戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
バァン!バァン!バァン!
立て続けに銃声が鳴り響き、サンジェルマンの赤い弾丸がシェム・ハの放った光弾を撃ち落としていく。しかし、幾つかは相殺し切れず接近を許してしまい、サンジェルマンに少なくないダメージを蓄積していく。
「くぅっ!」
シェム・ハがサンジェルマンに気を取られている僅かな隙に、プレラーティの巨大けん玉とカリオストロの拳の一撃が挟み込むようにシェム・ハへと繰り出されるが、シェム・ハを包み込むように展開された薄い半透明の膜のような防壁が容易く二人の攻撃を受け止めてしまった。
「チィッ!」
「かったいわね!!」
防壁から発生した衝撃波が二人を吹き飛ばし、その体を地面に叩きつける。倒れるプレラーティ達にシェム・ハが無数の光弾を撃ち出すが、サンジェルマンが弾丸で光弾を弾き、錬金術で鉱石の壁を展開して時間を稼いでいる間に二人を抱えてその場を離脱する事で何とかシェム・ハの攻撃をやり過ごした。そんな三人を、シェム・ハは冷たい瞳で高みから見下ろしていた。
「興醒めである。我に楯突いておきながら、この程度とは…」
キャロルが到着を待ち望んでいた三人の実力を警戒していたシェム・ハであったが、いざ蓋を開けてみればこの体たらく。自分の攻撃をまともに捌けない上に大した攻撃力もない。ハッキリ言って三人合わせてもキャロルに遠く及ばない程度の力しか無かった。つまらなそうに溜息を吐くシェム・ハの態度にカリオストロがイラッとしたように眉を顰めた。
「腹立つぅー!踏んづけてやりたいわ!!」
「それが可能なら苦労しないワケダ…しかし急ごしらえな上に、
神の落胆に言い返せない無力にプレラーティが歯噛みしていると、サンジェルマンが覚悟の宿った瞳でシェム・ハを睨みつけた。
「問題ない。力が足りないと言うのなら…足せばいいだけの事だ!!」
サンジェルマンの言葉に、プレラーティとカリオストロが顔を合わせて一つ頷くと、同じように覚悟を瞳に宿してサンジェルマンの隣に並び立つ。怪訝な顔で自分達を見下ろすシェム・ハの前で、サンジェルマン達は…その喉を震わせた。
『解放の歌が 命を燃やす』
『漆黒の闇に 炎穿つために』
『解放の鐘が 終焉を奏でる』
『『『自由に勝ち鬨を上げよ 曠劫たる未来を 死で灯せ!』』』
三人が美しい歌声を響かせた直後、その体から眩い光と共に尋常ではない力が溢れ出してきた。
「これは…」
シェム・ハが目を見開いていると、サンジェルマンがシェム・ハに向けて引き金を引く。シェム・ハが光弾を放って弾丸を相殺しようとして…弾丸が光弾を貫き、シェム・ハの頬に一筋の傷を刻み付けた。
「何だと!?」
シェム・ハがその結果に驚いていると、再びプレラーティとカリオストロがシェム・ハに挟撃を仕掛ける。シェム・ハが先程と同じく薄い防壁で二人の攻撃を受け止めると…
ピシリッ!!
…二人の攻撃は、シェム・ハの防壁に僅かだが罅を作った。
「こ奴ら、一体何を…!」
「錬金術は、生命力をエネルギーに変換する事で行使される技術だ」
いつの間にか再び立ち上がっていたキャロルが、シェム・ハの疑問に答えるような言葉を紡ぎ始めた。
「故にその極致として存在するのが、自らの命を変換する事で莫大なエネルギーを生み出す奥義。完全な肉体を得たあいつらの命を変換すれば、それは数万の命を凌駕する程の莫大な力を生み出し…そのエネルギーは、神の力を生み出す儀式さえ賄う事が可能。つまり…」
「なるほど…我に抗うためにその命を燃やすか。良いだろう、その程度で埋められるなどと思い上がった貴様らに、神の力を存分に知らしめてやろうではないか!」
頬に出来た傷をダメージの無効化で消し去り、防壁の厚みを増やしてサンジェルマン達を真っ向から捻じ伏せようと動き出すシェム・ハ。そんなシェム・ハにバレぬよう、キャロルはヒッソリと笑みを浮かべるのだった。
地球で仲間達が必死にシェム・ハとカ・ディンギルの対応をしている一方、月遺跡の神と邂逅するために最終防衛ラインと思われる守護者と交戦を始めたナナシ達は…
「ぬああああああああああああ!!?!?」
「くうっ!!」
…情けない声を出しながら逃げ回っていた。
動かない守護者の周りを何故かグルグルと走り続けるナナシと了子。すると、守護者の口元にエネルギーが収束していく。恐らく北極の棺や月遺跡の防衛システムが使用していたのと同じ種類の攻撃だ。守護者は目の前を走るナナシへと狙いを定めるようにエネルギーを貯めた口先を向けた。
(了子!そっちに行くぞ!!)
(くっ!!)
しかし狙われているはずのナナシは何故か守護者の背中側を走っているはずの了子に“以心伝心”でそんな警告を飛ばしていた。そして了子もナナシの警告が届いた瞬間、必死の形相で真横へ飛ぶように進路を変えて…
ギュアアアアアアア!!!
…その直後、
間髪入れず、再び守護者の口元にエネルギーが収束していく。しかしそれはこれまでの絶対零度を超越した凍結を齎す赤い光とは異なり、守護者の口からは黒い揺らぎのようなものが零れて…
ゴォオオオオオオオ!!!
…守護者の口から放たれた『漆黒の炎』が、今度こそナナシへ向けて真っ直ぐに放たれた。
ナナシの進行方向を狙って放たれた黒き炎はそのまま行けばナナシに直撃しただろうが、ナナシが走るスピードを加速させた事で軌道から外れ無効化されるはずだった。
しかし守護者の放った炎は、ナナシに迫る途中で燃え尽きたかのように虚空へと消え去り…
「っ!!」
ゴォオオオオオオオ!!!
…突如として、ナナシの真正面から襲い掛かってきた。
相次ぐ守護者による不可解な攻撃…そのカラクリは、攻撃そのものではなくナナシ達が侵入したその空間にあった。
初手で“障壁”に閉じ込められた守護者が脱出した方法から分かるように、月遺跡の神は転移の力を操る事が可能であり…それは単純な物質の転送だけには留まらなかった。守護者の放つ攻撃の射線上の座標を異なる座標…了子の背後やナナシの正面に繋げる事で、実質射程無制限の理不尽攻撃を繰り出してきていた。
「うおおおおああああああ!!!」
叫びながらナナシが全力で真横に回避する。しかし加速直後に前方から迫ってきた攻撃を完全に躱しきる事が出来ず、黒い炎が僅かにナナシの左手を掠めてしまった。
「っ!?」
ブチィッ!!
それを感じた瞬間、ナナシは即座に左腕の肘から先を引き千切って投げ捨てる。過剰とも思える対応だが…黒い炎はナナシの指先へ僅かに触れただけにも関わらずしっかりとそこへ燃え移っており、瞬く間に千切れた腕全体へと広がっていった。あのまま放置していれば、今頃黒い炎はナナシの全身へと燃え広がっていただろう。
(クッソ、『消えない漆黒の炎』なんて中二心擽る武装を搭載しているとは…!流石は神の生み出した守護者と言ったところか!!)
若干ズレた感心の仕方であるが、高い再生能力を誇るナナシと了子に対して溶けない氷と消えない炎は天敵と言っても過言ではない。まともに喰らえば不死身の二人であっても行動不能は免れない。
攻撃の転移と消えない炎、この二つを初見で凌げたのは正直幸運だったとしか言いようがない。ナナシの感情の感知によって守護者が明らかに了子へ狙いを定めているのにも関わらず自分が狙われているような違和感を感じ取れた事や、“障壁”の欠点故に普段から未知の攻撃は末端で受けて様子見する事を心掛けていなければ、早々に詰みとなる可能性は充分にあった。
守護者の攻撃方法が発覚してからはナナシと了子は二手に分かれて“以心伝心”でお互いの状況を監視しつつナナシの感知能力で何とか守護者の攻撃をやり過ごしていた。引き千切った腕を修復しつつ、守護者が次の攻撃を繰り出すまでの僅かな隙にナナシが攻撃を繰り出そうとした、その時…
(ナナシ!)
(っ!!?)
ナナシの背筋にゾクリとした悪寒が走る。それは攻撃を凌いだはずの自分に未だ狙いを定める神の感情を感知した事と…了子の視点で自分の傍を通り過ぎた黒い炎が不自然に途切れた光景を共有したためだ。
ゴォオオオオオオオ!!!
「だぁあああああああああ!!?!?」
咄嗟にナナシは足へのダメージも無視して全力で跳躍した。その直後、先程までナナシがいた場所の上空から黒い炎が降り注ぎ、床にぶつかって広範囲に拡散していった。
(に、二重転移…!しかも、この遮蔽物の無い空間を利用して直線軌道の単発攻撃を範囲攻撃に変えてきやがった!あっぶねぇ、ギリギリセー…)
ガシッ!
「ふぁっ!!?」
予想外の攻撃を躱してナナシが安堵していると…その隙に転移で音もなく接近していた守護者が空中に跳躍したナナシの体をガッシリ掴み取ってしまった。
「やっべぇ!!?」
「ナナシ!!?」
腹部から下を掴まれたナナシが守護者の手中から逃れようと必死に藻掻くがその拘束が緩む様子は無い。口内にエネルギーを貯める守護者に了子が刃の鞭を叩きつけるがビクともせず、遂に身動きの取れないナナシに黒い炎が放たれて…
「うおおおおおおゼ〇ルク!!」
ズボォッ!!
『っ!?』
…攻撃を放たれる寸前、ナナシは“千変万化”で胴体を脆い物質へと変化させる事で上半身だけで脱出する事に成功した。守護者もまさかナナシが謎の呪文を唱えながら肉体の半分を切り捨てるとは思わなかったようで、上半身だけで迫ってくるナナシを前に守護者は硬直してしまっていた。
「くたばれええええええ!!!」
ドゴォオオオオオン!!!
隙だらけな守護者の横っ面に、ナナシが治ったばかりの左腕で全力の一撃を叩きつける。同時に攻撃の反動と“飛翔”を利用してナナシは弾かれるように守護者から距離を取った。錐揉みしながら飛んでいくナナシの体を、先回りした了子が体を張って受け止める。
「ぐふっ!!」
「スマン、了子!助かった!!」
「構わん…しかし、どうしたものか」
ナナシが腕を再生しつつズボンを履き替えるように“収納”から取り出した下半身をくっ付けているのを横目に、了子はナナシの全力を受けて仰け反り…しかしその身に傷一つ無い守護者を見て思わず顔を顰めていた。
そう、厄介な攻撃の数々もさることながら、ナナシと了子が守護者相手に最も手を拱いているのが…ナナシの全力を受けても傷一つ付けられないその堅牢さであった。
「位相差障壁だとか、埒外物理だとかの小細工じゃなく…シンプルに硬い。まさに亀って感じだ」
「デュランダルの攻撃でさえ碌に効果が無い。対してこちらは一撃でも攻撃を喰らえば終わりかねない。このままではジリ貧だ…どうする?」
自分達の持つ最大火力が通じない相手に為す術が見つからず、了子がついナナシにそんな問い掛けをしてしまう。それを聞きたいのは自分の方だと思いつつ、了子も必死に打開策を考えている事は理解しているので、ナナシもこの状況を覆すために思考を巡らせた。
(クッソ、火力不足なんていつ以来だ?今まではうっかり相手を爆散させないよう手加減ばかり気にしていたからなぁ…あ~、あのキモイ増殖分裂ノイズ以来か?あの時は確か再生出来ないよう血液で包んでからグシャッと握り潰したんだっけ?あの亀相手だと血液で包み込んでも転移で逃げられるし、そもそも多少圧縮したところであの硬さじゃビクともしない…)
「…いや、待てよ?」
かつての経験から突破口を探っていたナナシが、何かに思い当たったように少しの間黙り込むと…ニヤリと笑って了子に“以心伝心”を繋げた。
(了子…かなり碌でもない事を思いついたんだけど、乗る気はあるか?)
(…愚問だな。私はお前に私の全てを賭け、それにお前が応えてくれたからこそ私はここまで辿り着く事が出来た。そんなお前が、この状況を覆すために思いついた策があると言うのなら、どんな無理難題だとしても私は完璧に応えてみせよう。だから…この出来る女の櫻井了子にドーンと任せなさい!ナナシちゃん!!)
ナナシの問い掛けに、了子は不敵な笑みを浮かべながら力強く応えてみせる。そんな了子の想いに腹を括ったナナシは、了子をその場に残して守護者の前に歩みを進めた。
「さて…随分とビックリ仰天させてもらったが、本来それは俺の十八番なんだよ。例え本物の神様が相手でも、そればっかりは譲る訳にはいかない。だから…ここから巻き返させてもらう!」
『っ!!?』
逆境に追い込まれているはずなのに、そんな事は露ほども感じさせない不敵で、邪悪で、何よりも楽し気な笑みを浮かべるナナシに一瞬ビクリと気圧されたように震えた守護者は、速やかに障害を排除すべく再び口内にエネルギーを貯め始めた。
「巷では領域だとか、無限の剣の丘だとか、ご都合主義空間なんて身も蓋もない呼び方をする作品もあったが…“妄想”を駆使する“紛い物”の俺が使うなら、これが一番かな?」
よく分からない事を呟いたナナシは、次の瞬間その装いを一変させる。
「爆ぜろリアル!」
『!?』
動きにくそうな黒いロングコートに死角を増やすはずの眼帯、傷など負ってなかったはずなのに包帯でグルグル巻きにされた右腕と指先が露出したグローブなど、何一つとして合理性を理解出来ないナナシの格好に守護者は戸惑っているように見える。しかしそこに意味を見出そうとしている時点でそれは詮無き事…特に意味は無い。
「弾けろシリアス!!」
『!!?』
ナナシが突如床で燻る黒き炎に自ら手を翳してその右腕に黒炎を纏い、それをまるで自らの力であるかのように悦に浸ったようなポーズを取る。決してナナシが黒炎の力を取り込んだ訳では無い。何なら胴体まで燃え広がらないよう必死で“高速再生”を使用しているので割と命懸けだ。しかしそれで良い。これより“紛い物”が繰り広げるのは、まさに命を懸けた世界への虚飾…!
「
言葉と共に、全てが光に飲み込まれ…“紛い物”の世界が顕現する。
前半の展開に戸惑う方もいらっしゃるかもしれませんが、キャロルは嘘は言ってません…嘘は。
場面がコロコロ変わって申し訳ありませんが、ここから月遺跡パートに移ります。と言うか、割とここから各場面での展開の見せ方が重要になってくるので切り替わりが激しくなるかもしれません。素人が複数場面同時進行になんて手を出したせいで読みにくくなったら申し訳ない。ただでさえオリジナル部分の戦闘描写に手間取っているのに…
次回の執筆が今までで一番苦労しそう…最後の方の主人公のセリフは誤字ではありません。弾けるのはシリアスであってますw乞うご期待!…来週までに書き切れなかったらすみません。