戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

198 / 212
先日、日間ランキングにお邪魔しました。
高評価感謝です!


第194話

ナナシ達が攻略を進める月遺跡…その内部が、これまでになく静まり返っていた。

 

(これは…パターンが変わったか?)

 

(恐らくは…)

 

もうそれなりの時間通路を進んでいるが、一向に防衛システムが向かってくる様子がない。襲撃が無くなった事にナナシ達は安堵する事無く、寧ろ警戒を引き上げながらゆっくりと道を進んでいった。

 

しばらく二人が道を進むと、これまでには見られなかった物…月遺跡に来てから、初めての『扉』を発見した。扉の他に道は無く、奥へ進むのならこの扉を通るしかない。

 

(罠…よね?)

 

(ああ、間違いない)

 

襲撃の停止と、唐突に現れた扉に二人はこれが罠だと確信する。

 

(どうする?壁を破って迂回する?)

 

(ちょっと待ってくれ)

 

了子に待機を指示して、ナナシは静かに扉を見つめる。少しして、ナナシは再び“以心伝心”で了子に語り掛けた。

 

(神様の感情からは、俺達に対する直接的な害意は少ない気がする。少なくとも、入った瞬間にデストラップが待ち受けているような事は無い。それよりも、俺達をこの部屋に入れる事への『覚悟』を感じるのが気になる…この部屋にある『何か』で、俺達が取るアプローチを見定めようとしているのかも)

 

(なるほどね…だとしたら、仮に罠が無かったとしても、何もないって事は無さそうね?リスク相応のリターンも期待出来る。だったら…)

 

(ああ…入ろう)

 

扉への侵入を決めた二人は、最大限に警戒を高めながらゆっくりと扉を開いてその内部へと入っていった。

 

 

 

 

 

「まさか、本当に…」

 

「本部が制圧されるなんて…」

 

ノーブルレッドをあと一歩まで追い詰めた装者達であったが、日本政府の介入によって彼女達が逃げていくのを黙って見逃す事を余儀なくされた。仕方がなく装者達がS.O.N.G.に帰還すると、武装した集団によって仲間達が包囲されていた。

 

「制圧とは不躾な。言葉を知らんのか?」

 

「マリアはあたしらと同じ歌手だぞ?知ってるから一番適した言葉を選んだだけだっつーの」

 

この集団の責任者と思われる査察官の言葉に、奏が皮肉を籠めた独り言を呟く。査察官がジロリと奏を睨むが、奏は更に鋭い眼光で真っ向から査察官を睨み返す。その迫力に査察官が一瞬たじろいでいると、弦十郎が両者を遮るように間に入って口を開いた。

 

「護国災害派遣法、第六条。日本政府は、日本国内におけるあらゆる特異災害に対して優先的に介入する事が出来る…だったな?」

 

弦十郎の言葉に、気を取り直した査察官が下卑た笑みを浮かべながら日本政府の認可を示す書類を掲げる。

 

「そうだ。我々が日本政府の代表としてS.O.N.G.に査察を申し込んでいる。威力による制圧と同じに扱ってもらっては困る。世論がザワッとするから本当に困る!」

 

「どう見ても同じなんだけど…」

 

今度は藤尭がボソリと嫌味を零す。隣の友里は何も言わないが、その表情から同じ想いを抱えているのは明白だった。

 

「国連直轄の特殊部隊が、野放図に威力行使出来るのは、あらかじめその詳細を開示し、日本政府に認可されている部分が大きい!違うかな?」

 

「故に我々は、前年に正式な手続きの元…」

 

挑発的な物言いの査察官に、弦十郎が冷静であろうとしているのか淡々と言葉を返していると、それを手で遮りながら査察官が勝ち誇った顔で告げてきた。

 

「先程見させてもらった武装、開示資料にて見かけた覚えが無いのだが、さて?」

 

「そんな!?アマルガムを口実に!!?」

 

「この口振り…最初から難癖付けるつもりだろ!」

 

アマルガムは本当につい先程発現した決戦機能だ。当然事前に開示していた資料に記載などあるはずもない。それを情報の秘匿と疑われては、即座に覆すのは難しい。もっとも、藤尭の言う通り最初から何らかの難癖を付けるつもりだったのは査察官の悦に入った表情を見れば明白である。

 

「司令…ここは政府からの要求を受け入れる他ありません」

 

「そうデスとも…って、ええー!?」

 

「切ちゃん、今難しい話をしているから…」

 

友里が少々わざとらしい感じで嫌々ながらも日本政府の要求を認める提案をすると、てっきり拒絶の意見が出ると思っていた切歌が何も考えず同意した後、遅れて驚愕する。そんな切歌を窘めつつ、調や他の装者達、奏やエルフナインも内心ではその提案に驚いていた。しかし藤尭や他の職員達も、友里と同じ意見らしく肩を竦めたり首を振ったりしながら消極的賛成の意志表明をする。だがやはり、その様子は何処かわざとらしいような…?

 

「後ろ暗さを抱えてなければ、素直に査察を受け入れてもらいましょうか?」

 

「…良いだろう。だが条件がある。装者の自由と、ギアコンバータの携行許可。今は戦時故、不測の事態の備えくらいはさせてもらう」

 

やはり査察官の言葉に淡々と対応しながらも、弦十郎は最低限の要求を行う。流石に現状で装者達の自由まで奪われるのは容認出来る事ではない。

 

「折り合いの付け所か…ただし!あの不明武装については、認可が下りるまで使用禁止とさせてもらおう!」

 

「…勝手にしろ」

 

最後にアマルガムの使用制限まで条件に加えてきたが、弦十郎はピクリと眉を動かすだけで淡々とした口調で吐き捨てるようにその条件に同意した。それを負け惜しみと捉えた査察官は勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

「では、勝手を開始する…おっと、いけない。大切な事を忘れていた!」

 

話が纏まった…ように見せかけて、査察官は弦十郎へと近づくと、その手に填められた“血晶”を奪い取った。

 

「この組織に保存されている『ノイズ・キャンセラー』、及びあの融合症例である風鳴ナナシの体組織サンプルは、全て日本政府で預からせてもらう!」

 

『なっ!!?』

 

査察官が下した“血晶”の全回収命令に、装者達は思わず驚愕の声を零してしまった。そしてそれだけでは収まらず、奏が全員を代表して査察官に食って掛かる。

 

「おい!何ふざけた事言ってんだてめえ!!“血晶(コレ)”はもうずっと前から使い続けているはずだろう!?今更何でお前らに渡さないといけないんだよ!!?」

 

「確かにそのノイズ・キャンセラーと、その『原料』である風鳴ナナシについての報告はちゃ~んと受けているとも!詳細不明の聖遺物と融合を果たし、今なお正体のはっきりしない…化け物であるとな!」

 

査察官がそう言った瞬間、奏が拳を振り上げながら査察官に迫る。いや、奏だけではなく、他の装者達も同じような動きを見せたのだが…あらかじめ予期していたのか、奏は弦十郎に腕を掴まれ、翼達は職員達にブロックされた。

 

「ダンナ…手、離せよ」

 

「落ち着け、奏君」

 

「離せって言ってんだろう!!」

 

「落ち着け」

 

怒りを爆発させて奏が叫ぶが、弦十郎が極めて冷静に奏を諫める。自分の弟子を貶める発言を聞いて尚、一切動じる様子の無い弦十郎を見て、奏は弦十郎に何か考えがある事を察してどうにか怒りを落ち着かせ、振り上げていた拳をゆっくりと降ろした。奏達のやり取りを見ていた装者達も、不承不承ながら周りの大人達の指示に従う。その様子を、査察官は両脇に銃を持った部下を呼び寄せながらニヤニヤ眺めていた。

 

「言葉を選んでくれ。あまりに挑発が過ぎると、いつまで経っても話が進まん」

 

「挑発などとんでもない。私なりに適した言葉を選んだだけだが…まあ、話が進まないのも事実、さっさと本題に入ろう。先程も言った通り、彼には詳細不明な事柄が多い。よく分からない力を内包したその肉体が、予期しない動きを見せない保証など何処にもない。問題が起こった際に責任を取れる本人がここにいるならいざ知らず、現在彼は月へ赴いている。故に日本政府はリスク軽減のために彼が調査から戻ってくるまで、彼の体組織サンプルを集めて管理しようと言っている訳だ」

 

相変わらず下卑た笑みを浮かべながら、ナナシの体を危険物のように言う査察官にS.O.N.G.の全員が苛立ちを露わにする。恐らく、本来はこの話を切っ掛けに日本政府はS.O.N.G.へ査察を言い渡すつもりだったのだろう。

 

横暴としか思えない日本政府からの要求に、しかし弦十郎は…

 

「…そうか。そう言うのであれば、ノイズ・キャンセラーとナナシ君の肉体サンプルの回収許可を出そう」

 

『!!?』

 

…特別駆け引きをする様子もなく、不満そうではあるが“血晶”の引き渡しに応じてしまった。装者達が驚き言葉を失っている間に、査察官が更に言葉を続ける。

 

「おっと、話は終わっていない!日本政府で彼の肉体サンプルを管理するに当たって、彼の肉体を研究していた者達をこちらに派遣してもらおうと考えている!餅は餅屋と言うだろう?それに彼女達が日本政府の指示に従うのなら、研究の継続も可能となる!彼女達が彼の肉体の秘密を詳らかに出来れば、日本国内で再びノイズ・キャンセラーの使用許可が出される可能性もあるのだから、そちらにとっても悪くない話のはずだ!」

 

派遣とは言っているが、これは日本政府によるS.O.N.G.技術者の引き抜きである。ナナシの謎はキャロル達が様々な方法で調べていたが、未だに碌な手掛かりすら見つけられない。ここで彼女達の派遣を許してしまえば、彼女達がいつS.O.N.G.に戻れるか見当もつかない。

 

仲間を売り渡せと言っているに等しい査察官の言葉に、再び奏が叫びそうになるが、今度はマリアが奏の体を引き寄せてその動きを制止した。

 

「奏、お願いだから堪えて!」

 

「何を馬鹿言ったんだ!?ここで引いたら、あんたの母親だって!!」

 

「だからこそよ!司令がナナシの肉体サンプルの回収を認めた以上、ここで抗ったらマムは…」

 

「!!?」

 

周りに聞こえないよう耳元で必死に囁くマリアの言葉に、奏はようやく状況を理解した。現在ナスターシャ教授はナナシの血液を輸血する事によって延命している状態だ。一体何処まで情報が洩れているのかは分からないが、日本政府がナナシの血液を全て回収すると言うのならば…

 

「…好きにすれば良い。サンプルの回収ついでに、今は研究室で待機している彼女達と勝手に交渉してくれ」

 

…断れる訳がない。もはや投げやりとも思える態度で弦十郎が許可を出し、周囲の大人達が項垂れるように俯いて口元を押さえる。査察官はとても上機嫌な様子で部下を研究室へと向かわせた。

 

「いやはや、意外に聞き分けが良くて安心した。近頃そちらの動きには目に余る所があったからなぁ?これに懲りたら、身の程を弁えた言動を心掛けると良い……ん?」

 

職員達から“血晶”を回収する部下達を眺めていた査察官は、途中である事に気が付いた。

 

「おい、全員が同じような御守りを身に着けているようだが、それは何だ?」

 

『!!?』

 

査察官の指摘に、S.O.N.G.全員の顔が強張る。どうやらナナシは装者達や弦十郎達だけではなく、仲間全員に例の御守りを配っていたようだ。

 

「何と言われても、見たままの御守りだ。月へ旅立つ間際に、ナナシ君が皆の安全を願って贈ってくれた」

 

「ふむ…中を改めさせてもらおうか?」

 

査察官の差し出した手に、弦十郎が無言で自分の御守りを乗せる。御守りを受け取った査察官は無遠慮に御守りの口を開き、中に手を突っ込むと、何やら祝詞のような文字が書かれた護符を引っ張り出した。

 

「うーむ…」

 

「気は済んだか?」

 

護符と御守り袋を机の上に広げたが、特に妙な細工を見つけられず唸る査察官。そんな査察官に、弦十郎は早く返せとでも言うように催促した。

 

「確かに怪しいところは無い…が、あの化け物が用意したと言うのなら、念のために回収させてもらおうか?」

 

もはや弦十郎が拒否するなど露ほども思わず、返事すら聞かずに査察官が机の御守りに手を伸ばして…

 

「だが断る!」

 

ガシッ!ミシミシッ!

 

…弦十郎にその腕を掴まれ、万力の如く締め上げられながら頭上に腕を引き上げられた。

 

「ぐあああ!?な、何を!!?後ろ暗い所が無ければ、こんな物に執着しないはずだ!やはり何か仕込んで…」

 

「後ろ暗さが無いから堂々と断っている。どれだけ稚拙で低レベルの理屈だろうと、政府が自国の品格を下げる覚悟で承認した事なら従うのも吝かではないが、礼儀知らずな役人の“妄想”にまで付き合う義理はない」

 

言いなりになっていた先程とは一転して、とんでもない毒を吐きながら弦十郎が投げ捨てるように査察官を解放すると、さっさと御守りを回収して自分のデスクに向かってしまった。その豹変ぶりに査察官とその部下達のみならず、装者達も呆然として思わず周囲の大人達の顔を覗き見て…ようやくある事に気が付いた。大人達は政府の言いなりになるしかない現状を憂いて俯いていたのではなく…

 

「ブフッ…」

 

「クスクス…」

 

…笑いそうになるのを必死に堪えていたのだ。

 

「き、貴様…!」

 

「何の変哲もない御守りよりも、君達が回収するべきはこちらだと思うがな?」

 

ズドン!

 

そう言って弦十郎がデスクの影から取り出したのは、辞書を何冊も重ね合わせたようなとんでもなく分厚い書物だった。

 

「なっ!?何だその鈍器は!!?」

 

「風鳴ナナシ 著、『楽しい老害のいびり方』だ。彼が月へ向かった後に本部へ戻ったらデスクの上に置いてあった。それも…」

 

ズドン!ズドン!

 

「ハァ…ハァ…」

 

「ゼェ…ゼェ…」

 

「職員一人につき一冊だ」

 

弦十郎と違い、息も絶え絶えになりながら友里や藤尭が自分の書物をデスクに乗せる。本の表紙には、査察官達にとって見覚えのあり過ぎる特徴的な老人の顔と、そこに正体を隠す事に全く貢献していない目線や、まるで子供の落書きのように角や鼻毛が付け加えられた絵が描かれていた。

 

「なあっ!?き、貴様ら!こんな事をして許されると思っているのか!!?」

 

「我々に言われても困る。全く、以前に礼節が足りない事への説教はしたはずなのだがな?…まあ、礼節が足りないのはお互い様だな。軽く聞き取りを行った所、一冊毎に記載内容が異なるようだ。そして最後のページにはその本の内容から出題されるクロスワードパズルが付録されていた。俺が代表して問題を解いた結果、答えとして記載された住所には景品としてコレが発見された」

 

そう言って弦十郎がポケットから取り出したのは、先程査察官に奪い取られたのとは別の“血晶”…ノイズ・キャンセラーだった。

 

「政府がコレの全回収を決定したならば、当然この書物も全て回収してもらえるのだろう?ナナシ君なりの我々への気遣いだとは思うが、正直スペースを圧迫されて困っているからさっさと持って行ってもらえると有難い」

 

「こ、こんな物をいちいち全て回収など出来るか!作成時のデータか何かあるだろう!?それを提出して書物は焼却してしまえ!!」

 

「残念ながら、これらは全てナナシ君の手作りだ。手でなぞるだけで文字や絵を転写出来る彼は、自らを『人型複合機』と呼んで事務担当者から絶大な支持を受けていた。この程度の書物などデータに起こさずとも簡単に作れてしまう。それにどうやら特定の書物にしかない付録もあるようだ。例えば…」

 

そう言って弦十郎が自身の書物の一ページ目を捲ると、書物の四分の一程がゴッソリ開かれてしまった。どうやらそれは書物と一体になった付録であるらしい。弦十郎は付録の表面に書かれた説明文を査察官に聞こえるよう読み上げた。

 

「『もし日本政府の査察官を名乗るチョビ髭の生理的に不快な中年男性に目の前で自分の弟子を化け物と罵られたら、この付録のボタンを押してみよう!』」

 

「なあっ!!?」

 

この状況を予期していたとしか思えないその説明文に査察官が驚愕と怒りを感じている間に、弦十郎は付録のボタンを押し込んだ。

 

『Exactly!!』

 

『!!?』

 

付録から飛び出してきた力強い肯定の言葉によって、査察官達は目を見開き、弦十郎達は苦笑し、装者達は驚愕と共に安堵してしまった。

 

『アイアムモンスター!この身はまさに、紛う事無き“紛い物”!!本当の事を言われて怒りを感じるのはコンプレックスを抱えている場合に限るんだぞ?俺はこの通り笑いのネタにするくらい欠片も気にしていないから、もし目の前のチョビ髭キモオヤジのやっすい挑発にキレている奏とかがいたら一旦落ち着けよ?』

 

「名指しかよ!?」

 

『お前は普段強かなのに仲間の事になると沸点が低くなるからな?頼りになるお前が一歩前に出ると他の奴らも釣られて動き出すから特に気を付けてくれ!』

 

「どっかにカメラでも付いてんのか!?」

 

『ブフッ!』

 

リアルタイムで観測されているとしか思えない程の完璧な間で差し込まれる録音音声に、奏は思わずツッコミを入れてしまう。そんな奏の様子に大人達は何人か笑いを堪えきれなくなっていた。

 

『さて…そんな自他共に認める化け物の俺が、普段は一応人として振舞っているのは、周りの連中が俺を人として扱ってくれていたからだ。そんな俺を化け物扱いするつもりなら…当然、相応の振る舞いをされる覚悟くらいはあるよな?精々俺を人の枠から外した事を後悔すると良い!あっはははははは!!』

 

「何処までも舐め腐りおって!地球にもいない奴に何が出来ると言うのだ!こんな物…!」

 

頭に血が昇った査察官は、不愉快な録音を止めるために弦十郎の本へと手を伸ばして…

 

ガシャン!!

 

…その直後、付録から飛び出した手錠によってガッチリと手を拘束されてしまった。

 

「へ…?」

 

『尚、このメッセージは自動的に消滅…』

 

プシュウウウウウウ!!!

 

そんな言葉と同時に、査察官を捕らえた付録から夥しい量の煙が発生し始めた。

 

「ひゃあああああああああ!!?!?は、外せ!!誰かこれを外せぇえええええええ!!!!!」

 

先程の録音内容から最悪の可能性を察した査察官が情けない声を上げながら周囲に助けを求める。しかしS.O.N.G.の面々は当然動こうとはしない。査察官の部下達に至っては巻き込まれないように距離を取る始末だ。本の重みでまともに動けない査察官は涙と鼻水を垂れ流しながらジタバタと暴れる事しか出来ず、やがて付録から溢れる煙の量がピークに達して…

 

プシュウウウウウウゥゥゥゥ……ポン!!

 

『しな~い♪』

 

…そのまま何事もなく煙が底を尽きると、付録の中からビックリ箱のようにバネに繋がったあっかんべーをするナナシ人形が飛び出した。

 

「………ふぇ?」

 

『プッ…あっははははははははは!!!』

 

その結果に、遂に堪え切れなくなったS.O.N.G.の大人達は一斉に笑い出してしまった。ちょっと前まで怒りを爆発させていた装者達も声を出して笑っている。少しして事態を把握した査察官は、怒りで顔を真っ赤にしながらよろよろと立ち上がった。

 

「き、きさ、貴様ら!こ、こんな事をしてただで済むと思っているのか!?」

 

「こんな事とは?我々は査察に協力しているだけで、あなたが勝手に騒いでいるだけだろう?付録の容量を鑑みて、そのギミックが一回限りの代物である事は明白だと思うが?」

 

「貴様ら全員後で覚えていろ!おい、早くこの手錠を外せ!!」

 

「外し方など知らん。本の何処かに解除法が乗っているのでは?俺もクロスワードを解くために流し見程度しかしていないから見逃した可能性が高い」

 

「クッソ!」

 

悪態をつきながら査察官は手錠に繋がれたまま読みにくそうにパラパラと本のページを捲って…怒りで赤くなっていたその顔が、血の気が引いてサッと青白くなった。

 

「お、おまっ!?こ、これ、これは!!?」

 

「何をそんなに動揺している?それぞれの書物の主な内容は『老害に協力するのはきっとこんな人間だ!』というナナシ君の“妄想”語りだったはずだが?確か俺の書物には、『人が血飛沫を上げるなどの残虐シーンでアチコチの高ぶりを抑えきれなくなる中年男性』について書かれていたが、何か心当たりでも?」

 

「俺の本には『中年男性の背後で銃を構える取り巻きA』について書かれていました。内容はあまり覚えていません。思い出したくもありません」

 

「私のは『取り巻きB』について。右に同じです」

 

それを聞いた査察官の部下達も一斉に顔を青ざめさせた。つまりこの書物の一つ一つには、人に知られたくない自分達の情報がビッシリ書かれているという事だ。しかし日本政府の方針で“血晶”の全回収を進めるなら、クロスワードを解くために内容を確認しない訳にはいかない。

 

絶望に沈む査察官とその部下達に、追い打ちをかけるように先程S.O.N.G.の研究室へと向かった部下が息を切らせながら凶報を伝えてきた。

 

「た、大変です!あの錬金術師共、我々に対して反旗を翻してきました!!」

 

「はあっ!!?」

 

 

 

 

 

その頃S.O.N.G.の研究室では、先程の通達が真実である事を示すように、オートスコアラー達によって査察官の部下達が全員床に押さえつけられていた。

 

「き、貴様ら!こんな事をしてただで済むと思っているのか!?」

 

「そんな事を申されましても、殿方がレディの体に気安く触ろうとするのがいけないのではなくて?」

 

「何がレディだ人形風情が!知っているのだぞ!貴様らの修繕にはあの化け物の血液が使用されている事は!!日本政府から許可された査察に抵抗するなど許されるはずがない!」

 

「嫌ですよ~♪国がどうこうなんて事情は私達の知った事ではありませ~ん♪」

 

「我々が命令を受けるのは創造主であるマスターと、マスターからサブマスター権限を確立された方々のみ。そしてサブマスター・ナナシからは、ボディに触れてこようとする失礼な輩には女性として抵抗しても良いと地味に許可が出されている」

 

「無理矢理掴みかかってくる奴らは見せしめにタマを一つ潰して良いって聞いてるけど、タマって何処だゾ?目玉を潰せば良いんだゾ?」

 

「ひぃっ!?ゆ、融通の効かぬ木偶の坊共が!!おい、錬金術師キャロル!これは日本政府とS.O.N.G.の司令から許可を受けた正式な査察調査だ!分かったら今すぐこの人形共を大人しくさせろ!!」

 

「左巻き風情が、誰に向かって命令している!!」

 

ガスッ!

 

「フガッ!!?」

 

自分に命令してくる男の顎を、キャロルが思い切り蹴り上げて黙らせた。

 

「き、貴様!?日本政府に楯突くつもりか!!?」

 

それでも尚食い下がる男を、キャロルが心底面倒臭そうな顔でその髪を掴んで無理矢理目線を合わせる。

 

「その中身が詰まっているかも定かではない脳みそを使ってよ~く考えろ。オレ達はかつて己の願望を叶えるために世界を相手に喧嘩を売った。そんなオレ達が今更弱小国家の言いなりになるとでも思ったのか?オレ達がこの組織の研究員として身を置いているのは、己の罪を償うなどと言った下らない理由ではない。あの“紛い物”が、興味深い研究対象と設備を揃えて交渉してきたから居座ってやっているだけに過ぎん」

 

「今更いけ好かない連中に低予算でこき使われるなど御免被るワケダ。上司は財布の紐の緩いお気楽者に限る」

 

「その上ユーモアがあって女性への気遣いも欠かせないとか最高よね~♡」

 

「英雄に謁見する作法も知らない無能共など相手をする気にもならない!礼儀作法と甘い物を持って出直すが良い!!」

 

「彼の肉体について解明しきれず現時点で危険性が無い事を証明出来ないのは我々も遺憾とするところだが…だからと言って不当な支配に従うつもりは毛頭ない」

 

各々が日本政府に従うつもりが無い事を意志表明すると、キャロルは目の前の男に冷たい声音でハッキリと告げた。

 

「どうせ本体がいなければ碌に研究も進められんから、あの男への義理として肉体サンプルの提出までなら妥協してやっても良いが…国ごと解剖されたくなければ、オレの所有物に手を出さない事だな」

 

 

 

 

 

「どうやら交渉は決裂のようだな?まあ、先程のこちらへの態度を見れば仕方がないとは思うが…」

 

ヤレヤレとわざとらしく肩を竦める弦十郎に、再び査察官が怒りを露わにする。

 

「こ、これはS.O.N.G.からの明確な日本政府に対する反逆行為だ!一体どう責任を取るつもりだ!?」

 

「何やら勘違いがあるようだが…彼女達は国連からの正式な依頼によってS.O.N.G.が身柄を預かっている状態だ。我々S.O.N.G.は日本政府の要求に最低限応じているのだから、彼女達の行動を咎めるならば別途で国連への報告と審議によって沙汰を下す必要がある」

 

「減らず口を!ならばその審議結果によっては、管理責任者であるS.O.N.G.は主導して奴らに罰を与えるのだな!?」

 

「当然そうなる。しかし、だ…そのためには、日本政府の要求や交渉の様子なども正確に国連へ報告する必要がある。ナナシ君が交渉の末にこの組織に身を置く事を決めた彼女達が、万が一にもS.O.N.G.から逃亡を果たして再び問題を起こすような事があれば、その原因を調査した国連は、日本政府にどのような印象を受けるか…」

 

「なっ!?き、貴様!!?それは脅迫のつもりか!!?!?」

 

「脅迫とは不躾な。言葉を知らないのか?」

 

顔を青ざめさせて虚勢を張る査察官に、弦十郎が涼しい顔で言葉を返す。日本政府の要求に後ろ暗いところが無ければ、堂々と国連に是非を問えば良いのだが、もし日本政府の不当な要求によってキャロル達がS.O.N.G.を離脱したと判断されれば、各国からの日本への風当たりは相当強くなる。

 

「そう興奮しなくても良いだろう?今のはあくまで俺の“妄想”であって、後ろ暗さを抱えてなければ、素直に国連の審査を受け入れられるはずだろう?」

 

まるでこれまでの意趣返しのような弦十郎の言葉に、査察官が感情のぶつけどころを失って歯をカチカチと打ち鳴らして黙り込む。そんな査察官の傍に近づき、弦十郎が査察官の手に嵌った鉄製の手錠を容易く引き千切ると、その肩にポンと手を置いて爽やかな笑顔で言葉を紡いだ。

 

「これに懲りたら、身の程を弁えた言動を心掛けると良い!」

 

 

 

 

 

謎の扉へと侵入したナナシと了子。扉は念のために開いたまま“障壁”で固定しているので閉じ込められる心配はない。部屋の奥は、何処かフロンティアの制御室を彷彿とさせる造りになっており、部屋の中心には制御端末のような物も見つけられた。

 

(如何にも端末で調べてくださいって感じだけど…どうする?)

 

(例え罠だとしても、ここでスルーって訳にはいかないわよね?ちょっと操作してみるから、ナナシちゃんは周囲の警戒をお願い)

 

(分かった)

 

了子が端末を操作する間、ナナシは全神経を尖らせて周囲を警戒する。そうする事によって、自分達を監視しているであろう神までもが何故か緊張感を高めているのを感じ取ったナナシが、その事に疑問を感じていると…

 

「え…?」

 

…表示された情報を見ていた了子の口から、驚愕と共に声が零れた。

 

(了子?どうかしたのか?)

 

「嘘…こんな…こんな事って…」

 

ナナシの問い掛けがまるで伝わっていないように、了子が凄まじい速度で端末を操作しながら目に映る情報を食い入るように覗き込む。“以心伝心”による並列思考さえも全て情報整理に回すような了子の鬼気迫る様子に、ナナシは思わず実際に声を出して了子に呼び掛けた。

 

「おい、了子!一体何があった!?何を見た!!?」

 

ナナシが了子の肩を掴んで端末から引き剥がすと、了子は情報の表示された画面から視線を外す事無くその場にへたり込んで…その瞳から涙を流した。

 

 

 

「こんな…こんな事って…それでは私が……私がしてきた事は………」

 

 




弦十郎さんらしからぬ権力と武力と情報による威圧。弟子から悪い影響を受けていますねw
アニメでは数分の描写を長々書いたため本編が全然進まないw

申し訳ありませんが、ストック切れと執筆時間の確保が難しそうなので来週はお休みします。

年末休みにあまりストック作れなかった…でも不調は回復傾向にあるので、しばらくは今まで通りで頑張ってみます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。