戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第199話

街中に出現したアルカノイズを装者達が一掃した後、響が未来に携帯で連絡を取ろうとしたが繋がらず、S.O.N.G.が周囲一帯を捜索したところ…路地裏に捨て置かれた未来のバッグと、破壊された未来とエルフナインの通信機器が発見された。今は緒川が警察とも連携して現場を封鎖、二人の足取りを調査している。

 

「現場周辺を捜索した結果、少し離れた路地に血痕と成人男性の右腕が残されているのを発見」

 

「しかし近隣の病院に負傷者が運び込まれた記録はありません。保護対象二名の失踪と関与しているかは今のところ不明。現時点での情報は以上です」

 

「…捜査範囲の更なる拡大をお願いします」

 

「「了解です」」

 

何かがあった事は明白だが、未来達の現在地を特定するための情報は得られなかったため、緒川はエージェント達に再捜索の指示を出しつつ周囲を確認する。付近に設置された防犯カメラは全て破壊されており、ここであった事の記録は残されていない。

 

「手口は周到…入念に…」

 

周辺調査を続けながら、緒川は“以心伝心”を使って弦十郎に情報を共有した。

 

(恐らく、偶発的に巻き込まれてしまったのではなく…)

 

(ああ、敵の仕組んだ罠にかかってしまったと考えるべきだな)

 

(保護レベル、最高位指定の二人が揃って…)

 

(錬金術によるバックアップスタッフと、神の力の依代足り得ると仮説される少女…)

 

(調査部にて警護に努めてきましたが、査察による機能不全の隙をつかれてしまいました)

 

(敵の狙いは未来君、またはエルフナイン君。或いは…)

 

(その両方、という線も考えられますね)

 

(いずれにせよ、今必要なのは情報だ…キャロル君、エルフナイン君の居場所は分からないのか?)

 

(今は意識を失っているようだ。生きている事は分かるが、エルフナインが現況を把握出来ないならオレも情報を共有する事は出来ん)

 

弦十郎が確認を取ると、キャロルがそう答えを返してきた。キャロルがエルフナインと感覚を共有さえ出来れば居場所の特定は容易となるが、今はそれも難しいようだ。

 

(それでは、何か情報が入り次第報告を頼む。君達はまだ監視されているからな)

 

八紘の協力で何とか査察の中止に持ち込んだ弦十郎だが、アマルガムと“血晶”の使用許可はまだ下りていない。故にキャロル達の研究室には日本政府の監視役が数名待機していた。

 

(ああ、分かっている)

 

(……)

 

(どうした?他に要件がないなら切るぞ?)

 

(…ああ、こちらも何か分かったらまた連絡する)

 

弦十郎がそう言い終わるのと同時に、キャロルが“以心伝心”を解除する。エルフナインが攫われた状況で、最低限の情報共有のみを淡々と行うキャロルの様子は怒っているのか、或いは…

 

(こんな事なら、未来さん達にも『ガム』の事も説明して配布しておくべきでしたね)

 

(……)

 

(司令?)

 

(…そうだな、注目の集まる装者達に持たせるとすぐに存在が露見してしまう故、あくまで情報共有に使用する方針ではあったが、慣れない情報戦のやり過ぎで判断を見誤った。今後は必要に応じて組織内への配布も検討しよう。緒川も自己判断で部下達に配ってやってくれ)

 

(分かりました。まもなく鑑識の結果も出ます。調査部の全力をかけて捜査を進めます)

 

緒川が念話を切ると、本部で弦十郎は未来の捨て置かれた荷物や破壊された通信機器の画像を見ながらポツリと呟いた。

 

「二人共、無事でいてくれ…」

 

 

 

 

 

同時刻、本部の控室には装者全員と奏が集まっていた。響が暗い顔で未来と繋がらなかった自分の携帯を見つめていると、不意に響の頭にポンと手が乗せられた。

 

「え…?」

 

響が隣に視線を向けると、クリスが響の頭を撫でながら無言で頷いた。

 

「ありがとう、クリスちゃん」

 

クリスの気遣いに、響はフッと肩の力を抜いて微笑んだ。

 

「それにしても…まさかというより、やっぱりの陽動だったデス!」

 

「あの時、管制指示を振り切ってさえいれば…」

 

響が少しだけ持ち直す一方で、他の面々の顔はまだまだ暗い。特に、奏と翼は揃って後悔に顔を歪めていた。

 

「クソ…変な言い訳なんてせず、あたしも響の誘いに乗っていれば…あたしだけならともかく、あたしのせいでチビッコ二人分の戦力があの場からいなくなった!」

 

「そんな風に自分を責めないで、奏…責められるべきは、すぐ傍にいながら友の危機にも気付けなかった私なのだから…」

 

「ハイハイ、そこまで!」

 

自分の事を責め続ける両翼の頭を軽く小突きながら、マリアが強引に二人の言葉を遮った。

 

「済んだ事をいつまで気にしていても仕方がないでしょう?誰よりも取り乱しそうなあの子が、自分の成すべき事に向き合おうと努めているんだから、年長者の私達がしっかりしないでどうするの!!」

 

マリアが響に視線を向けながら二人を諭すと、奏達はバツが悪そうに頬を搔いた。

 

「済まない、少々取り乱した」

 

「悪ぃな、後輩共に情けねえところを見せちまった」

 

ようやく俯かせていた顔を上げる二人を見て、マリアがやれやれと肩を落とす。そんなマリアを見て、切歌と調がヒソヒソ話していた。

 

「流石はママリアなのデス」

 

「あんな感じのお母さんを肝っ玉母さんって言うらしいよ?切ちゃん」

 

「肝ったママリアなのデスか…」

 

「肝ったやマさんかも…」

 

『ブフッ!!』

 

「聞こえているわよあなた達!!」

 

「やった!成功デス!」

 

「先生から習った『一笑い取って暗い雰囲気を吹き飛ばす方法:たやマ編』が上手くいったね、切ちゃん!」

 

「一体何処まで見据えているのよあの人でナナシはぁああああああ!!!」

 

『あははははははは!!』

 

マリア達の漫才のようなやり取りによって、静かだった室内に笑い声が響く。仲間が攫われている状況で不謹慎かもしれない。それでも、仲間と笑い合う事で元気の出た響は、ナナシから貰った御守りを手に未来達の無事を願うのだった。

 

 

 

 

 

新たなアジトであるチフォージュ・シャトーの中で、ヴァネッサは神の力を制御する儀式の準備に取り掛かっていた。

 

(腕輪から抽出した…無軌道なエネルギーを…拘束具にて、制御…)

 

中央に置かれたシェム・ハの腕輪を円で囲むように術式を刻み、要所要所に何かの欠片を置いていくヴァネッサ。その表情は気怠げで、小さな欠片を手で運ぶ事さえ億劫そうにしていた。

 

(体の血液を入れ替えてから、体調が優れない…いえ、元に戻ったと言うべきかしら?だけど、ここを乗り切れば、私達は本当の意味で元の人間の体に戻れる…)

 

『皆と仲良くしたいなら、普通に仲良くすれば良いじゃないか?』

 

作業をしていたヴァネッサの脳裏にナナシの言葉が過り、ヴァネッサは欠片を運ぶ手をピタリと止めて忌々し気に表情を歪めた。

 

(簡単に言ってくれる…いえ、あの男の言葉を気にしても仕方がない。あれは正真正銘の怪物、元々人間だった私達の気持ちなんて理解出来ない…)

 

『君達の境遇に同情しない訳じゃない。でも、だからと言って君達が俺達の仲間や大勢の人を傷つけようとしていた事は許せる事じゃない。それは君達の体が人であろうとなかろうと、関係のない事だ』

 

『少しだけ考えてみて?あなた達の行いが全て上手くいって、人間に戻ったあなた達は本当に家族以外の人達と仲良く出来たの?…少なくとも、私はそんなあなた達と仲良くなれたとは思わないわ』

 

言い訳のように自己弁護するヴァネッサの頭に、今度は藤尭と友里の言葉が木霊した。人間と怪物、双方の言葉にヴァネッサはギリリと歯を噛み締めて苛立ちを抑え込む。

 

(ヴァネッサ、ミラアルクの帰還を確認。お客様も一緒であります)

 

そんなヴァネッサにエルザから念話でミラアルク帰還の報告が入り、家族の言葉に苛立ちの薄れたヴァネッサは表情を綻ばせた。

 

(ご苦労様、こちらの準備も順調よ。早速取り掛かりましょう)

 

(ガンス!)

 

やる気を漲らせるエルザの返事に、ヴァネッサはフッと微笑むと作業を再開させた。

 

「神の力は、私達の未来を奪還するために…」

 

 

 

 

 

S.O.N.G.のトレーニングルーム、そこでマリアは一心不乱にサンドバックへ拳を叩きつけていた。その表情は自己鍛錬に打ち込むと言うよりも、集中する事で何かから逃避しているようにも見えた。

 

(非戦闘員の仲間を巻き込んだ今回の一件…衝撃は大きかったはず。まさか、あの時神獣鏡の光を受けた二人が、原罪を解かれた人間…神の依代に成り得る存在だなんて…それを誰もが受け止め、強い心で乗り越えようと努めている)

 

マリアが鍛錬を始める前に行われた緊急対策会議、そこで弦十郎は連れ去られたエルフナインと未来は少なくとも命に別状がない事と、その根拠を伝えていた。

 

錬金術を扱うエルフナインが狙われるのは理解出来る。しかし、未来のような一般人はエルフナインに巻き込まれる形で襲われたのなら無事である保証はない。故に弦十郎は装者達を安心させるためと、今後に起こりうる可能性を理解してもらうために、かつてエルフナインが見出した仮説を全員に語って聞かせた。その衝撃的な内容に全員が驚く中、響は驚きながらも現状を受け入れ、未来を救い出す決意を固めているようだった。

 

「駄目だな、私は。翼や奏にあんな事を言っておきながら…」

 

ズドンとサンドバックに拳を叩きつけたまま動きを止めたマリアは、そんな風に弱音を零す。仲間達の前では気丈に振舞ってみせたが、胸の内ではまんまと陽動に引っかかって未来達を攫われてしまった責任感を抱え込んでいた。

 

攫われた未来とエルフナインを心配しつつ、親友と喧嘩別れのような状態のままで離れ離れになってしまった響の事も想いながら、マリアは焦る気持ちを誤魔化すように首から下げたギアペンダントを手に取り見つめる。

 

「仲違いぐらいなら、私もセレナとした事がある」

 

F.I.S.の施設にいた幼い自分とセレナも、他愛無い理由で喧嘩することはあった。普段は優しいが怒ると意外と強情なセレナに、マリアは何度も話しかけるが中々聞き入れてもらえず、二人揃って不機嫌な顔を向け合う事もあった。しかしそんな状態も長くは続かず、最後は笑いながら一緒に歌を歌っていた。

 

「いつだって二人の間には歌が流れていて、仲直りするのに言葉なんていらなかったわね」

 

セレナとの想い出を懐かしみながら、マリアはAppleのフレーズを口遊んで…途中で何かが引っかかる感覚を覚えた。

 

「このフレーズ、最近何処かで聴いたような…?」

 

しばらくの間その感覚を探り続けたマリアは、トレーニングルームを出て弦十郎の元へと向かって行った。

 

 

 

 

 

「う、うぅん…」

 

目を覚ましたエルフナインが周囲を見渡すと、そこは薄暗い室内に大量の壊れた人形が捨て置かれた奇妙な場所だった。普通なら不気味に思うかもしれないが、その場所に見覚えのあるエルフナインは驚きで一気に目を覚ました。

 

「まさか、ここは!?」

 

「お帰りなさいませ~、ご主人様♪」

 

困惑するエルフナインの傍にはいつの間にかミラアルクとエルザが立っていて、ミラアルクはスカートの両端を持ち上げながら茶化すようにエルフナインへと声をかけた。

 

「あなた達!」

 

「アハハハハハ!日本に来たのなら、一度言ってみたかったんだゼ!」

 

そう言うと、ミラアルクは上機嫌にエルフナインの頬を両手で挟み込んでムニムニと弄んだ。

 

「ほほは、ひほーひゅひゃほー…」

 

「よっと!」

 

頬を引っ張られて上手く発音出来ないエルフナインを、ミラアルクが放り投げるように解放する。そんなミラアルクの行いにエルザが顔を顰めた。

 

「いけないであります!客人は丁重に扱わないと…」

 

「次からはそうさせてもらうゼ!」

 

「ム~であります…」

 

ミラアルク達がそんなやり取りをしている間に、エルフナインは身を起こしつつ冷静に現状把握に努めていた。

 

(考えなきゃ…今何が起きているのかを…ここに連れて来られるまでに何が起きたのかを…)

 

そうして自分が意識を失うまでの事を思い出したエルフナインは、一緒にいたはずの未来の姿が無い事を思い出した。

 

「そうだ、未来さん…未来さんは何処にいるんですか!?」

 

「用済みと判断された彼とは異なり、彼女は生かしているであります」

 

エルザの言葉だけではあるが、未来を生かす理由に心当たりがあるエルフナインは恐らく真実だと判断する。エルフナインは表情を険しくしながらエルザ達へと問いかけた。

 

「まさか…バラルの呪詛から解き放たれた、未来さんを使って…!」

 

「そのまさかだゼ。そして、やってもらう事はお前にもあるんだゼ!」

 

「キャロルによって作られたあなたの体を使って、起動して欲しい物があります」

 

エルザの言葉に、エルフナインは何故自分が連れて来られたのかを察した。

 

「まさか、チフォージュ・シャトーを!?それは無理です!例え起動出来たとして、ヤントラ・サルヴァスパも失われ、ウェル博士もここいない以上、自在に制御する事など絶対に…」

 

「落ち着けって。そうじゃないんだゼ」

 

早口で捲し立てるエルフナインを落ち着かせるように、ミラアルクがパタパタと手を振るう。どうやらエルフナインの予想に反して、ミラアルク達が起動したいのはチフォージュ・シャトーではないようだ。

 

「あなたに起動してもらいたいのは、こちらであります」

 

そう言ってエルザがパチンと指を打ち鳴らすと、薄暗かった部屋がライトで照らされて全容が明らかになる。部屋の中央には、エルフナインの知らない巨大な機械が設置されていた。

 

「まるで何かのジェネレーター?……こ、これは!?」

 

巨大な機械には無数の棺のような物が接続されており、その一つ一つには部屋に積まれていた壊れた人形が一体ずつ納められていた。

 

「あなた達は、一体何を企んで……っ!?」

 

ガシッ!!

 

エルフナインがエルザ達の目的を聞き出そうと振り返ると、背後に忍び寄っていたミラアルクに首を鷲掴みにされたまま体を持ち上げられた。苦しさに藻掻くエルフナインの瞳を見つめて、ミラアルクは『不浄なる視線』の力を行使した。その直後、エルフナインは藻掻くのをやめて大人しくなる。

 

「バイオパターン照合」

 

ミラアルクがそれだけ指示するとエルフナインを放し、エルフナインは虚ろな瞳でフラフラと歩いて制御端末らしき物に近づいて行った。

 

「さあ、認証を突破してもらうゼ?予備躯体」

 

エルフナインに反応してか、制御端末に無数の文字列が表示される。エルフナインはぼんやりとした様子のまま、その文字列から起動に必要な言葉を選び口にした。

 

「その庭に咲き誇るは、ケントの花…知恵の実結ぶ、ディーンハイムの証なり…」

 

エルフナインの詠唱に、制御端末の文字列が一瞬点滅して…しかしその直後、何やら警報音のような音が数度響いたかと思うと、制御端末の文字は消え去ってしまった。

 

「チッ、やっぱり駄目だったゼ」

 

忌々し気にミラアルクが舌打ちした後、パチンと指を打ち鳴らすと、エルフナインは正気に戻ったように目に光を取り戻した。

 

「っ!?一体、何が…?」

 

「認証に失敗したのであります」

 

「ワンチャンあるかと思ったが、所詮は失敗作の廃棄躯体なんだゼ」

 

どうやら自分の体ではシャトーのセキュリティを突破出来なかった事を察してエルフナインは安堵する。しかし、それにしては当てが外れたミラアルク達の様子に焦りが無いように見えた。

 

 

 

「仕方がない、元々こいつは『保険』…忌々しいが、こうなった以上『本命』を使うとするんだゼ」

 

 

 




肝ったママリア、肝ったやマさんは『肝』を『きも』や『キモ』と表記するだけで大分印象が変わるので書き方を決めるのにそこそこ悩みました(どうでも良いw)
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