戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
時は少し遡り、地球では月ごとナナシ達を葬るために、着々とカ・ディンギルへのエネルギー供給が進められていた。
「……」
「ヴァネッサさん!」
その光景を無言で眺めていたヴァネッサの元へ、遂にギアを纏った響とクリスが現れた。
「来たわね。それじゃあ…」
「待ってください!」
問答無用で肩に増設された双腕を構えるヴァネッサに、響はそれでも諦めず会話による説得を試みた。しかしそんな響の言葉には耳を貸さず、ヴァネッサは足のブースターでホバリングしながら響へと近づき、双腕による高速攻撃を仕掛けてきた。
「クソ、ちょこまかと!」
響を援護しようとクリスが拳銃を構えるが、ヴァネッサの素早い動きで照準を定める事が出来ない。響は攻撃を防ぎながら諦めずヴァネッサに言葉を投げかけ続けた。
「ヴァネッサさん、皆と仲良くなりたいって…だったらこんな事!」
「ええ、仲良くなりたいわ。でも、怪物と人間が仲良くなる事なんて出来ないのよ…だから!」
ヴァネッサの手から巻き尺のような物が伸びて、響の腹部へと巻き付く。それに動揺した響の隙を突いて、ヴァネッサが響の体を宙へと持ち上げて双腕を構えた。
「今だ!」
響を狙った事で動きを止めたヴァネッサにクリスが拳銃を発砲するが、双腕の一つから磁場のような防壁が発生して弾丸は受け止められてしまった。
「私達は皆を怪物にする事にしたの!」
「怪物…!?」
ドゴォオオオオオン!!
「ぐあああああ!!」
ヴァネッサが響に向けて武装の一斉放射を放ち、爆発で響は吹き飛ばされてしまった。先回りしたクリスが響を受け止め、傷つきながらも立ち上がった響は悲し気な表情をヴァネッサへと向けた。
「皆を怪物に…そんなのが、ヴァネッサさんの望んだ皆と仲良くなれる世界なんですか!?」
「…人間に戻れない完全怪物となった今、この身を苛む孤独を埋めるには、全てを怪物にして仲良くなるしかないじゃない」
響の問い掛けに、ヴァネッサは表情を曇らせ俯きながらもはっきりとそう言い切ってみせた。
「お前達が言う、分かり合うって…!」
「そうよ!そのためにシェム・ハは星の命を作り変え、私達は封じられたシェム・ハの力を取り戻すため、バラルの呪詛を解除するの!!」
そう叫ぶヴァネッサであったが、それは響達の疑問に答えると言うよりも、まるで自分にそう言い聞かせているようにしか見えなかった。そんなヴァネッサに反論しようと響が口を開こうとすると、クリスが手を翳して響の一歩前に出た。
「クリスちゃん…?」
「人間と怪物は仲良くなれない。自分達が人間になれないなら、他の全てを怪物に変えて怪物同士仲良くなろう。それがてめえらの流儀だってんなら一つ聞かせろ…だったら何でてめえらは、あのご都合主義と仲良く出来なかった?」
「っ!!?」
クリスのその問いに、ヴァネッサは目を見開いて固まってしまった。
「あいつは面と向かって化け物と罵しろうものなら、笑顔で胸張って『Exactly!!』と返すような奴だ。てめえらの理屈なら、誰よりも化け物である事を自負するあの馬鹿野郎は、お前らが唯一仲良くなれる存在じゃなかったのか?」
「それ、は…」
クリスによって指摘された致命的な矛盾に、ヴァネッサはまともに言葉を返せなくなる。そんなヴァネッサに、クリスは何処か苛立つような表情で自分の考えをぶつけ始めた。
「てめえらは、あのご都合主義が気に食わなかったんだろう?自分達が出来る訳ないと諦めた…怪物のまま人と仲良くなる可能性を、認める事が出来なかった。認めてしまえば、本当はそれを望んでいながら諦めてしまった自分達が、どうしようもなく惨めになってしまうから…そしてもし、ほんの少しでも自分達がその可能性に希望を抱いてしまったら…その希望を裏切られた時の恐怖に立ち向かう度胸が無かったから、てめえらはあいつを否定するしか無かったんだ!」
「何を…勝手に私達を分かったような事を!!」
「分っかんねえからあたしの“妄想”を押し付けてんだろうが!違うならハッキリ否定してみせろ!!」
「!!?」
ヴァネッサの反論を、クリスがより強い言葉で捻じ伏せる…かつて自分が、そうされた時のように。
「本当に腹が立つ…心の底では信じたいのに、勇気を出す事が出来ない。そんな自分が大っ嫌いで、恐怖に震える自分を誤魔化すためにガキみてえな理屈並べ立てて逃げようとする…てめえらを見ていると、そんな極大のバカを思い出しちまうんだよ!」
『あたしに歌を歌わせたな…教えてやる。あたしは歌が大っ嫌いだ!!』
『こんな奴がいなくたって、戦争の火種くらいあたし一人で消してやる!そうすれば、あんたの言うように、人は呪いから解放されてバラバラになった世界は元に戻るんだろ!?』
『大人…あたしは大人が嫌いだ!死んだパパとママも大嫌いだ!とんだ夢想家で臆病者! あたしはあいつらと違う!おセンチで難民救済?歌で世界を救う?いい大人が夢なんか見てるんじゃねえよ!』
かつてフィーネの計画に協力していたクリスには、今のノーブルレッド達の気持ちが嫌と言う程に理解出来た。本当は信じたい、心の底から望む想いを諦めて、それを否定する事で自分の心を守ってきたクリスには、目の前で気丈に振舞おうとするヴァネッサが心の中で泣き叫んでいるようにしか見えなかった…昔の自分のように。
「気に入らねえ、気に入らねえ、気に入らねえ、気に入らねえ!!そんなチンケな自分を守るために、誰彼構わず傷つけた挙句に…自分が一番傷ついてるだなんて自惚れてるお前があぁ!!」
クリスの気迫に、ヴァネッサは何も言い返せない。まるで自分の心を除かれているかのような錯覚を覚える言葉の数々は…今から亡き者にしようとしているあの“紛い物”を彷彿とさせた。
「だから…あたしは絶対お前を見捨ててなんかやらねえ!」
「!!?」
「何度も何度も手を差し伸べられる鬱陶しさ、その手に自分が刻んだ傷を見せつけられる居心地の悪さ、そして…それでも諦めず伸ばし続けてくれた手を重ねた時の暖かさも、嫌と言う程教えてやる!」
そう言ってクリスは、自分の後ろで目を丸くする響に視線を向けると、何故か徐々に顔を赤く染めながらボソボソと呟くように声をかけた。
「誰かと仲良くなるなんて…ほんの少し、勇気を出せば良いだけだって……あそこのバカに思い知らせるぞ!………ひ…ひび、き…」
「!!?!?」
耳まで赤く染めながら自分の名前を呼んでソッポを向いてしまったクリスに、響はしばし呆然とした後…その瞳を爛々と輝かせ、とびっきりの笑顔を浮かべながらクリスに抱き着いた。
「あははははは!うん!そうだね、クリスちゃん!わたし達の仲良しっぷりを、ヴァネッサさんに見せてあげよう!」
「ああもう、ちょせえ!調子に乗るな!抱き着くな!!」
散々好き勝手な事を言った挙句に、仲良くじゃれつくクリスと響の姿に、ヴァネッサはこれまでにない不快感を胸に抱いていた。
「見せつけるんじゃないわよ!孤独の怪物に人間の仲の良さを!!」
ヴァネッサがクリス達にありったけの武装を撃ち放つと、響とクリスは二手に分かれて本格的にヴァネッサを攻略するために動き始めた。響がヴァネッサに接近して拳を繰り出すと、ヴァネッサは肩の双腕を前方にクロスさせて響の拳を受け止める。
「っ!?」
その隙にクリスがヴァネッサの背後から拳銃を放って攻撃を仕掛けるが、ヴァネッサが体に展開させた武装から放たれたレーザーによって弾丸は全て防がれるばかりか、クリスまでもがレーザーによって吹き飛ばされてしまった。
「奪われた未来を取り戻すため、私達は先に進む!元に戻るとか帰るとか、そういうのはもう必要としないのよ!」
再び響がヴァネッサの懐に飛び込もうと接近するが、ヴァネッサは巧みに双腕を操って響の猛攻を防ぎ、そのまま響を殴り飛ばしてしまった。
「正中線に、打たせてくれない…!」
響が倒れた隙に宙へと舞い上がったヴァネッサは両手と両足、肩の双腕の形を変えて、両手足を巨大な虫のようなフォルムへと変形させた。クリスがヴァネッサに拳銃を放つが、弾丸は全てそのボディの表面で弾かれてしまう。そしてヴァネッサの全身に展開された砲門がクリスへと向けられ、そこから赤い輝きが溢れ始めた。
「っ!!」
咄嗟に響がクリスの体へと飛びつくと、ヴァネッサの体から凄まじい威力のビームが放たれて響達は吹き飛ばされてしまった。
「おい!?大丈夫か!!?」
「へいき、へっちゃら…」
そう答える響の腕から、“血晶”がポロリと崩れ落ちて消滅してしまった。つまりあのビームは一撃で“血晶”を破壊するだけの威力があり、まともに喰らえば大ダメージは免れないだろう。
ヴァネッサは既に第二射の準備に入っており、このままではクリス達はモロにあのビームを喰らってしまう。
「クリスちゃん、一緒に!」
その局面で響は撤退ではなく、クリスの手を引きながら敢えてヴァネッサ目掛けて駆け出し始めた。
「あたしに接近戦をか!?」
悪態を付きつつ、クリスは響と完璧にタイミングを合わせてヴァネッサへと飛び掛かった。エネルギーを臨界までチャージさせたヴァネッサが、至近距離でクリス達にビームを放つ…
「出来らああああああ!!!」
ドゴォオオオオオオン!!
「きゃあああああああ!!!」
…寸前、アマルガムを展開させた響の拳とクリスのドロップキックがヴァネッサに炸裂した。強烈なカウンターを喰らったヴァネッサはカ・ディンギルの表面に叩きつけられ、その体とカ・ディンギル双方に大きな亀裂が刻まれた。
その隙を好機と見た響とクリスはアマルガムを攻撃形態へと変化させる。黄金の花弁が舞い上がり、響の両肩に巨大な双腕が、そしてクリスの手には黄金の弓が成形される。
「生き…足掻く…!」
それを見たヴァネッサは、ボロボロの体に無理矢理エネルギーを収束させて二人を葬ろうと試みた。
「うおおおおおおおおお!!!」
クリスが黄金の弓に矢を番え、響がブースターを全開にヴァネッサへと飛び込んでいく。攻撃形態となったアマルガムで先程のビームを喰らえばただでは済まない。しかし響とクリスの攻撃よりも先にヴァネッサのエネルギーチャージが終わり、今まさに飛び込んできた響目掛けてビームが放たれて…
ガキィイイイン!!!
「なっ!!?」
…ヴァネッサの放ったビームは、クリスの“血晶”によって目の前に展開された“障壁”によって阻まれてしまった。
そして…
「うおおおおおおおおお!!!」
バリィイイイイイン!!!
「きゃああああああああ!!!」
…勢いそのままに突き進んだ響の神殺しの拳が“障壁”をブチ抜き、ヴァネッサは再びカ・ディンギルへと叩きつけられて…限界を迎えたカ・ディンギルの一部が崩壊すると、そこから溢れ出たエネルギーがヴァネッサに襲い掛かった。
「がああああああああ!!!」
灼熱に身を焼かれ、全ての武装が崩れ落ちていく中でヴァネッサが目にしたのは、こちらに向けて巨大な弓を構えるクリスの姿…このまま自分ごとカ・ディンギルを穿ち、破壊すればクリス達の完全勝利。そして…自分の完全敗北だ。
“VVデ・レ・メタリカ”
「それでも…私達は…」
自らの死を悟ったヴァネッサは、迫る紅蓮の矢を前に観念したかのように瞳を閉じてポツリと言葉を零した。
「怪物なんかに…なりたくなかった…」
そんなヴァネッサに紅蓮の矢が迫り…その横を通り過ぎると、矢はヴァネッサの背後で十字に伸びてバリアを展開すると、ヴァネッサをカ・ディンギルから溢れるエネルギーから守ってみせた。
「えっ…?」
予想と異なる結末にヴァネッサが地面に蹲りながら呆然としていると…そんなヴァネッサの体を響が支え、クリスがヴァネッサの前に佇んでその瞳を真っ直ぐに見つめてきた。
「どうして、助けたの?」
「助けた訳じゃねえ…ただ、本当に今よりここより先に進もうと願うのなら…尚の事、帰る場所ってのは大切なんだと伝えたかった」
「!!」
「あたしは考え過ぎるから、きっとまた、迷ったりするかもしれない。だけど、帰る場所があるから、立ち直って先に進んで行ける。それはあんただって…だから、ご都合主義の野郎は、お前らにどんな形でも居場所を与えたかったんだって…あたしはそう信じてる」
『今日からお前らは、俺のペットだ!!』
ヴァネッサの脳裏に、ナナシの言葉が木霊する。ペットと飼い主などと言う歪な関係性であっても、ヴァネッサ達に居場所を、居て良い場所を用意してくれた“紛い物”。自分達に必要な物を…本当の望みに繋がる可能性を示してくれていた…自分達が諦めていた、人ならざる身で人と共に在る理想の存在。
クリスの言葉に戦意を失ったヴァネッサに、響が微笑みながらその手を差し出した。
「帰りましょう、ヴァネッサさん。エルザちゃんやミラアルクちゃん、わたし達S.O.N.G.の皆…そして兄弟子が、あなたの帰りを待っています!」
「帰る場所…私の、家族……」
エルザとミラアルク、同じ境遇を持つ自分の家族。自分達に害意を向ける事無く接してくれたS.O.N.G.の者達。これ程までに暴れ回った自分に手を伸ばし続ける響達。そして…そんな者達と自分達を繋いでくれる居場所をくれた“紛い物”。
失敗に失敗を重ね、何処までも間違い続けた自分達が…それでもまだ、そこに戻る事を許されるのならば…
その希望を裏切られる恐怖に震えながら…それでも、抱いてしまったその希望を信じたくて、ヴァネッサは勇気を出してゆっくりと、差し出された響の掌に手を伸ばそうとして…
「だが、茶番は終わり…ここまでだ」
ドゴン!!
「がっ!?」
「ぐっ!?」
突如として、響の手を取ろうとしていたはずのヴァネッサが…響とクリスにロケットパンチを繰り出し、二人を吹き飛ばしてしまった。
「ヴァネッサさん…?」
「お前…!」
「ち、違っ!?私は何も…ぐうっ!?」
自分の行動に誰よりも困惑した様子のヴァネッサであったが、突然頭を押さえて苦しんだかと思うと、まるで別人に入れ替わったかのようにその表情が冷酷なものへと切り替わった。
「忌々しきネットワークジャマーは、手ずから葬らせてもらう」
「まさか…!」
「てめえ、シェム・ハか!?」
「この者を完全怪物と再生させた際に、我の一部を滑り込ませていたのだ」
シェム・ハに操られたヴァネッサの体がフワリと浮かび上がると、まるで磁石に吸い寄せられるかのようにカ・ディンギルに張り付いた。
バチバチバチバチ!!
「ぐああああああああああ!!!」
その直後、紫電と共にヴァネッサの口から悲鳴が上がる。そしてカ・ディンギルに空いた大穴が瞬く間に修復されていき、カ・ディンギル全体が薄っすらと発光し始めた。
「この者に与えた我の力の残滓を絞り出せば、カ・ディンギルへのエネルギー供給を早める程度の事は可能!」
「てめえ…!」
「ヴァネッサさん!」
仲間に苦痛を強いるシェム・ハにクリスが怒りを覚え、無理矢理カ・ディンギルにエネルギーを送らされるヴァネッサに響がどうすれば良いか分からず動けないでいた。
「た、頼む、神殺し…その拳で、シェム・ハを討て!」
「!!?」
そんな響に、ヴァネッサは絞り出すような声でシェム・ハを…自らを討つように懇願した。
「そんな事をしたら、ヴァネッサさんまで…!」
「私はもう、誰にも利用されたくない…神殺し…頼む…!」
「っ!…うわあああああああああ!!」
その瞳から涙を流しながら懇願するヴァネッサの姿に、響も涙を流しながら覚悟を決めてブースターを全開にヴァネッサへと飛び掛かった。
「恐ろしきかな、神殺しの拳。故にこそ…」
拳を握り締めて迫る響の姿に、ヴァネッサを操るシェム・ハは…ニヤリとほくそ笑んだ。
「ここで潰えよ」
ゴォオオオオオオオオオオ!!!
「「「!!?」」」
その直後…何の前触れもなくカ・ディンギルの先端からエネルギーが放射され、遥か先の月へと一直線に向かって行った。
「馬鹿、な…エネルギーはまだ、貯まりきっていないはず…」
(フフフ…暴発に終わったかつてのカ・ディンギルの一撃でさえ、月を穿つには充分な威力を発揮した。貴様から搾り取ったエネルギーを加えれば、完全に届かぬ半端な一撃であろうと、狙いさえ違わねば本懐を遂げる事は可能である。そして…)
ピシリ!
脳内に響くシェム・ハの思念とは別に、ヴァネッサの耳に頭上から何かが罅割れるような音が聞こえてきた。そしてシェム・ハによって無理矢理使命を果たされたヴァネッサの体がカ・ディンギルから離れた直後…
ミシミシミシ…ズガァアアアアアアアアン!
強引に攻撃を放ったカ・ディンギルの上部が崩壊して…巨大な瓦礫が地面に落下するヴァネッサへと降り注いできた。
「ヴァネッサさん!」
「!!?」
そんなヴァネッサの元へ、握りしめた拳を開いて響が迫ってくる。その光景を目の当たりにしたヴァネッサは、その瞬間に全てを理解した。
「まさか…最初から私を、道連れにさせるつもりで…!?」
(用済みの『道具』を処分するのに、これ以上に適した方法は無かろう?貴様程度と引き換えに神殺しを葬れるなら僥倖である。その功績を以って我を裏切ろうとした罪は許してやろうではないか。クククク…アハハハハハ!)
何処までもヴァネッサの事を都合の良い道具として利用し尽くしたシェム・ハの断片は、力を使い果たしたのか高笑いと共にヴァネッサの中から消え去った。体の自由を取り戻したヴァネッサだが、カ・ディンギルに力を奪われた影響でまともに動く事も出来ない。
「ヴァネッサさん!」
響はそんなヴァネッサを助けるために、アマルガムの双腕で細かな瓦礫を振り払いながら必死にヴァネッサの元まで辿り着こうとしていた。
「クソ!クソ!!チクショウが!!!」
クリスもミサイルやガトリングで響を援護しつつ何とか二人に迫る瓦礫を排除しようと試みるが、あまりに巨大な瓦礫はその程度ではビクともしない。
(“血晶”はもう無い…ヴァネッサさんの所に辿り着けても、アマルガムのバリアフィールドを展開する時間があるかどうか…)
「だとしても!!」
それ以上進めば確実にカ・ディンギルの崩落に巻き込まれる瀬戸際で、響は降ってきた瓦礫を足場に躊躇わず跳躍の構えを取った。
(兄弟子に任されたんだ!ヴァネッサさん達の事を、よろしくお願いしますって!!絶対…絶対守ってみせる)
「ヴァネッサさあああああん!!!」
覚悟を胸に抱き、響はヴァネッサに手を伸ばしながら最後の跳躍をすべく足に力を籠めて…
ドンッ!!
「……えっ?」
最後の一歩を踏み出す直前…突如肩に受けた衝撃によって響の体は真逆の方向に吹き飛ばされた。
まるでスローモーションのように時間の流れが緩やかになるのを感じながら、響の頭が現状を把握していく。肩に受けた衝撃…ヴァネッサの放ったロケットパンチが自身を瓦礫の落下範囲から弾き出す最中に、響は確かに見た。呆然とする響を見つめながら、ヴァネッサが悲し気に微笑みながら口を動かしたのを…
『ごめんなさい』
それが何に対してなのか…
誰に対してなのか…
それを問う暇もなく…響の目の前で、ヴァネッサの体は瓦礫の中に飲み込まれてしまった。
同時刻、月遺跡では…
「エンキ…私は、あなたの事を…」
ビー!ビー!ビー!
フィーネが遂にその胸の想いを告げようとしたその時、中枢内部に凄まじい警報が鳴り響いた。フィーネとエンキがその警報に驚き…ナナシがデュランダルを振り上げる。
「この期に及んで…!」
『ま、待て!違う!!これは外部からの攻撃を知らせる警報だ!しかも、これは…!』
エンキが表示させたモニターに、地球から凄まじい勢いで月遺跡に迫る光線が映し出される。それを見たフィーネとナナシが驚愕に目を見開いた。
「おい、これって…!」
「まさか…カ・ディンギル!?」
その正体にナナシ達が気付いた時には、既にカ・ディンギルの攻撃は月遺跡の真上まで迫り、そのまま月遺跡に直撃する…寸前、月遺跡の防衛機能によって巨大な防壁が展開され、カ・ディンギルの攻撃は防壁によって阻まれた。
しかし…
ピシリッ!
『くっ!?駄目だ!』
…ほんの僅かな間に大きな亀裂が入った防壁と、エンキの悲痛な叫びがナナシ達に猶予が無い事を告げていた。
「っ!!」
「ナナシちゃん!?」
即座に中枢を飛び出すナナシを、フィーネが慌てて追いかける。中枢を出たナナシはエネルギーを収束させていたデュランダルを月遺跡の天井目掛けて振るい、天井に大穴を空けて今にも割れそうな防壁と迫り来るカ・ディンギルの攻撃を視界に収めた。
「了子!!」
ナナシが手に持っていた聖遺物をフィーネに投げ渡しながら、頭上にその手を翳して…月遺跡全体に拡散していた自身の血液を起点に、過去最大級の“障壁”を展開させた。
それとほぼ同時に月遺跡の防壁が砕け散り…代わりにナナシが展開した“障壁”がカ・ディンギルの攻撃を受け止めた。
「ぐうっ…!」
かつてはアダムの黄金錬成を受け止められなかったナナシの“障壁”だが、神の力を取り込んだ直後に真の姿を現したアダムの黄金錬成を真っ向から防いでみせた。この事から神の力によって“障壁”の強度は大幅に向上した事が分かる。
それでも…
ピシリッ!!
…月を穿つ一撃には及ばない。
「ぐっ…あ、あああ…!」
ナナシが歯を食いしばり、必死に“障壁”を維持しようと抗うが、“障壁”の罅割れは徐々に広がっていき…
「があああああああああああ!!!」
パリィイイイイイイン!!!
…“障壁”は、ナナシ達の前で粉々に砕け散った。