戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第192話

訃堂との交渉を終えたヴァネッサが、腕輪の設置された装置の制御端末を操作する。すると、天井にまるでプラネタリウムのように星図が映し出された。

 

「聖遺物の起動手段は、フォニックゲインだけではない。七つの音階に照応するのは七つの惑星、その瞬き」

 

装置に取り付けられた七つの球体がリズミカルに点滅すると、中央の一際大きい球体へとエネルギーを収束するように光が放たれる。

 

「音楽と錬金術は在り方こそ違えど、共にハーモニクスの中に真理を見出す技術体系」

 

中央の球体から溢れ出たエネルギーはケーブルを伝って腕輪へと注がれていく。

 

「この日この時の星図にて、覚醒の鼓動はここに在り!」

 

ヴァネッサがそう叫ぶと同時に腕輪が一瞬輝いたかと思うと、腕輪を覆っていたカバーが粉々に砕け散り、装置は限界を迎えたかのように煙を上げながら停止してしまった。

 

「起動完了…なのよね?」

 

手順は何も間違っていないはずだが、腕輪に見た目上の変化は見られずヴァネッサも確証が持てない。ミラアルクが腕輪の様子を確認しようと手を伸ばしたが、その手が腕輪に触れる直前に訃堂に腕を掴まれ止められてしまった。

 

「っ!?」

 

咄嗟に訃堂の手を振り払おうとするが、強化されてないとはいえ常人を凌駕するミラアルクの力でも訃堂の手はビクともしない。

 

(何だ!?ジジイの力とは思えないゼ!!?)

 

「お前の役目は他にある」

 

訃堂がそう言うと、一人の男が背中に銃を突きつけられて室内に連れてこられた。

 

「あの時の人で…ありますか…?」

 

それは以前、ノーブルレッド達をS.O.N.G.から連れ出そうとした風鳴機関の男を止めに後から乗り込んできた黒服の男だった。

 

「片付けよ。夷狄に恐れを抱く木っ端など不要」

 

想定した流れとは言え、自分の配下でありながら恥も外聞も無く国連を味方につけたナナシのご機嫌取りに動く者など不要と判断した訃堂は、その始末をミラアルクに命じた。手を放されたミラアルクは掴まれていた手をひと撫ですると、冷たい瞳を男に向けながら近づいて行った。

 

「許せとは、言わないゼ…」

 

「ひ、ひいいい!」

 

ミラアルクはその爪を鋭く伸ばしながら怯える男へと迫る。そして一切躊躇う事無く、男の首をその爪で掻き切ろうとして…

 

 

 

『言われるがままにその手を血に染めたのはお前自身だ。こんな顔で躊躇いすらなく流血沙汰を起こすような奴が人と仲良くなりたいなんて言ったところで、誰が信じられる?』

 

 

 

「!!?」

 

…脳裏に過ったその言葉に、今まさに振るおうとした手の動きが止まってしまった。

 

「怪物め!怪物共め!!うわああああああ!!!」

 

ミラアルクの動きが鈍った一瞬の隙を突いて男が駆け出す。周囲の黒服達が男を狙って発砲するが、男は弾丸を掻い潜って起動済みの腕輪へと手を掛けた。

 

「このまま殺されてなるものか!殺されるくらいなら、こいつでえええ!!」

 

起死回生の一手として、男は使い方も分からぬままに腕輪を自分の手に填める。その瞬間、腕輪から閃光と共に奇妙な音が発せられた。

 

「この音は!?」

 

「うわあああああああああああ!!?」

 

謎の音にヴァネッサが驚いている間に、男の体が光を発しながら膨らんでいき、内から爆ぜるように大爆発を巻き起こした。爆発によって腕輪を起動させた装置が崩れ落ち、奇妙な模様の描かれた柱が炎に飲み込まれる。

 

「神の力、簡単には扱わせぬか!だが、次の手は既に打っておる!!」

 

目の前に惨状が広がるにも関わらず、腕輪の力の一端を垣間見て訃堂は満足そうですらある。

 

「ディー・シュピネの結界が!?」

 

「連中が駆けつけてくるゼ!」

 

その結果に慌てるのはノーブルレッド達だ。この施設にはまだ秘匿するべき様々な物証が残っているにも関わらず、内部の情報を漏らさないようにする結界の要が先程の爆発で機能を失ってしまった。このままでは異常を察知したS.O.N.G.の者達に不都合な情報が渡ってしまう。

 

「提案があるであります!」

 

その窮地に、エルザはそう言ってアルカノイズを召喚するジェムを取り出した。

 

 

 

 

 

それから間もなく、異常を察知したS.O.N.G.本部に警報が鳴り響いた。

 

「アルカノイズの反応を検知!」

 

「先行して、装者二名を現場に向かわせています!」

 

先行した二名は響とマリア。二人が乗ったヘリが現場へと近づくと、アルカノイズの群れが先程までノーブルレッド達が利用していた施設を執拗に分解しているのが見えた。

 

そのすぐ傍でヴァネッサが溜息混じりにその様子を見届けていたが、ヘリのモーター音で響達が接近している事に気が付き空を見上げた。

 

「こちらもお早い到着だこと…」

 

Seilien coffin airget-lamh tron

 

ヴァネッサが乾いた笑みを浮かべていると、ヘリから飛び降りたマリアと響がギアを纏ってそのままアルカノイズに襲撃を仕掛ける。二人が小型ノイズを相手している隙に、大型ノイズがその腕を振り下そうとするが…

 

HORIZON†CANNON

 

…マリアの放つ光線によって大型ノイズはアッサリ真っ二つにされ、瞬く間に全てのアルカノイズは殲滅された。残るヴァネッサに響が接近し、ヴァネッサは指先からマシンガンのように弾丸を放って迎え撃とうとするが、響の素早い動きに対応出来ずに肉薄を許してしまう。ヴァネッサは苦し紛れに近接戦で応戦しようとするが、やはり響の身のこなしには対応出来ずに強力な一撃を受けて大きく後退してしまった。何とか倒れずに踏ん張ったものの、ヴァネッサの攻撃の手は止まってしまい…その隙に、響はヴァネッサに対話を持ち掛けた。

 

「投降してくれませんか!ヴァネッサさん達の事、決して悪いように扱ったりしません!ヴァネッサさん達の体の事だって、皆で協力すればきっと…」

 

「……」

 

しばしの間、二人の間に沈黙が降りたかと思うと、ヴァネッサがフッと微笑んで両手を上げた。

 

「降参するわ。まともにやっても勝てそうにないしね?分かり合いましょう!」

 

ヴァネッサが煽情的な雰囲気を漂わせながら胸のジッパーに手を掛けた。

 

「そ、そこまで分かり合うつもりは!?」

 

響は顔を真っ赤にして狼狽えてしまう。ヴァネッサがナナシに似たような真似をしていた事を響は知っているはずなのに、おぼこい響はナナシ以上にこういった雰囲気に耐性が無く、ついつい両手で目を覆ってしまう。実際は指と指の間は隙間だらけでほとんど凝視しているのと変わらないが…

 

「なんてね?」

 

「っ!!?」

 

そんな響の様子にクスリと笑いながら、ヴァネッサはジッパーを降ろした胸部からミサイルを二本放つ。驚いて咄嗟に動けない響にミサイルは直撃して…響の身に着けた“血晶”が、ミサイルから響を守った。

 

「こうも素直に反応してもらえると、ちょっぴり嬉しくなるわね?少なくともあの男よりは好感が持てるわ。でもざ~んねん!」

 

ヴァネッサが今度は手首を外して露わにした発射口から小型ミサイルを放つ。今度はしっかりと防御姿勢を取って攻撃を受ける構えを響が見せたが、ミサイルが響に当たる直前に響の前に何かが入り込み…爆炎が晴れた場所には、自身のギアで三角形のバリアを展開したマリアが立っていた。

 

「あっちゃ~…」

 

響と同じ手が通用しそうにないマリアの参戦に、ヴァネッサは困ったような声を出す。その予感通り、マリアは力強く踏み込んでヴァネッサへ一気に接近すると、躊躇する事無く短剣でヴァネッサに斬り込んだ。マリアの攻撃を何とか躱し、ヴァネッサは跳躍してマリアから距離を取る。

 

「ヤバイかな?ヤバイかもね?」

 

ヴァネッサが緊張感のない声でそう呟きながら、着地と同時に拳をロケットのようにマリアへと射出する。マリアは蛇腹剣でヴァネッサの拳を弾き飛ばすと、勢いそのままにヴァネッサの体を殴り飛ばす。吹き飛ぶヴァネッサが体勢を整える前に、マリアは短剣で十字を切ると左腕のギアを変形させて大技を放った。

 

DIVINE†CALIBER

 

ギアから放たれた十字架状のエネルギーがヴァネッサに炸裂して大爆発を巻き起こす。咄嗟に防御姿勢を取りはしたが流石にノーダメージとは行かず、ヴァネッサが煤に塗れた体をよろよろと起き上がらせていると、その脳裏にエルザの言葉が伝わってきた。

 

(ヴァネッサ!腕輪と保護対象を連れて、戦域から離脱出来たであります!)

 

「了解、こちらも撤退するわ。例の場所で落ち合いましょう」

 

「待ってください!」

 

ヴァネッサが撤退すると聞き、響が咄嗟に引き留めるために声をかけた。

 

「やっぱり、話しても無駄ですか!?分かり合えないんですか!?」

 

「分かり合えないわ。あんな男と馴れ合うようなあなた達とは…」

 

「あんな男…?ひょっとして、兄弟子の事…?」

 

「当たり前でしょう?私達の境遇を知った上でペットとして飼い殺し、私達の希望を踏み躙った!あの男が私達に何をしたか、あなた達は知らないの?」

 

「それは…」

 

「どうせ図星を突かれた挙句に心身共にボコボコにされたってところでしょう?」

 

言葉を詰まらせた響の代わりに、マリアがそう答えてヴァネッサを睨んだ。

 

「あなた達の境遇を知った上でと言ってはいるけど、別にそれはあなた達が自ら語って聞かせた訳じゃない。何も語らないくせに配慮が無いと文句を言うのはお門違いじゃなくて?」

 

「私達が自ら語れば、あの男は配慮してくれたとでも?」

 

「さあ?少なくとも、あなた達の飼い主は意味もなく他人の想いを踏み躙るような男では無い。それとも、あなた達の稚拙な拒絶や反発心ではなく、本気の懇願をナナシは無視したとでも言うの?」

 

「それは…」

 

 

 

『どうか、ご慈悲を⋯申し訳、ありませんでした』

 

 

 

反論しようとしたヴァネッサの脳裏に、自分がナナシに本気で許しを請うた時の事が過った。

 

『⋯あなたに反発して、愛情を否定した事を謝罪します⋯ごめんなさい⋯愛しているんです⋯二人は私の、家族なんです⋯』

 

あの時、自分達は感情のままにナナシの言葉を否定して機嫌を損ねたはずだが、自分の本心からの謝罪にナナシは家族の絆を否定する事を妥協してくれた。

 

「ナナシがあなた達に何をしたのか、私達は知らない。知って欲しいなら聞いてあげるから言ってみて?私も含めてS.O.N.G.の何人かは、あの男に対する愚痴なら何時間でも付き合ってあげられるわよ?」

 

「っ…!!」

 

口を閉ざしたヴァネッサに、マリアが茶化すような言葉を投げかける。そんなマリアに苛立ちを覚え、ヴァネッサは問答を切り上げ目から閃光を放つと、マリア達が光で目が眩んでいる内に足のブースターを起動してその場を離れてしまった。

 

(凄惨な過去も、重大な大義も、当事者が語らないなら所詮他人事でしかない。残念ながら、語ったところで誰もが手を差し伸べてくれるとは限らないけど…語らなければ、誰一人として手を差し伸べてはくれないの。本当に必要なのは、相手が自分の手を取ってくれると信じる勇気なのよ…)

 

かつての自分達の境遇を重ねて、マリアが去り行くヴァネッサを悲しそうな表情で見送りながらそんな事を考えていると、視界の端に自分と同じようにヴァネッサを見つめる響が映った。幾度となく拒絶しても、何度も差し出してきたその手と、そこに填る自分とお揃いの赤い“血晶”を見て、マリアはフッと笑みを零した。

 

(一回や二回、手を振り払われたくらいで凹んでなんかいられないわね。あんな子達がいると知った以上、何度でも手を伸ばしてあげないと!いつかこの手を握ってくれると信じて…私達が、そうしてもらったように)

 

 

 

 

 

アルカノイズが殲滅され、ヴァネッサが去って行った施設の跡地では、緒川の指揮で何らかの痕跡が見つからないか調査が行われていた。ほとんど瓦礫の山と化した現場を緒川が注意深く見回していると、瓦礫の隙間に何かを発見した。

 

「これは…!急ぎ解析をお願いします!」

 

すぐに緒川は傍に居た職員へと指示を出す。緒川達の視線の先にあるその物体は、所々が罅割れ欠けた奇妙な歯車のような形状をしていた。

 

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