戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
先程まで煌びやかに輝いていたライブ会場は、至る所が砕かれ、罅割れ、崩れ落ちて…希望と幸福に満ち溢れていた空間は、たった数分で絶望と死を纏う地獄へと変貌を遂げていた。
「思えば、自我が芽生えた直後にこんな光景を目にした俺はすぐに悟ったのかもしれない。人の脆さ、命の儚さを…平和なんて所詮幻想で、ほんの僅かな切っ掛けで容易くかき消されてしまう。数千年前に生み出された、存在意義さえ忘れ去られた遠い過去の遺物にさえ碌に抗う事すら出来ないのだから」
目の前の惨状に対する感想を淡々と口にしたナナシは、呆然と佇んでいるように見える守護者をジロリと睨みながら言葉を続けた。
「よくもまあ、赤子同然の俺でさえ数分で悟った世界の真理から数千年も目を背けられたものだな?そんな世界に作り変えた張本人が」
『……』
ナナシの皮肉に守護者は何の反応も示さない。例え既にその存在を確信されていようと、月遺跡の神は徹底して自分の存在を隠すスタンスを貫き続けていた。
最も…
「おい、自己弁護の感情がクソ鬱陶しいぞ?死ぬ程不快だからせめて喋って言い訳してみせろよ卑怯者」
『!!』
そんな神にとって、ナナシはまさに天敵と言っても過言ではない。感情の感知と言う能力もそうだが、何よりも心に秘めた想いを引き摺り出す手腕はまさに神業レベルだ。
「まあ良い。罪状を詳らかにしていくのも断罪モノの醍醐味だしな?一つずつ丁寧に知らしめてやろう。まずは…歴史のお勉強から始めようか!」
パチンッ!
『いやあああああああああ!!』
『!?』
ナナシが指を弾くと同時に、再びノイズによって人々が蹂躙される地獄が周囲に展開される。かつてのライブ会場の悲劇の他にも、ナナシがこれまで見てきたノイズによって人々や町が襲われる映像が複数同時展開された。
「統一言語を失った先史文明期の人類は、理解し合えない相手と協力するのではなく互いを殲滅する道を選んだ。さっきも言った通り、ノイズとはそのために生み出された自律兵器…神々と共にルル・アメルが築いた文明が滅びて数千年が経つ現代にまで引き継がれた負の遺産ってヤツだ」
『……』
ナナシの映し出す映像には、歴史の資料や映像記録などのそれなりに古い記録も含まれている。神々が世界を創造してからの歴史に比べれば極々一部にしか過ぎないが…統一言語を失った後に生まれた人類が、かつて自分達と共に在った人類によって生み出された存在にどれだけ長きに渡って被害を受けてきたのかは想像に難くない。
「統一言語を失い、文明がほとんどリセットされた人類は、自分達を滅ぼそうとする脅威を前に一致団結しながら文明を築いていったのか?…ハン!そんな訳が無い。人類が引き継いだのは負の遺産だけじゃない。ちゃんとかつての人類の意志も引き継いださ…邪魔者は排除すれば良いって意志を、な?」
パチンッ!
『オオオオオオオオオオオ!!!』
『!!?』
再びナナシが指を弾くと、何処からともなく現れた大勢の人間達が守護者の前で殺し合いを開始した。動物の皮をそのまま剥いで纏ったような装いの者達が素手で殴り合い、石斧や木の槍で相手の体を傷つける度に血飛沫が舞い上がる。
「人類は理解し合えない相手を『力』によって捻じ伏せる事で意志を統一させていった。弱者の意志を踏み躙り、自らの群れとして取り込む…そうやって更に力を増した強者は、より効率的に弱者を蹂躙するための方法を模索していった」
殺し合う人々の装いが鉄で出来た鎧へと変わり、刀や鉄槍などを手にぶつかり合う。かと思えば、火縄銃を構えた集団が一方的な蹂躙を繰り広げた直後にその集団が大砲の一撃で爆散する。軍服を纏った集団が隊列を組んでマシンガンを一斉掃射している最中に戦車の砲弾に吹き飛ばされた。気が付けば広い空間内のあちこちで爆発が絶え間なく巻き起こり、時が経つ程に屍の山が積み重なり流れ出た血潮が波のように揺蕩っている。
そして…
ピカッ!………ドゴォオオオオオオオオオン!!!
『!!?』
閃光が空間内を満たした直後、凄まじい大爆発が守護者諸共に殺し合っていた者達全てを飲み込んでしまった。
「殺し合いで培った力で文明を発展させ、発展させた文明でより強力な兵器を生み出した結果、人類は遂にたった一つの兵器で都市一つを壊滅出来る領域にまで至り…そこでようやく『これ以上は共倒れになる』と悟り、一応はルールを定めてこの一連の流れにピリオドを打つ事になった…そうなってからまだ百年程度しか経ってない、つい最近の出来事だけどな?月遺跡攻略用に現物一つくらいかっぱらってくれば良かったかもな?」
クスクス笑いながらかつて使用された兵器が齎した結果をナナシが映し出す。代用で使用した宝石錬金術の爆発による守護者へのダメージは皆無。しかし何もかもが跡形もなく消え去ってしまった光景を前に、守護者はただ呆然と立ち尽くす事しか出来ないようだった。
「さてさて、何はともかく数千年の時間をかけて人類はようやく殺し合いにもルールを設ける慎みを身に着けた訳だ。めでたしめでたし…ところで神様、こんな名言を知っているか?…バレなきゃ犯罪じゃないんですよ?」
『何が悪いと言うのだ!!?』
『!!?』
崩壊したライブ会場が一瞬にして薄暗い地下施設へと切り替わり、突如現れた手足を拘束された怪しげなローブの集団の一人が叫び声を上げた。
『真理の探究を邪魔する愚者共め!碌に考えることなくのうのうと餌を貪り繁殖するだけの愚物など家畜と変わらん!我々のように世界の真理へと至らんとする気高い人類の糧となれた事に感謝するべきだ!!』
赤黒く染まった機器と薬品が並ぶ空間と、そこに隣接する分厚い扉以外に出入り口の無い伽藍堂の部屋…仔細は不明でも、そこで碌でもない事が行われていたのは想像に難くない。
「ルールを定めて尚、人類の兵器開発は留まる様子は無い。日の目の届かない所でコッソリと、或いは自衛を嘯いて堂々と…次に世界規模の大戦が起これば、今度こそ種の存続が危ぶまれると察していながら、それでも人類が力を求め続けるのは、こういう考えが根幹にあるからなんだろうな?『自分達なら大丈夫』、もしくは『自分達以外はどうでも良い』とかな?」
不意に、守護者は足元で何かが動くのを感じ取った。守護者が未だ薄く広がる血溜まりに浸った自らの足元へ意識を向けると…下半身が蟲のような悍ましい姿をした少女が、守護者の足に手を伸ばしていた。
『!!?』
ほとんど反射的だった。先程までの奇妙な存在に群がられる体験から、守護者は異形の少女の接触に対して、まさに人類が肌に止まった蟲を振り払うかのようにその手を振るって…アッサリと少女を血飛沫に変えてしまった。
「あ~あ、せっかくここまで来たから届けてやったのに…お前は救いを求める想いを受け止めてやらないんだな?」
『!!?』
次の瞬間、伽藍堂だった部屋の中に『死』が溢れる。ナナシが回収する直前の、様々な実験を施されて人の形を失った者達の遺体が幾つも現れて…先程守護者が振り払った少女が、出口に手を伸ばした状態で事切れている姿も映し出された。
「ひょっとして、まだ俺がフィクションの世界を披露しているとでも思っているのか?」
硬直して隙だらけの守護者の足をナナシが払うように蹴って前のめりに転倒させる。丁度、少女の亡骸が目前の来るよう倒れ込んだ守護者の頭を踏みつけながら、ナナシは感情の感じられない瞳で守護者を見下ろして淡々と言い放った。
「テレビの見過ぎでも、漫画の読み過ぎでも、アニメでもねえ。全部、全部…本当の事さ」
『!!?』
突然目の前の少女が顔を上げて、黒い眼窩を守護者に向けながら這いずるように近づいて来る。それに呼応するように、周囲の異形と成り果てた者達の亡骸も起き上がって守護者へとゆっくりと近づき始めた。
『~~~~!!?!?』
守護者が転がるように起き上がって異形の者達から距離を取る。そして再び腕を振るいかけたところで、先程少女を振り払った際に血でベッタリと汚れた自身の手を見て動きを止めると、その腕を振り下ろす事無くただただ後退るように異形の者達から逃げ惑っていた。
「おいおい、神様のくせに何をそんなに狼狽えているんだ?…ああ、なるほど!神様だって腐りかけの死体は触りたくないし近づきたくないくらいキモイと思うよな?だったらこいつらを紹介してやろう!」
「テール・アタッチメント!」
ズガァアアアアアアアン!!
突然真横から衝突してきた何かに守護者の体が吹き飛ばされてしまった。それが何かを確認する暇もなく、今度は無数に放たれた砲弾やミサイルが守護者に降りかかったかと思うと、爆炎に紛れて迫ってきた異形の拳が守護者の顎をかち上げて、守護者は仰向けに倒れ込んでしまった。
ようやく守護者がナナシの方へ視線を向けると、そこには獣の耳を頭から生やした少女に蝙蝠の羽と異形の腕を持つ少女、そして肉体と機械が融合したかのように全身から武装を展開する女性…ノーブルレッドの三人が立っていた。
「こいつらはつい最近俺が保護した怪しげな実験被験者の生き残りだ!異能の力を宿す代償に特定の血液を定期的に透析してやらないとすぐ死んでしまう体に改造された割には元気いっぱいでな!心臓は貫かれる、動脈は噛み切られる、首から下はミンチにされるって具合に飼い主の生傷が絶えないヤンチャっぷりだ!どうだ?可愛いだろう!」
ナナシがまるでペットを紹介するように異形の特徴を持つ三人を守護者へと見せつける。三人の顔は確かにこれまでの虚ろな表情の亡骸と異なり、ナナシが一切手を加える事無く再現された…周囲の全てを拒絶するような強い憎悪の感情に染まっていた。
同族の命さえ弄ぶような人類の業を前に守護者が打ち震えていると、畳みかけるようにナナシが次の一手に動く。
「ん~?肉体改造や新種の生命創造の試みでそんなに動揺するとは思わなかったな?だって神様…お前らだって似たような事やっていたはずだろ?」
『ぐぉおおおおおっ!!!』
『!!?』
唸り声を上げながら突っ込んできたのは、守護者の巨体と引けを取らない巨体の異形。しかしそれは、これまでのような守護者にとって未知の存在ではなく…
『証明してみせる!僕の正しさを!!完全たる僕が不完全共を統べる事で!貴様らカストディアンに、アヌンナキに並び、超える事でぇえええええ!!』
かつて自分達の都合で生み出した挙句に、不要と抹消した存在…人類のプロトタイプ、アダム・ヴァイスハウプトだった。
まるで本物さながらに鬼気迫る様子で守護者に連打を叩き込んだアダム人形は、その掌に巨大な火球…複数の宝石を砕いて展開させた疑似黄金錬成を生み出して守護者に放つ。凄まじい業火の直撃を受けても守護者は無傷…にも関わらず、その動きは時が経つ程に繊細さを失っているように見えた。
『補って来た、錬金術で…いつか完全に届くために!超えるために!!』
「お前らに捨てられた後、地球に逃げ延びたアダムは人類の生み出した『錬金術』と言う技術に目をつけて、秘密組織『パヴァリア光明結社』を作って暗躍していた。さっき映していたのはその拠点の一つって訳だ。そして、アダムが自分の手足として動く人類を集めるお題目に掲げていたのが…」
バァン!バァン!バァン!
『!!?』
銃声と共に飛来してきた弾丸が守護者の足元へと命中して、瞬時に生成された鉱物の柱が守護者の体を宙へ舞い上げる。そんな守護者に襲い掛かる三つの人影…
「人類の不和の元凶…バラルの呪詛からの解放だ」
『!!?』
サンジェルマンの拳銃から放たれた蒼いエネルギーの狼、プレラーティの巨大けん玉、カリオストロの拳が守護者を床へと叩きつけた。横たわる守護者に、サンジェルマンが追撃と共に言葉を放つ。
『どれだけ手を尽くしても…どれだけ言葉を重ねたとしても…人は理解し合うことなど出来ない…バラルの呪詛が在る限り!』
守護者の両手足を生成した鉱物で拘束して、腹部の上に降り立ったサンジェルマンが何発も守護者に錬金術を籠めた弾丸を撃ち放つ。傷一つ付けられない攻撃を、必死の形相で、何度も何度も…
『貴様らに…一体何が理解出来ると言うのだ?言われなき理由に、踏み躙られた事の無い者などに…強者の一時の享楽のために生涯を捧げられた者達の無念が…世界の至る所で今なお搾取される者達の嘆きが…生まれた瞬間から支配される運命を定められた未来の無垢なる者の絶望が…』
ひたすらに弾丸と言葉を放ち続けていたサンジェルマンが一度その動きを止めると…その瞳から涙を流しながら、守護者の顔に拳銃を突きつけた。
『貴様に…一体何が分かると言うのだ!?』
ドゴォオオオオオン!!!
着弾と共に、爆炎が守護者の頭を包み込む。煙が晴れた後に現れるのは、やはり傷一つ無い守護者の姿…しかし守護者は、何らかの異常が発生したかのようにその身をピクリとも動かさない。その身には鉱物の拘束を打ち砕く力があり、そもそも転移の力によって容易く逃げられるはずなのに、動かない…動けない。
「理不尽だよな~?お前は人類のためにバラルの呪詛を維持し続けたのに、そんな事は知らない奴らは昔お前らが捨てたゴミの言葉を信じて何百年も暗躍していたらしいぞ?確か七万三千七百八十八の命を礎に、お前らの力を再現する儀式を進めていたな。危うくそのゴミに人類が支配される寸前で大変だったんだからな?」
非情に軽い口調で動けぬ守護者にナナシが語り掛ける。グチグチと、徹底的に、余すことなくこれまで起きた出来事の詳細を、守護者を通して月遺跡の神の心に捻じ込んでいく。
「まあ、それとはまったくの別口で世界が滅びかけた事もあったけどな?」
『世界ごと、ぶっ飛べぇぇぇ!!!』
ズガァアアアアアアアアン!!!
『!!?』
拘束ごと守護者の体が極太の光線に飲み込まれる。光線が放たれた方向には、サンジェルマン達とよく似た装いをした女性…キャロルが立っていた。
「ご紹介しましょう!彼女はキャロル・マールス・ディーンハイム。世界を丸ごと分解・解析して、この世の全ての知識を解き明かす『万象黙示録』を完成させようとした世界屈指の錬金術師!」
キャロル人形が弦を弾くと、その周囲に四色の大きな錬成陣が展開される。“投影”で表示されたエフェクトの影でナナシがコッソリと宝石を砕き、火、風、水、土の四元素攻撃が守護者へと襲い掛かって大爆発を発生させた。
「アダムが人類を支配して世界を掌握しようとしていたのに対して、このキャロルはたった一人で世界を滅亡させる寸前まで事を進めていた。アダムが絶望的に皆無な錬金術の適性を膨大な魔力による力業で押し通していたのに対して、こいつは世界屈指の錬金術の才覚をフル活用していた点も対極と言って過言では無い…その動機も含めて、な?」
『パパ!パパ!!』
再び周囲の光景が切り替わり、大勢の人間が一人の男性を十字架に括り付けて取り囲んでいた。括りつけられた男性に、幼いキャロルが周りの人間に体を押さえつけられながら必死に泣き叫んでいた。
『それが神の奇跡でないのなら、人の身に過ぎた悪魔の知恵だ!』
『裁きを!浄罪の炎で、イザークの穢れを清めよ!』
周囲の人間はそう叫びながら、磔にされた男性…キャロルの父親であるイザークを、何の躊躇いもなく娘の目の前で火炙りにし始めた。
『キャロル…生きて、もっと世界を識るんだ』
『世界、を…?』
『それが、キャロルの…』
その言葉を最期に、イザークは業火の中へと姿を消した。凄惨な場面を前に、ナナシはニコニコ笑いながら固まる守護者へと語り掛ける。
「キャロルが世界を滅ぼしかけた原因は、愛する父親が最期に残した命題の答えを得るため…そして、父親を奪った世界へ復讐するためだった。
『!!?』
空気のように軽い口調で尋ねられたナナシの問い掛けに、守護者がビクリと身を震わせた。
「いやいや、別にこいつらの主張を鵜呑みにしている訳じゃないって。ただの興味本位だ。こいつらが難癖つけて何かヤバイ力を持っているイザークをぶっ殺したかっただけなのは分かり切っている。こういう力を持った個人の抹殺も、人類が一致団結するために選んだ手法の一つだって事は知っているから!これは五百年くらい前に流行った魔女狩りって方法だな。神様を口実に何万人も処刑していたらしいから、お前が知らないならマジでただの虐殺だよな~って思っただけだから!」
擁護しているようで、根本的な原因が統一言語の喪失による人類の不完全な意思疎通であるため、ナナシが示唆している罪の矛先が誰に向けられているかなど守護者には容易に理解出来ていた。
「さて、こうして幾度も危機に瀕してきた世界を、不完全な意思統一しか出来ない人類はどうやって維持してきたと思う?答えは…女子供に武器を持たせて戦場に送り込んだ!」
『うおおおおおおおおおお!!!』
ドゴォオオオオオン!!!
雄叫びを上げて弾丸の如く突き進み、繰り出した拳で派手に守護者を吹き飛ばしながら現れたのは、“紛い物”にとって世界よりも特別な歌姫の一人…!
『わたしは立花響!十五歳!誕生日は九月の十三日で血液型はO型!身長は、この間の測定では157センチ!体重は…もう少し仲良くなったら教えてあげる!趣味は人助けで好きな物はご飯&ご飯!後、彼氏いない歴は年齢と同じ!!』
全身に鎧のような物を纏って矢継ぎ早に自己紹介を口にする少女の姿に、ナナシは懐かしさからかフッと笑みを零した。
「この元気な娘は俺と同じ師を仰ぐ妹弟子だ。この自己紹介は数年前のものだから、今では色々な意味で一回り大きくなっている…本当に、この頃に比べて立派に成長してくれたよ。残念ながら、彼氏いない歴は更新中だけど…」
クスクスと笑いながら響を紹介していたナナシだが…笑みを浮かべながらも、その瞳には氷のような冷たい光を宿しているようだった。
「こいつが身に纏っている鎧の名前はシンフォギア…所有者の歌声によって聖遺物の欠片から力を引き出して戦うアンチ・ノイズ・プロテクター…そう、人類は遂にノイズに抗う術を手に入れたんだよ」
響の傍に、次々と同じような装いをした少女達が姿を現す。風鳴翼、雪音クリス、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、月読調、暁切歌…かつての人類が生み出した災禍に抗う力を身に纏った、女子供の集まりだ。
「聖遺物の力を身に纏うのは、生物的に完全に近い女性でなければ不可能。そして、その中でも聖遺物との適合率が高い者の歌声でなければ、その力を引き出す事が出来ない。その代わり、得られる力は現代の兵器とは一線を画す!…今の人類が飛びつかない訳が無いよなぁ?圧倒的な力と、都合の良い建前がセットになった兵器だぜ?あらゆる手段で手に入れようとするさ…どんな手を使っても」
『があああああああああ!!!』
響達の後ろに、新たに診察台へ横たわった少女が現れた。手足は台に固定され、体中に測定機器を取り付けられた少女が薬物を投与されて藻掻き苦しんでいる。
「聖遺物については未だ分からない事が多くて碌に手を加えられない。だったら扱う人間側に手を加えようとするのは自然の事だよな?」
今度はより大規模な施設が周囲に映し出され、そこに集められた多くの子供達が大人達の手によって次々と薬物を投与され、涙を流しながら戦闘訓練を受けさせられていた。
再び場面が切り替わり、今度は液体で満たされた巨大な容器の中に下着姿の少女が揺蕩っている光景が映し出された。ヤバイ目つきの研究者の男が嬉々とした様子で端末を操作して、少女の頭に埋め込んだ機械で肉体改造を施しているようだった。
「ある者はノイズに殺された家族の仇を討つために自ら望んで地獄に足を踏み入れ、ある者達は素養を見出されて物心つく前から実験動物として集められ、ある者は親友の命を救うためだと甘言に乗せられて…きっと俺が知らないだけで、碌でもない事を試みている組織は世界中にあるんだろうな?」
血反吐に塗れたギアを纏う奏、白銀のギアを纏って顔中から血を流すセレナ、虚ろな目で神獣鏡のギアを纏う未来も加わった装者達を引き連れて、ナナシはよろよろ起き上がる守護者の元へとゆっくりと近づいて行った。
「聖遺物に適合した…力を持ってしまったこいつらは、ノイズを始めとした世界の脅威に幾度も直面させられてきた。友達や家族と過ごす時間を奪われ、夢を追いかける道筋を捻じ曲げられ、さっき見せたような敵対者と自分達のままならぬ想いをぶつけ合いながら、何度も、何度も…なあ、神様…これでもまだ、何も言う事は無いってスタンスを貫くのか?理由があったから仕方がないで済ませるつもりなのか!?知らぬ存ぜぬで、これからも人類の守護者気取りで亀みたいにずっとそこに引き籠り続けるつもりなのかよ!!?」
キャロルやアダム、サンジェルマン達やノーブルレッド、錬金術やノイズの被害に遭った者達に取り囲まれ、守護者が震えながらジリジリと後退していき…その体がコツンと、部屋の中央にそびえ立つ中枢の柱にぶつかった。追い詰められた守護者に、ナナシは詰め寄って言葉を吐き続ける。
「何とか言ったらどうだ!?滅びから救ってやったのに文句を言うな、不敬だって言い切ってみせろよ!?答えだけポンと置いて終わらせようとしてんじゃねえよ!!数千、数万、数十万の犠牲でガタガタ抜かすなと!自分達の愚かさを勝手に擦り付けるなと!!…たかだか女子供の生き様が捻じ曲げられた程度で目くじら立ててんじゃねえって、真っ向から切り捨ててみせろよ
…その言葉で、月遺跡の神はようやく悟った。
今も尚、周囲に流れ続ける過去の映像…年端もいかぬ少女達が、戦場で傷つき血と涙を流しながら必死に戦い続けるその光景には、“紛い物”の神を自称する目の前の男も僅かながら映りこんでいた。
きっとこの男は、自分とは異なり…正しく今の人類と寄り添ってきた存在なのだ。
統一言語を失い、不和に悩み、互いを傷つけ醜く争い…それでも尚、理解し合うために抗う者達をこの男は傍で見守り、支えてきたのだとしたら…ただ端的にバラルの呪詛の真相を伝えただけで、納得など出来るはずがない。況してや、その力で呪詛を施した存在を感知していたのなら、猶更引くはずがない。苛烈に発露し続ける自身への怒りは、そのまま人類に対する深い愛情なのだ。
……
不意に守護者の体から震えが治まり、足元の覚束ない姿勢からドッシリと床に足をつけて…その口内にエネルギーを収束し始めた。
ナナシの想いを察して尚、自分が…
そのためなら、邪魔者は全て排除する…例え直接言葉を交わす事が出来なくても、全身全霊でその覚悟を伝えるように、守護者はナナシと被害者達の写し身を薙ぎ払う構えを取るのだった。
…それが、天より垂らされた糸を自ら振り払う選択だとは知らずに。
お待たせした割に仕上がりがイマイチ…
実は今回で月遺跡の戦闘を決着させる予定だったのに相変わらず長くなって分割したので実質延期だったりしますw