戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第197話

「了子が行く気が無いなら、俺は一人で進むつもりだ」

 

月遺跡の調査を続行するか、撤退するか…その選択を問われたナナシは、特に悩む事無く軽い口調でそう答えた。

 

「ほう?意外な答えだな。貴様は一刻も早く地球に戻りたいのだと思っていたが…フィーネが立ち止まった今、貴様は月遺跡の先に何を求めると言うのだ?」

 

キャロルの至極もっともな問いに対して、ナナシは少しだけ間を置くと…イメージと現実の両方で口を開いた。

 

「俺がバラルの呪詛の真相について知った感想は…正直に言ってしまえば、『どうでも良い』だな」

 

ナナシの一言に、了子が一瞬ピクリと反応を見せる。それは自分を失意の底に落とした真実をナナシが軽く流した事への憤りか、“以心伝心”だけでなく現実で言葉を発した事への疑問なのか、了子自身にも判断は出来ない。

 

「元々俺は、神様には何か事情があるんだろうなって朧気に感じ取っていたからな?気になっていたのは確かだが、あくまで興味本位程度の関心しか無かった。所詮は過去の出来事だし、了子と違って神様と面識がある訳じゃない。神様が何故人類を生み出したのか、どんな想いでバラルの呪詛を施したのか、何なら謀反を起こしたシェム・ハとかいう神様にさえ、俺は何にも思う事はない」

 

ミシミシミシッ!!!

 

何かが罅割れるような音に反応して、了子がナナシの手元に視線を向けると…ナナシが制御端末に翳した手には尋常ではない力が籠めており、制御端末には無数の罅が入っていた。

 

「バラルの呪詛の真実なんてどうでも良い。会った事も無い神々の事情なんてどうでも良い。既に終わった過去の出来事なんてどうでも良い…どうでも良い……どうでも良い………だがな…………お前は別だ(・・・・・)

 

次の瞬間、ナナシは凄まじい怒気を振り撒きながら顔を上げ、部屋の虚空を睨みつけた。了子は最初、訳が分からなくて自分達以外の何者かが部屋に隠れているのかと勘違いしたが、すぐに別の可能性に思い当たった。自分達以外に、この月遺跡にいる存在は…ナナシが怒りを向けているのは…

 

この月遺跡を管理する存在…了子が想いを寄せる神以外にいない。

 

「ふざけやがって…お前だけは絶対許さねえ…!」

 

だが、ナナシが自分の想い人に怒りを抱く理由が分からない。今日まで人類を、ナナシが想いを寄せる者達を守護してきた神に対して、ナナシがこれほどの怒りを向ける理由とは…

 

「御大層な理由を楯に、チマチマチマチマ小細工を並べやがって…数千年の時間を掛けて!遠路遥々地球からお前に会いに来た女を!!『居留守』と『書置き』だけでやり過ごそうとするクソ野郎は!!!一発ブン殴らなきゃ気が済まねえんだよおおおお!!!!」

 

ズガアアアアアアアアアアン!!!!

 

怒声と共にナナシが振り下ろした拳は制御端末を粉砕するだけに留まらず、床に巨大なクレーターを作り、部屋の壁面にまで亀裂を走らせた。

 

目の前の了子と、頭の中の仲間達が呆然としているのも気にせずに、ナナシは自分達を何処かで観測しているであろう神に対して…宣言する。

 

「この俺の前で、かけがえのない想いを雑に誤魔化そうとした事を後悔させてやる。首を洗って待ってろ!クソ神が!!」

 

想いの否定、それは“紛い物”にとって許されざる大罪。相手が神であろうと関係ない。世界の平穏如きでは免罪符にすらならない。故に大義を失って尚、ナナシは月遺跡の最奥を目指す。

 

「つまりお前は…ただ、『気に食わない』と言う理由だけで…危険を冒してまで、あの御方を殴りに行くと…?」

 

「Exactly!!逆に聞くが、神様をブン殴るのにそれ以上の理由が必要か?」

 

「フハハハハハ!我が信者は良く分かっているではないですか!相手が神であろうと、自らの意にそぐわない者は全て屈服させてしまえば良いのですよぉ!!」

 

「自身の願望のために世界を滅ぼそうとしたあなたが言うと言葉の重みが違いますね…」

 

「サンジェルマン、今更ながらこんな奴らと連んでいて大丈夫なワケダ?」

 

「私も少々自信が無くなってきた…」

 

「別に良いんじゃない?神様を相手取るんだから、このくらいブッ飛んでくれてる方が頼もしいじゃない」

 

「アレは良くも悪くも己に正直なだけだ。元より地球の面倒事は丸ごと任せられるだけの備えと報酬は前払いされているのだから我々のやる事は変わらん。精々依頼を完璧に成し遂げて追加報酬をせしめてやろう」

 

「全く、師としてまだまだ超えられぬ壁であろうと足掻いてきたが、無理無茶無謀な所はもはや敵わないか?」

 

「司令もいざという時は単身で神様に挑むくらいはするでしょうし、肩を並べるくらいではないですかね?」

 

信じられないと言った様子の了子の問いにナナシが力強く肯定すると、脳内で仲間達が呆れつつ意外と賛否の分かれた評価を下す。少なくとも、誰一人としてナナシを止めようと説得する者はいない。それが不可能である事を、全員が理解しているからだ。

 

ナナシが了子に背を向け、視線の先に出口を見据えながら了子に声をかけた。

 

「バラルの呪詛の真相解明という対価に、お前はこれから先の人生全てを差し出した。お前の動機を知っている俺としては、ここでハイ依頼完了ってのも流石にどうかと思うが…今更お前が神様の前だからって良い子ちゃんを気取るつもりなら、俺が神様をブン殴って戻ってきた時、お前が幾ら不平不満を言ったところでもう手遅れだ。俺はお前の首に鎖を繋いででも約束を果たしてもらう。それでも良いなら、そのままそこで勝手に呆けていろ」

 

「…ナナシちゃん…傷ついたレディには、優しく手を差し出すものなのよ?」

 

「女の傷心に付け入る事を俺は別に卑怯だとは思わないが、今の了子にはわざわざそこまでして口説く魅力を感じないな?俺は欲深くて我儘な女が好きなんだ。世界中に自分達の歌を届けたい。誰とでも手を繋ぎたい。世界から争いを無くしたい。家族と幸せに過ごしたい。世界の全てが知りたい。虐げられる者達を救いたい。人と仲良くなりたい…ささやかな願いも、人の身には過ぎた願望も、本気で叶えようと足掻き続ける姿が魅力的だから、金や時間くらい幾らでも貢ぎたくなる。俺が裏切り者のお前を生かそうとしたのも、どんな代償を払ってでも自分の願望を叶えてみせるってギラギラと野望に燃える姿に惹かれたからだ。しおらしくなった自分を慰めて欲しいなら、生憎だがキャスティングを間違えているから他を当たってくれ」

 

そう言った瞬間、脳内イメージのナナシが凄まじい眼力でとある人物を見つめる。しかしその人物はナナシの視線に気付かない体を装って腕を組んだままそっぽを向いてしまった。ナナシはその対応に溜息を吐きつつ言及まではしなかったが、代わりにその人物の頭上にゲームキャラのように『ヘタレ』と表記させ、それを見た周りの者達は困惑したり笑いを堪えていた。

 

「元々どんな結果に終わろうと、この月遺跡探索がお前にとって最後の自由時間だったんだ。俺が神様をブン殴るまでのロスタイムくらい好きに過ごせば良い。はっ!?何なら俺が途中でくたばれば、お前は晴れて自由の身になれるじゃないか!?このまま月に暮らして神様の傍に居続けるのも、こっそり地球へ戻って怪しい組織を立ち上げるのも、いっそ別の惑星に渡って星々を侵略するのも思いのままか!!?くっ、流石は出来る女の了子だ!この土壇場で神様を利用してこの“紛い物”から逃れる術を編み出すとは!!でもそんな企みなら面白いからこのまま見て見ぬ振りをするのもアリだな!それくらい欲深い了子になら、俺は幾らでも騙されるとしよう!!」

 

「………フフッ」

 

自分を突き放すような言葉を放ち、了子を一人残すリスクに思い当たりながらも神の元へ向かう事をやめる気の無いナナシのふざけた態度に、遂に了子は笑みを零してしまった。

 

(ああ…そうだった…)

 

そもそも、だ…神の意志がどうであったところで、ナナシが言う通り了子にとっては今更なのだ。了子が神の意志を絶対とするならば、バラルの呪詛によって統一言語を奪われた数千年前に、了子はフィーネとしてその生を終えれば良かった。

 

その天命に抗い、数々の悲劇を巻き起こしてまで数千年間生き永らえてきたのは、自らの願望のため…つまりは、自分の我儘だ。気に食わないからと神を殴り飛ばそうとしているナナシと、本質は変わらない。

 

(勘違いであった事など関係ない。バラルの呪詛を打ち砕き、この胸の想いを伝えると立ち上がった時から、私は既にあの御方に反旗を翻していた…だったら!)

 

「今更こんな所で、諦められる訳がない!!」

 

自身を鼓舞するように大声で叫びながら、了子は自らの意志で立ち上がりナナシの隣へと立つ。まるで思惑通りとでも言うようにニヤニヤと笑みを向けるナナシに、了子もフッと不敵に笑ってみせる。

 

「だって私は、出来る女の『櫻井了子』だもの。憐みだけで殿方の気を引こうとするような弱い女じゃないわ。ナナシちゃんがあの御方に拳を叩きつけに行くのなら、それに便乗して私もこの胸の想いを叩きつけに行く。暴力沙汰の修羅場からだって、甘やかな雰囲気に変えてみせるのが一流の女なのよ?」

 

「あっはははは!俺を踏み台に神様へ近づこうって魂胆だな?うんうん、それでこそ俺の知っているギラギラした了子って感じだな!」

 

「ナナシちゃんが普段私の事をどう見ているか良く分かったわ。とりあえず一発ブン殴らせなさい!!」

 

「ぎゃああああ!?まだ役者も揃ってないのに修羅場に入るのは早いだろう!?」

 

『あはははははは!』

 

すっかり元気を取り戻した了子がいつものようにナナシと戯れる姿に、弦十郎達は思わず笑ってしまった。

 

しばらく二人で追いかけっこをした後、その姿を神に観測されている事を思い出した了子が顔を赤くしながらナナシに問いかけた。

 

「ゴホン…それで、ここからどう動く?」

 

「そうだな、とりあえず…コソコソ見ていたなら分かっただろう!?こっちはここにお前がいるのなんてとっくに察してんだよ!今ならグーパン一発で勘弁してやるからとっとと出てこい!!」

 

『……』

 

ナナシが神に対して言葉を放つも返答は無い。そもそも神にはナナシに勘弁してもらうような義理も道理も無いのだから当然と言えば当然であるが、神はナナシ達に存在を気取られていても話し合いに応じる意思は無いようだ。

 

「チッ、やっぱりこっちから乗り込むしかないか。だが…」

 

ナナシが会話を“以心伝心”に切り替えて、今後の動きについて仲間達と相談しようと試みる。進むのは確定、しかしこのまま用意された部屋の出口を進む事も出来ない。それは罠だから、という理由ではなく…

 

「適当に進んだ先にこんなピンポイントで俺達が知りたいだろう情報が閲覧出来る施設があるなんてご都合展開、あり得る訳がない。最初に遺跡をブチ破った時の自動修復機能から察するに、多分神様はこの月遺跡の内部構造を好きなように変える事が出来る。真面目に攻略しようとするのは時間の無駄だ」

 

ナナシの言葉に、仲間達が驚く様子は無い。ナナシでさえ“収納”を駆使すれば建物の構造次第で似たような事は出来る上に、フロンティアにも区画を管理する機能はあった。これは事前にある程度予測していた事だ。

 

「つまり、ここから神の居場所を突き止めるためには、内部構造を変更される前に高速で一気に遺跡内を探索して最奥を目指すか、或いは…例の『策』に打って出るしかない」

 

「だが『策』を実行するなら、もう少し月遺跡の奥へ進んでおきたいのが正直なところだな。それなりに進みはしたが、まだ遺跡中央より外縁の方が近い。ただ絶対無理って程の位置じゃないのが何とも…って事で、神様の罠を掻い潜ってもう少し奥に進むにしても、『策』を実行するにしても、しばらく俺達は忙しくなりそうだから今の内に共有出来る情報は共有してしまおう。唐突に“以心伝心”がジャミングされても困るからな」

 

これが最後の情報共有になる可能性も考慮して、改めて伝え忘れた情報が無いかナナシが呼び掛ける。特にナナシとしては、地球にいる仲間達に聞いておきたい事があった。

 

「血液が回収される展開は俺の“妄想”通り。だからこそ『絶対にバレない場所』に隠し持ってもらった訳だが…ナスターシャ教授の治療に支障は無いか?どう頑張っても受け渡しの時には出さざるを得ないんだから、監視が厳しいようなら『例の計画』は無理に時期を見計らわずに動いてくれて構わないから。後始末は全部俺が何とかする!」

 

マリアが懸念していたナスターシャ教授の輸血も、当然ナナシは何重にも対策を施していたようだ。その話題をナナシが出した途端、何故か一部の者達が表情を曇らせた。

 

「ん?どうかしたのか?」

 

「…まさにその件について、報告がある。査察が入る少し前に………例の『仮説』が、証明された。もう、彼女の病を心配する必要はない」

 

「…………………えっ?」

 

かなりの間を空けて、ナナシがようやくサンジェルマンの言葉の意味を理解して呆然とする。そんなナナシに、ナスターシャ教授が近づいて微笑んだ。

 

「あなたに命を救われるのは、これで何度目でしょうか?世界のため、家族のためならば、例え失っても構わないと思っていましたが…ここまで拾い続けて貰えた以上、精一杯生き永らえてみせますよ」

 

「全く、しぶといオバハンですねぇ?これは間違いなく百まで元気ですよ。何せ『オーバーハンドレッド』の異名を持つ女性の集まりですしねぇ?」

 

『その呼び名はやめろ!!』

 

ウェル博士が茶化した事で周りが賑やかになるが、ナナシは未だに呆然とした状態から復帰しない。そんなナナシを、何故か暗い顔でサンジェルマンが見つめていると…ナナシはまるで項垂れるように額に手を当てて俯いた。

 

「あぁ…こんな、事になるなら…計画なんて、進めるんじゃなかった…」

 

「お、おい、ナナシ!しっかりしろ!!」

 

自暴自棄とも取れる発言をするナナシに、サンジェルマンが心配した様子で駆け寄る。するとナナシは…イメージの中で、サンジェルマンを思い切り抱き締めた。

 

「なっ!?何を!!?」

 

「月になんて来なければ…現実でもお前らを抱き締めて感謝を伝えられたのに!!」

 

『!!?』

 

「ありがとう…ありがとう!ありがとう!!ありがとう!!!サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロ…都合が良い言葉なのは分かっている…それでも…お前らに出会えて本当に良かった!!」

 

ナナシの言葉に、サンジェルマンが顔を真っ赤に染めて言葉を失う。その様子にカリオストロ達は苦笑しつつ、自分達にこの上ない感謝を伝えてくるナナシに柄にもなく気恥ずかしさを感じていた。

 

「もちろん協力してくれた了子も、キャロルも、ナスターシャ教授も、我が英雄も、皆、皆本当にありがとう!これでやっと…やっと…!あーもう!!絶対地球に戻ったらド派手な祝賀会を開く!!夢の国あたりを買い占めて馬鹿騒ぎしてやる!!!」

 

「貸し切ってですらない!?流石に敵に回す相手がデカ過ぎないか!!?」

 

「今から神様ブン殴ろうとしているのに小さい事気にするな!為せば成る!!絶対“紛い物”プロデュースの『悪夢の国』を建国してやるから期待していろ!!!」

 

「全然期待出来そうな名前じゃないぞ!!?」

 

「一ヵ月ぐらいで閉園しそうですね…」

 

ハイテンションになったナナシがようやくサンジェルマンを解放すると、赤い顔でフラフラするサンジェルマンにカリオストロが近づき、その体を支えながら耳元で呟いた。

 

「サンジェルマン、良かったわね?」

 

「あ、ああ…本当に、良かったんだな…」

 

その『仮説』を証明してしまう事を、サンジェルマンは最後まで迷っていた。その結果、救われる命がある事は理解していたが…その答えが、ナナシを絶望に突き落とす可能性は否定しきれなかった。

 

しかし蓋を開けてみれば、ナナシは本当に感極まってサンジェルマンを抱き締める程に喜んでくれた。そんなナナシの笑顔に、サンジェルマン自身も救われる想いだった。

 

「私の研究は…やっと誰かのために…」

 

その結果を噛み締めるように呟くと、サンジェルマンはフッと笑みを零して表情を綻ばせるのだった。

 

「こうなったらサッサと用事を済ませて一秒でも早く地球に帰る!そのために…例の『策』を実行に移すぞ!!」

 

「だ、大丈夫なのか!?興奮で思考が短絡的になっていないか!!?」

 

「大丈夫だって!これまでの傾向を見るに、ここの神様はアドリブに弱い!!現にそれなりの重要施設を破壊してみせたのに、俺の奇行に驚いて対応が遅れたせいで俺達が部屋から出るまで何も出来ないみたいだからな!既に無意味な居留守も継続するみたいだし、相当頭が固いぞ!!」

 

「神様の事ボロクソに言うわね!?」

 

もはや誰もナナシを止められそうにない。激情のまま月遺跡の短期攻略を決定したナナシは、現実とイメージの両方でバチンと手を打ち鳴らし、とっておきの『策』を実行に移す。

 

 

 

「クソつまらないRPGパートは終了だ!ここから先はRTS…月遺跡の『侵略』を開始する!!」

 

 

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