戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします。


第191話

ズガアアアアアン!!!

 

閃光と共に轟音を響かせながら、もう何度目かも分からないデュランダルの一撃が小型機の群れを一掃する。全てを消し飛ばして何も無くなった月遺跡の通路をナナシと了子が無言のまま進んでいった。

 

ナナシが弦十郎達と情報共有してから更に数日が経過したが、月遺跡からの対応に変化は無い。そんな月遺跡を進むナナシ達も肉体的な疲労とは無縁であり、武装も無限のエネルギーを放つデュランダルのため、月遺跡の攻略は代わり映えの無い光景が続いていた。

 

唯一変化があるとすれば…ナナシが“投影”で延々と歌姫達の歌を流し続けるようになったくらいだ。

 

「ハァ…」

 

歌を聴いているにも関わらず、ナナシはつまらなそうに溜息を吐いて映像の中で踊ったり戦ったりしている歌姫達の姿を眺めながら歩みを進めていた。

 

(ナナシちゃん、大丈夫?何だか元気がないみたいだけど…)

 

(いや、まあ…予想はしていたけど、無音の空間をただひたすら歩くのは辛いなって…普段、人の雑多な感情が入り混じった喧騒さえ楽しく聴き入っている俺にとって、人っ子一人いないこの場所は気が滅入る…)

 

(そ、そう…)

 

(こうも感情の揺らぎが感じられないと、いつも打てば響くように俺の悪戯に色んな感情と表情を向けてくれるSAKIMORI達の存在が恋しくて仕方がない…)

 

(どんな郷愁の仕方よ!?…いっその事、翼ちゃん達にも“以心伝心”の事を教えて頻繁に連絡したらどう?あの子達だって機密情報の扱いは心得ているはずだし、敢えて使用頻度を高めてナナシちゃんの能力への干渉を誘うのも一つの手ではあるでしょう?)

 

(あ~………いや、やめておく。こうして改めて思い返してみると、割と普段から過干渉だった気がするし、あいつらも偶には小うるさい俺から離れて羽を伸ばしたいだろうからな)

 

(う~ん、それはどうかしら?)

 

ガシャガシャガシャガシャ!!

 

「うるっせえなぁ!!歌が聴こえねえじゃねえか!!!」

 

ズガアアアアアン!!!

 

追加の小型機が向かってきたため、ナナシが悪態をつきながら再びデュランダルを振るう。全てを一掃し終わると、ナナシは溜息を吐いて歌姫達との想い出を傍らに歩みを進め始めた。

 

(何と言うか…まるで家族の写真を見ながら仕事に励む単身赴任中の旦那様って感じね?)

 

哀愁漂うナナシの背に、了子はそんな想像をしてクスリと笑ってしまった。

 

 

 

 

 

一方その頃、ナナシが想いを馳せる翼達は…

 

「「「ボ~…」」」

 

…呆けていた。

 

S.O.N.G.としての任務がある他に、ノーブルレッドが脱走した直後に聖骸が身に着けていた腕輪が米国施設から強奪されるなどと言った事件も起きたため、装者はいつでも動けるよう可能な限りS.O.N.G.本部に待機する事になっていた。特に指示がない時も訓練などをして時を過ごし、今は全員で軽食を取るために食堂に集まっているのだが…翼、クリス、マリアの三人は少し前からまるで魂が抜けたように脱力していた。そんな三人の事を奏、響、切歌、調の四人が少し離れたところで眺めている。

 

「つ、翼さん達はどうしちゃったんでしょうか?」

 

「しおしおになってるデス!」

 

「やっぱり先生がいなくて寂しいのかな?」

 

「それもあるだろうけど、あれは単純に張り合いがないんじゃないか?」

 

「張り合い、ですか?」

 

「あの三人って特にナナシから悪戯を受ける事が多いだろ?毎日ドッキリ仕掛けられているみたいな生活が長く続いていたから、刺激が無くなって緊張の糸が緩んでいるんだと思う」

 

「それは、良い事なんでしょうか…?」

 

「どうだろう?ナナシの悪戯ってメンタルケアみたいなところもあったから…怒らせたり驚かせはするけど、その後のフォローも怠らないから割と後にも引かないし、偶に不満が溜まってナナシへの復讐!みたいな流れになっても、ナナシへの直接的な嫌がらせには行かずに普段自分達ではやらない事に挑戦してナナシを見返す形になりがちだから、傍から見ている分には結構充実した日々を送っている感じだったからなぁ」

 

「もうマリア達はナナシお兄ちゃんに悪戯してもらえないと満足出来ないんデスね!」

 

「間違ってないけどちょっと言い方に気をつけようか?」

 

「奏さんは大丈夫なんですか?」

 

「あたしはナナシの悪戯に乗っかって翼達をからかう側だからな。全く寂しくない訳じゃないし、体調管理とか普段から世話になっていた部分でナナシのありがたみを実感してはいるけど、あいつと了子さんならすぐに戻ってくるだろうって信じているから色々割り切っている」

 

「奏さんは偶に食べ物関係でナナシお兄ちゃんに叱られていたので、逆に今は好きな物を食べられるチャンスなのデス!さっき注文したのもきっと揚げ物や甘い物…およ?」

 

「茹でた鶏肉と温野菜がメインのヘルシーなご飯ですね?」

 

「あ~、最初は確かにジャンクな食べ物に手が伸びたんだが…ナナシの料理に慣れた今だと、あんまり味が濃い物は舌が受け付けなくてな。これなら変に不摂生して食事制限されるより、ナナシが帰ってきた後で好きな物をリクエストした方が良いなと思って…」

 

「凄い…!先生はもう、奏さんを自分でないと満足出来ない体にしてしまったんですね!私も見習わないと!!」

 

「だから言い方!!」

 

やはり歌姫達にも大なり小なりナナシのいなくなった影響はあるようで、様々な反応を見せる仲間達の様子に響は苦笑しつつ…同じように、ここ最近様子がおかしいように感じる自分の『陽だまり』について考えていた。

 

(やっぱり、未来もナナシさんがいなくなって寂しいのかな?)

 

ナナシに関わる話題が出る度に、未来の顔には影が差しているように感じたため、響は未来も翼達と同じようにナナシの不在を寂しがっているのではと疑っていた。

 

(今度時間が取れたら、カラオケにでも遊びに誘おうかな?未来や翼さん達には元気になってもらいたいもんね!)

 

そう結論を出した響は、自分の頼んだサンドイッチを勢い良く食べ始めた…かと思えば、途中で何かに思い当たったのか、食べる動きを止めて齧りかけのサンドイッチをジッと見つめながら再び思考し始めた。

 

(ヴァネッサさん達、ちゃんとご飯は食べているかな?)

 

ナナシに頼まれた直後に脱走してしまったノーブルレッドの事を考えながら、響は空いている手をポケットに入れて中の物を取り出す。その手の中には、自分がナナシに貰った御守りと同じ物が三つ…ヴァネッサ達が部屋に残していった物だ。いつか手渡せる事を信じて弦十郎から預かった御守りを見つめながら、響は再びサンドイッチへと口を付けた。

 

 

 

 

 

その日の夜、ヴァネッサ達が施設で何らかの機器を動かす準備をしていると、施設内に複数の人間が侵入してきた。

 

「お早い到着、せっかちですわね?」

 

「腕輪の起動、間もなくだな?」

 

黒服の配下を引き連れた風鳴訃堂は、ヴァネッサの言葉を軽く流してさっさと本題に進もうとした。しかしヴァネッサは笑みを浮かべて再度訃堂へと語り掛ける。

 

「ええ、ですが腕輪を起動する前に、今後の流れについてちょっとお話が…」

 

「要らぬ、即刻開始せよ」

 

ヴァネッサの言葉をバッサリと切り捨てると同時に、訃堂から抜身の刃のような鋭い威圧感が放たれる。その瞬間エルザの全身の毛が逆立ち、ミラアルクの瞳孔が開いて反射的に臨戦態勢を取ってしまう。訃堂の後ろに控える黒服達でさえ体が震えて立っている事のもやっとの状態だ。直接訃堂の圧を受けたヴァネッサ達は思わず口を閉ざしてその言葉に従ってしまいそうになるが…

 

「っ…!」

 

…ここで引く訳にはいかないと、笑みを保ったままで訃堂の圧に耐えてみせた。そこからほんの僅かな間を空けて、訃堂が忌々し気に威圧を解く。僅か数秒の事であるが、ヴァネッサ達は何時間も拘束されたかのような疲労を感じつつ、それでもここからが本番と気を引き締めて訃堂へと語り掛けていった。

 

「腕輪の起動後、儀式によって神の力を顕現させ、制御可能な状態へと完成させる…制御方法についての仔細はまだお聞きしていませんが、必要な物はそちらで準備を行い、最終調整は私達に任せてもらう手筈だったはず。腕輪の起動を行えば、いよいよお互いの悲願は目前となる…つきましては、この辺りで我々への報酬の追加交渉をさせて頂きます」

 

「フン、何かと思えば…行く当てもなく野死する定めから拾われた身の分際で、卑しくもこちらで用意した餌皿の大きさに不満があると?」

 

「ええ、何せ我々にとって人の身に戻る事は、怪我や病から身を持ち直す事と同義。弱った体のまま放逐されてはどちらにせよ死を待つばかりです。それともあなた様は神の力を手にした後も我々の面倒を見るつもりがあるとでも?」

 

暗に用済みになった自分達を生かしておくつもりは無いだろうと伝え、ヴァネッサはギロリと訃堂を睨む。その瞳に訃堂は露ほども動じる事はない。気取られたところで何の支障もなく、そもそもその考えに至らない事が愚かとでも言うように、訃堂がヴァネッサ達を見る視線は畜生に向ける物と同じままだ。

 

「そこまで察していながら、我が元へノコノコ戻ってきてまで貴様らは何を望む?」

 

「これまで通り稀血を始めとした物資の融通と、神の力を手にした暁には我々を人間の体に戻す事。そして…人間に戻った我々がこの国を出た後、しばらく生きていくのに困らない程度の金子を頂きたく思います。どの国でも換金しやすい宝石や貴金属などの形で」

 

ここに来てノーブルレッドは訃堂に対して、金銭と言うある意味真っ当な要求をしてきた。

 

「こちらの要求さえ飲んで頂けるのなら、我々は神の力で望みを果たした後、早々にこの国を出ます。神の力を手にした後なら、我々とあなた様の繋がりが発覚するリスクなど詮無き事でしょう?どうか互いの『利益』のために、御一考を…」

 

「果敢無き哉」

 

ヴァネッサの要求を聞き終えた訃堂は、一切の考える素振りもなくそう言って手で黒服達に指示を出した。黒服達は訃堂の指示に従い、ヴァネッサ達へと銃口を向ける。

 

「畜生如きが人の真似事をしようなど烏滸がましい。そも、交渉とは対等の立場でしか成立せぬ。身の程を分からせるためにも…間引きが必要か?」

 

黒服達が狙いをエルザとミラアルクに絞る。従わなければ仲間を殺すという訃堂の意思表示に対して…エルザとミラアルクは動揺する素振りを見せず、逆に訃堂がヴァネッサ達に向ける視線に初めて変化を見せた。

 

「ほう?」

 

「交渉決裂…なら、後の事は自分でやる事ね。クソジジイ」

 

そう言ってヴァネッサは自らの首に手刀を当てながら(・・・・・・・・・・・・・)、訃堂に対して強気な発言を返した。

 

「私達の望みは、『三人一緒に』人間の体に戻る事…あなたが私の家族に手を出すつもりなら、私は死んでもあなたなんかに協力しない」

 

「己の命を懸ければ、儂と対等に交渉が出来るとでも?」

 

「いいえ、あなたにとって私達の命なんてどうだっていい。必要なのは私の知識だけ。それも時間があれば代わりを探す事も不可能ではない。だけど…あんまり時間を掛けていると、せっかく月へと離れていったあなたの『敵』が戻って来ちゃうんじゃないかしら?」

 

ヴァネッサの言葉に、訃堂の瞳が一瞬険しさを増した。ヴァネッサ達が何を用いて自分と交渉するつもりなのか、ようやく思い当たったのだ。

 

「あの男は随分とあなたの事を嫌っているみたいでしたね?そしてあなたも…わざわざ手間をかけてダミーの拠点を用意してまで私達にこの本拠点のテレポートジェムを作らないよう指示を出してきたのは、あの男の存在を警戒しての事でしょう?私達の命はどうでも良くても…あなたが悲願を達成する前にあなたの敵が戻ってくるリスクは、無視出来ないのではなくて?」

 

正直ヴァネッサ達は考えがあってS.O.N.G.を脱走した訳ではない。ただひたすらに“紛い物”の存在から遠ざかりたくて、一縷の望みにかけてS.O.N.G.から脱走しただけだった。

 

しかし、自分達の命が“紛い物”の血液で繋ぎ止められているのも事実であり、いつまでこの状態が保たれるかも分からない状態では潜伏する事も出来ない。かと言って、再び稀血を使用すれば、また当てもなく新しい稀血を求める日々に逆戻りだ。

 

故にこそノーブルレッドの三人は、お互いの知恵を絞り、自分達を取り巻く状況を、利用出来る手段を、悲願に繋がる道筋を何度も何度も話し合って見つけ出した。

 

その方法は…“紛い物”の存在を利用して、訃堂に自分達の要望を通させる事だった。

 

弱者である自分達の事は眼中に無くても、同じ強者の立場にいる自分の敵対者の事は無視出来ないはずだ。“紛い物”の存在を理由に、自分達を利用出来ない事と利用後の処分を『手間』だと思わせる事が出来たのなら、勝算は決して低くはないはずだった。

 

何より上手く事が運んだなら…訃堂は“紛い物”を自ら排除するために動いてくれる。強者達が勝手に潰し合ってくれている間にさっさとこの国から離れてしまえば、ノーブルレッドの完全勝利となる。

 

ナナシに捕らえられて、自分達には覚悟が圧倒的に不足していた事を自覚したノーブルレッドは、今度こそ自分達の勝利を掴むべく…交渉失敗によって全滅する覚悟さえ飲み込んで、訃堂との交渉に臨んでいた

 

「私達は神の力の強奪なんて大それた事をするつもりはない。あなたが何らかの形で私達を追い詰めない限りね?高々女の子に貢ぐ程度で神の力がスムーズに手に入るのなら、安いものだと思わないかしら?」

 

「……フン、良かろう」

 

ヴァネッサの虚勢を前に、訃堂はしばしの間沈黙した後、意外にもアッサリと了承の返事を返した。

 

「この国に根を張るつもりであったのなら切って捨てたが、身の程を弁えるのであればその稚拙な足掻きに慈悲をくれてやる。あぶく銭などより貴様ら如きに掛ける時間が惜しいのも事実。儂の気が変わらぬ内に即刻仕上げよ」

 

「…こんな人外魔境、こっちから願い下げよ」

 

交渉が無事纏まった安堵を隠すように悪態をつくヴァネッサが、ようやく装置に近づいて腕輪の起動に取り掛かる。そんなヴァネッサと、コッソリ息を吐いて安堵するエルザとミラアルクに訃堂がスッと視線を流した。

 

(何と愚かな…敵に知らぬ内に命を救われたばかりか、未だ自分達が囚われの身である事にすら気付かぬとは…)

 

そもそも訃堂はヴァネッサ達が自らの力でS.O.N.G.を脱出出来たなどとは露ほども思っていない。自分が策を講じた上で生きたままこの三人が自分の前に現れたのは、まず間違いなくあの“紛い物”の手引きがあっての事だ。その狙いは…

 

(意趣返し…奴もこの木っ端共を利用する事で、儂の動きを誘導しようと狙っているに違いない)

 

それこそ訃堂は、ノーブルレッドの三人がナナシによって完全に懐柔された二重スパイである可能性さえ視野に入れていたが…

 

(それは無い。こ奴らの本質は変わらず、自らの飢えを満たす事しか頭にない畜生のままよ)

 

訃堂にはナナシのような感情を感じ取る力は無い。しかし長きに渡って支配者として君臨してきた膨大な経験は、相手の本質を見抜く力を培ってきた。ノーブルレッドの態度には自分を利用する意図は透けて見えるが、それ以外の第三者の指示に準ずる様子は窺えない。

 

(大方、こ奴らを足切りに自らの抱える者達の守りを固めるつもりなのだろうが…それならそれで良し。他に何か策を講じていようが、神の力さえ我が手中に納まれば如何様にも出来る。護るモノの大きさに、手の届かぬもどかしさ…貴様にも存分に教えてくれよう)

 

内心でほくそ笑みながら、訃堂は再び目の前にいるノーブルレッドの三人に侮蔑の視線を向けた。

 

(容易く手懐ける術がありながら、懐柔される事無く儂に変わらず稀血を求める半端者共…人だけでなく真なる怪物にまで見限られたか。精々役割を果たすその時まで、今際の際に見る夢を楽しむが良い)

 

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