戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
「「……」」
お好み焼き屋『ふらわー』。響達の馴染みのお店で、ナナシも訓練終わりに響達と一緒に何度か来たことがあるその店のカウンターに響、未来、ナナシの三人が並んで座っていた。三人の前には入店と同時にナナシが注文したお好み焼きが置かれている。ナナシはそれをおいしそうに口いっぱいに頬張っているが、響と未来は手を付けないでいた。
「どうした?早く食べないと冷めるぞ?」
ナナシが二人にそう声を掛けるが、二人の手が箸に伸びることはない。
『ふらわー』のおばちゃんはそんな二人の様子を心配そうに見ていた。入店してすぐに二人の表情が暗いことに気が付いたため何があったか聞いたところ、ナナシから「質の悪いナンパに引っかかってちょっと落ち込んじゃったんだ。美味しいお好み焼きを食べれば一発で元気になるからおばちゃん、よろしくお願いします!」と説明を受けたが、それだけではないことをなんとなく察していた。おばちゃんがお好み焼きを作っている間、ナナシはおばちゃんと他愛ない会話をしていたが、響と未来は一度も口を開くことがなかった。
「えっと、兄弟子。気を使ってもらってありがとうございます。ただ、今はちょっと食欲が無くて…このお好み焼きは兄弟子が…」
ぐぅ~
もはや狙ったのではないかというタイミングで響のお腹が空腹を訴えてきた。響は自分のお好み焼きをナナシに差し出そうと手を皿にかけた状態で固まってしまい、それを見たナナシとおばちゃん、そして未来は思わずクスクスと笑ってしまう。
「おばちゃん、お好み焼き三枚追加。二枚は響にお願い」
「ちょっ!?兄弟子!?」
「未来も食べたいならドンドン追加しろよ。一度奢ると言ったからには10万でも100万でも躊躇いなく支払うぞ!」
「そんなには食べられませんよ…」
「そんなに作らされたら私が過労で倒れちゃうよ!」
おばちゃんがそういうと三人はクスクスと笑い出す。暗い空気が少し霧散したおかげか、ようやく二人が箸に手をかける。
「じゃあお言葉に甘えて、ご馳走になりますね!兄弟子!」
「すみません。いただきますね」
「おう、おばちゃんが腱鞘炎にならない範囲でいくらでも頼めばいいぞ!」
「はいはい、お気遣いありがとね!」
おばちゃんがそう言うとまた笑いが起こる。結局更に響とナナシが一枚ずつお好み焼きを追加で注文し、先に食べ終えた未来は会話をしつつ二人が食べ終わるのを待っていた。
二人が食べ終わる少し前におばちゃんが「ちょっと補充を忘れていた材料があるから、買ってくる間留守をお願いしてもいいかい?」と言ってきたため三人は了承する。そしておばちゃんが「準備中」の札を玄関にかけて出かけた後、少ししたタイミングで未来が口を開いた。
「気を使わせちゃったね?」
「うん、おばちゃん優しいからね」
「ここは売り上げに貢献してお礼をしないと。戻ってきたらまた材料が無くなるまで作ってもらおうか!」
「だからおばちゃん倒れちゃいますよ」
そう言ってまた三人が笑った後、ナナシは二人に向けて話しかけた。
「話、聞かせてもらっていいか?」
「「……」」
「出来れば聞かせて欲しいな。二人のことはもっと知りたい」
「そ、そういうことをサラッと言っちゃうんですね…」
「想いを言葉にするのは大切なことだ。話したくないことなんだと思う。それでも教えて欲しい。このまま無かったことにしたくない」
ナナシはいつもの笑顔で、いつもより優しさを感じる声音で、二人のことを真っ直ぐに見つめながら告げる。飾りのない真っ直ぐな言葉に二人は照れと苦笑を浮かべ、少しだけ間を開けた後に響がポツリポツリと語り始めた。
二年前のライブで生き残った後のこと
生き残った自分のせいで家族が迫害されたこと
父親が家を出てしまったこと
学校に居場所がなかったこと
あの男は中学でのクラスメイトであったこと
家族が死んだという話を何度もされたこと
いつも複数人で笑いながら心無い言葉を吐きつけてきたこと
一緒にいてくれた未来もひどいことを言われたこと
生きることから…逃げ出したくなったこと
それでも、家族と未来に支えられ、奏の「生きるのを諦めるな!!」という言葉に勇気を貰って、耐えてきたこと
体を震わせながら、涙を流すことを堪えながら、響は懸命に言葉を紡いでいった。
隣に座る未来は、響が話をしている間、ずっとその手を握っていた。
そして響の言葉は途切れ、少しの間店内は沈黙に包まれる。
響の話を黙って聞いていたナナシは、俯いた響の頭に手を置き、撫でながら
「ありがとう」
そう口にした。
響が落ち着くのを待ってから、未来は意を決したようにナナシに質問をした。
「ナナシさんは響の昔のこと、葛野君のことを事前にどれくらい知っていましたか?」
「全く知らなかったな」
ナナシの返事に響と未来が驚く。
「でも、葛野君の名前とか…」
「俺の”解析”って、人間くらい複雑だとまあまあ時間がかかるけど、俺の意思で調べることをピンポイントに絞れば結構融通が利くんだ。名前ぐらいならあの会話の間に何とかなった。あれが一人では何もできない臆病者なのはすぐ分かったし、今回一人でお前達に声をかけたのは長いこと見下し続けていた相手ってことで油断していたんじゃないかな?」
未来の記憶の中の葛野は確かにいつも誰かと一緒に響のことを罵倒していた。それも決まって人気の少ない場所を狙って。
「暴力を振るう度胸もない、自分の嘘がばれるのが怖い、だけど自分より弱い相手を見つけて自分が底辺ではないことに安心したい。ただただ碌でもない男だ」
「…あの、ナナシさん。葛野君の家族が死んでなかったっていうのは本当ですか?」
「ん?」
「あの時のわたしは、かけられる言葉が嘘か本当かなんて確認しようとする気力なんか残ってなかったんです。ただ、その日を耐えることに必死だったから…」
「父親とか母親とか具体的に言わずに家族って言っていたし、自分の家族の死について喋っている途中も心底楽しそうだったからな。止めに俺が嘘だって断言した時の反応で確信した。証拠は何一つないから、俺の妄想って言われたらそこまでだが」
「…そっか」
「…響」
未来が暗い顔をしながら響の名を呼ぶ。そんな未来に響は微笑みかける。
「未来、大丈夫だよ。むしろ、葛野君の家族が死んだって言うのが嘘だと知って、少しだけホッとしてる。嘘の理由で、わたしや未来に心無い言葉をかけたことはひどいと思ってる。それでも、葛野君の家族が生きてて、葛野君がわたしに向けてるのは家族がいなくなった憎悪じゃないって知ることができて、安心できた」
「…相変わらず、底抜けのお人好しだな?」
ナナシの言葉に響は苦笑を返す。未来はそんな響にあきれつつも安心したように微笑んでいた。
「兄弟子、まだお礼が言えてませんでした。庇ってもらってありがとうございました!お好み焼きご馳走してもらってありがとうございました!話を聞いてくれてありがとうございました!」
「本当にありがとうございました」
「話を聞いたのは俺が無理やりお願いしたことだから礼はこっちのセリフだ。後は偶には妹弟子と恩人に良いところを見せたかっただけだ」
「ナナシさんも相当お人好しですよね?」
「響と同列扱いは流石に抵抗があるぞ」
「ひどい!!」
「ふふっ」
響の反応に未来が笑い、連れて響も笑い出す。二人はすっかりいつもの調子を取り戻したようだった…だが、ナナシはそんな二人の様子を、何かを疑うようにジッと見つめていた。
「…響、未来、本当に大丈夫か?」
「へいき、へっちゃらです!」
「…大丈夫です」
「……そうか」
数日後
「クリスちゃんがわたし達を家に誘うなんて、意外だね?」
「しかも急にメールで連絡ってどうしたんだろう?」
放課後、寮に戻ろうとしていた響と未来の携帯にクリスから、「二人とも予定が空いてたら家まで来て欲しい。どっちか無理なら今日はいい」という簡素な内容のメールが届いた。二人とも特に問題はなかったためすぐに了承の返事をしてクリスの家に向かっていた。
程なくして二人はクリスの家に到着し、響が合鍵を使用し自然と家の中に入っていく。
未来は思うところがないわけではないが、特に響に追求することなく後に続く。
そしてリビングの中に入ると、そこには家主であるクリスと…
「翼さん!?奏さんも!?」
ツヴァイウィングの二人も揃っていた。
「よう、待ってたぜ」
「これで全員揃ったか」
「お二人もクリスちゃんに呼ばれてたんですか?」
響が二人にそう質問すると、響の背後から突然声が掛かった。
「悪いな。今回集まるよう頼んだのは俺なんだ」
「うひゃっ!?」
「っ!?」
びっくりした二人が振り返ると、そこには笑顔を浮かべたナナシが立っていた。
「びっくりさせないでくださいよ、兄弟子!」
「悪い悪い。俺は奏とSAKIMORIに連絡してたから二人への連絡はクリスに頼んだんだ。五人全員に話があってクリスには場所を提供してもらった」
「全く、便利に人様の家を使いやがって」
「ありがとな。これ、お礼のあんぱんと牛乳」
「ッ!毎回こんなものであたしが簡単に気を良くすると思うなよ!」
そう言いつつクリスはナナシから受け取った袋の中を確認して、ちょっとお高いものだったみたいで嬉しそうなのを隠せていなかった。そんなクリスの様子を見て五人が和んだ後、全員が席に着いたのを確認してナナシが話を始めた。
「さて、早速だが話を始めさせてもらう。まずはこの写真を見てほしい」
そう言ってナナシは机の上に写真を数枚置いた。普段が普段なため翼は少し警戒しながらも真っ先に写真を確認し、思わず怪訝な表情を浮かべた。
他の四人も翼に続いて写真を確認する。そこには…
『人殺し』
『金どろぼう』
『お前だけ助かった』
『ウチの子を返せ』
「「「「っ!!?」」」」
無数の罵詈雑言が書かれた紙が張り付けてある家の写真が写っていた。
「…え?」
「…なんで?」
呆然とする響と未来。そんな二人の様子を確認し、苛立たし気にクリスはナナシに問い質す。
「おい、これは一体なんなんだよ?」
「二年前の響の家の写真だ」
「「「っ!?」」」
驚愕の表情を浮かべる三人。響と未来の二人は辛そうな表情でナナシの方を見た。
「ナナシさん……」
「どうして……」
「悪いな。ここにいる全員、俺の我儘に付き合ってもらう」