戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第202話

S.O.N.G.本部に帰還した装者達は、響を除いて全員が指令室に集まっていた。響は現在意識を失っていて、メディカルルームで治療を受けている。

 

「見た目以上に響君のダメージは深刻…だが、翼の撤退判断が早くて、最悪の事態は免れたようだ」

 

「いえ、防人として立花を守り切れなかった己の未熟を恥じるばかりです。ナナシであればきっとこんな事には…」

 

「コラコラ、あんまり自分を責めるなよ」

 

そう言って塞ぎ込む翼の頭を、奏が優しく撫でた。

 

「奏…」

 

「誰一人犠牲にせず戻ってきた。それだけで翼は充分良くやったよ。ナナシだってちゃんと褒めてくれるさ」

 

「うん…」

 

「司令、マリアさんから提案のあったデータの検証、完了しました」

 

奏が翼を慰めていると、友里が弦十郎にそう報告を入れてきた。

 

「データの検証?」

 

「何デスか?それは?」

 

「腕輪の起動時に検知される不協和音に、思うところがあって…」

 

険しい顔でマリアが調達にそう答えていると、藤尭が追加の情報を伝えてきた。

 

「あの音に、経年や伝播距離による言語の変遷パターンを当てはめて、予測変換したものになります」

 

「言語の変遷パターンを?」

 

スピーカーから流れてくる例の不協和音が徐々に変換されていくと、全員にとって聴き覚えのあるメロディーが流れてきた。

 

「え…?この歌って…?」

 

「何でこの歌が!?」

 

「知ってるのか?」

 

驚愕する調達にクリスが思わず問いかける。その問いに、マリアが静かに答えていった。

 

「歌の名は『Apple』…大規模な発電所事故で、遠く住む所を追われた父祖が、唯一持ち出せたわらべ歌…」

 

「変質、変容こそしていますが、大本となるのは、マリアさんの歌と同じであると推察されます」

 

「アヌンナキが口遊む歌と、マリアの父祖の土地の歌…」

 

「それが偶々同じフレーズ、なんて偶然ある訳ねえか…」

 

二つの歌の繋がりに、翼と奏も思考を巡らせていた。

 

「フロンティア事変において見られた共鳴現象…それを奇跡と片付けるのは容易いが、マリア君の歌が引き金となっている事実を鑑みるに、何かしらの秘密が隠されているのかもしれないな」

 

弦十郎の言葉に、全員が神妙に頷いた。

 

(もしかすると、この歌は神々が封じた統一言語と何らかの関係が…)

 

情報源をまだ明かせないためその情報は胸の内に収めたまま、弦十郎は装者達へと声をかけた。

 

「敵の全貌は、未だ謎に包まれたまま…それでも、根城は判明した。俺達は、俺達の出来る事を進めよう!恐らくは、未来君とエルフナイン君もそこに囚われているに違いない!」

 

『了解!』

 

「デス!」

 

「であれば、このオレが妙案を授けてやろう!」

 

装者達が気合を入れた返事をした瞬間、指令室へと入ってきたキャロルが大声でそう言い放った。そしてキャロルの後ろから、慌てた様子の監視員が駆け寄ってくる。

 

「おい!監視対象が何を勝手な…」

 

ゴスッ!!

 

「ガフッ!?」

 

キャロルの肩を掴んで部屋に戻そうとする監視員の腹に、キャロルが裏拳を叩き込んで黙らせた。

 

「砂上の楼閣よりも脆い理論武装で居座っている分際で、図々しくも権限の過大解釈まで目論むか…貴様らの任務は“紛い物”の血液を使って修繕したオレの人形の監視であって、オレの行動に制限をかけられる謂れはない。次に愚かな言動でオレの邪魔をしようものならその舌を切り落とすぞ?」

 

蹲る監視員を放置して、キャロルは驚く装者達に話の続きを語り始めた。

 

「エルフナインと小日向未来を救出するためにも、障害となるあの神の力をどうにかしなければならない…そこで貴様らには、あのデカブツを破壊してもらう」

 

「それが出来ればあたしらも…」

 

「出来る」

 

キャロルの無茶ぶりに反論しようとしたクリスに被せるように、キャロルはそう力強く断言した。

 

「あそこはチフォージュ・シャトー…その気になれば世界だって解剖可能なワールド・デストラクターだ。残された猶予に全てを賭ける必要がある。お前達には神の力…シェム・ハの破壊と、エルフナイン達の救助を任せたい」

 

キャロルの真剣な様子に、何か考えがある事を理解した装者達は頷き合い、キャロルの妙案について詳細を聞く事にした。

 

「古来より、人は世界の在り方に神を感じ、しばしば両者を同一のものと奉ってきた。その概念にメスを入れるチフォージュ・シャトーであれば、攻略も可能だ」

 

「これも一種の哲学兵装…ですが、今のシャトーにそれだけの出力を賄う事は…」

 

「無理であろうな。だが、チフォージュ・シャトーは様々な聖遺物が複合するメガ・ストラクチャー…であれば、他に動かす手段は想像に難くなかろう?」

 

『っ!!』

 

「フォニックゲイン…」

 

装者達は目を見開き、弦十郎が重々しく答えを口にしたのを見て、キャロルはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「想定外の運用故に、動作の保証は出来かねるが…」

 

「やれる!やってみせる!!」

 

「あの頃よりも強くなったアタシ達を、見せつけてやるデスよ!」

 

調と切歌がやる気を漲らせて賛同する。他の装者達も同じ想いのようだった。

 

「この局面に神殺しを欠いている今、オレが出向いて全てを蹂躙する事も吝かではないが…」

 

「に、日本政府の決定に歯向かう罪人に、この国で自由に振舞う資格はない!あの人形共を引き渡さない限り、貴様を含めたあの研究室の者達はこの本部内から出る事など許されないからな!」

 

「だそうだ」

 

精一杯気丈に振舞う監視員の言葉をキャロルは淡々と聞き流すが、翼達の方が監視員の言葉に苛立っているようだった。

 

「この状況下で、まだそのような…!」

 

「愚物の相手など時間の無駄だ。オレの提案に乗るつもりなら、早急にチフォージュ・シャトーへと向かえ」

 

「キャロル君達の監視については日本政府と目下交渉中だ。すぐ応援に向ってもらえるよう俺達も全力を尽くす。気をつけろよ」

 

キャロルが翼の言葉を遮り、弦十郎が出発を促したため、装者達は気持ちを切り替えてシャトーへと向かって行った。

 

去って行く装者達の背中と、何処かに連絡を入れる監視員の姿を見て…キャロルはニヤリと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

チフォージュ・シャトーの内部を、オートスコアラー達に守られながらエルフナインが進んでいた。まだ未来のいる儀式場までは距離があるらしく、エルフナインが逸る気持ちを抑えながら行く先を見つめていると…少し広い場所に出たところで、ガリィ達は一斉に立ち止まった。

 

「何が…っ!?」

 

少し遅れて、エルフナインも気が付く。部屋の中央には、先回りしてエルフナイン達を待ち構えるノーブルレッドの姿があった。

 

「今度は流石に不意を突けそうにないかと…」

 

レイアがそう言ってファラに目配せをしていると、エルザが問答無用でテール・アタッチメントの攻撃を繰り出してきた。レイアとファラがエルフナイン達の前に飛び出し、その攻撃を受け止める。

 

「二人共!!」

 

「ここは私達に…ガリィにはエルフナイン様のエスコートをお願いするわ」

 

「任せて。目的地までの道のりはココに叩き込んでいるから♪」

 

自分の頭を指さして軽く答えるガリィにファラが微笑むと、風の力を使ってエルザのアタッチメントを弾き飛ばした。

 

「ミカも一緒に!」

 

「お前が付いていれば、私もファラも憂いが無い!」

 

「元気印の役割は心得ているゾ!」

 

ミカが両手を掲げて元気良く答える。ガリィはエルフナインの手を取り、先に進むよう促した。

 

「エルフナイン様、今の内に!」

 

ガリィに手を引かれながら進むエルフナインは、振り返って残されたファラとレイアに視線を向ける。

 

「ごめん…違う、ありがとう!ファラ!レイア!」

 

エルフナインの感謝に、ファラとレイアはフッと微笑んだ。

 

「行かせやしないゼ!」

 

先に進もうとするエルフナイン達をミラアルクが追いかけようとする。しかし、ファラが竜巻を起こしてミラアルクを怯ませ、その隙にレイアがコインで形作ったトンファーで追撃を加える。

 

「この道は通行止めです。他を当たっていただきましょう!」

 

「ああ、行かせる訳にはいかないな!」

 

武器を構えてノーブルレッド達の前に堂々と立ち塞がるファラとレイア。ノーブルレッドの三人はエルフナイン達の追跡を一旦諦め、先に邪魔者を排除すべくファラ達へと襲い掛かった。

 

背後に響く戦闘音を聞きながら、再び抱えられたエルフナインはガリィへと問いかける。

 

「ファラとレイアなら…きっと大丈夫ですよね?」

 

「ええ、何一つ問題ありません。あの二人だけでも、サブマスターのペットちゃん達のお世話は充分ですよ。エルフナイン様も二人を信じてあげてくださいな♪」

 

ガリィが明るく答えるが、エルフナインの顔から不安は晴れない。自分の我儘で二人を危険に巻き込んでしまったのではないかと、考えずにはいられなかった。

 

「仕方ないですねぇ…エルフナイン様、ハイ、ア~ン♪」

 

「えっ?むぐっ!?」

 

暗い顔をするエルフナインの口に、ガリィが薄い板のような物を押し込んだ。含んだ物を思わず噛んでしまったエルフナインの口に、甘さと独特の食感が伝わってくる。

 

「ほ、ほれは…ガム…?」

 

「どうせ悩むなら、甘い物でも口にしながらにしましょう?ほら、ファラ達の戦っている姿を思い浮かべてみて?」

 

突然訳の分からない事を勧めてきたガリィに困惑しつつ、エルフナインは素直にファラ達の事を思い浮かべると…その脳裏に、まるで目の前で二人が戦っているかのような光景が浮かび上がってきた。

 

「こ、これって!!?」

 

「これでエルフナイン様も共犯ですわね♪悪い友達とお付き合いすると、こういう怪しい代物に手を出す事になるんですよ~♪」

 

その力が何なのかすぐに察したエルフナインは、顔を引き攣らせながらも脳内でファラ達が戦う姿に意識を傾けていった。

 

“以心伝心”でエルフナインと繋がった事を感じ取ったファラとレイアは、無様な姿を見せられないと果敢にノーブルレッドへと立ち向かう。しかし、戦況は明らかにファラ達の分が悪いように見えた。

 

ゴウッ!!

 

「ととっ…そんなそよ風、痛くも痒くも無いんだゼ!」

 

ファラが放った風の攻撃を受けても、ミラアルクは少しよろける程度で全くダメージを負った様子は無い。

 

ズガガガガガガッ!!

 

「あらあら、随分と軽い攻撃ね?」

 

レイアが放ったコインもヴァネッサの体に傷を付ける事が出来ず、当たったコインの方が砕けてしまう始末だ。

 

かつては装者達さえ圧倒していたファラ達であるが、修復の際にそのスペックは大幅に下がってしまい、ノーブルレッドを相手取るにやはり力不足のように見えた。

 

「喰らえ!!」

 

ミラアルクが放った拳の攻撃を、ファラはソードブレイカーで受けながら自ら後方に飛んでダメージを最小限に留める。ミラアルクの力でファラの体が高く舞い上がり…

 

「かかったであります!」

 

…その落下地点と予想される場所に、アタッチメントを構えたエルザが先回りしていた。

 

絶体絶命…そう思われたファラだが、予想に反してその体はフワリと空中に留まってエルザからの追撃を免れるのだった。

 

「チッ…あのジジイの情報では弱体化したとあったが、まだ自分を浮かせる程度には風を操れるみたいだな?」

 

「風…?」

 

ミラアルクが一人納得しているが、エルザは目の前の光景に何処か違和感を持った。しかしそれが何か気付けぬ間に、ミラアルクが背中の羽を大きく広げた。

 

「フワフワ風船みたいに浮かぶことしか出来ないその体、叩き割ってやるゼ!」

 

バサリとミラアルクの羽が風を切り、ファラ目掛けて一気に近づいて…

 

「っ!?待つであります!ミラアルク!!」

 

「っ!!?」

 

…ようやく違和感に気付いたエルザが、必死にミラアルクを呼び止めた。

 

気付いた切っ掛けはミラアルクの羽の風切り音。羽を使って宙を舞うミラアルクの傍にあって当たり前の音。

 

対して空中に留まるファラの周りからは、一切の音が感じられない。風の渦巻く音どころか、衣服が風に靡く微かな音さえ…まるでその身一つで宙に留まっているかのような…

 

エルザの制止で咄嗟に空中で動きを止めたミラアルク。ファラとミラアルクの距離はまだまだ離れているが…ファラはソードブレイカーの切っ先をミラアルクに向けて、構えた。

 

死の舞踏(ダンスマカブル)

 

 

 

 

 

錬金術師キャロルによって生み出された自動人形、オートスコアラー…万象黙示録完成のために生み出された彼女達は、イグナイトモジュールを纏ったシンフォギア装者達に敗れ爆発四散したはずが、ナナシがパーツをかき集めて修復した事で現在も活動を続けている。

 

その修復には創造主のキャロルを始め、錬金術の開祖たるフィーネや異端技術と機械工学の権威、ナスターシャ教授が協力したのだが…核である聖遺物が一度砕けてしまった影響で、その能力は著しく低下していた。

 

この世界で最高峰とも言うべき者達の手で修復された結果故に、人としての形を保ったままの状態ではそれ以上改良の余地は無いと考えられていた。

 

しかしそれはあくまで人形としての内部構造の話であり…実はある一点において、彼女達は修復前よりも大幅に改良可能な箇所が存在していた。

 

それは、彼女達の人と見紛う程の思考や感情の起伏を可能とさせる…『演算領域』とでも言うべき箇所だった。

 

元々彼女達の高い演算能力は、聖遺物の力を十全に発揮するためと、呪われた旋律を譜面に記すために必要な機能だったのだ。

 

しかし聖遺物が不完全な状態となり、呪われた旋律を集める役割は既に終えているために、彼女達の演算領域にはほとんど手付かずと言って良い程の空白が生まれていた。分かりやすく例えるなら、『膨大なメモリ容量があるのに、便利なアプリが一つも入っていない』状態である。

 

キャロル達もこれは勿体ないと感じており、何か低下した能力を補うような新たな機能を追加出来ないかと考えていた。

 

そうした事情から、オートスコアラー達は『とある研究』に協力する事になり…その研究の副産物(・・・)として、その体に新たな機能が追加される事となった。

 

その機能とは…

 

 

 

 

 

ギュアアアアッ!!

 

「なっ!!?」

 

エルザの制止によってミラアルクは警戒していたからこそ、その一撃を避けられた。

 

しかし警戒していて尚…一瞬の内に目前まで迫った大剣の切っ先が、僅かに前髪を掠めながら通過する程のギリギリの回避しか出来なかった。

 

「は、や…!」

 

「ミラアルク!上であります!!」

 

「っ!?」

 

目の前を通過されて幾ばくも経たない内にエルザから警告され、ミラアルクは咄嗟に強化した腕を頭上に構える。

 

ズガアアアン!!

 

「ぐああああ!?」

 

直後に襲いかかってきた衝撃で、ミラアルクは地面に叩きつけられた。仰向けに倒れたまま上空を見上げると…凄まじい速度で空中を縦横無尽に飛び回るファラらしき影が、ミラアルクの視界の内と外を何度も往復していた。

 

「な、何なんだゼ!?あのデタラメなスピードは!!?」

 

よろよろと立ち上がりながらミラアルクが思わず悪態をついてしまう。気付いた時には正面に移動していた最初の突撃は一瞬空間転移を疑ったが、そうではない。ただ純粋に、視認が追いつかない程に…速い。

 

「あれは…!」

 

レイアの攻撃を防ぎつつ、ミラアルク達の戦闘を見ていたヴァネッサは、三人の中で唯一ファラの動きに心当たりがあった。

 

当然だろう。ヴァネッサは自身の飛行ユニットを限界以上に酷使してさえその動きを振り切る事が出来ず、完膚なきまでに敗北したのだから。

 

そう、ファラが…オートスコアラー達が獲得した、新たな機能とは…

 

「あれは…まさか…あの男の…!」

 

紛い物(・・・)の能力再現だ(・・・・・・)

 

空白の演算領域をフル活用する事で、ナナシの持つ異能を一つ模倣する術を編み出したキャロル達は、オートスコアラー達にそれぞれの低下した能力を補える異能を与えていた。

 

ファラに与えられた能力は“飛翔”…オートスコアラー共通の身体能力低下に加えて、風を操る力が低下してしまったファラだが、この能力によって飛行能力を補う事に成功した。

 

更に“飛翔”は、その前身であった“浮遊”の特性を引き継いでおり、その飛行能力は外部からの力の影響を受ける。

 

ガクン!!

 

「ぬあああ!!?」

 

横を通り過ぎる…そう見せかけて、風を操り自らを横へ押し出す事で直角に曲がってきたファラの大剣をミラアルクが限界まで身を仰け反らせて回避する。弱まった風の力でも“飛翔”の補助に使う事で、より精密な飛行を可能としていた。

 

そして、その風の力を追い風として使用する事によって…

 

ゴシャアアアアアッ!!

 

「ガフッ!!?」

 

「アハハハハハハハ!!」

 

…その最大飛行速度は、“紛い物”さえも上回る。

 

大剣の輝きばかりを警戒していたミラアルクは、ファラが大きく横に伸ばしていた腕を認識する事が出来ず…超高速で繰り出されたラリアットの直撃を受けて再び仰向けに倒れ込んだ。

 

「クッソ、調子に…っ!!?」

 

そしてミラアルクが起き上がるよりも早く、ミラアルクの真上から大剣を構えたファラが迫ってきて…

 

「させないであります!」

 

ガキィイイイン!!

 

…エルザが差し込んだアタッチメントが、ファラの大剣からミラアルクを守った。

 

「エル、ザ…!」

 

「今の内に、態勢の立て直しを!」

 

エルザの高い動体視力と聴覚ならば、高速で迫るファラにもギリギリ対応出来る。しかし反撃まで行う余裕など無く、自分とミラアルクを守るので精一杯だ。

 

「エルザちゃん!ミラアルクちゃん!」

 

ズガガガガガガッ!!

 

家族のピンチにヴァネッサが駆けつけようとするが、レイアがコインの弾幕を張ってヴァネッサの行く手を阻む。

 

「鬱陶しい真似を…邪魔をするんじゃないの!!」

 

一刻も早くエルザ達の元へ向かうために、ヴァネッサは全身の武装を展開してレイア目掛けて一斉に撃ち放った。レイアはコインを撃ち放って可能な限り迎撃するが、撃ち漏らした大量の重火器がレイアへと迫り…

 

その全てが、煙のように消失した。

 

「え⋯?」

 

その光景にヴァネッサが呆然として…その直後に、強烈な既視感に襲われる。故にヴァネッサは、ほとんど反射的にその場から飛び退いた。

 

「踊れ、踊らされるがままに」

 

ズドドドドッ!!

 

「あああああ!!!」

 

そして予想通り、自分の攻撃がそのまま返ってくる悪夢にヴァネッサは回避したにも関わらず悲鳴を上げてしまった。

 

そう、レイアに与えられた能力は…“収納”である。

 

鉱物の強度と生成速度が低下してしまったレイアには、事前に生成したコインの貯蔵が可能となるこの能力が選ばれた。そして当然、“収納”が納められるのはコインだけではない。

 

レイアが両手一杯に出現させた手榴弾を放り投げる。そしてレイアはコインで空中の手榴弾をビリヤードのように弾いてヴァネッサの足元へと飛ばした。

 

「っ!?」

 

当然ヴァネッサは手榴弾から距離を取るため後ろに跳躍したのだか…

 

ドゴオオオオオン!!

 

「きゃあああああ!!?」

 

…そこには既に、レイアが弾き飛ばした別の手榴弾が置かれており、ヴァネッサは見事に吹き飛ばされた。そしてヴァネッサの体が重力に従い地面へと接近して…

 

ドゴオオオオオン!!

 

「あああああああ!!?!?」

 

…ヴァネッサは地に足を付く事も許されず、何度も手榴弾でお手玉のように空中へと飛ばされる事となった。

 

威力は落ちても、レイアの射撃の精密さは健在である。無造作に放り投げられたように見える手榴弾は全て起爆タイミングが異なっており、ヴァネッサが何処へ飛んでいこうと絶妙なタイミングで起爆寸前の手榴弾が差し込まれるのだった。

 

ようやく手榴弾が尽きて地面に倒れ込んだヴァネッサは即座に立ち上がり、なりふり構わずレイアへと急接近した。

 

(遠距離武器は使えない!だったら爆弾が使えないくらい接近して直接叩く!!)

 

幸いレイアの攻撃はどれもヴァネッサに軽傷しか与えられない。であれば無理をしてでも一度近づいてしまえば勝利は目前だ。

 

「フンガァアアアア!!」

 

雨アラレの如く放たれるミサイルや爆弾の中を気合で突き進み、遂にヴァネッサはレイアと接触可能な距離まで辿り着いた。

 

「貰ったぁああああ!!」

 

ヴァネッサがまだ無事な左手を振動させてレイアへと振りかぶる。レイアはヴァネッサの腹部に素手で打撃を叩き込むが、金属を叩いたような音が響くだけでヴァネッサはビクともしない。レイアの悪足掻きとしか思えない行動に、ヴァネッサは勝利を確信して左手を振り下ろして…

 

「サブマスターに見せて頂いた参考資料(アニメ)によると…この国では『射撃武器で打撃を与える』戦法が派手に目を引くらしい」

 

ドゴンッ!!

 

「がっ!!?」

 

突如腹部を襲う衝撃に、ヴァネッサは間一髪足を踏ん張って耐える。ザリザリと床に痕を残しながら、ヴァネッサがせっかく詰めたレイアとの距離が遠ざかってしまった。

 

「思えば私も過去、雪音クリスにライフルで殴打された…なるほど、彼女は戦場で派手に目立つ戦法を弁えていたのか。私も見習わなくは」

 

そう一人で勝手に納得するレイアの手から、何かがゴトリと音を立てて床に落ちる。それはレイアが“収納”から取り出した…対物ライフルの弾丸だった。

 

事前に“収納”へと納めていた、射出状態の弾丸のゼロ距離解放…それはレイアがナナシに紹介されたアニメに出てきた銃を用いた超近接格闘を参考にした戦法だった。普段クリスが拳銃を使って行う戦法が近いと言えば近いが、レイアが過去にクリスから受けたライフルでの殴打はやや趣が異なる。そして扱うのが拳銃などの片手で扱える小口径の弾丸ではなく、戦車の装甲さえ貫く大口径の弾丸では、その戦い方はもはや弦十郎やナナシが使う発勁に近い。

 

しかし理由はどうあれ、軽やかで素早い動きをするレイアが“収納”の能力を用いて行うその戦法は、凄まじい効力を発揮した。

 

不意打ちによって開いたヴァネッサとの距離を、レイアが自ら接近して詰める。想定外のレイアの動きに、ヴァネッサは咄嗟に動けず硬直してしまう。

 

動かないヴァネッサにレイアは足払いのようなローキックを放つ。しかしヴァネッサはしっかりと足を床に押し付け衝撃に備える。レイアのつま先がヴァネッサの足に衝突するが、ヴァネッサは重心すらブレさせる事無くレイアのつま先を受け止めて…

 

ドゴンッ!!

 

「っ!!?」

 

…レイアのつま先で解放された弾丸の衝撃は、ヴァネッサの踏ん張る床の一部ごと彼女の足を掬い上げた。

 

ドゴンッ!!

 

「ぐふっ!?」

 

レイアは蹴る動きからそのまま体を回転させ、ヴァネッサの首裏へ裏拳を放つ。そのまま手の甲に弾丸を解放、地に足の付いてないヴァネッサの体は縦に大きく回転した。

 

「っ~~~~!!?」

 

頭と足の向きが何度も変わり、ヴァネッサはもう自分が何処を向いているのかも分からない。そんなヴァネッサにレイアが踊るように近づき、右手をピストルのような形に構えると、ヴァネッサの胸の中央に人差し指を突きつけた。

 

「BANG!」

 

ドゴンドゴンドゴンッ!!!

 

「ぐあああああああ!!?」

 

弾丸の連発で吹き飛ばされたヴァネッサは二度、三度と地面に体を打ち付け、最後は部屋の壁にぶち当たった。

 

「これくらいの重さでなら、派手に満足して頂けたかな?」

 

そう言ってレイアはピストル型の指先にフッと息を吹きかけ、不敵に微笑むのだった

 

「ヴァネッサ!?ぐうっ!!?」

 

ヴァネッサの劣勢にエルザが動揺するが、ファラの猛攻を前に動く事すらままならない。

 

(このままでは…!)

 

エルフナインの追跡を中断したのは、弱体化したオートスコアラーなど早々に破壊出来ると判断したからだ。こうも手間取っていては、このまま儀式を止められかねない。

 

「ミラアルク!ここは我々に任せて、先に進むであります!!」

 

「なっ!?だけど…っ!!?」

 

再び迫ってきたファラの大剣を、エルザがアタッチメントで弾き飛ばす。ミラアルクではファラの動きに対応出来ない。このまま残っていても力になれないどころか足手纏いだ。

 

「クソ…!」

 

頭ではそれが正しい判断と理解しながら、どうしようもない敗北感を抱きつつミラアルクは何とか部屋を脱出してエルフナイン達の後を追うのだった。

 




作者が書きたかった描写の一つ、『オートスコアラー魔改造』はいかがでしょうか?
残念ながら長くなったので分割させていただきます。
是非ミカとガリィがどうなっているのかを”妄想”しながら次回の更新をお待ちくださいw
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