戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第23話

(さて、どうしたらいいんだろうな…)

 

デュランダル移送作戦から、三日後。

ナナシは、目的も無く街中を歩いていた。

 

あの作戦の後、移送計画は一時中断され、デュランダルは再び『アビス』に保管されることになった。計画再開の目途はまだ立っていない。恐らく、このまま中止されるのではないかと思われる。

 

ナナシが頭を悩ませているのはそのことではなく、弦十郎から言い渡されたあることについてだった。

 

(響と一緒に、翼のお見舞いに行け、か…)

 

翼が目を覚まして、今はリハビリをしているのはナナシも知っている。だが、今のナナシには思うところがあり、奏に代わって貰おうとしたところ、「まずはあんた達で行ってきな」と一蹴されてしまった。

 

翼と顔を合わせたくない。本来は気まずさからこう考えてもおかしくない状況だが、ナナシが考える理由はそれとは少し異なっていた。

 

(…今の俺のやり方だと、あいつらを『柔らかく』できない)

 

今までの、相手をからかって感情を引き出させるやり方では、結局翼達の重荷を減らすことができなかったとナナシは判断している。響に攻撃を仕掛けた翼の行いを見て考えた、自身を憎悪の対象にして溜め込んだ感情を吐き出させる方法も、結局翼を追い詰めるだけの結果となった。

 

(響にも同じことをしようとしたけど、こっちは何故か嫌われることすら失敗したし…奏は凄いな。簡単に響のことを『柔らかく』してみせた…でも、俺には奏のやり方は分からないし、分かっても多分できない…本当に、人間は難しい…)

 

ナナシは、これまでの翼達との接し方を変えることに躊躇いはない。翼達が感情を表に出してくれるのなら、その歌声により感情を籠められるようになるのなら、どんな接し方でも実行してみせる。未練があるとすれば…

 

(…あいつらが…あいつが、コロコロ表情を変えて慌てるのを見るのは、楽しかったんだけどな…でも、そんなことは、あいつらの歌のためならどうでもいい)

 

ナナシにとって、装者達の歌のためには、自身のことは天秤にかける余地すらないのだ。だが、肝心の方法については、何一つ名案が浮かんでこない。こんな状態で翼の前に立っても、どうやって接すればいいのか分からないのだ。それに…

 

(奏のこと、翼のこと、響のこと、あの鎧女のこと、それともう一つ(・・・・・・・)…問題が重なり過ぎて、ちょっと身動きが取りにくくなってきたな…大人達の手伝いもあるし、あまり考えることに割ける時間もない。どうすれば……ん?)

 

考えながら歩いていたナナシが、公園のすぐ傍まで来ると、視線の先にあるものを見つけた。

公園の中にはほとんど人影が見当たらず、唯一ブランコに座る人物だけがナナシの視界に入る。その人物の表情は暗く、どう見ても悩んでいることが明確に表れていて、その日の天気は快晴のはずなのに、ブランコの周りだけ雲が覆っていると思えるくらいに陰鬱とした雰囲気が漂っていた。

 

(…人間の女って、何か深刻な悩みを抱えてないといけないのかな?)

 

そんなことを考えながら、ナナシは溜息を吐いて…公園の中に入っていった。

 

 

 

「……」

 

「なあ、そこのお嬢さん」

 

「っ!?」

 

ブランコに座っていた人物…響くらいの年齢の少女は、突然声を掛けられたことに驚いたようだった。

 

「…えっと、何でしょう?」

 

「あー…大丈夫か?」

 

「…えっと、あの、その…」

 

「(あ、この状況、漫画で見たことある。ただの怪しいナンパだこれ…)…えっと…はぁ、あんまりにもあんたが暗い感情を出していたから思わず声を掛けた。まるでもう二度とお日様の光を拝めないみたいな、そんな雰囲気が漂っているぞ?」

 

「っ!?」

 

「えっ?図星なのか?今日みたいな天気ならいくらでもお日様拝み放題だろ?ああでも直接太陽を見ると目を傷めるから、必ず専用のグラスか遮光板を使えよ。間違っても双眼鏡で見るようなことはするな」

 

「…クスッ、いえ、違うんです。ちょっとビックリしただけです。心配して頂いてありがとうございます」

 

少女はナナシの言葉にクスリと笑うと、ナナシにお礼を言ってきた。ほんの少しだが、陰鬱な雰囲気が和らいだ気がする。

 

「…悩みがあるなら聞こうか?」

 

「え?」

 

「あー…怪しいのは重々承知だが、今俺は悩んでいる人間への接し方について考えていてな。正直なところ話を聞いて参考にできればラッキーと思っている。あんたが話したくないと言うなら今すぐここから消えるよ。あんたの悩みを解決できるなんて無責任なことは言えないけど、話すだけで気が楽になる場合もあるだろう?なんだっけ?王様の耳はロバの耳…この例えだと悩みの内容が駄々洩れになりそうだな…まあ、その辺の判断は任せるよ」

 

「フフッ…そうですね…じゃあ…ちょっとだけ聞いてもらって良いですか?」

 

「寧ろこっちこそよろしくお願いします…ああ、そこの自販機で飲み物買ってくるよ。ちょっと待っててくれ」

 

 

 

「なるほど、親友が何か隠し事をしている、と…」

 

飲み物を手渡し、少女の隣のブランコに腰かけたナナシは、少女から聞いた話をそうまとめた。

 

「はい…その子はいつも明るく笑っていて、周りの人を元気にしてくれる…私にとって、その子は、『太陽』みたいな子なんです。ただ、少し前から何か大事なことを隠しているみたいで…しかも最近は、辛いことも苦しいことも全部背負い込もうとしているように感じて…ついこの間も、何か辛いことがあったみたいなのに、全然話を聞かせてくれなくて…」

 

「あー…分かる。傍から見たら無理しているのがバレバレなのに、全部抱え込んで一切外に出そうとしないんだよな…俺や周りがいくら言っても聞く耳持たないし…」

 

「そう!!そうなんです!!何かあっても平気だって、へっちゃらだって無理して笑顔を作って誤魔化しているつもりなんです!いつも明るく笑っているから、無理して笑った顔が余計に目立って…」

 

「自分のことは案外分からないものだからな…そうやって自分だけで抱え込んで、自分が強くなれば周りは心配しないとでも思っているのかな…そんな風に振舞っているから、俺も周りも不安になるっていうのに…」

 

「…私の親友のことだから、多分それは、誰かの役に立ちたいと思っての行動なんだと思います。でも、私はその子が何か危ないことしてるんじゃないかって、そのせいで傷つくんじゃないかって心配になるんです。それでも、無理やり隠し事を聞き出して、今の関係を壊してしまうのが怖くて…」

 

「…なあ、ひょっとしてあんたは、その親友に何か負い目でもあったりするのか?」

 

「っ!?どうして、そう思うんですか?」

 

「俺の妄想でしかないけど、あんたの言葉は限りなく本心から言っているみたいなのに、どこか使命感というか、罪悪感みたいな感情が含まれている気がしたから…気に障ったら済まない」

 

「…実は昔、私がした約束のせいで、その親友が酷い目にあったんです。取り返しがつかないくらい、酷い目に…それでも私は、その子の傍にいたくて…傍にいることしかできなくて…」

 

「…そうか。まあ、話を聞いている限りだと、そのことを気にしているのは、あんただけみたいだけどな?」

 

「っ!?…何で、そんなこと言い切れるんですか?」

 

「その親友が酷い目にあったのは昔って言ったよな?それで、その子が隠し事をし始めたのは少し前…割と最近の出来事ってことだよな?」

 

「はい…」

 

「あんたは、その親友が隠し事をしていることには簡単に気づいたのに、その子があんたに過去のことで思うところがあることには気づけないのか?」

 

「それ、は…」

 

「それともその親友は、あんたに暗い感情を抱いたまま、明るい笑顔を浮かべられるような子なのか?そんな子ならもっと隠し事も上手く誤魔化せるだろうし、そうでないなら、その子は罪悪感に苦しむあんたを見て内心でほくそ笑むような子ってことに…」

 

「っ!?違います!あの子はそんな子じゃ…」

 

「なら、やっぱり気にしているのはあんただけじゃないのか?」

 

「……」

 

「…自分のことって、案外分からないものだな。あんたはもう少し、自分に優しく…我儘になってもいいんじゃないか?」

 

「我儘に、ですか?」

 

「どうせ相手の負担になるからって、自分の気持ちを伝えることにブレーキをかけてないか?心配しているって言葉も、ちゃんと遠回しではなく、真っ直ぐにその親友に伝えることはできたか?頼って貰えるのって、案外悪くないものだぞ?少しだけ勇気を出して、あんたもその親友のこと、頼ってみたらどうだ?」

 

「……」

 

「…やっぱり俺はダメだな。相手を傷つけないと会話ができない…悪かった。話を聞かせてくれてありがとう…その親友と、ちゃんと仲直りできるといいな」

 

「あの!」

 

「うん?」

 

「…代わり、と言う訳ではないんですが…あなたの話も聞かせてもらえませんか?」

 

「俺の?」

 

「はい。あなたと…あなたのご友人について。あなたがさっき言っていた、悩んでいる人間への接し方を考える理由について、聞かせて欲しくて…ダメでしょうか?」

 

「(…そういえば、俺は自分の悩みを他人に相談したことって、あんまり無かったかもな)…えっと、話せないことがある。それに俺は自分のことを話すことに慣れてない。色々誤魔化しながら話すことになると思うけど、それでもいいか?」

 

「…はい」

 

 

 

「さて、どこから話すべきか…そうだな。俺にも、大切だと思える『奴ら』がいるんだ」

 

「『奴ら』ですか…」

 

「ああ…俺はな、長い間…何もしてこなかったんだ。ただただ時間が過ぎていく中で、何一つしないままに過ごしてきた。それがある日、そいつらに会って、そいつらの歌を聴いて、俺はやっと動き出すことができるようになった…」

 

「…その方達が、あなたのご友人なんですか?」

 

「…俺とあいつらの関係か…何だろうな?俺は、あいつらが好きで、あいつらの歌が好きで、あいつらの傍にいたくて、傍にいられるよう動いてきた」

 

「!?そ、その、それは異性として…そのどなたかと恋仲だったりとか…」

 

「恋仲?あははは!ないない!確かに異性だけど、俺みたいな、まが…どうしようも無い奴なんかとは、釣り合いが取れる訳ないくらいの魅力的な奴らだ。何より、あいつらにとっては、お互いが特別な存在だから、最初から俺の入り込む隙なんて全く無いよ…ああいや、別にあいつらが女同士でそういう関係って訳じゃ…あーおかしなこと言ったな。忘れてくれ」

 

「いえ!別におかしいなんてことはないです!全然!」

 

「お、おう、そうか…話を戻して…幸い、俺には…嫌な言い方になるけど、才能があってな。そいつらの活動をする上で、これ以上ないくらい都合が良かったから、ずっと傍にいることができた。傍にいる間、俺は俺にできることを全部やって、あいつらが良い歌を歌い続けられるよう動き続けてきた」

 

「…その人達のことが、本当に大切なんですね」

 

「ああ、世界よりもずっと大切だと思っている」

 

「!!」

 

「でも、あいつらは、ずっと悩みを抱えていてな。一人は真面目で、頭が固くて、あんたの親友みたいに、辛いとか苦しいとか全部抱え込んでいくような奴でな…昔の失敗を、あいつは自分の責任だと思い込んでいて、それを繰り返さないために、ずっと努力を続けている。

もう一人の方は、そんな相棒のことを気にかけて、少し話すだけで簡単にそいつのことを安心させることができるんだ。気さくで、頼りがいがあって、俺も目標にしていて…でも、こいつも根っこの部分で、とても重たい悩みを抱えている。俺も、そいつの相棒も、そのことには気づいているのに、何もしてやれないんだ…」

 

「……」

 

「俺は、そいつらが色々抱え込み過ぎて、いつか感情が砕けちゃうんじゃないかって思ったから…無理やり感情を表に出すようにしてきた。からかって、怒らせて、泣かせて…俺の言葉で、少しでも抱え込んだ感情をぶつけてくれればいいと思って…途中からそれが楽しくなって、特に真面目な奴については、俺とその相棒で一緒にからかって半泣きにしてやることが多かったな」

 

「そ、そうですか…」

 

「こんなやり方だけど、少しは効果があったと思っていた…あいつらをからかって、それを見た周りの連中が笑って…あいつらも、笑うことが増えたかなって…でも、それは間違いだった。俺のやり方は、あいつらを追い詰めているだけだった…」

 

「……」

 

「俺にとっては、世界よりも大切な奴ら…実は最近、そこにもう一人、新しい奴が加わってな」

 

「!!」

 

「こいつが、まあとにかく元気な奴でな。明るくて、騒がしくて、とにかく真っ直ぐな奴なんだ。自分は未熟だからって、ひたむきに努力を続けている奴で…最近は、その努力の成果も出てきて、良い歌を歌うようになってきた」

 

(…この人達は、バンドグループの活動でもしているのかな?)

 

「だけど、この新人と真面目な方の奴が、まあ反りが合わなくてな。あいつはその新人のことを受け入れられないけど、相棒の方は歓迎しているし、新人は新人で一緒に頑張ろうとして真面目な奴の地雷踏み抜いていくし…ああ!これが修羅場ってやつなのか!二人で頼りになる相棒を取り合っているのか!いや、新人も女なんだけどさ…」

 

「あ、あははは…」

 

「まあ、そんなだけど、いつかどうにかできると思っていた。頼りになる方の奴も、昔は少し問題があったけど、皆で活動をしていくうちに、少しずつ考えが変わったって言っていたし、そのうち馴染んでいくだろうって、それまでは俺達でサポートすればいいだろうって…そう思っていたら、その真面目な奴が大怪我を負ったんだ」

 

「!?」

 

「…仕事中の、まあ事故みたいなものだ…本当は、その仕事は俺がやるはずだった。でもあいつは、どうしても自分がやるって言って、聞かなかった…」

 

「……」

 

「…そいつを無視して、俺は仕事を片付けようとしたら、そいつは俺に言ったんだ。『信じろ』って…俺があいつを追い詰めたから、あいつは無理をして…俺の目の前で、あいつは血だらけになって倒れた…」

 

「その、方は…」

 

「…生きている。危なかったけど、今は病院でリハビリをしている。…それで近いうちにお見舞いに行くように俺の上司に言われているけど、今までの接し方だとダメなのは分かっているから、何とか変わらないといけないんだけどな…どうすればいいか分からない…」

 

「…怖く、ないんですか?」

 

「ん?」

 

「…これまでの関係を変えてしまうことが、怖くはないんですか?」

 

「そんなものより、あいつらを失うことの方がずっと怖い」

 

「!?」

 

「確かに、あいつらをからかっていた今までの生活は楽しかった。でも、このまま変わらないで、またあいつが、あいつらが無茶して、俺の目の前から消えることの方がずっと怖い。俺はあいつらが歌い続けてくれるのなら、どんなことでもしてみせる。例えあいつらが、俺のことを殺したくなるほど恨んだとしてもだ」

 

「……」

 

「…なんか、俺の方が長いこと話を聞いて貰ったな。お陰で少し整理できた気がする。助かったよ。ありがとう」

 

そう言ってナナシは、少女の傍を離れようとする。すると…

 

「あの!」

 

…少女がブランコから立ち上がってナナシに声を掛ける。その声に反応し、ナナシは少女の方に振り返った。

 

「無理に変わる必要はないと思うんです!」

 

「……」

 

「あなたが無理して、今までの関係を全部変えてしまう必要はないと思うんです!あなたはさっき、相手を傷つけないと会話ができないって言っていましたけど、私はそうは思いません!それだけ私や、あなたの周りの人達について、真剣に考えたことを、あなたは言葉にしてくれたんです!その怪我をされた方も、あなたが追い詰めるようなことばかり言う方なら、『信じろ』なんて言わなかったはずです!きっとその人も、あなたの才能以外のところで、あなたのことを頼っていたはずです!」

 

 

『あいつは…翼は!能力なんて関係なく、あんたのことを仲間だと思ってる!勝手に自分を道具扱いするな!』

 

 

「……」

 

「…だから、その人も、自分が原因であなたが変わってしまったら、きっと悲しい気持ちになると思うんです。だから、あなたはこれまでの全部を変えてしまうんじゃなくて…あなたは、あなたのままで変わっていくべきだと思うんです!」

 

「…俺は、俺のままで…」

 

「…あの、何にも知らない私が、勝手なことを言ってごめんなさい」

 

少女はそう言ってナナシに対して頭を下げた。

 

「…いや、ありがとう…少しだけ、気が楽になった…俺はあんたに、何もできてないのに…」

 

「…そんなことないです。話を聞いてもらって…私も、自分の気持ちに気づけたと思います。それに…飲み物を奢っていただきました」

 

「あはははは!その程度じゃ何のお返しにもならないよ!…話ができて良かった。お互い、相手と上手くいけばいいな」

 

「はい!」

 

「ただ、今度から怪しいナンパ男には声を掛けられないよう気を付けろよ。もしあんたに何かあったら、その親友もきっと傷つくからな」

 

「フフッ、はい。…あなたが優しい方で良かったです」

 

「俺は自分の都合であんたに声を掛けただけだよ。それじゃあな」

 

そう言って、今度こそナナシは少女から離れて行った。

 

 

 

 

 

「それにしても『紛い物』に『剣』…そして『陽だまり』に『太陽』。俺の周りの奴らは、どいつも独特な表現を使うな…」

 

「!!?!?」

 

…最後に、特大の爆弾を少女に落下させて。

 

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