戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第212話

時は少し遡り、風鳴訃堂と翼達が衝突している頃。騒動の隙を突いて屋敷の地下、シェム・ハの眠る部屋に忍び込んだ者達がいた。

 

「奴らが派手にやりあっている今こそ、ウチらのターンだゼ!」

 

それは訃堂の策に嵌り、瀕死の状態でキャロルに捨て置かれたノーブルレッドの三人だった。仕込まれた毒と稀血の汚染で体はボロボロだが、怪物としての生命力で何とか凌いでいる状態だ。もはや一刻の猶予もない。

 

「どうするで、ありますか?」

 

「神の力の管理者権限をこちらに移し替えるの。私達を簡単に切り捨てた風鳴訃堂には、相応の報いを受けてもらわないと」

 

そう言ってヴァネッサが端末を操作すると、程なくしてダイレクトフィードバックシステムの機能が一時停止した。

 

「よし、これでダイレクトフィードバックシステムを…」

 

ヴァネッサが自分達に管理者権限を移してシステムを再起動しようとしていると、突如眠るように閉じていたシェム・ハの瞳が開かれた。

 

「っ!?何を…」

 

突然のシェム・ハの動きに反応出来ず、エルザはシェム・ハの腕から伸びた光の刃に心臓を貫かれた。

 

「お、おい、これって…」

 

間髪入れず、シェム・ハは腕を横に振るってエルザに肩を貸していたミラアルクの体を光の刃で両断してしまった。

 

「エルザちゃん!?ミラアルクちゃん!?」

 

異変に気付いたヴァネッサが手の銃口をシェム・ハに向けるが、その時には既にシェム・ハは腕を振るっており…ヴァネッサは自分の視界がズレて床に転がるのを自覚した。視界の端に、恐らく自分の体から流れた血液が床に広がっていくのが見えた。

 

『この血液は見知らぬ誰かを助けるために献血によって集められた…まさに愛の結晶と言っても過言ではない代物だ。これほど明確な形で他者の愛情を受けているはずのお前らは、そんな事にも気付かず容易く愛情を否定した…お前らに、この愛を受け取る資格はない』

 

(ああ…零れていく…愛も、悪意も、何もかも…)

 

薄れる意識の中で、死毒と悪意に塗れながらも自分達を生かしていた血液が流れていく光景にそんな想いを抱きながら…ヴァネッサの意識は暗闇の中に沈んでいった。

 

 

 

 

 

翼に敗れ、地に伏した訃堂を連行するために弦十郎がゆっくりと近づいて行く。訃堂も観念したのか、すっかり覇気の消え失せた様子で弦十郎の接近にも無反応だった。

 

そんな訃堂の肩に弦十郎が手を掛けようとした、その時…突如屋敷の一角から赤い光の柱が天へと伸びていった。

 

「何なんだ、こいつは…?」

 

「フ、フフフ…首輪をつけて神を飼いならそうとした報いがここに…」

 

光の立ち上った場所に心当たりがある訃堂は、何かを察したように乾いた笑みを零した。

 

「あんたが仕掛けた事ではないのか!?」

 

「どうやら風鳴の祈り、護国の願いはここに潰えて果てたとみえる…」

 

そんな会話をしている間に、光の立ち上る場所から屋敷の一角を破壊しながら何か巨大な物体がせり上がってきた。表面の所々に血管のような赤い筋の浮かぶそれは巨大な生き物を彷彿とさせるが、大地から伸びて上部が枝葉のように広がる様は植物のようにも見えた。

 

「あれは…!」

 

「不敬である。道具風情が我を使役しようとは…」

 

翼が謎の巨大物体出現に驚いていると、その物体の上から声が響いてきた。声のした方向に視線を向けると、そこでは楔から解放され自由の身になった神…シェム・ハが自分達を見下ろしていた。

 

「道具…?僕達の事を!?」

 

「じれったい。道具の用いる不完全な言語では、全てを伝えるのもままならぬ」

 

「どういう事だ!?」

 

「もはや分かり合えぬという事だ。ああ…それこそが、忌々しきバラルに呪詛であったな?」

 

要領を得ない問答の末に、シェム・ハは掌に光球を発生させると弦十郎達へ向かって撃ち放ってきた。

 

Seilien coffin airget-lamh tron

 

シンフォギアを纏って素早く弦十郎達の前に飛び出したマリアは、三角形のバリアを展開して光球を弾き飛ばした。

 

「ここは私に任せて、司令達は容疑者とパパさんを!」

 

「マリア…!」

 

「翼!ここは引くぞ!」

 

「くっ…!」

 

訃堂は消沈しているように見えるが油断は出来ず、弦十郎も手傷を負っている状態だ。仲間達の安全を第一に考えるなら、自分も弦十郎達と共に退避した方がマリアの憂いも無くなる…そう理解した翼は、後ろ髪を引かれながらもマリアを残して弦十郎達と共に屋敷から離れていった。

 

シェム・ハが次々と繰り出す光球を短剣で弾き、マリアは無数の短剣を射出してシェム・ハを攻撃する。シェム・ハは光球を巨大化させて自分の前に展開してマリアの放った短剣を防いでみせた。

 

「笑止な。この身を傷つけまいと、矛盾思考に刃が鈍っておるぞ」

 

マリアが続けて射出する短剣を軽く躱しながら、シェム・ハが光球を放ってマリアを非難する。

 

「測るに能わず。全力で来い!」

 

シェム・ハの腕輪が輝いたかと思うと、これまでの光球とは異なる銀色の光線がマリアへと放たれる。バリアを展開して光線を受け止めたマリアだが、バリアが一瞬で変貌するのを目の当たりにして咄嗟にその場から跳躍した。通過した銀の光線が後方の木々に命中すると、何と一瞬で木々が形をそのままに銀へと変わってしまった。

 

「銀の…輝き!?」

 

その光景と、地面に散らばるバリアの成れの果てを目にしたマリアが驚愕する。S.O.N.G.本部でも、シェム・ハの攻撃を観測していた友里達が同じように驚いていた。

 

「物質転換!?」

 

「組成構造を書き換えて!?」

 

「埒外物理学…錬金術とはまるで異なる強引なやり方で…!」

 

エルフナインもその光景に驚愕しつつ、何処か既視感を覚えていた。

 

(まるで、ナナシさんの“千変万化”…!)

 

自身の肉体に限定されてはいるが、瞬時に物体の性質を変化させるその力にエルフナインは思わずナナシを連想していた。

 

シェム・ハが再び銀の光線を放とうとして腕輪を前に突き出すが、腕輪は一瞬輝くだけで光線が放たれる事は無かった。

 

「銷魂である。今の馴染みではこの程度…それとも、ユグドラシルの起動に力を使い過ぎたか?」

 

攻撃が不発となった事で生まれたシェム・ハの隙を突き、マリアがシェム・ハの腕に蛇腹剣を巻き付けた。絡みつく刃に、シェム・ハは目を見開いて驚いているようだった。

 

「マリアさん、シェム・ハを捕らえました!」

 

「これで動きを止められれば…!」

 

動きを封じられて動揺するシェム・ハに本部は好機を見出すが、妙な事にシェム・ハは自身を捕らえたマリアよりも腕に巻き付く蛇腹剣とその元となるマリアの左腕にばかり注目しているようだった。

 

「その左腕…フッ、驚愕だ。貴様、面白い物を身に纏っているな?エンキの末にあたる存在か?」

 

シェム・ハは興味深そうに笑ってマリアに問いかけるが、その意味が分からないマリアはただただ困惑していた。

 

「ユグドラシルだとかエンキとか、さっきから訳の分からない事を…ぐあっ!?」

 

マリアの答えが気に入らなかったのか、シェム・ハは腕輪から波状のエネルギーを放って蛇腹剣とマリアの体を吹き飛ばしてしまった。

 

「くっ…こうなったら…!」

 

遠距離戦では埒が明かないと判断したマリアが、意を決して短剣を手にシェム・ハへと肉薄しようと跳躍した…その直後。

 

「かはっ!?」

 

そんなマリアに対して、三方向から一斉に攻撃が仕掛けられた。巨大な爪と牙に異形の足、鋼鉄の腕に挟まれたマリアは苦悶の声と共に口から血を吐き出す。不意打ちとは言え、シンフォギアの防御を突破する程の攻撃を繰り出してきたのは…

 

「ノーブルレッド!?だけど、この力…以前とは比べ物にならない!?」

 

シェム・ハを守るようにマリアの前に立ちはだかるノーブルレッド達は、以前とは所々姿が変わっていた。何処かチグハグな印象だった人と怪物の要素が自然な形で纏まっており、三人の額には共通の赤い紋様が浮かび上がっていた。

 

「あいつら!?」

 

そんなノーブルレッドの姿に本部で待機しているクリス達が驚愕していると、友里達がマリアに急ぎ指示を出し始めた。

 

「司令以下、各員の撤退を確認!」

 

「もう充分です!マリアさんも戦線を退いてください!」

 

「ええ、そうさせてもらうわ」

 

状況の不利を察したマリアはそれ以上無理をしようとはせず、屋敷の瓦礫を伝って一目散にその場から逃走していった。その様子を、まるで馬鹿にするような視線を向けながらミラアルクが口を開いた。

 

「とろ臭い。あれで逃げてるつもりなんだゼ?」

 

「追わないでありますか?」

 

「理解に苦しむ。世界樹ユグドラシルシステムが屹立した今、何処に向おうと人類に逃げ場などありはしないと言うのに」

 

シェム・ハがそう言い終わった直後、巨大物体…ユグドラシルが地面から更に天高くへと伸びていき、シェム・ハとノーブルレッド達を遥か上空へと運んでいった。人の営みを見下ろす神の背後で、ヴァネッサが変わり果てた自分の姿を確認するようにその手を見つめる。

 

(あの時、確かに私達は殺されたはず…現代に解き放たれた、超抜の存在に…)

 

 

 

 

 

抵抗さえ許されず、一瞬の内に切り捨てられたはずノーブルレッド達は、気が付くとほとんど傷を失った状態で床に蹲っていた。残る僅かな傷から、床へと広がっていた血液が蠢いて体内へと戻っていく。その光景は、かつて“紛い物”が自らの血液を自分達へと流し込んできた時の事を彷彿とさせた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「遺憾よな…我が力、かつての万分の一にも満たぬか…」

 

「ふざけた事を…言わせないゼ!」

 

自分達を容易く一蹴しておきながらそんな事を言うシェム・ハの態度に腹を立てたミラアルクが立ち上がると、その両手足がカイロプテラを纏った時のように強化された。

 

「何!?」

 

「ミラアルクちゃん!?」

 

ミラアルクの肉体強化には体の一部と言う制限があったはずなのに、背中に生えた羽はそのままに強化された四肢はミラアルクにこれまで感じた事のない力を実感させた。

 

「一体、どういう訳だゼ…?体に漲るこの力…まるで本物の…」

 

「まるで本物の怪物とでも?ああ、そうさな。歪な形であったお前達を完全な怪物へと完成させたのは、我が力の一摘まみよ」

 

シェム・ハが何気なく言い放ったその言葉によって、ノーブルレッド達は目を見開いて硬直してしまった。

 

「完全と…完成…」

 

「まさかそれって、もう…人間には戻れないって事なのか…?」

 

「愚問である。完成させるとはそういう事だ」

 

淡々と返されたその答えにミラアルクは床へ崩れ落ち、エルザと共に無念の涙を流した。

 

「あぁ…くぅ…うぅ…」

 

「人の群れから疎外される恐怖と孤独は、もはや癒される事はなく…」

 

涙を流す家族の姿に、ヴァネッサは無力感に苛まれる。その腕から思うままに刃が展開され、その体がどうしようもなく怪物として完成された事を自覚してしまった。

 

「ああ、怪物はとうとう、何処までも異物に…」

 

「気鬱たる!ならば我に仕えよ」

 

打ちひしがれるノーブルレッドに向かって、シェム・ハは自らに付き従う道を啓示した。

 

「この星の孤独も疎外も、全て我が根絶やしにしてくれるわ」

 

 

 

 

 

「神よ…」

 

怪物と完成してしまった以上、その言葉を信じる他になく…ヴァネッサはシェム・ハに頭を垂れる選択をした。そんなヴァネッサに賛同して、エルザとミラアルクも付き従う道を選んだ。

 

(完全な怪物となってしまった以上、シェム・ハを信じる以外にこの孤独と恐怖を癒す術は…)

 

『皆と仲良くしたいなら、普通に仲良くすれば良いじゃないか?』

 

「っ!!?」

 

そんなヴァネッサの脳裏に、かつて自分達を捕らえた男の言葉が過った。

 

『お前らが人と仲良く出来ないのは、単純にお前らが仲良くしようとしてないだけだろう?』

 

そう言って、化け物としての在り方を一切偽る事無く…堂々と人の中に紛れ込んでいた“紛い物”の在り方に、一瞬だけヴァネッサは希望を抱きかけてしまった。

 

しかし…

 

『貴様らにも、オレにも、誰にも理解出来ぬだろうな…誰よりも、諦める事が嫌いなあいつが!一体どんな想いで…『貴様らの望む未来』を、守るために!!……『貴様らと共に笑う未来』を、諦めたかなど!!!』

 

…その希望は既に、自ら投げ捨ててしまったのだと思い直した。

 

『『よろしくお願いします』…ただその一言を紡ぐだけで、貴様らは全てを手に入れられた』

 

(もう、何もかも手遅れなのよ…)

 

そう自分に言い聞かせるよう、ヴァネッサは頭を振るって脳裏に過る言葉を振り払う。しかしそれでも、その頭に浮かぶのは…忌々しさしか感じていなかったはずの、“紛い物”に弄ばれる日々ばかりだった。

 

 

 

 

 

「はい…はい…でも、わたしの謹慎は?…分かりました、本部に向います!」

 

立て続けに発生した異常事態に、本部はアマルガムの制限が解除された事もあり、急遽響の謹慎も解除して今後の対策を練るために本部への招集をかけていた。通信機に了承の返事を返す響に、洸がみかんの皮を剥きながら声をかけた。

 

「行くのか?」

 

「うん、行かなきゃ」

 

強い意志を瞳に宿して準備を進める響に、洸は優しく微笑んだ。

 

「なあ、響…」

 

「うん?」

 

「『へいき、へっちゃら』だ」

 

「へっ?」

 

突然投げかけられたその言葉に、響は手を止めて呆けるような声を出してしまった。

 

「何もしてやれない駄目な父親が、娘にかけてやれる唯一の言葉だ」

 

洸は立ち上がると、棚に置かれていた写真立てを手に取る。そこには響が小学校に入学した時に取った響と両親が映し出されていた。

 

「同じ言葉でも、根性無しの俺には、いつしか呪いと変わっていった…だけどお前は違うだろう?」

 

「お父さん…」

 

「物事を、呪いと取るか祝福と取るかなんて、気の持ちよう一つだ」

 

「呪い…うん、そうだね」

 

洸の言葉に響は少しだけ自分の拳に視線を向けた後、フッと笑みを零して頷いた。

 

「それにほら、なんだ…呪いも祝福も、漢字で書くと良く似ているだろう?裏と表で…お?俺の言っている事もあながち間違いじゃないかもな!」

 

「フフッ、何それ?」

 

「来年の今頃には、きっと名言だ」

 

「けだし名言、だよ!」

 

先程まで緊張感を漂わせていた響は洸の言葉ですっかり肩の力が抜けたようで、いつもの明るい元気な雰囲気を取り戻して洸のアパートを飛び出していった。そんな娘の背中に、洸は大きな声で声援を送った。

 

「行け、響!お母さんの事は任せろ!!」

 

「ありがとう、お父さん!お肉美味しかった!お仕事頑張ってね!」

 

「仕事探しな!?社長がどうとかは周りが勝手に言っているだけで、別に俺は了承してない…」

 

プルルルルル!プルルルルル!

 

「えっ?あっ、副社長君?一体何が…へっ?案の定、俺の目を付けた企業に不祥事が発覚!?大規模人材確保のチャンス!!?一千万を超える利益見込み!!?!?いや、だから、俺は仕事を探してただけだからぁあああああ!!!」

 

「あははははは!!」

 

後ろから響いてきた絶叫に響が思わず笑い声を上げる。今の洸を見ていると、先程の言葉も重みが出てくるように思えてきた。本人は甚だ不本意かもしれないが…

 

(呪いと取るか祝福と取るかなんて、気の持ちよう一つ…それってまるで、兄弟子がいつもやってる事みたい!)

 

そんな事を考えながら、響は頭上に浮かぶ月を見上げる。気持ち一つで、在り方を都合良く変えてみせる…それはまさに、自分が尊敬する兄弟子が繰り返してきた事だった。

 

(だったら、妹弟子のわたしだって!)

 

本部へ向かって駆けながら、響は月へと伸ばした手をギュッと握り締める。それは今まさに月で奮闘するナナシへ対しての、響なりの誓いを表していた。

 

 




ほとんど原作通りの流れを無理やり主人公を絡めて差別化w
次回からは色々とオリジナル展開が発生するのでお楽しみに
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