戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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興がノリに乗って大作になってしまいましたw
長いので分割するか、時間に余裕をもって読む事をおすすめします。

あと、過去の話と比較しても中々な仕上がりになったので読む前に色々と覚悟しといてくださいwノーブルレッドファンの皆様ごめんなさい。大丈夫ですから!ちゃんと幸せにしますから!!冒頭ネタバレとこれまでの実績をどうか信じて!!!(必死w)


第203話

ファラとレイアがノーブルレッドを足止めしている間に、エルフナイン達はエレベーターでシャトーの上階に昇っていた。“以心伝心”でファラ達の戦闘を観戦しながら目的地に近づくのを待っていると…

 

ドゴン!ドゴンドゴン!!

 

…エレベーターの分厚い扉が外から何度も殴られたように歪み、僅かに空いた隙間から禍々しい両腕が差し込まれた。

 

「待たせたなぁ!お仕置きの時間だゼ!!」

 

「ぞなもし!」

 

エレベーター内にミラアルクが侵入してくるが、“以心伝心”で情報を共有しているエルフナイン達は彼女が追ってきている事を知っていたので動揺は無い。ミカが素早くエルフナイン達の前に出ると、伸びてきたミラアルクの両手に自分の両手を組みつけた。

 

「ハン!かつての最強が、この程度のパワーしか出せねえのか?こんな両手、今すぐ粉々に砕いてやる!!」

 

流石にミラアルクも既にオートスコアラー達の事を舐めてはいない。口では強気な事を言いつつ、妙な力を使われる前に速攻で勝負を決めるつもりだった。ミラアルクがミカの両手を破壊しようと自分の両手に力を籠めると、ミカの手からミシリと軋むような音が響いた。

 

 

 

 

 

弱体化したオートスコアラー達の中で、実は最も能力の低下が深刻であったのがミカだ。

 

一応身体能力は全オートスコアラーの中ではトップなのだが、全盛期から低下した力の幅が大き過ぎて慰めにならない。何より致命的だったのは、ミカは自力で武装を用意出来なくなってしまったのだ。

 

以前は炎を自在に操っていたミカだが、今のミカは外部に炎を出現させる事さえ難しい。辛うじて体内で高温のカーボンを生成する事は出来たのだが、メインウェポンとして使っていた高圧縮カーボンロットを成形するためにカーボンを圧縮して射出する力が全く足りておらず、武器を作ろうとすると両手の射出口から不定形のカーボンがモコモコ出てくるという何とも情けない状態になってしまっていた。一応かなりの高温なので、出てきたカーボンを投げつければそれなりの攻撃にはなるのだが、あまりにビジュアルが悪くミカ本人も「カッコ悪いゾォオオオ!!!」とかなりショックを受けていた。

 

そんなミカを救済するためにも、キャロル達はミカの現状に合った能力を慎重に選ぼうとしたのだが…それよりも先に、ミカ本人がある能力を強く希望してきた。

 

「“千変万化”が良いんだゾ!!」

 

あまりに熱望するため、その理由をキャロル達が問い質してみると…

 

「サブマスターみたいに、沢山の手を生やして相手をボコボコにするんだゾ!!」

 

…どうやら以前、ナナシに手の数でマウントを取られた事を地味に気にしていたらしい。

 

しかし、“千変万化”の能力をミカに与える事には少々懸念があった。

 

“千変万化”は体の形状、性質を自在に変化させる力である。しかしナナシが脳を変化させようとすると不具合が起こるように、ただでさえ精密な内部構造をしているオートスコアラーのミカはあまり大きく体の形状を変化させては機能不全に陥る可能性があった。

 

そもそも形状の変化はともかく、性質の変化まで可能ならオートスコアラー達が人間になれる可能性まで出てくる。様々な意味で期待と不安の大きい試みであった。

 

しかし…幾ら考えたところで、実際に試してみない事には結果は分からないのも事実。仮に機能不全に陥った場合は直してやれば良いと、とりあえずいきなり大きな変化はさせず、着脱式の両手の先から少しずつ試していく事をミカに言い聞かせた上で、キャロル達はミカの希望通り“千変万化”の能力を授けるのだった。

 

その結果がどうなったか?

こうなるらしい。

 

 

 

 

 

ドゴンッ!ジュアアアアア!!

 

「あっつ!!?」

 

突如その身を襲った衝撃と熱に、怯んだミラアルクは掴んでいたミカの手を離してしまった。その直後、再び熱を纏った衝撃に襲われ、ミラアルクはエレベーターの扉ごと外に弾き飛ばされてしまった。

 

「な、何が…?」

 

辛うじて、殴られた事は認識出来た。衝撃に襲われる直前、視界の端に拳のような物が見えた。真っ先に浮かぶ可能性はガリィの加勢だが、ガリィはエルフナインと共にエレベーターの端に身を寄せていたはずだ。ミカの両手は塞いでいたはずなのに、一体誰が自分を殴ったのか?

 

混乱するミラアルクの前に、エレベーターからミカがズドンと飛び降りてきた。ミラアルクがその姿を見て…同時に答えへ辿り着いた。

 

無邪気に笑うミカの髪型が、いつの間にか変わっている。左右に大きく広がっていた特徴的なロール髪が、後頭部で一本に纏められているのは…

 

ガシャン!ガシャン!

 

…その禍々しい両手と連動するように打ち鳴らされる、両肩から生えた紅蓮に輝く巨腕(・・・・・・・)に巻き込まれないためであろう。

 

「フフン!マスターとサブマスターから最強の手を貰ったアタシは、最高に無敵なんだゾ!!」

 

キャロル達の懸念は概ね正しかった。“千変万化”で体の形を大きく崩してしまうと、ミカの体には機能不全が発生してしまい、肌である外装を内部が露出しない程度に動かすのが限界であった。制限なく自在に動かせるのは、炎を噴射させる機構が無意味となった髪の毛ぐらいだ。

 

そして、性質の変化も流石に無理だった。無機物を有機物に、人形のボディを人間の体にという変化は当然ながら、元々の物質の構成を変える事も出来ない。変えられるのはあくまでも形状だけだ。これにはキャロル達もホッとしたような、ガッカリしたような、少々複雑な気持ちだった。

 

とどのつまりは、“千変万化”の再現は不完全であり、このままでは能力低下を補えないため他の能力への切り替えを視野に入れ始めたところで、たった一つの想定外…“千変万化”の能力が、ミカの体内で生成された高温のカーボンを『ミカの体の一部』と認識した事が状況を一変させた。

 

両肩に新たに作った射出口から流れ出たカーボンを“千変万化”の力でミカの望む形へと変化させ、自在に操り攻撃を繰り出す…

 

ジュアアアアア!!

 

「ぐあああああ!!?」

 

…触れるだけで敵対者の体を焼き焦がす双腕という、中々に極悪な仕上がりとなった。

 

ミカが振るう巨腕の一撃を咄嗟に強化した手で防いだミラアルクだったが、巨腕と接触した自分の手が焼かれる痛みに悲鳴を上げる。これでは攻撃を防いでも、着実にダメージが蓄積されてしまう。

 

(だったら、速攻で本体を叩くしかないゼ!)

 

ミラアルクが痛みに堪えながら巨腕を弾いてミカの懐に飛び込む。もう一つの巨腕が振るわれる前に、ミラアルクがミカに殴りかかった。

 

「ヨイショオ!!」

 

「なっ!?」

 

しかしミカはもう一つの巨腕を振るうのではなく、床に押し付け逆立ちをするように体を持ち上げてミラアルクの攻撃を回避した。そのまま曲芸のような身のこなしで再びミラアルクに灼熱の巨腕を振るう。

 

「舐めるなぁああああ!!」

 

ミラアルクが羽を広げて紙一重で巨腕を回避しながら空中のミカへと迫る。回避と攻撃で一時的に肩の巨腕を使えなくなったミカは、本来の自身の腕でミラアルクに相対する構えを見せる。

 

「今更そっちの手なんか怖くないんだゼ!!」

 

ミラアルクが叫び、あと少しでミカを間合いに捕らえられる所まで近づいて…

 

「ドーン!」

 

ドゴンッ!ジュアアアアア!!

 

「ぐわあああああああ!!?」

 

…ミカの手の射出口から飛び出した、新たな紅蓮の拳に身を焦がされながら殴り飛ばされた。

 

「ニシシ、コレが『奥の手』ってヤツなんだゾ!」

 

まさか手の中から新たに手が生えてくるとは思わず、直撃を受けたミラアルクは床に叩きつけられてしまった。

 

「ガリィ!今の内にエルフナイン様を頼んだゾ!そんな楽しい任務、ホントはアタシがしたいけど…アタシの手じゃ、どっちもエルフナイン様の手を引く事なんか出来ないから、残念だゾ…」

 

ミカ本来のナイフのように鋭利な手と、新たに得た高熱を放つ紅蓮の手。触れれば敵だけでなく味方さえも傷つけてしまう自分の在り方に、ミカは少しだけ寂しさを感じているようにエルフナインは見えた。

 

「ミカ…」

 

「分かってる。あんたの分まで私に任せて!」

 

ガリィがエルフナインの手を引いて走り出した。エルフナインは後ろを振り返り、残されたミカに叫ぶ。

 

「ミカ!…だけど、カッコイイです!ミカのその手、どっちも大好きです!!」

 

「!!」

 

エルフナインの言葉に、ミカが瞳を輝かせて笑みを浮かべた。

 

「褒められたゾ!照れくさいゾ!!」

 

「くっ…廃棄躯体がリサイクル品の人形と仲良しごっこか?所詮利用されるために生まれた作り物のお前らにはお似合いなんだゼ!」

 

あちこちに火傷を負いながらよろよろと立ち上がったミラアルクが、先程のミカ達のやり取りに精一杯の皮肉を籠めて叫ぶ。しかし…

 

「いぐざくとりー!!」

 

「!!?」

 

何故かミカはミラアルクの言葉を、満面の笑みで腰に手を当てて堂々と肯定してみせた。

 

「アタシ達は世界一凄いマスターに作られて、世界一お人好しなサブマスターに拾い直してもらった、きっと世界一幸せなツクリモノなんだゾ!パチモノのお前らなんか目じゃないゾ!!」

 

その在り方に何一つ恥じる事はないと、誇らしそうに胸を張るミカの姿は、この上なくミラアルクの心をかき乱した。

 

「てめえ…!」

 

「照れ隠しに邪魔者をぶっ飛ばしちゃうゾ!」

 

怒りを露わにするミラアルクに、ミカは紅蓮の巨腕を構えながら向かって行った。

 

 

 

 

 

しばらくの間、エルフナインを抱えたガリィが地面を凍らせて滑るように移動していると…遂に、未来のいる儀式場の扉前まで辿り着いた。

 

「あそこです!」

 

「あの向こうに、未来さんが…」

 

「っ!?」

 

ようやく目的地に辿り着いたと思った瞬間、ガリィの顔が強張り急遽進路を変えて…

 

ドカアアアアン!!

 

…その直後、ガリィ達のすぐ傍の床が爆発して大穴が空いてしまった。その穴から這う這うの体と言った様子のエルザがアタッチメントでヴァネッサを咥えた状態で現れ、直後に二人は床へと倒れ込む。そのすぐ後、同じ穴からレイアと手を繋いだファラが悠々と姿を現した。

 

「あ~んもう!しっちゃかめっちゃか!!元とは言えマスターの住居をあんまり派手に壊さないでよ!」

 

「済まない、ガリィ。私がサブマスターに見せてもらった格闘ゲームの派手な空中コンボを再現していたら、自棄になった彼女が派手にミサイルをばら撒いてしまった」

 

「私の方にも沢山飛んできたから躱している間に、あのワンちゃんがお仲間を咥えて落ちてくる瓦礫を足場に天井の穴から飛び出してしまって…」

 

「あーハイハイ、見てたから分かってるって」

 

“以心伝心”で情報を共有していたからこそ、位置関係から危機を察したガリィは咄嗟に進路を変えてエルフナインを守ったのだ。

 

そこへ更に…

 

ドゴォオオオオオン!!!

 

「があああああああああ!!!」

 

「アハハハハハハ!巨人パンチなんだゾ!!」

 

…ミカが高温のカーボンを一点に集約して形作った巨大な拳で壁をブチ破り、ボロボロのミラアルクと共に部屋へ飛び込んできた。

 

「あんたまで派手に城ぶっ壊してどうすんのよ!?このおバカ!!」

 

「あっ!?ゴメンなんだゾ!!」

 

結局オートスコアラー達とノーブルレッドは儀式場の前の部屋に集まってしまった。ガリィは溜息を吐いて肩で息をするノーブルレッドに声をかけた。

 

「いい加減諦めなさいよ?この調子で儀式場まで壊されたら困るし、これ以上暴れるつもりならサブマスターには申し訳ないけど…本気でお仕置きしますよ?」

 

「誰、が…!」

 

「諦めるもので、ありますか…!」

 

「神の力で…私達は、元の人間に…!」

 

ガリィの降伏勧告にも耳を貸さず、ノーブルレッドは立ち上がってしまった。ガリィはヤレヤレと呆れながら、抱えていたエルフナインを降ろす。

 

「ガリィ…?」

 

「面倒臭い方達ですねぇ?仕方ない…あなた達の頭の中のお花畑を踏み躙ってあげましょう♪」

 

そう言って、とても邪悪な笑顔を浮かべながらガリィが前に出る。その笑みを見たノーブルレッドの体に、ゾクリと悪寒が走った。

 

「レイアちゃん!」

 

「了解、派手に行く!!」

 

カッ!!

 

「「「っ!!?」」」

 

ガリィの指示を受けたレイアの眼光から眩い光が照射される。ガリィを警戒していたノーブルレッド達は思わず目を塞いでしまう。ほんの数秒目が眩み、三人の視界が徐々に元通りになると…

 

 

 

 

 

他のオートスコアラー同様、ガリィも大幅に能力が低下している。水を生み出し操る事は出来るが、攻撃に使える程の威力で撃ち出す事など不可能。更には繊細な操作も出来なくなったため、以前のように水で作った自分の写し身と入れ替わり相手を惑わすような戦い方も出来なくなった。水を人型に形作る事自体は出来ても、時間はかかるし不自然な動きしかさせられない。

 

そんなガリィの戦力を補う能力はどれが良いかとキャロル達が頭を悩ませていると、ガリィもミカと同様に自ら一つの能力を希望してきた。

 

しかしガリィが望んだ能力は、ミカ以上に希望した理由が不可解であり、その能力で一体どうやって戦力を補うつもりなのか全く分からず、キャロル達がガリィに理由を尋ねると…

 

答えを聞いたキャロルがとても嫌そうな顔をするのを見て、ガリィは心底楽しそうに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

視界を奪われている間に、エルフナイン達がいなくなるのではと考えていたノーブルレッドだが、それは杞憂だった。エルフナイン達は自分達の前にいる…無数に(・・・)

 

「「「なっ!!?」」」

 

一瞬の内に部屋を埋め尽くす程に増殖したエルフナインとオートスコアラー…そして自分達の姿(・・・・・)に、ノーブルレッドが言葉を失う。まだ視力が正常に戻っていないのかと目元を擦って何度も見直すが、目の前の光景が変わる事は無い。

 

「な、何なんだゼ!?これは!!?」

 

「あの人形達だけでなく、私達まで…!?」

 

「あの男が使っていたダミー人形?しかし、そんな物を用意するような暇はなかったはず…っ!?」

 

三人が困惑していると、遂に増殖したオートスコアラー達が襲い掛かってきた。いち早く反応したミラアルクが迎え撃つため、向かってくるオートスコアラー達に拳を振るい…

 

スカッ…

 

「っ!!?」

 

…ミラアルクの拳がオートスコアラー達の体をすり抜け、攻撃を思い切り空振りした事でミラアルクは態勢が崩れてしまった。

 

ドゴンッ!!

 

「ぐああああ!!?」

 

「アハハハハハ!!」

 

そしてその隙を突くように、いつの間にか接近していたミカがミラアルクを殴り飛ばしてしまった。

 

「ミラアルク!!」

 

「今のって、ひょっとして…!」

 

オートスコアラー達の体がミラアルクの拳を通り抜けたのを見て、ようやくヴァネッサ達はこの現象の正体を察する。

 

「ざぁんねん、それは変えられない過去の幻影で~す!アハハハハハ♪」

 

何処からかガリィがそう嘲笑うと、周囲のエルフナインやオートスコアラー達、そして自分達の姿が突如として消滅、かと思えば位置やポーズが変わった状態で再び姿を現した。

 

そう、ガリィがその体に宿した能力は…“投影”である。

 

過去の出来事を視覚化する能力…凡そ戦闘に役立つとは思えない能力であるが、ガリィは悩む事無くその能力を希望した。その力の片鱗は先程示されて…その真髄は、これからノーブルレッド達が身を持って味わう事になる。

 

「つまり、大量に現れた奴らや我々は、あの男の力で表示された過去の一場面と言う事でありますか…特定人物だけの選択、そして多重表示も可能とは…!」

 

「触れもしない偽物に紛れて、本物が奇襲を仕掛けてくるって訳ね?厄介な…っ!?」

 

周囲を警戒するヴァネッサの前に、ミラアルクが姿を現す。先程殴り飛ばされたミラアルクが戻ってきたのかと思ったが、そのミラアルクは拳を構えてヴァネッサに突撃してきた。

 

(馬鹿ね!ミラアルクちゃんが私達に襲い掛かってくる時点で偽物確定じゃない!)

 

仲間がこちらに襲い掛かってくる姿に動揺している間に奇襲を仕掛けるつもりだと判断したヴァネッサは、向かってくるミラアルクを無視して周囲を警戒する。そんなヴァネッサに、ミラアルクの偽物が拳を振り下ろし…

 

ドゴンッ!!

 

「がはっ!!?」

 

…拳の直撃を受けた瞬間、ヴァネッサは衝撃で吹き飛ばされた。

 

「ヴァネッサ!?」

 

「ぐっ…な、何故!?」

 

本物のミラアルクが自分達を襲う訳がない。間違いなく偽物なのに、攻撃だけは本物…そんな風に混乱するヴァネッサの近くに、何かがコロコロと転がってきた。

 

それは先程まで嫌と言う程その身で味わい続けた…対物ライフルの弾丸であった。

 

「そういう、事…!」

 

先程のミラアルクはやはり偽物、しかしそれは外側だけだ。非実体の幻影の内部に、本物のレイアが潜んで幻影の動きに合わせて攻撃してきたのだ。

 

「何と厄介な…っ!?」

 

ギュアアアア!!

 

「アハハハハハハ!!」

 

奇襲を警戒していたエルザに、幻影達を突き抜けてファラが大剣を前に構えながら高速で迫ってきた。実体の無い目隠しの中から突如現れたファラに、流石のエルザも対応しきれず大剣が目前まで迫り…

 

ドン!!

 

…ファラの攻撃が当たる直前、ヴァネッサがエルザを胸元に抱えて押し倒す事で大剣を躱し、エルザの窮地を救った。

 

「ヴァネッサ!助かったであります!今の攻撃によく対応出来たで…」

 

「待ってエルザちゃん!?」

 

「ありま…えっ?」

 

安堵したのも束の間、エルザは自分に覆い被さるヴァネッサの声が横方向から聞こえてくるという奇妙な現象に硬直する。それと同時に気づいたのは、自分をしっかりと抱えるヴァネッサから漂う…水の匂い。

 

それは私じゃない(・・・・・・・・)!!」

 

ズボォ!!

 

「ガボゴボゴボッ!!?」

 

次の瞬間、エルザの顔がヴァネッサの胸元から内部へと取り込まれて、そこに満たされていた水によってエルザは息が出来なくなった。

 

そう、まるでエルザを助けるように接近したのは本物のヴァネッサでも、“投影”で表示させた幻影でもない…ガリィが作った水人形だ。

 

顔を完全に水で覆われたエルザはジタバタと藻掻くが、完全に覆い被さる形で自分を包み込む水人形から逃れる事が出来ない。

 

「エルザちゃんを離して!!離れなさいよ!!」

 

ヴァネッサも懸命に水人形を引き剥がそうとするが、水で出来たその体は強く掴むと形が崩れて手の間から零れてしまう。ヴァネッサが手を拱いている間に、呼吸の出来ないエルザの動きが徐々に弱まってきた。

 

「っ!!……ごめん、エルザちゃん!!」

 

ガスッ!!

 

「がふっ!?ゲホッ、ゴボッ!!」

 

ヴァネッサが水人形に覆われるエルザを蹴り飛ばした。乱暴な方法ではあるが、蹴りの勢いによって体に纏わりついていた水から解放されたエルザは、口に残っていた水を吐き出して呼吸を整える。蹴りの衝撃で大きく形を崩したヴァネッサの水人形は、そのまま崩れて床の水溜りと化した。

 

「エルザちゃん!大丈夫!?」

 

蹲るエルザにヴァネッサが駆け寄ろうとすると…

 

「エルザに近寄るなぁああああ!!」

 

「っ!!?」

 

…怒りの形相のミラアルクが、ヴァネッサに飛び掛かってきた。

 

ミカに殴り飛ばされた後、ヴァネッサ達と同様に幻影に潜むオートスコアラーに奇襲を受けていたミラアルクは、ヴァネッサ達の前後のやり取りを見ていない。奇襲が納まり、周囲を確認したミラアルクの視界に映ったのは…蹲り咳き込むエルザと、蹴りを放った状態のヴァネッサだった。

 

「よくもエルザを!この偽物があああ!!」

 

「ま、待ってミラアルクちゃん!?私は本物よ!!」

 

「ふざけるな!!本物のヴァネッサがエルザを傷つける訳ないんだゼ!!」

 

誰よりも家族想いなヴァネッサが、自分達を傷つけるなんてあり得ない。それがミラアルクにとって絶対の真理であり、覆る事など考えられない。加えて家族の幻影を利用した奇襲で冷静さを失っていたミラアルクには、ヴァネッサの言葉は届かなかった。

 

「お願いミラアルクちゃん!話を…」

 

「うるせええええええ!!」

 

反撃出来ないヴァネッサが必死に呼び掛けるが、怒りで我を忘れたミラアルクは強化した腕をヴァネッサへと振り下ろして…

 

ガキィイイイン!!

 

…ミラアルクの腕を、蹲りながらエルザが伸ばしたテール・アタッチメントが弾き飛ばした。

 

「ゲホッ…ミラアルク…そのヴァネッサは、本物であります…ゴホッ!」

 

「えっ…?」

 

「エルザちゃん!!」

 

息も整っていない状態で無理をしたエルザの元にヴァネッサが慌てて駆け寄るのを、ミラアルクは呆然と眺める事しか出来なかった。

 

「本物…?だって、エルザが…何でヴァネッサが、エルザを…っ!!?」

 

混乱するミラアルクに、ヴァネッサの影が飛び掛かってくる。咄嗟にミラアルクは腕を振るって…ミラアルクの拳に当たったヴァネッサの影は、水飛沫を撒き散らして消滅した。

 

「あっ…」

 

新たに生まれた水溜まりと、よく見れば全身濡れているエルザの姿に、朧気ながら事態を把握したミラアルクが、震える声でヴァネッサに声をかける。

 

「ヴァネッサ、ごめっ…ウチは、エルザを守ろうと…ウチは、ヴァネッサを…!」

 

「大丈夫!全部分かっているから!エルザちゃんを守ろうと必死だったミラアルクちゃん、とってもカッコ良かったわよ?」

 

「っ…」

 

エルザの背を擦りながらヴァネッサがミラアルクに優しく微笑む。敢えて軽いノリでミラアルクを褒めてみせる事で空気を切り替えてくれるヴァネッサは紛れもなく自分達の優しい姉であり…そんなヴァネッサを疑い拳を振るってしまった事を、ミラアルクは凄まじく後悔した。

 

 

 

 

 

一連のやり取りをガリィと共に離れた場所で見ていたエルフナインは、少々引き攣った顔でガリィに問いかけた。

 

「この戦法って、ひょっとして…」

 

「はぁ〜い♪マスターや元パヴァリアの連中を追い詰めるサブマスターを参考にさせて頂きました!修理後の情報整理でマスターがS.O.N.G.に投降するまでの記録を見た時はビックリしましたよ。泣き叫ぶマスターは是非生で見たかった!!」

 

茶化すようにそう語るガリィだが、正直ガリィはその記録を見た時にかなり大きな衝撃を受けていた。

 

自分達の創造主であるキャロルは、どれだけ強大な存在を前にしても動じる事なく、冷静に策を巡らせて如何なる障害も排除していく世界最高峰の錬金術師である。これはガリィ達の従者としての立場を抜きに考えても、たった一人で世界を相手に戦い万象黙示録の完成間近まで計画を進めたという実績が証明する紛れもない真実だ。

 

そんな偉大な主であるキャロルが、ただの人形と舌先三寸だけで見た目相応の子供のように泣き叫ぶなど思いもよらなかった。詳細を聞き、その時は偶々奇跡的に状況が噛み合っただけとも考えられたが…その後ナナシは、偉大なる主に及ばないまでも(ガリィの主観)錬金術で世界の上位に君臨するパヴァリア光明結社の幹部達さえも同様の手段で翻弄してみせた。

 

(切った張ったは放っておいても他の子達がやってくれる。だったらサブマスターの力で中途半端に継ぎ接ぎを補うより、サブマスターのお株を奪うくらいにその手腕を見習った方が面白そうね♪)

 

相手の根幹をも揺るがす嘲りのテクニック…それに興味を示したガリィは、“紛い物”の力だけでなく在り方さえも模倣してみせた。

 

「とは言え、エルフナイン様には少々刺激が強いと思われますので、少しの間お目目とお耳を塞いで頂ければ我々で片付けますよ?」

 

「…いいえ、ガリィ達にはボクの我儘に付き合って貰っているんです。だから最後まで見届けます。いえ、寧ろ…」

 

ガリィの采配に翻弄されるノーブルレッド達を見たエルフナインは少しの間考え込むと、ガリィにある事を申し出た。

 

「ガリィ、もう少しだけ彼女達を追い込む事は出来ますか?そうすれば…」

 

 

 

 

 

「ヴァネッサ、エルザの事を頼む」

 

罪の意識に苛まれたミラアルクは、ヴァネッサ達に背を向け周囲の幻影を睨む。

 

「ミラアルクちゃん…?」

 

「エルザが回復するまで、ウチがヴァネッサとエルザを守る!しばらくウチには近づかないようにして欲しいゼ!」

 

「ミラアルク…待つであります…今、我々が離れるのは…」

 

エルザが弱弱しい声で引き止めるが、その声は届かずミラアルクは幻影の中に突っ込んでいった。

 

(ウチ一人で戦えば、人形も偽物も関係ない!向かってくる奴は全部ぶっ飛ばしてやるゼ!!)

 

近づいてくる幻影に腕を振るい、攻撃がすり抜けるのも構わずミラアルクは再び拳を構える。

 

「ウチが守る!ヴァネッサを!!エルザを!!!」

 

「アハハハハ!!」

 

幻影に紛れて襲いかかってくるミカの紅蓮の巨腕を受け止め、ミラアルクは顔を痛みに歪ませながらも反撃を繰り出す。

 

「家族をおおおおお!!!!」

 

「ミラアルク!!」

 

ミカがミラアルクの攻撃を躱して幻影達の中に隠れる。それと入れ替わるように飛び出してきたエルザの影に、ミラアルクは不快感を覚えながらも腕を伸ばして…

 

ザシュッ!!

 

…ミラアルクの腕がエルザの体を貫き、鮮血を撒き散らした。

 

「………えっ?」

 

腕に伝わる温もり、水とは異なる感触と鉄臭さに、ミラアルクの頭が真っ白になった。放心するミラアルクが降ろした腕からズルリとエルザの体が抜け落ち、仰向けに倒れたエルザを中心に血の海が広がった。

 

「ミラ、アルク…」

 

信じられないとでも言うように、エルザが見開いた瞳でミラアルクを見つめ…そのまま動かなくなった。

 

「あ~あ、殺っちゃったんだゾ。せっかくここまで来たのに…」

 

「来、た…?何を、言って…エルザとヴァネッサは、最初から、この部屋に…」

 

「え~っと…そもそもおかしいと?思わなかったんだゾ?そいつらがレイア達を引き受けてお前を先に行かせたのに、何で先にそいつらの方が?お前より早くガリィに追いついたんだゾ?」

 

「っ!!?」

 

思考が麻痺したミラアルクには、台本を朗読するようなミカの話し方に意識が回らない。その頭に駆け巡るのは、自分にとって最悪の可能性…

 

部屋にいたエルザ達は、最初から偽物で…後から駆けつけ、敵に囲まれた自分に駆け寄ってきたエルザを、その手にかけてしまったのではないか…

 

「はぁっ…はぁっ…!」

 

それは違う、このエルザも偽物だ…必死にそう自分に言い聞かせようとするミラアルクだが、一度生まれた疑念は消えない。少なくともその手にこびり付いているのは、紛れもない血液である。血に濡れた自分の手と、エルザにしか見えない亡骸を前に、ミラアルクは何も考えられなくなり…

 

「うわあああああああああああああ!!!」

 

…胸の内に溢れる恐怖を、絶叫として吐き出す事しか出来なかった。

 

「ミラアルクちゃん!?」

 

「一体何が!?」

 

幻影に誘導され、遠く離れても響き渡ったミラアルクの絶叫にヴァネッサと本物のエルザが驚愕した。

 

当然ながら、ミラアルクが貫いたのはガリィの用意した偽物である。レイアの“収納”から取り出した血液の入った袋をガリィの水人形で包み、ミカが程良く温めてファラが風で押し出した。声は“投影”でエルザの声を譫言っぽく分割して再生させただけである。血液の中には少量の小麦粉が混ぜられており、貫く際に一瞬の抵抗が生まれるのがポイントだ。これほど悪意の籠った隠し味もなかろう。

 

「ミラアルクを助けるであります!」

 

「ええ!!」

 

ようやく呼吸の落ち着いたエルザが駆け出し、ヴァネッサもその後に続こうとして…

 

ガンッ!!

 

「あたっ!?」

 

…ヴァネッサの周りは、いつの間にか半透明な壁に囲われていた。

 

「ヴァネッサ!?」

 

「あなたはこちらですわよ?ワンちゃん!」

 

ガスッ!!

 

「ワオオオオン!?」

 

そして間髪入れずにエルザがファラの襲撃を受け、エルザの姿は幻影達の中に消えていった。

 

「エルザちゃん!?……っ!?」

 

孤立させられたヴァネッサの前に、いつの間にかガリィとエルフナインが立っていた。

 

「あなたにお話があります」

 

「こっちには無いわよそんな物!!こんな壁すぐに…」

 

取り付く島もない様子で、ヴァネッサが“障壁”を破壊するため暴れようとすると、ガリィが指を打ち鳴らした。

 

「うわあああああああ!!」

 

「ワオオオオン!?」

 

「っ!!?」

 

直後に響く家族の悲鳴に、ヴァネッサは体を硬直させた。

 

「あなた達…!」

 

「ボクは、あなたに、お話があります」

 

含ませるようにゆっくりと言葉を繰り返すエルフナインに、ヴァネッサは歯を食いしばりながら構えを解く。しかし、無言の肯定を良しとしなかったのか、ガリィが再びパチンと指を打ち鳴らした。

 

「うわあああああああ!!」

 

「ワオオオオン!?」

 

「わ、分かったわよ!聞くわよ!聞くからこれ以上あの子達に酷い事をしないで!!」

 

「それはあなた達の態度次第です」

 

言質を与えないまま、エルフナインは淡々とヴァネッサに用件を伝え始めた。

 

「降伏の勧告です。もし受け入れるつもりがあれば…」

 

「受け入れる!降伏します!!だから早く二人を…」

 

パチン

 

「うわあああああああ!!」

 

「ワオオオオン!?」

 

もはや抵抗は困難、故に家族の安全を考え即座に降伏を選んだヴァネッサだったが、それに対する返答は家族の絶叫であった。

 

「な、何故!?」

 

「ボクの話は、終わっていません」

 

思わず怒鳴りそうになったヴァネッサであるが、エルフナインの隣でニヤニヤ笑いながら指を構えるガリィを見てヴァネッサは歯を噛み砕かん勢いで口を閉じた。

 

「あなたが降伏を受け入れた場合、ボクが儀式を中断するまでの間…エルザさんの身柄をこちらで預からせて頂きます」

 

「っ!!?」

 

エルフナインの言葉に、ヴァネッサは凍り付いたように硬直した。

 

「ファラにエルザさんを抱えたまま限界まで上空に上昇してもらい、あなたやミラアルクさんが抵抗したり、エルザさんが逃げようと暴れたりしたら…ファラにはその場でエルザさんを放棄してもらいます」

 

「そんな…ひ、人質なんて取らなくても、私達は抵抗しない!せめて人質ならエルザちゃんじゃなくて私を…」

 

「それなら交渉は決裂です。ボクはガリィ達を信じて、このまま儀式の中断に向います。その場合、もうガリィ達が止まる事はありません。あなた達は好きなだけ抵抗すれば良い」

 

「あなたに心は無いの!?」

 

思わずそう叫んでしまったヴァネッサの言葉に、エルフナインは傷ついたり怒った様子はなく…ただ、呆れたように溜息を吐いた。

 

「あなた達は本当に、自分達の事を『被害者』としか思っていないのですね…」

 

「何ですって!?」

 

「では、質問に質問で返す無作法を承知で聞きますが…」

 

そう言ってエルフナインがガリィに目配せをすると、ヴァネッサの前に無数の光景が浮かび上がり…

 

『分かり合えないわ。あんな男と馴れ合うようなあなた達とは…』

 

『それでも私達は神の力を求め欲する!神の力でもう一度、人の体と戻るためにぃいいい!!』

 

『用済みと判断された彼とは異なり、彼女は生かしているであります』

 

『フン、だったらこの血液の使い方も、あのクソ野郎の望みから外れてないんだゼ…もしこの方法が上手くいかなかったら、お前の体をシャトーのセキュリティが突破出来るように弄る必要が出てくるんだからなぁ?』

 

『あのクソ野郎の血液に頼るなんて癪だが、あいつが自分のせいで仲間が大変な目にあったと知った時の顔を思い浮かべれば腹の虫も少しは治まるってものだゼ。精々ウチらを舐めた事を後悔すれば良いんだゼ!』

 

『もう良いわ…死になさい!』

 

…ノーブルレッド達のこれまでの所業が映し出された。

 

「これが、あなた達にとって心ある者の言動なのですか?」

 

「な…っ…!」

 

エルフナインの問いに、ヴァネッサは何も言えなくなる。ぐうの音も出ないとはまさにこの事だ。自分達のために他者を顧みない行動を続けてきたヴァネッサ達に、エルフナインを非難する資格など無い。

 

「ボクには、あなた達の言葉を信じる理由がありません。ボクがあなた達を唯一信じられるのは、家族を想う心だけ…だからこそ、その大切な家族の身柄をボク達に預けるなら、降伏を受け入れる事が出来ます。もしあなた達が、家族さえ裏切ってボク達の邪魔をするならば…ボクも覚悟を決めて、あなた達を切り捨てられます。この提案は、あなた達のためではない。この状況でまだ、あなた達の事を見捨てる覚悟が固まらないボク自身の我儘です」

 

拳を握り締め、精一杯気丈に振舞うエルフナインの言葉は、だからこそこの上ない覚悟が籠められていて…その言葉が全て本気である事がヴァネッサにも伝わった。

 

「三分だけ待ちます。ヴァネッサさん、三人を代表してあなたが決めてください。この三分が、一刻も早く未来さんの元へ向かいたいボクに可能な最大限の譲歩です」

 

 

 

 

 

(マズいで、あります…!)

 

ヴァネッサが度々聞いた悲鳴は、ガリィが彼女の心を乱すために“投影”で音声を流しただけだ。ミラアルクはエルザの亡骸の真偽を確かめる勇気が出ず未だ呆然自失状態、エルザはヴァネッサの元へ戻ろうと足掻くたびにファラやレイアに転がされ続けている。

 

(この状況はまさに、あの男が言っていた『力と虚飾(ウソ)』!この窮地を乗り切るには、どうにかこの人形達の虚飾を見破らなければ…!)

 

ミラアルクの心が折れ、ヴァネッサが選択を迫られる中、エルザだけがまだ勝利を諦めていなかった。

 

(例え勝てなくても、儀式が完了するまでの時間稼ぎに、我々を脅威と認識させなくては…我々が連携出来れば、まだ活路はある!しかし、盗聴される可能性がある以上念話(テレパス)は使えない。何か、何か方法は………そうだ!!)

 

 

 

 

 

その頃、“障壁”の中で苦悩するヴァネッサに、エルフナインが最後通告を行っていた。

 

「時間まで一分を切りました。延長はあり得ません。無回答も拒絶と同義として扱わせて頂きます」

 

「っ!……分かった、わ…私達は、あなた達に、降ふ…」

 

「ワオオオオオオオオオオオオオオン!!!」

 

ヴァネッサが降伏を受け入れようとしたその時、部屋中にエルザの咆哮が響き渡った。

 

「エルザちゃん…?」

 

「エル、ザ…?」

 

力強いエルザの咆哮によってヴァネッサが言葉を止め、ミラアルクの瞳に光が戻る。エルザの行動にファラとレイアが警戒していると、エルザはアタッチメントを展開して…体の周囲を半球状に包み込むと、高速回転して幻影の中に突っ込んでいった。

 

「一体何を!?」

 

「派手に理解不能!?」

 

ここに来てエルザが無差別攻撃に出ると思わず、ファラとレイアは攻撃を回避しつつ様子を見る。何らかの方法で偽物を判別しているのかと思ったが、そうでもなさそうだ。実際、円を描くように満遍なく攻撃を繰り出したエルザは…ヴァネッサを囲う“障壁”にガツンとぶつかった。

 

「エルザさん…!」

 

「チッ!悪足掻きを!!」

 

ガリィが驚くエルフナインを抱えてその場を撤退する。ヴァネッサを閉じ込めていた“障壁”も同時に消えるが…エルザは中にいたヴァネッサにも配慮する事なく、無差別の攻撃を継続した。

 

「エルザちゃん!?一体何を!!?」

 

困惑しながらヴァネッサはエルザの攻撃を避け続ける。エルザの攻撃が衰える様子は無く、遂にエルザはミラアルクの傍まで辿り着き、その傍にあった自分の偽物の残骸を吹き飛ばした。

 

「エルザ!?」

 

「メチャクチャだゾ!?」

 

ミカが文句を言いながら撤退して、ミラアルクがエルザの無事に安堵しつつその行動に困惑する。反撃する訳にも行かず、何度も攻撃を躱していたヴァネッサとミラアルクは、一時避難のために空中へと飛び上がり…

 

「あっ!?」

 

「そういう事!?」

 

…ようやく二人はエルザの意図を察する事が出来た。

 

ノーブルレッドの中で、唯一飛行能力を持っていないのがエルザだ。故にヴァネッサ達が空中に避難さえしてしまえば、エルザは心置きなく攻撃に専念出来る。

 

更に、オートスコアラーの中で飛行能力を持っているのはファラだけだ。ガリィの水人形も空中で自在に操る事は出来ないため、二人はファラの攻撃だけを警戒すれば良い事になる。

 

慌ててガリィが空中にファラとヴァネッサ達の幻影を出現させるが、一際早く空中へ退避していたヴァネッサとミラアルクは既にお互いを認識している。

 

「ヴァネッサァアアアアア!!」

 

「ミラアルクちゃあああん!!」

 

バキィ!!

 

二人は即座に接近すると、互いの顔に拳を叩きつける。それは互いが本物である事の証明と…最も幼いエルザに負担を掛けた、家族としての自戒の一撃である。

 

ヴァネッサとエルザは背を向け合う形で腕を組み、お互いに死角を補う。迫る幻影にヴァネッサは射撃を行い、ミラアルクは羽の片方をブーメランのように投げ飛ばして攻撃を繰り出す。完全に勢いを取り戻したノーブルレッドは、連携して幻影に惑わされない布陣を展開してみせた。

 

「あちゃ~、してやられましたね?」

 

「ええ…すみません、ガリィ。せっかく協力してもらったのに、失敗してしまいました」

 

儀式の中断を邪魔されないよう、早々にノーブルレッドを降伏させようとした目論見が外れてエルフナインが俯く。そんなエルフナインの頭を撫でながら、ヤレヤレと言った様子でガリィがパチンと指を弾くと、部屋中にいた幻影が全て消滅した。

 

「ガリィ?」

 

困惑するエルフナインの元に、他のオートスコアラー達が集結する。そして、攻撃を止めたエルザの元にヴァネッサとミラアルクも集まった。両陣営が睨み合っていると、ガリィが一歩前に出た。

 

「うわ~、とっておきの策を見破られて、私達負けちゃうかも~…ギャハハハハ!!」

 

まるで窮地に立たされたような困り顔…その直後に邪悪な笑みを浮かべ、両手を広げてノーブルレッドを煽るように嘲笑った。

 

「家族の絆で見事敵の策略を打ち破った。さあ反撃だ…と、見せた希望をここでバッサリ摘み取るのよね~♪」

 

 

 

「そのために、自らの主さえも利用するか…性根の腐ったガリィらしい」

 

 

 

通路の奥から聞こえてきたその声に、エルフナインとノーブルレッド達が目を見開く。コツコツと足音を響かせながら現れたのは、エルフナインと瓜二つの姿をした少女…

 

「バカな…!」

 

「何でてめえがここに!?」

 

「本物で、ありますか…!」

 

戸惑うノーブルレッド達など眼中に無いかのように、少女がエルフナイン達の傍まで近づくと、オートスコアラー達はそれぞれポーズをとって少女を迎え入れる。

 

「奇跡って、一生懸命の報酬らしいですよ?ここまで頑張ったエルフナイン様のためにも、それくらい協力してくれても良いと思いませんか?ねえ…マスター?」

 

「キャロル…!」

 

「ハン!」

 

ガリィの言葉に、少女…キャロル・マールス・ディーンハイムは不敵に微笑むと、錬成陣から取り出したダウルダブラの弦をポロロンと弾く。すると、ダウルダブラがローブへと形を変えてキャロルの体を包み込んでいく。しかし、何故か以前のように体が大人へと成長する事は無く、キャロルは幼い姿のままでファウストローブを展開させた。

 

「奇跡だと?冗談じゃない!オレは奇跡の殺戮者だ!!」

 

その小さな体から、幻影ではあり得ない圧倒的強者の圧力を放ち…人形達の主が、かつての居城へと君臨した。

 




オーバーキルw
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