一歩前に出て了子に声をかけた。

 

「了子君…君の願いが果たされる事を祈っている。どうか、ナナシ君と無事で帰ってきてくれ」

 

「…ええ、分かっているわ」

 

クスリと微笑む了子の言葉を聞いた弦十郎は、今度はナナシへと向き直った。

 

「後の事は全て、俺に任せろ。了子君の事、そして君自身の事を、よろしく頼む」

 

ナナシの目を真っすぐに見つめながら力強く宣言する弦十郎を、ナナシはしばらくジッと見つめた後…フッと笑みを零した。

 

「まだ縮こまっているようなら今度は背中に足跡つけてやるつもりだったが、心配なさそうだな?…任せたぞ!」

 

「そちらもな!」

 

ズドン!

 

互いの拳を合わせて軽く衝撃波を発生させると、弦十郎とナナシはそれ以上言葉を交わす事無く会話を切り上げた。そんな師弟の様子に、緒川と了子は思わず笑みを浮かべてしまった。

 

何やら色々と意味深なやり取りを終えたナナシはようやく歌姫達の傍へと近づいて行った。ナナシがまず声をかけたのは、何やら不満そうな表情を浮かべるマリア、切歌、調の三名だった。

 

「「むう~…」」

 

「何でお前らはそんな不満そうにむくれているんだ?」

 

「別に…結局あなたは私達には何も頼らないんだなって思っただけ…」

 

「ブフッ!あっははははは!!」

 

不貞腐れたようにそんな事を言うマリアに、ナナシは思わずと言った様子で笑い出してしまった。

 

「俺はお前らの事をスゲー頼りにしているぞ?ついこの間もカラオケでいっぱい歌を聴かせてくれただろう?」

 

「そ、そんなお手軽な事じゃなくて!?」

 

「え~切歌なんて俺のリクエストに応えて例の歌を顔を真っ赤にしながら皆の前で歌ってくれたじゃないか?」

 

「うわあああん!ナナシお兄ちゃんのいじわるううう!!」

 

ナナシが茶化して誤魔化そうとしていると思った切歌と調はナナシの体をポカポカ叩いて抗議する。そんな二人の様子を微笑ましそうに見つめた後、ナナシは二人の頭をワシャワシャと撫でた。

 

「お前らの歌から『頑張れ』って想いをこれでもかってくらい貰ったよ。お陰で元気いっぱいだ!俺からお前らにお願いする事があるとするなら…帰ってきたら、またお前らの元気な歌声を聴かせてくれ。よろしくお願いします!」

 

「…分かりました。だから、了子さんと絶対無事に帰ってきてください。ナナシ兄さん」

 

「約束デス!ナナシお兄ちゃん!!」

 

二人の元気な返事を聞いてナナシはニコリと微笑むと、視線をマリアへと向けた。

 

「俺が今こうして笑っていられるのはお前らのお陰だよ。もう充分過ぎるぐらいに頼らせてもらった。信じていてくれ。ナスターシャ教授の事も、月遺跡の調査も、何もかも全部上手くいくってな!」

 

「…最初から、疑ってなんかいないわよ。帰ってきたら私達家族全員の歌で労ってあげる。だから、頑張ってきなさい!」

 

「おう!」

 

力強くそう返事をしたナナシは、今度は呆れた顔のクリスの前に移動した。

 

「ったく、嘘くさい笑顔で空元気振り撒いていたくせに、すっかりお元気いっぱいだな?そんなに先輩らに背中押してもらえたのが嬉しかったか?」

 

「あれ?もう全部周知されている感じ?」

 

「あんな歌聴いたら馬鹿でも分かるっつうの。てめえがアレを聴いて未だにウジウジするような大馬鹿野郎だったら、あたしがてめえのケツ蹴り飛ばすところだったよ」

 

「バッチコイ!」

 

「嬉々としてケツ突き出してくんな!!」

 

顔を赤くしてナナシの背中を殴りつけるクリスに、了子がクスクス笑いながら声をかけた。

 

「フフッ、ダメじゃないクリス?こういう時はチャンスだと思って殿方にハグの一つでもしてあげたら?ほっぺにあつ~いキッスも出来ればパーフェクトね!」

 

「なっ!!?妙な事ほざいてんじゃねえぞてめえ!!」

 

「あらあら、お子ちゃまには難しかったかしら?じゃあ、代わりに…」

 

そう言って優しい笑みを浮かべた了子は、クリスの体を抱きしめた。

 

「!!?」

 

「しばらくナナシちゃんを独り占めさせてもらうわね。彼が帰ってきた時は、もう少し素直に甘えてみなさい。あんまり足踏みしていると、あっという間に手が届かなくなってしまうわよ?」

 

「…大きなお世話だバカ…ご都合主義だけじゃなくて、お前もちゃんと戻って来い。そしたら、ちょっとは考えてやる」

 

「フフフ、それは楽しみね」

 

大人しくクリスが了子に抱き締められたまま何やら話しているのを見てナナシはクスリと笑みを零すと、今度は翼と奏の傍に近づいて行った。

 

「おうおう、ようやく来たか!人気者だね~?」

 

「それお前が言う!?」

 

「それだけナナシが多くの絆を結んできたという事だ。残念ながら多忙でこの場に来られなかった皆も、ナナシと櫻井女史の無事を祈っている。当然、我々もな」

 

「充分過ぎるくらい伝わっているよ。ありがとう!」

 

「さて、本当はもっと色々言うべきなんだろうけど…あたしの伝えたい事はあのライブの時にほとんど叩きつけたから、改めて言う事は特に思い浮かばないな?」

 

「むぅ、確かに…」

 

「ああ、それなら丁度良い。俺はお前らに言いたい事たくさんあるからしっかり聞いてくれ!」

 

「「えっ?」」

 

「翼は訓練や歌のレッスンは適度に休めよ。俺が止めないからって延々続けて倒れでもしたら承知しないからな?」

 

「う、うむ…」

 

「奏は間食をほどほどにな?俺が管理しないから多少羽目を外すのは仕方が無いけど、あんまり酷いと後から地獄を見るぞ?」

 

「お、おう…」

 

「毎日三食きちんと食べろよ?夜更かしは控えろ?スキンケアは怠るな?周りの大人の言う事はしっかり聞くんだぞ?慎次にあまり無茶な事は言うなよ?戸締りは忘れるな?夜外出する時は一人で行こうとするなよ?あと…」

 

「「私達は初めて留守番をする子供か何かか!!?」」

 

「生活力の無さでは似たようなもんだろうが!!」

 

「「ぐうっ!!?」」

 

翼は家事全般が未だに壊滅的である。奏は出来ない事は無いのだが割と大雑把な性格のため要所要所が心許ない上に普段はナナシが全て片付けてしまうため最近はめっきり…しかしそれを言い訳にするのは流石にどうかと思うので、二人は咄嗟に言い返せなくなってしまった。そんな二人にナナシはヤレヤレといった様子で呆れた後…二人の体を抱き締めた。

 

「なっ!!?」

 

「ちょっ!!?」

 

「多分、こっちでも色々起こると思う。後始末は俺が帰ってきてから全部やるから…頼むから、無事でいてくれ。よろしくお願いします」

 

これから危険な場所に向かうのは自分だと言うのに、ただただ二人を心配するナナシに奏と翼は驚きも忘れて思わず苦笑してしまった。

 

「ったく、このお人好しは…分かったよ。翼と元気に歌っているから、お前もちゃんと帰って来いよ?」

 

「ナナシが留守の間くらい、家の事は私達で何とかしてみせる!」

 

「いやそこは素直に慎次に丸投げしてくれ」

 

「なっ!?わ、私とて成長しているのだ!あまり舐めてもらっては…」

 

「帰って早々ナナシに家の修繕を任せるのは悪いから、翼は大人しくしていような?」

 

「修繕くらいなら良いけど、丸ごと再建設になったら流石に大変かな?」

 

「うぅ…奏もナナシも私に意地悪だ!!」

 

不貞腐れた翼を奏が宥めている間に、ナナシは最後に響と未来へと近づいて行った。

 

「じゅ、順番おかしくないですか?奏さん達が最後の方が良かったのでは?」

 

「研究室B以降は俺の不安と心配が大きい順で声をかけているからな!」

 

「あれ!?わたし達が最下位なんですか!!?」

 

「そりゃあここぞという時で一番危なっかしいのが響だからな~?」

 

「ええ~…」

 

「……」

 

響が不服そうな顔でガックリと肩を落とし、未来が無言でナナシの事を見つめる。ナナシはフッと笑って響の頭を撫でた。

 

「まあ、無理無茶無謀が弦十郎の弟子である俺達の性だ。不安と心配は大きいだろうけど、俺は了子と死んでも生きて戻ってくるから…精々俺のペット共の事は頼んだぞ、妹弟子!」

 

「!!」

 

「あいつらとも手を繋ぐつもりでいるんだろう?一応、俺なりに出来る事はやっておいた。無責任な飼い主で申し訳ないが…あいつらの事、任せても良いか?」

 

「…はい!ヴァネッサさん達とも、きっと手を繋いでみせます!」

 

拳を握りしめて力強く宣言する響にナナシは満足そうに頷くと、響の隣でずっと無言でいた未来へと視線を向けた。

 

「またな、未来」

 

「…はい」

 

その短いやり取りで会話を終わらせてしまった二人に響が疑問を感じたが、それを追及するよりも前にナナシが何かに気付いたようにポンと手を打ち合わせた。

 

「おっと危ない!お前らに渡す物があった事をすっかり忘れていた!」

 

そう言ってナナシは素早く駆け回り、全員に何かを投げ渡していった。

 

「おっとと…これは、御守り?」

 

ナナシが全員に配ったのは、神社などでよく見られる御守りだった。

 

「Exactly!!お前らの無事を願ってな!」

 

「いや、こういうのって普通見送る側が渡す物じゃあ…百歩譲ってお前らが持つべきだろう?」

 

「これから神様に喧嘩を売りに行く俺達が御守りを持つのも変な話だろう?だけど俺は“紛い物”とはいえ神そのものだからな!他人に祝福を与える事は何もおかしくない!きっとご利益はあると思うぜ?」

 

「…何か妙な物でも仕込んであるのか?」

 

「さ~て、それはどうかな~?」

 

最後の質問は雑に誤魔化すナナシ。全員が不審に思いつつも、見た目は何の変哲もない御守りなので、とりあえず素直に受け取る事にした。

 

「あ、あの!お返しという訳ではないのですが、ボクとキャロルからも渡したい物が…」

 

「うん?」

 

そう言ってエルフナインがナナシに手渡したのは、一つのテレポートジェムだった。

 

「テレポートジェム?地球の外でも使えるのか?」

 

「いえ、流石にそれは無理です。そのサイズのジェムに惑星外部での位置情報を演算出来るほど高度な術式は刻めませんし、単純にエネルギー不足ですから。だけど…」

 

「…そのジェムには、貴様の部屋の座標が刻んである。貴様らが帰る場所を見失わないように、という事だ…この国の人間はこういったこじつけが好みであろう?」

 

モジモジするエルフナインと、そっぽを向くキャロルに、ナナシは思わず笑ってしまい、思わず二人を抱き締めて抱え上げてしまった。

 

「はわわわわ!?」

 

「な、何をする貴様!?」

 

「ありがとうな~!絶対帰ってくるからな~!!あっはははは!!!」

 

とても嬉しそうなナナシと、目を回すキャロル達の姿に、周囲の者達も思わず笑みを零してしまった。それから少しして、ようやくナナシ達はロケットへと歩みを進め始めた。

 

「それじゃ!お土産に月の石持って帰るから、期待していろよ!!」

 

「バッハハ~イ♪」

 

最後まで悲壮感を欠片も見せないまま、お気楽な様子で離れていくナナシと了子。その背中を見送る者達が顔を合わせて一つ頷くと、意を決した様子で口を開いた。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal…』

 

ニョキニョキガシャンガシャンバチバチバチ!!!

 

その歌が聴こえてきた瞬間、ナナシが全身から生やした腕にスタンガンなどの非殺傷武器を構えて振り返る。

 

『Emustolronzen fine el baral zizzl…』

 

ナナシの姿に全員が一瞬ビクリと身を震わせるが、それぞれが想いを籠めて歌を続けた。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal…』

 

言葉では伝えきれない想いを全て注ぎ込むような歌声に、ナナシだけでなく了子も聴き入ってしまう。

 

『Emustolronzen fine el zizzl』

 

「…………何故そこで絶唱!!?」

 

歌が終わり、余韻までしっかり聴き入った後でようやくナナシからツッコミが入る。そんなナナシの様子に、全員がドッキリ大成功とでも言うように笑ってしまった。

 

「フフフ、お前の大っ嫌いな絶唱をあたし達から聴く最後の歌にしたくなかったら、ちゃんと無事に戻って来いよ!!」

 

「どれだけ念を押せば気が済むんだよ…上等だ!お前らの歌に懸けて絶対に無事に戻ってきてやるよ!!行ってきます!!!」

 

『行ってらっしゃい!!』

 

 

 

 

 

数日後

 

神が創造したとされる月の遺跡⋯そのすぐ傍に、地球より飛来したロケットから月着陸船が降り立った。少しして、船の中から宇宙服を着た者達が次々と現れて何やら作業をし始めた。

 

その内の数名が月遺跡に近づくと、その外壁をしばらく調べた後に何かを貼り付けて一目散に離れていった。

 

全員が岩陰などに完全に身を隠した事を代表者らしき人物が何度も確認した後、代表者も同様に遮蔽物へと身を隠して⋯爆弾の起爆スイッチを押した。

 

空気無き世界故に爆音は響かず、遮蔽物の横を通り過ぎていく無数の石片が起爆の成功を伝えてくる。少しして、隠れていた者達が恐る恐る爆発跡を確認すると⋯月遺跡の外壁には傷一つ付いていなかった。

 

分かりやすく落胆する者、想定内と肩を竦める者、小石を蹴り飛ばして不貞腐れる者など、それぞれが様々な反応を見せる中、代表者らしき者とそれを補佐するようにもう一人が外壁に近づいて状態を確かめる。結果が受け入れられないのか、代表者らしき者が傷一つない壁をその手でコンコンと叩き続けていると、補佐らしき者がそれを諌めるように代表者の肩を掴む。しかしそれでも代表者の動きは止まらず、代表者は大きく腕を引いて…

 

 

 

「ごめーんくーださああああああい!!!!!」

 

 

 

ドゴォオオオオオオオオオ!!!

 

…拳によるその一撃は月遺跡の外壁を容易く打ち砕き、遺跡内部から溢れてくる空気の濁流が二人に襲い掛かる。しかし代表者はまるで普通に歩くように地面に足を突き刺しながら悠々と歩みを進め、補佐の者も代表者の肩を支えに前へと進む。二人が遺跡内部に入った瞬間、外壁の裂け目に透明な壁が出現して穴を塞いだ事で空気の流出は止まり、それと同時に外にいた宇宙服の者達が一斉に倒れて動かなくなった。そのヘルメットの奥には、宇宙服内部で何やら赤い液体が漂っているのが窺える。

 

「何だ、空気があるのか。寧ろ地球より澄んでいて美味いな」

 

宇宙服が一瞬で消え去り、中から現れたナナシが深呼吸をしてそんな事を呟いた。

 

「地球並みの重力…これは制御されていると見て間違いないわね」

 

ナナシが肩を掴む人物の宇宙服も自身と同様に“収納”して、中から現れた了子が月遺跡の内部環境を確かめながらそう結論を出した。

 

「にしても、こんな茶番のために本物のロケットを用意させるなんて…」

 

「急がば回れって言うだろう?何千年も技術を積み重ねて数日掛かりで何度か月へ来たことがある人類と、唐突に現れて地球から数時間で高速接近してくるUMA、どっちが警戒されるかなんて分かり切っているだろう?最悪何らかの超技術で撃墜される可能性だってあったんだから、神の領域に踏み込む通行料と考えればロケットの一つ二つは安いものだろう?」

 

呆れる了子にナナシが笑いながらそう答えると、何やら額に指を当てて念じ始めた。

 

(もしもし、弦十郎?ちゃんと脳内に邪神からの怪電波受信出来てる?)

 

(…絶妙に認めたくなくなる言い回しをするんじゃない)

 

(よしよし、ちゃんと機能しているみたいだな!宇宙から太陽目掛けてぶん投げた血液球が確実に月よりは遠くに飛んだのは認識していたけど、能力の有効距離検証までは出来なかったからな)

 

遠距離での能力使用に問題がない事をナナシが喜んでいると、月遺跡の裂け目が徐々に修復されていき、やがて完全に塞がってしまった。

 

(自動修復なのか、閉じ込めたつもりなのか…とりあえず、月遺跡への侵入は無事果たしたぞ)

 

(いよいよ本番という訳か。二人共、充分気をつけてくれ)

 

(ええ、分かっているわ。早速歓迎してくれるみたいだし、一度切るわね)

 

了子がそう言ってナナシ達のやり取りを終わらせて指を指し示すと、その先には以前南極でナナシ達が戦った棺や小型機の量産型のような物が向かってくるのが見えた。視界を埋め尽くすほどの膨大な数で向かってきた量産機は、あっという間にナナシと了子を飲み込んで…

 

 

 

「ラスダンに挑戦するなら、やっぱり最強装備を揃えてから挑むべきだよな!」

 

 

 

…次の瞬間、閃光が全てを包み込んだ。

 

光が納まった時、周囲に溢れていた量産機は全て消え去っており、遺跡内部の床や壁は高温で熱せられたように赤くなっていた。

 

「装備もレベル上げも最低限のRTAってのも悪くないが、俺はゲームの全てのコンテンツを遊び尽くして製作者の想いを汲んでいくプレイスタイルだ!」

 

「…その理屈だと、攻略させる気が無いこの遺跡には踏み入るべきではないのでは?」

 

「あっはははは!想いを汲んだ上でデバック不足を嘲笑うのも一つの醍醐味だろう?」

 

笑いながらナナシがその肩に担ぐのは、黄金に輝く最強の剣…デュランダル。

 

呆れる了子が身に纏うのは、白銀に輝く不滅の鎧…ネフシュタン。

 

これが“紛い物”の考えた、バラルの呪詛の謎に迫る方法…

 

「目指せ、エンディング!」

 

…チート装備持ちの不死者達による、月遺跡の正面攻略だ。

 




はい、という訳でこれからナナシ&了子による月遺跡攻略組と地球組で物語を進行していきます。

これまでの章に仕込んだいくつものフラグと、この話で雑に差し込んだいくつものフラグを上手い具合に回収していきたいと思います。まだ全然文章化出来ていませんが…

ちょっと分かりにくいかと思ったので明言しておくと、GX編で八紘さんに申請していたのが今回の月遺跡調査に関わる諸々への手回しです。

ナナシ「球技大会で世界(の覇権)取るから、(神様への)独占インタビューの手配よろしくお願いします!」

八紘「大それたことを言い出すものだな?(マジかこいつ…)」
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