戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
ナナシと未来が邂逅して数日後
弦十郎に話があったナナシは、弦十郎のデスクのメモに「外出中 TATSUYAに緊急返却」と記載されているのを確認し、今度はメディカルチェックの結果を聞くために翼を探して本部の廊下を歩いていた。
(TATSUYA、ね…話をするまでもなかったみたいだ。弦十郎なら大丈夫だろ)
そんなことを考えながら歩いていると、ナナシは視線の先に、目的の人物を発見した。
長い廊下の途中にある休憩スペース。そこには翼、奏、響、未来、緒川の五人が座って話をしていた。ナナシはそこに近づき、五人に声を掛ける。
「よう、何だか楽しそうに話しているな?」
「あ、兄弟子!こんにちは!」
「こんにちは、ナナシさん」
「ああ、こんにちは、響、未来。…さて、翼。話を遮って悪いけど、メディカルチェックの結果を聞いてもいいか?」
「ええ、絶唱のダメージは完全に抜けたわ。もう何時でも戦場に戻れる」
「いや戻らなくていいよ…お前が戻ってくる場所は奏の隣とライブ会場だろ?出るとか向かうって表現してくれ」
「そうだよ、翼。まるでここが居場所じゃないみたいな寂しいこと言わないでくれ」
「わ、分かっているわよ!ただの言葉の綾よ!ナナシも奏もいちいち揚げ足を取らないで!」
「絶対無意識に本音が出たね(ヒソヒソ)」
「体だけじゃなくてバカ真面目さにも罅が入れば良かったのに(ヒソヒソ)」
「聞こえているぞ!」
「「聞かせているんだよ!」」
「うっ…奏もナナシも意地悪だ!!」
「あはははは!」
「フフッ」
ナナシ達のやり取りを聞いて、響達は笑い声を上げる。それが収まると、今度は緒川がナナシに声を掛けた。
「ナナシさん、司令を見かけませんでしたか?翼さんのメディカルチェックの結果を報告したいんですが」
「外出中ってメモがあったからしばらく戻ってこないんじゃないか?問題が無かったなら後でいいだろ…ん?慎次、何かに顔でもぶつけたか?赤くなっているところがあるぞ?」
「え、ええ、さっき少し…大丈夫なので気にしないでください」
「そうか…それで、さっきは何を楽しそうに話していたんだ?」
「今度のお休みに、翼さん達とデートに行くんです!!」
「へえ~!良いじゃないか!目一杯楽しんで来いよ。二人とも出かける時に声をかけてくれ。“認識阻害”掛けるから」
ナナシは、翼の変化に喜んでいた。以前の翼なら、ガングニールの件が無かったとしても遊びに行くなど考えられなかったからだ。奏も、翼を無理やり連れまわす以外は同性の友人と出かける機会などほとんどなかったため、純粋に二人が楽しめれば良いと考えていた。
だが、そんなナナシの考えは、奏の放った一言で崩れることになる。
「何言ってんだ?ナナシも一緒に来なよ」
「は?」
「そうですよ!兄弟子も一緒に行きましょう!」
「…えーっとな、せっかくの女友達とのお出かけだろ?そこに野郎が一人混ざるのもどうかと思うし、俺は仕事で忙しいから今回はお前ら四人で…」
「仕事のことなら問題ありませんよ。僕達だけで何とかなりますから、ナナシさんも偶には休んでください」
ナナシの言葉を遮って、緒川はそう言ってきたが、ナナシの顔には難色が表れていた。
「慎次、俺に休息は必要ないのは知っているだろ?マネージャーの仕事以外にも、二課には山ほど仕事があるんだから俺はそっちに回るべきだろ?ただでさえ今はブラック企業もびっくりな状態なんだから…お、ちょうどいい。藤尭、ちょっといいか?」
「ん?どうかしたか、ナナシ?」
ナナシ達が話している場所の近くを通りかかったオペレーターの藤尭に、ナナシが声を掛けた。
「藤尭、今お前何徹目?」
「…ああ、大丈夫だよ。まだ一徹だけだから」
「お前ら聞いたか?これが末期の奴の回答だ。何徹って質問に疑問を覚えないし、まだ一徹って返事を平然とするんだぞ?お前達は普段忙しい上に命がけで戦っているんだから気にせず休めばいいけど、俺がこんな状態のこいつらを放っておいて女の子達と遊びに行くなんて、藤尭も納得できないよな?」
立て続けに問題が起こるため、現在の二課の状況はあまりよろしくない。そんな中休まず動き続けられる自分が遊びに行くなど、ナナシには考えられなかった。だが…
「…いや、確かに羨ましい状況ではあるけど、お前に休むななんて言うほど、俺達は鬼畜じゃないぞ、ナナシ。というか、いい加減休めよお前」
「え?」
「徹夜どころか年中不眠不休でずっと働いている上にノイズと戦闘までしているお前が人の労働時間にとやかく言う資格はない!緒川さん、他の職員には俺の方で伝えておきます。せっかくだから無理やりにでもそいつを遊ばせてください」
「分かりました。よろしくお願いします」
「な!?ちょ、おい!?待て藤尭!!」
ナナシの制止も聞かずに、藤尭はそのまま行ってしまった。
「そういう訳なので、ナナシさんも楽しんできてください。職員の労働時間の改善を行うなら、真っ先に行うべき対象はナナシさんです」
「慎次、人権は人間にしか無いんだぞ?“紛い物”をどれだけ働かせようと問題ないだろ?」
「ナナシさんが休まないから無理する職員も出てくるんです」
「いや…SAKIMORIも俺が一緒だとせっかくの休みが台無しだろ?俺はからかうのを控えるつもりはないぞ」
「…そんなものは今更だ。いいから貴様も来いと言っている」
「…い、いや、やっぱり俺は…」
そう言いながらそそくさとその場を離れようとするナナシ。だが…
ガシッ!
…そのナナシの手を、未来が掴んで引き留めた。
「ナナシさんもご一緒しましょう(ニッコリ)」
「いや、俺は…」
「ナナシさんもご一緒しましょう(ニッコリ)」
「えっと、未来さん?」
「ナナシさんもご一緒しましょう(ニッコリ)」
「……………はい」
こうして、ナナシを含めた五人は、今度の休みに出かけることになった。
休み当日
待ち合わせ場所では、奏、翼、ナナシの三人が既に到着していた。だが、待ち合わせ時間が過ぎても、響と未来の姿が見えない。
「…あの子達、何をやってるのよ?」
「まあまあ、まだ待ち合わせ時間から10分も経ってないだろ?」
「楽しみなのは分かったから落ち着けSAKIMORI」
「わ、私は別に…」
「ハア…ハア…すみません皆さん!」
「っ!遅いわよ!」
「申し訳ありません。お察しのこととは思いますが、響のいつもの寝坊が原因でして…ッ!?」
息を整えながら響と未来が顔を上げると、二人は翼の姿を見て少し驚いた。奏とナナシはみっともなくない程度のラフな服装なのに対し、翼は堅苦しくはないがキッチリとした着こなしの、気合の入った服装をしていた。
「時間がもったいないわ。急ぎましょう」
翼はそう言って、率先して道を進み始めた。
「すっごい楽しみにしていた人みたいだ…」
「…誰かが遅刻した分を、取り戻したいだけだ!!」
響の呟きに対し、頬を赤くしながらそう叫ぶ翼。だがそんな翼に対して、ナナシ達が追い打ちをかける。
「よく言うよ。昨日は楽しみで服装を決めるだけで持っている服を何度も全部引っ張り出して何時間も悩んでたくせに」
「まさか日に三度も部屋を片付けさせられるとは思わなかった」
「待ち合わせ時間の三十分も前に到着してソワソワしていたくせに」
「事情を知らない人間が見たら絶対彼氏との待ち合わせだと思っただろうな」
「奏もナナシもいい加減黙れ!!ああそうだとも楽しみにしてたとも悪いか!!?」
「全然悪くないさ。隠すこと無いだろって話だ」
「翼の楽しそうな様子を見ることができて、本当に嬉しいよ。色々渋ったけど、来てよかったと思っている」
「っ!?……は、早く行くわよ!」
「「はいはい(ニヤニヤ)」」
「「フフッ、はい!」」
待ち合わせ場所の公園から移動した五人は、大型ショッピングセンターに辿り着いた。五人は今日、その中の娯楽施設を遊び回る予定だ。
雑貨屋
「絶妙に可愛くないものが多いな…」
「え~?そうですか?」
「あっははは!何だこの間抜けな顔の人形!」
「巷ではこういう物がはやっているのか?」
「う、うーん、どうでしょう?」
映画館
「ううっ…」
「ぐずっ…」
「すん…すん…」
「ま、全く、あたしの周りの女共は涙もろいね?」
「奏も我慢することないのに」
「うるさい!あんたはどうなんだ!?」
「俺、映画はどうしても教材ってイメージが強くて…偶にはこういうジャンルも良いな。感情の表現の仕方の勉強になる」
ソフトクリーム屋
「ほいよ、ナナシ」
「後で調整してやるから今日くらいは良いだろ?」
「ん?どういうことですか、兄弟子?」
「あたし達の買い食いは、基本的にまずナナシに食べて貰っているんだ」
「え!!?な、何でですか!?」
「カロリー計算。俺の“解析”は、元々翼の栄養管理で覚えた能力でな。最初は二人が食べたいものを俺が自分で買って“解析”していたけど…」
「それでナナシがNGを出すと、奏がナナシだけ食べるのはずるいって…ナナシは料理が凄く得意だから、同じ味のものをカロリーを抑えて再現もできるから後で作って貰えるのに…」
「それで今度はナナシが“解析”だけで済ませて食べないようにしていたら、今度は翼が、ナナシが自分で買ったものを食べられないのは理不尽だって言い始めてね…」
「それで色々話した結果、突発的な間食は俺が最初にある程度食べて減らして、残りを二人で分けることに…なあ、やっぱりこの方法は問題がないか?」
「まあ、今更だろ?ほら、溶ける前にガブっといけよ」
「やれやれ(ガブッ)…これで良いだろ?残りは二人で分けろ」
「だってよ。ほら、翼が先に食べちゃいな」
「ありがとう。いただくわ」
(す、すごい…)
(平然と一緒のものを食べてる…)
洋服屋
「わあ…!奏さんも翼さんも素敵です!」
「響と未来も似合ってるじゃん」
「そうだな、二人にはそのような可愛らしい恰好がよく似合っている」
「ねえねえ!兄弟子はどう思いますか?」
「う~ん…」
「あ、あれ?お気に召しませんか?」
「いや、似合っているけど…全員容姿のレベルが高いから正直服のグレードが合ってない気がして…」
「「「っ!!?」」」
「あ、あんたはまた平然とそんなセリフを口にして…」
「こうなるともっと意外性が…よし!響、未来、二人は奏と翼に着て欲しい可愛い服を選んでくれ。フリフリのお姫様みたいな服を着た二人、見たくないか?」
「「見たいです!!」」
「ちょっ!?あたしにはそんなの似合わないよ!!」
「ちょっとナナシ!?」
「逆に奏達は響達にカッコイイ感じの服を選んでやってくれ。お互いのペアでコーディネート対決だ!審判は俺!勝者のチームには好きな服を進呈しよう!」
「未来!頑張るよ!」
「そうだね!お二人に似合う服を選ばないと!」
「あ!待て二人とも!」
「私達は了承していないぞ!?」
「あ、店員さん。あの四人が試着している服は購入で。他にも買う予定なので、後でまとめて会計をお願いします」
ゲームセンター
「あ、あの…本当に、あんなに服を買っていただいて良かったんですか?かなりのお値段になったんじゃ…」
「何も問題ない。これでもかなり稼いでいるし、普段あまり散財しないからな。何よりお前達のファッションショーを見れただけでかなりの役得だ。特にあの二人の恰好、表情込みで文句なしの優勝だ。未来達も凄く似合っていたけどな」
「私達も普段着ない服を着られて新鮮でした。ありがとうございます」
「どういたしまして…ほら、お前の相棒の挑戦が始まるぞ」
「翼さんご所望のぬいぐるみは、この立花響が必ずや手に入れてみせます!」
「気合入ってるね。頑張りな」
「期待はしているが、たかが遊戯に少しつぎ込み過ぎではないか?」
「キエエエエエエ!!!」
「変な声出さないで!」
ボトリッ
「この機械壊れてる~!!わたし呪われてるかも…どうせ壊れてるならこれ以上壊しても問題ないですよね!シンフォギアを身に纏って…」
「あ、こら!平和的に解決しろ!」
ガコンッ ガコンッ
「ほいよ、翼。奏には色違い」
「相変わらず、ナナシは何でもそつなくこなすね…」
「…不正はしてないだろうな?」
「それならもっと簡単な方法があるさ。一瞬だけ機械ごと“収納”に入れて目的のぬいぐるみだけ残して機械を戻すとか。お前が間違えて塩と砂糖をミックスさせた時も“収納”で別々にできたし、結構小技が使えるんだよな、あの能力…あ、響と未来も欲しいぬいぐるみあるか?」
「…兄弟子、今すぐ手合わせしましょう。この怒りに身を任せればアームドギアだって!」
「!…フッフッフッ、良いだろう!さあ、決死の覚悟でかかってこい!!」
「響もナナシさんも大声で騒がないで!そんなに大声出したいのなら、良いところに連れてってあげますから」
カラオケボックス
「この店で一番質の良い設備がある部屋を頼む!!」
「あ、あの…兄弟子のテンションが爆上がりしてるのは一体…」
「…あたし達の鼻歌でさえ満面の笑みを浮かべて聴き入るくらい歌が好きな奴だからね。こんなところに連れてくればそりゃテンションも上がるさ」
「ホラホラ皆早く急いで!時間がもったいない!!」
「落ち着きなさいナナシ!こら、押すな!」
「わ、私達も早く行きましょうか…」
「うわ~!!よく考えれば凄い!わたし達ってば凄い!!あのツヴァイウィングのお二人と一緒にカラオケに来るなんて!!」
「ほら早く曲入れろよ!お前らのファンも期待しているぞ!」
「一番期待しているのはあなたでしょう…もう私が入れたからすぐに始まるわよ」
「ドンドンパフパフワーワー!!」
「ふぇ!?」
「く、口から楽器の音が!?」
「コラコラ、嬉しいのは分かったから妙な特技で後輩達を混乱させるんじゃない」
「え、演歌!?」
「渋い…」
『一度こういうの、やってみたいのよね』
「あぁ…素晴らしい…今まで聴いたことが無い翼の歌が聴けるなんて…か、奏にも後でお願いしてもいいか!?」
「わ、分かったから落ち着きなって。ほら、翼の歌が始まるよ?」
『~♪』
「うわ~!!かっこいい~!!」
「……」
「す、すっごい笑顔で聴き入ってますね、ナナシさん…これは、私の心配し過ぎだったかな(ボソッ)」
「…警戒は、続けた方がいいかもね」
「ッ!?か、奏さん?」
「…ナナシは、基本思ったことを言葉にするのを躊躇わないから…油断していると、無防備なところに真っ直ぐ心を突き刺す言葉が飛んでくるよ…」
「は、はあ…(な、何だろう?奏さんの言葉に、凄い重みを感じる)」
「兄弟子も歌いましょう!」
「だが断る!そんなことより響達ももっと歌えよ!」
「断るんじゃないよ。ほら、今入れた曲歌いな!」
「考えてみれば、ちゃんとしたナナシの歌は聴いたことが無いな?私達の歌を真似したことならあったが…」
「…はぁ~、ごねる時間ももったいない。さっさと終わらせよう。後悔しても知らないからな…」
「後悔?」
「「「「……」」」」
「えーっと…す、凄いじゃないですか!採点で100点ですよ!ただ…」
「何一つ響かなかっただろう?」
「…どういうことだ?」
「別にふざけた訳では無いんだ。ただ、感情を籠めて歌うってのが分からなくて…リズムも、音程も、完璧に合わせることができるけどな…歌を歌った時が一番、自分が“紛い物”だって実感する…」
「ナナシ…」
「…ま、そんなことより!今度はこっちのリクエストに応えてもらうぞ!奏!翼!今入れた歌を二人で歌ってもらう!!」
「!?い、何時の間に…」
「ま、まあ構わな…ちょっと待て!?何だこの曲は!!?」
「児童向け変身少女アニメのオープニング。キャライメージ的に奏は黒いコスチュームの方で!翼は白い方!普段じゃ絶対に聴けないような歌を選んだ!!」
「こ、こんなの歌える訳…」
「あはははは!良いじゃないか!歌ってやろうぜ翼!ナナシがあたし達にお願いすることなんて滅多に無いだろ?偶には労ってやらないと!」
「くぅ…ええい分かった!歌えば良いんだろう!!」
「ドンドンパフパフワーワー!!」
「あ、ある意味凄い貴重な経験だね、未来…」
「そ、そうだね、響…」
「ああ、二人はこの曲を頼む。未来は戦隊ヒーロー物の熱い曲、響はバラードだ」
「「!!?」」
「翼さーん!」
「大丈夫か翼?」
「四人とも、どうしてそんなに元気なんだ?」
「翼さんがへばり過ぎなんですよ」
「今日は慣れないことばかりだったから」
「…防人であったこの身は、常に戦場にあったからな」
「入院中に体力も落ちたんだろ。無理するなよSAKIMORI」
空が夕焼けに染まる頃、一通り遊んで回った五人は、遊具の設置された高台にある広場に集まっていた。
「…本当に今日は、知らない世界ばかりを見てきた気分だ」
「そんなことありません」
響はそう言って、翼の手を取り引っ張ってついてくるよう促す。
「お、おい!?立花何を…」
翼は突然の響の行動に驚くが、響は構わず翼を高台の手すり付近、街を一望できる見晴らしの良い場所に連れて行く。
「あそこが待ち合わせした公園です。皆で一緒に遊んだところと、遊んでないところも全部、翼さんの知ってる世界です。昨日に翼さんが戦ってくれたから、今日に皆が暮らせている世界です。だから、知らないなんて言わないでください」
翼は響の言葉を聞いて、少し戸惑ったような表情を浮かべた後、再度街を眺めた。そんな翼に、奏が近づいてきて、手すりに持たれながら翼に声を掛けた。
「…戦いの裏側とか、その向こう側には、また違ったものがあるんじゃないかな?あたしはそう考えてきたし、そいつを見てきた」
「…そうか、これが奏の見てきた世界なんだな」
「そして、お前が目を背け続けてきた世界だ」
そう言って、今度はナナシが翼に話しかけてきた。
「今目の前に広がる光景が、今日お前が見て回った世界が、ここにいる全員が浮かべた笑顔が、翼が、奏が、響が、弦十郎達が守ってきたものだ。少しは理解できたか?」
「…サラッと自分を抜かすんじゃないよ」
「俺が守っているのはお前達の歌だよ。世界はそのオマケ」
「全く…」
奏とナナシの会話を聞いて、翼は微笑んだ後…何かを決意したような、そんな表情を浮かべた。
後日
「え!復帰ステージ!!」
「アーティストフェスが十日後に開催されるのだが、そこに急遽ねじ込んでもらったんだ」
「なるほど~」
「倒れて中止になったライブの、代わりという訳だな」
リディアンの屋上で、翼、響、未来の三人がそんな会話をしていた。響が翼から貰ったチケットの裏を覗き込み、そこで何かに気が付く。
「翼さん、ここって…」
そこに記載されている会場は…二年前、あの惨劇が繰り広げられた場所だった。
「…立花にとっても、辛い想い出のある会場だな」
「ありがとうございます。翼さん」
「…響?」
「いくら辛くても、過去は絶対に乗り越えて行けます。そうですよね!翼さん!」
そう言って、響は翼に笑顔を浮かべる。それは、強がりも、やせ我慢も無い、まるで太陽のような、見た人の心を暖かくする笑顔であった。
その笑顔を見て、翼は少し視線を彷徨わせた後…しっかりと、響の顔を見て微笑み返した。
「そう在りたいと、私も思っている」