戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
遂に、ここまで辿り着きました。
(了子君!ナナシ君!!)
カ・ディンギルの復活と言う緊急事態に、弦十郎が“血晶”を使って月にいる二人へ必死に呼び掛けるが応答が無い。
(“以心伝心”が無効化される可能性は予期していたが、よりによって…!)
最悪のタイミングで連絡が取れなくなってしまった事に弦十郎が歯噛みしつつ、本部で待機していた響とクリスに急ぎ指示を下した。
「響君とクリス君はすぐに現場へ向かってくれ!カ・ディンギル発射の阻止とヴァネッサ君の確保を頼む!!」
「はい!」
「任せ…っ!?」
響達が弦十郎に応えようと動き出したところで再びS.O.N.G.本部が激しく揺れ動き、二人は立っていられずその場に蹲ってしまった。
「今度は何だ!?」
「外部からの攻撃に、左舷の一部が損傷!浸水が始まっています!」
「攻撃だと!?一体何処から…」
突然の本部襲撃に驚きながら、弦十郎は攻撃に対処すべく外のモニターへと視線を向けて…驚愕に目を見開いた。
「これは…ユグドラシル!?」
モニターに映っていたのは、海底より凄まじい勢いで上空へと伸びていくユグドラシルの姿だった。
「どうなっている!?」
「ユグドラシルがあちこちに!?鎌倉やここだけじゃない…世界中に、ユグドラシルが!!?」
世界各国の異変を表すモニターには、もはや数えきれないほどの赤い点が表示されており、一部表示された現場の映像には全て地面から生えてくるユグドラシルが映り込んでいた。
「バラルの呪詛はまだ解かれていないのに、何故…?」
「ほぼ同タイミングで、風鳴邸地下電算室からハッキングを確認!各地のコンピューター施設からの被害報告多数!」
友里からの報告を聞き、ナナシ達からバラルの呪詛と人類創造の経緯を知らされていた弦十郎はある可能性に気が付いた。
「まさか…人類の脳を使わずとも、シェム・ハは現代の演算端末ネットワークシステムを応用して…!」
「アハハハハ!いじらしいなぁ、数千年に渡る人類の進歩は!自分達本来の役目を知らず閉ざされていながら、長い時をかけてこうして代用品を用意してくれるとは!」
キャロルを捻じ伏せ、鎌倉に生み出したユグドラシル主幹の上空に位置したシェム・ハは上機嫌に笑いながら両手を大きく広げていた。その両手から迸る赤い光にユグドラシルが呼応して、世界各地へと影響を与えているのだろう。
「他の下僕共は情けなくも敗北したようだが…戦力の分散という最低限の役目は果たしたか。想定通り神殺しは温存したようだが…では、どうする?我を自由にすればこのまま星の改造を進めてしまう。カ・ディンギルを止めなければ貴様の大切な兄弟子とやらが月と共に宇宙の藻屑と消え去ってしまう。仲間のために世界が変わるのを容認するか、我の元へと赴いて共に月が消え去る光景を眺めるのか…存分に悩むが良い!」
当然シェム・ハは地球の改造と月の破壊のどちらも譲るつもりはない。しかし響達が動くためには必ずその選択をする必要がある。悩めば悩むほどに刻一刻と時間が過ぎ去り、どちらを選ぶかで仲間同士で言い争い、覚悟を以って選んだところでその心は無傷では済まない。それはシェム・ハによるこの上なく残酷な神託だった。
「さあ…貴様らはどんな未来を選ぶ?」
『今すぐカ・ディンギルを止めに向かう!!』
『待って翼!今から向かったところで間に合うかどうか…』
『シェム・ハを止めないと、このままだと地球が…!』
『でも!このままだとナナシお兄ちゃん達が月ごと吹っ飛んじゃうデス!!』
シェム・ハの想定通り、装者達はユグドラシルとカ・ディンギルのどちらの対処を優先するかで意見が割れていた。既に出撃してしまっていた翼達ではカ・ディンギルの発射までに現場に辿り着けるかも怪しい。故にシェム・ハの対処へと向かう事が合理的であるとは理解しているが…合理だけで動けないのが人間の性だ。
「ぁ…っ…!!」
どうにか海面へ浮上して浸水を免れた本部の中で、翼達の通信を聞きながら響は動けなくなっていた。シェム・ハを止めるには神殺しの力を持つ自分が適任だと理解している。しかし、今からヴァネッサの妨害を掻い潜ってカ・ディンギルを止められる可能性が最も高いのも本部に残っている自分とクリスである事も理解している。
貴重な時間ばかりが失われていくと理解しながら、あまりにも重すぎる取捨選択を前に響の頭の中は真っ白になってしまい…
「おいバカ、らしくなく頭使ってんじゃねえ。お前は迷わずあの子の所へ向かえ…カ・ディンギルは、あたしが止める」
…その間に、クリスが先に
「クリスちゃん…だけど、それは…!」
仲間達とノーブルレッドの戦いを本部で見ていたからこそ、響はクリスの選択がどれだけ無謀なのか理解出来る。今のヴァネッサが相手ではクリス一人では勝ち目は無い。もし仮にヴァネッサの猛攻を掻い潜ってカ・ディンギルを止められたとしても、その後クリスは…
「無茶だどうだってのは今更言わなくても分かりきってる。それでも、どっちかを選べねえなら無茶を通してでもどっちも捨てねえ道を選ぶしかねえだろ?お前やおっさん…あのご都合主義だって、今まで散々似たような無茶を押し通してきたじゃねえか?…あいつらの事はあたしに任せろ。だから、あの子と世界の事は頼んだぞ」
「クリスちゃん…」
響の返事を待たずに本部を出ようとするクリスを、誰も引き止める事が出来なかった。それ程までに、クリスが自らの選択に強い覚悟を抱いている事が仲間達には感じ取れたからだ。生半な言葉ではクリスを止められない。もしその歩みを止められるとすれば…
『何をグズグズと下らない問答を続けている?さっさと
…それ以上の覚悟を抱く者の言葉だけだ。
突如部屋に響いたその声の発生源に全員が視線を向けると、エルフナインの隣に錬金術で投影されたキャロルを目撃した。
「キャロル!?」
『どいつもこいつも、少し追い込まれた程度でオレの敗北を決めつけおって…オレは言ったはずだぞ?『時間稼ぎぐらい造作もない』と。分かったらさっさとカ・ディンギルを止めに行け!』
「だけどお前、そんなボロボロの状態で…!」
『策は複数あるとも言ったはずだが?オレは無策に無謀な賭けに出ようとする貴様とは違う。可能だから任せろと言っているのだ』
「っ!!」
自らの選択を無謀と切り捨てられ、クリスが思わず口を噤んでキャロルの幻影を睨んだ。
『全く手間のかかる…なら、貴様らにも分かるように言ってやろう』
そんなクリスに、キャロルはヤレヤレと言った様子で溜息を吐きつつ言葉を言い直した。
『オレの培った錬金術の知識に懸けて、貴様らが来るまで必ず持ち堪えてみせる。だから、あの“紛い物”の事を…よろしくお願いします』
自らの誇りを懸けた、キャロルの『お願い』…その一言に籠められた並々ならぬ想いは、シェム・ハの策によって混乱していた装者達や本部の仲間達を落ち着かせるだけの力があった。
「クリスちゃん…行こう!」
「分かったよ…そんだけデカい口叩いたんだ。アッサリやられんじゃねえぞ!」
響とクリス、翼達はキャロルの言葉を信じて、迷いの消えた素早い動きでカ・ディンギルを止めるべく駆け出していった。
幻影の錬金術を解除して、キャロルは傷ついた体で立ち上がるとユグドラシルを操作するシェム・ハを睨みつける。そんなキャロルを、シェム・ハは怪訝な表情で見下ろしていた。
「解せぬな…我との力の差は身を以って理解したはずだ。何故まだ抗う?」
「ハン!検証の一つが失敗に終わった程度で何もかも投げ出していては、真理を追究する錬金術師などやっていられるものか。手の内が通用しないのなら、アプローチを変えて通用するまで試行を繰り返すまでだ」
「愚かな…既に雌雄は決している。貴様に許されるのは、世界の変貌と月の滅びを見届ける事のみ…そのままそこで平伏すが良い」
そう言ってシェム・ハは、もはやキャロルの事など眼中に無い様子でユグドラシルの操作を継続してしまった。このままでは装者達がシェム・ハの元へ辿り着く前に世界の改造が終わってしまう。
(どうにか再び奴の意識をこちらに向けさせる必要がある。何か方法は…)
キャロルがシェム・ハの注意を引くため思考を巡らせていると…何か思いついたかのように一瞬目を見開くと、フッと笑みを零し始めた。
「フ、フフフ…」
「…気でも触れたか?」
この状況で突然楽し気に笑い始めたキャロルに、シェム・ハは眉を顰めながら思わずそう問いかけてしまった。
「フフフ…いや、貴様の言い分は尤もだ。敗者がみっともなく足掻く姿は、さぞ滑稽で度し難く見えるだろうな?」
「フン、ようやく理解したか。であれば…」
「しかし、だ…それでも尚、オレはどうにも貴様に屈する気持ちが全く湧いてこないのだ」
自らの言葉を遮って、理屈の通らない言葉を紡ぐキャロルにシェム・ハは興味を失ったように再びユグドラシルへと意識を集中させようとして…
「貴様と…完全たる神と対峙するにあたって、オレはあの“紛い物”を想定して戦略を組み立てていた」
…続くその言葉に、ピクリと身を震わせた。
「アレと違って無制限に使用可能なダメージの無効化に加えて、あのパチモノ共を怪物として完成させ、短期間でカ・ディンギルの再現を成し遂げる能力の汎用性…なるほど、確かにあの“紛い物”の上位互換と言って差し支えない力を有している。アレにさえ訓練で時折敗北を喫するオレでは、この結果も当然だろう」
表面上は、シェム・ハの強大な力を認めるようなキャロルの言葉…しかし、そこに含まれる別の感情が、まるで毒のようにシェム・ハをジワジワ蝕んでいく。
「だが不思議だ…あの“紛い物”になら、オレはここまで追い込まれたなら早々に敗北を認めるだろう。抗ったら抗っただけ傷口を広げる事になりかねんからなぁ?アレ相手なら、オレはきっと素直に負けを認められるのだが…」
キャロルは過去の経験から、嫌と言う程に理解している。どれだけ心を強く保っていようが、本懐を目前に成すべき事を理解していようが…
「貴様如きでは、何故だか敗北を認める気持ちが全く湧き上がってこないのだ」
…誇りを踏み躙られると、意識は容易く逸らされてしまうと。
「…遺憾である。どうやら、思い上がらせてしまったようだな?」
まるで『お前は“
「良いだろう。それ程までに死に急ぐと言うのなら…星の命を改造する前に、貴様の心に完膚なきまでに敗北を刻み付けてやろう!」
シェム・ハがキャロルに手を翳すと、その手に嵌る腕輪に光が収束していく。それは以前、シェム・ハが訃堂の屋敷で用いた万物を銀へと変換する光線を放つ予兆だった。
「この我に一人で楯突いた愚かしさを、永劫の時の中で悔やみ続けるが良い!」
シェム・ハの宣言と共に、腕輪に収束した光がキャロル目掛けて放たれようとする…
「一人ではない!!」
バァン!!
「っ!!?」
…その直前、シェム・ハの腕が大きく弾かれ、光線はあらぬ方向に放たれて木々と大地の一部を銀に変えるに留まった。
シェム・ハが自らの腕を弾いた赤い何かが飛来してきた方向へと視線を向けると、そこには…その手に銃を構えたサンジェルマンと、その両脇に佇むプレラーティ、カリオストロの姿があった。
「済まない、遅くなった」
「全くだ、遅過ぎるぞ貴様ら!」
「え~?せっかくおっとり刀で駆けつけたってのに、その言い草はないんじゃない?」
「相変わらず口の減らないクソガキなワケダ」
キャロルとそんなやり取りをする三人が身に纏っているのは、失われたはずのファウストローブ。それぞれのスペルキャスターに埋め込まれているのは当然、完全たるラピスを象徴する緋色の輝き…いや、
かつてのラピスよりも何処か黒みがかった濃い赤色をしたその結晶は、心臓を模るラピスに以前にも増して生物らしい印象を連想させる。
その色を一言で言い表すのであれば、それはまさに…『血色』の輝き。
ラピス・フィロソフィカス
賢者の石とも呼称される、錬金術における一つの到達点。卑金属を貴金属へと変え、所持する者に永遠の命を齎し、ありとあらゆる不浄を焼き尽くすとされる伝説上の物質。
世界を一つの命として見立てる事で作り出せるとされてきたその物質を、パヴァリア光明結社の最高幹部であった三人がキャロルの計画を利用して、チフォージュ・シャトーで解析した世界構成のデータを応用する事で錬成する事に成功した。
しかし…その説明を聞いたキャロルは、僅かな違和感を覚えていた。
確かに自分はかつてチフォージュ・シャトーを起動させ、世界を分解・解析する事で万象黙示録を完成させようとしていた。ほんの一時的とはいえ、世界の解析を実行したシャトーのデータを応用すれば、伝説上の物質であるラピスを錬成出来ても不思議ではない。
しかし…チフォージュ・シャトーを起動した直後、世界の分解と解析はナナシによってほとんど妨害されてしまっていたはずだ。被害は決してゼロとは言えなかったが…そんな極々僅かな世界構成の解析結果だけで、伝説に詠われるラピスを生み出す事など可能だったのであろうか?
そんなキャロルの違和感を他所に、事実としてサンジェルマン達の生み出したラピスの輝きは魔剣ダインスレイフの呪いをかき消す程の力を発揮しており、結果が出ている以上認めるしかないとキャロルはその違和感を飲み込んでいた。
しかし…そんなキャロルの喉に小骨が引っかかったような感覚に興味を持ったナナシは、あの手この手でキャロルからその違和感について聞き取りを行っていた。ある意味被害の少なさを主張する自己弁護とも言われかねない思考だったため、中々口を割らないキャロルであったが…ナナシに気付かれた時点で手遅れである。ガリィと一緒に両手を広げて自分の周囲をグルグル回り続けるナナシに根負けしたキャロルは、飲み込んだはずのその違和感についてナナシに語って聞かせていた。
そうしてキャロルの違和感を共有したナナシは、その場ではその違和感を解消する答えを出す事が出来ずに一先ず飲み込む事しか出来なかったのだが…エルフナインが賢者の石への対策として愚者の石を提案した事で、その違和感はナナシの中である仮説へと変貌した。
マクロコスモスとミクロコスモス
『本質』と『成り立ち』を重要とする錬金術の思想
宇宙とは大いなる存在の肉体
人の肉体に納まる小さな宇宙
世界を一つの命として生み出された賢者の石
響と言う一つの命から生み出された愚者の石
あの時、シャトーが分解したのは…極々僅かな世界の一部
あの時、シャトーが分解したのは…大量の“紛い物”の血液
響と言う一つの命から生み出された愚者の石は、相反する成り立ちを持つラピスの力を打ち消す力が備わっていた。
であれば、その逆に…
数多の命を喰らい、束ねて、一つの命を生み出す『蟲毒』…
『複数の命から生まれた個』と言う、ラピスに近しいその成り立ち…
その果てに生まれたとされる、“紛い物”の肉体からならば…
極めて、ラピスに近しい力を引き出せるのではないか?
荒唐無稽な“妄想”は、様々な過程を経て仮説へと至り…遂に、ここに答えを得た。
“ラピス・フィロソフィカス・レプリカ”
“紛い物”の血液より生み出された、完全たるラピスに極めて近しい…しかし、何処までも不完全な物質。
…それは本来、解き明かすべきではない証明だったのかもしれない。
その命の成り立ちが、数多の命を糧とする『蟲毒』によって生み出されてと言う、忌み嫌われるべき『孤独』なる者の証。
それでも…だとしても!
呪われた過去さえも、求める未来を掴み取る力に変えてみせると、その答えから目を逸らず向き合ったからこそ…!!
“
蟲毒≒ラピス
漠然といつか小説を書いてみたいと思いながら、中々踏ん切りがつかず長い間一歩を踏み出せなかった私が、この作品を書き始める切っ掛けとなった設定です。
着想はこの作品でも何度かネタにした某錬金術漫画に出てくる賢者の石。後は某戦国の御伽草子に出てくるラスボスですかね。
主人公にラピスの浄化が効かないのは、その成り立ちが近いから。同質の存在としてラピスがスルーしたという事です。
他にも主人公の肉体を巻き込んだ黄金錬成で生み出される黄金が原作より増量されているなどの超分かりにくいヒントもありましたw気が向いたら読み直してみてください