戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第30話

湖畔沿いにある、とある洋館

 

クリスはあのライブの後、自分の行き場も、やるべきことも見つけることができずに、フラフラと…自分が殺されそうになったフィーネのアジトへと訪れていた。

 

「…何だ?この違和感…ッ!?」

 

クリスがアジトに近づくと、そこには以前は無事だった窓ガラスが砕けて、壁の一部に弾痕や罅があることに気が付いた。クリスは急いでアジトに入って室内の様子を窺う。すると…そこには、複数の人間が血を流して絶命していた。室内には、砕けた家具や銃弾で破壊されたモニターなど、争った痕跡がある。

 

「何が、どうなってやがんだ…?」

 

ガタンッ

 

背後から聞こえた物音にクリスが振り返ると、そこには険しい顔をした弦十郎と、辺りの様子を窺うナナシが居た。

 

「違う!あたしじゃない!やったのは…」

 

「いや分かっているよ、そんなこと。おーい皆、とりあえず大丈夫そうだから調査を開始しよう」

 

ナナシがそう言うと、部屋の中に黒服達が一斉に入ってきた。クリスは思わず身構えるが、黒服達はクリスの横を通り過ぎて室内を調べ始めた。

戸惑うクリスに弦十郎が近づき、その頭にポンと手を乗せた。

 

「誰もお前がやったなどと、疑ってはいない。全ては、君や俺達の(・・・)傍に居た彼女の仕業だ」

 

「え?」

 

「風鳴司令!」

 

弦十郎の言葉にクリスが戸惑っていると、黒服の一人が弦十郎に声を掛けた。黒服の傍の死体には紙が貼られており、そこには『I Love You SAYONARA』と書かれていた。

黒服がその紙を剥がす。その瞬間、複数の場所で一斉に爆発が起こり、建物が崩壊した。

 

 

 

「無事?」

 

「す、すみません。ナナシさん…」

 

先程紙を剥がした黒服を、ナナシは咄嗟に庇っていた。黒服は無傷だが、ナナシの体は爆発で飛んできた破片などで所々傷を負っていた。だが、そんな傷もすぐに“高速再生”で塞がってしまう。

ナナシが弦十郎の方に視線を向けると、無傷の弦十郎が大きな瓦礫を片手で受け止めて、クリスを守っていた。

 

「どうなってんだよ、コイツは…」

 

「一応聞くけど、無事か?弦十郎」

 

「ああ、衝撃は発勁でかき消した」

 

「いや、そんな当たり前みたいに言われても…」

 

「そういうことを聞いてんじゃねえ!!」

 

そう言って、クリスは弦十郎から距離を取る。

 

「何でギアを纏えない奴が、あたしを守ってんだよ!?」

 

「俺がお前を守るのは、ギアのあるなしじゃなくて、お前よか少しばかり大人だからだ」

 

クリスの問いに、弦十郎はクリスを真っ直ぐ見つめて答える。

 

「大人…あたしは大人が嫌いだ!死んだパパとママも大嫌いだ!とんだ夢想家で臆病者! あたしはあいつらと違う!おセンチで難民救済?歌で世界を救う?いい大人が夢なんか見てるんじゃねえよ!」

 

「なら、大人はどうやって生きればいいんだ?」

 

クリスの言葉に、ナナシは疑問をぶつけた。

 

「“紛い物”の俺と違って、人間はいつか大人になる。大人が夢を見たらいけないなら、大人は何のために生きればいいんだ?目的も持たず、意味もなく、ただ生きていればいいのか?…それはダメだ。そんな生き方だけはしちゃいけない。あんなのは生きているとは言わない」

 

「お前、突然何を…」

 

ナナシはいつも浮かべている笑みを消し、淡々と言葉を口にしていた。そんなナナシの様子にクリスがたじろいでいると…

 

「大人が夢を、ね…」

 

弦十郎の呟きを聞いたクリスは、ナナシから目を逸らすように弦十郎に怒鳴りつけた。

 

「本当に戦争を無くしたいのなら、戦う意志と力を持つ奴を片っ端からぶっ潰していけばいい!それが一番合理的で現実的だ!」

 

「そいつがお前の流儀か。なら聞くが、そのやり方でお前は戦いを無くせたのか?」

 

「ッ!?それは…」

 

弦十郎の返しにクリスは言い淀む。そんなクリスに、弦十郎は諭すように言った。

 

「いい大人は夢を見ないと言ったな?そうじゃない。大人だからこそ夢を見るんだ。大人になったら背も伸びるし、力も強くなる。財布の中の小遣いだって、ちっとは増える。子供の頃はただ見るだけだった夢も、大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる…お前の親は、ただ夢を見に戦場に行ったのか?…違うな。歌で世界を平和にするっていう夢を叶える為、自ら望んでこの世の地獄に踏み込んだんじゃないのか?」

 

「なんで、そんなこと…」

 

「お前に見せたかったんだろう。夢は叶えられるという、揺るがない現実をな…お前は嫌いと吐き捨てたが、お前の両親は、きっとお前のことを大切に思っていたんだろうな」

 

「うっ、ぐっ…」

 

弦十郎の言葉で、クリスは両親の想いを理解できた気がした。涙を堪えるクリスを、弦十郎は力強く抱きしめた。

 

「うっ、くっ…うわあああぁぁー!!」

 

優しさに、温もりに触れて、遂にクリスは涙を堪えられなくなった。クリスは弦十郎の胸に顔を押し付け、子供の様に大声で泣きじゃくった。

 

 

 

 

 

「…ナナシ君、大丈夫か?」

 

「うん?今更?確かに服はボロボロで所々血で染まっちゃったけど、もう傷は無いよ。後で着替える」

 

「……そうか」

 

弦十郎の問いかけに、ナナシはいつもと変わらぬ様子で答えた。

クリスが落ち着くのを待った後、黒服達と事後処理を終えて車に近づくと、今度はナナシが弦十郎に話しかけた。

 

「弦十郎。俺の師匠だって言うなら、戦い方よりもさっきみたいなことを教えてよ」

 

「さっき?」

 

「想いを言葉に籠める方法。どうすれば言葉にあんなに感情を籠められるんだ?クリスをあっさり『柔らかく』したし…やっぱり“紛い物”には無理なのかな?」

 

そう言って頭を悩ませているナナシを見て、弦十郎は思わず呟いた。

 

「…全く、ナナシ君は自分のことについて、本当に分かっていないんだな…これは、奏君が我々に相談する訳だ…」

 

「うん?奏が何か言っていたのか?」

 

「いや…先程の話についてだが、ナナシ君も大人になれば分かるさ」

 

「…それって年を取らない俺には一生無理ってこと?生きている年数だけなら弦十郎の数百倍のはずなんだけど…」

 

「ナナシ君、大人になるっていうのは、ただ年を取るってことでは無いんだ。自分の生きてきた人生の中で、少しずつ大切なものを積み上げていくことで人は大人になっていく。そういう意味では、君が生まれたのはあのライブの日で、君はまだ二歳ってことになるな。俺達にとっては、まだまだ目を離せない子供だな」

 

「…なら、俺がようやく大人になる頃には、もう奏達は弦十郎達みたいな立派な大人になっているって訳か…」

 

「ハハハハ、そうとは限らないさ。言っただろう?積み重ねだと。この二年で、君はすっかり人らしくなった。違いなど、我々からすれば分からないくらいにはな…大丈夫だ。君は今まで通り、俺達と一緒に様々なものを積み上げていけばいい。もう少し、俺達を頼ってくれてもいいんだがな」

 

「前に奏にも言ったけど、頼ってばかりでこれ以上なんて思いつかないよ…はぁ、やっぱり人間って難しいな…まあ、この話はもういいや。それで、本当に来ないのか?」

 

ナナシはそう言って、車から少し離れた場所にいるクリスに声を掛けた。

 

「やっぱり、あたしは…」

 

躊躇するクリスに、今度は弦十郎が声を掛ける。

 

「お前は、お前が思っているほど一人ぼっちじゃない。お前が一人道を行くとしても、その道は遠からず、俺達の道と交わる」

 

「今まで戦ってきた者同士が、一緒になれると言うのか?世慣れた大人が、そんな綺麗事を言えるのかよ…」

 

「…ホント、捻てるな、お前…ほれ」

 

そう言って、弦十郎は何かをクリスに投げ渡した。

 

「通信機?」

 

「そうだ。限度額内なら公共交通機関が利用できるし、自販機で買い物も出来る代物だ。結構便利だぞ?」

 

「ああ、ついでにこれも持ってけ」

 

そう言って、今度はナナシが“収納”から取り出した袋を放って渡した。

 

「何だよ、コレ?」

 

「あんぱんと牛乳。前に弦十郎から貰って気に入ったみたいだって聞いていたから買っておいた。この前のライブを守ってくれたお礼だな」

 

「…ハッ、随分安上がりな報酬だな…てめえには、元々借りがあったろ?それで帳消しで良いだろうが」

 

「そう言われないために用意したんだよ!お前の歌楽しみにしているんだから今更撤回なんてさせてたまるか!今のお前なら良い歌聴けそうだし早速どうだ?いい加減お前をどう呼べばいいか分からないし、そろそろ名前で呼ばせてくれ」

 

「ッ!?勝手に呼べばいいだろそんなの!あたしは、歌なんて…」

 

「なら、気長に待つさ。それが報酬として気に入らないなら、また何か持ってくる…一緒に来てくれるなら、いちいち借りだの貸しだの言わないんだけどな。そんなこと言い出したら、俺は貰ってばかりで返せる気がしないからな」

 

笑いながらそう言うナナシは、クリスの顔を見ながら少し真面目な顔で言葉を続けた。

 

「俺は運が良かったんだ。何も考えなかった俺が奏や翼、弦十郎達に会えたお陰で今の俺になることができた。お前は自分で考えて、悩むことができているんだ。いつかちゃんと答えが出せるよ…何の根拠もない俺の妄想だけどな。じゃあ、またな、あんぱん牛乳。次会った時は歌を聴かせてくれることを期待している」

 

「ッ!?だから、変な呼び方するんじゃねー!!」

 

クリスの抗議も聞かず、ナナシはさっさと車に乗り込んでしまった。弦十郎も、ナナシ達のやり取りに笑みを浮かべながら、車に乗り込んでエンジンを掛ける。そのタイミングで、クリスが弦十郎達に話しかけてきた。

 

「…『カ・ディンギル』!」

 

「ん?」

 

「フィーネが言ってたんだ。『カ・ディンギル』って。それが何なのかわかんないけど、もう完成している、みたいなことを…」

 

「『カ・ディンギル』…ナナシ君、何か知ってるか?」

 

「いや、二課の資料でもそれらしき名前は見てないな」

 

「そうか…後手に回るのは終いだ。こちらから打って出てやる」

 

そう言って、弦十郎は車を出発させた。それを見送ったクリスは、通信機と食べ物が入った袋を見て、小さく呟くのだった。

 

「…あたしの歌、か…」

 

 

 

 

 

「なあ、弦十郎。お前は子供を作る気はないのか?」

 

本部に向かう道中で、ナナシは突然弦十郎にそんなことを言い出した。

 

「っ!?どうしたナナシ君!?突然そんなことを聞くなんて…」

 

「いや、弦十郎なら凄く良い父親になると思ってさ。弦十郎が子供を育てるのを近くで見ていたら、俺もその子供と一緒に成長できないかなって」

 

「…手間の掛かる子供なら、もう俺の周りにはたくさん居る。それに、まずは子供の前に交際相手を探さないといけないだろ?俺にはそんな暇はない」

 

「探さないといけないの?…ふ~~~~~~ん」

 

「な、何だ?その含みのある言い方は…」

 

「べっつに~~~、何でもないよ。ホントホント」

 

「…何なんだ、一体?」

 

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