戦姫絶唱シンフォギア コドクの神が求めるモノ 作:@sora@
「神様って…」
男の返答を聞き、翼達は戸惑いを見せる。そんな周りの様子を男は不思議そうに見ていた。
「…翼ちゃん、ちょっと変わってもらえるかしら?」
「櫻井女史?…ええ、お願いします」
翼の返事を聞くと、了子は男の前に立つ。了子は男の言葉に険しい表情をしていたが、すぐにいつもの笑みを浮かべて男に質問をしていった。
(あなたが神様って言うのは本当かしら?)
(……多分?)
(多分?何で自分が神様だと思ったのか、聞かせてもらえる?)
(“全てを殺せ、全てを喰らえ、命を一つに、世界を一つに、そして大いなる一つの神に…”)
男が伝えた言葉に、全員が怪訝な表情を浮かべる。
(…今の言葉は?)
(…ずっと、なかにあった)
(『なか』?頭の中ってこと?)
(…そう)
(…ええっと、つまりあなたは、ここにいる皆も食べちゃうつもりなのかしら?)
(……………もう、終わっている?)
男の言葉に、全員の理解が追い付かない。困惑する周囲に構うことなく、了子は男に疑問を伝えていく。
(終わっている?あなたがもう皆を食べちゃったってこと?)
(…多分?)
(多分?その時のこと覚えてないの?)
(…知らない)
(あなたが神様になってからどれぐらい経ったの?)
(…いっぱい?)
(…神様になってあなたは何をしてたの?)
そう了子が聞くと、男はその場に座り込んだ。足を延ばし、背中を丸め、顔を上に向けて、虚空をじっと眺めていた。
(…ずっとそうしていたの?)
(…そう)
(…どうしてあなたはライブ会場に居たの?)
(…らいぶかいじょう?)
(あなたが翼ちゃん達と一緒に戦った場所よ)
(…地面が揺れた。空が割れた。世界が…死んだ?)
(…ごめんなさい。ちょっと他の人達と話してくるから、その間待っててくれるかしら?)
(…分かった)
(ありがとう。素直ないい子ね♪)
そう言って男を残して、了子は皆を集めた。
「了子君、今の彼の話は…」
「…正直、今のところ何も分からないわ。翼ちゃん、ライブ会場での彼のことをできるだけ教えて貰ってもいいかしら?」
「はい…といってもそう多くはありません。突然私達の前に現れて、奏達に迫っていたノイズに攻撃して、ノイズが塵になって…」
「…?どうしたの?」
「いえ、あの時私と奏達とは距離があったため、少し分かりにくかったんですが、最初に彼がノイズに攻撃した時、腕が炭化したように見えたんです」
「炭化って…でも彼の腕は二本とも健在よ?」
「はい…その後、彼の姿が一瞬ブレた気がして、次の瞬間には腕が戻っていたんです。あの時は奏達の元に向かうのに必死だったので、何かの見間違いだと考えていたんですが…実際、それ以降彼は素手でノイズを殲滅していましたが、体が炭化する様子はありませんでした」
「…後で奏ちゃんからも話を聞く必要があるわね。とりあえず、彼から話を聞いて私の頭に浮かんだのは『蠱毒』って儀式ね」
「コドク…?」
「儀式っていうか呪術の類なんだけど…簡単に説明すると、一つの入れ物に生き物を複数入れて殺し合いをさせることで、強力な個体を作る方法ね」
「「「っ!?」」」
了子の言葉に、翼達が驚愕した。
「…櫻井女史、彼は私達を、奏を助けてくれた。そんな彼がそのような非道な行いをしているなんて、私は思いたくない」
「彼自身が率先して儀式を行ったかなんて分からないし、そもそも『蠱毒』って言うのも私の仮説ですらない妄想の話だから、今考えても仕方ないわね」
そう言いながら、了子は脳内で自分の考えをまとめていた。
(…でも、ただの人間にノイズの位相差障壁をどうにかするなんて不可能。それに翼ちゃんが言っていた彼の腕の消失と回復…いえ、ダメージの無効化が、『あのお方』に酷似した能力の行使であるならば…世界を一つの入れ物として扱った蠱毒の儀式の遂行、それなら確かに可能性は…でも、だとしたら完成形であるこの男は余りにも未熟…儀式が不完全だった?それにそんな大規模な儀式が行われたなら間違いなく情報が出てくる。『世界が死んだ』…異なる次元で行われた実験の成果が、世界の崩壊の余波でこちらに迷い込んだ?…)
「櫻井女史?」
「っ!?ああ、ごめんなさいね!考えても仕方ないって言った私が考え込んでたら世話ないわね!まずは目先の問題を片づけちゃいましょう!」
そう言って了子は再び男の元へ近づいていった。
(待たせてごめんなさいね。それじゃあ、そろそろあなたの名前を教えてもらえないかしら?)
(…なまえ?)
(そう、私が出来る女の櫻井了子、あっちにいる大きな男が弦十郎君で、細い男が慎次君、そして最後に可愛い翼ちゃん♪)
「櫻井女史っ!?」
(…出来る了子、大きい弦十郎、細い慎次、可愛い翼?)
「っ!!?」
(よく出来ました!それで、あなたにはお名前があるのかしら?)
(…?)
(…やっぱり無さそうね…)
(…“名無し”の神様、か)
(…“ナナシ”?)
(っ!?すまない、聞こえて…伝わっていたか。ただの独り言だから気にしないで)
(…”ナナシ”…)
(…なら、今日からあなたは“ナナシ”ちゃんでいいかしら?)
「櫻井女史!?それは余りにも短絡的では!!?」
(…いい)
(っ!?本当に構わないのか?)
(…ダメ?)
(いや、そんなことはないが…)
(なら問題ないわね!今日からあなたはナナシちゃん!名づけ親は翼ちゃんよ!)
了子がそう決定を下した後、再度ナナシに語り掛けた。
(次は、そろそろお声を聞かせてくれない?こうやって頭の中だけでお話していると、他の人から見たら私達、可笑しな集団に見えちゃうわ。喋ることは出来るのかしら?)
(…やってみる)
そう言って男…ナナシは、口を閉じたまましばらくモゴモゴと動かした後、ゆっくりと口を開いて…
「…ぁあ、あー、あー!!あ、ああぁー…」
声の大きさも、音の高さもバラバラにナナシの口から漏れ出すその声は、まるで産声の様に二課の室内に響き渡る。そして…
「…これ、で、いい?」
「っ!?もう言葉が分かるのか!?」
「…すこ、し?」
「…学習能力は高そうね。私達の会話を聞いているだけで片言でも会話が出来るなら、さっきの“念話”も併用すればあっという間に会話は覚えられそうね♪」
そう言って、了子は笑いながらナナシの傍に近づいて行った。
「それじゃあ最後に本日のメインディッシュと参りましょうか♪あなたの体を隅々まで調べさせてもらうために、とりあえず脱いでもらいま・しょ・う・か♪」
了子はそう言った後、ナナシが纏っていたボロ布に手をかけて、一気に引きはがし…一糸まとわぬナナシの体を皆の前にさらけ出した。
「きゃっ!!?」
「あら♡」
「なっ!!?」
「えっ!?」
ナナシの恰好に、全員がそれぞれ困惑した声を出す。
「あ、あなた今まで何て恰好を!?さ、櫻井女史、とりあえず今すぐ彼の召し物を返して…」
「そうしてあげたいのは山々なんだけど…」
そう言う了子の手の中で、さっきまでナナシが纏っていた布がボロボロと塵も残さず消失した。
「あの布もナナシちゃんの不思議パワーで形を保っていたみたいね。ちょっともったいなかったかしら?」
「なら早く彼を連れて行ってください!!あなたも少しは隠しなさい!!!」
「?」
「あらあら翼ちゃんもおぼこい反応をするわね♪ナナシちゃんも気にしてないみたいだしじっくり見せてもらえばいいのに♪」
「見ません!!!!」
「ハイハイ。それじゃあナナシちゃんをメディカルルームまでご案内~♪」
そう言って了子はナナシの手を引いて移動を開始する…妙齢の女性が全裸の男の手を引いて連れまわす姿は、とても危険な光景だった。
「…少し心配なので僕もついていきます」
「…ああ、頼んだ…翼、大丈夫か?」
翼は弦十郎の言葉に答えず、顔を真っ赤に染めてしばらく俯いていた。