戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第32話

「誰か、残っている人はいませんか!」

 

未来は、校舎内を走り回っていた。

リディアンにノイズの出現が確認された後、教室単位での避難誘導が終わったため、未来は校舎内に残った生徒がいないかを確認していた。そこに…

 

「未来!!」

 

「っ!奏さん!!」

 

同じく、逃げ遅れた人間がいないか確認していた奏と合流した。

 

「こっちには誰もいなかった。あたし達も避難するよ!」

 

「はい!」

 

二人が本部に繋がるエレベーターに向かおうとすると、すぐ近くで爆発音が聞こえた。二人がそちらに目を向けると、窓ガラスの向こうでノイズ達が暴れていており、学園内は滅茶苦茶になっていた。

 

「学校が…響の帰ってくるところが…」

 

「クソッ!あたしに、戦う力があれば…」

 

その光景に、未来は狼狽え、奏は悔しさに顔を歪めながら無意識に胸のギアペンダントを握りしめる。

 

ガシャンッ!

 

そんな二人のすぐ傍に、窓ガラスを突き破ってノイズが侵入してきた。

 

「逃げるよ!!」

 

「っ!はい!」

 

未来の手を引いて奏が走り出すが、そんな二人にノイズが突撃してきた。

 

「危ない!」

 

二人の横から現れた人物が、二人を押し倒すようにぶつかりノイズの突進はギリギリのところで回避された。

 

「「緒川さん!?」」

 

「ギリギリでした。次、上手くやれる自信は無いですよ」

 

そう言って緒川は二人を立ち上がらせる。三人の向こうでは、体勢を立て直したノイズがこちらに向かおうとしていた。

 

「走ります!三十六計逃げるに如かずと言いますし!」

 

「ああ、急ぐよ!」

 

「は、はい!」

 

三人は急いでエレベーターに乗り込む。ノイズが扉を透過してこちらに迫ってきたが、エレベーターが降下を開始し三人は何とか窮地を脱することができた。

 

 

 

 

 

「未来さん達のお陰で、被害は最小限に抑えられています。これから二人を、シェルターまで案内します」

 

『分かった。気を付けろよ』

 

降下するエレベーターの中で、緒川と弦十郎は通信を行っていた。

 

「それよりも司令…」

 

『ん?』

 

「『カ・ディンギル』の正体が判明しました」

 

『何だと!?』

 

「物証はありません。ですが、『カ・ディンギル』とはおそらく…」

 

バンッ!!

 

緒川が弦十郎に『カ・ディンギル』の正体を告げようとした時、エレベーターの天井を突き破って侵入してきた何者かが、通信機を破壊して緒川の首を締めあげた。

 

「うぐっ!」

 

「緒川さん!?」

 

「てめえ、離しやがれ!」

 

そう言って、侵入者に掴みかかる奏だが、もう片方の手で緒川と同じように首を掴まれてしまう。

 

「がっ!…て、めえ…」

 

「こうも早く悟られるとは…何が切っ掛けだ?」

 

侵入者…フィーネは、奏を無視するように緒川に視線を向けて話しかける。

 

「塔なんて目立つ物を、誰にも知られずに建造するには、地下へと伸ばすしかありません。そんなことが行われているとすれば特異災害対策機動部二課本部、そのエレベーターシャフトこそ『カ・ディンギル』…」

 

「!?ちょっと、待て…そんなこと、できるのって…」

 

緒川の言葉を聞いて、奏が何かに気が付く。

 

「漏洩した情報を逆手に、上手くいなせたと思ったのだが…」

 

フィーネがそう言うのと同時に、エレベーターが下に到着し扉が開く。その隙に、奏と緒川は拘束から脱出し、奏は横に避難、緒川はフィーネに向けて発砲する。

だが、弾丸はフィーネの肌に傷一つ付けることなくフィーネに接触して止まった後、ポロポロと地面に落ちる。

 

「ネフシュタン…」

 

フィーネは鎧に付いた鞭を操り、緒川とフィーネに飛び掛かろうとしていた奏を拘束する。

 

「があああああっ!?」

 

「くうううううっ!?」

 

鞭に締め付けられて苦悶の声を上げる二人。

 

「緒川さん!奏さん!」

 

「み、未来さん…逃げて…」

 

「ぼ、さっと、すんな…早く…」

 

二人の言葉を聞いた未来は…覚悟を決めて、フィーネにぶつかっていった。だが、フィーネの体は動くことなく、フィーネは未来に視線を向ける。フィーネは鞭から二人を放り出し、未来の顎を持ち上げて話しかけてきた。

 

「麗しいな。お前達を利用してきた者達を守ろうと言うのか?」

 

「利用?」

 

「何故二課本部がリディアン地下にあるのか…聖遺物に関する歌や音楽のデータを、お前達被験者から集めていたのだ。その点、そこの天羽奏と風鳴翼という偶像は生徒を集めるのに良く役立ったよ。ハハハハッ!」

 

そう言って、笑いながら背を向けるフィーネに、未来は叫ぶ。

 

「嘘をついても、本当のことが言えなくても、誰かの命を守るために、自分の命を危険に晒している人がいます!私は、そんな人を…そんな人達を信じてる!!」

 

「…チッ!!」

 

「くっ!…うぅ…」

 

未来の言葉を聞いたフィーネは、苛立たし気に未来を引き寄せてその顔を叩いた。その衝撃で未来は地面に倒れ込む。

 

「まるで興が冷める!!」

 

冷めた表情でフィーナはそう言い放ち、未来達に一瞥もくれることなくデュランダルが格納されている部屋に歩みを進めた。

 

 

 

 

 

フィーネが格納区画への扉を開けるため、通信機を認証装置にかざそうとして…

 

バァンッ!

 

…フィーネが持つ通信機を、緒川が狙撃して破壊した。

 

「デュランダルの元へは行かせません!この命に代えてもです!」

 

「……」

 

緒川はフィーネに宣言して構えを取り、フィーネは無言で鞭を操作する。

 

「待ちな、了子」

 

ドゴォォォン!

 

その声と共に、両者の間の天井が破壊され、そこから弦十郎が姿を現した。

 

「私をまだその名で呼ぶか…」

 

そう言って、フィーネは弦十郎を睨みつける。

 

「…この施設は、お前とあの“紛い物”の戦闘を元に、強化を繰り返してきたはずなんだがな…ここまで容易く粉砕するか」

 

「男子三日合わざれば刮目して見よ、と言うだろう?どれだけ過去の俺達を元にしようと、今日を生き、そして未来に向けて積み重ね続ける俺達に、そんなものが通用すると思うなよ!」

 

「…本当に、師弟揃って枠に収まらない奴らだ」

 

「女に手を上げるのは気が引けるが、三人に手を出せば、お前をぶっ倒す!」

 

「司令…」

 

「ダンナ…」

 

「調査部だって無能じゃない。米国政府のご丁寧な道案内で、お前の行動にはとっくに行き着いていた。後は燻り出すため、敢えてお前の策に乗り、ナナシ君とシンフォギア装者を全員動かしてみせたのさ」

 

「陽動に陽動をぶつけたか。食えない男だ。だが!この私を止められるとでも?」

 

「応とも! ナナシ君にも、お前のことを『よろしくお願い』されている!一汗かいた後で話を聞かせてもらおうか!」

 

そう宣言し、弦十郎がフィーネに向かって駆け出す。フィーネは二本の鞭を弦十郎に向けて伸ばすが、弦十郎は跳躍して回避し、天井を蹴って一気にフィーネとの距離を詰める。

 

「ハアアァ!!」

 

掛け声と共に放たれる弦十郎の拳を、フィーネは肩に掠めつつ辛うじて回避する。だが、掠めただけに関わらず、ネフシュタンの鎧には細かい罅が入った。

 

「ッ!?チィッ!!肉を削いでくれる!!」

 

鎧はすぐに修復され、フィーネは弦十郎に鞭を二本叩きつけようとする。だが、弦十郎はガシッと簡単に鞭を掴み、そのまま力一杯鞭を引っ張る。フィーネはその力に抗えず、無防備な状態で弦十郎の傍まで引き寄せられてしまった。

 

「ハアアアアァ!!」

 

弦十郎の渾身の一撃がフィーネの腹部に命中し、その勢いでフィーネの体が宙を舞い、地面に落ちていった。

 

「ガハッ!?…完全聖遺物を退ける!? どういうことだ!!?」

 

「知らいでかっ!飯食って映画見て寝る!男の鍛錬は、そいつで充分よ!」

 

「なれど人の身である限りは!」

 

「させるか!」

 

フィーネが、例の杖を構えてノイズを召喚しようとする。すると、弦十郎は瞬時に震脚で瓦礫を舞い上げ、杖に向けて蹴り飛ばした。瓦礫は見事に杖に命中し、弾き飛ばされた杖は天井に突き刺さった。

 

「ノイズさえ出てこないのなら!」

 

弦十郎はその好機を見逃すことなく、一気にフィーネに接近した。

 

 

 

「弦十郎君!」

 

 

 

…接近してきた弦十郎に、了子(・・)が声を掛ける。その声音に、表情に、弦十郎が一瞬躊躇する。

 

その隙に…フィーネが弦十郎の腹部を、鞭の先端で貫いた。大量の血を流しながら、弦十郎はその場に倒れ込んだ。

 

「司令!?」

 

「ダンナ!?」

 

「いやあああああ!!」

 

緒川と奏が弦十郎に声を掛け、未来が悲鳴を上げる。

 

「抗うも、覆せないのが定めなのだ!」

 

そう言って、フィーネは弦十郎の体から血塗れの通信機を取り出し、扉に向かって歩いていく。

 

「何で…何でなんだよ!?了子さん!?」

 

その背に向けて奏が叫んだ。

 

「今まであたし達を支えてくれたあんたが、どうしてこんなことをするんだ!?ダンナを手にかけてまで、あんたは何がしたいって言うんだ!!?」

 

奏の叫びを聞いたフィーネは、冷たい瞳を奏に向けて…ある真実を語り出す。

 

「…全く、どこまでも愚かな娘だ。知らぬこととはいえ、長年家族の仇の傍に居ながら、利用されていることにも気が付かないのだから」

 

「………………え?」

 

奏は、フィーネの言葉の意味を理解することができず、呆然として声を漏らす。そんな奏に対して、フィーネは笑いながら更に言葉を続けた。

 

「貴様の父親も愚かな男だったな?遊び半分で家族などを発掘現場に連れて行かなければ、死ぬのは自分一人で済んだものを…」

 

「…あ…あ…あぁ…」

 

フィーネの言葉の意味を、奏の頭がようやく理解し始める。そして、奏の感情が、奏の心が、どんどん黒いモノで塗りつぶされていく…

 

「ああああぁああああぁぁああああぁああああぁぁ!!!!」

 

奏は、我を忘れてフィーネに飛び掛かる。フィーネは奏を鞭で拘束するが、奏は体に鞭が食い込むことも気にせずにフィーネに手を伸ばし続ける。

 

「了子!!てめえが!!てめえがあたしの家族を!!!殺してやる!!!殺してやる!!!!」

 

奏が怨嗟の言葉を吐きながら、尚もフィーネに手を伸ばし続けた。そんな奏を、フィーネは壁に叩きつける。

 

「があっ!!?」

 

奏は起き上がろうとするが、痛みと体へのダメージで意識を保つのがやっとだった。

 

「殺しはしない。貴様は存外役に立った。本来は危機的状況でギアを修理し、貴様の奏でる絶唱からデータを取れればいいと考えて生かしていたが…この二年、貴様の体を治療するために、あの“紛い物”は碌に能力の開発を行わなかったからな」

 

「っ!!?」

 

「あの男は、妙に勘が鋭い上に常に活動し続けるから、私が計画を進める上で邪魔でしか無かった。そんな男の枷として、貴様と風鳴翼は良く働いてくれた。せめてもの礼に、私が与えた玩具すら纏うことができない無力な自分を呪いながら、生き恥を晒し続けるがいい」

 

そう言って、フィーネは格納区域の扉を開けて中に入って行った。

 

「司令!司令!…未来さん、司令は僕が運びますから、あなたは奏さんをお願いします!」

 

「っ!…は、はい!」

 

緒川に指示を出された未来は、奏に肩を貸して歩き出す。その間、奏はずっと譫言を呟いていた。

 

「……チク、ショウ……チクショウ……ころしてやる…了、子…」

 

 

 

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