戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ   作:@sora@

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第34話

ぱちりっ、とナナシの目が開く。

横になっていたナナシは、意識が覚醒するのと同時に一気に起き上がり、周囲を確認した。

 

そこは、何処かの建物の室内のようで、周囲にはナナシが横になっているベッドと同じようなベッドが幾つか設置されており、微かに薬品の匂いが漂っていた。

 

「…病院?医務室?」

 

『目が覚める』という今までに経験したことが無い感覚に戸惑いつつ、ナナシが現在の自分の居場所を確認していると…

 

「う、うぅん…」

 

…ナナシの寝ているベッドの縁で、奏が蹲って眠っているのを発見した。

 

「奏!奏起きてくれ!」

 

「うぅん…ん?…ッ!?ナナシ!!お前目が覚めたのか!?体は大丈夫か!?何処か痛む所は無いか!?」

 

目を覚ました奏は、ナナシに詰め寄って早口で質問を投げかける。ナナシはナナシで、奏に色々聞きたいことがあるため、慌てて語り掛ける。

 

「俺の体がどうにかなるはず無いだろ?そんなことより、翼達は無事なのか?了子は?カ・ディンギルはどうなった?」

 

「ナナシ…」

 

「一体ここはどこだ?弦十郎達は?未来は?奏は大丈夫だったか?お前はどこも怪我とかしてない…」

 

バチンッ!!

 

矢継ぎ早に質問をするナナシの頬に、奏の平手打ちが入った。

 

「少しは…自分の心配をしろこのバカ!あたしがどれだけ心配したと思ってんだ!!もしこのままずっと目を覚まさなかったら…あんたまで…あたしの前からいなくなったらって…本当に…怖くて…」

 

最初こそ怒鳴り声を上げていた奏だが、少しずつ声の勢いが弱まっていき、最後は涙を流してナナシの胸に顔を埋めた。

 

「…あー…心配させて悪かった…そんなにヤバかったのか俺?」

 

「…左手しか、残ってなかった…」

 

「…マジか…心臓や頭部は流石にマズいかなぁと思って、今まで一応は庇っては来たけど…一部でも残れば再生するのか俺…というか、あの状況でよく左手だけでも残ったな…こうなると、体全部消し飛んでも二課に体を一部保管して貰っておけばそこから再生できるかも…」

 

ナナシの言葉の途中で、奏がキッと睨んできたため、ナナシは黙り込む。しばらく医務室には奏のすすり泣く音だけが響いた。少しして、ナナシはどうしても気になっていることを奏に問いかける。

 

「…なあ、奏。俺ってどれぐらい眠っていた?」

 

ナナシの問いかけに、奏は顔をゆっくり上げて、目の周りが赤くなった顔をナナシに向けながら答えた。

 

「…了子がカ・ディンギルを起動させたあの日から、今日で五日目だ」

 

 

 

 

 

ナナシは、ベッドの上で頭を抱えていた。

奏に聞いた話をまとめると、次のようになるらしい。

 

 

 

・デュランダルの消失によってカ・ディンギルは機能を停止。だが、内部に残ったエネルギーが暴走してカ・ディンギルが暴発、同時にカ・ディンギル本体が爆散する

 

・暴発したカ・ディンギルの一撃は、直前で機能が停止したことで狙いが外れ、月の一部を欠けさせるだけの結果に終わる

 

・その後、ナナシの残った左手が爆発の衝撃で外に飛び出し、それを目撃した響が我を失いデュランダル接触時に見せた暴走状態になる

 

・暴走状態の響は敵味方の識別ができず、フィーネだけでなく翼やクリスにも攻撃を仕掛けるが、翼が身を挺して言葉を掛け続けることで正気に戻すことに成功。その代わり翼は響の攻撃を胸に受けて重傷を負う

 

・ネフシュタンを纏ったフィーネに対して、重傷を負った翼、暴走から復帰して疲弊した響を庇いつつクリスが奮闘するが、三人は窮地に立たされる

 

・その場に、弦十郎達や奏、未来を含めたシェルターに避難した人達の奮闘により、三人を応援する歌声がスピーカーから響いたことで周囲のフォニックゲインが活性化。それによって三人の纏うシンフォギアの限定解除モード…エクスドライブの発動に成功。その性能によってフィーネを圧倒する

 

・追い詰められたフィーネは、起死回生の手として欠けた月の一部にネフシュタンの鞭を伸ばし、地球に向けて落下させるよう仕向ける

 

・月の落下を阻止するため三人は迫りくる月に接近し、三人で奏でる絶唱の高出力攻撃によって見事落下する月を破壊、そして無事生還を果たす

 

 

 

「それで、諸々の事後処理を弦十郎のダンナ達がする上で、あんたと翼達が生きてることが早々に分かると色々面倒だから、しばらくの間は行方不明扱いにして、ここ…仮設本部として今後使う予定の潜水艦の中でしばらくの間生活することになったって訳だ。理解できたか?」

 

「…ああ、問題ない。現状は理解できた…」

 

そう言うナナシの言葉には力が感じられず、相変わらず頭を抱えて項垂れていた。

 

「翼達が無事だったって言うのに、随分と気落ちしてるみたいだけど、どうしたんだ?」

 

「…あいつらが無事なのは嬉しいさ。ていうか無事じゃなかったらもっと取り乱している。だけどな…考えがあるって突っ走った上で、失敗して月は欠けさせる、響は暴走させる、月の欠片に突っ込ませる、挙句の果てに切っ掛け作った本人は尻拭いを全部任せて今まで寝こけていたんだぞ?…跡形もなく消し飛んだ方が良かったんじゃないか、俺?」

 

ナナシがそう言った瞬間、奏がナナシの頭に拳骨を落とした。

 

「バカなこと言ってるんじゃない!翼達は、あんたのことを信じて行動した。あんたも、翼達を信じて行動した。その結果が望んだものじゃなかったとしても、それを補ったり、支え合ったりするのが仲間だろ!あんた達が了子の企みを阻止しようとしてそれぞれが頑張った結果、誰一人欠けることなく帰ってきたんだ。たかだか月が欠けたくらい、大したことじゃない。だから…自分が死んでれば良かったなんて、バカなことは二度と口にするな!翼達に申し訳ないと思うなら、元気な顔見せてちゃんと謝ってこい!」

 

「…悪い、取り乱した。軽々しく口にして良い言葉じゃなかった。済まない…」

 

「ったく…本当に、体は大丈夫なのか?」

 

「ああ、前に再生した直後みたいな、妙な気怠さは感じない」

 

「前って、二年前に腕を再生させた時のことか?あの時そんなに気怠かったのか?」

 

「いや、そっちじゃなくてデュランダルの移送…あっ…」

 

ナナシは自分の失言に思わず口を押える。あの時は車の爆炎やデュランダルの攻撃の余波で弦十郎達からは詳細が良く見えていなかったので、響が気に病まないように黙っていたのだ。

 

「悪い、気のせいだ。ちょっと頭が消し飛んだ影響で記憶が混乱しているみたいだ。気にしないでくれ。もう少しだけ休んでおくから、奏もゆっくり休んでくれ。顔色良くないしあんまり眠れてないだろ?」

 

そう言ってすぐに取り繕うナナシ。実際、普段のナナシならここまで分かりやすい失言はしないため、本調子でないのは確かだと思っていた。

 

「そうかそうか…で、デュランダル移送作戦で何があったんだ?」

 

笑顔でそう尋ねる奏に、ナナシは冷や汗を流す。奏の顔は笑顔だったが、その笑顔の下に怒りを隠しているのは感情の分かるナナシでなくても明白であった。

 

「いや、別に大した問題はなかったんだ。怪我をしたのは確かだけど無事に帰ってこれたし…」

 

「もうあんたの前では歌わない」

 

「デュランダルの一撃で腹から下が全部蒸発した。響には内緒にしてくださいよろしくお願いします」

 

その後、奏の説教がしばらくの間医務室の中に響いた。

 

 

 

「全く、あんたって奴は…」

 

「…ごめんなさい」

 

「…これからもちゃんと帰ってきてくれるならいい。あんた達がちゃんと元気で帰ってきてくれるって信じてるから、あたしはダンナ達と待っていられるんだ。もし帰って来ないようなら、あたしは無理やりでもあんた達の所に突っ込んで連れ帰るからね!」

 

「…それは、せめて奏の体とギアをどうにかしてからにしてくれ」

 

「なら、早いところ何とかしてくれよ。じゃないと、本当に生身で突っ込んで行くからね」

 

「…ああ、頑張るよ。また奏の歌を聴きたいからな。戦場での奏の歌は、あの一回しか聴けてないし」

 

「ああ、頑張りな」

 

そう言って、奏とナナシは笑い声を上げる。それが収まると、ナナシは奏に向かってある質問をした。

 

「…了子は、どうなったんだ?」

 

「……」

 

ナナシの質問に、奏はしばらく黙り込んだ後…真剣な表情で、ナナシにあることを伝えた。

 

 

「…了子が…あんたとの面会を求めている。一緒に来てくれ」

 

 

 

 

 

三人が月の落下を阻止した直後のことだ。

 

「成し遂げた…か」

 

フィーネが見上げる空で、月の欠片が破壊され、破片が流れ星となって降り注いでいた。

 

『了子さんに未来を託すためにも、私が今を守ってみせますね!!』

 

これだけのことを仕出かした自分に対して、響は笑みを浮かべながら、真っ直ぐにこんなことを言ってきたのだ。そんな響を、フィーネは…了子は、止めるでも無く、嘲笑う訳でもなく、困ったような表情を浮かべて、激励とも取れる言葉を口にした。

 

『胸の歌を、信じなさい』

 

何故そんなことを言ったのかは、了子自身にも分からない。

 

(変わったのか、それとも変えられたのか…)

 

呆然と空を眺める了子に、一人の人物が近づいてきた。

 

「了子君…」

 

その人物…弦十郎は、静かに了子に対して話しかけた。

自分をまだその名で呼ぶこと、そして腹を貫いてまだ半日も経っていないのに平然と歩いていることに呆れながら、了子は弦十郎の方を向き…その後方にいる人物に目を向けた。

 

了子の視線の先では、残った左手を起点に肉体を復元し、今なお目覚めないナナシと、そんなナナシを抱えながら、空を見上げている奏の姿があった。

 

「……」

 

了子は少しの間ナナシを見た後、唐突に弦十郎に対して話しかけた。

 

「弦十郎、取引だ」

 

「!?…取引?」

 

 

「私は、今から無抵抗で貴様達に投降する。その代わり…そこの“紛い物”が目を覚ましたら、私と話をさせろ」

 

 

 

 

 

奏に連れられて向かった部屋の中にナナシが入ると、そこには翼、響、クリスの三人が壁際に立っていて、部屋の中央に設置してある机と二組の椅子…その一つに、金色の長い髪の女、フィーネが座っていた。フィーネの後方には、弦十郎が立っている。

 

「兄弟子!!」

 

ナナシ達が部屋に入ったのを見た響が、真っ直ぐナナシに駆け寄ってきた。その後から、クリスが歩いて近づいてくる。

 

「良かった…目を覚まして本当に良かったです…体は何とも無いんですか?何処か悪いところはありませんか?」

 

「本当に、ご都合主義にも程があるだろ…あんな状態になっても再生できるなんてな。まあ…無事で良かったな」

 

「……」

 

響とクリスがそれぞれナナシに声を掛ける。それに対して、ナナシは特に何か返答をすることなく、無言である一点を見つめていた。怪訝な表情をする響の頭を、ポンポンと叩いてナナシは部屋の奥へ進む。ナナシの視線の先を見て、響とクリスは何処か納得した様子だった。

 

ナナシは部屋の奥に進み、フィーネの前を通り過ぎて、翼の前まで移動してきた。

 

「……」

 

「…無事、目が覚めたようだな…本当に良かった」

 

「……」

 

「…?ナナシ?」

 

翼の前に移動してきたナナシは、翼が話しかけても何も返事をすることなく、ただジーッと翼を見つめていた。流石に様子がおかしいと全員が思い始めたところで、ナナシは…

 

 

ガシッ!!(ナナシが両手で翼の襟元を掴む)

 

バッ!!(襟元を開いて翼の胸元を露出させる)

 

ジー…(無言で翼の胸元を見つめ続ける)

 

 

…一連のナナシの奇行に、全員が反応できなくなる。ナナシは周囲の目を気にすることなく翼の胸元を見つめ続けるが、やがて思考が追い付いてきた翼が…

 

「◎△$♪×¥●&%#?!」

 

…声にならない悲鳴を上げながら全力でナナシを引き剥がそうとするが、翼の力ではナナシは微動だにしなかった。

 

「ナナシ君!?一体何のつもりだ!?」

 

「ちょっ!?ナナシ!?突然どうしたんだ!?」

 

「ふええええ!?あ、兄弟子!?いくら翼さんと再会できて嬉しくても、そういうことはもっと人目のないところで…」

 

「お、おいてめえら!?いきなり何おっぱじめるつもりだ!!?そういうことは家でやれ!!」

 

「家でもさせてたまるか!!?ナナシ離せ!!離して!!お願い…やめて…」

 

「…響の攻撃を受けて重傷を負ったって聞いた。何処だ?怪我が見当たらないぞ?」

 

「っ!?それが理由か!!もう傷は無いから問題ない!!だから早くその手を離せ!!!」

 

「俺や弦十郎じゃないんだから数日で傷が無くなるなんてある訳無いだろ!!こら暴れるな。“解析”が乱れる」

 

「さらりと俺とナナシ君を同列に扱わないでくれるかな…」

 

「…師匠、お腹の傷ってどうなりましたか?」

 

「流石にまだ傷跡は残っている。ナナシ君と違って一瞬で治るなんてことは無い」

 

「いや何で腹貫通されて五日で既に傷跡が消えるのを待つレベルまで治ってんだよ!?十分異常だぞこのおっさんも!!?」

 

ナナシ達が来るまで静まり返っていた部屋の中が、一気に騒がしくなる。そんな騒々しさが増していく部屋の中に、フィーネの声が響き渡った。

 

「…シンフォギアの限定解除モード…エクスドライブの発動時に、鎧が再構成されると同時に装者の肉体の欠損も余剰エネルギーを使って修復したのだろう。既に内部も外部もダメージは残っていないはずだ…その男に関しては埒外の存在だ。私には説明できん」

 

フィーネの説明を聞いて、ナナシはようやく翼の服から手を離し、フィーネの方に向き直った。翼はその隙に胸元を押さえつつ部屋の隅まで移動し、「フーッ!フーッ!」と獣のような威嚇音を出しながら真っ赤な顔と涙目でナナシを睨みつけた。

 

ナナシはフィーネの対面にある椅子に座って…項垂れるように俯いた。

 

「はあ~…クソッ…なんてことだ…」

 

「…あの、兄弟子?やっぱり調子が悪いんでしょうか?」

 

「こいつ、自分がポカしたせいでお前達が危険な目にあったことを気にしてるんだ」

 

「!?そんな!!?兄弟子は自分にできることを精一杯やっただけです!こうして皆元気で帰って来れたんだから何も気にすることなんてありません!」

 

「てめえが全部背負い込むことじゃねえだろ?元はと言えば原因は目の前にいるフィーネと…それを手伝ってたあたしの責任だろ?てめえは自分を責めるんじゃなくて…あたし達を怒鳴りつければいいだろ…」

 

「…私達は、貴様を信じて行動したのだ。例えどのような結果に終わろうと、一人でその責を背負うことは無い。今回は私達で無事後始末を終えることができた。何時までの気を落としているなど貴様らしくないぞ…お前は、いつも通りふてぶてしく笑っていればいい」

 

奏の言葉を聞き、翼達が思い思いにナナシを励ます言葉をかける。それでもナナシは項垂れたまま顔を上げることなく、溜息を吐いた後に力なく、ポツリと呟いた。

 

 

 

「…奇跡を起こす程の歌を、聴き逃すなんて…」

 

「「「「「そっち!!?」」」」」

 

 

 

フィーネを除く全員が思わずツッコミを入れた。そんなナナシを、フィーネは呆れたような目で見ていた。

 

「お前は、何処までもブレないな…」

 

「まあな…さて了子、俺に話があるんだろ?一体何の話なんだ?」

 

ようやくナナシが本題を切り出し始めた。だがそれを聞いたフィーネは、言葉を選んでいるのか、何か葛藤しているのか、なかなか口を開こうとしなかった。一分が経ち、二分が経ち…痺れを切らしたナナシは、“収納”から漫画を取り出して読み始めていた。そんな二人の様子を、周囲の人間は固唾を飲んで見守っていた。

 

「…本、当に…」

 

五分程経過したところで、ようやくフィーネの口が開いた。ナナシは漫画から目を離し、フィーネの言葉に集中する。

 

 

 

 

 

「本当に…お前は、月から降り注ぐものを…『バラルの呪詛』を…『祝福』だと思うのか?…あそこにはまだ…あのお方が居ると言うのか…?」

 

 




主人公離脱後の流れはシンフォギア本編とあまり流れは変わらないため省略しました…………すみません、半分くらいは作者が上手く纏められなかったため誤魔化したところがありますwデュランダルとネフシュタンが対消滅しないため了子生存、後は大体説明書きの通りです。皆様の想像力に頼らせてください…
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