戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
鎧の少女は、自分に近づいてきた人物を確認すると、舌打ちをしながら話しかけてきた。
「チッ、やっぱりてめえも出張ってきやがったか」
(…ん?)
少女の言葉に、ナナシが何か違和感を覚える。だが、とりあえずその疑問を頭の隅に追いやりナナシは少女の言葉に返答する。
「当たり前だろ?俺以外にも、黄色い鎧の子も来ているぞ。白いの」
「ハッ!あの鈍臭い半端者の方かよ!あの青い方の人気者はお家でお寝んねか?」
「病院でお寝んねだな。峠は越えたから、そのうち起きてくる」
「…ハッ!そうかよ…そいつは残念だ」
「安心してもらえたようで何よりだ」
「ッ!?何をほざいてやがるてめぇ!」
「お前が無理しているのなんて最初にあった時からお見通しだよ。伊達に長い間似た様な女の世話をしてきてない。誤魔化したいならもっと心の底から笑えよ」
ナナシの言葉を聞いた少女の表情が怒りに染まる。
「ふ、っざけんな!あたしは、あたしの意思でてめえらと敵対してんだ!まるで無理やり戦わされてるみたいに言ってんじゃねぇ!!」
「そうだな。お前は『目的のため』『自分の意思で』『嫌々』『仕方なく』戦ってるんだよな?何かのために自分を押し殺しているところとか、本当に
「勝手なことをゴチャゴチャと!てめえがあたしのことを勝手に分かった風に語ってんじゃねえ!!」
「分からねえから観察して妄想を押し付けてんだよ!否定するなら相応の感情を俺に示して見せろ!」
「ッ!?…もういい。本当はてめえの相手は今回の仕事じゃねえが気が変わった。その不快な言葉を垂れ流す口を、ズタズタに引き裂いてやる!!」
そう言って少女は、刃が連なったような鞭をナナシに叩きつけようと身構える。それとほぼ同時に、爆発音が響いた。了子が乗っていた車がノイズの攻撃によって破壊された結果のようだ。
「あははは!あっちを放っておいていいのかよ!あの未熟な半端者じゃあ、何一つ守れやしねーぞ!」
少女はナナシを嘲笑うが、ナナシは響達の方を向くことさえせず少女に言い放つ。
「確かにあいつはまだまだ未熟だ。だが…もうあいつは進み始めた。いつまでも半端者のままだと思うな」
ナナシがそう言い終わるのと同時に、その場に歌が響き渡る。響が、シンフォギアを纏ってノイズとの戦闘を開始した。
そこには、ただ逃げ回っていただけの響の姿は無かった。拳を握り、大地を踏みしめ、ノイズに対して渾身の一撃を叩き込むことで、着々とノイズを撃破していく戦士の姿が、そこにはあった。
(最初の頃よりずっと良い歌を歌えるようになっている。このままだと、いつの間にか出来た妹弟子に、あっという間に兄弟子としての威厳を奪われかねないな。さて…)
「ッ!?こいつ、戦えるようになっているのか!?」
「余所見とはいい度胸だ」
「しまっ!!?」
少女が響の戦いに気を取られている間に接近したナナシが、少女の腹に拳を叩き込んだ。
「がはっ!?」
その衝撃で少女は数メートル吹っ飛び、後方にあった建物にその身を叩きつけられる。
「グゥッ!クッソ!!」
身を起こした少女は、杖を振って周囲にノイズを呼び出す。視界を埋め尽くす程大量のノイズが一斉にナナシへと接近するが、ナナシはそんなことはお構いなしに、ゆっくりと歩いて少女の方に近づいていった。
ナナシに殺到するノイズの群れ。だが、前方から近づいたものは貫手で貫かれ、側面から来たものは腕で薙ぎ払われ、背後から来たものは裏拳で消し飛ばされ…ナナシの拳が届く範囲に入ったノイズは、その悉くが塵と化し、ナナシの歩む速度を少しも落とすことが出来なかった。まるで散歩をするかのような気軽さで、ナナシは少女に接近していく。
「こ、んの化け物が!!」
「Exactly!! 俺は埒外な師に教えを受けた、紛うこと無き化け物だ!俺の動きを抑えたいなら、今の響くらい良い歌を歌って魅了してみせろ!」
そして遂に、ナナシは少女を追い詰める。
「その鎧、返してもらう。それは、あいつらが多くの人の幸せを願った歌で起動させたものだ。これ以上あいつらを傷つけることに使わせるわけにはいかない」
「!!?」
ナナシの言葉に、少女は酷く狼狽えたように見えた。そんな少女の様子にナナシが気を取られていると、デュランダルが入ったケースから何度か何かがぶつかり合う音がしたと思うと、ケースを突き破ってデュランダルが飛び出してきた。
「覚醒!?起動…」
了子がそんなデュランダルを見て呆然とする。
「デュランダルが!?くっ!!」
少女は、近くにあったタンクに鞭を叩き込み、摩擦による火花で中の薬品を引火させて半ば自爆する形でナナシを撒き、デュランダルに接近する。
少女は宙に浮いたデュランダルに手を伸ばす…が
「はああ!!」
掛け声を上げた響が少女にぶつかり、少女がデュランダルを手に入れるのを阻止する。
「渡すものかぁ!!」
響はそう叫んでデュランダルを掴んだ。すると…
「「「「!!?」」」」
その場にいた全員が、デュランダルから妙な『圧』を感じ取った。
響はデュランダルを持ったまま地面に着地する。すると、デュランダルから眩い光が放たれ始め、錆びていた刀身が復元され、気が付けば響の手には黄金に輝くデュランダルが握られていた。
デュランダルの輝きは時間の経過と共に増していき、それを手にする響の目が赤く染まる。そして、響の肉体が、感情が、黒く、暗く染められていく光景を見たナナシは…何故か、奇妙な懐かしさを感じていた。
「くっ!そんな力を見せびらかすな!!」
少女はそう叫んで響の傍にノイズを呼び出す。それが切っ掛けだったのか、響がそちらに目を向ける。
「ひっ…」
それを目の当たりにした少女は、恐怖から無意識に小さな悲鳴を漏らす。そんな少女に対して響は…
「ワアアアアアアァァァァァアアアア!!」
まるで獣のような叫び声を上げながら…何の躊躇いもなく、その手の中にあるデュランダルを、少女に対して振り下ろそうとした。
「なっ!…くうっ!!?」
咄嗟に少女は回避しようとするが、先程の爆発によるダメージで体がうまく動かない。そんな少女に、デュランダルの力が迫っていき…
「全く、世話が焼ける」
…少女の体を、横からナナシが蹴りを入れて吹き飛ばした。
「ッ!?何を…」
攻撃の意図ではない蹴りの一撃によって、吹き飛ばされながらも痛みはそれほど感じなかった少女は、自分に蹴りを放った体勢のままのナナシに目を向けて…
…ナナシの体の、腹部から下がデュランダルの一撃で蒸発するのを目撃した。
「おい…おい!!」
デュランダルの一撃による衝撃でさらに遠くに吹き飛ばされた少女は、同じく吹き飛ばされたナナシの上半身に近づいて声をかける。もはや、その体は生死の確認をするまでもなく、少女にとってナナシの死は確実なものであった。
「何で…あたしのことを庇った!?あたしは、お前の仲間を殺そうとしたヤツなんだぞ!?なのに…なんで…なんでだよ!!?…なんで、あたしのやることは、いつも…」
…敵であると自ら言葉にする少女は、ナナシの亡骸に対して、後悔の涙を流していた。だが…
「…悪いけど、ちょっと離れて貰っていいか?」
「ひょわあああああ!!?!?」
…上半身だけのナナシが普通に喋り出したことで、少女が素っ頓狂な声を上げながらナナシから離れた。
「『ひょわあああああ』って、どんな叫び声だよ?落ち着け、怪我はないか?」
「お、おお、おおおおおま、お前なんで、なんで生きてんだ!!?人の怪我心配してる場合か!!?体半分消し飛んでんだぞ!!?」
「生憎この体はご都合主義でできていてな。このくらいじゃ死なないらしい。流石にここまで欠損したのは初めてだけどな」
ナナシがそう言い終わるのと同時に、ナナシの姿が一瞬ブレて…次の瞬間には、ナナシの体は元通りに復元された。
「!!?!?」
「あ、良かった!これ服も元通りになるんだ!流石に異性の前で下半身丸出しにしている姿なんて晒したらマジで兄弟子の威厳なんて消し飛ぶところだった!」
驚く少女を置き去りに、ナナシは何事も無かったかのように立ち上がり…直後にその場にぺたりと座り込んだ。
「ん?何か上手く力が入らないな…流石に欠損が大きすぎたか?動けない訳ではないし、体半分消し飛んだ代償としては安いものか…」
「何で…」
座り込んだナナシに、驚きから復帰した少女が話しかけてきた。
「何で敵のあたしのことを助けた!?」
「敵を助けちゃいけないなんて決まりがあるのか?」
「ッ!?当たり前だ!例え怪我が治るとしても、自分と仲間を殺そうとしたヤツを助けようとするなんて、普通じゃあり得ねえ!!」
「…そうなのか?俺の周りの人間はそんな奴らばかりだから知らなかった。奏も響も、そして翼も、目の前の人間に危機が迫っていたら敵味方に関わらず飛び出すだろうな。俺と違って慎次なら素早く助け出して衝撃に巻き込まれなかっただろうし、弦十郎なら…ワンチャン、デュランダルの一撃を拳で受け止めて…いや、流石に無理か…多分…と、ともかく、俺の妄想だが、俺の周りの奴らなら助けただろうし、もしお前に何かあったら響が傷つくと考えたから俺は行動した。それだけだ」
ナナシの答えに、少女は何を言っていいのか分からないのか口をパクパクさせた後…ナナシに背を向けてその場を離れて始めた。だが、途中で立ち止まると、顔をナナシの方に向けることなく声をかけてきた。
「…礼は言わねぇ」
「なら貸しにしておく。気が向いたら返してくれ。あと、今回のことはデュランダルが原因だ。響が自分の意思でお前を攻撃した訳じゃない。それだけは理解しておいてくれ」
「……」
ナナシの言葉に、少女は答えることなく、その場を後にした。
それを追うことなく、ナナシは体が動くようになってから響達のもとに向かい、無事を確認した後、事後処理をしに来た大人達に協力してデュランダルによる被害の後始末をしていった。