戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第214話

調査部がシェム・ハとノーブルレッド達の行方を捜索している間、謹慎の明けた響を含めた装者全員がS.O.N.G.本部へと集まっていた。夜間に招集をかけられた響だったが、本部に到着した時には訃堂の捕縛も完了してシェム・ハとノーブルレッド達も姿を消してしまったため、簡単に現状を説明された後は一先ず装者達は本部内に待機する事になった。そして翌日、諸々の後始末を終えた弦十郎から改めて響は自分の謹慎中に起こった出来事について詳細を聞く事となった。

 

風鳴訃堂の捕縛には成功したがシェム・ハが自由の身になってしまった事、そのシェム・ハに何やら強化されたノーブルレッド達が付き従っている事など、自分の知らない間に起こった事に響は驚きつつも現状を受け入れた。未来を保護出来なかった事を謝られもしたが、響は仲間達が精一杯手を尽くした結果を責めるつもりなど無かった。そうやっておおよその事態を把握した響だったが…

 

「えっと、大体の事は理解出来たんですが…翼さんは何でずっと奏さんの影に隠れているんですか?」

 

…弦十郎が説明している間、奏の背中に頭を押し付けてずっと俯いている耳まで真っ赤になった翼の事が気になって仕方が無かった響は、遂にその理由について尋ねてしまった。

 

「あー…気にしないでやってくれ。昨日の言動を振り返って身悶えしているだけだから」

 

「昨日って、翼さんが大活躍だったんじゃないんですか?調ちゃんと切歌ちゃんから翼さんが凄かったって聞きましたけど?」

 

「っ!?」

 

「そうデスよ!昨日の翼さんは本当に凄かったんデスから!!」

 

「司令を退けた風鳴訃堂に一歩も引く事無く、蹴って殴って怒鳴り散らして、凄い気迫でした!」

 

「っ!!?」

 

「おーい後輩共、その辺にしとけ。そりゃ援護射撃じゃなくて追い撃ち滅多撃ちだ」

 

調達が心からの称賛を送るたびに翼はプルプル身を震わせて縮こまってしまう。一晩経って冷静になった翼は仲間達の前で醜態を晒した現実をまだ受け入れきれていなかった。

 

「そんなに凄かったんだ、翼さん…あっ!師匠、記録とか見れないんですか?情報共有の一環って事で!」

 

「やめろぉおおおおお!!!」

 

気遣いよりも好奇心の勝った響の無慈悲な提案に、翼が真っ赤に染まった顔を上げて思わず叫んでしまった。そんな翼の様子に苦笑しながら、マリアがとても気の毒そうに声をかけた。

 

「全く、今からそんな調子で大丈夫なの?月からナナシが帰ってきたら、きっとこの程度のからかいじゃ済まないわよ?」

 

「っ!!?お、叔父様!後生です!!後生ですから昨晩の記録を抹消して頂けませんか!!?」

 

「組織の活動記録だぞ?無理に決まっているだろう…それに抹消したところで、ナナシ君ならきっとありとあらゆる手段を使って復元するだろうから無意味だ、諦めてくれ」

 

「くううううう!!」

 

「まあまあ、落ち着こうぜ先輩。きっとご都合主義の野郎、昨日の先輩の姿を見たら笑い転げるのに必死で碌にからかう事なんてできねえって」

 

「あー、確かに…でも、以前クリスに口を塞がれても歌の感想を伝えてきた事もあったし、笑い転げながら“念話”でからかってくる可能性もあるわよ?」

 

「笑い転げるのは確定なのか!?」

 

「笑うだろうなぁ…」

 

「笑うでしょうねぇ…」

 

「確かに先生なら笑いそう…“念話”を使う余裕も無いかも…」

 

「いやいや!ナナシお兄ちゃんの誰かをからかう事への情熱を舐めてはいけないのデス!きっと笑い転げてても全力でからかってくるに違いないデス!ジュース一本かけても良いデス!」

 

「うぅ、結局わたしだけよく分からない…でも、わたしも切歌ちゃんに賛成かな?兄弟子が翼さんをからかうチャンスを逃すとは思えないから」

 

「「うう~ん…」」

 

それぞれが今回の翼の知った時のナナシの反応を予想していると、それを聞いていた奏とエルフナインが揃って首を傾げていた。

 

「あら?二人の予想は違うのかしら?」

 

「いや、笑うのは笑うと思うけど…」

 

「たぶん、皆さんが思っているのとは違うような気が…」

 

「あたしとエルフナインは同じ予想みたいだな?せっかくだから同時に言ってみるか?」

 

「は、はい。それでは、せーの…」

 

『とてつもない慈愛と労わりの籠った優しい微笑みを浮かべながら…』

 

『翼さんの成し遂げた事に、あらん限りの称賛の言葉を送って…』

 

「頭を撫でる、ですかね?」

 

「抱き締める、かな?」

 

「っ!!?!?」

 

結論のみ意見の分かれた二人の予想を聞いて、翼はボンと頭から煙が出そうなほどに顔の赤みを増幅させた。

 

「な、ななななっ…!!」

 

「武力と権力、そして極端ではありますが間違いとは言い切れない主張の押し付けなど、風鳴訃堂の長年に渡る一族への干渉は、一族から自分に逆らう意思を奪う一種の洗脳に近いものでした。その呪縛を打ち破り、自分の想いを全て叩きつけて勝利した翼さんの姿を見れば、ナナシさんはからかうのも忘れて全力で翼さんを褒めると思います。ただ、ナナシさんは異性との過度な接触は気にかける方なので、頭を撫でるくらいかなと…」

 

「あー、あたしもちょっと迷ったけど、あいつはずっと防人としての理想と歌手としての夢の間で揺れ動く翼の事を気にかけていたからなぁ。偶にネタで母親っぽい振る舞いはしていたけど、成長を見守るって点では本気で親とか家族に近い感覚だろうから、感極まって抱き締めながら褒めまくるんじゃないかな?」

 

「なるほど…」

 

「何がなるほどなのだ!?ななな、ナナシが私のあ、頭を撫でるなど!?ま、況してや、だ、抱き、抱き締めるなど!!?!?」

 

「あわわわ!?つ、翼さん、落ち着いてください!?」

 

「これはあくまであたしらの“妄想”だからな?」

 

ニヤニヤ笑いながら奏がそう翼を諭すが、自分とナナシの両方と最も長い時間を共に過ごしてきた奏と、これまでナナシの思想に関して鋭い考察を繰り広げてきたエルフナインが導き出した“妄想”など、もはや翼には予言にしか聞こえなかった。

 

「え、え~っと…本当に嫌なら、ナナシさんはきっと思い留まってくれますよ?」

 

「そうそう。もしナナシが近づいてきても、翼が嫌なら!ナナシは絶対察して止まってくれるさ。翼が本当に嫌なら!!ナナシがその気持ちを無視する事はないから大丈夫だって」

 

オドオドと翼を気遣うエルフナインと、全てを察していながら悪い笑顔で意味深な事を言う奏。確かにナナシは無自覚に他人の嫌がる真似はしない。やるとしたら理解した上でギリギリを攻めるか、覚悟を以て真っ向から尊厳を踏みにじるだろう。故に二人の言う通り、翼が拒絶の意思さえ持っていればそんな未来は訪れない。仲間の成長を喜ぶ際に時折見せる、あのとても優しい笑みを自分に向けて近づいてくるナナシに対して、ほんの少しでも拒絶の意思を持てさえすれば…

 

「うぅ…」

 

…翼は自分が詰んでいる事を察して、遂には顔を手で覆ってしゃがみ込んでしまった。そんな翼の心中を仲間達は察しつつ、狼狽え続けるその姿に『この剣、クッソ可愛い』と思わずにはいられなかった。

 

そうやって全員が生暖かい目で翼を愛でていたのだが…そんな和やかな雰囲気を切り裂くように、突如本部内に警報が鳴り響いた。

 

『!!?』

 

「何事だ!」

 

「アルカノイズの反応を検知!」

 

「反応は二箇所!一つは…リディアン音楽院の敷地内!」

 

「リディアンに!?」

 

響が驚きの声を上げるのと同時に、モニターにリディアンの映像が映し出される。校舎前の広場に、ズラリと整列するアルカノイズ。その先頭には、小柄で頭に犬耳を生やした少女…エルザが佇んでいた。獣の勘でも働いたのか、エルザは突然S.O.N.G.がモニターする監視カメラに鋭い視線を送り、画面越しにエルザと装者達の目が合った。

 

「幸い、リディアンは度重なる特異災害発生の影響で現在は臨時休校となっているため、校内に学生はいません。僅かな職員達も警報を聞いて非常口から避難していると…」

 

「でも、このままじゃ校舎が壊されちゃう…!」

 

「クリス先輩の卒業式が、ボロボロの学校なんて許せないデスよ!」

 

「お前ら…」

 

自分達の尊敬する先輩が間もなく学院を去る。それは悲しい事であると同時に、祝福すべき門出なのだ。自分達の先輩達の想い出の詰まった校舎を破壊して、その門出を穢すような真似は許せないと憤る調と切歌に、クリスは潤んだ目元を袖で拭って誤魔化した。

 

「もう一つの反応は!?」

 

「以前査察中に騒動のあった市街地近辺です。今、現地の防犯カメラの映像を出します…っ!?」

 

『!!?』

 

モニターに映った光景に、本部にいる全員が目を見開いて硬直した。

 

市街地にある広い道路の上に、アルカノイズの群れが整列している事。その群れをノーブルレッドの一人…ミラアルクが率いている事は、先程のリディアンと同じような状況だった。

 

唯一にして致命的に異なっている点は…ミラアルクがその大きな異形の手で、ピクリとも動かない少女の首を鷲掴みにしている事だ。

 

「待て!!」

 

『っ!!?』

 

すぐさま本部を飛び出そうとする装者達を、弦十郎が一喝して呼び止めた。

 

「動くのは、現状を正確に把握してからだ!」

 

「そんな悠長な事言ってる場合じゃ…!」

 

「俺達の行動一つに、あの少女の命が懸かっている事を忘れるな!!」

 

「っ…!!」

 

弦十郎の重みのある言葉に、クリスはそれ以上反論出来なくなる。他の装者達も焦る気持ちを抑え込み、一先ずは弦十郎の指示に従いその場に踏み止まった。

 

「今、市街地の方には緒川が向かっている。君達が出動するのは、あいつが即座に少女を保護出来るように潜伏し終わってからでも遅くは無い。それまでは辛抱してくれ」

 

弦十郎の言う通り、いつの間にか緒川は部屋の中から姿を消していた。それは装者達の衝動的な行動とは異なり、瞬時に自分の役割を把握した上での判断だろう。冷静に動く大人達の姿を見て装者達は落ち着きを取り戻し、改めて弦十郎の指示を待つ事にした。

 

(潜伏から一転、自らの存在を誇示するように姿を現した。明らかに罠…だが、放置する訳にもいかない。こちらの戦力の分散が狙いか、或いは陽動か…)

 

「司令、調査部より緊急連絡です!ユグドラシル近辺に、捜査対象が現れたと!」

 

弦十郎がシェム・ハの目論見を考察していると、友里から更に事態が動き出した報告が入ってきた。

 

「三箇所目…やはり狙いは戦力の分散か?今のノーブルレッドであれば、個々の力で装者達を相手取れると…」

 

「いえ、違います!ユグドラシル近辺に現れたのは、ヴァネッサさんではなく…首魁であるシェム・ハです!」

 

「何だと!?」

 

直後に本部のモニターに、ユグドラシル近辺の映像が映し出された。そこに映っていたのは、ユグドラシルの傍の虚空に留まり瞑想するように瞳を閉ざすシェム・ハだった。

 

「未来…」

 

その姿を見て、響は胸元で拳を握り締めながら親友の名を口から零した。

 

「リディアンと市街地に力を与えた配下を一名ずつ配置しながら、何故か首魁であるシェム・ハ自らが表に出て、残る一人の配下は未だ潜伏中…」

 

「司令…どうしますか?」

 

「……」

 

藤尭の問い掛けに弦十郎は少しの間考え込むと、意を決したように装者達へと指示を出し始めた。

 

「リディアン音楽院には調君、切歌君のペアで向かい、アルカノイズの殲滅とエルザ君の捕縛に当たってくれ」

 

「はい!」

 

「ガッテンデス!」

 

「市街地は翼とマリア君が向かってくれ。先行した緒川と連携して人質となった少女の救出、その後アルカノイズの殲滅とミラアルク君の捕縛だ。出来るな?」

 

「当然よ!」

 

「お任せください!」

 

敵の思惑通りである事は察しつつ、弦十郎は戦力を分散させて調と切歌、翼とマリアに任務を下した。そして…

 

「響君、そしてクリス君は…」

 

「任せろ、おっさん!」

 

「未来は必ず、わたし達が連れ戻して…」

 

「本部で待機だ」

 

「「!!?」」

 

てっきりシェム・ハの相手を任されると思っていた二人は、弦十郎の予想外の指示に驚愕してしまった。

 

「何故配下ではなく神が自ら表に出ているのか…神が最も脅威を感じているのは、間違いなく響君の『神殺し』の力だ。自らが表に出れば、響君も自分の前に姿を現す事など分かり切っている。であれば、最後の配下であるヴァネッサ君が潜伏している理由は恐らく…」

 

「自らを囮に、姿を現した立花を配下と挟撃して亡き者にしようと…!?」

 

その可能性に気付いた翼が思わず声をあげる。確かにそれならば、依然としてヴァネッサが姿を隠し続ける理由にも説明がつく。

 

「だったら、あたし一人で…!」

 

「不意打ちとは言えマリア君を易々と退けた今のノーブルレッド達を相手にするなら、最低でも二名以上と考えた故の先程の采配だ。ノーブルレッド達を優に超えると推定される神に君が一人で挑むなど無謀過ぎる!」

 

「だったら、一体どうすりゃいいってんだ!」

 

弦十郎の言う事も理解出来るが、このまま姿を現したシェム・ハを放置など出来るはずもない。クリスが苛立ちを籠めて悪態をついていると…弦十郎は静かに歩みを進めた。

 

「師匠?何処へ…まさか!?」

 

戦力が足りない非常事態に、自ら戦場へ向かうつもりなのか…響が思わずそんな予想を立てていると、弦十郎は途中でピタリと歩みを止めて…エルフナインへと声をかけた。

 

「そういう訳だから、力を貸してもらえないだろうか…『キャロル君』」

 

『ほう?流石にこの状況で自ら先陣を切る程、愚かではないようだな?』

 

「キャロル!」

 

弦十郎が呼び掛けた直後、エルフナインの傍に幻影のキャロルが現れた。どうやら先程までのやり取りは、エルフナインを通して既に把握済みらしい。

 

「そうか、B.E.A.T.は元々神の力が顕現してしまった場合に備えるための組織…だったら、この状況を打破するための手立てが…!」

 

『無論…と言いたいところだが、些か相手の動きが早過ぎる。こちらの備えが全て揃うまでに、もう幾ばくかの猶予が必要だ。故に…ここはオレ一人であの神を相手にしてやる』

 

『!!?』

 

単身で神に挑むと言うキャロルの発言に、全員が驚きで目を見開いた。

 

「ちょ、ちょっと待ってキャロルちゃん!だったらわたし達も一緒に…!」

 

『先程の話を聞いていただろう?未だ姿を現さぬパチモノの一人がどう動くか分からん以上、貴様らは万が一に備えてそのまま待機していろ』

 

「…やれるか?キャロル君」

 

『誰に物を言っている?どれだけ神の力が強大であろうと、オレなら時間稼ぎぐらい造作もない。何より、『策の一つ』は元々オレ一人でも実行可能なのだ。何なら、このままオレが神を打倒してやっても構わんのだぞ?』

 

「あっ、駄目ですキャロル!それはフラグです!ナナシさんの漫画に載っていました!」

 

『…全く、何処までもあいつに毒されおって』

 

自分の発言を本気で心配するエルフナインにキャロルが苦笑してしまう。その顔にはこれから神へ挑む事への重責や悲壮感などは全く感じられない。策があると言うのは本当の事だろう。

 

「…本当に、大丈夫?キャロルちゃん」

 

それでも響は、仲間と親友の身の安全が心配でついそう問いかけてしまった。そんな響に、キャロルは不敵な笑みを浮かべて堂々と言い放ってみせた。

 

『信じろ、立花響。オレ達は貴様の兄弟子から切り札を預かっている。複数の『エース』と…実に都合の良い『ジョーカー』をな』

 

 

 

 

 

「なるほど…そっちはそっちでクライマックス直前って感じだな?」

 

“以心伝心”によってお互いの現状を伝え合ったナナシは、思わずそんな感想を仲間達に零してしまった。

 

「と言うか、何でどいつもこいつもあの老害の最期を頑なに語ろうとしないんだよ?めっちゃ気になるじゃねえか!」

 

「いや、親父は死んでないからな?あまり不謹慎な物言いはやめてくれ」

 

「志半ばで罪人として囚われるってアレにとっては死んだも同然じゃん?そもそもよく大人しく捕まっているよな?」

 

「それは、敗者としての矜持のようなもので…」

 

「だから、アレが素直に敗北を認めるような何かがあったんだろう!?何故隠す!!?一体どんな面白い事が起こったんだよ!!?!?」

 

執拗に訃堂捕縛の経緯を語ろうとしない弦十郎達にナナシはしつこくしつこく質問を繰り返していた。これでは埒が明かないと思ったキャロルは、仕方が無しにある情報を明かした。

 

「貴様が戻ってきた後にそれを知ってどのような反応をするのか、エルフナインとあの歌女共で賭けが成立しているのだ。故に情報を開示する訳にはいかん」

 

「あっ、それ言っちゃうのね?」

 

「明かしたところで対応を変えるような男ではなかろう?それで、貴様は歌女共の余興を潰すと知った上で我々から話を聞くつもりか?」

 

「むぅ…それなら仕方がないな。帰った時のお楽しみとしとこう!そんな賭けが成立するなんて、それだけ面白い事が起きたって事だよな!期待しておくよ!!」

 

「ああ、存分に期待するが良い。その期待が裏切られない事だけは確約しておいてやる」

 

「おっしゃ!」

 

無邪気に喜ぶナナシを見ながら、実は“以心伝心”でキャロルからリアルタイムで情報を共有されていたナナシと了子以外のメンバーはナナシに伝わらないよう気をつけながらコッソリと翼へ合掌するのだった。

 

「それで…お前は神の行動についてどう考える?」

 

「え?知らないけど?」

 

サンジェルマンの質問に対して、ナナシは特に悩む事無く即答でそう返してきた。

 

「だって俺、その神様と会った事も話した事も無いからな?情報が少なすぎて“妄想”のしようがない」

 

「そ、そうか…」

 

「強いて言えば…弦十郎の考えが正しい場合、隠れて奇襲する役割がヴァネッサなのは少し違和感があるかな?」

 

「と言うと?」

 

「隠れて響を襲うつもりなら、響の隙を探るのも、その隙を突いて一気に近づくのも、一番の適任は感覚が鋭くて状況判断が的確なエルザだと思うぞ?まあ、ウチのペット共がどんな風に進化したのか分からないから絶対とは言えないがな?」

 

「なるほど…」

 

「まあ、情報が少ない状態で分からない事を考えても仕方が無いから、ある程度は割り切って出たとこ勝負をするしかないんじゃないか?」

 

「いい加減なワケダ…まあ、それもやむを得まい」

 

「こっちの神様も何を仕掛けてくるか分からないから、似たようなものだけどな?あははははは!」

 

「…勝てるのか?」

 

「勝つさ。当然だろう?」

 

何の根拠も無くそう断言してみせるナナシに、全員が呆れつつフッと笑みを零した。

 

「フハハハハハ!流石は我が信者は分かっていますねぇ!神如きの小細工など、真っ向から打ち破ってしまえば良いのですよぉ!」

 

「…偶に、この人達のお気楽さが羨ましくなります」

 

「全くね…でも、神を相手に立ち向かうなら、これくらいの方が頼もしく思えるわ」

 

ナスターシャ教授の言葉に、了子はクスクスと笑いながらそう答える。普段と変わらぬ雰囲気で交わす仲間達との会話は、すっかり了子の心を落ち着かせていた。

 

「それではナナシ君、了子君…頑張れよ!」

 

「ええ!」

 

「おう、そっちもな!」

 

最後に拳を突き合わせて、ナナシ達はアッサリと“以心伝心”を解除した。その直後、ナナシは遺跡内に広がった血液を操り、まるでウォータースライダーを滑るように了子と共に一気に目的地へと辿り着く。

 

ドーム状に囲われたその空間を前に、ナナシと了子は一度顔を見合わせて頷き合うと、ナナシはその手にデュランダルを構えた。

 

「それじゃあ、改めて…ごめーんくーださああああああい!!!!!」

 

ズガァアアアアアアン!!!

 

デュランダルの一撃が壁の一部に穴を穿ち、ナナシと了子は臆する事無く内部へと侵入していった。

 

内部は障害物が何もないだだっ広い空間が広がっており、身を隠せる場所が何処にもない。その空間の中央に、一本の柱のような建造物がポツリと立っているのが見えた。通常の遺跡の壁とはやや異なる材質の、時折壁面に光の筋が迸る建築物。恐らくそれこそが、この月遺跡の中枢であり…了子の想い人が潜む場所。

 

そして…その中枢の前に、ナナシ達の行く手を阻むように立ち塞がる巨大な影があった。

 

それはナナシが南極で見かけた棺や、これまで月遺跡で何度も襲い掛かってきた量産機と同じような造形をした…しかし、それらとは明らかに一線を画すような威圧感を放つ防衛システム。南極に現れたのが神の遺骸を守護する『棺』ならば、それはさながら侵入者から神を守るために生み出された『守護者(ガーディアン)』と言ったところか。

 

ナナシ達が守護者を警戒しながら前に進むと、壁の穴が一気に塞がって二人は閉じ込められてしまった。しかしそれは想定内の事態であったため、二人は慌てる事無く現状確認に努めた。

 

(もしもし、弦十郎?聞こえる?)

 

ナナシが改めて弦十郎に“以心伝心”を繋げようとするが、一向に返事が無い。続いてナナシは了子に“以心伝心”を繋げ始めた。

 

(了子、聞こえるか?)

 

(ええ、問題無いわ)

 

(部屋の中での連絡は可能、ただし外部との連絡は遮断されたか…)

 

(目の前のアレをどうにかしなければ、あの中枢を調べる事も、ここから出る事も出来そうにないわね)

 

(だな…それじゃあさっそく!)

 

カシャン!

 

初手でナナシは、守護者の周囲を“障壁”で完全に覆い尽くしてしまった。

 

(これで済めば楽なんだが…)

 

ナナシがそう考えた直後、二人の目の間から守護者の姿が一瞬で掻き消えた。その瞬間、了子とナナシはその場でしゃがみ込む。

 

ブオン!!

 

二人の頭上を、大質量の物体が凄まじい速度で通り過ぎていった。即座に二人が背後を振り返ると、先程までそれなりに距離が離れていたはずの守護者が二人の真後ろでその腕を振るっていた。

 

(短距離転移…これは、一筋縄ではいかなそうね?)

 

(上等!)

 

口内から赤い光を迸らせながら自分達に迫る守護者にナナシはデュランダルを、了子は刃の鞭を構える。今ここに、月遺跡での決戦の火蓋が切って落とされた。

 




主人公がその場にいない時の方が甘い空気になりがちな気がしますw
遂に月遺跡の決戦が開始されました…が、しばらくは地球側の話で進行していきます。
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