戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第213話

ユグドラシルの出現からしばらく経ち、S.O.N.G.の調査部は姿を消したシェム・ハとノーブルレッドの捜索に動いていた。

 

「半径二キロ圏内にてノーブルレッドの発見ならずとの報告!」

 

「捜査範囲を広げろ!連中の逃走速度より早く!」

 

「了解!」

 

捜索は難航しており、調査部が総力をあげても痕跡一つ見つける事が出来ていない。それは当然の事で、シェム・ハとノーブルレッド達はユグドラシルの根本…シェム・ハが囚われていた風鳴の屋敷の地下室に舞い戻っていたのだから。

 

シェム・ハとノーブルレッド達はユグドラシルの機能によって頂上から幹の内部を伝って部屋へと移動していた。部屋はユグドラシルの根に覆われており、元々の出入り口は塞がってしまっているので、そこは既に神の許しが無ければ立ち入る事の出来ない神域となっていた。

 

シェム・ハは自らを捕えていた機器の傍に佇むと、拘束具であるはずのダイレクトフィードバックシステムを利用して何かを行っていた。それから間もなく、機器を管理するコンピューターのモニターに、かつての完全な神であった頃のシェム・ハの姿が次々と映し出されていった。

 

「それは…?」

 

「面白かろう?我を拘束せしめた戒めより、我の断片を逆流させている。我は言葉であり、故に全てを統治する」

 

自身を言語と置き換えるシェム・ハには、人の生み出したプログラムという言語に自身の写し身を据え置く事など容易い事であった。

 

「これもまた、シェム・ハの力…」

 

自分達の付き従う神の力の強大さは頼もしくもあり…恐ろしくもある。

 

『未来ってのは選択の積み重ねだ。現在この瞬間の選択が、そこから先の一生を左右する可能性は常に存在する。だからこそ人は『理性』を以って最善の選択を模索し続ける』

 

『必死に悩んで、足掻いて、俺の思惑を超えるような…そう自分達を騙せるような未来を選択してみせろ』

 

「……」

 

「ヴァネッサが神と仰ぐなら、私とミラアルクも従うであります!」

 

目の前の神に付き従う道を選んだヴァネッサが、その選択が本当に正しかったのか判断出来ずに顔を俯かせていると、エルザがそう言ってヴァネッサを元気付けた。自分を信じてくれる家族の想いに、ヴァネッサは顔を上げてフッと微笑んだ。

 

「で?神様はどうやって、ウチら怪物の孤独や疎外感を拭ってくれるんだゼ?」

 

「知れたこと…この星の在り方を五千年前の形に戻すのだ」

 

何処か試すようなミラアルクの質問に、シェム・ハが淡々とそんな答えを返してきた。

 

「五千年前…?そいつは、先史文明期ゾッコン期だゼ…」

 

当たり前のように告げられたシェム・ハの思惑に、問いかけたミラアルクの方が呆気に取られてしまった。そんなミラアルクから視線を外し、今度はシェム・ハがエルザへと問いかけた。

 

「申しつけた物はどうなっている?」

 

「これで、ありますか?」

 

エルザはシェム・ハに、二つのテレポートジェムを差し出した。シェム・ハはエルザからジェムを受け取ると、力を籠めるように軽く握り締める。するとジェムが一瞬淡く輝き、光が納まった時にはピンク色だったジェムが黄金色へと変化していた。

 

シェム・ハは自らの能力と神の力によってテレポートジェムの登録座標の書き換えと機能拡張を行い、以前キャロル達が不可能と言っていた超長距離間の転移…月へと移動可能なテレポートジェムをあっさりと生み出してみせた。

 

「傾聴せよ、怪物共」

 

そう、この星の在り方を五千年前に戻すと言うのは、そのジェムを使ってノーブルレッド達を月遺跡へと送り出し、人類の統一言語を縛るバラルの呪詛を解除すると言う事…

 

「貴様らにはこれより、使命を…」

 

シェム・ハが従属であるノーブルレッド達に命令を下しながら、エルザに強化テレポートジェムを手渡そうとして…

 

「……チッ!」

 

…直前で、何故かシェム・ハは言葉を途切れさせ、舌打ちしながらエルザにジェムを手渡す前にその手を引いてしまった。突然不機嫌そうに頭を押さえるシェム・ハの姿に、ノーブルレッド達はどうして良いか分からず困惑してしまう。

 

「遺憾である…今し方、この依り代の記憶を垣間見た。今、我々の巫女であるフィーネと共に…不敬にも我らの力をその身に取り込んだ者が月へと赴いているのだな?」

 

「「「!!?」」」

 

心当たりのあるノーブルレッドが目を見開いて驚いている間に、シェム・ハは未来の記憶からその者…ナナシの情報を読み取っていった。

 

「何だ、この低俗なる者は…!このような『不完全("紛い物")』が、我らに連なる存在を称するなど…!!」

 

「神であるあなたでも、あの男については何も知らないの?」

 

「知るものか。知っていればこのような冒涜の存在などとっくに抹消している。我を封じた後に同族共が生み出したのか、パヴァリアなる者達同様に我らの領域を犯した咎人が存在したのか…」

 

どうやら世界の創造に携わったシェム・ハでさえナナシの存在に心当たりは無いらしい。

 

「いずれにせよ、これでは貴様らを月に送ったところで詮無き事。拾った命を捨てに行かせるようなものだ」

 

「なっ!?あんな奴くらい、今のウチらなら!……っ!?」

 

ガッ!!

 

反発するミラアルクであったが、一瞬の内にその喉元をシェム・ハに鷲掴みにされてそれ以上言葉を続けられなくなった。

 

「不敬である。我が力の一片を与えられたに過ぎぬ貴様ら如きが、紛いなりにも我らの領域に足を踏み入れたアレを相手取ろうなど、思い上がりも甚だしい」

 

「ゲホッ、ゴホッ!」

 

シェム・ハの手から投げ捨てられるように解放されたミラアルクが咳き込み、ヴァネッサとエルザが慌ててミラアルクを介抱する。ノーブルレッド達はシェム・ハの横暴に反感を覚えつつ…しかし内心では、その言葉に納得する想いもあった。

 

確かに自分達は以前とは比べ物にならないくらいに力を得たが…それでも、あの“紛い物”相手に勝利を掴むイメージが全く浮かばない。多少善戦出来るとは…いや、それすら怪しい。正面からぶつかったところで、前回同様に笑いながら弄ばれる可能性を否定する事が出来なかった。

 

神の力をその身に宿す者と、力の一端を与えられただけの自分達ではまさに格が違う。“紛い物”の神に対抗出来るのは…自分達の今の主人である、本物の神くらいであろう。

 

(我が直接手を下す他ない。しかし、万全とは程遠い今の状態では…)

 

月遺跡だけなら、『自身を言語と置き換える』シェム・ハの権能を上手く使えば如何様にも対処が可能だった。それは自らの力を分け与えたノーブルレッド達でも同様であり、シェム・ハが彼女達を配下にしたのはよりリスクの低い方法で月遺跡を無効化出来ると判断したからだ。

 

しかし、現在月遺跡を探索中のナナシ達が相手ではその権能も効果を発揮出来ない。下手に自分や配下達が直接月遺跡に乗り込むと、シェム・ハの復活を察知した月遺跡のシステムがナナシ達と手を組んでしまい、弱体化した今のシェム・ハでは返り討ちにされる危険がある。

 

(幸いにも、バラルの呪詛を解かずともユグドラシルシステムを稼働させる手立ては見つけた。我らの巫女が手引きしたところで、あの得体の知れぬ不完全("紛い物")を月遺跡が受け入れるとは到底思えぬ。そう考えれば、邪魔者共が遥か彼方で潰し合っている間にこの星の改造に着手出来る現状は存外の幸運とも言えるかもしれないが…)

 

「捨て置くには、あまりに目障りよのぉ…!」

 

かつての仇敵と神の名を穢す咎人、完全たる神の矜持としてどちらも自らの手で始末をつけたいとシェム・ハは考えていた。故に今一度、自身の手札を確認するために現代の情報…依り代である未来の記憶を精査し始めた。

 

(しかし、この依り代の記憶はどうにも読みにくい。未だ我の支配に屈することなく抗い続ける依り代の影響か?麗しい事だ…だが!)

 

たかだか人間の少女が抵抗したところで、神の力に抗える訳もない。シェム・ハは未来の記憶から、現代の知識や過去にあった事件の数々、そして忌まわしき不完全(”紛い物”)とその周囲の者達の情報を読み取った結果…

 

「…ほう?実に、都合が良いモノがあるではないか!」

 

…何やら名案を思い付いたように、ニヤリと邪悪な笑みをその顔に浮かべた。先程とは打って変わって上機嫌な様子でシェム・ハはノーブルレッド達へと振り返ると、ビクリと震えるノーブルレッド達へ再び命令を下した。

 

「傾聴せよ、怪物共。これより使命を授けて進ぜよう」

 

 

 

 

 

一方その頃、地球でそんな事が起こっているとは知らず月遺跡の侵略を進めるナナシ達はと言うと…

 

「ようやく、か…」

 

「ああ…追い詰めたぞ」

 

…月遺跡の外壁は全てナナシの血液で覆い尽くされ、内部もナナシの血液に満たされた事で月遺跡の全容がほとんど暴き出されていた。仮にノーブルレッド達がシェム・ハによって月遺跡内部へと送り出されていたら、三人は戦闘以前にナナシの血液で溺死していた可能性さえある。直前でナナシの情報にシェム・ハが気付いたのはまさに幸運だったと言えよう。

 

月遺跡の大半を手中に納めたナナシであったが、その脳内マップには一箇所だけポッカリと空洞が出来ていた。広さで言えばライブ会場ほどの広大な空間で、そこだけは血液一滴たりとも入り込む隙間がなく、圧を加えても周囲の外壁が崩れるばかりでこれまでの方法では内部の様子を調べる事が出来ないでいた。

 

「きっとここに、あの御方が…」

 

「ああ、だが…」

 

ようやく月遺跡の神の居場所を突き止めたナナシ達ではあるが、その顔には喜びではなく警戒が強く出ていた。

 

このような状況になるのは時間の問題だった。故に神が取るであろう対策としてナナシ達が予想していたのは、血液が完全に広がる前に中枢と思わしき空間を月遺跡内に無数に用意しておき、ダミーの空間にトラップを仕掛ける方法だった。時間稼ぎと侵入者を排除するチャンスを生み出すのなら、それが恐らくベストな方法だと…もしそうなっていたら、神の感情が筒抜けであるナナシであれば正否の判別が可能なため非常に都合が良かった。

 

しかし神は、自らの居場所を悟られようとも一箇所に守りを固める選択をした。考えられる可能性は、その空間自体が罠であり何らかの方法で神は隠れているか月遺跡を既に脱出している。或いは…小細工など抜きに、全てのリソースを集中させて侵入者を迎え撃つ腹積もりなのか。

 

(まあ、少し前からヒシヒシと感じる『覚悟』を思えば、答えがどっちかなんて考えるまでもないがな?)

 

(…どうする?)

 

これまで裏目の対策ばかり講じてきた神が、知ってか知らずか最後の最後に選んできた『最適解』にナナシが思わず苦笑していると、了子がナナシにそう問いかけてきた。了子の瞳には既に、神と比較しても勝るとも劣らない『覚悟』が宿っていた。

 

(まあまあ、ちょっと落ち着け了子。逸る気持ちは察するけど、コレはあれだ。『この先に進むと、もう後戻りは出来ません』ってヤツだ。ゲームと違ってリアルはセーブもリセットも出来ない以上、万全を期すために一旦冷静になろう。地球がどうなっているのかも気になるし、ラスボスに挑む前に弦十郎達と情報交換しておこうぜ?)

 

(…分かったわ、ごめんなさい…いえ、ありがとうね、ナナシちゃん)

 

いよいよ神との直接対決が予期される状況で、普段通りの軽薄さを見せるナナシに了子は苦笑しつつ感謝を伝えた。数千年待ち望んでいた悲願を目前に感情が高ぶる了子にとって、ナナシがいつもと変わらず茶化して緊張を解してくれる事がとてもありがたかった。

 

了子の感謝に笑顔で応えながら、ナナシは恐らくこれが最後となる落ち着いた状況での情報交換を行うために、地球にいる仲間達へと“以心伝心”を繋ぐのだった。

 

 




ちょっと短めです。
ノーブルレッド達も地球に残存、そして主人公達の月遺跡攻略もいよいよ大詰めです。
色々とオリジナル展開を繰り広げていくので、一つくらいは読者の皆様を驚かせるような展開をお見せ出来るように頑張りますw
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