戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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ギリセーブ!!(投稿予定二分前)


第220話

ワァアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

『!!?』

 

周囲に煌びやかな光が溢れ出すのと同時に、空間を震わせるような大歓声が響き渡る。突如として現れた人、人、人…万を超える人間が熱狂しながら手にしたサイリウムを振り回すその光景はまさに、“紛い物”が人と言う存在に抱く心象風景。自らの焦がれる存在にありったけの想いをぶつける…満席のライブ会場の光景が周囲を埋め尽くしていた。

 

それは神が消え去り、統一言語を失った人類が数千年の時を重ねて辿り着いた新たな崇拝の形…守護者はその光景に、目を奪われたかのように動きを止めていた。

 

「あっははははは!レディース・アンド・ジェントルマン!」

 

守護者が口内に貯めていたエネルギーを霧散させて呆然と立ち尽くしていると、いつの間にかナナシが部屋の中央の天井付近まで移動していた。ナナシは観客達に両手を広げて舞台役者のように語り掛ける。

 

「これより開催されるのは世紀の一戦!人類を守護する神様と、それに仇なす咎人共の仁義無き戦い!!その開幕を飾るのは…きたねえ花火だ!!!」

 

ドバァアアアアアアアアン!!!

 

次の瞬間、ナナシの体が突然爆ぜた…いや、そう勘違いしそうな程に凄まじい勢いでナナシの全身から血液が溢れ出したのだ。それはナナシが月遺跡を侵略しながらコッソリと“収納”に貯め続けていた血液であり、放出した血液を起点に“収納”を連続開放する事で突如大瀑布を思わせる程の血液の一斉解放を実現させていた。

 

ナナシの血液の厄介さは嫌と言う程に理解している。故に守護者は部屋を埋め尽くさんとする血液に対して迅速に対応を始めた。凍結では既に放出された血液が物理的な障害となって守護者の動きを阻害してしまう。そのため守護者は漆黒の炎で降り注ぐ血液を悉く焼き尽くし…

 

ドゴォオオオオオオオオン!!!

 

…業火で瞬時に蒸発した大量の血液は大規模な水蒸気爆発を発生させ、閉ざされた空間内部は一瞬にして赤い霧に包まれてしまった。蒸発を免れた血液がビチャビチャと床へ降り注ぎ、床全体を薄くコーティングするようかのように広がっていく。大部分を蒸発させた上でコレなのだから、あのまま放置していれば瞬く間に部屋全体を血液で埋め尽くされていただろう。

 

赤い霧がライブ会場の光を乱反射して空間内の視界が極めて悪くなる。しかしそれは守護者にとって障害に成り得ない。自身に備わる高精度のセンサーに月遺跡そのものから共有される情報によって、守護者は視界不良の中でも接近してくる存在を正確に捉える事が可能だ。

 

そう、守護者は正確に捉えていた。今まさに…全方位から迫り来る無数の人影を。

 

『!!?』

 

ドゴンッ!

 

霧の中から飛び出してきたその光景に守護者が一瞬硬直した隙に、人影の一つが力強く踏み込んで守護者の側面に拳を叩き込む。その衝撃に守護者は体を横にスライドしつつ何とか倒れる事無く踏み止まった。

 

「ギョッとすると体固まるだろ?同じ相手に何度も通用する事じゃねえが、一発で充分だ」

 

その男は守護者を殴った手をプラプラ振りながら守護者が隙を晒した理由を指摘してくるが、守護者が硬直したのは霧の中から大人数が現れたからではない。既に万を超える人間が突如出現したのだ。人数の増減など今更だ。それでも守護者が事前に奇襲を察知した上で硬直したのは…霧の中から現れた全員が全く同じ顔で、全く同じ奇抜な格好をしていたからだ。

 

ダブついた白い学ランのような格好に特徴的なリーゼント、喧嘩上等とでも言いそうなヤンキーのような強面…そして、その目元だけを隠すように掛けられた黒いサングラス(目線)で統一された集団を前に、守護者が虚を突かれたのも無理はない。

 

『時間です。利息が付きます』

 

『!!?』

 

守護者がヤンキーの集団を警戒していると、守護者の小脇にいつの間にか奇妙な…本当に奇妙としか言いようがないずんぐりむっくりした謎の生き物が張り付いていた。その生き物の額には数字が表示されており、ヤンキー集団同様に目にサングラス(目線)がかけられている。

 

『時間です。利息が付きます』

 

『!!?』

 

そう言うと同時に謎生物の額の数字が増えて、その体が一回り大きくなる。未知の生物に対する危機感から守護者はその生物を叩き潰そうと手を振り下ろすが、守護者の手は謎生物の体を素通りしてしまった。続けて守護者が光線を浴びせて謎生物を氷に閉じ込めるが、謎生物は何事も無かったかのように氷を通り抜けて守護者の傍をフヨフヨと漂い続ける。

 

「ソレへの攻撃は時間の無駄だぜ?無害ゆえに無敵!ちょっと目障りだがな?」

 

ヤンキーの一人がしたり顔で守護者の行動を嘲笑う。状況は未だ理解しきれないが、一先ず守護者は謎生物を無視してヤンキー集団を蹴散らすべく口内にエネルギーを収束させて…

 

「ゴ〇ゴ〇の~…ピストルゥウウウウ!」

 

ビニョ~ン…ドゴオオオオン!!!

 

『!!?』

 

…突如、霧の中を突っ切って伸びてきた拳にその横っ面を殴られ、仰け反ってエネルギーを霧散させてしまった。

 

伸びてきた拳…比喩ではなく、長~く伸びた腕と拳のみが飛んできた事に再び不意を打たれた守護者が、シュルシュルと拳が霧の中へ戻っていく光景を前に反撃も忘れて呆然と佇む。少しずつ霧が晴れていき、そこには麦わら帽子を被り、胸に大きなバツ字の傷が刻まれた…そして、周囲のヤンキー達と同様に黒いサングラス(目線)で目元を隠した男が立っていた。

 

「海〇王に、俺はなる!!」

 

『???』

 

突如麦わら帽子の男が胸を張って叫んだ宣言の意味が分からず守護者が混乱していると、未だ霧の濃い場所から顔にサングラス(目線)をかけた者達が次々と現れた。

 

「火〇の咆哮!」

 

変わった模様のマフラーを身に着け、肩に妖精のような刺青を入れた青年が口から炎を吐き出し、業火が守護者を飲み込む。

 

「穿〇氷壁!」

 

かと思えば、白と赤が半々の特徴的な髪色をした青年が手を翳した一瞬で守護者は分厚い氷に閉じ込められてしまった。

 

「闘技!神〇嵐!!」

 

間髪入れず、顔に『ワ』のような形の刺青を入れた巨漢の男の両腕が凄まじい勢いで回転したかと思うと、そこから発生した竜巻が氷の壁を粉砕しながら守護者に襲い掛かる。

 

「大地の〇剣!」

 

その直後、守護者にも引けを取らないサイズの女性がその巨体に見合った大槌を床へと叩きつけると、そこを起点に剣のような形の岩が凄まじい勢いで伸びて守護者を吹き飛ばした。

 

『!!?!?』

 

炎、氷、風、岩…多彩な攻撃と明らかに人間の挙動や外見からかけ離れた者達が現れ始め、守護者は思考の乱れからか転移での回避もままならない様子で転がされ続けていた。

 

「フッフッフ、どうだ?人の培った“妄想”は中々刺激的だろう?」

 

そんな風に守護者が翻弄されていると、サングラス(目線)の集団にいつの間にかナナシが紛れ込んでいた。その両手に何やら書物のような物を広げながら、ナナシはニヤリと笑みを浮かべて守護者に語り掛ける。

 

「これからもっと沢山披露してやるから、楽しみにしてくれよ…神様(・・)

 

『!!?!?』

 

ナナシの言葉に、起き上がろうとしていた守護者がビシリと石化したかのように固まった。

 

「いや、機械亀のくせにさっきから感情豊か過ぎ。その亀を直接操っているのはお前なんだろう?神様!!」

 

『……』

 

ナナシの言葉に無反応を貫く守護者。しかしそれは所謂ポーカーフェイスのようなもので、ナナシには図星を突かれた守護者の…神の『焦り』がヒシヒシと伝わっていた。

 

(そもそも俺の言葉に反応して動きを止めている時点で能力関係なくお察しなんだが…騙すのも騙されるのもあんまり経験無いんだろうな?正直チョロいぞこの神様)

 

それでもあくまでしらを切るつもりの神に対して、“紛い物”は完膚なきまでにその思惑を踏み躙らんと言葉を紡いでいった。

 

「元々この遺跡に来てから妙な感じはしていたが…月遺跡と目の前の亀から全く同じ感情がダダ漏れしているお陰で何となく答えが見えてきた」

 

『…?』

 

「シェム・ハとか言う神が『自身を言語に置き換える力』を持っていたように…そして、推定蠱毒の呪法で生まれた“紛い物”の神である俺が『他者の感情を感じ取る力』を持っているように!」

 

『!!?』

 

ナナシが暴露した能力とその意味を察した守護者…それを操る神に対して、ナナシがビシリと指差しながら己の辿り着いた答えを突きつける。

 

「恐らくお前は、お前が持つ何らかの力で…この月遺跡と同化している。そこの中枢の中に引きこもっている訳でも、機械亀のコックピットに乗り込んでいる訳でもない…この月遺跡こそが、人類を今日まで守り続けた神そのものだ!」

 

『!!?!?』

 

月遺跡全体と守護者から感情が濁流の如く溢れてくる。恐怖、危機感、動揺、焦燥…そしてそれらに紛れるような、極々僅かな『安堵』。

 

(九割正解ってところか?そして残る一割こそが、頑なに俺達の前に姿を表そうとしない神様にとって最も都合が悪い真実…)

 

「まあ、そんな事は正直どうでも良いんだけどな?」

 

『!!?』

 

神が必死に守り通そうとする秘密に迫りながら、ナナシは心底興味が無いと言った様子でアッサリと追究を切り上げてしまった。

 

「俺はお前が気に食わないからブン殴りに来ただけだ。だけど壁ドン床ドンしたところで虚しいだけだし、亀はカッチカチだし…だったら代わりに思う存分お前のハートをノックしてやる!そのために生み出したのがこの空間!感情を、人の想いを受け止め続けた“紛い物”の俺の集大成!人類の“妄想”を、次元を超えて世界に顕現させる…『人類が生み出した創作物の再現』を、とくとその身に…いや、心に受けてみろ!」

 

『!!?!?』

 

宣言と共に、ナナシが両手に広げる書物…漫画や小説が別の物に切り替わり、それと同時にまるで書物の中から飛び出してきたかのように現れたサングラス(目線)の集団が再び守護者へと襲い掛かった。

 

 

 

 

 

遂にナナシの力が覚醒して、現実を侵食する自分の世界を顕現させた…と言う訳では当然ない。ライブ会場の光景は“投影”で映し出した幻であり、サングラスの集団はナナシが操る血液人形だ。まるで漫画から現れているように見えるのは、ナナシが地面に広がる血液を起点に“収納”から人形を取り出しているだけだ。

 

何故ナナシの“収納”内に様々なキャラクターの人形が存在しているのか?それは、来る神との決戦に備えてナナシが事前に用意していたから…なんて事は決してなく、ナナシが普段から訓練を兼ねて遊んでいたからだ。

 

元々能力開発の一環で漫画やアニメの動きを模倣していたナナシは、“水鏡”を覚えてからは自分で動くだけでなくキャラクターの人形を使って色んな場面の再現を行っていた。あわよくば本当に人形の手や口から炎や光線が出る事を期待しつつ、漫画では軽くやっているが現実では難しい動きなども意外に多く、名シーンの完全再現に拘り色々試行錯誤を繰り返す事でドンドン人形操作の精度を向上させていき、出来栄えが良ければ“投影”でS.O.N.G.の仲間達に披露する事もあったため気分は完全に『○○を再現してみたw』の動画撮影者である。途中からは見た目込みであまりに再現度が高いため、配慮として人形にサングラスをかけさせるようになった程だ…仲間達からすれば、より危険度が高まったようにしか見えなかったが。

 

そして最近、とある代物が完成した事でナナシのその遊びはより拍車をかける事となった。

 

その代物とは、以前ナナシが訃堂と直接対峙する際の保険として用意された…錬金術を刻み込んだ宝石である。実はあれは、今まで存在しなかった新たな系統の錬金術と言っても過言ではない。

 

以前からナナシは錬金術の実験のために宝石や貴金属をキャロルへ提供していたが…それらを消耗品の如く使用して術を行使するなど、本来キャロルが想定していた錬金術とは大きく異なる。当たり前だ。如何にキャロルのような世界屈指の錬金術師と言えど、そうポンポンと宝石を使い潰していては費用対効果が見合う訳が無い。使うとすれば何らかの部品か薬品として再構成して継続的に使用するか、大掛かりな儀式の核にしてより大きな力を引き出すためのブースターのような役割が主となる。

 

しかしナナシにとって宝石を使った錬金術とは、手榴弾の如く派手にバラ撒いて様々な効力を発揮させたり、強力な召喚獣を呼び出すために気前良くぶん投げたり砕いたりするような…まさにゲームの消費アイテムのように使うイメージであった。

 

途中から仲間に加わったサンジェルマン達の協力もあり、ナナシによって齎された現代に広く伝わる錬金術のイメージと、古来より『宝石には不思議な力が宿っている』と言う人々の認知による一種の哲学兵装を利用する事で生み出されたのが、砕くだけで誰でも使用出来る宝石錬金術である。

 

そしてナナシの“千変万化”を利用すれば、どんな種類と大きさの宝石も無尽蔵に入手が可能であり…動きに合わせて人形の内部で宝石を砕いて効果を発揮させる事で、漫画やアニメの世界を現実へと反映させる奥義が誕生したのだった。

 

 

 

 

 

そして、ナナシの奥義の中核を為すアイテムが宝石の他にももう一つ…

 

「行っけぇええええええええ!!!」

 

「バァアアアニィイイイング!!!」

 

「ジャン・ケン・グー!!!」

 

ドゴォオオオオオオオン!!!

 

『!!?!?』

 

ナナシにとって非常に馴染みのある声質をした赤い蝶ネクタイの少年がサッカーボールを蹴り放ち、ユニフォームを着た茶髪の温厚そうな青年がラケットを握った瞬間豹変して凄まじい勢いでテニスボールを打ち放ち、銀髪の少年が掌で捕球するドッチボールを拳にオーラのような光を纏った黒髪の少年が殴り放つ。凄まじい勢いで放たれた三つのボールは同時に守護者へと着弾すると、守護者の体は弾かれるように転がって部屋の外壁へと叩きつけられてしまった。

 

先程放たれたボールは、錬金術など仕込まれていない普通のサッカーボール、テニスボール、ドッチボールである。例え音速で叩きつけたところで守護者には対して影響を与えられないはずのそれらが守護者を吹き飛ばせた理由は…

 

(人類にとって幸運だったのは…これまで風鳴の一族が誰もスポーツ界隈に興味を持たなかった事だろう)

 

…それが弦十郎の放ったボールであったからだ。

 

原理はレイアが行っていた“収納”の攻撃転用と全く同じである。しかし現代兵器を利用したレイアと異なり、ナナシは“収納”可能な最大火力を模索した結果、自らの師へ協力を仰ぐ事にしたのだ。

 

休日グローブ片手に移動する二人を見た者は河原か草むらで仲良くキャッチボールをする大人と子供を連想したかもしれないが、実際は山奥で幾つも地面にクレーターを穿ち肉片と血飛沫が撒き散らされた凄惨な光景を生み出す結果となった。

 

弦十郎が投げるボールを真っ向から受け止め、『触れた』と認識した頃には“収納”が間に合わず肉体が爆散する事数知れず…流石に見かねた弦十郎が途中から『一定以上の衝撃をトリガーに炸裂する発勁』をボールに籠める事に成功したため、どうにかナナシは師の力を大量に授かる事が出来たのだった。

 

…尚、ナナシにとって最も衝撃が大きかったのは、カーブやスライダーの練習感覚でとんでもない魔球を完成させた師の在り方である。ボールに籠める発勁とは…?

 

疑問は大きいが、ともかく師の協力によって血液人形もナナシ本体と接触状態であれば強力な物理攻撃が可能となった。何なら本体よりも強い。使用したボールも発勁が炸裂した瞬間に消し飛ぶため、拳による打撃に偽装してもバレる事は無いだろう。

 

しかし…仲間達の力を駆使してさえ、守護者の体はダメージどころか傷一つ付く様子が無い。

 

ようやく混乱から回復した守護者もその事実に気が付いたようで、効果の無い攻撃を繰り出すサングラスの集団を無視して守護者はナナシへと狙いを定めて口内にエネルギーを収束し始めた。これ以上奇妙な真似をされる前に、元凶を排除するつもりらしい。

 

守護者がナナシへ攻撃を放つ直前、再び新たなキャラクターが守護者の前に姿を現す。しかしそれでも守護者はナナシから狙いを外す事無く、例え妨害されたとしても攻撃を転移させて確実にナナシを焼き尽くさんと漆黒の炎を口から溢れさせて…

 

「スネ~♪スネスネ~♪」

 

ゴォオオオオオオオ!!!

 

…気が付くと、守護者は一瞬の内に狙いを変えて目の前の存在を業火で焼き尽くしていた。

 

今、何が起きたのか…守護者は理解しきれていなかった。それ程までに、突然目の前に現れた存在は守護者の理解を超えていた。

 

ありのまま、今起こった事を説明すると…今まさに炎を吐こうとした守護者の前に現れたのは、巨大な赤い魚に網タイツを履いた脛毛だらけのおっさんの足を二本生やしたような奇妙な生物(ナマモノ)だった。何を言っているのか分からないと思うが、両足を擦り合わせてクネクネ動くそれを見た守護者は頭がどうにかなりそうだった。

 

「俺が拠点にしている国には、『道徳』と言う科目が存在する。生きる上での善悪を考えさせ、命の大切さや思いやりの心を育むための教育だ」

 

唐突に始まったナナシの語りに反応して、守護者がナナシの方に顔を向けると…凍り付いたかのようにビシリと固まってしまった。

 

「そんな国でさえ…住居に侵入した虫を駆除するためなら、兵器運用は非人道的と規制されている毒ガスや毒餌を躊躇いなく使用する。健康被害や住居の損傷からの自己防衛なんてお題目はあるにはあるが、ほとんどの人間がその矛盾を気にしない理由は、それだけ強い力が秘められているからだ…『キモイ』と言う感情には、な?」

 

そう言って不敵に笑うナナシの後ろに並んでいるのは、大前提として顔にサングラス(目線)がかけられている…

 

「ヒ~ラリヒヒララ♪」

 

頭飾りと腰ミノのみ身に着けた、一心不乱に怪しい踊りを踊る半裸のおやじ。

 

「蝶・サイコー!」

 

毒々しい黒の全身タイツのようなピッチリした衣服を身に纏い、パピヨンマスク(目の部分に黒レンズが嵌っている)で顔を隠した青年。

 

「フォォォォォォ!!」

 

網タイツに皮手袋を装着して、ブリーフのゴムをスリングショットのように肩にかけて女性用下着を顔に被った変態。

 

「殺せよぉ!!俺のことが気に食わないんだろ!神様ぁ!!俺もお前のことが大嫌いだバーカ!!」

 

ボロボロの上着を纏い、段ボールや新聞紙を抱えたみすぼらしい格好のまるでダメなおっさん…何故かこのキャラだけ、グラサン以外の顔部分がモザイク処理されている。

 

見ているだけで精神を蝕まれるような感覚を覚える者達を前に守護者が体を小刻みに震わせていると、ナナシがニッコリと笑いながら指を構えた。

 

「お前の感性が分からないから色んなキャラを用意させてもらった。それでは神様…拷問の時間です♪」

 

パチンッ!

 

「ヒヒラリラ~♪」

 

「もっと愛を込めて!!」

 

「クロス・アウッ!」

 

「いやおかしいから!?絶対こいつらの方がヤバイ見た目なのに、何で俺だけが猥褻物みたいな扱いされてんのぉおおお!!?」

 

『!!?!?』

 

ゴォオオオオオオオオオオオ!!!

 

一斉に飛び掛かってくる変態の集団を前に、守護者が全力で漆黒の炎を放射させる。消し炭一つ残らないよう念入りに炎を吐き続けた守護者は、放射跡に何も残っていない事に安堵したように肩を落として…再び凍り付いたように動きを止めた。

 

「あっははははは!一匹見たら三十匹はいると思えよ神様!!」

 

『キタキタキタキタァアアア!!!』

 

『貴様もいっぺん死に臨んでみろ!意外と恍惚で病みつきだぞぉおおお!?』

 

『それは私のおいなりさんだぁあああ!!!』

 

『ナマイキ言ってすいませんでしたぁあああ!謝るから体を返してくださいぃいいい!!』

 

『~~~~!!?!?』

 

大量増殖した変態と声を響かせるグラサンの群れに、守護者は半狂乱になったかのように炎を吐きながら転移で逃げ回る。群がられたところで何の支障もないかもしれないが、理性ではなく本能が守護者に逃げの一手を選ばせ続けていた。

 

『時間です。利息が付きます』

 

『!!?』

 

しかし再び肥大化して既に自分の半分ほどの大きさになった謎生物の存在によって、守護者は逃げてばかりもいられなくなった。明らかに時間経過で何かが起こる存在に憑かれてしまった以上、早急に手を打つ必要がある。

 

辛うじて残っていた理性でそう判断した守護者は、人間であれば鳥肌が立ちそうなその身に降りかかる悪寒を抑え込んで…色覚に制限を施した。

 

守護者の視界から色が失われ、世界が白と黒に切り替わる。追いかけてくる変態の群れも、こうなってしまえば多少シルエットが歪な人型でしかない。これで新たに妙なキャラクターが現れたとしても動揺する事無く対処が可能となる。

 

既に見てしまった変態達の姿を思い出さぬよう気をつけながら、接近して来る者達を手で叩き潰しつつ今度こそナナシを狙って炎を射出する準備を進める。逃げ回りつつも再発見したナナシは見逃さないよう注意していた。何が現れようと、今度こそ、確実に…

 

 

 

「ハハッ♪やあ!ボク、ミck…」

 

 

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

…『ソレ』が現れた瞬間、守護者は全力でその存在を抹消するために動いていた。

 

『ソレ』の正体が何かなど、皆目見当もつかない。しかし白黒の世界で黒い(マル)を三つ重ねたようなシルエットと、男性の裏声のような独特の声を認識した瞬間、守護者は既に炎を吐いていた。あれは偽物であろうとヤバイ…いや、偽物だからこそヤバイと、本能を超えた魂の衝動が守護者を突き動かしたのだった。

 

そして、そんな守護者を嘲笑うように…守護者の視界を埋め尽くす程の、大量の(マル)が周囲から溢れ出してきた。

 

『~~~~~!!?!?!??』

 

堪らず視覚制限を解除して、守護者が手当たり次第に(マル)を叩き潰し、燃やし尽くしていく。それらは歌を聴くと眠くなりそうなモンスターであったり、何でも吸い込みそうなピンクボールであったり、変な乗り物に乗ったおじさんが投げ続けるパンで作った生首であったりと奇妙な光景である事は確かだが、変態集団と模倣してはならない三つの(マル)に比べれば天国とも言える光景だ。

 

守護者が丸い襲撃者を排除しながら動揺を落ち着かせていると、再び別の丸いボールが二つ…いや違う。やたらと、その…胸部の主張が激しい少女が武器を構えて守護者へと襲い掛かってきた。

 

新たなキャラクターに一瞬だけフリーズ仕掛けた守護者だったが、何かされる前に排除しようとすぐさまその手を振り下ろそうとして…

 

「命〇け!!」

 

ビリィイイイ!!

 

『!!?!?』

 

ドゴンッ!!

 

…突如として衣服が弾け飛び、下着だけの姿となった少女の姿に動揺した守護者が盛大に攻撃を空振りしてスッ転んだ。

 

すぐさま起き上がり、下着姿の少女を黒炎で焼き尽くす守護者。如何にも素早くリカバリーに動いたように見える動きだったが…ナナシはしっかりと感じ取っていた。先程の動揺による心の動きは、今までで一番大きかった事を。

 

(意外とおぼこい反応をするじゃないか、神様?だったら…!)

 

ナナシが新たに開いた漫画本から、一人の男が飛び出して来た。ツンツンした金髪に、オレンジ色の服を纏ったその男は、両手を素早く動かして印を結び…

 

「多重・影分身の術!」

 

…一気に百を超えそうな数まで増殖した。

 

ライブ会場の人間を除けば、これまでで一番の人数増加…しかしその程度ではもはや守護者が動揺する事など無い。迫り来るオレンジ服の男を守護者は次々と手で叩き潰し、炎で薙ぎ払う。その度にオレンジ服の男は煙を上げて消滅していき、ドンドン数を減らしていった。

 

そんな中で遂に守護者の懐へと接近する事に成功した男の一人が、素早い動きで印を結び始める。守護者は転移での回避を準備しつつ、迫る男を迎え撃とうとその手を振るい…

 

「おいろけの術!!」

 

ボフン!!

 

『!!?!?』

 

…いきなり男が局部だけを煙で隠した全裸の女性に変化した事で、守護者の動きは一瞬固まってしまった。

 

しかしすぐさま復帰した守護者が躊躇う事無く女性に変化した男を叩き潰す。しかし、動揺と一拍の隙が出来たせいで、今度は複数人の男が守護者の周囲で一斉に印を結び出した。

 

しかし、今度こそ何が起こるか予想している守護者は全てを薙ぎ払うつもりで口内にエネルギーをチャージさせる。例え全裸の女性が出てこようが、全裸の男性が出てこようが、それ以外の奇妙な生物が出てこようが瞬時に消し飛ばしてみせると覚悟を決めて待ち構えて…

 

「ハーレムの術!!!」

 

ボフン!!

 

…そこに現れたのはスカートの丈が非常に短い制服やバニーガール、ナース服、メイド服などのコスプレ衣装をかなり煽情的な状態に改造した衣服を纏った女性の集団だった。

 

ほとんど予想通りの展開…覚悟を決めた守護者は、例え出てきたのが同じ衣装を纏った男の集団であっても動揺を抑え込んで殲滅する事が出来るはずだった。

 

にも関わらず…守護者は目の前の光景を前に、完全に動きを止めてしまっていた。

 

予想通りの煽情的な格好の女性の出現。ただ一つ、守護者の予想だにしていなかった点は…女性の顔が全員、フィーネと瓜二つだった。

 

『~~~!!?!?!??』

 

その光景を前にした守護者は、手の振り上げと振り下ろしを同時に行おうとでもしているのか、挙動不審な動きで体を震わせながら溜め込んでいたはずのエネルギーを口内で暴発させるように黒い炎を零れさせるという今までで一番挙動がおかしな事になっていた。まるで熱暴走でも起こしているかのように頭部から煙が上がっているが、それが黒炎の暴発のためかそれ以外の理由からなのかは少々判断が付かない。

 

慌てふためく守護者の前で、沢山の煽情的なフィーネ達は…その衣服の裾や肩口、胸元へと手をかけて、ただでさえ中身が零れそうな衣服を徐々に着崩していった。

 

『~~~~~!!?!?!??』

 

怪しい挙動を更に加速させてまともに動けない守護者を眺めながら、ナナシはニヤニヤ笑いながら勝手に心の中で守護者の動きにアテレコを加えていた。

 

(止めないと!?いやでも罠かも!!?いやいやでもこれは良くないって!!?!?いやいやいやでももったいな…じゃなくって!!?!?!!?)

 

混乱する頭の中で様々な言い訳と自己弁護を繰り返す守護者の前で、遂にフィーネ達が着崩れた衣服を押さえる手を体から離して…

 

ビリイイイイイ!!!

 

『ナイスバルク!!!』

 

突如弾け飛んだ衣服と…その下から現れた、ボディビルダーのようなムッキムキの体でポージングするフィーネ達を目撃して、守護者は燃え尽きたように真っ白になってしまった。

 

ドゴンッ!!

 

「あっはははは!なーに期待してんだこのムッツリスケベが!!」

 

そんな守護者の後頭部に、ナナシが何の変哲もない蹴りを叩き込む。それだけでアッサリと守護者は前のめりに倒れ込んでしまい、起き上がる様子は無い。月遺跡から伝わる感情も途絶えた事で、ひょっとして神様がショックで気絶したのではないかとナナシが淡い期待を抱いたその時…

 

『時間です。利息が付きます』

 

再び謎生物が言葉と共に体を肥大化させ、遂には守護者と同じくらいのサイズにまで至ってしまった。あくまでナナシが過去に作成したマトリョーシカのような巨大人形を“投影”で段階的に表示させているだけの謎生物だが、どうやら長く響かせ続けたその声が最後の一押しになったようで…

 

プツン、と…堪忍袋の緒が切れる音がナナシには聞こえた気がした。

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

突如守護者が前のめりに倒れ込んだまま起き上がりもせず、その口から凄まじい勢いで黒炎を放射し始めた。撃った端からエネルギーを供給し続けているのか、守護者の口から放たれる黒炎は衰える事無く勢いを増していき…そのまま黒炎の放射を推進力に、守護者の体が回転するように動き始めた。

 

「ちょっ!?おまっ!!?」

 

慌てて“障壁”を足場に空中へと避難するナナシ。そんなナナシを守護者が黒炎を吐きつつ高速で回転しながら飛行して追いかけてきた。

 

「ストップ!ストォオオオオップ!!亀でその挙動はマズイって!メカなのが猶更パチモノっぽいって!!パクリはいけないと思いまああああす!!」

 

“障壁”で進路を塞ぎつつ走り回るナナシを守護者が執拗に追いかけ続ける。守護者を操る、かつて人に敬われ続けていた神は、度重なるナナシの言動によってようやく自分が馬鹿にされている事に気が付き、自分の覚悟や決意を踏み躙るナナシという存在に対してこれまで味わった事の無い屈辱を感じていた。

 

「うおおおお出でよ地獄の軍団!初代量産型の意地を見せてやれ!!」

 

『イー!!』

 

大量に現れた黒タイツに骨のような模様を描かれた集団がナナシの盾になって黒炎に飲み込まれていく。しかしナナシの如何なる奇行にも守護者は惑わされる事無く、ただひたすらにナナシを燃やし尽くすため黒炎を放射し続けた。

 

「うおおおお頑張れキャプテン!初代であんなクソ重主題歌作っていながら次回作で食わせる前提の毒持ち新種追加するとか制作スタッフは鬼か!!?」

 

『ヒュゥウウウン…』

 

ナナシが宇宙服を着た人物と共に床の血溜まりに手を突っ込み、そこから引っこ抜くように“収納”から取り出した大量の人参生物のような人形を投げて黒炎の進行を阻む。黒炎にくべられる度に人参生物の何とも言えない物悲しい鳴き声が響き、空中に色とりどりの魂のような光が昇っては消えていく…だがそれでも、守護者は同情など欠片も感じないまま炎の放射を続行する。

 

「うおおおおこいつらは有史以来人類共通の脅威に認定されてきた特異災害!如何なる兵器も通じずこれまで幾度も人類に甚大な被害を齎してきた…」

 

再びナナシが懲りる事無く、何かのキャラクターらしい大量の雑魚軍団のような物を召喚する。それら諸共にナナシを焼き尽くさんと、守護者が更に黒炎の勢いを増加させようとして…

 

 

 

「統一言語を失ったルル・アメルが、理解し合えぬ同族同士を殺戮するために生み出した兵器…その名を『ノイズ』と言う」

 

 

 

『!!?!?』

 

不意に差し込まれた、ナナシの言葉は…身を焦がす程に燃え上がった守護者の心に、鋭く冷たいナイフのように突き刺さった。

 

ドゴンッ!!

 

致命的な隙を晒した守護者を側面から何者かが殴りつけて吹き飛ばす。サングラスをかけ、背中にデカデカと『亀』の字が入った胴着を身に着けた、腰から猿のような尻尾を生やした男が腰だめに両手を構えて…叫ぶ!

 

「か~〇~は~め~…波―!!」

 

ピンと伸ばした両腕と、開くようにくっ付けた掌を男が守護者に突き付けて…何も起こらない事に、守護者は困惑してしまった。

 

「やっぱりな。神様、お前…人間の事を見ていなかったな?」

 

『!!?』

 

ナナシの指摘に、守護者の体がピクリと震える。そんな守護者に…神に対して、ナナシは先程とは打って変わった冷え冷えとした声音で責めるように言葉を紡ぎ始めた。

 

「俺は言ったよな?『人類が生み出した創作物の再現』だと…真偽はともかく、そう言われたら普通は情報収集に動いて当然だろう?この月遺跡の用途を考えれば、地球の情報を調べる機能なんてあって当然、特定の作品をピンポイントで調べるのは難しくても、知名度の高い作品から傾向と対策を考えるくらいの事は俺と戦いながらでも充分可能だったはずだ…そもそも、世界屈指の人気を誇る作品を幾つか再現してやったんだから、見つからない方がおかしい。今のも、世界でトップレベルに有名な必殺技の一つだぞ?」

 

『……』

 

ナナシの指摘に、守護者は無言で佇んで動かない…いや、動けない。

 

「決定的なのは、お前がノイズの存在を全く知らなかった事と…今まさに、依り代を得て完全復活を果たそうと地球で暴れているシェム・ハの存在に気付いていない事だ」

 

『!!?!?!??』

 

サラリと告げられた超重大情報に、守護者の体が跳ね上がるように震える。月遺跡の管理者が、人類を守護するために数千年に渡ってシェム・ハを封じていたはずの神が、その情報を感知出来ていない…そんな事があり得るのだろうか?

 

「そんな事が起こり得る可能性とは何か?かつての神がシェム・ハを封じるだけで精一杯で、地球を観測するシステムが構築出来なかったから?それとも、自分達の種の進化のために生み出した人類に過度な接触をしないために、敢えて情報を制限していたとか?実は復活したシェム・ハが、お前にバレないために偽装情報を流し続けているってのが一番それっぽいよな?」

 

一つ一つ、丁寧に丁寧にそれらしい仮説を並べていくナナシ…その言葉の一つ一つに、神は心臓を締め上げられるような感覚を覚えて…

 

 

 

「上手く誤魔化せるとでも思ったのか?…この卑怯者」

 

 

 

そう言った直後、ナナシがパチリと指を打ち鳴らすと…ライブ会場の至る場所で爆発が巻き起こった。

 

『!!?』

 

パニックに陥り、逃げ惑う人々…そんな者達を、爆発で発生した穴より現れたノイズが次々と襲い掛かり、その体を炭へと変えていく。ナナシと守護者の体を通り抜けながら逃げ回る人類の中で…一人の女性が、ノイズと共に守護者の前に倒れ込んだ。

 

『死にたくない!死にたくない!!いやぁあああああああ!!!』

 

『!!?』

 

断末魔を残し、ノイズと共に炭となって崩れていく女性の姿に…統一言語を失った人類に幾度となく降りかかり続けたはずの厄災を前に、守護者はまるで怯える子供のように身を震わせていた。

 

「人類から統一言語を奪う。御大層な理屈を並べて言い訳していたみたいだけど、それが齎す結果について…まさか知らなかったなんて言うつもりは無いようなぁ…神様?」

 

笑いながら一歩踏み出すナナシに、守護者が逃げるように一歩後退る。神にとって今、先程の奇妙な集団よりも、既に復活を果たしたらしいシェム・ハよりも…目の前にいる“紛い物”が、何よりも恐ろしい。

 

 

 

「どうやらバトルとコメディはお気に召さないようだから、ここからはジャンルを変えて…今流行りの『断罪モノ』を披露してやろう!」

 

 




途中と最後の温度差で風邪引きそうw

気持ち的にはもうちょっと派手に茶化せると思ったのですが、自分の文章力だとこれが限界です…二次小説としては一番危ないところをネタにしているのでちょっと戦々恐々としています。他の作品を見ている限りでは大丈夫だとは思いますが…後日大幅修正がされていたら察してくださいw
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