戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第223話

ザバァッ!

 

「ブハッ!」

 

体中に纏わりつく液体をかき分けて姿を現したフィーネが顔を拭って視界を確保すると、周囲を見回しながら大声で叫び出した。

 

「ナナシ!何処だ!?ナナシ!!」

 

足が付かないため立ち泳ぎをしながらフィーネが懸命に周囲を見回して…少し離れた場所にプカリと浮かぶナナシの背中を視界に捉えた。

 

「!!」

 

急いでナナシに近づくフィーネ。水よりも重く体に纏わりつく液体…広大な空間に広がる血の海を泳いでナナシの元まで辿り着いたフィーネは、ナナシの体を抱え上げようとして…寸前で考え直し、逆にナナシの体を血液の中へと沈め始めた。

 

非道に見えるかもしれないが、それが現状最も適した処置だとフィーネは判断していた。何せナナシが浮かぶ周辺のみ、ボコボコと血液が泡立ち湯気が上がっているのだから。

 

ナナシが守護者を打倒するために考案した策…おおよその流れは途中で月遺跡の神が察した通りだ。半端な攻撃は一切通用しない守護者ではなく徹底して神の心に狙いを定め、仲間であるはずのフィーネを酷使して必殺の一撃を叩き込む。その決め手となる攻撃は、ナナシが限界までエネルギーを収束させたデュランダル…に見せかけて、フィーネが纏うネフシュタンの鎧による月をも穿つ神速の一撃…ではない(・・・・)。二つの完全聖遺物の全力解放さえ、ナナシは神に『本命』を悟らせないための布石に使ったのだ。

 

ナナシがフィーネに下したオーダーは、自分の身代わりになって守護者の意識を逸らす事の他にもう一つあった。

 

『ほんの少し、指先程度で構わない。どうにかあの亀野郎の体に、内部に届く傷を生み出してくれ』

 

そのために必要な一連の流れ…己の古傷を抉り、広げて、そこに岩塩でも捻じ込むかの如き役割を“以心伝心”によって伝えられ、時には体表に纏わせた血液を操ってサポートを受けつつもフィーネは見事そのオーダーを達成してみせた。

 

ナナシがわざわざフィーネに不慣れな道化役を押し付けたのは、守護者にフィーネを攻撃させて神の動揺を誘うため?それとも、如何にフィーネであろうと二つの完全聖遺物へ同時にエネルギーを収束させる事が不可能だったから?…否だ。ナナシがフィーネを囮に隠れ潜んでいた理由は、単純にナナシが動けなかったからだ。

 

“投影”、“以心伝心”、“血流操作”、“収納”、“障壁”…デュランダルにエネルギーを蓄えながら、状況に応じて多彩な能力を使い分けていたナナシには、自分の体を動かすだけの余裕など全くなかったのだ。

 

極めつけは、守護者打倒に向けて進めていた決め手の準備。デュランダルの輝きを隠れ蓑に集め続けた…膨大な血液の圧縮である。

 

かつて無限に増殖し続けるノイズを血液の圧縮で押し潰したナナシは、その力を極限まで突き詰める方法を思いついた。少しずつ、少しずつ、巨大な守護者の体積を優に超えて、広大な空間を血の海に変える程の血液を、ナナシはデュランダルの制御とフィーネの補佐を同時に行いつつ掌サイズまでに圧縮し続けていた。

 

デュランダルが放つ熱に晒されながら、脳が沸騰しかけて朦朧とする意識の中で、気を失えば自爆必至の圧縮血液の準備を進めつつ、神の感情を完璧に掌握する事で理想の状況へと誘導し続けて…遂に、その時は来た。

 

圧縮血液を“収納”したナナシは、極限まで高めた自身への憎悪を利用して守護者に己の体を貫かせ、流れた血液をフィーネの穿った傷へと入り込ませて…守護者の内部で一気に圧縮した血液を解放する事で、守護者の体を爆散させる事に成功したのだった。

 

(何て熱量だ…体の内も外も焼かれながら、それでも完璧に戦況を操ってみせたのか…)

 

移動した傍から血液が煮え立つ熱に晒されながら、フィーネはナナシの体を冷却するためにナナシを抱えながら血の海を泳ぎ続ける。

 

(そして遂には、あの御方を…神さえも欺いてみせた。全く…私の期待を軽々超えちゃうくらい立派になったわね?ナナシちゃん…)

 

最初は自分の計画に利用出来れば良いくらいに考えて保護した赤子同然のナナシを思い出して、フィーネは…了子はフッと笑みを零すのだった。

 

そうやってしばらくフィーネが泳ぎ回っていると、突如として血液の嵩がみるみる減っていき、ナナシとフィーネは床の上に倒れ込んだ。

 

月遺跡の神が何かしたのかとフィーネが即座に身を起こして周囲を警戒していると、隣で横たわるナナシがゆっくりと手を上げて目を閉じたままニヤリと笑みを浮かべた。それを見たフィーネも体の力を抜くようにフッと笑みを浮かべると、パチンとナナシと手を打ち合わせるのだった。

 

それから少しして、一気に飛び起きたナナシが周囲の状況を確認する。周囲の血液と爆散した守護者の残骸は全てナナシに“収納”されたため、その空間に残っているのは…月遺跡の中枢と思われる建造物のみだ。

 

「さて…いよいよだな?」

 

「ええ…」

 

全ての障害を取り除いたナナシとフィーネは、周囲を警戒しながらゆっくりと中枢へ近づいて行く。そんな二人に対して、月遺跡の神が何らかの妨害を実行する様子は無い。そのためナナシ達はアッサリと中枢前まで辿り着いてしまった。

 

ドゴンッ!!

 

数秒は様子見をしていたナナシだが、動きが無いと察すると同時に中枢に正拳突きを叩き込んだ。全力で放たれた拳はナナシ自身の腕を爆散させるが、中枢には傷一つ付かない。

 

「フゥ…まあ、予想通りではあるが…」

 

今度はナナシがデュランダルを手に持ち、先程同様に刀身へエネルギーを収束させていく。何処からも妨害が入らないままに、太陽の如き輝きを放つまでエネルギーの集まったデュランダルをナナシが躊躇いも無く中枢へと振り下ろした。

 

「エ〇ス…カ〇バァアアアア!!!」

 

膨大なエネルギーが中枢を飲み込み、凄まじい閃光が空間を埋め尽くす。やがて収束させていたエネルギーを全て放出したデュランダルが光を失い、ナナシ達の視界が戻ると…堅牢な守護者の体でさえ赤熱化させたデュランダルの一撃を受けても、中枢の建造物は一切変化する事無く鎮座し続けていた。

 

「…何故異なる聖遺物の名を叫んだ?」

 

「まだちょっとだけ創作物再現のノリが残っていただけだから気にするな。しっかし…往生際が悪いぞてめえ!ボス戦終わらせたんだから大人しくストーリー進行させろや!!」

 

守護者は退けたものの、開く事も破壊する事も出来ない中枢に蹴りを叩き込みながら自分達を観測している神にナナシが文句を叫ぶ。しかしその言葉に返事か返ってくる様子は無く、ナナシは額に青筋を立てながら怒声を吐き続けた。

 

「ざっけんなコラァ!月の神のくせに天照気取りか!?天岩戸か!!?上等だ!カモン、ジョンソンズ!!月面ボディビル大会の始まりだ!!!神様が思わず覗き見したくなるようなキレッキレの肉体美を披露してやれ!!!!」

 

『YEAAAAH!!』

 

ナナシが筋肉隆々の男達を大量に召喚してポージングを取らせたり躍らせたりし始める。リンボーダンスのように股間を前に突き出しながら迫るブーメランパンツのマッチョ集団に取り囲まれて、見た目に変化は無いが中枢はより強固に閉ざされたような気がした。

 

遂にはバニーガールやスクール水着などを取り出してマッチョ達に配給し始めようとしたナナシであったが…そんなナナシの肩を掴み、フィーネが真剣な表情で声をかけた。

 

「ナナシちゃん…ちょっと、変わってもらえるかしら?」

 

ナナシの返事を待つことなく、フィーネがゆっくりと中枢へ近づいて行く。ナナシはそんなフィーネの背を見送りながら、フィーネの進路を塞ぐマッチョ達を避けさせた。ポージングを取って待機するマッチョの道を通り過ぎ、フィーネは中枢まで辿り着くとその壁面に手を触れて口を開いた。

 

「『エンキ』…そこに、いるんでしょう?」

 

震える声で想い人の名を呼ぶフィーネに応える声は無い。それでもフィーネは、その言葉が届いていると信じて言葉を紡いでいった。

 

「さっきの映像は全て、本当の事…私はここに辿り着くために、多くの罪を重ねてきた。何千年もの間、ずっと…あなたが私達を守ってくれていた事も知らずに、あなたの想いを裏切り続けていた…」

 

どれだけ醜いと思われただろうか?まだその傍らにいる事を許されていた数千年前に比べて、変わり果てた自分の姿は…

 

「今日まで生き永らえるために、これまで何人もの心を塗り潰してきた…この体も、その一人…そうやって目覚める度に、幾つもの戦火を振り撒き続けた…数えきれない程の人達を…あなたが愛してくれた人類を…私は、自分のために踏み躙ってきた…」

 

身を震わせ、ボロボロと涙を零しながら…それでも決して誤魔化す事無く、フィーネは懺悔するように自らの罪を神へと告白していった。

 

「それでも、どうしても…あなたにもう一度、逢いたかった…あなたに、伝えたかった…何千年かかっても…何を犠牲にしても…例えあなたに、嫌われたとしても…」

 

その想いが、人類から統一言語を奪う程の大罪だと思い込んで尚…刹那でさえ、その想いを捨て去る事など出来なかった。

 

「赦してなんて、言わない…どんな罰だって、受け入れる…これから永遠に、償い続ける…だから、どうか…どうか……一度で、良いから………」

 

 

 

「あなたに、逢いたい…私の想いを、伝えさせてください…よろしく、お願いします…」

 

 

 

嗚咽に漏らすように紡がれたフィーネの懇願に対して、神は…『沈黙』を以って応えた。

 

「もう良い、了子…ここを出よう」

 

周囲の人形達を血液に戻して、ナナシが中枢の傍で蹲るフィーネにまるで諦める事を勧めるようにそう声をかけた。

 

(こうなったら『最終手段』だ。時間はかかるが、確実に神を引き摺り出す方法がある。一旦外に出よう)

 

しかしフィーネの脳裏には、“以心伝心”でナナシから代案がある事が伝えられてきた。そのために、ナナシはフィーネの手を引いて遺跡の外に歩みを進めるよう促してきた。

 

(…最終手段なんて初耳よ?…何をするつもりなの?)

 

(月を穿つ(・・・・))

 

ナナシの告げた代案は…かつてフィーネが志した方法と全く同じだった。

 

(デュランダルを使って月遺跡を月から抉り取る。もしその動きを察知して月遺跡が拡張や妨害してくるようなら、月そのものが丸ごと無くなるまで掘削と“収納”を繰り返す)

 

(…ナナシちゃん、私が人類を統一させようとした方法は覚えている?月が無くなったら、重力崩壊で人類は…)

 

(だったら削った端から俺の血液で補完していけば問題ないだろう?既に人類は一部が欠けた月に慣れてきてんだ。今後一生ブラッドムーンになったとしてもすぐに適応するさ)

 

冗談のような代案を繰り広げるナナシであったが…顔は笑っていても感情が一切窺えない空虚な瞳が、それが一切誇張ではない本気である事を雄弁に告げていた。

 

(お前が真正面からぶつけた本気の想いを無視するような奴は、絶対許さねえ。何年かかっても絶対にブン殴ってやる)

 

(…何年かかっても、ね…)

 

きっとナナシは、本当にどれだけの時間をかけてでも成し遂げてくれるだろう。それを察したフィーネは、未だ涙を零しながらもフッと微笑んで…ナナシの手を振り払った。

 

「了子…?」

 

「そうね、ナナシちゃん…もう良いわ(・・・・・)」

 

何処か吹っ切れたような笑顔を浮かべながら、フィーネは先程のナナシの言葉に対して、ナナシの意図とは異なるような賛同の言葉を口に出してきた。

 

「これだけ本気で言葉を尽くしても応えてくれないって事は…それが『答え』って事よ。これ以上、あなたが私のために時間を使う必要な無い…私はもう、満足したわ」

 

「……」

 

その言葉は、決して本心ではない…しかし、偽りでもない。

 

「ねえ、ナナシちゃん。その代わりと言っては何だけど…一つ『お願い』を聞いてくれないかしら?」

 

矛盾する想いを内包するフィーネの言葉に、ナナシがとても嫌な予感を感じていると…それを肯定するかのような『お願い』を、フィーネがナナシへと懇願してきた。

 

 

 

「私を、殺してください…よろしくお願いします」

 

 

 




上手く纏まらず、本当は区切る予定じゃなかったところでまた分割してしまいました。次回が極端に短くなったら申し訳ない…

また、来週はちょっと仕事が忙しいのでお休みさせていただきます。
重ね重ね申し訳ない…
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