戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
(わたしは、勝てなかった…)
ヴァネッサとの交戦を終えて、メディカルルームのカプセルの中で検査を受ける響は、閉じた瞳の中で自分が水中から空を見上げている光景を思い浮かべていた。
(それでも、分かった事もある。あの人達の力、勝利の源にあるのは『拒絶』…だったら、わたしは…)
響は握り締めていた拳を開いて、光に向けてその手を伸ばす。その先に輝く自分の勝利を掴み取るように…
(そして…)
そこで検査終了を告げる警告音が鳴り響き、響の意識は現実へと引き戻される。カプセルが開いて響が体を起こすと、スピーカーから友里の声が聞こえてきた。
『響ちゃん、お疲れ様。大きな異常は見られなかったわ。支度が出来たら、発令所まで来てもらえるかしら?今後の対策会議が始まるわ』
友里の声に従い、響は急いで支度を済ませると、仲間達の待つ発令所へと駆けて行った。
一方その頃、ノーブルレッド達の姿は車の廃棄場の中にあった。無数にあるボロボロの廃車の中でも、比較的マシな状態の車の中で三人はシーツに包まって横になっていた。
「アジトを失うって、テレポートの帰還ポイントを失うだけでなく、雨風を凌ぐ天井と壁も失うって事なのね。お姉ちゃん、また一つ賢くなりました…」
「お陰で次のねぐらが見繕われるまで、まさかの車中泊…世間の風は、やっぱウチらに冷たいゼ…」
ミラアルクがそんな悪態をついていると、エルザが気まずそうにミラアルクに背を向けて体を丸めた。
「あの時は、仕方なかったであります。アルカノイズの反応を追って、S.O.N.G.が急行してくるのは分かっていたであります。それでも、足が付く証拠や、起動実験の痕跡をそのまま残しておく訳には…」
そんな事を呟きながら、エルザは自分の選択が正しかったのか自問自答してしまう。そしてそんな風に考え込んでいると…
『お前らの飼い主として、俺は既に選択を終えている。もうお前らがこれから先、どんな選択をしたところで…俺の思惑から逃れる事は出来ない』
…その脳裏に、ナナシの残した『呪い』の言葉が過ってしまった。
『人と仲良くする(笑)を続けるのも、諦めて手当たり次第に虐殺を繰り広げて最後は駆除されるのでも、
(我々がこんな惨めな状況に置かれる事も、あの男にはお見通しだったとでも言うのでありますか?)
歪んだ車の隙間から入ってくる冷たい夜風にブルリと震えながら、エルザは思考を巡らせる。S.O.N.G.からの脱走は誰が言うでもなく三人の共通認識だったが、どれだけ不本意な立場であろうと、ペットとして置かれている間は温かな寝床と食事が用意されていた。ノーブルレッドの参謀として、もっと慎重になるべきではなかったか?家族にこんなひもじい想いをさせるくらいなら、もっと良いプランが浮かぶまでS.O.N.G.に留まる選択をしても良かったのではないか?
そんな風にエルザが悩んでいると、ヴァネッサが震えるエルザを抱き寄せて額を合わせてきた。
「心配ないない、何とかなるなる。だってエルザちゃん、しっかり者だもの」
「むぅ~…」
自分が真剣に悩んでいるのに、お気楽な様子で子供扱いしてくる自分の姉に、極々僅かな反発心と、それ以上の温もりを感じてエルザはようやく思考のループから抜け出した。しかし安堵したのも束の間、エルザはピコンと頭の犬耳を立てたかと思うと、ヴァネッサのシーツに潜り込んでモゾモゾと動き始めた。
「ふぁ!?どうしたのったらどうしたの!!?エルザちゃん!?」
唐突なエルザの行動にヴァネッサが狼狽えていると、エルザがシーツの中から姿を現して…ヴァネッサから取り除いた小型発信器を二人に見せた。
「「!!?」」
「全員揃ったな」
響が発令所に駆け込むと、既に装者全員とサンジェルマン達が集まっていた。響の到着を弦十郎が確認すると、すぐさまエルフナインが対策会議の準備を行う。
「まずは、これをご覧ください」
そう言ってエルフナインがモニターに表示させたのは、装者達にとって馴染み深い幾何学模様だった。
「これは、アウフヴァッヘン波形!?」
「それも、あたしらとは別の…って、まさか!?」
「ああ、奪われた腕輪が起動したと見て、間違いないようだ」
「アルカノイズの反応に紛れ、見落としかねない程微弱なパターンでしたが、辛うじて観測出来ました」
「恐らくは、強固な結界の向こうでの儀式だったはず。例えば、バルベルデでのオペラハウスのような…」
「ディー・シュピネの結界…確かに、秘密裏に儀式を行うには最適かもしれないな」
藤尭の言葉に、サンジェルマンも頷く。
「そして、観測されたのはもう一つ…」
そう言ってエルフナインは、観測機器が拾った奇妙な音を再生した。
「な、何、これ…音楽…?」
「だとしたら、デタラメが過ぎるデス!」
「こんなもんに聴き入るのはご都合主義ぐらいだ」
「流石にナナシでもこれは…ああでも、以前アニメを見て、鼓膜が破れてでもこの音痴のガキ大将のリサイタルは参加したいなどと言っていたから、あるいは…?」
その不協和音に切歌達が思わず顔を顰める中、マリアだけが何か引っかかっていた。
(聴いた事の無い音の羅列…だけど私は何処かで…?)
マリアはその心当たりを思い出そうとしたが、話を進めるためにエルフナインが音を止めてしまったため頭を切り替える事にした。
「音楽の正体については、目下のところ調査中。ですが、これらの情報を総合的に判断して、ノーブルレッドに大きな動きがあったと予測します」
「傍迷惑なペットちゃん達ね?飼い主よりはマシかもしれないけど…」
「やはり、こちらから打って出る頃合いか」
「でも、打って出るってどうやってですか?」
「マリア君」
弦十郎の呼びかけに、マリアが前に出てその手にある小型の発信器を見せる。それと同時に、モニターに何処かの座標が表示された。
「さっきの戦いで、発信器を取り付けさせてもらったの。ノーブルレッド…弱い相手とは戦い慣れていないみたいね?」
「迷子のペットに首輪をつけるなんてやるじゃない、白団子ちゃん♡…って、プレラーティ?何で急に顔色悪くしているの?」
「…発信機と首輪で、以前あの男に受けた仕打ちを思い出してしまったワケダ」
「あ~…マジメンゴ…あーしも思い出しちゃった…」
「ふ、二人共、大丈夫か?目が死んでいるぞ?」
「フフッ…」
カリオストロ達がトラウマを思い出して目の光を失っていると、何故か響が楽しそうにクスクスと笑い始めた。
「ちょっとちょっと黄色信号ちゃん!?あーたいつから他人の不幸を楽しむような子になっちゃったわけ!!?」
「あの男に毒されたワケダ!?」
「た、立花響…?」
「ご、ごめんなさい!そうじゃなくて、真面目な話をしているはずなのに、皆が合間に兄弟子の話をするものだから…兄弟子は遠く離れていても、わたし達を茶化して空気を軽くするんだなって考えたら、可笑しくなって」
響のその一言に、全員が一瞬呆気に取られたように目を見開くと、フッと息を零して笑ってしまった。一頻り笑った後、響は笑顔の仲間達を見ながら口を開いた。
「こうやって一緒に笑い合うためにも…ヴァネッサさん達を迎えに行きましょう!」
それから少しして、ヘリに乗った響達はノーブルレッド達のいる廃棄場の上空へと辿り着いた。発信機によって移動していない事は分かっていたが、三人は物陰に隠れすらせずに目立つ場所に立って響達を待ち構えていた。
「迎え撃つとは殊勝な!」
「あたしらをちゃんと出迎えられるって事は、あいつら間抜けな忠犬では無さそうっすね?先輩!」
「ブフッ!!」
「こ、こら雪音!からかうんじゃない!立花も笑うな!!」
「「「間抜けな忠犬?」」」
「ええい、気にするな!さっさと降りるぞ!!」
「およよ!?翼先輩が珍しく激オコデスよ!!?」
「気になるけど、今は大人しく言う事を聞こう。切ちゃん、マリア」
「そうね…その話の続きは、ベッドで聞かせてもらおうかしら?」
「いい加減にしないと本気で怒るぞ!!」
先程の空気が残っているのか、珍しくクリスが翼をからかい、マリアが流れに便乗した。翼から逃げるようにマリア達が先行し、顔を赤く染める翼とニヨニヨ笑うクリスがその後に続く。最後にようやく笑いの治まった響が一拍遅れてヘリを飛び降りた。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
空中で聖詠を唱えてシンフォギアを纏った装者達は、ノーブルレッド達前方の開けた地面目掛けて落下していく。先行したマリア達がいち早く地面へと着地して…
ドゴオオオオオン!!
『なっ!?』
…その瞬間、地面に仕掛けられた大量の地雷が一斉起爆して地面が盛大に爆発した。僅かに遅れて爆破後の地面に着地した翼達が、慌ててマリア達の傍に駆け寄って行く。
「三人共、無事か!?」
「ビ、ビックリしたデス…」
「私達は無事です。でも…」
「やられたわね…初手で“血晶”を潰された」
マリア達は“血晶”のお陰で無傷で済んだが、不意打ちを防ぐためにより多くのエネルギーを消費した三人の“血晶”は早々に力を失い塵となってしまった。
「敢えてこちらの姿を晒す事で、降下地点を限定させるであります。あとはそこを中心に地雷原とするだけで…」
「他愛無いゼ!」
まんまと策に嵌った装者達を高所から眺めてミラアルクがほくそ笑む。ダミーも含めてアジトを失ったノーブルレッドにはもう身を隠す当てもなく、発信器の存在が発覚した時点で三人は装者達を迎え撃つ覚悟を決め、自分達を囮に装者達を必殺の陣形へと誘い込んだのだ。
「辺り一帯地雷原なら…」
「一度爆発したここには、もう地雷は埋まっていないのデス!」
“血晶”を失ったのは痛手だが、安全地帯を生み出せたと割り切って装者達は全員が態勢を立て直すためにその場に留まる選択をしてしまった。しかし…
「それもまた、予測の範疇であります!」
…装者達の行動を予期していたノーブルレッド達は、既に陣形を整えていた。装者達を三方から囲んだ三人は、間髪入れずに自分達の切り札を行使した。
「いくぜええええええ!」
ミラアルクが掛け声を上げると同時に、装者達の頭上に青い立方体が出現する。立方体は次々と落下していき、装者達の周りを取り囲むようにドンドン積み上がっていった。
「させるかよぉ!!」
“MEGA DETH PARTY”
このままではマズイと感じたクリスが、高火力の攻撃で立方体の破壊を試みた。大量のミサイルが立方体へと直撃して大爆発を起こすが、煙が晴れるとそこには傷一つ付いていない立方体が鎮座したままだった。
「馬鹿な!?雪音の火力で砕けぬとは!!」
「そう、あれかし…」
そうこうしている間に、立方体は装者達を完全に囲い込んでしまった。視界の全てが青色で覆いつくされた装者達がその輝きに一瞬瞼を閉ざすと、再び瞳を開いた時には見知らぬ迷路のような空間に孤立した状態で閉じ込められていた。
「切ちゃん!?皆!!?何処に居るの!!?」
調が大声で叫ぶが、返事が返ってくる様子は無い。別の場所では切歌が青い立方体で構成された床に大鎌を振り下すが、その硬さに大鎌ははじき返されてしまった。
「刃が通らない…簡単には抜け出せないという事デスか」
S.O.N.G.本部も、ノーブルレッドが引き起こした現象に驚愕していた。
「何が起きている!?」
「分からない…我々が調べた情報に、彼女達があのような力を有しているなどと言った物は無かったはず…」
モニターに映るノーブルレッドが形成した青いピラミッドを見て、サンジェルマン達も困惑を隠せない。
だが、そんな事は本来あり得ないはずだった。ノーブルレッドがこの力をS.O.N.G.の前に晒すのは二度目、それも一度目はS.O.N.G.本部内で行使されたはずなのだから。
エルザが迷宮内を駆け回る装者達の様子を確認しながら、犬耳をピコピコ動かして周囲の状況を探る。その優れた聴覚や嗅覚には、自分達以外の生物が付近にいる気配を捉える事が出来ない。
(周囲に伏兵は無し…装者達の反応も、演技とは思えないのであります)
(まさか本当に、私達の情報をあの男が秘匿していたと言うの?)
本来であれば、反抗的な意志を持つ自分達の能力は組織全体に広めた上で対策を練るのが当たり前のはずだ。響とマリアとの会話から違和感を持ったヴァネッサであったが、まさかナナシが自分達の情報を仲間に共有していないなど思ってもみなかった。
(あのクソ野郎が何を考えているかなんて見当もつかないが…ウチらを舐めた代償は、お前の仲間に払ってもらうゼ!)
答えの出ない疑問は一先ず捨て置いて、ノーブルレッドは迷宮内へとエネルギーを注いでいく。エネルギーは迷宮内を駆ける装者達の背後から迫り、追い立てられるように道を進んでいた装者達は迷宮の中央で全員が勢揃いした。
「あなた達!?」
「来るぞ、衝撃波だ!私の傍に集まれ!!」
唐突の再会に驚く仲間達を翼が咄嗟の判断で集合させると、自身の“血晶”を使って全員を守るように“障壁”を展開させた。
「「「ダイダロス・エンド!」」」
閉鎖空間内で炸裂したエネルギーが迷宮全体を揺れ動かす。エネルギーの一部が迷宮の隙間から零れたのか強い光が外部へと漏れたため、何かが起こった事を察した弦十郎が咄嗟に“血晶”を使って装者達へと呼びかけた。
(誰か聞こえるか!?無事なのか!!?)
(師匠!全員無事です!!)
(辛うじて、だがな…)
弦十郎の“念話”に、響とクリスが応じる。翼の“血晶”は犠牲になってしまったが、そのお陰で先程の一撃は全員無傷でやり過ごす事が出来た。
(わたしとクリスちゃんの“血晶”で、あと二回は耐えられると思いますが、それ以上は…)
(ってか、“血晶”で防げるって事は、あのご都合主義はこの技経験済みって事だろう!?おっさん達は何か知らねえのか!!?)
(いや、俺達は何も…)
「司令…何か情報が無いか、彼女達がS.O.N.G.にいた時の記録を確認していたのですが、データベースの一部に改竄された痕跡が…」
頭痛を堪えるように頭を押さえながら告げられた友里の報告に、弦十郎もまた頭を抱えてしまった。
「え!?どういう事!!?あのペットちゃん達、コッソリS.O.N.G.にハッキングでも仕掛けたって事!?」
「いえ、あの、これは多分…捕虜である彼女達が、あんな規模の技を行使したと発覚すれば罰則は免れないと判断したナナシさんが細工を施したのかと…」
「馬鹿な!?幾らあの男でも、組織の記録改竄などという愚かな真似をするはずがない…」
「残念ながら、常習犯なんだよ…」
「ワケダァ!!?」
プレラーティ達はとても信じられないといった様子を隠せないが、S.O.N.G.の全員が何とも言えない微妙な表情をしている事から信じざるを得なかった。
「な、ならば、この緊急時に至っては致し方ない!ナナシに連絡を取って仔細を確認するべきでは!?」
「無駄だ!オレが世界を分解するリスクを高めてでも無自覚なスパイであったエルフナインを秘密裏に擁護して自分の計画に組み込む男だぞ!?問い詰めたところでのらりくらりと追究を躱すだけだ!アレが秘匿を決めた以上、あのペット共への対応はこちらでやり遂げる他ない!!」
「ホントにあーたらあのジャパニーズホラーの仲間なのよね!!?」
「偶にちょっと自信無くなるかなぁ!!」
もう何度目かも分からないナナシの裏切りに、S.O.N.G.の面々はナナシが帰ってきたら一ヵ月間BGM係に任命すると心に誓うのだった。
「エックシブ!!」
(あら?ナナシちゃん、風邪…な訳ないわよね?)
(何か地球にいる奴らが噂している気がしたからクシャミしてみただけだ)
(…退屈なのは分かるけど、真面目にやりなさい)
(へーい…)
ナナシのS.O.N.G.における独特の立ち位置に困惑しながらも、サンジェルマンは知恵を絞って装者達に助言を行う。
(幸い、そちらにはあと二つの“血晶”がある!それほどの規模の術式を維持するには、相応のエネルギーが必要なはずだ!彼女達が自身の生命エネルギーを変換しているのでもなければ、考えられるエネルギー源はその肉体に宿る怪物の力!それが尽きるまで耐えきる事が出来れば…)
そう伝えている間にも、再び迷宮内へとエネルギーが注がれていき、装者達へ衝撃波が迫る。今度はクリスが“障壁”を展開して攻撃を防ぐが…さほど間を置くことなく、迷宮内に再びエネルギーが蓄積されていった。
サンジェルマンの考察は正しいものだった。ノーブルレッドがダイダロスの迷宮を維持するエネルギーは、その身に宿る怪物の力…その源となるのが稀血であり、例え万全の状態でもダイダロス・エンドを二回放つのがやっとと言ったところだった。
だが、今のノーブルレッドは…
(エルザ、ヴァネッサ…まだまだイケそうだゼ!)
(ええ…消耗している感覚は無いわ)
(これがあの男の肉体に宿る、神の力…!)
…その身に流れるのは稀血ではない。三度目のダイダロス・エンドに向けてエネルギーを注ぎ続けるノーブルレッド達に疲労は見られず、“紛い物”の血液は彼女達に膨大なエネルギーを与え続けていた。
(あっはははは!こいつは傑作だゼ!!あのクソ野郎が押し付けてきた『愛』とやらで、あいつの大切な女共を一網打尽に出来るだなんて!!!)
衰える様子の無いエネルギーの充填速度に、サンジェルマンは焦りを募らせる。このまま響の“血晶”が力尽きてしまえば、もう次は無い。
(勝てない…どうして?…サンジェルマンさん達の想いが籠ったこのギアで…)
(っ!?)
そんなサンジェルマンに、響からそんな思念が伝わってきた。今の響からは、我武者羅に自分へ手を伸ばし続けていた時に感じた意志の強さが感じられない。それを察したサンジェルマンは…意を決して、響に“以心伝心”を行使した。
(勝てない?ならば問おう。お前は何に負けたのだ?)
(サンジェルマンさん!?)
現実では自分が展開した“障壁”の内部で仲間達と身を寄せ合っているにも関わらず、突然頭の中に現れたサンジェルマンと、まるでラピスの中に入り込んだかのような周囲の光景に響は戸惑ってしまった。そんな響に、サンジェルマンは繰り返し問いかける。
(誰に負けた?立花響!)
(…そうだ…負けたのは自分自身に…勝てないと抗い続ける事を忘れたわたしに!)
サンジェルマンの問いによって、大切な事を思い出した響の瞳に力が宿る。そんな響に、サンジェルマンは自らの手を差し出した。
(私が手を貸す。だから忘れるな、立花響!想いを通すために握る拳を!!)
(忘れない…!すれ違った想いを繋ぐために拳を開く事を!そして、信じた正義を握り締める事を!!)
サンジェルマンの手を掴み、響が自分の想いを叫ぶ。それと同時に、ノーブルレッドの放った衝撃波で響の“血晶”も消失してしまい、サンジェルマンの姿は掻き消えてしまった。
「ダイダロス・エンド!フルスロットルであります!」
「今度は迷宮ごとぶっ飛ばすゼ!」
「この威力でなら…!」
装者達が“障壁”を展開しなくなったタイミングを見計らい、ノーブルレッドが勝負を決めにいく。迷宮内に充填されたエネルギーが臨界を超えて、凄まじい威力の大爆発を引き起こした。舞い上がった大量の土煙が辺りを包み込む。丁度そのタイミングで差し込んだ朝日が爆発の壮絶さをより明確に表し、ノーブルレッドは自分達の勝利を信じて疑わなかった。
「だとしてもぉおおおおお!!!」
だが、そんなノーブルレッドの予想に反して、土煙の奥から力強い雄叫びと共に太陽にも負けない黄金の輝きが現れた。
「黄金の…バリアフィールド…?」
本部からその様子を見ていた弦十郎が思わず呟く。装者全員のギアがこれまでに見た事の無い形状に変化しており、球体状に展開した黄金のバリアフィールドが装者達を守っていた。
「これは、一体…?」
「サンジェルマンさんが手を繋いでくれました!」
「何!?」
「力を貸してくれたんです!」
現状に困惑する仲間達に、響は笑みを浮かべながら力強くそう断言した。
「サンジェルマン、あんな事言っているワケダが?」
響の言葉に何かを察した様子のプレラーティが悪戯っぽく笑いながらサンジェルマンに問いかけると、サンジェルマンは困ったように微笑んで自分の“血晶”に目を向けた。
「力を貸す…と言える程の事は、出来なかったはずだ。私はただ…窮地の友を勇気付けたくて、手を伸ばしただけ」
「同じ事でしょう?あの黄色信号ちゃんは、誰かが手を繋いでくれるってだけで元気百倍なんだから。その証拠にほら、あんなにピカピカ元気が溢れているじゃない♡」
カリオストロが茶化しつつも、目の前の光景がサンジェルマンの功績だと主張する。サンジェルマンは苦笑しながらそれ以上謙遜するのをやめて、自分の言葉を切っ掛けに響が掴み取った結果を見守る事にした。
装者達が無傷だと気づき、ノーブルレッドが再びダイダロスの迷宮を展開させようとする。その動きを察知した響が掌に打ち付けた拳を天に突き出すと、手の甲にあしらわれた花の装飾の花弁が巨大化、再構成されて、響の両肩に巨大な黄金の腕が展開された。迫り来る青い立方体に響が自身の腕を振るうとその動きに合わせて肩の剛腕が動き、立方体を一撃で粉砕してみせた。エルフナインが響の戦闘をモニターしながらその変化を考察する。
「賢者の石によってリビルドした、シンフォギアに秘められた力…ギアを構築するエネルギーを解き放ち、高密度のバリアを形成…」
瞬く間に粉砕される立方体を見て、ミラアルクは迷宮の構築を諦めて直接響を叩くためにその背の羽をブーメランのように変形させて投擲する。響がブーメランの攻撃を受け流すように黄金の拳で弾くと、その隙にエルザが上空からテール・アタッチメントで奇襲を仕掛けた。しかし直前で奇襲に気付いた響が片腕で攻撃を受け止め、もう片方の腕でアタッチメントを鷲掴みにすると、そのまま腕の先をロケットパンチのように射出させた。
「マズイであります!」
アタッチメントごと体がグングン上昇していく事に焦り、エルザが慌ててアタッチメントを切り離す。それから少しして、上空へ飛来した拳がアタッチメントを握り潰して盛大に爆発させると、再び響の下へ戻ってきた。
「更に、エネルギーの大半を攻撃へと転化する事で可能とする不退転機能!それは、シンフォギアとファウストローブの融合症例…『アマルガム』!!」
響が掴み取った壮絶な力…それを目の当たりにして尚、ノーブルレッドが戦意を失う様子は無い。
「こんな所で、諦める訳にはいかないであります!」
「その通り!ウチらはここで引く訳にはいかないんだゼ!」
エルザがキャリーケースから新たなアタッチメントを取り出し、体の周囲を半球状に覆って回転しながら響へと迫る。ミラアルクも上空へと飛翔しながら片腕を強化して攻撃の機会を窺っていた。
エルザの突撃を、響は拳の一撃ではじき返す。そして距離の離れたエルザが再び突撃を仕掛ける前に、響は拳を高速回転させながらブースターで一気にエルザへと迫り、アタッチメントの防御をブチ抜いてエルザを吹き飛ばした。
立て続けにミラアルクが響へと拳を振るうが、響は難なくミラアルクの拳を受け止め反撃を叩き込む。上空へと吹き飛ばされたミラアルクは素早い動きで撹乱するように飛行した後、両足を強化して響に強力な一撃を繰り出したが、響は真っ向から拳で迎え撃ちミラアルクを返り討ちにした。
「エルザちゃん!?ミラアルクちゃん!!?」
『てめえらの事なんか誰も眼中にねえよ、パチモノ風情が己惚れるな』
両肩から生やした双腕で自分達を一蹴する響の姿に、ヴァネッサは嫌でも“紛い物”の影を彷彿としてしまう。それでもヴァネッサは歯をギリリと噛み締めながら崖を飛び降り、響から逃げる事無く立ち向かう。
「それでも私達は神の力を求め欲する!神の力でもう一度、人の体と戻るためにぃいいい!!」
ヴァネッサは全身からミサイルポットを展開してありったけの攻撃を響へと放つ。膨大な数のミサイルを前に、しかし響は臆することなくヴァネッサに向かって突き進む。
「だとしても!貫けぇえええ!!」
響の突き出した拳がミサイル群を喰い破り、黄金の拳がヴァネッサへと迫る。もはや躱す事も出来ないと察したヴァネッサが目を瞑って衝撃に備えるが、響の拳はヴァネッサの目の前でピタリと停止して風圧でヴァネッサの髪を揺らすだけに留まった。
「どうして…」
恐る恐る目を開いたヴァネッサが呆然と疑問を零すと。響は拳を引いてヴァネッサに微笑んだ。
「兄弟子から、ヴァネッサさん達の事をよろしくお願いされました」
「え…?」
「それだけじゃない。わたし自身が、ヴァネッサさん達と手を繋ぎたいんです。だから…」
響が握り締めていた拳を開いて、ヴァネッサの前に差し出す。そんな響の行動に、ヴァネッサが反応出来ずに佇んでいると…突然、響達の通信機から警報が響いた。
『現時刻を以て、装者全員の作戦行動を中止とする。日本政府からの通達だ!』
『!!?』
「どういう事だ!?おっさん!!?」
既に勝敗は決して、後はノーブルレッドを捕獲するだけのはずなのに、唐突に下された命令にクリスが思わず叫んでしまう。しかしその頃、S.O.N.G.本部は銃で武装した集団に包囲されていた。
弦十郎は不服そうな顔で腕を組み、友里達は両手を上げてジッとしている。そんな中、一番多くの銃口を向けられているキャロルやサンジェルマン達は、ただただ白けたような顔をしていた。