戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
「これは二年前、より正確なことを言うなら、ネフシュタンの鎧の起動実験を行い、俺がこの世界に迷い込み、響の心臓にガングニールが埋め込まれたあのライブの後、響が怪我のリハビリを終えた後に待ち受けていた光景だ」
「「「「「……」」」」」
ナナシ以外の五人は、誰も言葉を発することができなかった。
それほどに、あの日のライブはこの場の全員に深い因縁がある。
死者・行方不明者が10000人以上に及ぶ惨劇
風鳴翼は片翼である奏を守り切れなかった
天羽奏は戦うための力を失った
立花響は心臓にガングニールの欠片を受けて死にかけた
小日向未来は親友が惨劇の場へ行く切っ掛けを作った
雪音クリスはライブの実験で起動したネフシュタンの鎧を纏い翼達を襲撃した
あのライブとの関わり方に差はあるが、五人の人生において決して無関係とは言えない出来事だった。
「さて、まず確認だが、奏と翼はこの写真のことについて何か心当たりはあるか?」
「…知ら、ない」
「…ああ、無かったよ。ついさっきまでは」
翼は多くの死者が出たことはもちろん知っていた。忘れたことなどない。だからこそ防人として、剣としてその身を鍛え続けてきた。もう二度と自分の無力で失う命が無いように。
戦うことができなくなった奏も、失われた命の重さを受け止めていた。受け止めたつもりでいた…
この写真に写された惨状を二人は知らなかった。だが、目に留まる罵詈雑言の文字の中からその原因を想像できてしまった。
『お前だけ助かった』
『ウチの子を返せ』
「まあ二人も予想がついたみたいだけど、原因はライブに行って死んだ人間の遺族と、話題性を重視した報道関係者と、それに煽られた無関係な人間によるあのライブの生存者に対しての恨みとかやっかみとかその他諸々だな。
お前ら二人にこの手の非難が少なかったのは奏が瀕死の重傷で、ツヴァイウィングの活動も長期間停止していたから世間的には同情の方が大きかったんだろ」
そう言い終わるとナナシは響と未来の方を向いた。
「一応弁解だけさせてもらうけど、あのライブの後は翼も奏も周りを見る余裕は皆無だったからな。奏は瀕死の重傷で響と同じようにリハビリ生活、翼は翼でライブ後の事後処理にツヴァイウィングの活動停止のための手続き、当時唯一のシンフォギア装者としての務め、おまけに突然湧いて出た訳の分からない“紛い物”の世話とか…まあ、世話していたのは途中から俺の方だったけど。ああ、俺ははっきり言って論外だ。もし当時俺がこのことを知ったとしても眉一つ動かさずスルーだ。そして二人がこの件を知らなかった一番の原因は…」
確かに二人がこの件を知らなくても不思議ではない。それぞれの理由で多忙な間に騒ぎが自然収束していったというところだ。だが奏と違って翼はアーティストとして表で仕事をしていた。例えツヴァイウィングが活動停止していたとしても、ある程度メディアに出る機会があったのに情報が入ってこなかった。その原因として考えられるのは…
「大人達が隠していたんだろ。理由の説明は必要か?」
心も体も深く傷つき、それでも立ち上がるために足掻く二人のために、大人達はできることをしていたのだ。例え二人を欺くことになっても、いつか再び両翼が空に舞い上がれることを願って。
「…この写真はどこから手に入れてきたんだ?」
「二課のデータベースのかなり深めのところ。あいつらなりに何とかしようと足掻いた記録が一緒にあった。本当に隠したかったのはこっちの記録だろうな」
サラッと極秘情報の持ち出しを告白するナナシ。このデータが正規のルートで手に入れたものでないのは明白だが、ナナシがそれを悪びれる様子は一切見られなかった。
「さて、ここで一旦俺は話を区切る。俺の目的が上手く伝わっていれば良いんだが」
「「「「「……」」」」」
沈黙が場を支配する。この場に集まった時の、友達の家に遊びに集まった時に近い明るい雰囲気はどこにも感じられない。それぞれが何かの痛みに耐えるようにその顔を歪ませていた。
重い沈黙を最初に破ったのは、ツヴァイウィングの二人だった。
「響…」
「立花…」
「謝らないでください!」
二人が何かを言おうとするのを、響が遮った。
「わたしは、あのライブで起きたことも、あのライブの後に起こったことも二人のせいだとは思っていません。苦しいこと、悲しいことはたくさんありました。それでも、たくさんの人のために歌って、戦って、必死になって頑張ってきた二人に責任を押し付けたりなんてしたくありません。『生きるのを諦めるな』…あの日奏さんに貰って、あの日からわたしを支え続けて、今もわたしの胸の奥に宿っている大切な宝物の言葉を汚すようなことをしたくないから」
そう言って、二人のことを真っ直ぐ見つめながら響は笑顔を浮かべて…
「へいき、へっちゃらです」
そう言い放った。
「立花…」
「ったく、このお人好しは」
そう言って奏は立ち上がると、響の方に近づいていく。
「奏さん?」
「謝れないなら、こうするしかないよな?」
そう言って、奏は響を抱きしめた。
「ありがとう。生きていてくれて」
「っ!?」
「あたしの言葉がちゃんと伝わっていて、それが響の力になっていたのなら、こんなに嬉しいことはないよ。ありがとう、ありがとう…」
「お、礼をいうのは、わたしの方で…奏さんの言葉に、歌にわたしは救われました。だから、ありがとう、ございました…」
響の目から涙が流れる。奏はそんな響の頭を優しく撫でる。その顔は慈愛に満ちていて、とても優しい眼差しを響に向けていた。
「奏…」
その光景を見た翼の瞳からも、一筋の涙が流れた。二年前のあのライブから、両翼が抱え続けていた重みが少しだけ軽くなったのを感じた。
「…そうだよ。あんたらが謝ったり、謝られたりして責任を押し付けあうことなんてありゃしない」
その光景を見て、今度はクリスが口を開く。
「謝ることがあるとしたら、それはあたしだけだ」
そうクリスは、苦し気な表情を浮かべながら言葉を口にした。
「あたしはネフシュタンの鎧を使ってあんた達を傷つけた。あれは、本当はあんた達が誰かのためを思って、誰かの幸せを願って起動させたものだ。それをあたしは、一番使っちゃいけない使い方をしたんだ。許してくれとは言わない。許されていいわけがねえ。それでも、逃げるわけにはいかない。だから言わせてくれ。すまなかった」
そう言って頭を下げるクリス。そんなクリスに未来が近づき、その震える体を抱きしめた。
「クリス、またそうやって抱え込まないで。一人になろうとしないで」
「ッ!?」
「クリスが戦ってきたのも、誰かのため、だったんでしょう?」
「だけど、あたしがやってきたことは間違いだらけで!!」
「ならやり直そう?一緒にね」
「ッ!?一緒に…」
「そう、一緒に。一緒に迷って、一緒に積み重ねて、誰かが間違えたら手を繋いで正しい方向に引っ張っていく。もし向かった道が目的地とは全然違う方向だったとしても、皆と一緒なら何時だって、何度だってやり直せる。そう信じてる」
未来が言葉をかけながらクリスの頭を撫でると、クリスの目から堪えていた涙が流れ出す。
「ナナシさん」
涙を拭った響に声を掛けられ、ナナシは響の方へ顔を向ける。
「今回、ナナシさんがわたし達にしたかったのは、奏さん達が知らなかった、わたし達が避けてきた過去に向き合わせることだったんですよね?でも、もう大丈夫です!わたし達なら、これまでの過去も、これから起こるかもしれない困難も、一緒に手を取り合って乗り越えていけると信じています!」
響の言葉を聞き、ナナシはフッと笑みを浮かべた。
「悪いな響、俺の我儘はこれからがメインなんだ。困難を乗り越えていけると言うのなら、今証明してもらおう。例え大切な相手の心に大きな傷を作ることになっても、押し殺し続ける想いを無理やりにでも白日の下に晒してもらおうか。なあ…」
そう言ってナナシは、ある人物に目を向けて、顔の笑みをより一層深めた。