戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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本編スタートです。


第2話

(………)

 

騒がしい。

『それ』がその場で感じ取ったのは、まずそれだった。

『それ』が長く感じていた静寂が消え、『それ』は今までにない喧騒に包まれていた。

だが『それ』はそのことに特に反応を示すことなく、身じろぎ一つすることは無かった。

 

(………)

 

眩しい。

『それ』が次に感じたのはそれだった。

先ほどまで自身の輪郭が見える程度の光量しかなかったその場に、至る所から光が溢れた。

その光に対しても『それ』は反応を示すことは無かった。

 

(………?)

 

その光が出現した直後に『それ』が感じたのは、先ほどの喧騒とは比較にすらならない爆音だった。

爆音の発生源…万を超える人間が光の出現に呼応するかのように立ち上がり、声を上げ、熱狂していた。

『それ』はここで初めて反応を示した。多くの人間が発する興奮、熱意、渇望…感情が一か所に集中するのを感じとり、『それ』はその場所に視線を向けた。

 

そして…

 

 

「聞こえますか…?」激情奏でるムジーク 天に

 

『『と・き・は・な・て!』』

 

 

(ッ!!?!!?!?!?)

 

「………ぁ」

 

『それ』の口から自身も知らないうちに声が漏れる。

『それ』の心臓は初めて鼓動を鳴らすことを知ったかのように脈動する。

『それ』の空虚だった心が、熱い『何か』で満たされる。

 

やがて『それ』のすぐ近く…ライブ会場の外縁部、本来人の出入りが禁止されている場所の近くで駆動音が鳴り響き、会場の屋根が動き開いていく。

 

だが『それ』はそんな環境の変化には一切反応を見せない。『それ』はただ、万を超える人に囲まれている中で、二人の人間が鳴り響かせる音…歌に魅入られていた。

 

 

『『二人でなら 翼になれるSinging heart!』』

 

 

やがて二人の歌う曲は終わりを迎え、人々の興奮は最高潮を迎える。

 

その直後、ライブ会場の中心で爆発が起こった。

 

先ほどまで歓声が響いていたライブ会場に、爆音と悲鳴が鳴り響く。

逃げ惑う人々に、次々と“異形”の何かが襲い掛かる。

“異形”…ノイズが人に接触すると、人は炭化し崩れ落ちる。

ライブ会場の各所でそのような惨劇が繰り広げられる中、『それ』は…何一つ動揺することなく歌姫の二人を見ていた。

視界に炭化する人々は入っているが、『それ』にとって今重要なことは歌姫達が奏でる歌以外に存在しなかった。

 

Croitzal ronzell gungnir zizzl

 

Imyuteus amenohabakiri tron

 

やがてライブ会場に再び歌が流れる。その調べは歌姫達を中心に鳴り響き、歌姫達の体が鎧のようなものに包まれる。『それ』にとって歌姫の姿かたちは関係なく、先程のライブとは全く異なる旋律に酔いしれた。

 

歌姫達が武器を手に次々とノイズの群れを退治していく。しかし、歌姫の一人の動きは徐々に鈍くなり、遂には纏う鎧の輝きを失ってしまう。

 

唐突に歌姫達の歌が途切れる。歌姫の一人の武器が破損し、その破片がライブ会場に残っていた少女の胸に直撃した。鮮血が舞い、少女は地面に倒れ込んだ。

 

「おい!死ぬな!目を開けてくれ!」

 

歌姫が少女に駆け寄り言葉を投げかける。

 

「生きるのを諦めるな!!」

 

歌ではないその声に、『それ』は歌と同等以上の感情を感じ取った。

 

歌姫は傷つき、身に纏う鎧は見るも無残に砕かれていた。

そんな歌姫に、ジリジリとノイズが近づいていく。

もう一人の歌姫は、離れた場所でノイズに行く手を阻まれる。

 

『それ』の脳裏に浮かぶのは、先程幾度となく繰り広げられた光景。ノイズに触れた人間が、炭化する光景。

 

歌姫が、ノイズに触れて炭化する光景が『それ』の脳裏に過る。

 

あの歌の()が、失われる。

 

『それ』はその両足で立ち上がり、その足に力を込めた。

 

 

 

血に塗れた少女の前に立つ歌姫…天羽奏は、静かに眼前のノイズの群れを眺める。彼女は、少女の命を救うために、生涯最後に奏でることになるであろう歌…絶唱を奏でるため、その口を開こうとする。その直前…

 

ドゴンッ!!

 

「っ!?」

 

奏は驚愕する。今まさに絶唱を奏でようとした口の動きを止め、目の前に降ってきた『それ』に目を向ける。

 

『それ』…見た目は16~18歳ほどの、ボロボロの布で体を包んだ男は、奏とノイズの間に立ちはだかった。

 

「な、何で人が空から…」

 

男は一瞬奏に視線を向けた後、ノイズの群れに向かって駆ける。そして一番近くにいたノイズにその拳を振りかぶった。

 

「っ!?ダメだ!!ノイズに生身で触れたら!!」

 

奏の静止を男は聞かず、振りかぶった拳をノイズに叩きつけ…男に殴られたノイズが、塵となって消滅した。

 

「えっ!?」

 

しかし、殴った男の右腕は、ノイズに触れたことで炭化して崩れていた。

 

「あぁ!!?」

 

その腕を見て奏は思わず声を上げる。しかし、その直後、男の姿がブレたように輪郭が歪み、そして…

 

炭化したはずの右腕が元通りになった男が、そこに立っていた。

 

「っ!?」

 

もはや奏は目の前の光景に理解が追い付かない。

男は元通りになった右腕を見ながら2、3度手を握り、開く動作を繰り返し、再度ノイズに視線を戻して襲い掛かった。

 

再びその拳がノイズに振るわれ、ノイズは塵となって消える。だが、先程と異なり今度は男の腕が炭化することはない。男はそのまま周囲のノイズの数を減らしていった。

 

「奏!!無事!!?」

 

「あ、あぁ。一応は…」

 

奏の元にようやくもう一人の歌姫…風鳴翼がたどり着く。翼は男の方を見ると、困惑しながら奏に声をかけた。

 

「彼は、何者なの?」

 

「…分からない。とりあえず敵って感じじゃなさそうだ」

 

「…うぅ」

 

小さなうめき声に奏が思い出したかのように振り返り、血まみれの少女の元に駆け寄る。

 

「早くこの子を運び出さないと!!」

 

「でもまだノイズが…」

 

男がノイズの数を減らしているが、出口までの道のりにはまだ多数のノイズが残っている。

 

「そこの君!協力してはもらえないか!?このままだとこの子が危険なんだ!!」

 

翼は男に協力を求める言葉をかける…が、男はその声に反応することなく、ノイズを攻撃し続ける。

 

「っ!?聞こえていないのか!?」

 

刻一刻と奏の腕の中で命の灯が失われつつある少女を見て、今度は奏がありったけの大声で男に叫ぶ。

 

「頼む!!!」

 

 

 

男はノイズを攻撃する手を止めて、歌姫の方を見る。血に塗れた少女を抱える歌姫は、必死の表情で男に対して叫ぶ。

 

「この子を死なせたくないんだ!!!」

 

…男は、歌姫の言葉の意味を理解できない。だが、歌姫の言葉に、先程も感じた歌に似た“何か”を感じ取り、男は歌姫に視線を向け続ける。

 

歌姫は、男に視線を向けつつ、その背後…会場の出口の方にも無意識に視線を送る。それを感じ取った男は、出口のある方に身を翻す。そして…

 

 

 

「「っ!?」」

 

男が出口のある方へ駆け出す。間にいるノイズの群れを殴り、蹴り、ただ一直線に駆け抜けていった。やがて男は出口までたどり着き、男が駆け抜けた後にはノイズのいない道ができていた。

 

「奏!!その子を抱えて進んで!向かってくるノイズは私が相手する!!」

 

「ああ、頼んだ!」

 

翼が先行し、その直ぐ後ろを奏が追走する。向かってくるノイズを翼が天羽々斬(アメノハバキリ)で全て切り捨て、後ろの二人に近づけさせない。

 

「っ!?しまっ!!?」

 

だが、先行していたが故に二人の後方から猛スピードで接近するノイズに気づくのが一拍遅れる。

 

「奏ぇ!!」

 

間に合わない。そう考えた翼の横を、会場の出口から折り返して戻ってきた男が通り過ぎ、後方から向かってきたノイズを蹴散らす。

 

「進め翼!!!」

 

「っ!うん!」

 

少女を抱えて突き進む奏を、先行する翼と、殿を務める男が守り、遂に出口までたどり着く。

翼と男が出口前で振り返りノイズと対峙する。奏はその歩みを止めることなく突き進むが、ほんの一瞬だけ顔を後ろに向けて

 

「ありがとう!!」

 

それだけ叫び前を向く。三人で守り抜いた命を、未来へ繋ぐため、奏は全力で駆けていった。

 

 

 

男は少女を抱えた歌姫が駆けて行った方向に目を向ける。

 

『ありがとう』

 

その言葉の意味は分からない。だが、そこに込められた感情に、男の中の“何か”が揺れ動いた。

 

「…ありがとう」

 

先程耳にしたのと同じ言葉が男の耳に入り、男はもう一人の歌姫に目を向けた。

 

「あなたには聞きたいこと、言いたいことが色々ある。でも今はこれだけにしておく。後のことは目の前の問題を片づけてからにしましょう。」

 

そう言って歌姫は剣を構える。男も視線をノイズの群れに向ける。二人は同時に目の前の敵に向けて駆け出した。

 

 

 

「はっ!!」

 

翼は掛け声と共に剣を振り下ろし、ノイズを真っ二つにする。そして返す刀で隣のノイズを切り捨てた。

 

逆羅刹

 

勢いそのままに体を回転、手を地に着け、両足に着けた剣で周囲のノイズを切り刻みながら移動していく。回転を止めて再び地に足を着け、今度は跳躍により空へ舞う。

 

天ノ逆鱗

 

足に巨大な剣を展開し、落下の加速で勢いを着けたそれを大型ノイズに叩き込んだ。

 

地面に着地した翼は周囲を見回し、そこに男の姿を捉える。男の攻撃手段は拳と蹴りのみ。そこに翼のような技術は見られず、振るわれるのは純粋な暴力。男を中心にまるで嵐が発生しているようにノイズが吹き飛び、消滅して数を減らしていく。

 

「…凄い」

 

その攻撃の苛烈さに思わず翼の口から声が漏れる。呆けるのは一瞬、すぐに翼は次の敵に視線を移し、その口からは歌声を響かせる。

 

数分後、最後のノイズが男の拳で塵と変わり、男は動きを止めてライブ会場の中心に静かに佇んだ。

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