戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
第195話で『ガム』の説明をする際、『“以心伝心”はナナシが能力を明かした者達全員と繋がっている』と書いてましたが、エルフナインはまだ『ガム』について知りません。割と重要な点なのにやらかしました。
『キャロル達と繋がっている』に変更済みです。エルフナインを除くような説明はありませんが会話に出てこないのでそういうものだと思っていただければ…
チフォージュ・シャトー上空に異形の存在が現れる少し前…エルフナインにシャトーのセキュリティを突破させようとして失敗したエルザ達は、『本命』のプラン実行のため動き始めていた。エルフナインが二人を警戒して睨んでいると、エルザが錬金術で何処かの映像を表示させる。そこには、台座に横たえられた状態で眠る未来が映っていた。
「未来さん!…っ!!?」
未来の無事に安堵したのも束の間、エルフナインは未来の周囲に映り込んだ光景を見て言葉を失った。
未来の横たわる台座のすぐ傍には、例の腕輪が設置された柱が立ち、台座と柱を中心に周囲の地面は緩やかに盛り上がっていた。その形はまるで巨大な盃のようで…その内側は、真っ赤な液体で満たされていた。黒みがかった濃い赤色の液体はどう見ても血液であり…そんな物で満たされた器の中央で眠る未来は、まさにこれより神の生贄に捧げられる少女にしか見えなかった。
「錬金術は生命力を魔力に錬成する事で行使される技術…我々が体内の稀血から怪物の力を引き出しているのも、まさにその技術体系に基づいた力の行使であります」
「つまり、この忌々しい体の仕組みを応用する事で、ウチらは血液からエネルギーを錬成出来るって訳だゼ」
「エネルギー?それはまさか、神の力を具現化するための!?だけど…」
サンジェルマン達でさえ、神の力を顕現させるために数万人の生命エネルギーを集めて儀式を行っていた。腕輪から力を引き出すだけにしても相応のエネルギーが必要になると思われる。例え希少な稀血を用いたとしても、たったあれだけの量では儀式に必要とされるエネルギーには遠く及ばないはずだとエルフナインは考えていた。
そう、たったあれだけの『稀血』では…
「っ!?まさか!!?」
「そのまさか、だゼ」
エルフナインが何かに気付き、ミラアルクが肯定する。あれは稀血などでは無い。ある意味では稀血よりもずっと希少で、しかしどんな血液よりも安定して入手可能な、不可能を覆すだけの『可能性』を内包した血液…
あの器に満たされているのは…“紛い物”、ナナシの血液だ。
「そんな…あの血液は!ナナシさんがボクらの!!仲間のためを想って残していってくれた物なのに!!!それを使って未来さんを神の依り代にしようだなんて!!!!」
ナナシの想いを踏み躙るノーブルレッドの所業に、エルフナインは瞳に涙を溜める程に感情を高ぶらせて絶叫する。そんなエルフナインに、ミラアルクは不機嫌そうに眉を寄せながら吐き捨てるように言った。
「フン、だったらこの血液の使い方も、あのクソ野郎の望みから外れてないんだゼ…もしこの方法が上手くいかなかったら、お前の体をシャトーのセキュリティが突破出来るように弄る必要が出てくるんだからなぁ?」
「っ!!?」
ミラアルクの発言にエルフナインは言葉を失い、同時にミラアルクの言っていた『保険』の意味を正しく理解した。
しかし実のところ、本来はそれこそがこの計画における『本命』の方法であった。
チフォージュ・シャトーは隠れて儀式を行うには最適な場所であり、更には高密度のエネルギー体であるオートスコアラーの廃棄躯体が大量に残されていた。これを利用しない手はない。そのためにはシャトーのセキュリティをどうにか突破する必要があった。
しかしキャロル本人を拉致して従わせる事などノーブルレッドには不可能であり、セキュリティを突破するために一からシャトーの解析を行っていてはどれだけ時間がかかるか分からない。
故に訃堂は、不完全とはいえキャロルの写し身であり、個人の戦闘力はほとんど無いに等しいエルフナインへと目をつけた。土台が同じならば、多少その体に手を加えるだけで合鍵としての役割を果たせるはずだと…その後のエルフナインの状態など露ほども気にかける事無く、訃堂はノーブルレッドにエルフナインの拉致と『処置』を命じていた。
だがその命令は、他者の都合で体を改造されたノーブルレッドにとってあまりに嫌悪感が強く…『保険』として、訃堂にナナシの血液を提供するようノーブルレッドは訃堂と交渉していた。
当然訃堂にはノーブルレッドの思惑など透けて見えていたが…手段は多いに越したことはないと、胸の内ではこの期に及んで覚悟の足りないノーブルレッドに呆れながらも、S.O.N.G.の動きを抑制するために回収させたナナシの血液を提供していた。
「ですが実際、あなたの体を改造するよりも勝算は高いと思われるのであります。あの男が我々を支配するためにこの身に注いだあの血液は、ダイダロス・エンドの連続使用をも容易に可能とする程の莫大なエネルギーを内包しているのは確かでありますから」
「っ!?ナナシさんが、あなた達に血液を…?」
その情報は訃堂にも伝えていない。ナナシの血液が稀血の代用となると知れば、邪推されて血液を提供してもらえないと考えたためだ。ただ神の力を取り込んだナナシの血液ならば、『保険』として充分可能性があると伝えるに留めていた。
「あのクソ野郎の血液に頼るなんて癪だが、あいつが自分のせいで仲間が大変な目にあったと知った時の顔を思い浮かべれば腹の虫も少しは治まるってものだゼ。精々ウチらを舐めた事を後悔すれば良いんだゼ!」
ミラアルクがそう言って天井を見上げる。恐らくはその先にある空の月を見据えて勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「そうか…だからナナシさんは、S.O.N.G.の記録を…彼女達を……るために…」
しかしエルフナインは彼女達の発言から何かを察したようで、ブツブツと呟きながら自分の考えを整理しているようだった。その間にエルザが遠隔で錬金術を起動して、未来の周りにあるナナシの血液が淡く発光し始める。ナナシの血液から錬成されたエネルギーは腕輪へと収束していき、時間と共にナナシの血液は端から塵となって器から減少していった。
「稼働は順調、腕輪に充分なエネルギーが集まっているのを確認したのであります」
「つまりは、お前を生かしておく価値も無くなったって事だゼ」
「……」
不穏な言葉を口にしながらミラアルクがエルフナインへと近づいて行く。エルフナインは取り乱す事無く、逃げ出す様子も見せずにただ俯いてジッとしていた。
「こういう時、お決まりのセリフと言えば…何か言い残す事はあるんだゼ?」
その手の爪を鋭く伸ばして構えながら、ミラアルクは静かなエルフナインにそう問いかける。するとエルフナインは、俯いていた顔をゆっくりと上げて…
「化け物」
…真っ直ぐにミラアルクの瞳を睨みつけながら、普段からは想像もつかない冷え冷えとした声音でハッキリとそう言い放った。
予想外の反応とその瞳に一瞬目を見開くミラアルクだったが、すぐに取り繕って挑発的な笑みを浮かべてみせた。
「何を言うかと思えば…そんな言葉、この体になってから既に聞き飽きて…」
「関係ない!!」
「「!!?」」
先程とは一転して、エルフナインは大声で叫んでミラアルクの言葉を遮り、ミラアルクは思わず言葉を詰まらせ、エルザが目を丸くして驚く。
「人と違うと言う意味でなら、ボクにはあなた達の体について言及する資格はありません!この身はあなた達の言う通り、元々は失敗作の廃棄躯体!性別は無く、記憶と人格はこの世を滅ぼす計画のために与えられたもの!見る人次第では、ボクはあなた達よりずっと人から外れた存在で、実際に初めてS.O.N.G.に訪れた時は警戒されました!真実を知った時、ボクはこの世界にいてはならないんだと…消えてしまいたいと思いました…でも…あの人は、ボクの言葉を信じてくれた!世界に仇なすはずだったボクに、別の在り方を示してくれた!!」
『まあ、怪しいは怪しいけど、嘘は言ってないみたいだし、信じても良いんじゃないか?』
その一言は、周りの拭いきれない疑惑を打ち消し、自分の存在を受け入れてもらえた。
『なあ、エルフナイン。ちょっと協力してくれないか?』
世界を滅ぼす絶望を齎すはずだった自分の在り方を、世界を救う希望へと転じさせてくれた。
『俺は俺のやりたいことをやっているだけだ』
そう言って笑いながら、自分の重責を共に背負ってくれた。
「差し出された手を取る事に、迷いはありました。もしかしたら、ボクのせいであの人の居場所まで無くなってしまうのではないかと…それでも…ボクはあの人を信じたから!あの人が、信じさせてくれたから!!ボクは『人』として、皆に受け入れてもらう事が出来た!!!」
優しさに縋る事には、相手を巻き込んでしまう恐怖もあった。最後にはその恐怖に耐えられず、自らその手を振り払って一人で罪を背負おうとも考えた。しかし一度掴んだその手は万力の如くガッチリ繋がれており、必死に振り払おうとする様を周りには爆笑されてしまったが…差し伸べられたその手を取ったのは、紛れもない自分の意志だった。
「人の悪意に惑わされて、そんな体になったあなた達には、誰かを信じる事は難しいのかもしれない。それでも…だとしても!!」
「っ!?」
強い意志の籠ったエルフナインの叫びに、ミラアルクは気圧され一歩後退ってしまった。
「その恐怖を誤魔化すために、自分達へ向けられる感情は全て悪意だと決めつけて!全ての責任を他人に押し付け暴れ回り!!あまつさえ、誰よりもその痛みを知っているはずなのに、自分達の目的のためならば他人の体を改造する事さえ選択肢として視野に入れている!!!何処までも、自分達の都合しか考えられないあなた達の『心』は…どうしようもなく、化け物です!!!!」
「な…っ…!!」
先程までの余裕は剥がれ落ち、ミラアルクは怒りの形相でエルフナインに言い返そうと口を開くが、その口から言葉は出てこない。幾度となく心無い者達から化け物と蔑まれてきたが、そんな者達に比べてエルフナインの言葉の重みが明確に異なるのが嫌でも分かってしまう。自分達の事を化け物としか認識していなかった者達とは違い、エルフナインの瞳はしっかりと『ミラアルク』を見た上で…自分の根本を化け物と捉えている。
「調子に乗って好き勝手な事を…!クソ生意気なその心、粉々にブチ壊して…!!」
エルフナインに近寄りがたい圧を感じたミラアルクは、それを誤魔化すように『不浄なる視線』でエルフナインの心を壊しにかかる。自分を睨むエルフナインと視線を重ねて、その精神を打ち破らんとして…
バチンッ!!
「ぐあっ!!?」
「ミラアルク!?」
…ミラアルクの力は、エルフナインの精神を揺さぶる事も出来ないままに弾き返された。それ程までに、エルフナインは揺るぎない意志と覚悟を以って…ミラアルク達を糾弾していた。
「こいつ!…っ!?」
そうやってミラアルク達がエルフナインに気圧されていると、突如シャトー全体が揺れ動き始めた。エルザが慌てて腕輪と繋がる機会のモニターを確認すると、そこには無数のエラーが表示されていた。
「制御不能!?腕輪から抽出されるエネルギーが、抑えられないであります!このままでは…」
その直後に起こったのが、チフォージュ・シャトーの発光現象と異形の存在の出現であった。
「まさか、チフォージュ・シャトーが稼働しているの!?」
「こいつら、廃棄施設をアジト代わりに使ってやがったのか!?」
マリアとクリスが突如発生した異常事態に思わず目を奪われてしまった。その隙に…
ガスッ!!
「うぐっ!?」
…追い詰められていたヴァネッサがクリスを蹴り飛ばし、逃走を謀る。
「はああああ!!」
しかしマリアがすぐさまヴァネッサへと切り掛かり、ヴァネッサが防御と回避に専念している間にクリスが復帰を果たす。
「逃がすか!」
「フンガァアアアア!!」
拳銃を構えるクリスにヴァネッサは高速で接近すると、何と銃口に指を捻じ込む事でクリスの銃撃を封じてしまった。
「っ!!」
しかしクリスも負けじと強引に引き金を引き、拳銃が暴発した衝撃で二人の体は弾き飛ばされてしまった。
「何処まで奔放なの!?」
煙が晴れると、ヴァネッサは右腕を失った状態で微笑んでいた。
「ビックリさせちゃった?だけどこちらも同じくらい驚いているのよ」
そう言ってヴァネッサは胸元からテレポートジェムを取り出し、転移で姿を消してしまった。
「してやられちまったか…」
そしてその直後、再びチフォージュ・シャトーの方角から例の不協和音が鳴り響く。それを聴いたマリアは目を細めながら呟いた。
「やっぱり、この音は…」
「本部!状況を教えてくれ!」
クリスが本部に情報を求めると、藤尭達が現状分かっている事を伝達してきた。
『先日観測した、同パターンのアウフヴァッヘン波形を確認!』
『腕輪の起動によるものだと思われます!』
その報告を傍らで聞く弦十郎は、誰にも聞こえないような声音でポツリと呟いた。
「これがシェム・ハ…かつて神々が封じた、反逆のアヌンナキ…」
『そちらに向かっていた翼さん達を、至急対応に当たらせます!』
『イチイバル、アガートラームも至急合流されたし!』
急遽目的地を変更した翼達の乗るヘリがチフォージュ・シャトー近辺に到着すると、異形の存在は周囲にレーザーを撒き散らしていた。その様はかつてティキが神の力をその身に宿したディバインウェポンを彷彿とさせ、レーザーの一本がヘリのすぐ傍を通過した衝撃で響達が倒れ込んでしまう。
「敵は大筒・国崩し!ヘリで詰められる間合いには限りがある!」
「それでも、ここまで来られたら…!」
「充分デス!」
そう言って翼達は躊躇う事無くヘリから飛び降りた。
「Zeios igalima raizen tron」
全員がギアを纏い異形へと迫る。すると、異形は装者達の存在に気が付いたようで無数のレーザーを放ってきた。装者達はそれぞれレーザーを受け止め、弾き飛ばし、受け流しながら減速する事無く異形へと接近していく。レーザーが効かないと察したのか、異形が今度は体から生えた触手を伸ばして直接装者達を叩きに来た。翼と響は接触寸前で回避して触手の上を滑るように突き進むが、高速で迫る触手に調が対応出来ず接近を許してしまった。
「っ!?」
しかし切歌が調の前に出て鎌を回転させ触手を弾く。触手が調から切歌に狙いを変えて迫るが、切歌は鎌で触手の猛攻を何度も弾いて防ぎきってみせた。
「調ちゃん!切歌ちゃん!」
「機動性においては、こちらに分がある!」
翼が先陣を切って触手の猛攻を掻い潜りながら駆け回る。
「まずは距離を取りつつの威力偵察だ!行けるな!?」
「はい!」
「デス!」
翼の指示に力強く答えて、調と切歌が異形と一定の距離を保ちながら触手の攻撃を回避しては反撃を試みる。しかし相手は神の力の化身。高次元の存在相手に切歌達の攻撃は全く通じていないようだった。
“凶鎖・スタaa魔忍イイ”
変わらぬ状況に焦れた切歌が大技を放って触手の一本を切り落とす事に成功するが、その瞬間触手の輪郭がブレたかと思うと一瞬後には無傷の状態に戻ってしまった。
「うわあああ!?」
「切ちゃん!?」
大技を放った隙を狙われ、切歌が無傷となった触手に吹き飛ばされる。絶大な防御力と無限の再生能力、そんな神を殺すのはやはり…
「うおおおおおお!!」
…『神殺し』の拳をおいて他にない。
倒れ込む切歌を狙う触手に響がガングニールの一撃を叩き込むと、切歌達が苦戦していた触手が跡形もなく消し飛んでしまった。
「響さん!」
その結果に安堵した切歌であったが、異形はその一撃で響を脅威と判断したのか、周囲の触手が一斉に響へと襲い掛かった。
「ぐああああああ!?」
全身を拘束された状態で高密度のエネルギーが収束され、響が苦悶の声を漏らす。
「負けられない…!わたしは未来を…未来にもう一度…もう一度!!」
未来との再会、それを為す一心で響は拘束を吹き飛ばす。しかしダメージが大きく自由になると同時にギアが解除されてしまった。蹲る響の傍に慌てて調が駆け寄って行く。
「へいき…」
「分かってる!だから今は無茶出来ない…」
「へっちゃら…」
そんな言葉で自分を鼓舞するが、もはや響には自分で立ち上がる力も無い。
「おい!大丈夫か!?」
そこにようやくクリスとマリアが到着する。翼が響を庇うように剣を構えながら全員に呼び掛けた。
「切り札たる立花を失えば、それだけ後れを取る事となる!ここは撤退し、態勢を整えなければ!」
翼の言葉に響以外の全員が頷く。一刻も早く響を本部へと連れ帰るため、装者達は戦略的撤退を選択した。
「立てるか?本部に戻るぞ!」
意識も定かではない響にクリスが肩を貸し、二人を護衛しながら残りも者達が続く。異形の赤子はそんな装者達を追撃する事無く、ただその場所に揺蕩い続けるのだった。
活動を停止した異形の様子をモニターでエルザ達が確認していると、そこへ帰還したヴァネッサが近づいてきた。
「ヴァネッサ、帰還したでありますか!」
「早速でごめんね。状況を教えて?」
「神の力は固着を開始…だけど、想定以上の質量に、場外へと緊急パージしたのが、この体たらくだゼ」
「遊び無しのいきなり過ぎる展開はそういう…」
「遠からず、この場所は突き止められていたはず!寧ろ、神の力の顕現でシンフォギアを退けられたのは僥倖であります!」
「そうだと良いんだけれど…」
「決戦が近いとなると、お荷物の処分は早めに済ましておきたい所だゼ」
そう言ってミラアルクは、未だ自分達の傍で佇むエルフナインに視線を向けると、鋭い爪を構えながら一本踏み出す。しかし、そんなミラアルクの肩をヴァネッサが掴んで引き止めた。
「新調した右手の具合を確かめなくちゃ。偶にはお姉ちゃんらしい所も見せないとね?」
「……」
「神の力が、神そのものへと完成するまでには、もうしばらくの時間が必要…それを邪魔する要因は、小さくても取り除かなくっちゃ」
右手を高速振動させながらヴァネッサがエルフナインへと迫る。しかし、何故かエルフナインは逃げ出さないばかりか身動き一つ取らずにジッと佇んでいた。
「……」
「…逃げないどころか命乞いの一つもしないのね?諦めちゃった?」
流石にエルフナインの様子を訝しんだヴァネッサがそう問いかけると…
「フフッ⋯」
…この局面で、エルフナインは笑みを零してみせた。
「…気でも触れたのかしら?それともひょっとして、私の事を舐めてる?」
「フフフ…ある意味、そうかもしれませんね?この状況を脱するために、ボクなりに一生懸命考えた結果…あなた達を恐れる必要が全く無い事に気付きましたから」
苛立つヴァネッサに対して、エルフナインは尚も笑うばかりかヴァネッサを煽るような発言まで繰り出す。エルフナインの顔に浮かぶのは、かつてキャロルと対峙した時と同じ…紛れもない嘲笑であった。
そんなエルフナインに、怒りと共に薄気味悪さを感じたヴァネッサは、右手を振り下ろすよりも疑問の解消を優先してしまった。
「恐れる必要が無い?強がりのつもりかしら?それとも実は、あなたの体には私達を圧倒出来るほどの力でも宿っているの?」
「そんな物、ありませんよ。あったところで、ボクはあなた達のように都合の良い思考回路は持ち合わせていないので、きっと持て余してしまいます」
「何ですって…?」
「麗しいですね?姉として家族のために、率先して前に出るその姿…ですが、どんな虚飾を施したところで、その内容は殺害担当者の決定でしかなく、先程のやり取りは所詮、家族の絆を利用した自己弁護…自分達は悪くないって言い訳しているだけですよ?」
「「「っ!!?」」」
あまりにもバッサリと切り捨てるようなエルフナインの物言いに、ノーブルレッドは全員凍り付いたように硬直してしまった。
「発言を一つ、撤回します。ミラアルクさん、あなたを、あなた達を化け物と呼んだのは間違いでした」
そして三人は、自分達の感じ取った薄気味悪さの正体を理解した。
「あの人ならきっと、面と向かって化け物と罵られれば胸を張って『Exactly!!』と叫ぶでしょう。それはあなた達のような逃避とは違い、自分の本質を偽らない強さであり…人と化け物、どちらの生き方も全力で貫く覚悟の現れです」
まるで自分達の本質を詳らかにするような、エルフナインの言葉の数々は…
「何もかもが半端な『パチモノ』のあなた達が…ナナシさんに勝てる訳がない」
…自分達の主人を自称する、“紛い物”と似た雰囲気を醸し出していた。
「もう良いわ…死になさい!」
「あなた達に、ボクは殺せませんよ」
その言葉を最後に、エルフナインは瞳を閉じる。覚悟を決めたようにも見える行いだが、それはエルフナインにとって自分達の事など眼中に無いという意思表明だと察したヴァネッサは、激情のままにその右手をエルフナインに振り下ろす。
(この“妄想”が外れれば、ボクの命は無い)
エルフナインは無策でノーブルレッドの殺意を煽った訳では無い。しかし、確信を抱いている訳でもない。それはあくまで願望混じりの“妄想”…可能性の話だ。
しかしそんな可能性に、エルフナインは命を預ける程の絶大な信頼を籠めて…叫ぶ。
「助けてくださああああい!!!」
「お任せあれ!」
ガキィイイイン!!
エルフナインの想いに応えるように、突如横から差し込まれた大剣の一撃によってヴァネッサの手刀は弾き飛ばされた。
「なっ!?何なの!!?」
「ソードブレイカー…その一振りを、あなたが剣と思うなら…!」
大剣…ソードブレイカーを構えて不敵に笑うオートスコアラー、ファラ。ヴァネッサにとって今の自分の体に対する認識は兵器である。その認識で振り下ろされる右手はまさに『手刀』であり…
パキィイイイン!!
…剣殺しの哲学兵装は、ヴァネッサの右手を打ち砕いた。
「日に二度も!?」
「しっかりするであります!」
よろけるヴァネッサをエルザ達が慌てて支える。すると…
「先手必勝!派手にいく!!」
突如現れたレイアがノーブルレッドに向けて放つ。三人は咄嗟にバックステップでコインを躱した。
「あはははは!ちゃぶ台をひっくり返すのはいつだって最強のあたしなんだゾ!」
笑いながら駆けるミカが途中でジェネレーターに付いていた棺の一つを引き剥がし、レイアに気を取られていたノーブルレッドに棺をフルスイングで叩きつけ、三人纏めて吹き飛ばしてしまった。
最後に現れたガリィがエルフナインを丁寧に抱えて走り出す。他のオートスコアラー達もエルフナインを警護するように追従していった。
「エルフナイン様があのパチモノ共を嘲笑う姿、カッコ良かったですよ~♪ガリィのお目目でバッチリ記録しましたから、後でマスター達と一緒に見ましょうね~♪」
「やっぱり、ボク達は見守られていたんですね?それも恐らく…」
「お察しの通りです、エルフナイン様。我々は最初から…あなた様が
「私達が台座で数時間動かないだけで意識を外してしまうなんて、監視が聞いて呆れてしまいますわ」
「サブマスターの作ったダミーの人形も見破れないなんて、本物のガリィちゃんはこんなに可愛いのに!」
「でもあのダミー、サブマスターが作って並べている時にマスターも間違えて呼び掛けるくらいにソックリだったんだゾ?」
「余計な事思い出してんじゃねえよ!!」
地味にショックだったらしくガリィがドスを利かせてミカにキレる。忍耐力が人とは比べ物にならないオートスコアラー達にとって、監視を掻い潜る事など容易であったようだ。
「それにしても、エルフナイン様は無茶をなさいますね?我々が居なかったらどうするつもりだったのですか?」
「…きっと居てくれると、信じていましたから」
かつてナナシの『悪巧み』に協力した経験と、共に日々を過ごしてきたエルフナインは知っている。時折ナナシが見せる、未来予知じみた策略…しかしあれは、卓越した智略によるものではない。『こうなったら嬉しいな』、『こんな風になるのは嫌だな』と、常日頃から“妄想”を重ねて、より良い未来に向かうための『布石』を手当たり次第にばら撒く…『備えあれば憂いなし』に全力を尽くすような力技である。
きっと無意味に終わった布石も無数に存在する。それすら『被害“妄想”で良かった!』と笑い飛ばして、懲りずに手間も時間も惜しまず布石を積み重ねる…『可能性の模索』こそが、ナナシのご都合主義を支える根幹である。
ならば、自分と未来が攫われているこの状況…神の力を巡って騒動が起こる事を予期される中で、利用価値は高いが隙が大きい自分達が狙われる可能性を、あのナナシが“妄想”していない事などあるだろうか?
ミラアルクとの会話でその事に気づいたエルフナインは、思考を巡らせてナナシの意図を必死に読み解いた。何らかの形で自分達は守られている。しかし、自分達は拉致されている。一見矛盾しているこの状況が成り立つその答えは…
「ナナシさんはこの騒動を利用して、あの腕輪…神の力を葬り去るつもりなんですね?」
「ご名答〜♪流石は“紛い物”クイズ初代王者のエルフナインちゃん様ですね〜♪」
エルフナインの答えを、ガリィが茶化しながらも肯定した。
神の力を宿した腕輪…そんな物が存在する限り、いずれ必ず争いが起こる。聖遺物に異端技術、そういった物を巡って暗躍を続ける者達を見てきたナナシにとって、それは“妄想”とも言えない必然であった。
かと言って、独断で腕輪を処分してしまえば間違いなく各国から難癖を付けられる。ならば、処分しても仕方がないと思われる状況になるのを待てばいい。例えば、とある国の重鎮が私欲のために腕輪を起動して問題を起こすなど…
「サブマスターはあの老人を『ゴミ箱』に利用して、
「故に我々は、『エルフナイン様及び小日向未来の命を最優先』に置きつつ…アジトの特定と、腕輪を人里から離れた場所に運んでもらうために、敢えてエルフナイン様達には誘拐されて頂きました」
色々と合理的な理由があるのは分かった。しかしそれらを踏まえた上で…ナナシがエルフナイン達を利用した事実は変わらない。
「サブマスターから伝言を預かっています…『言い訳はしない。俺の我儘にお前らやキャロル達を巻き込んだ。償いは帰ってきてから何でもする』だそうです」
「フフッ…」
言い訳はしないと言いながら、さりげなく協力者であるキャロル達を庇っているのがナナシらしいと、エルフナインは笑ってしまった。
「しかし、全てがサブマスターの“妄想”通りではありません。チフォージュ・シャトーはアジト候補の最有力。儀式を行うためのエネルギーを確保する手段にも見当をつけていたのですが、エルフナイン様ではシャトーのセキュリティを突破出来ない事をマスターは知っていました。故にノーブルレッドが三人集まってエルフナイン様の体におイタをする直前にエルフナイン様と小日向未来を救出、その後ノーブルレッドの身柄と腕輪を確保する算段だったのですが、まさかあのような方法で儀式を成立させるとは…」
「地味に想定外。しかし備えは十重に二十重。神の力についてはマスター達に任せて、我々はこのまま地味に脱出を…」
「いいえ、派手に逆襲します!」
これまで大人しく話を聞いていたエルフナインだったが、レイアの言葉を遮り自らの意見を口にした。
「神そのものへと完成していない今なら、まだ未来さんの救出は間に合います!どうかボクを未来さんの所へ連れて行ってください!!」
「エルフナイン様、残念ながらあなたは我々へのサブマスター権限をお持ちではありません。あなた様の命令では、マスター及びサブマスターから命令を受けた我々の行動を覆す事は出来ませんよ?」
ガリィが笑顔でバッサリとエルフナインの願いを切り捨てる。しかしそれはエルフナインも想定済みだ。
「ボクと未来さんの命を最優先…つまり、あなた達がボクを守ってくれれば、それはキャロルやナナシさんの命令を破る事にはなりませんよね?」
「おお~!確かにそうだゾ!」
「ミカ、乗せられるのが早過ぎですよ?」
「つまり我々に命を預ける代わりに、自分の命令を聞けと?」
ガリィの言葉に、エルフナインは静かに首を左右に振る。
「いいえ、ボクはあなた達に…えっと、その…と、『友達』として!協力して欲しいです!!よろしくお願いします!!!」
顔を僅かに赤く染めながらそんな事を言うエルフナインに、オートスコアラー達は虚を突かれたように目を見開く。そして…
「あはははは!イイゾ!!」
…その答えが面白かったのか、ミカが笑いながらその手を上げて了承を返してきた。
「友達としてのお願い、ですか…ウフフフ、そういう事なら、あまり無碍には出来ませんわねぇ?私も構いませんわ」
「私に地味は似合わない。派手に逆襲という友からの誘いならば、私も派手に賛同しよう!」
続いてファラとレイアも参加を表明する。残るガリィはヤレヤレと言った様子でエルフナインの顔を覗き込んでいた。
「友情を楯に迫るなんて、エルフナイン様も中々にあくどい真似をしますねぇ?」
「す、すみません…」
「マスターが知ったら、きっとサブマスターから影響を受けたんだ~って嘆くでしょうねぇ?」
「うぅ…」
ネチネチと責めるようなガリィの言葉にエルフナインが俯いていると、ガリィはニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「私、マスターのあの顔が大好きなんですよねぇ♪サブマスターの命令を都合良く解釈して動く私達に怒って、困って、あきれ果てて…そんな私達を、最後はしょうがないなって風にフッと微笑むあの顔が…ここであなたに協力すれば、きっとマスターはあんな風に笑ってくれるでしょうね?」
「ガリィ…!」
ガリィが出口に向かっていた進路を変更して、チフォージュ・シャトーの深部…未来のいる儀式場へと進んでいった。
「ご安心ください。我々はオートスコアラー…マスターのために働く事が、私達の使命です。本気でマスターの命令を完遂出来ないようなら、例え友の願いであっても聞く事は出来ませんでした。しかし…」
ガリィがまるでこれから悪戯を仕掛ける子供のように、ニヤリと笑みを浮かべながら…宣言する。
「相手があの『パチモノ』程度であれば…我々がお守りする限り、エルフナイン様が万が一にも傷を負う事などあり得ませんから!」
エルフナイン無双w
久々の一万字越え、説明が長くて申し訳ない…
まだ書けていませんが、次回は作者が書きたかった描写の一部を書けそうなので今から楽しみです!