戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第207話

とある古いアパートの一室で、顔に湿布や絆創膏を貼った響が不貞腐れるように炬燵に入って転がっていた。

 

「しかし驚いたな?まさか響が規則を破って謹慎とは…」

 

お茶を汲みながら響にそう声をかけたのは、響の父親である立花洸だ。そこは洸が現在住んでいるアパートであり、先日禁止されたアマルガムを使用した事で謹慎を命じられた響は洸の元へと訪れていた。

 

「大切なモノを無くして、奪われて…どうして良いのか分からなくなったら、無性に何処かに逃げ出したくなって、気が付いたらここに足が向かってた」

 

「そっか、あはは…まあ、逃げ出す事に関しては、筋金一本入ってるからな、俺は…」

 

自嘲気味に笑いながら洸がそう答えると、響は苦笑しながらその言葉を否定した。

 

「違うよ、お父さんだからだよ」

 

響の言葉に一瞬呆気に取られる洸だったが、直後にフッと優しい笑みを零して口を開いた。

 

「良かったら一人で抱え込まず、俺に話してみないか?」

 

洸の気遣いに響もフッと笑みを零すと、ここに来るまでの出来事をポツリポツリと語り始めた。

 

 

 

 

 

エルフナインを保護して急ぎS.O.N.G.本部へと戻った翼達は、そこで驚くべき光景を目の当たりにした。

 

「なっ!?」

 

「これは一体!!?」

 

本部の内部は、まるで襲撃を受けたかのように破損していた。鋭い刃で切り裂かれたような跡や、大きな衝撃を受けたような歪み、爆発によって融解したような箇所も見受けられた。幸いにも血痕などの類いは見られないため、ここで虐殺が繰り広げられた訳では無さそうだ。

 

「戻ったか…済まない、疲れているだろう君達を迎えるには、少々取っ散らかってしまっている」

 

そう言って集めた瓦礫に腰かける弦十郎は、衣服のアチコチが割けてボロボロの状態だった。

 

「おっさん!これはどういう事だよ!?何で本部が滅茶苦茶になってんだ!!?」

 

「君達がチフォージュ・シャトーへ向かった後…キャロル君を始めとした、研究室Bに所属する者達が反旗を翻した。彼女達はある程度暴れ回った後に本部から逃亡、現在行方は分からなくなっている」

 

『!!?』

 

先程まで共闘していたキャロルが謀反を起こしていたと知り、翼達が言葉を失う。そして、エルフナインが青い顔をして弦十郎に尋ねた。

 

「そ、それはもしかして、未来さんとボクを助け出すために…!」

 

キャロルは『理由は後で嫌でも分かる』と言っていた。これはもう、自分達を助け出すためにキャロル達が強硬手段に出たとしかエルフナインは思えなかった。

 

「我々も最初はそう考えたが…どうやら、そう単純な話でも無さそうだ」

 

そう言って弦十郎が目配せをすると、友里達が端末を操作して罅割れたモニターに何かを映し出した。どうやら派手に壊されているように見えて、機能的な部分はそれほど損なわれていないらしい。

 

「これは先程、我々と各国の秘匿回線に対して送られてきた映像だ」

 

 

 

 

 

モニターに映し出されたのは、真っ暗な部屋の中でスポットライトに照らされ佇む一人の人物だった。

 

『さて…この映像を見ている中で、この僕の事を覚えている者はどれぐらいいるだろうねぇ?権力者なんてどいつもこいつも、都合の悪い事は無かった事にして誤魔化す奴らばかりだから、一応自己紹介から始めましょうか?』

 

そう言って芝居がかった所作でお辞儀をする人物は…

 

『僕の名前はジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス…かつて人類を救うために、世界を滅ぼそうとした英雄です!』

 

映像に映るウェル博士は、右手でメガネを持ち上げながらネフィリムの左手でビシリとカメラを指さして決めポーズを取りながら叫んでいた。

 

『もし僕の事を覚えているなら、この映像を見ているあなた達はさぞ心中穏やかではないでしょうねぇ?僕の功績のお零れで存続しておきながら、この手を理由に僕を海の底に閉じ込めたあなた達は…ですが安心しなさい。これでも僕は反省しているのですよ?かつての僕の行いは、少々軽率だったと』

 

そう言って苦笑しながら左手で額を押さえ、頭を振るうウェル博士。過去の所業を反省するような口ぶりとは裏腹に、その瞳はジロリと映像の先にいる者達を睨むように鋭い視線を送っていた。

 

『勘違いしないでくださいよ?僕が人類を救うために立ち上がった点については一切省みるつもりはない!今この世界が存続しているのは、紛れもない僕の功績です!例えそれを認めるのが、この世でたった一人の“紛い物”の信者だけだとしても…僕は英雄として、自らの行いが招いた『結果』に胸を張りましょう!しかし…そこに至るまでの『過程』については、今では思うところがあるのも事実です』

 

ウェル博士がそう言った直後、暗い部屋の中に無数の球体が現れる。球体の一つ一つには、過去の出来事と思われる映像が映し出されており、ウェル博士がS.O.N.G.で過ごしてきた日常を見せつけていた。

 

『並び立つ者のいない孤高の英雄として、世界の危機を前に甘ったれた理想ばかりを追い求める愚か者共を利用し切り捨てた僕だが…信者に乞われてそんな連中に力を貸してやっている内に少しだけ…本当に少しだけ、認識を改めました…ええ、改めましたとも!甘ったれた理想を本気で追い求めて、仲良しこよしで手を繋いで突き進もうとするその想いは!!時に想像を絶する力を発揮するのだと!!!…英雄たる僕は、かつてその力を侮り敗北したのだと…』

 

映像の中のウェル博士は、S.O.N.G.の職員達に混じって手伝っているのか邪魔をしているのか分からない振る舞いをして呆れられたり注意を受けたり、キャロル達を怒らせて情けなくナナシの背後に隠れたりなどしていた。そんなウェル博士を周りの者達は邪険に扱う様子は無く、意外にもウェル博士はS.O.N.G.に馴染んでいる事が映像から伝わってきた。そんな職員達が、装者達の出動時にはサポートのために必死な様子で動き回る姿に、ウェル博士が何かを感じ取っている様子も垣間見える。

 

『だが…その力だけでは守れないモノがあるのも事実です』

 

次の瞬間、映像が全て切り替わる。そこには、ここ最近の日本政府によるS.O.N.G.への嫌がらせのような要求や行動制限と、それによって巻き起こった一連の騒動が映し出されていた。

 

『元々あなた達が日本の特機部二を国連直下に置いたのも、いざという時こうやって自国のルールで雁字搦めにするためでしょう?世界を守るための力が、いつ自分達を滅ぼすために振るわれるか分からない。力を持つ者を枷も付けず野放しに出来ないと考えるのは上に立つ者として当然の思考です。彼ら彼女らが公に認められる『正義』で在り続けるためには、この枷に縛られ続けるしかない。しかし…そんな事のために、自らの大切なモノが害される姿を、指を咥えて眺める事しか許されない…そんな情けない在り方が『正義』など!僕が追い求める『英雄』の姿であるなど!!認められる訳が無い!!!…認められないならどうするか?決まっているでしょう…真の正義を!英雄としての在り方を!!この僕が世界に示してあげましょう!!!』

 

芝居がかった動きで大きく腕を広げながら堂々と宣言するウェル博士。S.O.N.G.の規則に沿った活動を否定するという事は、国連の取り決めに反発する事と同義であり…それは即ち、再び世界へ反逆すると宣言したに等しい。

 

『どうせこれを見ているあなた達は思っているでしょう?出来る訳がないと!また英雄気取りの道化が愚かに踊ろうとしていると!!ハン!そんなあなた達の浅はかな考えを覆す、明確な根拠を示してあげましょう!!僕の言葉がただの“妄想”などでは無いとあなた達が認めざるを得ない、徹底的にして完膚なきまでに明確な根拠、それは…今回の僕は、決して一人ではないからだ!!!』

 

ウェル博士がパチリと指を鳴らすと空中の映像が消え去り、同時に真っ暗だった部屋全体が照らし出された。

 

ウェル博士の傍には玉座を思わせる豪華な装飾を施された椅子が設置されている。その玉座の左右には装飾の少ないシンプルな椅子が横並びで複数置かれており…ウェル博士の玉座ともう一つを除いて、その椅子には既に腰かけている者達がいた。

 

聖遺物と機械工学の権威、ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ

 

世界最高峰の錬金術師、キャロル・マールス・ディーンハイム

 

数百年に渡って裏世界を牛耳ってきたパヴァリア光明結社の元幹部、サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロ

 

かつて世界の脅威として君臨した者達が、まるでウェル博士と足並みを揃えるように舞台の上で鎮座する意味は想像に難くなく、きっとこの光景を見た各国の権力者達は今頃青ざめているだろう。

 

そして広い部屋の奥は階段状の段差が付いており、ウェル博士達の他にもその部屋には大勢の人間がズラリと立ち並んでいた。素性を隠すためなのか、全員がその顔に…道化師の仮面を被っている。

 

『彼女達はかつて僕と同じように甘ったれた理想を掲げる正義を侮り敗北し、その正義に対する理解を深めた事で認識を改め…その上で尚、僕と同じようにただ正しいだけの正義では守れないモノがあると答えを導き出した同志達!そして後ろに控えているのは、自分達の正義の在り方に疑問を抱き、我々の掲げる正義を支持する選択をした勇猛なる信者達です!!』

 

王座に腰かけ足を汲み、大きく手を広げたウェル博士は、自分達の力を世界に誇示するように高らかに声を上げた。

 

『我ら研究室B…いや、至高の正義を追い求める我ら『B.E.A.T.』は、今この時を以ってS.O.N.G.からの独立を宣言する!誰もが認める正義だけでは守れないモノのために、誰にも認められぬ我々の正義を世界に響き渡らせてあげましょう!!ククク…フハハハ…ハーッハッハッハ!!!』

 

 

 

 

 

ウェル博士の高笑いを最後に、映像は終わりを迎えた。言葉を失う装者達に、緒川がより詳細な情報を伝えていった。

 

「皆さんがチフォージュ・シャトーで戦っている間に、エルフナインさん達を救助に向かったキャロルさんを除く他の研究室B…B.E.A.T.を呼称する者達は、本部を去った直後に国連預かりとなったフロンティアの一部を占拠しました。そして皆さんがエルフナインさんを保護して本部に帰還している間にフロンティアの一部は突如消失、占拠していた者達も消息不明となり…それから間もなく、奪われたフロンティアの機能によって、先程の映像が各国へと配信されました」

 

「フロンティアの消失について、各国は失われた転移機能が復活したと判断しているが、実態は恐らく…」

 

「ボク達と別れたキャロルが、ウェル博士達と合流した後に全員がテレポートジェムで何処かへ離脱、それと同時にナナシさんの能力再現に成功したレイアが、フロンティアを“収納”した…という事ですね」

 

弦十郎や緒川といった実力者の動きを抑えながらの集団脱走、その直後にS.O.N.G.からの独立宣言と新組織の設立…キャロル達の動きは、決して突発的な物とは思えない。監視を置かれていたにも関わらず、完璧に示し合わせた上での計画的な動きだ。

 

「なあ、ダンナ…聞くまでも無い事かもしれないが、こんな馬鹿騒ぎを企てたのって、やっぱり…」

 

人材の引き抜きと新組織の設立、かつて世界を相手取った我の強い実力者達を含めた大勢の意識統一…こんな事が可能な者など、奏達にはこの世界でたった一人しか思い浮かばない。

 

それを裏付けるのがウェル博士達の後ろに控える者達が被っていた道化師の仮面と、先程の映像で一切言及の無かった空白の椅子だ。ウェル博士の王座の右隣に配置され、キャロル達がほとんど装飾の無い同じデザインの椅子に座しているにも関わらず、明らかにワンランク上の装飾が施されたその椅子は、王座に腰かけるウェル博士が組織のトップなら、組織のNo.2のための物だという事が容易に連想出来る。研究室B所属でそこに座る可能性があるのは、対外的には生存を秘匿されている櫻井了子ことフィーネを除くのなら、その地位に納まるべきは…

 

『当然、我が信者である“紛い物”に決まっているではないですか!!』

 

「ふぇっ!!?」

 

『だぁあああああああああ!!?!?』

 

突如自分の背後から響いた声にエルフナインが戸惑い、そんなエルフナインの背中からまるで湧いて出たように姿を現した青白いウェル博士の姿に装者達は素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

『おい!オレが組み上げた術式に真っ先に割り込むな!』

 

『フン!一幹部風情が組織のトップである英雄に楯突くなど百年早いわ!』

 

『半世紀も生きていないガキが我々に年月で張り合おうなど、それこそ千年早いワケダ』

 

『や~ね~、年齢マウントは後で虚しくなるからやめましょう?』

 

それに続いて次々とS.O.N.G.を脱走したはずの面々がエルフナインの傍に青白い姿で現れ始めた。それは以前、キャロルが深淵の竜宮侵入時に使ってきた錬金術による立体映像のようだ。

 

「キャロル…!」

 

『どうやら全員、誰がこの筋書きを描いたのかは察しがついたようだな?』

 

「ではやはり、これはナナシの仕込み…!」

 

『その通り…とは言え、彼はあくまで選択肢の一つとして備えていただけで、それを選んだのは紛れもない我々の意志だ』

 

翼の言葉を、サンジェルマンが肯定する。すると今度はナスタ―シャ教授がその意図について詳細を語り始めた。

 

『神の力が顕現してしまった場合、或いは組織として我々の行動にかかる制限によって甚大な被害が予想される場合には、我々の判断でS.O.N.G.から離脱し来る厄災へ全力で備える事も検討して欲しい。最低限の体裁さえ保ってくれれば、後でどうにでも誤魔化してみせる…それが彼からの提案です。この最低限の体裁と言うのが、因果関係と思想を明確に表した状態での集団脱走、つまりは『一組織としての独立』と言う訳です。我々が纏まっていれば、各国も我々を排除するのが容易ではないと判断するでしょうから、充分時間を稼げるはずです』

 

「じゃ、じゃあ!未来を無事連れ戻して、兄弟子達が月から戻ってくれば、皆S.O.N.G.に戻って来れるんですね!?」

 

『あっははは!それはありえませんねぇ!!』

 

「っ!?」

 

響の言葉を、ウェル博士が笑いながらバッサリと切り捨ててしまった。

 

『ただでさえ微妙な立場の僕達がこうも派手に独立を宣言した以上、僕達はもう二度とS.O.N.G.に戻る事など出来ませんよ。それを許してしまえば、S.O.N.G.は何かあるたびに好き勝手な理屈で首輪を外して暴れ回る集団として各国に認識されてしまうでしょうねぇ?そんな組織が今まで通り活動する事など、どの国も許しはしませんよ。組織の解体を免れたとしても、今まで以上に厳しい制限が付けられてしまう。少しでも怪しい動きがあれば、即時に起爆する首輪を全員に填められるかもしれませんねぇ?』

 

「そ、そんな!?」

 

『残念ながら、彼の言葉は間違っていません。国家が自国以外の戦力を領土に招くのは、本来それ程までに重い事なのです』

 

「それじゃあ、マム達は本当に…!」

 

『もう二度と、S.O.N.G.に戻る事はない。もし仮にそれが可能であったとしても、我々にその気はない。ドクターウェルの語った言葉は決して彼の独断ではなく、紛れもない我々の総意であるからだ』

 

「サンジェルマンさん…」

 

強い覚悟の籠った言葉を聞き、響達にはサンジェルマン達が本当の意味でS.O.N.G.から去ってしまったのだと悟った。それはつまり…

 

「あの空白の椅子がナナシの物であるならば…地球から帰還したナナシは、そちらの一員に加わるのか?」

 

『Exactly!!僕の筆頭信者であるあの“紛い物”にはB.E.A.T.の次席を用意してあります!僕の英雄譚を未来永劫語り継ぐ彼には、特等席で僕の偉業を観測してもらわないとねぇ!!』

 

『そうでなければ我々が形だけでもこのオタンチンの部下になどならないワケダ』

 

『あのジャパニーズホラーがバランス取らないなら、こんな困ったちゃんだらけの組織なんて秒で瓦解するわ。あーしはそんな役割絶対ノーサンキューよ!!』

 

カリオストロ達の答えに、その場にいた多くの者達の顔が曇ってしまった。特に翼の動揺が大きく、床に手を突いて蹲ってしまった。

 

「翼!?」

 

「済まない、奏…我々の力が及ばなかったから…私が不甲斐無いせいで、仲間達が…ナナシが…」

 

日本政府の横暴を許し、仲間を攫われ、神の力の顕現を阻止出来なかった。そんな自分達をキャロル達が見限った事を責められはしない。自分達の尻拭いで仲間達が居場所を追われた事実に、翼は無力感で押し潰されそうになっていた。

 

そんな翼に仲間達が少なからず共感して、S.O.N.G.内が暗い雰囲気に包まれていると…そんな翼達を見て、キャロルがフンと鼻で笑ってきた。

 

『何をそんなに悲観している?別に今生の分かれという訳ではあるまいに』

 

バリンッ!

 

キャロルがそう言った直後、何かが割れる音が響いたかと思うと、キャロル達の青白いシルエットの真下に錬金術の陣が浮かび上がり…響達の目の前に、本物のキャロル達が姿を現した。

 

『………え?』

 

「フフッ、見事に間抜け面が並んでいるワケダ」

 

「ドッキリ大成功って感じね?」

 

ポカンと呆けるS.O.N.G.の面々に、カリオストロ達が悪戯を成功させた子供のような笑みを向けていた。

 

「え?…あれ?…ここには、二度と戻らないって…?」

 

「それはあくまで『所属』の話だ。空間移動を可能とする我々にとって、物理的な隔たりなど有って無いようなものだ。別にお前達と対立するために独立した訳では無いのだから、我々がこうしてS.O.N.G.を訪れる事に何の問題がある?それとも風鳴司令、もう国連から我々の捕縛命令が下っているのか?」

 

「い、いや、各国の上層部はまだ混乱中で、それどころでは…」

 

「だろうな?そうなるように仕向けたのだから…どうやらお前達も勘違いしているようだから訂正しておくが、あの“紛い物”と櫻井了子はS.O.N.G.を離脱してなどいないぞ?独立を宣言したのは、あくまで映像に映っていた我々なのだから」

 

『ええええええええ!!?』

 

「し、しかし先程、ナナシにはそちらの次席を用意していると!!?」

 

「元々アレは一つ所に根を張るような生き方はしていなかろう?しれっとどちらの立場も使い分けるに決まっている。だから先程の映像もはっきりとは明言せずにそれらしい演出に留めたのだ。これで国連の連中は我々の行動が独断なのか、あの男の指示なのか分からず様子見する他ない。出発前に高めに高めたあの男の利用価値に目が眩んだ欲深い連中は、そう易々と得られる利益を諦められないだろうから、あの男が戻ってくるまではS.O.N.G.に対しても我々を取り逃がした事を強く責め立てる事は出来ないはずだ。そうやって今度は国連が身動きを取れない間に、我々は誰に憚られる事無く神に対抗する準備を進めようと言う算段だ」

 

もう二度と戻らないと言う言葉を重く受け止めていた響達は、あっけらかんと告げられたそのネタ晴らしに体の力が抜けてへたり込んでしまった。どうやらこれも、ナナシが仕込んでいた悪戯の一つである事を察して、呆れつつも安堵の笑みを浮かべてしまう。

 

「前々からあの男は潔白過ぎるこの組織の在り方を危惧していた。一刻を争う状況で身動きの取れない愚かさは今回の件で充分に理解出来たであろう?遅かれ早かれ対策は必要だったが故に、今回の日本政府の愚行をご都合良く利用させてもらっただけだ。今後我々がなし崩し的にS.O.N.G.とは異なる秩序維持の組織に納まるか、パヴァリア光明結社に代わり裏の世界を牛耳る新組織となるかは、この騒動に決着をつけた時の状況次第であの“紛い物”が都合良く決めるであろうよ」

 

そう言ってキャロルがへたり込むエルフナインの頭にポンと手を置きながら、奏と翼に視線を向けた。

 

「我々が抜けた穴をエルフナイン一人に背負わせるのも酷だから、フィーネはこちらに残しておく。その方が都合良かろう?あいつは戻ってきたら、貴様らに生涯をかけて償うのだからな?」

 

「何もかも計算通りって事か…ったく、あのお人好しめ…」

 

「いらないのなら、フィーネ諸共こちらで引き取って構わないぞ?“紛い物”の所有権、オレはまだ諦めていないのだからな?」

 

「だ、駄目だ!ナナシは私達の!!…その…マ、マネージャーなのだから!!!」

 

キャロルと翼達が言い争っている間に、サンジェルマン達が響とクリスに手を差し出していた。

 

「結局、袂を分かつ事になってしまったが…異なる正義を掲げて尚、手を取り合えると教えてくれたのはお前達だ。例え歩む道筋が変わったとしても、同じ正義を目指していけると信じている。共に握った拳を開いて、アダムに立ち向かったあの時のように…」

 

「はい!サンジェルマンさんに教えてもらった拳を開く勇気、わたしも信じて突き進みます!!」

 

「ったく、結局どいつもこいつもあのご都合主義に良いように丸め込まれやがって…」

 

「あーたも同じ穴の狢でしょう?ああ違った、猫ちゃんだっけ?」

 

「すっかり爪も牙も丸っこくなって、もはや野性味の欠片もないワケダ」

 

「ちょせえ!!」

 

響が嬉しそうにサンジェルマンの差し出した手を握って立ち上がり、クリスが文句を言いながらカリオストロの手を弾いて自力で立ち上がる。すると今度は、ナスターシャ教授が車椅子でマリア達の傍に近づいて行った。

 

「マム…!」

 

「私はかつて、自分とあなた達に悪を背負わせようとしました。人類と世界のためと理解しながら、割り切れぬ心を誤魔化すために…しかし今回は、私が心から正義と信じる道を歩んでいます。だから私の事は心配せず、あなた達も胸を張って自分の信じる正義を貫きなさい」

 

「でも…本当に大丈夫なんデスか!?」

 

「S.O.N.G.から離れて、もしまたマムが発作を起こしたら…」

 

「伝えるタイミングが無くて申し訳なかったのですが…もう私の病気を心配する必要はありません。彼は、成し遂げてくれました」

 

「え…?」

 

「私は既に、病を克服しています。もう二度とあなた達の前で血を吐くような真似はしませんから、安心してください」

 

「ほ、本当に…?」

 

「アタシ達を安心させるためのウソじゃないデスよね!?」

 

「ええ。彼の名誉と、私達家族の絆に懸けて真実です。方法については、私が勝手に語るのはよろしくないので月から戻ってきた彼に聞いてください」

 

「「うわああああああああああああ!!!」」

 

切歌と調が泣きながらナスターシャ教授に抱き着くと、ナスターシャ教授は優しく二人の頭を撫でた。

 

「全てが丸く収まったら、皆でお出掛けしましょうか?」

 

「グズッ…約束デスよ!ウソついたらハリセンボンデスからね!!」

 

「調の料理も、お腹いっぱい食べさせてください」

 

「ヒック…うん…マムに食べて貰いたい物、いっぱいあるから…全部作るから…」

 

その光景を前に、マリアは止めどなく涙を流しながらポツリと呟いた。

 

「『普通でない生活の中で、精一杯幸せに』…本当に、あの男はどれだけ私達を信じさせれば気が済むの…チクショウ、敵わない訳だ…」

 

マリアもナスターシャ教授の傍に近づき、切歌達諸共にナスターシャ教授を抱き締める。もはや疑う事などありはしない。ナナシが備えたと言うのなら、その先にきっと笑って過ごせる未来が待っていると、マリア達は確信した。

 

「ハハハ…なんかもう、今あいつの相手をしている月の神様が可哀想に思えてくるな?あいつにかかれば、神様だろうと何だろうと、全部茶化してどうにかしちまいそうだ」

 

マリア達を見て瞳の端から零れた涙を拭いながら奏がそんな事を呟くと、今ナナシが月で行っている事を知っているキャロル達はつい苦笑してしまった。

 

 

 

「ああ…きっと月にいる神も、アレのバカさ加減には今頃頭を抱えているであろうよ」

 




相変わらず!説明が長い上に!!纏まらない!!!
…一回お休みを貰った上に連休の結構な時間を費やしてようやくこの仕上がりです。もうちょっと分かりやすく書きたかったのですがこれが限界でした。
とりあえず『この作品では無事だった元敵キャラ達が集まって新組織『B.E.A.T.』を結成した』点さえご理解いただけたら、細かい事は多分気にしなくて大丈夫ですw

次回は久々にこの作品の主人公が出てきます。回想を除くと約二ヵ月ぶりの登場ですw
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