戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
錬金術師キャロルの予期せぬ登場に、ノーブルレッド達は動揺を隠せなかった。
(あのジジイ!キャロルやパヴァリアの錬金術師共はS.O.N.G.に閉じ込めておく手筈だったはずだゼ!?何であいつがここに居やがる!!?)
組織に属する以上、如何に反抗的な態度を取っていても、キャロル達は日本政府の要請を完全には拒絶出来ないはずだった。訃堂が手を回している以上、要請の撤回などあり得ないはずなのに、何故…
ノーブルレッド達の疑問は解消されぬまま、事実としてこの場に現れたキャロルはエルフナインの傍に近づくと…バツの悪そうな顔でエルフナインの頭に手を置いた。
「悪かった…何も知らせず、怖い想いをさせて…」
「大丈夫ですよ…皆が守ってくれたので」
エルフナインは優しく微笑み、オートスコアラー達が誇らしげに笑顔を返す。そんなエルフナイン達を見て、キャロルもフッと笑みを零した。
「思えば、不要無用と切り捨ててきたモノに、救われてばかりだな……ありが…」
「似合わない事に浸らせないゼ!!」
先手必勝とばかりに、ノーブルレッド達など眼中に無いキャロルの不意を打つためミラアルクが強化した腕をキャロルに振るう。しかしキャロルはミラアルクに視線を向けないまま、錬金術の防壁で易々とその攻撃を受け止めてみせた。
「やっぱりあれは、あの男の力で表示させた幻影ではなく…!」
「本物のキャロルでありますか!?」
初めてキャロルがノーブルレッドへと視線を向ける。それはエルフナイン達に向ける物とは全く異なる、氷のように冷たく鋭い眼光だった
「オレの感傷に踏み込んできたのだ。それなりの覚悟はあってだろうな?」
「くっ!?」
「「うおおおおおおおおお!!」」
その視線の圧に屈しそうになるノーブルレッドだったが、雄叫びを上げて自分達を鼓舞しながらエルザとミラアルクがキャロルの側面に回り込み、ヴァネッサがキャロルの気を引くために正面から無数の弾丸を放つ。キャロルは弾丸を防壁で防ぎながら…その口から、力強い旋律を奏で始めた。
『腹立たしい不変の世を踏み躙る 戦鬼は要らぬか答えよ!』
「はあああああああ!!」
キャロルの背後に回ったミラアルクが強化した拳を振り下ろすが、その重い拳の一撃はキャロルが張った数本の弦でアッサリ受け止められた。続いて放った蹴りも同様に受け止められ、弦に足を絡め捕られたミラアルクはそのまま投げ飛ばされてしまった。
『解と出来ない煩わしいこの感情 捻じ込む餌食は何処だ!』
「ふっ!!」
今度はキャロルの頭上からエルザがアタッチメントで奇襲を仕掛けるが、ミラアルクと同じようにアッサリと弦で絡め捕られて投げ捨てられる。
「バレルフルオープン!お姉ちゃんも出し惜しみしてらんなーい!!」
ヴァネッサが全身から巨大なミサイルや銃火器を一斉にキャロルへと放つ。その全てが全く動かないキャロルへと迫り、派手な爆炎がキャロルの体を飲み込んだ。
「やったゼ!」
『愛も憎しみも 不完全な種ごと』
「まだ歌が聴こえるでありますよ!!」
喜ぶミラアルクに、エルザが叫ぶように指摘する。爆炎が晴れると、無数の防壁を展開する無傷のキャロルが姿を現した。三人の猛攻はキャロルを傷つけるどころか、その身を一歩たりとも動かす事さえ出来ない。
『赦してやろうと云うのだ!』
歌を奏でながらキャロルがダウルダブラの弦を弾くと、空中に四色の錬成陣が現れ、その内三つから火、風、水の攻撃が放たれた。
「同時階差にアリストテレスを!?」
一瞬で展開されたキャロルの高度な錬金術にヴァネッサが驚愕している間に、三人の体がキャロルの大規模攻撃に飲み込まれた。攻撃が晴れると、三人はエルザのアタッチメント内部に身を寄せ合う事で何とかキャロルの攻撃を凌いでいた。
「くう…!」
「流石、たった一人で世界と敵対しただけの事はあります…」
ポロロン♪
「「「っ!!?」」」
息つく暇もなく、時間差で放たれた土の攻撃を慌てて三人が回避する。どの攻撃も一発でもまともに受ければ致命傷となる。先程まで相手していたオートスコアラー達による能力を活かした策略とは全く異なる、圧倒的な力による蹂躙にノーブルレッドは逃げ惑う事しか許されない。
『想い出の残骸を 焼却するsft-スフォルツァント- その一音に懸ける誇り 絶対の音楽!』
歌の勢いと共に苛烈さを増すキャロルの攻撃は、シャトーの床や天井に派手な痕跡を刻みながらノーブルレッドを追い詰めていく。
『世界を識れと云った 彼の日が柔く包む』
そして三人が一カ所に集まったところで、三人の上空に光さえも飲み込むような漆黒の球体が出現した。
「まさか…超重力子の塊を…!?」
『地に平伏せ 高くつくぞ? オレの歌はああああああ!!』
「逃げて!!!」
迫り来る漆黒の球体の圧に、ノーブルレッド達は形振り構わず全力で逃げ出す。誰もいない床へと直撃した重力球は凄まじい破壊を巻き起こし、床に大穴を生み出してしまった。直撃を免れたノーブルレッド達の姿が見えないのは、恐らく大穴に落ちてしまったのだろう。
「破壊力が仇となったか…」
「やんややんや~!」
「マスター、素晴らしい歌声でしたわ!」
「派手に痛快!」
「きゃー!マスター尊い!絶唱七十億!!一人称がオレ!!!臍下ぁ!!!!」
少々やり過ぎた事をキャロルが反省していると、部屋の隅ではレイアが“収納”から取り出したサイリウムを両手に持ったオートスコアラー達がキャロルを大絶賛していた。サイリウムを手渡されて苦笑するエルフナインもその輪の中に紛れている。
「貴様ら…すっかりあの男に毒されおって…あとガリィ!貴様はオレの事を馬鹿にしているだろう!?」
「いえいえ滅相もない!マスターの尊き立ち振る舞いとお姿を褒め称えていただけですよ~♪」
「そういえば、何でマスターはチンチクリンのままなんだゾ?」
「あぁ?別に大した理由は無い。アンノウンからは馬鹿みたいな量の想い出を支払われているが、追加の補給が受けられない以上、万が一に備えてエネルギーの消費を可能な限り抑えているだけだ」
「なるほど、省エネモードなのですね?」
「地味に納得」
「いーえ!ガリィちゃんは誤魔化されませんよ!ボンキュッボンはサブマスターに受けが悪いから、子供形態で活躍してサブマスターに頭ナデナデしてもらおうと企んでいるんですよね!?わざわざ新曲まで用意するなんてマスターったらおませさんなんだから♪」
「真実を強引に捻じ曲げな!!」
そんな風にしっかりとガリィ達にツッコミを入れながら、キャロルもクスリと笑みを零す。そんなキャロルを見たエルフナインも、変わったのはオートスコアラー達だけではないなと思いながら同じように微笑んだ。
「全く…おふざけはその辺にして、さっさと儀式の中断に取り掛かるぞ」
「あのペットちゃん達を追いかけなくてよろしいのですか?」
「捨て置け。オレが来た以上、あんなパチモノ共如きに邪魔などさせん。行くぞ」
「あっ、待ってください、キャロル!」
さっさと先に進もうとするキャロルを、エルフナインが引き止めた。
「何だ?まだ何かあるのか?」
「キャロルには感謝しないと…お陰で助かりました」
「なっ!?オ、オレはお前を勝手に利用しただけだ!礼など不要!!」
「フフッ、ではボクの事はそれで良いとして…先程中断した言葉の続きをどうぞ!」
「なっ!?ななな、何の事だ!!?」
エルフナインの言葉に、キャロルが顔を赤くして動揺した。
「ガリィ達は頑張ってボクとキャロルのお願いを聞いてくれたんですから、半端で流しては可哀想ですよ?ほら、一緒に伝えましょう!」
「い、いや、だが、改めて考えると、悪党のオレが口にするのは不似合いな言葉な気が…」
必死に誤魔化そうとするキャロルだが、ニコニコ笑顔で手を取るエルフナインと、何処か期待した様子で二人のやり取りを見守るガリィ達の視線に抗えず…観念したかのように、エルフナインと共にガリィ達へと向き直った。
「レイア、ファラ、ミカ、ガリィ…ありがとう」
「…良い働きをした、褒めてやる………あ…ありがとう…」
真っ直ぐに気持ちを伝える自分達の友と、顔を赤くしてそっぽを向きつつ言葉を紡ぐ主に、ガリィ達は満面の笑みでその想いを受け取った事を伝えるのだった。
『果敢無き哉』
何とかキャロルの攻撃から生き延び、通信機が繋がったと同時に訃堂が伝えてきたその言葉に、ヴァネッサは苛立ちも隠そうともせず言い返した。
「そっちもあのキャロルや人形共を抑え込めていないじゃない!一方的に非難される筋合いはないわ!!」
『元より法の鎖では抑えきれぬ相手なのは重々承知であったはず。失態を犯した挙句に最も有効な楔であるあの廃棄躯体を人形共に掻っ攫われた駄犬が吠えるでないわ!』
「チッ!!」
訃堂の対策が不十分であったのは事実だが、その程度の指摘で動揺していては国の重鎮など勤まらない。全く悪びれる様子の無い訃堂にヴァネッサは舌打ちしつつ話を進める事にした。
「多少の想定外があったけれど、顕現した神の力は順調。ここからが正念場…こっちも本気で邪魔者を排除してみせるわ」
『無論である。そのために、お前達には稀血を用意してきたのだ』
「あんな化け物の相手をするのだから、成功したら絶対に叶えてもらうわよ?私達の望みである人間の…」
ブチッ!
ヴァネッサの言葉を最後まで聞くことなく、訃堂が一方的に通信を切断した。
「クソジジイめ!!」
苛立ちからヴァネッサは思わず通信機のモニターを殴りつけた。
「こうなったら…やってやるであります!」
「ああ…ウチらだって正面突破出来る事を、見せつけてやるゼ!」
ミラアルクが稀血のパックを握り締めて叫ぶと、エルザとヴァネッサが覚悟を決めるように頷き合った。
儀式の祭壇へと辿り着いたキャロル達は、台座に横たわる未来と設置された腕輪の状態を確認していく。それと同時に、装者達を乗せたヘリがチフォージュ・シャトー上空に到着した事を錬金術のモニターで確認した。
「連中もおっとり刀で駆けつけてきたみたいだな」
「響さん達も…」
「いや、あの中に立花響はいない。最初にあのデカブツとぶつかった時に負傷している。今はS.O.N.G.で治療中だ」
「この局面に響さんを…!」
「神殺しに代わる術は授けた。大丈夫だとは思うが…レイア!」
「ハッ!」
「万が一に備えて、お前には…いや、
「お任せあれ!!」
何処か活き活きした様子のレイアが、キャロルの命令を受けて一人で部屋を出ていった。
「レ、レイアだけで大丈夫なんですか?」
「案ずるな、あくまでも備えだ。それよりこちらも取り掛かるぞ!」
「は、はい!」
エルフナインはキャロルと共に、未来の状態を正確に分析し始めた。
「どうやら場外のブサイクは、巨大なエネルギーの塊であり、ソイツをこの依り代に宿す事が、儀式のあらましのようだが…」
「祭壇から無理に引き剥がしてしまうと、未来さんを壊してしまいかねません」
「面倒だが、手順に沿って儀式を中断させるより他になさそうだ」
キャロルから自然に出てきた未来を慮るような発言に、エルフナインは思わず笑みを浮かべてしまった。
「どうした?」
「意外だな~と思って。ボクはまだキャロルの事を全然知らないんですね?」
「っ!?そうじゃない!あの歌女共とアンノウンに貸しを押し付けるチャンスなだけだ!」
「はい!」
ニコニコ笑うエルフナインと、ニヤニヤとこちらを窺うガリィ達に居心地を悪くしたキャロルが誤魔化すように視線を逸らすと、装者達が顕現した神の力の前に並んでいた。
「始まるぞ」
神の力が形となった巨大な異形を前に、ギアを纏った装者達は緊張した様子だった。
「完成したLiNKERと、昨日までの訓練は…」
「きっと今日のためにあったのデス!」
「それでもこれだけ巨大な聖遺物の起動となると、五人がかりでも骨が折れそうだ」
「ああ。だが私達には、命の危険と引き換えに、フォニックゲインを引き上げる術がある」
ただの歌だけではチフォージュ・シャトーを起動する事が出来ない事など理解していた。故に翼の言う術については、既に全員が察している。
「絶唱がある!」
「準備は出来ているな?…行くぞ!!」
全員が頷き合い、異形へと向き直ると、覚悟を決めてその口から滅びの旋律を奏で始めた。
『Gatrandis babel ziggurat edenal…Emustolronzen fine el baral zizzl…Gatrandis babel ziggurat edenal…Emustolronzen fine el zizzl…』
絶唱を歌い終えると同時に、五人のギアから膨大なフォニックゲインが迸る。その力の奔流に、装者達の体が悲鳴を上げていた。
「「うわああああああ!!」」
「上昇した適合係数が、バックファイアを軽減してくれているが…ゴフッ!!」
「それでも長くは持たないわよ!!」
「何故だ…何故反応しない、チフォージュ・シャトー!…私達の最大出力を以ってしても、応えるに能わずとでも言うのか!?」
血反吐を吐き血涙を流しながら、装者達が必死にフォニックゲインを高めるが…チフォージュ・シャトーは装者達の歌に応える様子は無い。すると、高まるフォニックゲインを脅威と判断したのか、待機状態だった異形が動き出してしまった。
「シェム・ハの防衛反応か!?」
「チフォージュ・シャトーを動かす前に、気取られるなんて…!」
異形が装者達の傍にレーザーを照射する。直撃は免れたものの、爆発の余波で装者達は吹き飛ばされ、絶唱で高まったフォニックゲインは霧散してしまった。
絶唱のダメージもあり、まともに動けない装者達に異形がレーザーの第二射を放とうとしている。絶体絶命…全員の頭にそんな言葉が過った時だった。
「ここは『我々』に任せてもらおう!」
ダンッ!!
装者達と異形の間に、上空からレイアが着地して堂々とそう言い放った。
「レイア!?来ていたのか!!?」
「だけど、あなた一人でシェム・ハの相手は…」
「否!一人ではない!!」
ドゴオオオオオオン!!
レイアがそう叫んだ直後、まるで虚空から突然現れたように、レイアの“収納”から異形と引けを取らないサイズの巨大な人形…レイアの妹であるレナが姿を現した。
「レ、レナちゃん!?」
「一体何処から出てきたデスか!?」
「幾らレナでも、そのデカブツの相手は無茶が過ぎるだろう!?」
「言っただろう?私でも、レナでもない…アレの相手は、『我々』に任せてもらう!」
レイアの言葉に、レナも大きく頷いてみせる。突如現れた巨体のレナに警戒したのか、異形も装者達からレナに意識を向けたようだ。レイアがレナの前に出ると、自分の事など眼中に無い様子の異形にニヤリと不敵な笑みを向けた。
レイアの妹…ナナシにレナの名前を貰った彼女は、チフォージュ・シャトー建設のためにオートスコアラー達と同様錬金術師キャロルによって生み出された巨大なヒトガタだ。
トータルバランスに秀でたレイアの設計をベースに作られた彼女は、パワーや耐久力と言ったスペックで見た場合、全盛期のオートスコアラーさえも凌駕する程の高い能力を持っているが、オートスコアラーをオートスコアラー足らしめるために必要な機能…呪われた旋律を譜面に記すための機能を有していないがために、彼女はオートスコアラーとしてナンバリングされておらず、ナナシに名前を貰うまでは個体識別の名称すら存在しなかった。
そしてそれ故に、レイア達のように“紛い物”の能力再現が可能な程の演算領域を有してはいなかった。“念話”による会話で幼い印象があったのも、この演算領域がレイア達に比べて未熟である事が要因であると考えられる。
しかしナナシの能力再現の有用性や、レイアからの「レナだけ仲間外れは地味に可哀想」という要望によって、どうにかレナにもレイア達と同様にナナシの能力を授けられないかとキャロル達は考えていた。
幸い巨体であるレナには、レイア達と違ってまだまだ改良の余地は残されていた。最悪の場合でも、多少のスペックダウンと引き換えに演算領域の拡張を行う事も視野に入れていたのだが…キャロルはかつてのレイアとナナシの会話から、ある解答に辿り着いた。
「派手に行くぞ、レナ!………『合体』だ!!」
レイアの宣言と同時に、レナの胸部装甲が中央からバカリと開いて、その内部にある座席のような物が露わになる。しかしその座席の背もたれには鋭く尖ったコネクタのような物が複数生えており、とても座れるようには見えない。だがレイアはレナの手に乗せてもらい胸部の座席に辿り着くと、躊躇なくその座席に座り背を預ける。背もたれに生えたコネクタがレイアの背にある挿入口にしっかりと差し込まれると、レナの胸部が元の状態へと閉じられ…その直後、レナの体に劇的な変化が現れた。
レナの体表がドンドン赤く染まっていく。赤熱しているのではない。レナの体から、何か赤い液体が滲み出ているのだ。
「う、そ…」
「あの姿は…!」
一滴たりとも流れ落ちる様子のない赤い液体を纏うレナの姿に、装者達は驚愕で顔を引き攣らせた。その禍々しい姿はまさに…
「"化詐誣詑"…!」
「ガァアアアアアアアアアアアアア!!!」
レナの口から獣のような咆哮が響き渡り、その迫力に装者達はチフォージュ・シャトー全体が震え動いたように感じた。
まるでレナがレイアを取り込んだようにも思えるが、その本質は異なる。レイアをベースに設計されたレナを、レイアの巨大な拡張パーツとして改良する事で、その相乗効果により両機の演算領域は飛躍的に拡張され…新たに“紛い物”の能力を再現可能な状態へと至った。
新たに再現された能力は…“血流操作”。
本来血潮の流れぬ人形には似つかわしくない能力だが、“収納”を再現したレイアを仮初めの心臓とする事で、レイアがナナシから預かった膨大な量の血液がレナの体を駆け巡り、能力の使用が可能となる。
ドゴオオオオオン!!
レナの振るった拳の一撃が異形の体を打ち砕く。しかし、異形の体が一瞬ブレたかと思うと、次の瞬間には元通りとなってしまった。本格的にレナを脅威と捉えた異形が、レナに向けてレーザーを放つ。
ガキィイイイイン!!
しかし異形の放ったレーザーは、レナが纏う血液に“付与”された“障壁”によって防がれ、レナの体に傷一つ付けられない。
ナナシの“化詐誣詑”が攻撃特化なのに対して、レナ達が再現した“化詐誣詑”の主な役割は防御である。レナの巨体で高威力の攻撃を受け続ければ、あっという間に血液に宿るナナシの力が枯渇してしまいそうだが…月に旅立つ直前、過保護なナナシは本当にアホみたいな量の血液をレイアに手渡したため、どれだけ浪費しても尽きる心配はない。日本政府が苦労してS.O.N.G.から回収した血液など、レイアに預けた血液の1パーセントにも満たないだろう。
更に、レイアと接続された事で『レイアの体の一部』となったレナは、その全身が“収納”の能力適応範囲である。消耗する度に体表の血液を“収納”から出し入れして循環させる事で、異形とは異なる無尽蔵の守りを可能とした。
(私の“収納”とレナの“血流操作”による、サブマスターへの派手なリスペクト!“化詐誣詑”拡大解釈・『
(目立つのはちょっと恥ずかしいけど…マスターとサブマスターの大切なお友達のために頑張るよ!お姉ちゃん!!)
ノリノリなレイアに、演算領域の拡張によって流暢になった思考で応えるレナ。かつてナナシが語っていた『レイアがレナに乗り込んで派手に活躍する』という発想からキャロルが辿り着いたその在り方によって、見る者全ての意識を引きつけながら人形の姉妹は未完成の神へと挑みかかるのだった。
突如発生した巨大な異形と人形によるバトルにエルフナインは思わず見入ってしまっていた。驚愕と混乱で思考がフリーズしつつ、レイアがレナに乗り込む場面にちょっとだけ子供心がワクワクしている。
「あらあら、レイアもレナちゃんもはしゃいでいるわね?」
「スゴイゾ!アタシもレナみたいな妹が欲しいゾ!!」
「マスターとサブマスターにおねだりしてみたら良いんじゃない?」
「おい!?」
「おやおや~?いかがなさいましたか~?レナちゃんみたいな子を新しく作るなら、サブマスターの協力は不可欠でしょ~?一体マスターはどんな想像をしちゃったんですか~?」
「ええい鬱陶しい!!」
「あ、あの!レイア達はあんなに目立って大丈夫なんですか!?キャロルやガリィ達って、コッソリ本部を離れているんじゃ…」
まるでホームビデオを見ているかのような会話を繰り広げるキャロル達に、ようやく再起動したエルフナインがそう問いかけた。本部からの脱走にナナシの血液を隠し持っていた事がこれ以上無い程派手に露わとなっているが、キャロル達の表情に焦りはない。
「ああ、その件は問題ない。理由は後で嫌でも分かるから、お前は気にせず目の前の問題に対処していろ」
「は、はあ…」
詳細ははぐらかされてしまったが、何らかの対策は施されているようだ。であれば自分が騒ぎ立てても仕方が無いので、エルフナインはそれ以上追究するのをやめた。
「しかし…」
キャロルがモニターに映った絶唱のダメージで動けない装者達を見て怪訝な表情を浮かべた。
「連中のフォニックゲインはオレ程でなくとも、仲間と相乗する事で膨れ上がるはず…だのに、何故一人が欠けているだけで…」
過去の記録や共闘の経験から、キャロルの想定では翼達だけでも充分に勝算があるはずだった。しかし実際はチフォージュ・シャトー起動の兆しすらない。僅かに届かないならまだしも、全くの無反応はキャロルも予想外だった。
響と言う、たった一人の『音』が、欠けているだけで…
「もしか、それは!?」
バァアアアン!!
エルフナインが何かを掴みかけたその時、部屋の外から存在を誇示するかのように一発の銃声が鳴り響いた。
「こっちはこっちで…」
億劫そうにキャロルがエルフナインをガリィ達に任せて部屋の外へ出ると、そこでは案の定ノーブルレッドの三人が待ち構えていた。
「そのまま逃げていれば良いものを…」
煩わしい感情を隠しもせず、キャロルが気だるげに三人を見つめる。そんなキャロルに、覚悟を決めたノーブルレッド達が挑みかかった。
ミラアルクとエルザが左右に回り込み、ヴァネッサが正面から弾丸を放ってキャロルの気を引く。それは先程キャロルに一蹴されたのと同じ戦法だった。
「何を仕掛けてくるかと思えば…芸の無い奴らだ」
つまらなそうに弾丸を防壁で弾くキャロルの斜め後方から、ミラアルクが強化した足で飛び蹴りを仕掛ける。
「ウチらは強くない!弱くちっぽけな怪物だゼ!」
キャロルはミラアルクに視線さえ向けずに防壁で蹴りを防いだ。
「それでも!弱さを理由に、明日の全てを手放したくないのであります!!」
エルザがミラアルクとは別方向からアタッチメントを伸ばし、キャロルへと攻撃を仕掛ける。
「そんな想いを抱くのなら、猶更貴様らは…」
ボソリと呟きながら、キャロルは弦をアタッチメントへと巻き付け、そのまま破壊してしまった。
「捕まえたであります!」
キャロルに攻撃を繰り出しながら、三人は自分達を頂点に三角形を描くような配置についていた。
「哲学の…!」
「「「迷宮でえええええ!!」」」
三人が同時に手を構えると、キャロルの頭上に青い立方体が複数現れ、キャロルの周囲を覆い隠すように積み重なっていく。
その過程を、キャロルはただただつまらなそうに眺めていた。
程なくしてダイダロスの迷宮は構築され、三人はキャロルを迷宮内に閉じ込める事に成功した。
「神の力の完成は、何人たりとも邪魔させ……っ!?」
しかし直後に、ノーブルレッドはエネルギーを注いでいないにも関わらず、迷宮の至る所から光が迸り、迷宮は内側から弾けるように崩壊した。迷宮内部に満たされていたエネルギーは上へと流れ、天井を突き抜けながら進んでいった。
異形と派手に攻防を繰り広げていたレイア達が、突如何かに気づいたように動きを止めると、背後で自分達の戦いを眺めていた装者達に警告した。
『来るぞ、構えろ!』
「く、来る?一体何が?」
『マスターからの派手な祝福だ!』
レイアからの警告と同時に装者達の足元から光が溢れ、光の奔流は装者達を飲み込みながら雲さえも貫き天へと昇っていった。
「どうやって…哲学の迷宮を…?」
自分達の切り札を涼しい顔で打ち破り佇むキャロルに、ヴァネッサは地に伏せながら呆然と問いかけた。
「フン…オレはただ、歌っただけだ」
「歌で、ありますか…?」
「ああ…オレの歌は、ただの一人で七十億の絶唱を凌駕する…フォニックゲインだ!!」
キャロルの言葉と同時に、天井に空いた穴から光が降り注ぐ。先程キャロルのフォニックゲインが穿った雲の穴から、星の輝きと共にゆっくりと舞い降りてくるのは…エクスドライブを起動させた装者達。
奇跡を殺すキャロルの歌は、奇跡を必然へと作り変え…神に抗う力を歌姫達に齎すのだった。
オートスコアラー全機能力紹介終了、キャロル無双で原作の流れに合流…と見せかけ、寄り道でレナとレイアによる1年以上前のフラグ回収ですw(第113話参照)
頑張っている装者達の影が薄くなって申し訳ないけど、オリジナル設定ブチ込むの楽しいですw