戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第21話

翼が絶唱を歌ったあの夜から、一週間が経過した。

 

ナナシはこの一週間、緒川と一緒にツヴァイウィングのマネージャーとして仕事を行っていた。緒川は主に関係各所への連絡と手続き、ナナシは…ファンからのクレーム対応を行っていた。月末のライブ中止、そして今回の情報操作で翼は過労ということにしたため、二人の、特に翼のファンから昼夜問わず苦情が殺到しているのだ。

 

本来なら心身ともに疲弊するところだが、ナナシに肉体的な疲労は関係なく、またどのようなものであれ人の感情に接するのはナナシにとっては貴重な機会である。普段の口調からは考えられない丁寧な言葉遣いで一人一人に対応していった。

 

ようやく少し仕事が落ち着き、久しぶりに弦十郎と特訓するために風鳴家に向かったナナシは、そこで奇妙な光景を目撃し困惑することになる。

 

 

 

 

 

「そうじゃない!稲妻を喰らい、雷を握り潰すように打つべし!」

 

「言ってること全然分かりません!でもやってみます!」

 

そんなやり取りの後、弦十郎から指導を受けた響がサンドバックを殴り…固定していた枝がへし折れてサンドバックが数メートル吹っ飛んでいった。

 

(全然分からないと言っておきながらしっかり結果を出したな…あと弦十郎、色んな映画のセリフが混ざっている…)

 

ナナシは響の特訓を見てある程度状況を察していた。響なりに現状打破を狙って弦十郎を頼ったのであろう…たった数日でOTONAの片鱗を現していることに思わず“解析”を使いそうになったが、異性に無断で使用しないという了子との約束を思い出し自重した。

 

あの夜から、ナナシは響と会っていない。特別避けていた訳ではない。多忙であったため単純に機会が無かっただけだ。

 

あの夜、ナナシは響から嫌われるために言葉を放った。響も翼と同じで、感情をぶつける先が無いと考えていたためだ。狙いは成功し、特に最後の一言は致命的だったはずだ。

 

今は前向きな気持ちで特訓を行っているようなので、時間を改めようと考えナナシは踵を返す…前に、響に気づかれてしまった。響はナナシの姿を確認した瞬間、全力疾走でナナシのもとへ向かってきた。ナナシはしょうがなく響の対応をするためその場に立ち止まった。

 

響はナナシの前でピタリと止まると…その場で土下座した。

 

「申し訳ありませんでした!」

 

…ナナシは響の行動の意味が分からなかった。ナナシが考えていたのは、あの日のナナシの言葉に激怒するとか、ナナシを避けて口を利かなくなるとか、何らかの暗い感情をぶつける行動だ。断じて謝罪などされることはなかったはずだ。走ってきた勢いのまま飛び蹴りをされた方が、まだ納得できた。

 

「…前も言ったと思うけど、何に対して?」

 

「ナナシさんのこと何も知らないで、とても酷いことを言ったことに対してです!」

 

「いや一方的に酷いこと言いまくったのはこっちのはずだが!?」

 

「あなたなんかって…人間じゃないって…」

 

「いやそれは単なる事実…」

 

「わたしは!まだナナシさん達と一緒に戦える力はありません!でも、いつか絶対に皆さんの隣で、それが無理でも近くで戦えるぐらい強くなってみせます!これからは弦十郎さんのもとに弟子入りして、ビシバシ指導して頂くので、これからよろしくお願いします!兄弟子!」

 

「兄弟子!?」

 

そんなやり取りをしているナナシ達に、弦十郎が近づいてきた。

 

「そういう訳だから、これからは響君のことを、兄弟子としてしっかり見守ってやってくれ。ナナシ君」

 

「…色々と聞きたいことが多いけど、俺っていつの間に弦十郎の弟子になったの?いや、弦十郎から教えて貰ったことは沢山あるから、弟子を名乗ることに抵抗は無いけどさ…」

 

「なら何も問題ないじゃないか!ところで、ナナシ君は何をしに来たんだ?」

 

「いや、最近体を動かしてないから、弦十郎と模擬戦でもしようかと…」

 

「おお!それは丁度いい!響君、これから俺達は模擬戦をするから見学すると良い!見ることも重要な修行だ!これから俺達が訓練に使っている場所に移動するぞ!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

そう言って弦十郎達は、困惑するナナシを引きずるようにして訓練場に向かうのだった。ナナシは訳が分からないまま…いや、心当たりはあった。ナナシにとって、ある意味目標と言ってもいい人物を思い浮かべながら、ナナシはポツリと呟くのだった。

 

「響に何を言ったんだ?奏…」

 

…その後、弦十郎とナナシの凄まじい模擬戦を見学した響は、ナナシに対して絶大な信頼を持つようになり、師と兄弟子に近づくため、より一層訓練に励むようになった。

 

 

 

 

 

数日後

 

この数日の内に、二課を取り巻く状況に大きな動きが起きていた。

広木防衛大臣が何者かに殺害され、二課本部周辺に頻繁にノイズが出現することを重く見た日本政府が、二課本部最奥区画『アビス』に保管されている完全聖遺物『デュランダル』を、永田町最深部の特別電算室『記憶の遺跡』に移送することを決定。その運搬中の警護任務が二課に下された。

 

作戦としては、防衛大臣殺害犯を検挙する名目で検問を配備し道路を閉鎖、そこを櫻井了子が運転するデュランダルを乗せた輸送車が目的地まで一気に駆け抜ける。輸送車の護衛は周囲に護衛車を数台用意し、シンフォギア装者である響が了子の輸送車に同乗する。そして、弦十郎を乗せたヘリが上空から周囲を見て全体に指示を出す。

 

了子によって『天下の往来独り占め作戦』と名付けられたこの計画は、日の出る前の朝五時より開始され、一般車両が排除された道路を、了子達を乗せた車が駆け抜けていった…が、どの車両の中にもナナシの姿が見えない。それが何故かと言うと…

 

 

 

「…本当に、この車を襲ってくるんでしょうか?」

 

「まあ、まず間違いないでしょうね」

 

デュランダルを乗せた輸送車の中で、響と了子がそんな会話をしていた。了子の言葉を聞いた響が、緊張感を持ちつつもどこか不安そうにしている。

 

「あまり気負い過ぎないの。あなたの周りには、私を始めとした頼れる大人達がいるでしょ?上にはあなたのお師匠様、そして…()には、あなたの兄弟子が♪」

 

そう言って了子は、視線だけを響…の隣の窓に向ける。

 

「あははは…そうですね…」

 

そう苦笑して、響も了子に釣られて顔を左に向けると…

 

 

響達の車の横を、自分の足で並走するナナシの姿がそこにはあった。

 

 

響達が窓越しにナナシの顔を見ていたら、ナナシから”念話”が届いた。

 

(どうした?何かあったか?)

 

(い、いえ、その…ずっと走っていて、大丈夫ですか?)

 

(問題ない。スピードは弦十郎や慎次にまだ勝てないけど、持久力なら誰にも負けないからな)

 

(えっと、その、何で車に一緒に乗らないんですか?)

 

(車に乗っていると、何か起きた時どうしても初動が遅れるからな。車の屋根の上に乗るのも考えたけど、下から攻撃が来た場合に気づきにくくなるし、自分の足で走った方が色々対処しやすいかなって)

 

(そ、そうですか…頑張ってください。兄弟子)

 

(おう)

 

「…ナナシちゃんの行動について深く考えちゃダメよ。あの子は色々変わった子だってことは知っているでしょう?」

 

「…あの、そっちは大丈夫なんですけど…ナナシさん、スピードは師匠や緒川さんに勝てないって言っているんですけど、あの二人も何かナナシさんみたいに特別な力を持つ理由があるんですか?」

 

「…この世界には、色んな不思議が溢れているのよ…響ちゃん」

 

「……あ、あははは、そうですか…そ、そういえば!デュランダルをナナシさんの“収納”に入れてしまえば、奪われる心配もなかったんじゃないですか?」

 

響が話題を変えるためと、今思いついた純粋な疑問の答えを得るために了子に問いかける。

 

「それは弦十郎君達も考えたけど、ナナシちゃんについては秘密が多い…というか説明できないことが多いから、こういう国家が絡んだ作戦に組み込むことが難しいのよ。ナナシちゃんは詳細不明の聖遺物の適合者ってことになっているから、よく分からない能力を重要な作戦の中核には出来ない…それに、ナナシちゃんに万が一のことがあった場合、“収納”の中のものがどうなるか分からないしね」

 

「そうですか…何事もままならないですね…」

 

「最悪の場合、ナナシちゃんが実験動物扱いされかねないしね」

 

「!?」

 

「安心しなさい!弦十郎君達がそんなことさせないし、何よりナナシちゃんのことなら私が隅々まで調べたのに分からなかったんだから!そこら辺の有象無象にどうこう出来るレベルの話じゃないわ!」

 

「す、隅々まで調べたんですか…」

 

「聞きたい?」

 

「い、いえ結構です!」

 

 

 

了子達が輸送車を走らせてからしばらくして、大きな橋の上を通過していた…その時

 

(…!減速しろ!)

 

ナナシが“念話”で指示を出すのとほぼ同時に、橋に罅が入り道の半分が崩壊した。了子達の車はすぐに車線を変えて無事な道を進んだが、護衛者の一台は止まり切れずに崩壊して出来た穴に車の前輪が出てしまった。

 

(無理するな!車を捨てて離脱しろ!)

 

ナナシは走りながら護衛車の人間に指示を出す。そして了子達が橋を抜けて街中を進んでいくと…

 

(…!悪い!)

 

そうナナシが伝え、了子達の車の後方を走っていた護衛車の側面を殴る。衝撃で車の進路が変わった直後、マンホールが爆発したような勢いで水柱を上げる。護衛車は無事だったが無理な進路変更でスピンしてしまい、運転手はブレーキを踏んで何とか停止する。その間に了子達と距離が離れてしまい、もう追い付けそうにない。

 

『下水道だ!ノイズは下水道を伝って攻撃してきている!』

 

耳に装着したマイクから弦十郎の言葉が聞こえる。だが聞いたところでこの状況では対応できない。

 

今度は了子達の前方の護衛車がマンホールからの衝撃で空中に舞い上がり、了子達の車に向かって落下してくる。了子は間一髪で護衛車を躱し、ナナシは落下してくる車をなるべく衝撃が掛からないよう受け止めた。

 

(無事か!?)

 

(くっ!無事だ!いいから護衛対象を追え!)

 

(分かった!)

 

ナナシは車を地面に降ろし、急いで了子達を追う。

 

(くっ!俺を引き離すのが狙いか!舐めんな!)

 

ナナシはアスファルトに罅が入る勢いで踏み込み、一気に加速して十秒もしないうちに了子達に追い付いた。

 

「…弦十郎君。ちょっとヤバいんじゃない?この先の薬品工場で爆発でも起きたら、デュランダルは…」

 

『分かっている!さっきから護衛車を的確に狙い打ちしてくるのは、ノイズがデュランダルを損壊させないよう、制御されていると見れる!』

 

弦十郎の言葉を聞き、了子は短く舌を鳴らす。

 

『狙いがデュランダルの確保なら、敢えて危険な地域に滑り込み、攻め手を封じるって算段だ!』

 

「…勝算は?」

 

『思い付きを数字で語れるものかよ!』

 

「相変わらず力技だな弦十郎!行き当たりばったりを名言みたいに叫ぶな!後で後悔するぞ!」

 

弦十郎の言葉にナナシが軽口を叩きつつ、一行は工場地帯に侵入する。すると、マンホールからノイズが飛び出して、最後の護衛車に飛びつく。車内の護衛達は咄嗟に車から飛び出し、車は何かのタンクに衝突して爆発した。そしてその炎がタンク内のガスに引火し更に大きな爆発を起こす。それに反応してノイズの動きが鈍っているようだった。

 

ナナシは護衛達に近づくノイズを速攻で塵に変える。

 

「我々のことはいいから、あなたは…」

 

「だが断る!!」

 

そう言ってナナシは“収納”から予備の車を取り出した。

 

「さっさと離脱しろ。死ぬなよ」

 

「しかし…」

 

護衛達はナナシの言葉に躊躇するが、ナナシの視線の先にノイズの群れと…ネフシュタンの鎧を纏った少女を確認すると、躊躇いを振り切り車に乗ってその場を後にした。

 

遠目に横転した了子の車を確認したナナシは、鎧の少女から目を離すことなく、響に“念話”で語り掛ける。

 

(そっちは無事か?)

 

(…!はい!)

 

 

(…なら、妹弟子。こっちはあの白いのを相手にする。了子のこと、ついでにデュランダルのことは頼む…よろしくお願いします)

 

 

(…!はい!よろしくお願いされました!任せてください!兄弟子!)

 

響の返事を聞いたナナシは、苦笑しながら“念話”を切る。

 

(全く、頭撫でられた犬みたいにはしゃぎやがって…なんで嫌われようとしてこんなに好かれたのかな?人間ってのは本当に難しい…)

 

そんなことを考えつつ、ナナシは鎧の少女のもとにゆっくりと近づいていった。

 




今更なうえにどうでもいいことですが、主人公の一部セリフや口癖は主人公がアニメや漫画で見たり聞いたりしたものを引用している…ということにして作者が主人公に言わせて遊んでいますw
因みにですが、「Exactly!!」は「だが断る!!」と元ネタが違ったりします(三期とか四期という意味では無く)。とある勘違い系ドタバタハイスクールラブコメ漫画の何気ない一コマでのセリフなんですが、何故か印象に残っていたため使いました。スペルと意味を再確認するため検索した時、初めて有名なセリフがあることを知り驚きました。
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