戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第189話

「さて、ナナシ君達が月遺跡の調査を開始して丸一日が経過した訳だが…」

 

円卓の席の一つに座る弦十郎がそう言って周囲を見回す。弦十郎の他にも緒川やキャロル、エルフナイン、サンジェルマン達など、S.O.N.G.の頭脳とでも言うべき者達が集まっていた。

 

「現状は調査開始時から然程変化がなく、遺跡内を進んでいると南極で撃破した棺の量産モデルと思われる防御システムが絶え間なくお二人に襲撃を仕掛けているようです。今の所、通路以外の部屋や施設は確認されていません」

 

「様子見をしつつ疲労による撤退または排除を狙っていると言うところか?」

 

「幾つか想定した中ではかなり良いパターンを引いたワケダ」

 

「二十四時間どころか数百年間だって働ける二人だものね?」

 

「地球では残存を秘匿していたデュランダルによってナナシさんの殲滅力は大幅に向上しています。お陰で了子さんは戦闘に参加せず調査に集中出来ています」

 

「とは言え月遺跡は広大だ。遺跡内を虱潰しに調査していてはどれだけ時間が掛かるか分からん。この隙に何か取っ掛かりを掴めれば良いが…」

 

地球に残った者達もナナシ達の調査に協力すべく、それぞれの意見を述べていった。

 

見た限り(・・・・)、遺跡の内部はフロンティアに近しい雰囲気を感じますね?」

 

「そりゃどちらも神が作っていますからねえ?防御システムの造形と言い、製作者が同じなら近しい部分は出てきますよ」

 

そしてその場には、重篤であるはずのナスターシャ教授とその看病をしているはずのウェル博士も普通に混じっていた。しかし誰一人としてその事を不思議に思っている様子は無い。そもそも、この場には二人よりももっと居るはずの無い者達が紛れているのだから。

 

「ふむ…二人共、他に何か追加の情報はあるかな?」

 

「コレってのは特に無いわね。床や壁に罠やそれ以外のギミックは見つからないわ」

 

「出てくる敵も今の所パターンの変化は無し。今はこれまで出来なかった範囲攻撃で俺tueeeを楽しんでいるけど、そのうち飽きそうだな?」

 

弦十郎の対面に座っているのは、月にいるはずの了子とナナシであった。そして円卓の中央には、デュランダルを使って敵を薙ぎ払うナナシと、壁や床を調べながら歩く了子が映し出されている。

 

「ホント、トコトン都合の良い力よね?体感している今でも信じられない」

 

「都合の良いだけでは片付けられないワケダ。正直その男の所有権を逃した事を悔いてしまう程、我々にとってはまさに夢のような力なワケダ!」

 

「実際『夢のような』力だからなぁ…」

 

ナナシがそう言ってスッと手を翳すと、円卓の周囲に様々な光景が浮かび上がる。それはこの場に集まっているはずの者達がそれぞれ別の場所で活動している…現実(・・)の光景だ。

 

基本的には元々の力がシンプルに強化されたナナシの能力であるが…実は妙な形で進化を果たした能力も存在していた。

 

“念話”と“明晰夢”だ。

 

どちらも強化されたところで何が変わるのだろうと、検証をする前のナナシはあまり期待していなかったのだが…そんなナナシを嘲笑うように、この二つの能力はとんでもない進化を遂げた。それこそ“飛翔”や“千変万化”さえ凌駕する、突然変異と言っても差支えの無いレベルで。

 

どうなったかを端的に説明するならば…混ざった。

 

“念話”と“明晰夢”が融合して生まれた新たな能力…“以心伝心”の誕生である。

 

“以心伝心”…その力は他人の頭の中に声だけでなく、イメージも伝えられると言うものだ。

 

この力は元々の“念話”のように声だけ伝える事も可能であるし、“明晰夢”のように眠っている相手に使用して夢を見せる事も可能である。

 

これだけ聞くと単純に能力が複合されただけに思われるかもしれない。だが、この能力の真価は…それぞれの短所が軽減された上での同化である事だった。

 

“明晰夢”と異なり、相手が起きていても力を行使出来るようになったため、能力を付与した“血晶”さえあれば双方のイメージを共有する事が可能となった。

 

“念話”は使い慣れないと表情が変化するなど思考の乱れによる肉体への影響があったが、現在では脳内での情報伝達が肉体の動作に一切の影響を与える事が無くなり、頭の中で会話をしながら別の相手と口頭で会話する事さえ可能となった。

 

この二つの能力が組み合わさる事の意味は…

 

「リアルタイムで他者と記憶を共有した状態での、完全なマルチタスク…!」

 

「研究者にとって知識のすり合わせに時間を取られないのはどれだけ価値のある事か!これはもう我々も本格的にこの男の所有権を狙う必要があるワケダ!!」

 

「寝言をほざくな。コレの一部は既にオレの所有物だ。残りも丸ごとオレが貰い受ける」

 

プレラーティとキャロルの間にバチバチと火花が散っているのが全員に見える。この空間はナナシのイメージした話し合いの場を全員で共有したもので、円卓や舞い散る火花はナナシの遊び心の表れだ。

 

「実際に体験している今でさえ正直信じられない。思考の混乱が起こらないばかりか、頭の中で共有した知識で肉体の行動選択も支障なく行えている…」

 

「何か副作用は無いのですか?」

 

「ボクとキャロルで考えられる限りの事は調べました。記憶障害や精神の混濁、同一化などは一切起こっていません」

 

「僕も協力してやったが、使用者の脳に異常は一切見つからなかったねえ」

 

「頭の中を覗き見するプロフェッショナル達のお墨付きがあるなら大丈夫かしら?流石に共有する情報が多すぎると混乱するから、記憶の同期は数人分が限界でしょうけど」

 

「あと欠点があるとすれば、この力を使っている人同士が揃うと割と不審と言うか…直前まで完璧な連携をしていたのに、突然無言のまま取っ組み合いを始めるのは知らない人がみたらホラーでしかないわよ?」

 

「そこの三流が実験に余計な物を加えようとするからだ!」

 

「無知を補おうとしてやっているのに聞く耳を持たないクソガキが悪いワケダ!」

 

言い争う二人の背後に猫とカエルの形をした幻影が現れる。それぞれ威嚇のようなポーズをしているが、デフォルメされた造形なためかなりファンシーである。

 

「はいはい、ナナシちゃんも遊んでないで話を進めなさい」

 

「へーい…“念話”の時点で充分やばかったけど、この能力はもう絶対外部に漏らせない。だから“念話”は変化なしって仲間内には通達してもらった。知らなければこれまで通りの“念話”としての使い方しかしないだろうからな。もうしばらく“以心伝心”の事はここにいる奴らだけの秘密にしてくれ」

 

ナナシの言葉に全員が重々しく頷く。ここにいる者達はこの力が秘める危険性を充分理解していた。

 

「この力が真価を発揮するのは、大規模での組織的運用。もしこれが軍事利用されてしまえば、戦争の形が変わってしまう」

 

「数名がドローンなどの無人機で上空から撮影した映像を見ているだけで、軍隊全員がゲーム画面のように俯瞰視点を得られるなど敵軍にとっては悪夢でしかないワケダ」

 

「あーしなら敵国の中枢にスパイを送り込むわね。一切の怪しい動きをさせる事無く真面目に働いてもらうだけで国の情報も要人の顔も丸分かり。万が一“血晶”の存在がバレたところで一個なら奪われても利用される心配もない。それどころかそんな物があるって発覚した段階で誰も周りを信用出来なくなって連携ガタガタ。上手くいけば勝手に内乱まで発生させられる♡」

 

「歴史上でも情報や意識統一によって数の不利を覆す事例はいくつもあったが、コレがあればマジで弱小国家でも大国と渡り合える。どこぞのジジイが喉から手が出るくらい欲しい力だろうな?いよいよ俺という存在が戦火の火種として極まってきた感じだな…ここまで来るともう最後にはどれだけ派手に爆発するか楽しみですらあるな!あはははは!!」

 

「そこで笑い飛ばしてしまうのがナナシさんの凄さですよね…」

 

「世界を好き勝手出来る力を手にしたなら笑って当然でしょう?流石は僕の信者ですねえ!フハハハハハ!!」

 

「ナナシちゃん、この狂人にまで情報を明かして大丈夫だったの?」

 

「凡人に我が英雄の御言葉は高貴過ぎて理解出来ないので大丈夫です」

 

「フフン、当然です!」

 

「あ~、狂人の戯言なんて皆聞き流すか…」

 

「で、でも、本当に良かったんですか?奏さん達には能力の詳細を隠すだけでなく、月にいるとされる神に盗聴される危険性を指摘して“念話”の使用まで制限しているのに、ボク達だけこうやってナナシさんとお話してしまって…」

 

恐る恐ると言った様子でエルフナインがナナシに確認する。そう、月遺跡の調査に出ている間、ナナシは自分と了子への“念話”使用を制限するようS.O.N.G.全体に指示していた。

 

「到着直後に能力の使用可否を確認した後は我々とも最低限のやり取りしか行わないと決めていたはずだ。その決定を覆してまでこうして君が連絡を入れた以上、何か重要な気づきがあったのではないか?」

 

「まあ、一応は。確定情報って訳じゃなくて、あくまでも俺の“妄想”である事を前提に聞いてくれ」

 

ナナシの“妄想”…その言葉に全員が寧ろ真剣さを増してナナシの話を聞く姿勢を見せる。その様子に苦笑しながら、ナナシは自身が感じ取った事を語り出した。

 

「それじゃあ報告するぞ…一つ、神様に“以心伝心”を盗聴される可能性は極めて低くなった。二つ、現状の様子見は俺達がある程度月遺跡を進むまで続くだろう。三つ、ベターな状況が続く代わりに、俺達にとって最も都合が良いパターン…神様が俺達に直接コンタクトを取ってくる可能性は多分無くなった」

 

次々と出てきた重要な情報に全員が思わず目を見開いてしまった。

 

「ナナシ君…その“妄想”に至った理由を聞かせてもらえるか?」

 

「恐らくなんだけど…神様は俺達に対して、どうやら『居留守』を使いたいらしい」

 

「い、居留守だと…?」

 

神と呼ばれる存在が取るとは思えない行動に、誰もが困惑した様子だった。

 

「地球を離れてから、俺はずっと月から降り注ぐ感情に注意を払っていた。通じたらラッキーぐらいのつもりだった三文芝居は思いのほか有効だったみたいで、何日もかけてチンタラ近づいてくる俺達を神様は意識してはいてもそこまで警戒してはいなかった。だからこそ突然月遺跡の外壁を突き破ってきた俺達に驚いて咄嗟に対応出来ずに侵入を許してしまい、慌てて防御システムによる排除を試みた…ここまでは良いか?」

 

過去の映像と共に状況を整理するナナシの言葉に全員が頷く。そこまでの流れには特に不自然な点は見つからない。

 

「問題はその後だ。防御システムの第一陣を俺がデュランダルで薙ぎ払った直後くらいに、俺達が月遺跡に侵入した時以上の『驚愕』が伝わってきた。それこそ混乱って言っても差し支えのないレベルで色んな感情が蠢いた後…最終的に並々ならぬ『警戒』と、僅かな『恐怖』を抱いて今は落ち着いている」

 

「恐怖だと?仮にも神と称される存在が、高々手駒を一蹴されただけで恐怖を感じるなど…」

 

サンジェルマンが思わずそんな事を言ってしまう。神に抗うために長い時を費やしてきた彼女にとっては、ナナシの言葉はあまりに受け入れ難いものだった。

 

「ポイントはそこだ。流石に神様が完全聖遺物の一つや二つを怖がるとは思えない。だったら何に対して恐怖を感じていると思う?」

 

「…自分と同等の力。貴様の体に宿る神の力を恐れたのではないか?」

 

「うーん…多分違うと思う」

 

キャロルの至極真っ当な意見を、ナナシは悩みながらも否定した。

 

「確かに自分と同等の力を持つ存在なら恐れてもおかしくはない。だけど俺の力を警戒しているのだとしたら、何故延々と雑魚ばかりを送り続けるんだ?俺の力を見極めたいなら、経過観察するにしても試行錯誤でもっと色々試すはずだ。それなのに俺達が遺跡の奥に進むリスクを許してまで神は無意味としか思えない防御システムによる迎撃を続けた。まるで本当のゲームみたいに…定められたルールに沿うような対応じゃないか?」

 

ここでようやく全員がナナシの言いたい事を察した。つまり、居留守と言うのは…

 

「神は…月遺跡に神が残存している事実そのものを隠蔽したいのか!」

 

「愚直なまでに防御システムを投入する事で、これが『神の采配』ではなく『月遺跡に搭載されたシステム』である事を印象付けたいワケダ!」

 

「つまりナナシさん達がアプローチを変えない限り、月遺跡からの対応も変わらないと言う事ですか。月という生物にとって過酷な環境を鑑みれば、時間経過は本来侵入者にとっての不利益になるはずなので警戒レベルを上げるトリガーになるとは考えづらい。確かにある程度遺跡の奥に進むまではこの状況を維持出来そうですね!」

 

「“以心伝心”の盗聴や妨害など以ての外だ。そのような直接的な干渉をしてバレてしまえば、自分から存在をアピールするようなものだ」

 

「神が抱く恐怖や警戒と言うのも、ナナシさん達を直接的な脅威ではなく不都合な情報漏洩の危機と捉えたなら、そう不自然ではありません!」

 

「そしてそんな小細工も電気メーターならぬ感情メーターがガン回りしているせいで既に無意味という滑稽さ…居留守とは中々に的を射た表現ですねえ!」

 

「流石にこのメンツだと話が早いな。ここに響と切歌あたりがいれば、間に三回くらいは解説入れてやる必要があるぞ」

 

ナナシの得た情報から、現状が自分達にとってかなり有利だと分析した者達が浮足立つが…そんな中で、ナスターシャ教授は険しい顔をしていた。

 

「水を差すようで申し訳ないのですが、どうしても言っておかねばならない懸念があります」

 

「分かっているよ、ナスターシャ教授。俺の感じ取った感情がそもそも神に偽装されたもので、俺達の進む先にヤバイ罠が待ち構えている…全てにおいて神の力が俺を上回っている可能性だろう?当然それについても考えているさ!」

 

相手は正真正銘の神だ。“紛い物”を圧倒する力量差があったとしても何ら不思議ではない。そんなナスターシャ教授の不安を取り払うように、ナナシは笑いながら胸を張って宣言した。

 

「その時はその時!どうにかするさ!!あははははは!!!」

 

ズルッ!

 

…あまりにも堂々と告げられた『無策』に、イメージであるにも関わらず全員が脱力して円卓から転げ落ちそうになった。

 

「あ、あーたね…ここまで散々筋道立ててそれっぽい事語っておきながら結論がソレってどうなの!?」

 

「だって元々危険を承知で神の創り出した月の遺跡を攻略しているんだから、罠なんてあって当然だろう?相手は神様なんだから、“紛い物”の俺が万策を尽くしたところで届く存在とは限らない。だったらもう開き直って全力で突き進む!それで失敗した時は…ここにいる全員で一万と一つ目の手立てを考えてリトライだ!」

 

最悪のケースを想定しつつも、皆でなら乗り越えられると笑い飛ばすナナシに誰もが呆気に取られて…思わず肩の力を抜いて笑ってしまった。

 

「まあ、完璧を追及し過ぎて身動きが取れなくなるなら、それくらいお気楽に構えた方が良いのかもね?」

 

「そうそう!という事で、盗聴を警戒しつつ想定よりもちょっと多めに連絡を取りながら攻略を進めていこう!報告は以上だから、今回はこれで解散で良いか?」

 

「いや、それなら丁度良いから、この場を借りてもう一つ議題を上げよう」

 

“以心伝心”を解除しようとするナナシを、そう言って弦十郎が引き止めた。

 

「うん?まだ俺達が地球を離れて数日しか経っていないのに、そっちでも何かあったのか?」

 

不思議そうに問いかけるナナシを、了子以外の者達がジトッとした目で見つめる。了子はそんな者達の様子に首を傾げ…ナナシの白々しい笑みを見て、何となく事態を察した。

 

弦十郎がそんなナナシの顔を見てフッと苦笑すると、円卓の中央に手を翳す。するとそこに映像が浮かび上がり…そこには、側面に大穴の開いたS.O.N.G.本部が映し出されるのだった。




今後の投稿頻度を変更しようか検討中…
理由っぽい事は一応活動報告に書いたので気が向いたら覗いてみてください。
正式に決定したら改めて連絡します。
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