戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第215話

「……」

 

アルカノイズを引き連れてリディアン音楽院へと訪れたエルザは、何をするでもなく無人の校舎をジッと見つめていた。

 

(学校、でありますか…)

 

エルザは学校に通った事が無い。それどころか、自らの意志で外の世界を出歩けるようになったのは、パヴァリア光明結社が壊滅してからと言っても過言ではない。

 

物心つく前から近親者に忌み子として地下に閉じ込められ、蔑まれながら生きてきたエルザは、その暗く狭い地獄のような環境からようやく連れ出されたかと思った先が結社の実験室だった。

 

ただの一度でさえ、人として扱われる事無くその身を怪物と作り変えられたエルザにとって、目の前にある学び舎などという施設がどのような場所なのか想像する事さえ出来ない。

 

辛うじて知識として知っているのは、この国で『普通』の人間は一定以下の年齢の間はこの施設で知識を学びながら同世代の者と交流を育むという事くらいだ。

 

(もしも人間に戻れていたなら…私も、このような場所に通っていたのでありましょうか?)

 

『お前らは人間に戻った後、どういう風に生きるつもりだ?』

 

疑問と共に頭を過るのは、かつて自分達を飼いならそうとしていた男の言葉。紛れもない怪物であるにも関わらず、自分達が知る誰よりも人と強い絆を結ぶ存在。

 

(…今更考えても、仕方のない事であります)

 

エルザが頭を振るって逸れた思考を振り払っていると、突如アルカノイズの群れに一部が飛来した何かが直撃して赤い粒子と化した。

 

「来たでありますか」

 

エルザは焦る事無く跳躍してアルカノイズの群れから少し距離を取る。その直後、飛来する何か…シンフォギアを纏った調と切歌が放つ無数の丸鋸と大鎌の刃が通り過ぎてアルカノイズを次々と切り裂いていった。

 

「まさか本当に、このような見え透いた誘いに乗ってくるとは…」

 

依り代の少女の記憶を覗いたシェム・ハはある程度確信していたようで、自分がここでアルカノイズを召喚するだけで充分と言われていたが、正直エルザはこの誘いに装者達が乗るかは半信半疑だった。しかし明らかに罠だと理解した上でこれだけ早く彼女達が現れたという事は、自分を捕縛する目的だけでなく…それだけこの場所が彼女達にとって大切だという事に他ならない。

 

「……」

 

エルザが無言で眺めている間に、調達はアルカノイズの群れをアッサリと殲滅してしまった。そして二人はエルザの方へ視線を向けると、切歌が大鎌をエルザに突き付けてビシッと言い放った。

 

「あなたの行動は、護国…ごこく…ゴコクナントカ法に抵触する違法行為デス!これ以上の抵抗はやめるのデス!!」

 

「切ちゃん…そこはしっかり言わないと…」

 

何とも締まらない切歌の口上に調がガクリと肩を落としながらツッコミを入れる。エルザも若干力が抜けそうになるのを堪えながら、険しい表情で切歌の言葉に淡々を答えた。

 

「怪物と完成した我々には、もはや人の法に縛られる謂われは無いのであります」

 

エルザが自分の背後に複数のアタッチメントを展開させる。これまでは一種類ずつしか使用出来なかった武装をシェム・ハに与えられた力によって同時展開出来るようになったエルザは、手数も攻撃力も以前とは比べ物にならない。

 

敵意を漲らせながら自らの力を誇示するエルザに、調は緊張した面持ちで構えを取り、切歌はムッとした顔でエルザに反論した。

 

「ナナシお兄ちゃんは、ちゃんとルールを守ってくれるデスよ!」

 

「っ!!?」

 

何気なく言い放たれた切歌の言葉は、その手に持つ大鎌の刃よりも鋭くエルザの胸に突き刺さった。

 

「ナナシお兄ちゃんは自分を化け物だとか、“紛い物”だとか言って好き勝手に大暴れしているように見えるデスけど、頼み事する時はちゃんと『よろしくお願いします』って言ってくれるデス!悪い事をしたら『ごめんなさい』って頭を下げてくれるデス!アタシには難し過ぎる規則や法律の事だって誰よりも詳しくて、どうしてもルールが邪魔な時はきちんと『誤魔化す努力』はしているのデス!だから、頭から犬耳が生えていようが、尻尾からニョキニョキ爪や牙を生やしていようが、こうやってアタシ達とお話が出来るなら関係ないのデス!『怪物だから』だけでルールを守らないのは、お前の自分勝手な我儘なのデス!!」

 

そう言って、何故かドヤ顔で胸を張る切歌…実はこれ、ナナシのような言動で訃堂を追い詰めた翼に触発された切歌による『理詰めで相手を追い詰めるナナシの真似』であった。

 

ナナシの真似と言うには些か真っ直ぐ過ぎて相手の心を抉るような厭らしさが全然足りず、理屈が通っているかも少々怪しかったが…切歌なりに本質を捉えたその指摘は、エルザが咄嗟に反論出来なくなる程度にはその心を揺さぶる事に成功していた。

 

ドヤ顔の切歌と、忌々し気に顔を歪めるエルザを見ていた調は少しの間ポカンと目を見開くと、やがてフッと笑みを零した。

 

「フフッ、確かに切ちゃんの言う通り…あなた達は普通の人間として生きる事を望んでいたはずなのに、これまでずっと人としてのルールを蔑ろにしてきた。それって結局、怪物である事を都合の良い言い訳に、自分達の考えを正当化していただけじゃないの?」

 

「何を勝手に、分かったような事を…!」

 

「分かるよ。だって、私達もあなた達と同じだったから」

 

「!!?」

 

「レセプターチルドレンとして施設に集められた私達は、そこの大人達の都合でずっと実験動物のような扱いを受け続けてきた。痛くて、苦しくて、幾ら頼んでも、助けを求めても、誰も私達の言葉に耳を貸してくれない。そんな私達が、人類の存続のためにF.I.S.を立ち上げて、先生達と衝突して…アッサリ返り討ちにされた。そんな私達に、先生達はずっと協力しようと手を伸ばしてくれたのに、私達は拒絶し続けた。誰も自分達の事なんて理解出来ないと決めつけて、優しさを信じられずに逃げ出して、人類の存続を言い訳に騒動を起こした…ねえ、何処かで聞いた事のある話だとは思わない?」

 

実験動物としての日々、そんな日々からの脱却と決起、返り討ちにされて捕虜生活、優しさを受けたにも関わらず反発と脱走、大義のために幾度もの対立…あまりにも重なる部分が多く、調はノーブルレッドに強い共感を抱かずにはいられなかった。

 

特に、普通の人間として生きる事を望んでいながら…心の何処かでそれを諦めている事など、手に取るように理解出来た。反発は期待の裏返しで、拒絶は希望を裏切られる事への自己防衛。ノーブルレッドの一見矛盾する振る舞いは、紛れもない他者への不信感と…捨てきれぬ未練への渇望なのだ。

 

そんな心境を理解出来るからこそ…調はエルザに丸鋸を構えてみせた。

 

「あなたの気持ちが分かるからこそ…あなたを言葉だけで止められるとは思わない。だから、とっておきの方法を使わせてもらう。行くよ、切ちゃん!」

 

「ガッテンデス!」

 

調の言葉に応えるように、切歌も大鎌を構えてエルザと対峙する。戦闘の意志を見せる調達に、言葉で感情を揺さぶられていたエルザは内心で安堵しながら意識を切り替えた。

 

「結局は武力衝突、邪魔者の排除に落ち着くでありますか。シンプルで良いであります。こちらも当初の予定通り、貴様らを排除してシェム・ハによるこの星の掌握を…」

 

「「違う(デス)!!」」

 

「っ!!?」

 

武装を構えて殺し合いを是とするエルザに、調と切歌はハッキリと否定の言葉を叩きつけた。

 

「あなたを排除するつもりなんてこれっぽっちも無い!ここから先は、あなたと私の『喧嘩』だ!」

 

「いいえ、調!アタシ達の『喧嘩』デス!」

 

「け、喧嘩…?」

 

困惑するエルザに、調と切歌が左右から飛び掛かる。やや不意打ちに近い形ではあったが、エルザは持ち前の反応速度で二人の攻撃を二つの牙で容易く受け止めてみせた。そして、無防備となった二人の体に爪の攻撃を叩き込む。胴体に爪の一撃を受けた二人は地面に体をめり込ませ、そのまま動かなくなってしまった。

 

「他愛無いであります。あれだけ大口を叩いておきながら、この程度なんて…っ!?」

 

ギュルルルッ!!

 

アッサリ一撃で沈んでしまった二人に気を抜いたエルザは、コロコロと静かに転がってきたヨーヨーに気付くのが遅れて、牙のアタッチメント二つを糸で拘束されてしまった。

 

「私達を変えてくれた人がいる…!」

 

「アタシ達を強くしてくれた人がいる…!」

 

「「簡単には負けられない(デス)!!」」

 

エルザの爪を、胴体の前に展開した丸鋸と大鎌で受け止めていた調と切歌は、爪を押し返しながらエルザに飛来する刃を放つ。エルザは二つの爪と薄い膜のようなアタッチメントで刃を防ぎながら忌々し気に舌打ちをした。

 

「くっ…!」

 

調がローラーのような足のギアで高速移動しながらヨーヨーをエルザに投擲する。エルザは易々とヨーヨーの攻撃を躱してみせるが、ヨーヨーが通った軌跡にはエネルギーの糸が残り続けており、気づいた時にはエルザの周囲は糸で包囲されていた。

 

β式 獄糸乱舞

 

周囲に展開した糸はエルザのアタッチメントの動きを阻害して、先程のような威力を籠めた攻撃を出しづらくしていた。

 

(しかしこれでは、向こうも斬撃を飛ばす攻撃は出来ないであります。もう一人の大鎌の攻撃も、こうも糸が周りにあれば振り回せない…っ!?)

 

ガキィイイイン!

 

そんな思考をしていたエルザに、切歌が糸を掻い潜って接近戦を仕掛けてきた。咄嗟にエルザがアタッチメントで切歌の攻撃を受け止めると、切歌の手には草刈り鎌のような小さい鎌が握られていた。

 

「ダウンサイズしてしまえば、狭くても問題はないのデス!」

 

「小癪な…!」

 

素早い攻撃を繰り出す切歌だが、エルザの反応速度であれば容易く躱すか防ぐ事が可能だった。しかし調が操る糸によってエルザもアタッチメントを上手く操る事が出来ず、切歌を攻め切る事が出来ないでいた。

 

「ナナシお兄ちゃんのペット生活は、逃げ出したくなる程イヤだったんデスか!?」

 

「っ!?い、いきなり何を!!?」

 

そんな膠着状態の中で、突如として切歌が刃を振るいながらエルザに問答を仕掛けてきた事にエルザは目を見開いて動揺してしまった。

 

「家族みんなでご飯を食べて、暖かい布団で眠れて、ナナシお兄ちゃんに遊んでもらえる生活の何処に不満があったのデスか!?」

 

「何を…!せっかく囚われの日々から逃げ出せたのに、再び畜生として飼い殺される日々を受け入れられるとでも思うのでありますか!?」

 

「ペット扱いなんて、ナナシお兄ちゃんが嫌がるお前達の様子を見に行くための方便に決まっているではないデスか!あんなの普段のアタシ達と大差ない扱いデスよ!翼さんや奏さん、マリアなんてアレ以上に諸々全部お世話されているデスよ!」

 

「っ!!?」

 

告げられる言葉にエルザの動きが鈍り、危うく切歌の攻撃を受けそうになる。何とか凌いで反撃を繰り出そうとするも、相変わらず糸が邪魔をしてアタッチメントが上手く動かせない。手を拱くエルザに、今度は調が言葉を投げかけた。

 

「外に出たいなら、『出してください、お願いします』って言えば良かったのに!どうしてその一言を言えなかったの!?」

 

「そんなの、聞いてもらえる訳ないではありませんか!?ペットや怪物以前に我々は捕虜だったでありますよ!!?」

 

「私達は捕虜の間に初めてお祭りに連れて行ってもらった!勝手に逃げ出して、連れ戻してもらった後にも勇気を出してお願いしたら一緒にお出掛けもしてもらえた!!あなた達も、勇気を出して『お願い』していたら、絶対に先生は応えてくれた!!!」

 

「っ!!?」

 

 

 

『『よろしくお願いします』…ただその一言を紡ぐだけで、貴様らは全てを手に入れられた』

 

 

 

調の言葉に、かつて自分達が逃した最大のチャンスを思い出してエルザの動きが更に鈍くなる。その隙に調が周囲の糸を巻き取り、巨大なヨーヨーを展開してエルザに投げ放った。

 

「そんな大雑把な攻撃が、当たる訳…!」

 

幾ら動揺していても、ただ真っ直ぐに投げられただけの攻撃などエルザは容易く避けてしまうが…エルザの背後にいつの間にか回り込んでいた切歌が、調のヨーヨーと大鎌を融合させて新たな大技を繰り出す準備を進めてしまった。

 

「嘘でありましょう!?」

 

動揺に次ぐ動揺で、エルザが晒した大きな隙に調が攻撃を放って注意を逸らす。そうしている内に切歌は大鎌の先に展開した巨大ベーゴマをエルザに向けて撃ち放った。次々と繰り出される攻撃をどうにか凌ぎ続けるエルザだったが、避けた巨大ベーゴマは二つに分かれて調の糸による不規則な動きで再びエルザへと迫る。エルザがアタッチメントで凌ごうとするが、アタッチメントは度々の攻撃の応酬によって繰り出された糸によっていつの間にか一纏めに拘束されてしまっていた。

 

「っ!!?」

 

ドゴォオオオオオオン!!

 

アタッチメントが尾に繋がるエルザも身動きが取れず、迫り来るベーゴマの衝突を受けたエルザはベーゴマの爆発に巻き込まれて姿が見えなくなった。

 

完璧に大技が決まったように見えたが、調達の顔に油断は無く緊張した面持ちで舞い上がった煙をジッと見つめていた。

 

「気をつけて、切ちゃん」

 

「ガッテンデス。きっとこれしきの攻撃では…」

 

仮にも、神から力を与えられたエルザを今の攻撃だけで攻め切れたなどとは二人は思っていない。その考えを肯定するように、煙の晴れた場所にエルザの姿は無く、地面の一箇所に大きな穴が空いていた。

 

「いないのデス!」

 

ボン!

 

それを確認した直後、二人の背後の地面から大きな白銀の人狼が飛び出してきた。

 

「地中を掘り進んで…!」

 

「やり過ごしたデスか!?」

 

「オールアタッチメント!Vコンバインであります!!」

 

人狼の腹部が開き、中から手足を人狼に埋め込んだエルザが姿を現す。全てのアタッチメントを融合させて鋼の人狼を生み出したエルザは、瞬時に糸を打ち破って人狼内部へと飛び込み、地中に避難を果たしていた。

 

「私めらはノーブルレッド!決して卑しき錆色などではないのであります!!」

 

調達のペースに乗せられ、隙を晒していたエルザは自らを鼓舞するように高らかにそう言い放ち…しかし直後に、その顔を俯かせてしまった。

 

「私めらはずっとずっと…壁に囲まれて、疎外感に苛まれてきたであります…利用されて、裏切られて…それでも、いつか孤独を埋める方法が見つかると信じて…」

 

調達に言われるまでもなく、本当は分かっていた。この結末は、家族以外の全てを信じる事が出来なかった自分達の選択が招いた事だと…S.O.N.G.に囚われ、一人の怪物に飼われる事となったあの束の間の日々は、きっと自分達の願い求めた理想に最も近いモノであったと…

 

『必死に悩んで、足掻いて、俺の思惑を超えるような…そう自分達を騙せるような未来を選択してみせろ。そんなお前らを、月から帰ってきたら目一杯可愛がってやる』

 

「っ!!…ワオオオオオオオン!!」

 

「「っ!!?」」

 

その瞳から涙を流しながら、エルザが狼のような咆哮を轟かせる。調達は、その声にこの上ない悲しみが籠められているように思えてならなかった。

 

「不可逆の怪物と成り果てるなら…優しさなんて知らなければ良かったであります!」

 

自らの弱さで理想を取り零してしまったエルザは、残された怪物としての道を突き進むべく我武者羅に調達へと襲い掛かる。その身を丸めてタイヤのように転がりながら迫る人狼に、切歌が大鎌をコマのように回して迎え撃とうと試みるが…

 

「ウオオオオオオ!!」

 

人狼の凄まじい力で押し返され、隙を晒した切歌に人狼の爪が振るわれる。しかしその爪が切歌へと届く寸前に、調が禁月輪の刃で人狼の爪を受け止めて切歌を守り抜いた。

 

「調ぇ!」

 

切歌を抱えたまま調は高速で人狼の攻撃を躱し続ける。そうして隙を突き、再びヨーヨーを放って糸による拘束を試みた。狙い通り糸が人狼の体に巻き付いた状態でヨーヨーが地面へと食い込み人狼の動きを封じ込め、その隙を切歌が大鎌で攻撃を仕掛けようとして…

 

ズガシャアアアアン!!

 

「「うわあああああ!!」」

 

…同じ手は通用しないとばかりに、人狼は力尽くで糸の拘束を打ち破り、勢いそのままに調達を纏めて殴り飛ばしてしまった。

 

「シェム・ハの企ても!私めらの悲しみも!!もはや止められないであります!!!」

 

絶叫と共にエルザはこれまでにないスピードで人狼を操り、調達の目には残像で人狼が何体にも増えたように錯覚してしまった。二人は全方位から知覚不可能な速度で攻撃を受け続け、最後には上空から強烈な一撃を受けて二人の姿は土煙の中に消えてしまった。

 

怪物として完成された自分の渾身の一撃が決まり、エルザは自身の勝利を確信して…

 

「止めてみせる!」

 

「絶対デス!!」

 

…宣言と共に、煙の中から現れた黄金の輝きにエルザは目を見開いた。

 

「そのギアは…!」

 

「制限が解除された!」

 

「アマルガムデス!!」

 

黄金の防御フィールドを解除した二人の手に、黄金の華が咲き誇る。舞い上がった花弁が集まり、切歌の手には黄金の大鎌、調の手には盾のような黄金の丸鋸が姿を現した。

 

「小癪なであります…!」

 

再び無数の残像を生み出しながら迫る人狼に、切歌が黄金の大鎌を振るう。大鎌は全ての残像を薙ぎ払い、人狼本体の体を見事捕えてその動きを止めてみせた。

 

その隙を突いて、調が黄金の丸鋸を人狼へと放つ。人狼はその鋭い爪で丸鋸を受け止め攻撃を防いだ…と思いきや、突如丸鋸が人型に変形して人狼の爪から抜け出し、その体に不意打ちを叩き込んだ。吹き飛ばされた人狼は咆哮を挙げると、再びタイヤのように身を丸めて二人へと突進してきた。接触の寸前で人狼の突進を躱した調と切歌は、旋回して再び迫る人狼を迎え撃つ準備を始めた。

 

調が糸を操って人型となったギアを更に変形させて、そこに切歌が大鎌を投げて調のギアと融合させる。形成された巨大な黄金のトラバサミを調達は糸で操り、人狼目掛けて大技を繰り出した。

 

「ワアアアアアアア!!」

 

エルザは真っ向から大技を打ち破らんと突っ込むが、一瞬の拮抗の後に人狼の動きを止められてしまった。そして内側の刃とトラバサミ全体が高速で回転し始めると、凄まじい勢いでトラバサミは地面へと叩きつけられ、直後に大爆発を巻き起こした。

 

ポリフィリム鋏恋夢

 

「はぁ…はぁ…」

 

煙が晴れた後には、爆発で窪んだ地面に人狼を失ったエルザが荒い息をしながら立っていた。もはや立っているのもやっとの状態のエルザに、調と切歌はゆっくりと近づくと…ニッコリと微笑んだ。

 

「孤独を埋めるのに、心を怪物にする必要はないデスよ!」

 

「あなたの心にある壁は、誰かを拒絶するためじゃない。それはきっと、誰かの想いを受け止めるために…優しさを忘れないで!」

 

「っ!…うっ…」

 

調達の言葉に目を見開いたエルザは、遂に限界が訪れて地面へとへたり込んでしまった。そんなエルザの傍に駆け寄り、調と切歌はそっとその手を差し出した。

 

「初めての喧嘩はどうだった?」

 

「喧嘩の後は、仲直りがセットなのデス!これでアタシ達は友達なのデスよ!」

 

「っ!!?」

 

つい先程まで自分が殺そうとしていたはずの相手の言葉に、エルザは信じられない者を見る目を向けてしまう。無防備にギアまで解除して差し出して来る二人の手を、エルザは呆然と眺める事しか出来なかった。

 

「…正気で…ありますか…?自分達の仲間を攫い、幾度となく命を狙い、あまつさえ、怪物と成り果てた私の前に生身で立つなど…人間が、そんなにも容易く、異物を、怪物を、罪を許せる訳が…!」

 

息も絶え絶えに、差し出される掌の裏に探りを入れるエルザ。それが期待の裏返しだと信じている二人は、満面の笑みでその問い掛けに答えてみせる。

 

「たかだか殺し合い程度、笑って許せないと!」

 

「“紛い物”の妹は名乗れないのデス!」

 

屈託のないその笑みは、エルザの疑念を吹き飛ばすには充分以上の想いが籠められており…その瞳に希望の光を宿したエルザが、垂れ下がっていた自分の手を、ゆっくりと持ち上げようとして…

 

 

 

「…もう、手遅れでありますよ…!」

 

 

 

…その瞳が急速に光を失い、エルザが差し出された手から目を背けるように顔を俯かせると…直後に、調達はエルザの言葉の意味を知る事となった。

 




若干最後の表現が紛らわしいかもしれないので注釈しますけど、エルザは生きてますよw

申し訳ありません。来週の投稿はお休みします。
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