戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
下僕であるノーブルレッド達が装者達と交戦を開始した頃…神たるシェム・ハはユグドラシル傍の虚空を漂いながら笑みを浮かべていた。
「フフッ、愉悦に震える。ユグドラシルの根は、既に地球中心核域に到達…そして、怪物共がその使命を果たせば、我の…」
その時、シェム・ハの腕がまるでその意志に逆らうように痙攣するような動きを見せた。
「よくも足掻く…強い想いが成せる奇跡か?」
「だって、私はまだ…響に…」
シェム・ハにその身を乗っ取られて尚、深層心理の奥で未来は抵抗を続けていた。
神である自分の力に雁字搦めにされながらも必死に藻掻く未来に、シェム・ハは怪訝な表情を見せた。
「腑に落ちぬ。そも、我を受け入れたのはお前であろうに?」
「え…?」
「繋がりたい、想いを届けたいと悶えていたのは誰であったか?」
「違う!あれは…私は…!」
自らの胸の内に秘めた想いを詳らかにされ、未来は必死に否定しようと叫び声を上げる。そんな未来に、シェム・ハは笑いながら心を揺さぶる言葉を紡ぎ続けた。
「それに…お前も、あの“
「っ!?」
「不敬にも我らの領域に足を踏み入れ、その力で人に寄り添い、心を引き付けるあの男…恐ろしいのだろう?お前の掛け替えのない『太陽』が、あの男によって変わってしまうのが…いや…」
全てを見透かしたような厭らしい笑みを浮かべたシェム・ハが、未来の耳元にそっと囁く。
「お前は…『自分』が、あの男に変えられてしまう事を恐れているのかな…?」
「っ!!?」
ビクリと身を震わせ、目を見開く未来にシェム・ハはとても甘く、優しい声音で囁き続ける。
「浄福せよ。完全な神たる我が、あの“紛い物”をこの世から消し去ってやろう。故に、身も心も我に捧げよ。先んじて呪詛より放たれし依り代の少女よ…我はシェム・ハ。来るべき星のミライ…お前の名も、そのような意味を持つのであろう?」
シェム・ハが未来からスッと離れると、シェム・ハの力が遂に未来の心を完全に飲み込み始めた。薄れていく意識の中で、未来は譫言のように言葉を零した。
「ああ…響……ナナシ、さ………」
「ククク…アハハハハハ!」
未来の体を完全に己の支配下に置いたシェム・ハが笑い声を上げ、それと同時に雲にさえ届きそうな程に天高く伸びていたユグドラシルがドンドン地中へ…地球の中心へと潜り込んでいく。
「生々流転、間もなくである!この星の迷い子達よ、我が力へと改造した後には、彼方へと去った同胞達の喉元へと攻め入ってやろうぞ!」
先端だけを残して大部分が地中へと納まったイグドラシルを見て、シェム・ハは楽しくて仕方がないと言った様子で笑みを零していた。
「高鳴りが抑えられぬ!ああ、そうさな…人間共はこういう時に、歌の一つでも口遊むのであったな……ん?」
数千年越しの悲願を前に浮かれてたシェム・ハであったが、その視線の先にあるものを見つけて笑みを引っ込めた。
「果ての荒野に、一人立つ者がいようとは…」
(キャロル、怖いですか?)
ユグドラシル近辺に辿り着き、神が自分の元へと迫り来る光景を眺めるキャロルの脳裏に、エルフナインの声が響いてきた。
「ハン、怖いだと?オレは一つの命題のために世界を滅ぼそうとした錬金術師だぞ?今更神に喧嘩を売る程度の事を恐れるものか」
神を前にしても毅然とした態度を保つキャロル。しかし…
(でも、以前ナナシさんの事を涙を流す程に怖がってましたよね?)
「なっ!?そ、それとこれとは…」
(フフッ⋯)
一瞬で余裕が崩れて慌てふためくキャロルの脳裏に、エルフナインの笑い声が響く。どうやらからかわれたらしいと理解したキャロルは、半眼になってエルフナインに言葉を返した。
「…前々から言っているが、お前は少々あの男に毒され過ぎてはいないか?」
(そうですね…ナナシさんに出会ってから、ボクはボク自身の知らない部分に沢山気付く事が出来ました。そしてキャロル、あなたの事も…少なくともボクは、キャロルがあんなにも取り乱す姿なんて想像すら出来ませんでした)
「忌々しいが、オレ自身同じ想いだ…しかし他人事のように言っているが、オレがあのような無様を晒した原因の半分はお前があの“紛い物”の悪巧みに全面協力したからだと言うのを忘れるな」
(何と!?だったらボクは、自覚の無いままにキャロルを泣かせていながら責任を全てナナシさんに押し付けるとっても邪悪な錬金術師か何かです。多分…)
「『だったらボクは…』では無いだろう…例え天地がひっくり返ろうとも、お前に邪悪などと言う言葉が当てはまるものか…だが、そんなお前やオレの生み出した人形共にさえ影響を及ぼす点こそがあの“紛い物”の最も恐ろしいところだ。であれば…」
「向こう見ずな…我に歯向かう鈍付くが、まだいようとは」
エルフナインと会話をしている内に、気が付けばシェム・ハはキャロルの目の前まで辿り着いていた。高圧的な態度でこちらを見下ろす神に対して、キャロルは…ニヤリと不敵に笑ってみせた。
「群れから追いやられた外れ者の神如き、恐れる道理などあるものか!!」
「っ!!?」
初手罵倒、それも自らの来歴を知っているかのような物言いにシェム・ハの目が見開かれる。その隙にキャロルが真横へと手を翳し、虚空に浮かび上がった錬金術の陣からダウルダブラを取り出した。
「オレの錬金術を舐めてくれるな!」
キャロルがその指でダウルダブラの弦を弾き、ファウストローブを身に纏う。その口から美しい旋律を奏でながら、遂にキャロルは神へと立ち向かった。
『腹立たしい不変の世を踏み躙る 戦鬼は要らぬか答えよ!』
弦を束ねて幾つもの球体を生み出したキャロルは、球体をシェム・ハ目掛けて一斉に放つ。しかし球体は一つさえシェム・ハに当たる事は無く、その周りの地面に当たって土煙を舞い上げた。
「粗忽だぞ、何処を狙っている……っ!?」
そう言ってシェム・ハがキャロルに視線を向けると、既にそこにはキャロルの姿は無く…土煙に紛れ、キャロルはシェム・ハを無視して真っ直ぐユグドラシルへと向かっていた。
「悪くない考えだ。我ではなく、直接ユグドラシル主幹を狙うとは!」
すぐさまシェム・ハはキャロルの後を追いかける。その飛行速度はキャロルを凌駕しており、あっという間にシェム・ハはキャロルの背後へと迫った。
『愛も憎しみも 不完全な種ごと 赦してやろうと云うのだ!』
シェム・ハが右腕の腕輪からエネルギーの刃を展開してキャロルへと斬りかかる。しかしキャロルはシェム・ハの動きを予期していたようにその刃を躱して、カウンターで弦の球体をシェム・ハへと放った。至近距離で放たれた無数の球体の一つが今度こそシェム・ハへと直撃すると大爆発を巻き起こし、残った球体は地面へと落下していった。
「ばら撒けば躱せぬとでも踏んだか?なれど、人の技では撃ち堕とせぬ!」
僅かに手傷を負ったシェム・ハであったが、そう言った直後にその体がブレたかと思うと次の瞬間には無傷の状態に戻ってしまった。その光景にピクリと眉を顰めたキャロルを嘲笑いながら、シェム・ハがお返しとばかりに指先へ生み出した光の球体をキャロルへと放つ。キャロルは錬金術の防壁を展開してシェム・ハの攻撃を防ごうとするが、接触と同時に爆発した球体の凄まじい威力に耐えられずキャロルは地面へと叩きつけられてしまった。
「ぐあっ!!」
「無意味だ。だが、それ以上に…目障りだ!」
腕輪の刃を再展開したシェム・ハが、地面に蹲るキャロルを斬り捨てるために急降下していった。
『高くつくぞ? オレの歌はああああああ!!』
「っ!!?」
しかしその瞬間、一気に起き上がったキャロルは歌声によって仕込んでいた錬金術を一斉に起動させた。
周囲一帯にばら撒かれていた弦の球体がキャロルの想いに応えて浮かび上がると、一斉に解けてシェム・ハへと襲い掛かる。何とか腕輪の刃で弦を切り裂き凌ごうとするシェム・ハであったが、その物量によって遂にその身を弦で絡め捕られてしまった。
「動けぬ…!鉄砲に緊縛するか!?」
「恐るべきは、埒外の物理法則によるダメージの無効化…だが知っているぞ?その力、拘束に対しては無力であると!」
研究の合間に繰り広げた、“紛い物”との模擬戦の経験。普段の憂さ晴らしとばかりに何度も操り人形の如く縛り上げてきたからこそ、その力の対処法をキャロルは理解していた…拘束が甘いとナナシは肉体を輪切りにしながら突っ込んでくるため割と手痛い反撃を受けた事もあり、確実に拘束するため工夫を施してきた経験も活かせた。
「くっ!」
「アルカヘスト!」
大きな隙を晒したシェム・ハに、キャロルが切り札を行使する。宣言と共にシェム・ハの周囲に展開された四元素の陣の役割は、チフォージュ・シャトーに備えられた世界分解機能の限定的な再現。
「人の概念などとうに解析済み!ならばそれ以外の不純物を神と定めて分解するまで!!オレの錬金術を舐めてくれるな!!!」
陣の中央で苦悶の表情を浮かべるシェム・ハは、苦し紛れにキャロルの目論見へ反論を繰り出す。
「だが、言うほどに簡単を成すには、膨大なエネルギーが必要なはず…一体何処から…!」
「想い出の焼却…あのお人好しがオレに預けた馬鹿げた量の想い出を燃やせば、この程度の術式の維持など造作もないわ!!」
血液同様、月へ向かう前に膨大な量の想い出をナナシから受け取ったキャロルにはエネルギー不足など起こるはずがない。圧倒的な出力で複数展開された錬成陣によって、シェム・ハの体が眩い光に飲み込まれた。
「うううううう…ああああああああ!!!」
ドゴォオオオオオオオオオオン!!!
シェム・ハの断末魔が錬金術の中心で巻き起こった大爆発に飲み込まれる。凄まじい衝撃でキャロルも吹き飛ばされてしまい、そのままキャロルは地面へと倒れ込んだ。何とか顔を上げて爆発の収まった地点にキャロルが目を向けると、その光景にキャロルは驚愕で目を見開いた。
「まさか…」
そこにいたのは、人間に戻った小日向未来…ではなく、鎧のような物を身に纏ったシェム・ハであった。
「神獣鏡の凶祓いで、オレの錬金術を…!」
訃堂がシェム・ハを操るために用意した、神獣鏡のファウストローブ…聖遺物由来の力をかき消すその力で、シェム・ハはキャロルのダウルダブラの力を無力化してしまったのだ。
「トドメ…は刺さずに捨て置いてやろう。神に肉薄した褒美だ。星の命が改造される様と…これより始まる『余興』を、特等の席にて御覧じろ!」
「『余興』だと…?」
シェム・ハの言葉に、キャロルが疑問を抱いていると…その疑問に答えるように、大地を震わせる凄まじい振動がキャロルへと襲い掛かった。
その異変は、キャロルや装者達の戦闘を観測していたS.O.N.G.本部にも伝わっていた。
「この揺れは…!?」
「一体何が起こっていやがる!!?」
立っているのもやっとな振動に晒され響とクリスが困惑している間に、オペレーターの藤尭と友里が振動の発生源を特定しようとしていた。
「この揺れは、大質量の物体が地中から地表へと向かって進行しているものと思われます!」
「まさか、ユグドラシルか!?」
「違います!ユグドラシルとは異なる座標…この場所は…えっ!?」
「嘘だろ!?何でこんなものが!!?」
座標の特定と同時に、その『正体』へと思い当たった藤尭達が報告も忘れて驚愕に固まってしまう。
「どうした!?早く現状を報告しろ!!」
弦十郎の怒声に近い指示を聞いて尚、未だ呆然とする藤尭達は…ようやくその口から零すように、その情報を伝達し始めた。
「異変の発生源は…旧リディアン音楽院跡地…その地下…!」
「特異災害対策機動部二課…その本部があった場所です!」
『!!?』
その報告に、今度は弦十郎達が言葉を失ってしまった。その場所と、大質量の物体の移動…それらから連想されるのは『未知』ではなく『既知』の脅威。それを証明するかのように、かつての記録から本部のコンピューターが導き出した答えがモニターへと表示され、S.O.N.G.の人間は思考停止による逃避すら不可能な程にその現実を叩きつけられてしまった。
「嘘だろ…何でまた、あんな物が…!」
モニターの表示を見た奏が譫言のように呆然と呟く。誰もが言葉を失う中で、遂に弦十郎がその異変の正体を言葉に紡いだ。
「『カ・ディンギル』…だとぉ…!!」
地より屹立し、天を突くが如く高く聳えるその姿は、まさにかつてのフィーネが手掛けた月を穿つ魔塔そのもの…唯一異なる点と言えば、かつてのカ・ディンギルの外壁は禍々しさを感じるような配色で彩られていたが、その巨塔は土の中より現れたにも関わらず神々しささえ感じられる穢れ無き純白である事くらいだ。
塔の先端…その役割が同じであるならば、月を穿つ一撃を繰り出す砲門となる箇所には、まるでその四肢を一体化させるように塔へと埋め込む一人の女性…これまで姿を隠し続けてきた最後のノーブルレッド、ヴァネッサの姿があった。
「フゥゥゥ……」
苦し気な表情で何かに耐えるように口を閉ざしていたヴァネッサは、突如力を抜くように息を吐きながらその四肢を塔から引き抜く。それと同時に、その胸元へ埋め込まれた神々しい輝きを放つ白き球体がまるで力を失うようにその光を失った。
「……」
ヴァネッサは無言のままに立ち上がり、その傍にあった台座のような物へと近づくと、懐から自らの胸元に埋め込まれているのと同じ形状の白く輝く球体を取り出すと、それを静かに台座の上へと設置した。
その瞬間、白きカ・ディンギルがまるで鼓動を刻むかのように駆動音を鳴り響かせ、塔全体が淡く輝き始めた。それがかつてのカ・ディンギルと同じ現象であるならば…今まさに、カ・ディンギルはその内部にエネルギーを充填させていると言う事に他ならない。
「……」
その光景を無言で見つめながら、ヴァネッサはこれから実行する神の命令について思考を巡らせるのであった。
カ・ディンギルの再現…それを実現可能な者が果たしてこの世界にどれだけ存在するであろうか?
あのフィーネでさえ様々な暗躍によって国を欺き、国家の極秘機関という形で建設場所と物資を調達し、エネルギー源となる完全聖遺物を確保する事で完成へと至った月を穿つ巨塔…存在が公となった今では、再びフィーネが同じ計画を企てたとしても実現は不可能であろう。
或いは…そのフィーネの目論見を阻止して説き伏せたナナシであったなら、現時点においても再現は可能であったかもしれない。言葉巧みに他者を欺き、膨大な物資をその身一つで持ち運ぶ事が可能で、その気になればその体から必要物資を生成する事さえ可能な“紛い物”であれば、第二のカ・ディンギル建造も決して不可能ではなかろう。
であれば…
「不滅の肉体を、疑似的な資源として扱う…なるほど、中々に面白い発想ではないか?」
…“
シェム・ハが爪で自身の指先をスッとなぞると、まるで傷から血液が零れるように指先に液体が集まっていく。奇妙なのは流れる液体は黒みがかった赤ではなく何処までも澄んだ純白であり、零れた二雫の白き液体は差し出されたヴァネッサの掌の上に落ちると同時に真球の固体となってコロリと転がった。
「これは…?」
「我が肉体の一部だ。一つは、貴様の体に宿らせる」
そう言ってシェム・ハは球体の一つを摘まむと、有無を言わせずヴァネッサの胸元へと球体を埋め込んだ。
「っ!?」
「これによって貴様の体に宿る機械の能力を一時的ではあるが大幅に強化出来る。その力で朽ち果ててしまったカ・ディンギルを今一度蘇らせるのだ」
「カ・ディンギルですって!?」
元々はパヴァリア光明結社の一員であったヴァネッサは、フィーネが生み出した月を穿つ巨塔について知っていた。故にその一言で、これから神が自らに与えた使命で何を成そうとしているのか瞬時に理解してしまった。
「ククク、流石は我らを祀る敬虔な巫女である。よもやこのような素晴らしき物を生み出していようとは…!その忠誠、誠に大義である!残念ながら我らの領域を犯す咎人の甘言に乗せられてしまったようだが…今となってはその咎人を月へと追いやった手腕も褒めて遣わそう!例え我が仇敵と咎人共々潰えたとしても、我はお前の献身を決して忘れぬ。光栄に想うが良い!」
未来の記憶を読み取り、フィーネが如何なる目的のためにカ・ディンギルを生み出したのか知った上でシェム・ハは笑いながらそんな事を言ってのける。その禍々しささえ感じられる愉悦の笑みに、ヴァネッサはゾクリと身を震わせてしまった。
「貴様がカ・ディンギルの残骸へと辿り着けば、後は我が肉体が自動的に役目を果たす。残りの下僕共と我に奴らが気を取られている僅かな間でも容易くカ・ディンギルの再建は成されるであろう…ただ、カ・ディンギルはその構造上、どうしても屹立した状態でエネルギーを内部に満たす必要がある。我らの巫女フィーネは、かつてあの“紛い物”相手に話術を以ってその時を稼ごうと試みて失敗したようだが…我らには、その懸念も残されておらぬ」
クスクスと上機嫌に笑っていたシェム・ハであったが、突如としてヴァネッサを睨むように鋭い視線を向けると、威圧感と共に厳命を下した。
「カ・ディンギルが復活を果たし、地表へと屹立させた後は、もう一つの我が肉体からエネルギーを抽出させて月ごと邪魔者を一掃する。この我が言葉通り身を削って力を授けたのだ…失敗など許されぬと心得よ」
そうしてシェム・ハの狙い通り、S.O.N.G.の戦力が分散した状態でカ・ディンギルの再現は成され、エネルギーの抽出が開始された。後は残り少ないS.O.N.G.の戦力の中からこちらへ向かってくる者達を自分が返り討ちにすれば、月と共にバラルの呪詛と…あの“紛い物”を葬る事が出来る。
『お前らの飼い主として、俺は既に選択を終えている。もうお前らがこれから先、どんな選択をしたところで…俺の思惑から逃れる事は出来ない』
「…私達に月ごと葬り去られるって未来は、あなたのその思惑とやらにはあったのかしら?」
脳裏に木霊する言葉に、ヴァネッサはそんな呟きを零しながら空に浮かぶ欠けた月を見上げた。
『必死に悩んで、足掻いて、俺の思惑を超えるような…そう自分達を騙せるような未来を選択してみせろ。そんなお前らを、月から帰ってきたら目一杯可愛がってやる』
「…もし、こうなる事が分かっていても…あなたは、私達に同じ事が言えたのかしら?」
その呟きは、失った未来に対する未練なのか、はたまた…答えの出ない思考を抱きながら、ヴァネッサは着々とエネルギーを注がれるカ・ディンギルの上で佇むのだった。